説明

半導体レーザ

【課題】複数のレーザ構造部から射出される光の偏光方向を揃えたり、単一のレーザ構造部から射出される光の偏光方向を所望の方向に向けたりすることの可能な半導体レーザを提供する。
【解決手段】互いに並列配置された複数のリッジ部30の上面には上部電極33、配線層35および絶縁層36が設けられている。上部電極33は、リッジ部30の延在方向に延在する帯状の形状となっており、中心軸AX上に配置されている。配線層35は、一の上部電極35と、一のパッド電極34とを互いに接続しており、全てのリッジ部30を跨いで形成されている。上部電極33および配線層35のうちリッジ部30の上面と対向する部分は、リッジ部30の中心軸を中心として左右対称の形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々のエミッタを独立に駆動することの可能な半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザでは、各々のエミッタを独立に駆動することを目的として、互いに隣り合うエミッタの間に、互いに隣り合うエミッタを電気的に分離する分離溝が設けられている。この分離溝の幅は、レーザのタイプによって異なるが、ビームピッチが数十μm程度の狭ピッチタイプのレーザの場合には、わずか数μm程度しかない。そのため、そのような場合には、両脇が分離溝で囲まれたエミッタ(レーザ構造部)上のストライプ電極と、レーザ構造部から離れた場所に形成されたパッド電極とを連結する配線層を、狭い分離溝内に設けることは極めて難しい。そこで、例えば、特許文献1に記載されているように、分離溝内に絶縁材料を埋め込み、その絶縁材料の上に上記配線層を設けることが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−269601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載のレーザでは、多数配列された複数のレーザ構造部のうち中央のレーザ構造部から射出された光の偏光方向と、端部のレーザ構造部から射出された光の偏光方向とが互いに異なってしまうという問題があった。また、単一のレーザ構造部だけが設けられたレーザにおいても、そのレーザ構造部から射出された光の偏光方向が、所望の方向とは異なってしまうという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のレーザ構造部から射出される光の偏光方向を揃えたり、単一のレーザ構造部から射出される光の偏光方向を所望の方向に向けたりすることの可能な半導体レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の半導体レーザは、下部クラッド層、活性層および上部クラッド層をこの順に含む帯状の複数のレーザ構造部を備えたものである。複数のレーザ構造部は互いに並列配置されている。各レーザ構造部の上面には、上部クラッド層と電気的に接続された上部電極が1つずつ形成されている。この半導体レーザは、各上部電極と少なくとも1つずつ電気的に接続された複数の配線層を備えており、さらに、複数のレーザ構造部とは異なる部位に、配線層を介して各上部電極と1つずつ電気的に接続された複数のパッド電極を備えている。ここで、各配線層は、上部電極と接している部位とは異なる部位で終端となっている。
【0007】
本発明の第2の半導体レーザは、下部クラッド層、活性層および上部クラッド層をこの順に含む帯状のレーザ構造部を備えたものである。レーザ構造部の上面には、上部クラッド層と電気的に接続された上部電極が形成されている。この半導体レーザは、上部電極と電気的に接続された配線層を備えており、さらに、レーザ構造部とは異なる部位に、配線層を介して上部電極と電気的に接続されたパッド電極を備えている。ここで、配線層は、上部電極と接している部位とは異なる部位で終端となっている。
【0008】
本発明の第1および第2の半導体レーザでは、配線層が上部電極と接している部位とは異なる部位で終端となっている。これにより、配線層が上部電極と接している部位で終端となっている場合と比べて、配線層のうちレーザ構造部の上面と対向する部位の形状の、レーザ構造部の中心軸を中心とした左右対称性が高くなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1および第2の半導体レーザによれば、配線層のうちレーザ構造部の上面と対向する部位の形状の、レーザ構造部の中心軸を中心とした左右対称性が高くなっている。これにより、配線層の非対称性によって偏光方向が変化するのを低減することができる。その結果、複数のレーザ構造部から射出される光の偏光方向を揃えたり、単一のエミッタから射出される光の偏光方向を所望の方向に向けたりすることが可能となる。
【0010】
特に、レーザ構造部の両脇に溝部を設け、溝部を埋め込まず、空隙とした場合には、配線層の非対称性が偏光方向の変化の主因となる。従って、この場合に、配線層の対称性を高くすることにより、複数のレーザ構造部から射出される光の偏光方向を揃えたり、単一のエミッタから射出される光の偏光方向を所望の方向に向けたりすることを容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体レーザの上面図および断面図である。
【図2】図1のリッジ部の上面図である。
【図3】図1の半導体レーザの製造方法の一例について説明するための斜視図である。
【図4】図3に続く工程について説明するための斜視図である。
【図5】図4に続く工程について説明するための斜視図である。
【図6】図1の半導体レーザの一変形例の上面および断面図である。
【図7】図1の半導体レーザの他の変形例の上面および断面図である。
【図8】図1の半導体レーザのその他の変形例の断面図である。
【図9】図1の半導体レーザのその他の変形例の断面図である。
【図10】図1の半導体レーザのその他の変形例の上面および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(図1,図2)
○リッジ部が複数形成されている例
○各配線層が全てのリッジ部を跨いでいる例
○溝部が埋め込まれていない例
2.変形例
○各配線層の端部がリッジ部上面の端部に形成されている例(図6、図7)
○ダミー配線層がリッジ部上に形成されている例(図6)
○溝部が埋め込まれている例(図8)
○溝部の代わりに高抵抗領域が形成されている例(図9)
○リッジ部が1つだけ形成されている例(図10)
【0013】
<実施の形態>
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係る半導体レーザ1の上面構成の一例を表したものである。図1(B)は図1(A)の半導体レーザ1のA−A矢視方向の断面構成の一例を表したものである。本実施の形態の半導体レーザ1は、ストライプ状のエミッタを複数備えたマルチビーム半導体レーザであり、各エミッタの端面からレーザビームが射出される端面発光型の半導体レーザである。
【0014】
半導体レーザ1は、例えば、図1(B)に示したように、基板10上に、下部クラッド層21、活性層22、上部クラッド層23およびコンタクト層24を基板10側からこの順に含む半導体層20を備えたものである。なお、図示しないが、半導体層20には、上記した層以外の層(例えば、バッファ層やガイド層など)がさらに設けられていてもよい。この半導体層20には帯状の複数のリッジ部30(レーザ構造部)が形成されている。複数のリッジ部30は、互いに並列配置されており、前端面S1からレーザビームを互いに独立に射出するエミッタとして機能する。なお、リッジ部30は、図1(A),(B)に例示したように4つ設けられていてもよいし、5つ以上設けられていてもよいし、3つ以下設けられていてもよい。
【0015】
各リッジ部30の両脇には、リッジ部30の延在方向に延在する帯状の溝部31が1つずつ設けられている。複数の溝部31のうち、溝部31の配列方向の両端以外の溝部31は、互いに隣接する2つのリッジ部30に挟まれている。複数の溝部31のうち、当該溝部31の配列方向の両端の溝部31は、例えば、リッジ部30と、半導体層20のうちリッジ部30以外の部位に設けられた帯状の台座部32との間に設けられている。台座部32の高さは、リッジ部30の高さと同等であることが好ましいが、リッジ部30の高さよりも低くてもよい。なお、例えば、図示しないが、台座部32の上面が、溝部31の底面と同一面内に配置されていてもよい。
【0016】
各溝部31は、例えば、基板10の上部にまで達する深さを有しており、各リッジ部30を空間分離している。なお、各溝部31の深さが、例えば、図示しないが、基板10にまで達しない深さとなっていてもよい。ただし、その場合には、各溝部31は、互いに隣り合うリッジ部30同士の間で電気的なクロストークが生じない程度の深さ(例えば下部クラッド層21にまで達する深さ)を有していることが好ましい。
【0017】
溝部31の幅(溝部31の延在方向と直交する方向の幅)は、リッジ部30の幅(リッジ部30の延在方向(共振器方向)と直交する方向の幅)よりも狭くなっている。例えば、リッジ部30の幅が数十μm程度(例えば30μm)となっているときに、溝部31の幅は数μm程度(例えば3μm)となっている。
【0018】
各リッジ部30には、リッジ部30をリッジ部30の延在方向から挟み込む一対の前端面S1および後端面S2が形成されており、これら前端面S1および後端面S2によって共振器が構成されている。一対の前端面S1および後端面S2は、例えばへき開によって形成されたものであり、所定の間隙を介して互いに対向配置されている。さらに、前端面S1には低反射膜(図示せず)が形成されており、後端面S2には高反射膜(図示せず)が形成されている。
【0019】
リッジ部30は、少なくとも下部クラッド層21の上部、活性層22、上部クラッド層23およびコンタクト層24を含んで構成されている。リッジ部30は、電気的なクロストークの観点から、例えば、図3に示したように、基板10の上部、下部クラッド層21、活性層22、上部クラッド層23およびコンタクト層24を含んで構成されていることが好ましい。
【0020】
ここで、基板10は、例えばp型GaAsからなる。p型不純物としては、例えばマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)などが挙げられる。下部クラッド層21は、例えばp型AlGaAsからなる。活性層22は、例えばアンドープのAlGaAsからなる。この活性層22において、後述の上部電極33との対向領域を含む帯状の領域が発光領域22Aとなる。この発光領域22Aは、上部電極33からの電流が注入される電流注入領域に対応している。上部クラッド層23は、例えばn型AlGaAsからなり、コンタクト層24は、例えばn型GaAsからなる。n型不純物としては、例えばケイ素(Si)またはセレン(Se)などが挙げられる。
【0021】
各リッジ部30の上面(コンタクト層24の上面)には上部電極33が1つずつ設けられている。上部電極33は、例えば、図1(A),(B)に示したように、リッジ部30の延在方向に延在する帯状の形状となっており、コンタクト層24および上部クラッド層23と電気的に接続されている。また、半導体層20のうち、リッジ部30および溝部31の双方とは異なる部位、すなわち台座部32上に複数のパッド電極34が設けられている。パッド電極34と台座部32との間には、絶縁層36が設けられており、パッド電極34は、台座部32(特に下部クラッド層21)と絶縁分離されている。なお、台座部32のうちパッド電極34直下の部分が高抵抗化されているなど、パッド電極34と下部クラッド層21との間に電流がほとんど流れないようになっている場合には、パッド電極34と台座部32との間の絶縁層36を省略することも可能である。
【0022】
各パッド電極34は、後述の配線層35に接続されており、1または複数の配線層35を介して各上部電極33と1つずつ電気的に接続されている。複数のパッド電極34はそれぞれ、例えば、図1(A),(B)に示したように、リッジ部30および溝部31を両脇から挟み込む2つの領域(台座部32)の双方に形成されている。複数のパッド電極34は、例えば、図1(A),(B)に示したように、リッジ部30と平行な方向に一列に配置されている。なお、図示しないが、複数のパッド電極34が、リッジ部30の延在方向において互い違いに(千鳥足状に)配置されていてもよい。パッド電極34はそれぞれ、例えば、図1(A),(B)に示したように、リッジ部30および溝部31を両脇から挟み込む2つの領域(台座部32)のうち、上部電極33および配線層35が互いに接している箇所(接触部35A)とパッド電極34との距離が最短となる方の領域(台座部32)に形成されている。接触部35Aは、各配線層35に1つずつ設けられており、各配線層35は、1つの上部電極33とだけ電気的に接続されている。なお、パッド電極34はそれぞれ、例えば、図示しないが、2つの台座部32のうち、接触部35Aとパッド電極34との距離が最短となる方の台座部32に形成されていなくてもよい。その場合には、例えば、図示しないが、パッド電極34が全て、一方の台座部32だけに形成されていてもよい。パッド電極34は、例えば、図1(A),(B)に示したように、四角形状となっている。なお、パッド電極34は、それ以外の形状となっていてもよく、例えば、図示しないが、円形状もしくは楕円形状となっていてもよいし、例えば、三角形状などの多角形状となっていてもよい。
【0023】
絶縁層36は、各リッジ部30の上面にも必要に応じて設けられている。具体的には、絶縁層36は、配線層35のうち接触部35A以外の部分と、リッジ部30の上面との間に設けられている。これにより、各配線層35が1つの上部電極33とだけ電気的に接続されるようになっている。
【0024】
配線層35は、一の上部電極33と、一のパッド電極34とに接続されており、これらを電気的に接続している。配線層35は、例えば、図1(A),(B)に示したように、リッジ部30および溝部31の延在方向と直交する方向に延在する帯状の形状となっており、例えば、成膜によって形成されている。配線層35は、例えば、図1(A),(B)に示したように、上部電極33と接している部位(接触部35A)とは異なる部位で終端となっており、一方の台座部32から他方の台座部32にかけて延在している。つまり、各配線層35は、全てのリッジ部30を跨いで形成されている。このとき、各配線層35が、互いに同一の形状となっており、かつ互いに同一の大きさとなっていることが好ましい。
【0025】
配線層35は、溝部31を一つずつ飛び越えており、少なくとも溝部31上において中空に配置されている。配線層35のうち中空に配置されている部分は、例えば、図1(B)に示したように、溝部31の底面とは反対側に突出したアーチ形状となっており、折れ曲がる可能性を低減する構造となっている。配線層35のうち中空に配置されていない部分は、例えば、図1(B)に示したように、絶縁層36の表面に接して形成されている。
【0026】
基板10の裏面には、下部電極37が設けられている。この下部電極37は、例えば、基板10の裏面全体に形成されており、基板10と電気的に接続されている。なお、下部電極37は、上部電極33と同様、リッジ部30ごとに1つずつ別個に設けられていてもよい。
【0027】
ここで、上部電極33、パッド電極34および配線層35は、例えば、金(Au)とゲルマニウム(Ge)との合金、ニッケル(Ni)および金(Au)とを基板10側からこの順に積層して構成されている。なお、上部電極33、パッド電極34および配線層35は、上記以外の材料の積層体となっていてもよい。また、上部電極33、パッド電極34および配線層35は、互いに同一の材料によって構成されていてもよいし、互いに異なる材料によって構成されていてもよい。絶縁層36は、例えば、SiN、SiO2、SiON、Al23またはAlNによって構成されている。下部電極37は、例えば、チタン(Ti)、白金(Pt)および金(Au)をリッジ部30の上面側からこの順に積層して構成されている。
【0028】
(各リッジ部30の上面レイアウト)
次に、図2を参照して、各リッジ部30の上面レイアウトについて説明する。図2は、半導体レーザ1に設けられた各リッジ部30の上面レイアウトの一例を表したものである。本実施の形態では、各リッジ部30の上面レイアウトが、リッジ部30の中心軸AXを中心として左右対称となっている。中心軸AXは、リッジ部30の延在方向に延在しており、リッジ部30の幅方向の中心を貫く線分である。
【0029】
具体的には、上部電極33は、例えば、リッジ部30の中心軸AX上に形成されており、中心軸AXを中心として左右対称の形状となっている。また、各配線層35のうちリッジ部30の直上の部分(図2に記載されている部分)についても、中心軸AXを中心として左右対称の形状となっている。絶縁層36のうちリッジ部30の直上の部分(図2に記載されている部分)についても、図2に記載したように、中心軸AXを中心として左右対称の形状となっていることが好ましい。
【0030】
次に、図3(A)〜(C)、図4、図5(A),(B)を参照して、本実施の形態の半導体レーザ1の製造方法の一例について説明する。なお、図3(A)〜(C)は製造過程における素子の断面図であり、図4、図5(A)は製造過程における素子の一部の斜視図であり、図5(B)は図5(A)に記載の素子のA−A矢視方向の断面図である。
【0031】
まず、基板10上に、帯状の複数のリッジ部30を帯状の溝部31を介して互いに並列に形成する(図3(A))。このとき、溝部31の幅がリッジ部30の幅よりも狭くなるように、リッジ部30および溝部31を形成する。次に、各リッジ部30上に上部電極33を形成する(図3(A))。
【0032】
次に、表面全体にレジスト層50を形成したのち(図3(B))、少なくとも溝部31の内部を埋め込むと共に上部電極33を覆うことのないように、レジスト層50の露光および現像を行う。これにより、溝部31にレジスト層50が残る。その後、残ったレジスト層50を所定の方法によって硬化させる。これにより、残ったレジスト層50の上面が横方向(溝部31の延在方向と交差する方向)において、溝部31の底面とは反対側に突出した曲面となる(図3(B))。
【0033】
次に、表面全体にレジスト層51を形成したのち(図3(C))、レジスト層51を露光および現像することにより、後にパッド電極34および配線層35となる部位に開口51Aを形成する(図4)。このとき、先のレジスト層50の上面の一部が開口51Aの底面に露出している。次に、例えば、蒸着などを用いて、表面全体に金属層52を成膜する(図5(A),(B))。このように、金属層52の一部を、必要に応じて、残ったレジスト層50の表面上に形成することにより、金属層52のうち、残ったレジスト層50の表面上に形成された部分がアーチ形状となる。
【0034】
次に、例えば、リフトオフなどを用いて、レジスト層51と共に金属層52のうち余分な部分を除去することにより、パッド電極34および配線層35を形成する。さらに、残ったレジスト層50を所定の方法によって除去する。その結果、配線層35は、少なくとも溝部31上において、アーチ形状となり、かつ中空に形成される。このようにして、本実施の形態の半導体レーザ1が製造される。
【0035】
次に、本実施の形態の半導体レーザ1の作用および効果について説明する。
【0036】
本実施の形態の半導体レーザ1では、上部電極33と下部電極37との間に所定の電圧が印加されると、活性層22の電流注入領域(発光領域22A)に電流が注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光は、一対の前端面S1および後端面S2により反射され、所定の波長でレーザ発振を生じ、レーザビームとして各リッジ部30の前端面S1から外部に射出される。
【0037】
ところで、本実施の形態では、互いに隣接するリッジ部30の間に溝部31が設けられている。さらに、上部電極33とパッド電極34とを電気的に接続する配線層35が、少なくとも溝部31上において中空に配置されている。つまり、本実施の形態では、配線層35と溝部31の内壁との間隙に、絶縁材料などの埋め込み材が設けられていない。そのため、配線層35と溝部31の内壁との間隙に絶縁材料などの埋め込み材を設けたときのような応力がリッジ部30に生じる虞がないので、リッジ部30に加わる応力に起因する偏光角の回転を抑制することができる。
【0038】
なお、本実施の形態の半導体レーザ1は、ビームピッチが数十μm程度の狭ピッチタイプのレーザである。そのため、配線層35をワイヤボンディングによって形成することは極めて困難である。仮に配線層35をワイヤボンディングによって形成しようとすると、一つのワイヤボールが複数の上部電極33に接触してしまい、各リッジ部30を独立に駆動させることができなくなってしまう可能性が高い。また、ワイヤボンディングでは超音波接合が用いられるので、超音波に起因する信頼性の低下を招く虞がある。そこで、本実施の形態では、配線層35を成膜により形成している。これにより、配線層35同士が互いに接触し各リッジ部30を独立に駆動させることができなくなったり、超音波に起因する信頼性の低下が生じたりするのを防いでいる。
【0039】
また、本実施の形態において、配線層35を少なくとも溝部31上において、アーチ形状にした場合には、配線層35が折れ曲がる虞がなくなる。その結果、信頼性をより一層高めることができる。なお、配線層35をアーチ形状にする方法として、上述したように、最初に露光および現像したレジスト層50を溝部31に残し、その残りのレジスト層を下地として配線層35を形成する2段階露光を用いることが好ましい。この2段階露光を用いることにより、確実に、配線層35を少なくとも溝部31上において、アーチ形状にすることができ、高い信頼性を得ることが可能となる。
【0040】
さらに、本実施の形態では、各配線層35が、上部電極33と接している部位(接触部35A)とは異なる部位で終端となっている。これにより、各配線層35が接触部35Aで終端となっている場合と比べて、配線層35のうちリッジ部30の上面と対向する部位の形状の、リッジ部30の中心軸AXを中心とした左右対称性が高くなっている。その結果、各リッジ部30の上面に形成された構造物(特に配線層35)の非対称性に起因して、応力が中心軸AXとの関係でリッジ部30に左右非対称に加わる虞がないので、リッジ部30に加わる応力に起因する偏光角の回転を抑制することができる。従って、複数のリッジ部30から射出される光の偏光方向を揃えることができる。
【0041】
特に、本実施の形態では、リッジ部30の両脇に溝部31が設けられており、さらに溝部31が埋め込まれず、空隙となっているので、各配線層35の非対称性が偏光方向の変化の主因となる。従って、各配線層35の対称性を高くすることにより、複数のリッジ部30から射出される光の偏光方向を揃えることを容易に実現することができる。
【0042】
<変形例>
上記実施の形態では、配線層35が一方の台座部32から他方の台座部32にかけて延在している場合が例示されていたが、例えば、配線層35が接触部35Aの近傍で終端となっていてもよい。その場合に、例えば、図6(A),(B)、図7(A),(B)に示したように、配線層35の終端がリッジ部30の上面の端部またはその近傍に設けられていてもよい。また、例えば、図示しないが、配線層35が配線層35と接する上部電極33を乗り越え、配線層35の終端が上部電極33の側面近傍に設けられていてもよい。また、配線層35の終端がリッジ部30の上面の端部もしくはその近傍、または上部電極33の側面近傍に設けられている場合に、例えば、図6(A),(B)に示したように、配線層として機能しないダミー配線層35Bがリッジ部30上に設けられていてもよい。ダミー配線層35Bは、各リッジ部30上の配線層の数を互いに等しくする目的で設けられたものである。このようにした場合には、リッジ部30上の配線層の数の違いによって偏光角が変化するのを抑制することができる。
【0043】
また、上記実施の形態およびその変形例では、配線層35は少なくとも溝部31上において中空に配置されていたが、中空に配置されていなくてもよい。例えば、図8に示したように、溝部31が埋め込み層38によって埋め込まれ、配線層35が埋め込み層38に接して設けられていてもよい。埋め込み層38は、リッジ部30に発生する応力が小さい材料によって構成されていることが好ましい。また、例えば、図9に示したように、溝部31の代わりに、半導体層20にイオン注入することによって高抵抗領域39が形成され、配線層35が高抵抗領域39に接して設けられていてもよい。ただし、この場合には、レーザ発振する部位が高抵抗領域39と一体となるので、互いに隣接する高抵抗領域39の間には、リッジ部30の内部構造と同一の内部構造を有するレーザ構造部40が形成されることとなる。
【0044】
また、上記実施の形態およびその変形例では、複数のリッジ部30が半導体層20に設けられていたが、例えば、図10(A),(B)に示したように、単一のリッジ部30が設けられていてもよい。このとき、リッジ部30の両脇は空隙となっていることが好ましいが、何らかの材料で埋め込まれていてもよい。
【0045】
以上、複数の実施の形態およびその変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記各実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0046】
例えば、上記各実施の形態等では、一の上部電極33と一のパッド電極34とを接続する配線層35は、1本だけであったが、2本以上であってもよい。
【0047】
また、上記各実施の形態等では、AlGaAs系の化合物半導体レーザを例にして本発明を説明したが、他の化合物半導体レーザ、例えば、AlGaInP系、GaInAsP系などの赤色半導体レーザ、GaInN系およびAlGaInN系などの窒化ガリウム系の半導体レーザ、ZnCdMgSSeTeなどのII−VI族の半導体レーザにも適用可能である。また、AlGaAs系、InGaAs系、InP系、GaInAsNP系などの、発振波長が可視域とは限らないような半導体レーザにも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…半導体レーザ、10…基板、20…半導体層、21…下部クラッド層、22…活性層、22A…発光領域、23…上部クラッド層、24…コンタクト層、30…リッジ部、31…溝部、32…台座部、33…上部電極、34…パッド電極、35…配線層、35A…接触部、35B…ダミー配線層、36…絶縁層、37…下部電極、38…埋め込み層、39…高抵抗領域、40…レーザ構造部、50,51…レジスト層、51A…開口、52…金属層、S1…前端面、S2…後端面、AX…中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並列配置されると共に、下部クラッド層、活性層および上部クラッド層をこの順に含む帯状の複数のレーザ構造部と、
各レーザ構造部の上面に1つずつ形成されると共に前記上部クラッド層と電気的に接続された帯状の複数の上部電極と、
各上部電極と少なくとも1つずつ電気的に接続された複数の配線層と、
前記複数のレーザ構造部とは異なる部位に形成され、かつ前記配線層を介して各上部電極と1つずつ電気的に接続された複数のパッド電極と
を備え、
各配線層は、前記上部電極と接している部位とは異なる部位で終端となっている
半導体レーザ。
【請求項2】
各配線層のうち前記レーザ構造部の直上の部分は、前記レーザ構造部の中心軸を中心として左右対称の形状となっている
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
各配線層は、全てのレーザ構造部を跨いで形成されている
請求項2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記レーザ構造部の上面レイアウトが、前記レーザ構造部の中心軸を中心として左右対称となっている
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項5】
各配線層は、前記レーザ構造部の上面の端部に形成されている
請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
前記複数のレーザ構造部のうち所定のレーザ構造部の上面に、配線層として機能しない1または複数のダミー配線層を備え、
各レーザ構造部の上面における前記配線層および前記ダミー配線層の合計数が互いに等しくなっている
請求項5に記載の半導体レーザ。
【請求項7】
各レーザ構造部の間に、前記レーザ構造部の延在方向に延在する溝部を備え、
各配線層は、少なくとも前記溝部上において中空に配置されている
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項8】
各レーザ構造部の間に、前記レーザ構造部の延在方向に延在する溝部と、
前記溝部を埋め込む埋め込み層と
を備え、
各配線層は、前記溝部上において前記埋め込み層に接して形成されている
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項9】
各レーザ構造部の間に、前記レーザ構造部を分離する高抵抗領域を備え、
各配線層は、前記高抵抗領域に接して形成されている
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項10】
下部クラッド層、活性層および上部クラッド層をこの順に含む帯状のレーザ構造部と、
前記レーザ構造部の上面に形成されると共に前記上部クラッド層と電気的に接続された帯状の上部電極と、
前記上部電極と電気的に接続された配線層と、
前記レーザ構造部とは異なる部位に形成され、かつ前記配線層を介して前記上部電極と電気的に接続されたパッド電極と
を備え、
前記配線層は、前記上部電極と接している部位とは異なる部位で終端となっている
半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−14632(P2011−14632A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155737(P2009−155737)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】