説明

半導体レーザ装置の制御方法

【課題】 ヒータが劣化した場合でも所望の光特性が得られる、半導体レーザ装置の制御方法を提供する。
【解決手段】 半導体レーザ装置の制御方法は、回折格子が所定の間隔で設けられた光導波路を含みヒータによって屈折率が制御される第1波長選択部と、回折格子が所定の間隔で設けられた光導波路を含む第2波長選択部とを備える半導体レーザと、半導体レーザの発振波長の測定結果に基づいて半導体レーザのパラメータを規定値に補正する波長ロッカ部を備える半導体レーザ装置の制御方法であって、半導体レーザの再起動時に、固定された初期設定値を用いて半導体レーザを発振させる第1ステップと、第1ステップの後に、ヒータの発熱量が固定された規定範囲に入るまで発熱量を調整する第2ステップと、第2ステップの完了後、半導体レーザの発振波長の検出結果に基づいて、半導体レーザの波長を補正する第3ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学デバイスとして波長可変半導体レーザがあげられる。この波長可変半導体レーザは、レーザ発振に対する利得機能と波長選択機能とを備えている。波長を選択する方法としては、共振器内の光導波路に設けた回折格子などの光学的機能領域の屈折率を変化させることによって損失・反射もしくは利得の波長特性を変化させる方法があげられる。
【0003】
ここで、屈折率を変化させる方法は、物理的な角度または長さを変化させる方法に比較して機械的な可動部を必要としないことから、信頼性、製造コスト等の点で有利である。屈折率を変化させる方法には、例えば、光導波路の温度を変化させる方法、電流注入等によって光導波路内のキャリア密度を変化させる方法等がある。光導波路の温度を変化させる方法を採用した波長可変レーザの具体的な例として、例えば、反射スペクトルのピーク波長が周期的に分布する部分回折格子ミラー(SG−DBR:Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)および利得スペクトルのピーク波長が周期的に分布する部分回折格子活性領域(SG−DFB:Sampled Grating Distributed Feedback)を備える半導体レーザ等が提案されている。
【0004】
この半導体レーザにおいては、部分回折格子ミラーおよび部分回折格子活性領域の反射スペクトルの相関関係を制御することによって、バーニア効果を用いた波長選択が行われてレーザ光が出力される。すなわち、この半導体レーザは、2つのスペクトルが重なった波長のうち最も反射強度の大きな波長で発振する。したがって、2つの反射スペクトルの相対的関係を制御することによって、発振波長を制御することができる。
【0005】
特許文献1には、光導波路の屈折率を制御して発振波長を制御する半導体レーザが開示されている。特許文献1では、光導波路の屈折率の制御手段としてヒータが採用されており、このヒータによる光導波路の温度制御によって波長の制御が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−92934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光導波路の屈折率を制御するためにヒータを使用する場合、ヒータの劣化が問題になる。つまり、ヒータが劣化してその抵抗値が変化すると、たとえ一定の電流をヒータに供給していてもその発熱量が変化してしまうのである。特にSG−DFBとSG−DBRとの組合せなど、異なる波長特性の光導波路を組み合わせることで、所定の光機能を発揮する光デバイスにおいては、光導波路それぞれの温度差が重要であり、上記の如き予期しない発熱量の変化は致命的である。
【0008】
なお、このような光導波路の温度を制御するためのヒータは、その発熱量(ΔT)が0度〜40度程度であり、発熱体としては比較的低温であることから、これまではヒータの劣化について検討されることはなかった。
【0009】
このヒータの劣化の問題は、レーザを継続して使用している場合には顕在化しにくいものである。図1は、ヒータの温度と半導体レーザの発振波長との関係について説明するための図である。図1の横軸はヒータの温度を示し、図1の縦軸は半導体レーザの発振波長を示す。例えば、半導体レーザは、SG−DBR領域の反射スペクトルとSG−DFB領域の反射スペクトルとのうち2つの反射ピークが重なった波長でレーザ光を発振する。したがって、半導体レーザの発振波長は、所定の波長間隔で分布する。図1においては、平坦な部分(λ1〜λ4)が、半導体レーザの発振可能な波長を示している。
【0010】
半導体レーザの発振波長をλ2に設定するためには、ヒータの温度を図1の温度範囲R内に設定する必要がある。例えば、ヒータの温度が温度範囲Rの中央に位置する温度Tになると想定される電流をヒータに供給する。しかしながら、ヒータが劣化すると、ヒータの電気抵抗が変化する。この場合、ヒータの発熱量が変化する。すなわち、ヒータの温度が温度Tから外れることにより、半導体レーザはλ2以外の波長で発振するおそれが出てくるのである。
【0011】
しかしながら、出力波長を検知して波長ずれを補正するフィードバックシステムを採用する半導体レーザにおいては、半導体レーザの出力波長のずれを補正するために、波長ロッカが用いられている。波長ロッカは、温度制御装置の温度を制御して所望の波長(λ2)に適合するようにSG−DFBの利得スペクトルを変化させている。したがって、たとえヒータが劣化してヒータの温度が上記温度Tとは異なる値になったとしても、ヒータの温度が温度範囲R内にある限り、半導体レーザの発振波長はλ2で維持される。すなわち、波長ロッカによる波長補正が継続して実施されている間は、たとえヒータが徐々に劣化していっても、出力波長は変化しないため、ヒータ劣化による問題は顕在化しづらいのである。
【0012】
一方、システムのメンテナンスなどのためにシステムをシャットダウンする場合には、この問題が顕在化する。つまり、メンテナンス後の再起動などにおいては、ヒータ駆動のための電流値や温度制御装置の温度は、ルックアップテーブルから読み出される。ルックアップテーブルに格納されている設定値は、ヒータが劣化していないことを前提にした初期値であるので、ヒータが劣化している場合、ヒータの温度は当初の値(温度Tの値)とは異なってしまう。いっぽう、温度制御装置の温度についても初期値で与えられることから、SG−DFBの利得スペクトルについても、前述したような波長ロッカによる補正が行われた場合のスペクトルとは異なっている。
【0013】
たとえば、ヒータの劣化が少なく、前記した初期値による発熱が図1の温度範囲Rの範囲内であった場合には、所期の波長であるλ2にて発振を行うことが可能である。しかし、ヒータの劣化の影響で温度Tが実現していないことから、他の発振条件に近づいているともいえる。たとえば、温度制御装置の温度、SG−DFBの駆動電流の初期値等が精度よくレーザチップに与えられない場合、λ2以外のほかの波長で発振を開始する可能性がある。つまり、パラメータ変動に弱くなるのである。
【0014】
もちろん、ヒータの劣化が大きく、温度範囲Rの範囲を逸脱していれば、他のパラメータが精度よく制御されていたとしても、λ2での発振は期待できない。いずれにしろ、ヒータが劣化してしまうと、再起動時に所期の波長を実現することが困難になる。
【0015】
本発明の目的は、ヒータが劣化した場合でも所望の光特性が得られる、半導体レーザ装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る半導体レーザ装置の制御方法は、回折格子が所定の間隔で設けられた光導波路を含みヒータによって屈折率が制御される第1波長選択部と、回折格子が所定の間隔で設けられた光導波路を含む第2波長選択部とを備える半導体レーザと、半導体レーザの発振波長の測定結果に基づいて半導体レーザのパラメータを規定値に補正する波長ロッカ部を備える半導体レーザ装置の制御方法であって、半導体レーザの再起動時に、固定された初期設定値を用いて半導体レーザを発振させる第1ステップと、第1ステップの後に、ヒータの発熱量が固定された規定範囲に入るまで発熱量を調整する第2ステップと、第2ステップの完了後に半導体レーザの発振波長の検出結果に基づいて半導体レーザの波長を補正する第3ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0017】
本発明に係る半導体レーザ装置の制御方法においては、第3ステップが実施される前にヒータの発熱量が適正に補正される。この場合、ヒータが劣化していたとしても、波長選択部の光特性は、ヒータが劣化していない場合の光特性とほぼ同等となる。その結果、所望の発振波長を得ることができる。
【0018】
第2ステップにおけるヒータの発熱量の調整は、ヒータに投入される電力を調整することによって実施されてもよい。また、第2ステップは、ヒータの両端の電圧とヒータに投入される電流とにより得られる電力が規定値を満たすまで、ヒータに投入される電流値を調整することによって実施されてもよい。また、第2ステップは、ヒータ近傍に配置された温度検出手段の出力が規定値を満たすまで、ヒータに投入される電力を調整することによって実施されてもよい。また、第3ステップは、ヒータの発熱量を規定値に維持するための補正を実施してもよい。この場合、ヒータが劣化しても、所望の発振波長を得ることができる。
【0019】
第2波長選択部は、回折格子を備える活性領域であり、第1波長選択部は、活性領域と光結合し回折格子を備えヒータによって等価屈折率が変化する光導波路部を含んでいてもよい。また、活性領域および光導波路部における回折格子は、回折格子を有する第1の領域と、第1の領域に連結されかつスペース部となる第2の領域と、を備えていてもよい。また、半導体レーザは、活性領域を備え、第1波長選択部および第2波長選択部は、活性領域の両側にそれぞれ光結合して設けられていてもよい。
【0020】
本発明に係る制御方法は、外部への光出力を抑制した状態で第2ステップおよび第3ステップを実行するダークチューニングシーケンスと、ダークチューニングシーケンスで選択された波長を保持しつつ外部へ光を出力する光出力シーケンスと、を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ヒータが劣化した場合でも、所望の光特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ヒータの温度と半導体レーザの発振波長との関係について説明するための図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る半導体レーザおよびそれを備えたレーザ装置の全体構成を示す模式図である。
【図3】ルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図4】半導体レーザの制御方法の一例を示すフローチャートを示す図である。
【図5】半導体レーザをダークチューニングする場合の制御方法の一例を示すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0024】
図2は、本発明の第1実施例に係る半導体レーザ10およびそれを備えたレーザ装置100の全体構成を示す模式図である。図2に示すように、レーザ装置100は、半導体レーザ10、温度制御装置20、波長検知部30、出力検知部40およびコントローラ50を備える。半導体レーザ10は、温度制御装置20上に配置されている。次に、各部の詳細を説明する。
【0025】
半導体レーザ10は、SG−DBR領域11、SG−DFB領域12および半導体光増幅(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)領域13が順に連結した構造を有する。SG−DBR領域11は、グレーティングが所定の間隔で設けられた光導波路を含む。すなわち、SG−DBR領域11の光導波路には、回折格子を有する第1の領域とこの第1の領域に連結されかつスペース部となる第2の領域とが設けられている。SG−DBR領域11の光導波路は、吸収端波長がレーザ発振波長よりも短波長側にある半導体結晶からなる。SG−DBR領域11上には、ヒータ14が設けられている。
【0026】
SG−DFB領域12は、グレーティングが所定の間隔で設けられた光導波路を含む。すなわち、SG−DFB領域12の光導波路には、回折格子を有する第1の領域とこの第1の領域に連結されかつスペース部となる第2の領域とが設けられている。SG−DFB領域12の光導波路は、目的とする波長でのレーザ発振に対して利得を有する半導体結晶からなる。SG−DFB領域12上には、電極15が設けられている。SOA領域13は、電流制御によって光に利得を与える、または光を吸収するための半導体結晶からなる光導波路を含む。SOA領域13上には、電極16が設けられている。なお、SG−DBR領域11、SG−DFB領域12およびSOA領域13の光導波路は、互いに光結合している。
【0027】
半導体レーザ10は、温度制御装置20上に搭載されている。また、温度制御装置20上には、温度制御装置20の温度を測定するためのサーミスタ(図示せず)が設けられている。波長検知部30は、レーザ出力光の強度を測定する受光素子とエタロンを透過することによって波長特性を含んだレーザ出力光の強度を測定する受光素子とを含む。出力検知部40は、SOA領域13を通過したレーザ出力光の強度を測定する受光素子を含む。なお、図2では、SG−DBR領域11側に波長検知部30が配置されSOA領域13側に出力検知部40が配置されているが、それに限られない。例えば、各検知部が逆に配置されていてもよい。
【0028】
コントローラ50は、CPU(中央演算処理装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)等の制御部、電源等から構成される。コントローラ50のROMには、半導体レーザ10の制御情報、制御プログラム等が格納されている。制御情報は、例えば、ルックアップテーブル51に記録されている。図3にルックアップテーブル51の例を示す。
【0029】
図3に示すように、ルックアップテーブル51は、各チャネルごとに、初期設定値およびフィードバック制御目標値を含む。初期設定値には、SG−DFB領域12の初期電流値ILD、SOA領域13の初期電流値ISOA、ヒータ14の初期電流値IHeaterおよび温度制御装置20の初期温度値TLDが含まれる。フィードバック制御目標値は、出力検知部40のフィードバック制御目標値Im1、波長検知部30のフィードバック制御目標値Im3/Im2およびヒータ14の電力のフィードバック制御目標値PHeaterを含む。
【0030】
続いて、半導体レーザ10の制御方法について説明する。図4は、半導体レーザ10の制御方法の一例を示すフローチャートを示す図である。図4に示すように、まず、コントローラ50は、ルックアップテーブル51を参照し、設定されたチャネルに対応する初期電流値ILD、初期電流値ISOA、初期電流値IHeaterおよび初期温度値TLDを取得する(ステップS1)。
【0031】
次に、コントローラ50は、ステップS1で取得した初期設定値に基づいて半導体レーザ10をレーザ発振させる(ステップS2)。具体的には、まず、コントローラ50は、温度制御装置20の温度が初期温度値TLDになるように温度制御装置20を制御する。それにより、半導体レーザ10の温度が初期温度値TLD近傍の一定温度に制御される。その結果、SG−DFB領域12の光導波路の等価屈折率が制御される。次に、コントローラ50は、初期電流値ILDの大きさを持つ電流を電極15に供給する。それにより、SG−DFB領域12の光導波路において光が発生する。その結果、SG−DFB領域12で発生した光は、SG−DBR領域11およびSG−DFB領域12の光導波路を繰返し反射および増幅されてレーザ発振する。次に、コントローラ50は、初期電流値IHeaterの大きさを持つ電流をヒータ14に供給する。それにより、SG−DBR領域11の光導波路の等価屈折率が所定の値に制御される。次いで、コントローラ50は、初期電流値ISOAの大きさを持つ電流を電極16に供給する。以上の制御によって、半導体レーザ10は、設定されたチャネルに対応する初期波長でレーザ光を外部に出射する。
【0032】
次いで、コントローラ50は、ヒータ14の両端の電圧とヒータ14に投入される電流とにより得られる電力に基づいて、ヒータ14の発熱量が規定内にあるか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、まず、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値PHeaterを取得するとともに、ヒータ14の両端の電圧を取得してその値とヒータ14に投入される電流との積から得られる電力値がフィードバック制御目標値PHeaterを含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0033】
ステップS3においてヒータ14の発熱量が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、ヒータ14の温度を補正する(ステップS7)。これは、ヒータ14に投入される電流を変化させることと、それに伴い変化するヒータ14の両端の電圧との積から得られる電力の変化により実現される。その後、コントローラ50は、ステップS3を再度実行する。このループにより、ヒータ14の発熱量が規定内に入るようにフィードバック制御される。
【0034】
次に、コントローラ50は、波長検知部30の検知結果に基づいて、出射されたレーザの波長が規定内にあるか否かを判定する(ステップS4)。具体的には、まず、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値Im3/Im2を取得するとともに波長検知部30が備える2つの受光素子の検知結果の比Im3/Im2を取得し、比Im3/Im2がフィードバック制御目標値Im3/Im2を含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0035】
ステップS4においてレーザの波長が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、温度制御装置20の温度を補正する(ステップS8)。この場合、SG−DFB領域12の光導波路における利得スペクトルのピーク波長が変化する。その後、コントローラ50は、ステップS4を再度実行する。このループにより、レーザの波長が所望の一定値に保持されるようにフィードバック制御される。
【0036】
ステップS4においてレーザの波長が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、レーザ光の光強度が規定内にあるか否かを判定する(ステップS5)。具体的には、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値Im1を取得するとともに出力検知部40が備える受光素子の検知結果Im1を取得し、検知結果Im1がフィードバック制御目標値Im1を含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0037】
ステップS5においてレーザの光強度が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、電極16に供給する電流を補正する(ステップS9)。その後、コントローラ50は、ステップS5を再度実行する。このループにより、レーザ光の光強度が所望の一定値に保持されるようにフィードバック制御される。
【0038】
ステップS5においてレーザ光強度が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、ヒータ14の発熱量が規定内にあるか否かを判定する(ステップS6)。具体的には、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値PHeaterを取得し、ヒータ14の両端の電圧を取得してその値とヒータ14に投入される電流との積から得られる電力値がフィードバック制御目標値PHeaterを含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0039】
ステップS6においてヒータ14の発熱量が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、ヒータ14に供給される電力を補正する(ステップS10)。この場合、電流および電圧の少なくとも一方を補正することによって、電力を補正することができる。本実施例においては、コントローラ50は、ヒータ14に供給する電流値を増減させることによって電力を補正する。このループにより、ヒータ14の発熱量が規定内になるようにフィードバック制御される。なお、ステップS6においてヒータ14の発熱量が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、ステップS4を再度実行する。
【0040】
本実施例においては、波長検知部30を用いた波長制御を実施する前にヒータ14の発熱量が適正に補正される。この場合、ヒータ14が劣化していたとしても、その発熱量は劣化していない場合と同等となる。したがって、SG−DBR領域11の光特性は、ヒータ14が劣化していない場合の光特性とほぼ同等となり、その結果、初期設定値に基づいて所望の発振波長を得ることができる。
【0041】
なお、図4のフローチャートにおいては発振波長および出力光強度が制御されているが、それに限られない。例えば、ステップS4およびステップS8からなるループ、または、ステップS5およびステップS9からなるループは、別のマイクロコントローラによって実施されてもよい。
【0042】
続いて、半導体レーザ10をダークチューニングする場合の制御方法について説明する。ダークチューニングとは、発振波長が所定の波長範囲に達するまで光出力を禁止するチューニング方法である。本実施例においては、SOA領域13に逆方向電圧を印加して光出力を遮断した状態で、半導体レーザ10の発振波長を調整する。
【0043】
図5は、半導体レーザ10をダークチューニングする場合の制御方法の一例を示すフローチャートを示す図である。図5に示すように、まず、コントローラ50は、ルックアップテーブル51を参照し、設定されたチャネルに対応する初期電流値ILD、初期電流値ISOA、初期電流値IHeaterおよび初期温度値TLDを取得する(ステップS11)。
【0044】
次に、コントローラ50は、ステップS11で取得した初期設定値に基づいて半導体レーザ10をレーザ発振させる(ステップS12)。具体的には、まず、コントローラ50は、温度制御装置20の温度が初期温度値TLDになるように温度制御装置20を制御する。次に、コントローラ50は、初期電流値ILDの大きさを持つ電流を電極15に供給する。次に、コントローラ50は、初期電流値IHeaterの大きさを持つ電流をヒータ14に供給する。その結果、SG−DFB領域12で発生した光は、SG−DBR領域11およびSG−DFB領域12の光導波路を繰返し反射および増幅されてレーザ発振する。
【0045】
次いで、コントローラ50は、サーミスタ17の検知結果に基づいて、ヒータ14の発熱量が規定内にあるか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、まず、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値PHeaterを取得するとともに、ヒータ14の両端の電圧を取得してその値とヒータ14に投入される電流との積から得られる電力値がフィードバック制御目標値PHeaterを含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0046】
ステップS13においてヒータ14の発熱量が規定にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、ヒータ14の温度を補正する(ステップS19)。その後、コントローラ50は、ステップS3を再度実行する。
【0047】
次に、コントローラ50は、波長検知部30の検知結果に基づいて、出射されたレーザの波長が規定内にあるか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、まず、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値Im3/Im2を取得するとともに波長検知部30が備える2つの受光素子の検知結果の比Im3/Im2を取得し、比Im3/Im2がフィードバック制御目標値Im3/Im2を含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0048】
ステップS14においてレーザの波長が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、温度制御装置20の温度を補正する(ステップS20)。その後、コントローラ50は、ステップS14を再度実行する。
【0049】
ステップS14においてレーザの波長が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、初期電流値ISOAの大きさを持つ電流を電極16に供給する(ステップS15)。それにより、半導体レーザ10は、設定されたチャネルに対応する初期波長でレーザ光を外部に出射する。
【0050】
次に、コントローラ50は、ステップS14と同様に、波長検知部30の検知結果に基づいて、出射されたレーザの波長が規定内にあるか否かを判定する(ステップS16)。ステップS16においてレーザの波長が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、温度制御装置20の温度を補正する(ステップS21)。その後、コントローラ50は、ステップS16を再度実行する。
【0051】
ステップS16においてレーザの波長が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、レーザ光の光強度が規定内にあるか否かを判定する(ステップS17)。具体的には、コントローラ50は、ルックアップテーブル51からフィードバック制御目標値Im1を取得するとともに出力検知部40が備える受光素子の検知結果Im1を取得し、検知結果Im1がフィードバック制御目標値Im1を含む所定範囲内にあるか否かを判定する。
【0052】
ステップS17においてレーザの光強度が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、電極16に供給する電流を補正する(ステップS22)。その後、コントローラ50は、ステップS17を再度実行する。
【0053】
ステップS17においてレーザ光強度が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、ステップS13と同様に、ヒータ14の発熱量が規定内にあるか否かを判定する(ステップS18)。ステップS18においてヒータ14の発熱量が規定内にあると判定されなかった場合、コントローラ50は、ヒータ14に供給される電力を補正する(ステップS23)。その後、コントローラ50は、ステップS18を再度実行する。ステップS18においてヒータ14に供給される電力が規定内にあると判定された場合、コントローラ50は、ステップS16を再度実行する。
【0054】
図5のフローチャートに従った場合においても、波長検知部30を用いた波長制御を実施する前にヒータ14の発熱量が適正に補正される。この場合、ヒータ14が劣化していたとしても、その発熱量は劣化していない場合と同等となる。したがって、SG−DBR領域11の光特性は、ヒータ14が劣化していない場合の光特性とほぼ同等となり、その結果、初期設定値に基づいて所望の発振波長を得ることができる。
【0055】
なお、本実施例においてはSG−DBR領域とSG−DFB領域とが組み合わされた半導体レーザについて説明したが、それに限られない。例えば、1対のSG−DBR領域によって利得部となる活性領域を挟んだ半導体レーザに本発明を適用してもよい。この場合、各SG−DBR領域にそれぞれあるいは片方にヒータが設けられている。この場合、各ヒータの温度をサーミスタによって検知すれば、ヒータの発熱量を規定内にフィードバック制御することができる。
【0056】
また、本発明は、CSG−DBR(Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)にも適用することができる。ここで、CSG−DBRにおいては、SG−DBRと比べて、各グレーティング同士をつなぐスペース部の間隔が異なっている。それにより、CSG−DBRの反射スペクトルにおけるピーク強度は波長依存性を有している。この場合、所定の波長範囲において反射スペクトルにおけるピーク強度が大きくなる。したがって、反射スペクトルにおけるピーク強度が大きい波長範囲の波長を発振波長として用いることによって、所望の波長以外の波長でのレーザ発振を抑制することができる。なお、CSG−DBRを用いる場合、グレーティングとスペースの組からなる各セグメントに対応してヒータを個別に設けることによって、各セグメントの温度を個別に制御することができる。
【0057】
なお、上記各実施例においては電圧計、電流計、電力計等を用いてヒータに投入される電力を検知することによって、ヒータの発熱量を検知しているが、それに限られない。例えば、サーミスタを用いてヒータの温度を検出するこによってヒータの発熱量を検知してもよい。
【0058】
図4のフローチャートにおいては、ステップS3が第1ステップに相当し、ステップS1〜S3が起動シーケンスに相当し、ステップS4が第2ステップに相当し、ステップS4〜S6が波長制御シーケンスに相当し、ステップS6が第3ステップに相当する。図5のフローチャートにおいては、ステップS13が第1ステップに相当し、ステップS11〜S15が起動シーケンスに相当し、ステップS16が第2ステップに相当し、ステップS16〜S18が波長制御シーケンスに相当し、ステップS18が第3ステップに相当する。
【符号の説明】
【0059】
10 半導体レーザ
11 SG−DBR領域
12 SG−DFB領域
13 SOA領域
14 ヒータ
15,16 電極
20 温度制御装置
30 波長検知部
40 出力検知部
50 コントローラ
100 レーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子が所定の間隔で設けられた光導波路を含みヒータによって屈折率が制御される第1波長選択部と、回折格子が所定の間隔で設けられた光導波路を含む第2波長選択部とを備える半導体レーザと、前記半導体レーザの発振波長の測定結果に基づいて前記半導体レーザのパラメータを規定値に補正する波長ロッカ部を備える半導体レーザ装置の制御方法であって、
前記半導体レーザの再起動時に、固定された初期設定値を用いて前記半導体レーザを発振させる第1ステップと、
前記第1ステップの後に、前記ヒータの発熱量が固定された規定範囲に入るまで前記発熱量を調整する第2ステップと、
前記第2ステップの完了後、前記半導体レーザの発振波長の検出結果に基づいて、前記半導体レーザの波長を補正する第3ステップと、を含むことを特徴とする半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項2】
前記第2ステップにおける前記ヒータの発熱量の調整は、前記ヒータに投入される電力を調整することによって実施されることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項3】
前記第2ステップは、前記ヒータの両端の電圧と前記ヒータに投入される電流とにより得られる電力が規定値を満たすまで、前記ヒータに投入される電流値を調整することによって実施されることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項4】
前記第2ステップは、前記ヒータ近傍に配置された温度検出手段の出力が規定値を満たすまで、前記ヒータに投入される電力を調整することによって実施されることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項5】
前記第3ステップは、前記ヒータの発熱量を規定値に維持するための補正を実施することを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項6】
前記第2波長選択部は、回折格子を備える活性領域であり、
前記第1波長選択部は、前記活性領域と光結合し回折格子を備え前記ヒータによって等価屈折率が変化する光導波路部を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項7】
前記活性領域および前記光導波路部における回折格子は、回折格子を有する第1の領域と、前記第1の領域に連結されかつスペース部となる第2の領域と、を備えることを特徴とする請求項6記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項8】
前記半導体レーザは、活性領域を備え、
前記第1波長選択部および前記第2波長選択部は、前記活性領域の両側にそれぞれ光結合して設けられていることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。
【請求項9】
外部への光出力を抑制した状態で前記第2ステップおよび前記第3ステップを実行するダークチューニングシーケンスと、
前記ダークチューニングシーケンスで選択された波長を保持しつつ、外部へ光を出力する光出力シーケンスと、を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−156558(P2012−156558A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113807(P2012−113807)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【分割の表示】特願2007−188880(P2007−188880)の分割
【原出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000154325)住友電工デバイス・イノベーション株式会社 (291)
【Fターム(参考)】