説明

半導体レーザ

【課題】電極下に低誘電率の有機材料が挿入された構造であるにも関わらず、外力に対する破壊強度の低下を抑制して製造歩留まりを高めることができる半導体レーザを提供することにある。
【解決手段】光を出力する半導体レーザ部10aと、半導体レーザ部10aの出力側に設けられ、前記光を変調する光変調部10bとからなる素子本体10を、同一基板上に備え、光変調部10bは、前記光が導波する光導波層と、前記光導波層に隣接して設けられ、低誘電率の有機材料から成る埋め込み層12,13と、埋め込み層12,13の表面に設けられた第一の絶縁膜14と、第一の絶縁膜14の上に設けられ、前記光導波層へ電気信号を給電する上部電極16とを具備する半導体レーザであって、第一の絶縁膜14の上面および上部電極16の上面に第二の絶縁膜17を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザに関し、より詳細には、高速変調機能付き半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザには高速変調機能付き半導体レーザがある。高速変調機能付き半導体レーザにおいて、10Gbit/sやそれ以上の25Gbit/s、40Gbit/sといった高速変調のため、電極パッド(上部電極)下に低誘電率の有機材料を挿入して、電気容量を低減する構造をとる場合がある。この場合、半導体上、もしくは半導体上に付着させたSiO2やSiNx等の絶縁膜上に電極を形成する場合に比べ、電気の周波数特性を飛躍的に向上させることができる。
【0003】
従来例による半導体レーザについて図4および図5を参照して説明する。従来例の半導体レーザは、図4および図5に示すように、高速変調機能付き半導体レーザであって、半導体レーザ部110aと光変調部110bとからなる素子本体110を、同一基板111上に備える。
【0004】
半導体レーザ部110aは、注入電流により光を出力する基本構成と、前記基本構成の上部に設けられた上部電極115とを具備する。前記基本構成の周囲には、埋め込み層112,113が埋め込まれている。なお、前記基本構成は、例えば、活性層、前記活性層の上下に配置される上部および下部クラッド層などで構成される。
【0005】
光変調部110bは、電気信号の給電により入力された光を変調する部位であって、光が導波する光導波部118と、光導波部118に隣接して設けられる埋め込み層112,113と、光導波部118に電気信号を給電する上部電極116とを備える。埋め込み層112,113の幅方向外側には、半導体層119,120が設けられる。光導波部118は、例えば、活性層、前記活性層の上下に配置される上部および下部クラッド層、上部クラッド層の上に配置されるコンタクト層などで構成される。なお、埋め込み層112,113の表面、半導体層119,120の上面には、絶縁膜114が形成される。上部電極116は、ワイヤボンディングが可能なパッド部分116aを備える。
【0006】
埋め込み層112,113は、例えば、ポリイミドやベンゾシクロブテン(BCB:Benzocyclobutene)などの低誘電率の有機材料で構成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jean-Rene Burie et al.,”10 Gb/s 100km Transmission up to 80 C over Single Mode Fiber at 1.55 μm with an Integrated Electro-absorption Modulator Laser”, 2007年OFC
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、通常、半導体レーザの製造工程では、劈開を用いて原子オーダで平坦な面を作り出している。ところが、使用する基板の厚さは、2インチInPで450μm、3インチInPで650μmと非常に厚く、前記基板を劈開ができない。そこで、ウエハの裏面を研磨することで100μm〜150μmの厚さに仕上げている。このとき、ワックスにより研磨冶具にウエハを貼り付け、研磨後に加熱したアセトンやエタノールなどの有機溶剤を用いて、ワックスを除去している。他方、低誘電率の有機材料(埋め込み層)と、上部電極、もしくは絶縁膜との密着性が低くなっている。そのため、前記有機溶剤が電極と低誘電率の有機材料との間、もしくは絶縁膜と低誘電率の有機材料との間に染み込んでしまうことによって一度でも両者が引き剥がされてしまうと、染み込んだ有機溶剤が乾燥しても少量の有機溶剤が残留したり、その場所に空気の層が薄く介在したりするようになり、前記密着性を大幅に低下させることがある。
【0009】
上述した半導体レーザでは、絶縁膜114は矩形形状の埋め込み層112,113に対して付着しているため、図5に示すように、埋め込み層112,113の矩形部(角の部分)付近に小さなクラック121,122,123が生じることがある。前記クラック121,122,123を通じて内部に前記有機溶剤が染み込むと、前述した通り、前記密着性を大幅に低下させることがある。これにより、上記の半導体レーザにおいては、素子や電極に力が加わった場合の破壊強度が低下し、ワイヤボンディング時に電極が剥がれたり、ワイヤプル試験強度が著しく低下したりすることがある。そのため、製造歩留まりが悪いという課題があった。
【0010】
以上のことから、本発明は上述したような課題を解決するために為されたものであって、電極下に低誘電率の有機材料が挿入された構造であるにも関わらず、外力に対する破壊強度の低下を抑制して製造歩留まりを高めることができる半導体レーザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決する本発明に係る半導体レーザは、光を出力する半導体レーザ部と、前記半導体レーザ部の出力側に配置され、前記光を変調する光変調部とからなる素子本体を、同一基板上に備え、前記光変調部は、前記光が導波する光導波層と、前記光導波層に隣接して設けられ、低誘電率の有機材料からなる埋め込み層と、前記埋め込み層の表面に設けられた第一の絶縁膜と、前記第一の絶縁膜の上に設けられ、前記光導波層へ電気信号を給電する電極とを具備する半導体レーザであって、前記第一の絶縁膜の上面および前記電極の上面に第二の絶縁膜を設けたことを特徴とする。
【0012】
前述した課題を解決する本発明に係る半導体レーザは、上述した半導体レーザにおいて、前記第二の絶縁膜が、前記電極の縁部を除く部分に対向する箇所に窓部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る半導体レーザによれば、素子の上面が第二の絶縁膜で覆われることになり、当該埋め込み層の上面が大気に対して露出しない状態となる。そのため、製造工程で用いる有機溶剤が電極と埋め込み層との間に染み込まず、電極と高速電気信号給電の為のワイヤの付着が堅牢な状態を保持できる。つまり、電極下に低誘電率の有機材料が挿入された構造であるにも関わらず、外力に対する破壊強度の低下を抑制して製造歩留まりを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例に係る半導体レーザの平面図である。
【図2】図1におけるA−A’断面を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る半導体レーザの製造プロセスを説明するための図であって、図3(a)に電極形成時の状態を示し、図3(b)に第二の絶縁膜形成時の状態を示し、図3(c)に窓部形成時の状態を示す。
【図4】従来例による半導体レーザの平面図である。
【図5】図4におけるB−B’断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る半導体レーザを実施するための形態について、実施例にて具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例に係る半導体レーザについて、図1〜図3を参照して具体的に説明する。なお、図1では、第一の絶縁膜の図示を省略している。
【0017】
本実施例に係る半導体レーザは、図1に示すように、高速変調機能付き半導体レーザであって、注入電流により光を出力する半導体レーザ部10aと、半導体レーザ部10aの光出力側に接続して設けられ、電気信号の給電により入力された光を変調する光変調部10bとからなる素子本体10を、同一基板11上に備える。
【0018】
光変調部10bは、従来の光変調器と同様の基本構成を備える。つまり、光変調部10bは、図1および図2に示すように、光を導波する光導波部18を備える。光導波部18は、例えば、活性層(図示省略)、前記活性層の上下に配置される上部および下部クラッド層(図示省略)、前記上部クラッド層の上に配置されるコンタクト層(図示省略)などを備える。これら層に隣接して埋め込み層12,13が設けられる。埋め込み層12,13は、例えば、ポリイミドやベンゾシクロブテン(BCB:Benzocyclobutene)などの低誘電率の有機材料で構成される。埋め込み層12,13の幅方向外側は、半導体層19,20で構成される。埋め込み層12,13の表面および半導体層19,20の上面は、例えばSiO2やSiNxなどからなる第一の絶縁膜14で覆われる。ただし、光導波部18の上面は、第一の絶縁膜で覆われずに、後述する上部電極16と接触する。第一の絶縁膜14の上面における埋め込み層12,13の上方には、光変調部10bへ電気信号を給電する上部電極(Au電極)16が設けられる。上部電極16は、ワイヤボンディングが可能なパッド部分16aを備える。つまり、光変調部10bは、活性層へ電気信号を給電することにより、光を変調する構成を備える。
【0019】
半導体レーザ部10aは、従来の半導体レーザ部と同様の基本構成を備える。すなわち、半導体レーザ部10aは、光を出力する光出力部(図示省略)を備える。前記光出力部は、例えば、活性層(図示省略)、前記活性層の上下に配置される上部および下部クラッド層(図示省略)などを備える。これらの層に隣接して、光変調部10bと同様、埋め込み層12,13が設けられ、埋め込み層12,13の幅方向外側が半導体層で構成される。埋め込み層12,13の表面および前記半導体層の上面は、光変調部10bと同様、第一の絶縁膜(図示省略)で覆われる。ただし、前記光出力部の上面は、第一の絶縁膜で覆われずに、後述する上部電極15と接触する。前記第一の絶縁膜の上面における埋め込み層12,13の上方には、前記光出力部の前記活性層へ電気を注入する上部電極15が設けられる。つまり、半導体レーザ部10aは、活性層へ電気を注入することにより、光を出力する構成を備える。
【0020】
なお、半導体レーザ部10aおよび光変調部10bは、例えば、InP,InAlAs,InGaAsP,InGaAlAs,およびその混晶などで構成される。
【0021】
上述した構成の半導体レーザの素子本体10の表面、すなわち、第一の絶縁膜14の上面、および上部電極15,16の上面には、例えばSiO2やSiNxなどからなる第二の絶縁膜17が設けられる。これにより、第一の絶縁膜14の上面および上部電極15,16の上面が第二の絶縁膜17で覆われる。よって、第一の絶縁膜14における埋め込み層12,13の幅方向端部近傍にクラック(マイクロクラック)21,22,23が生じても、埋め込み層12,13が大気に対して露出しない状態となる。そのため、製造工程、すなわち、ウエハを劈開する前の前処理工程にて用いた有機溶剤の内部への染み込みを防止できる。ただし、第二の絶縁膜17において、半導体レーザ部10aの上部電極15の中央部分に対向する箇所に窓部17aが設けられると共に、光変調部10bの上部電極16の縁部を除いた部分、すなわち、パッド部分16aに対向する箇所に窓部17bが設けられる。これにより、半導体レーザ部10aに電気を注入することができると共に、光変調部10bに電気信号を給電することができる。上部電極16と高速電気信号給電の為のワイヤの付着が堅牢な状態を保持できる。
【0022】
ここで、上述した構成の半導体レーザにおける光変調部10bの製造工程について、図3を参照して説明する。
まず、図3(a)に示すように、表面の所定箇所に上部電極16を形成する。これにより、第一の絶縁膜14における埋め込み層13の幅方向端部近傍に生じたクラック22が上部電極16で覆われることになる。
【0023】
続いて、図3(b)に示すように、素子本体の表面、すなわち、第一の絶縁膜14の上面および上部電極16の上面に第二の絶縁膜17を設ける。これにより、第一の絶縁膜14における埋め込み層12,13の幅方向端部近傍に生じたクラック21,23が第二の絶縁膜17で覆われることになる。続いて、図3(c)に示すように、上部電極16のパッド部分に対向する箇所の第二の絶縁膜を除去して、窓部17bを作製する。これにより、光変調部10の上部電極16に、ワイヤボンディングが可能な領域を確保できる。
【0024】
以上説明したように、第一の絶縁膜14における埋め込み層12,13の幅方向端部近傍にクラック21,22,23が生じていても、これらクラック21,22,23が第二の絶縁膜17および上部電極16で覆われるため、埋め込み層12,13が大気に対して露出しない状態となる。そのため、上述した製造工程を経た素子では、裏面研磨後のワックスを有機溶剤(例えば、アセトンやエタノールなど)で洗浄する工程において、前記有機溶剤が内部に浸入せず、高い付着強度を持つ上部電極16を備えた半導体レーザが得られる。この素子に対しワイヤプル試験を実施したところ、その強度は6g以上であり、ネックブレークモードで破壊し、上部電極16が素子から剥がれることは無いことが確認された。
【0025】
一方、上述した、図4および図5に示す従来例による半導体レーザである従来型の素子では、ワイヤプル試験を実施したところ、パッド部分が剥がれてしまうことがあることが確認された。
【0026】
したがって、本実施例に係る半導体レーザによれば、素子の上面を覆う第二の絶縁膜17を備えることで、上部電極16の下に低誘電率の有機材料からなる埋め込み層12,13が挿入された構造であるにも関わらず、第二の絶縁膜17がクラックの生じやすい第一の絶縁膜14における埋め込み層12,13の幅方向端部近傍を覆うことになり、ウエハを劈開する前の工程で用いた有機溶剤が内部に浸入することを防止することができ、外力による破壊強度の低下を抑制して、製造歩留まりを高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る半導体レーザは、電極下に低誘電率の有機材料が挿入された構造であるにも関わらず、外力に対する破壊強度の低下を抑制して製造歩留まりを高めることができるため、通信産業等を始めとする各種産業において、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 素子本体
10a 半導体レーザ部
10b 光変調部
11 半導体基板
12,13 埋め込み層
14 第一の絶縁膜
15 上部電極(半導体レーザ部用の電極)
16 上部電極(光変調部用の電極)
17 第二の絶縁膜
18 光導波部
19,20 半導体層
21〜23 クラック
110 素子本体
110a 半導体レーザ部
110b 光変調部
111 半導体基板
112,113 埋め込み層
114 絶縁膜
115 上部電極(半導体レーザ部用の電極)
116 上部電極(光変調部用の電極)
118 光導波部
119,120 半導体層
121〜123 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を出力する半導体レーザ部と、前記半導体レーザ部の出力側に配置され、前記光を変調する光変調部とからなる素子本体を、同一基板上に備え、前記光変調部は、前記光が導波する光導波層と、前記光導波層に隣接して設けられ、低誘電率の有機材料からなる埋め込み層と、前記埋め込み層の表面に設けられた第一の絶縁膜と、前記第一の絶縁膜の上に設けられ、前記光導波層へ電気信号を給電する電極とを具備する半導体レーザであって、
前記第一の絶縁膜の上面および前記電極の上面に第二の絶縁膜を設けた
ことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体レーザにおいて、
前記第二の絶縁膜は、前記電極の縁部を除く部分に対向する箇所に窓部を備える
ことを特徴とする半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−21139(P2013−21139A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153434(P2011−153434)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】