説明

半導体光素子

【課題】放熱性を改善しつつAl含有層の酸化が低減された、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子を提供すること。
【解決手段】半導体レーザ100は、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体レーザにおいて、Al系材料で構成された活性層105と、活性層105の上の境界層108Aと、境界層108Aの上の、Alを含有しない導波層109を有するリッジ111と、境界層108Aの上のリッジを埋め込む埋め込み層112とを備える。境界層108Aは、リッジ111を形成するためのエッチングにより露出する表面とAl含有層である上側SCH層106との間に存在し、上側SCH層106や量子井戸活性層105が露出して酸化することを回避する。導波層109は、リッジ111内部にありエッチングにより側面が露出するが、Alを含有しないので、Al含有層が露出することによる酸化の問題は生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子に関し、より詳細には、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信システムは、インターネットやブロードバンドの普及により高速、大容量化が必然となっている。ここで使われる光通信用レーザは過密で、過酷な温度条件下にあり、その消費電力を下げて小型化しつつも、温調を伴わずに高温でも安定に動作することが求められている。
【0003】
このような背景において、近年、光通信用レーザとして、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体レーザ(Al系半導体レーザ)が用いられ始めてきた。Al系半導体レーザでは、InPに格子整合するAl系材料InGaAlAsのGaとAlの組成比によるバンドギャップの変化から、光通信で用いられる波長帯に対して最適な量子井戸構造を選択でき、高温動作においても十分な特性を示すレーザを実現することができる。
【0004】
これまでのAl系半導体レーザは、例えば特許文献1に記載されているようなリッジ構造を用いたものがほとんどであった。リッジ型半導体レーザは、埋め込み型半導体レーザと比較して製造工程数が少ないので容易に作成できる利点があるものの、電流注入による発熱に対する放熱性が悪い。とりわけ高温時の動作で発熱の影響が大きくなる。
【0005】
放熱性を改善するために、活性層および導波層を有するリッジを埋め込み層で埋め込む埋め込みリッジ構造を用いることが行われている(特許文献2に記載の構造を参照)。具体的には、GaAs基板上に活性層(InGaAsP)を有し、その上層のIn1-xGaxP(x=0.49)からなるリッジ構造を形成した後、リッジ構造の両脇を(Al0.2Ga0.8xIn1-xP(x=0.5)で埋め込んだ構造である。ここで、電子、ホールのリッジ構造への閉じ込めのため、埋め込み層はリッジ構造に比べてエネルギーバンドギャップが大きい。また、この場合には埋め込み層に比べてリッジ構造の方が屈折率が高いので、リッジ型レーザと同様にリッジ溝下部の活性層に光を閉じ込めることができる(特許文献3を参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平8−56047号公報
【特許文献2】特開2001−68725号公報
【特許文献3】特開平9−266345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、この構造をInP基板上の長波長帯レーザに適用する場合には以下のような問題が生じる。一般的に、InP基板上の長波長帯レーザの埋め込み層には、電子、ホールの閉じ込めと光の閉じ込めを考慮してエネルギーバンドギャップが大きく屈折率の小さいInPが用いられる。InPは後述するように混晶半導体に比べて埋め込み成長過程での組成揺らぎがなく高品質の結晶の埋め込み成長ができるという利点もある。しかしながら、InP基板上の活性層にAl系材料、クラッド層にInPを用いたリッジ構造をInPで埋め込んだ場合には、当然のことながら上層は全面InPとなりリッジ構造は存在しなくなる。この場合には活性層への電子、ホールの閉じ込めと光の閉じ込めがなされないので、レーザ光はマルチモードでの発振となりシングルモードで発振しなくなる。
【0008】
また、活性層の両脇にも埋め込み層を形成する埋め込み型レーザ構造とする場合(特許文献2を参照)では、Al含有層の酸化という問題がある。埋め込みリッジ構造とするために導波層と活性層とを有するリッジを形成するエッチング工程において、活性層等のAl含有層の側面が表面に現れて酸化してしまう。この酸化により、残留酸素による歩留り低下、特性劣化、および信頼性低下が引き起こされてしまう。同様の問題が、波長変調器等、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子において発生する。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、放熱性を改善しつつAl含有層の酸化が低減された、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子において、前記InP基板と、前記InP基板の上の前記活性層と、前記活性層の前記InP基板と対向する面の上の境界層と、前記境界層の前記活性層と対向する面の上の、Alを含有しない導波層を有するリッジと、前記境界層の前記活性層と対向する面の上の、前記リッジを埋め込む埋め込み層とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記埋め込み層は、InPであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記埋め込み層は、FeまたはRuがドーピングされていて、半絶縁性であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかにおいて、前記導波層の屈折率は、前記埋め込み層の屈折率より高く、かつ、前記活性層の屈折率より低いことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記導波層は、InGaAsPであることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記導波層は、InGaAsPのフォトルミネッセンス発光波長が1.0μm以上、かつ、活性層のフォトルミネッセンス発光波長未満であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6において、前記導波層は、前記導波層の層厚が0.02μm以上0.35μm以下、かつ、前記リッジの幅が0.5μm以上2.6μm以下であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれかにおいて、前記リッジは、前記導波層の前記境界層と対向する面の上に、クラッド層をさらに有し、前記境界層の屈折率は前記導波層より低く、前記クラッド層の屈折率は前記導波層より低いことを特徴とする。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれかにおいて、動作する波長帯が1.3ミクロン帯または1.55ミクロン帯であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子において、Al系材料で構成された活性層と、活性層の上の境界層と、境界層の上の、Alを含有しない導波層を有するリッジと、境界層の上のリッジを埋め込む埋め込み層とを備えることにより、放熱性を改善しつつAl含有層の酸化が低減された、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。本明細書において用いられる用語「上に」は、特段の定めがない限り、第1の構成要素が第2の構成要素の真上に存在する場合だけでなく、第1の構成要素と第2の構成要素との間に介在要素が存在する場合も包含することが意図されている。
【0021】
(実施例1)
実施例1は、半導体光素子として、加入者用光伝送システムで用いられる1.3μm帯半導体レーザを作製したものであり、図1は、本実施例に係る半導体レーザの断面構造を示している。半導体レーザ100の構造を、作製手順に沿って説明する。
【0022】
n−InP基板101上に100nm厚のn−InPバッファ層102を成長した後、InPに格子整合した50nm厚のInGaAsP下側ガイド層103、50nm厚のInGaAlAs下側SCH(Separate Confinement Heterostructure)層104、量子井戸活性層105(量子井戸層:7nm厚InGaAlAs、障壁層:10nm厚InGaAlAs層、10周期、フォトルミネッセンス発光波長:1.3μm)、50nm厚のInGaAlAs上側SCH層106、10nm厚のInGaAsP上側ガイド層107、200nm厚のp−InP層108AおよびB、p−InGaAsP導波層109、および500nm厚のp−InPクラッド層110Aを順次成長する。これらの層の成長には、MOVPE法、ガスソースMBE法、またはCBE法を用いることができる。
【0023】
次に、酸化膜をマスクとして、エッチングによりリッジ111を形成する。リッジ111を形成する時のエッチングは、ウエット、ドライ等、方法を問わない。エッチングはp−InP層108Bで止め、Alを含有する上側SCH層106までは達しないようにする。上側ガイド層107はAlを含有しないので、p−InP層108Aを通って上側ガイド層107内までエッチングを行ってもよい。リッジの幅Wは、導波層109の厚さdおよび組成により決定される。
【0024】
次に、エッチングマスクとして用いた酸化膜を選択成長のマスクとして、1000nm厚のn−InP埋め込み層112をMOVPE法により選択成長する。その後、成長炉からウエハを取り出し、選択成長マスクとして用いた酸化膜をエッチングにより除去する。
【0025】
次に、p−InPクラッド層110Aと同一の材料であるp−InPクラッド層110Bを、p−InPクラッド層110Aおよびn−InP埋め込み層112の上に、MOVPE法、ガスソースMBE法、またはCBE法により500nm形成する。
【0026】
次に、200nm厚のp−InGaAsコンタクト層113、p側オーミック電極114、およびn側オーミック電極115を形成した後、へき開により、一対の共振器端面を形成する。その後、後端面にスパッタ法によりα−Si/SiO2高反射膜を形成し、チッピングして半導体レーザチップを得る。
【0027】
図2は、p−InGaAsP導波層109の組成を、室温でのフォトトルミネッセンス発光波長が1.0μm以上1.25μm以下となるようにした場合の、リッジの幅Wおよび導波層の厚さdを変数とした半導体レーザの特性の分布を示している。リッジに量子井戸活性層を有しない本実施例に係る半導体レーザにおいても、導波層109の厚さdおよび組成ならびにリッジの幅Wにより導波路の横方向の屈折率分布を制御して、横方向の光の閉じ込めを制御することが可能となり、十分な特性の半導体レーザを実現することができる。図2に示すように、導波層の厚さdが0.02μm以上0.35μm以下程度、幅Wが0.5μm以上2.6μm以下である場合に所望の特性が得られる。図中の白の領域になるように幅Wと厚さdを設定する。
【0028】
リッジの幅Wを2.0μm、導波層の厚さdを0.2μmとして試作した素子は、閾値電流約5mAで室温連続発振し、平均発振波長は1310nmであった。95℃での動作でも2.5Gb/sの変調でのアイパターンでも明瞭なアイ開口がみられていた。
【0029】
また、30素子について環境温度95℃の条件下で10mW定光出力連続動作させたところ、すべての素子で1万時間以上安定に動作した。
【0030】
本実施例に係る半導体レーザは、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体レーザにおいて、Al系材料で構成された活性層と、活性層の上の境界層と、境界層の上の、Alを含有しない導波層を有するリッジと、境界層の上のリッジを埋め込む埋め込み層とを備えることを特徴とする。
【0031】
p−InP層108Aに対応するリッジ111と活性層と活性層105との間の境界層は、リッジ111を形成するためのエッチングにより露出する表面とAl含有層である上側SCH層106との間に存在し、上側SCH層106や量子井戸活性層105が露出して酸化することを回避する。
【0032】
導波層109は、リッジ111内部にありエッチングにより側面が露出するが、Alを含有しないので、Al含有層が露出することによる酸化の問題は生じず、半導体レーザ100の特性劣化等を引き起こさない。
【0033】
埋め込み層112は、リッジ111に隣接してそれを埋め込むことで、放熱性の改善をもたらす。
【0034】
このように、本実施例に係る半導体レーザは、放熱性を改善しつつAl含有層の酸化が低減された、Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子である。
【0035】
混晶比が10パーセントオーダーの混晶半導体でリッジ111のような平坦ではない表面を埋め込んだ場合、例えば、GaAs基板上に活性層(InGaAsP)を有し、その上層のIn1-xGaxP(x=0.49)からなるリッジ構造の両脇を(Al0.2Ga0.8xIn1-xP(x=0.5)で埋め込んだ場合、リッジ近傍において埋め込み成長中に複数の結晶面方位が現れる。各結晶面方位により元素の取り込まれる割合が所望の割合とは異なるため、リッジ近傍での組成比が所望の格子整合状態からずれて、埋め込み層からリッジおよび境界層に応力が発生し、転位や欠陥等の機械的劣化に結びつく。したがって、混晶比が10パーセントオーダーの混晶半導体は用いず、混晶比が数パーセントオーダーの混晶半導体を用いることで、埋め込み層の組成変動に起因する機械的劣化を低減し、半導体光素子の特性や信頼性の向上を図ることができる。特に、2元化合物半導体結晶であるInPを用いれば、組成変動が生じず、機械的劣化がより抑えられる。
【0036】
また、埋め込み層にFeまたはRuをドーピングすると、埋め込み層を半絶縁性半導体にして、寄生容量が低減することができる。したがって、FeまたはRuをドーピングすることにより高速変調が可能な半導体レーザを実現し、半導体光素子の特性や信頼性の向上を図ることができる。
【0037】
また、導波層にフォトルミネッセンス発光波長が1.0μm以上1.25μm以下であるInGaAsPを用いて説明したが、導波層の屈折率が埋め込み層の屈折率より高く、かつ、前記活性層の屈折率より低いものであれば他のフォトルミネッセンス発光波長の材料でもよい。本実施例においては、導波層において活性層で発光された光の一部が閉じ込められることにより、結果的にリッジ構造下部の活性層での光の閉じ込めが増加してレーザ特性が向上する。ここで導波層の屈折率が低すぎる場合(フォトルミネッセンス波長が1.0μm未満)には、導波層における光の閉じ込めが不十分となりリッジ構造下部の活性層での光の閉じ込めが不十分となりレーザ特性が向上しない。また、導波層の屈折率が高すぎる場合(フォトルミネッセンス発光波長が活性層のフォトルミネッセンス発光波長より大きい場合)には、導波層における光の閉じ込めが高すぎて活性層とともに導波層でレーザ発振が生じてしまい、レーザ発振光がマルチモードとなり、シングルモードにならないので問題となる。
【0038】
また、境界層またはクラッド層にInPを用いたが、境界層の屈折率が導波層より低く、クラッド層の屈折率が導波層より低ければ、InGaAsPなどの他の材料でも構わない。
【0039】
また、活性層が量子井戸構造である場合について説明したが、Alを含む活性層であればよく、InGaAlAsなどのAlを含む単一組成の化合物半導体からなるものであっても構わない。ただし、InPとの格子不整合が増大すると歪緩和が生じ結晶品質が劣化するので適さない。
【0040】
また、半導体レーザについて説明したが、変調器(実施例3)、半導体増幅器、半導体変調器集積レーザ(例えば、EA−DFBレーザ)等のAl系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子についても適用可能である。
【0041】
本実施例においては、従来リッジ構造においてInPだけにより構成されていたクラッド層に新たに屈折率の高い導波層を導入して、さらに両脇を結晶品質の良好なInP結晶で埋め込んだ。この屈折率の高い導波層の存在により光がリッジ構造下部の活性層に閉じ込められるようになりシングルモードの発振を可能にして良好なレーザ特性を示す。
【0042】
(実施例2)
実施例2は、半導体光素子として、10Gbpsイーサネット(登録商標)用光伝送システムで用いられる1.3μm帯分布帰還型半導体レーザを作製したものであり、図3は、本実施例に係る半導体レーザの断面構造を示している。半導体レーザ300の構造を、作製手順に沿って説明する。
【0043】
p−InP基板301上に100nm厚のp−InPバッファ層302を成長した後、InPに格子整合した50nm厚のInGaAsP下側ガイド層303、50nm厚のInGaAlAs下側SCH層304、量子井戸活性層305(量子井戸層:7nm厚InGaAlAs、障壁層:10nm厚InGaAlAs層、10周期、フォトルミネッセンス発光波長:1.3μm)、50nm厚のInGaAlAs上側SCH層306をMOVPE法、ガスソースMBE法、またはCBE法により順次形成する。
【0044】
さらに、80nm厚のInGaAsP上側ガイド層307、20nm厚のn−InP層308AをMOVPE法、ガスソースMBE法、またはCBE法により引き続き形成する。
【0045】
次に通常の干渉露光法によるフォトリソグラフィーとエッチングにより上側ガイド層307およびn−InP層308Aの一部を周期的にエッチング除去し、回折格子316を基板全面に形成する。回折格子316の周期は201nmである。分布帰還型半導体レーザを作製する場合には、回折格子316を形成する上側ガイド層307にはAlを含まないようにする。引き続き、P−InP層308AおよびBを合わせて300nm形成し、ついでn−InGaAsP導波層309、n−InPクラッド層310AをMOVPE法、ガスソースMBE法、またはCBE法により形成する。
【0046】
次に、酸化膜をマスクとして、エッチングによりリッジ311を形成する。このときのエッチングはウエット、ドライ等、方法を問わない。エッチングはn−InP層308Bで止める。次に、エッチングマスクとして用いた酸化膜を選択成長のマスクとしてFeまたはRuを含むInP埋め込み層312をMOVPE法により選択成長する。
【0047】
その後成長炉からウエハを取り出し、選択成長マスクとして用いた酸化膜をエッチングにより除去する。そして、n−InPクラッド層310B、n−InGaAsコンタクト層313をMOVPE法、ガスソースMBE法、またはCBE法により形成する。
【0048】
n側オーミック電極314およびp側オーミック電極315を形成した後、へき開により、一対の共振器端面を形成する。その後、前端面にはEB蒸着法によりSiO2/TiO2低反射膜を形成し、後端面にスパッタ法によりα−Si/SiO2高反射膜を形成し、チッピングして半導体レーザチップを得る。
【0049】
リッジの幅Wを2.0μm、導波層の厚さdを0.2μmとして試作した素子は、閾値電流約6mAで室温連続発振し、平均発振波長は1310nmであった。95℃での動作でも10Gb/sの変調でのアイパターンでも明瞭なアイ開口がみられていた。また、32素子について環境温度95℃の条件下で10mW定光出力連続動作させたところ、すべての素子で1万時間以上安定に動作した。
【0050】
同様の結果は、リッジの埋め込み後にクラッド層の再成長を行わない図4に示すような半導体レーザでも得られている。半導体レーザ400では、n−InGaAsP導波層309の上に、n−InPクラッド層401およびn−InGaAsコンタクト層402を形成し、ついでエッチングを行いリッジ403を形成する。リッジ403を埋め込み層404で埋め込んだ後、n側オーミック電極405およびp側オーミック電極406を形成する。
【0051】
本実施例においては、従来リッジ構造においてInPだけにより構成されていたクラッド層に新たに屈折率の高い導波層を導入して、さらに両脇を結晶品質の良好なInP結晶で埋め込んだ。この屈折率の高い導波層の存在により光がリッジ構造下部の活性層に閉じ込められるようになりシングルモードの発振を可能にして良好なレーザ特性を示す。
【0052】
以上実施例2について具体的に説明したが、実施例1と同様に多くの変形を施すことができることに留意されたい。
【0053】
(実施例3)
実施例3は、半導体光素子として、1.55μm波長帯変調器を作製したものであり、図5は、本実施例に係る変調器の構造を示している。変調器500は、n−InP基板501上にn−InPバッファ層502(層厚:100nm)、InGaAlAs(フォトルミネッセンス発光波長:1.1μm、層厚:100nm)ガイド層503、量子井戸活性層504、およびInGaAlAs(フォトルミネッセンス発光波長:1.1μm、層厚:100nm)ガイド層505を備える。量子井戸活性層504は、InGaAs圧縮歪井戸層(層厚:8nm)とInGaAlAs障壁層(層厚:5nm)からなる多重量子井戸(MQW)構造である。この量子井戸活性層のフォトルミネッセンス発光波長は1.55μmである。
【0054】
ガイド層505の上に、20nm厚のn−InP層506A、280nm厚の506B、導波層507、n−InPクラッド層508、n−InGaAsコンタクト層509を積層した後、エッチングをしてリッジ510形成する。リッジ510を埋め込み層511で埋め込んだ後、p型オーミック電極513を形成し、基板501の上に、n側オーミック電極512を形成する。
【0055】
導波層507に用いるInGaAsPのフォトルミネッセンス発光波長は1.3μmである。
【0056】
リッジの幅Wを2.0μm、導波層の厚さdを0.2μmとして試作した変調器の特性を測定したところ、95℃で10Gb/sの高温高速動作が確認された。また、良好な信頼性も確認された。
【0057】
上述の実施例1〜3においては、半導体光素子が動作する波長帯が1.3μmである半導体レーザと1.55μmである半導体変調器について説明したが、半導体光素子が動作する波長帯が1.3ミクロン帯または1.55ミクロン帯であれば本発明の構成を適用することができる。また、InP基板上に作製される半導体光素子である本願発明は、他の波長帯についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1に係る半導体レーザの断面構造を示した図である。
【図2】リッジの幅Wおよび導波層の厚さdを変数とした半導体レーザの特性の分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例2に係る半導体レーザの断面構造を示した図である。
【図4】本発明の実施例2に係る半導体レーザの変形形態を示した図である。
【図5】本発明の実施例3に係る変調器の断面構造を示した図である。
【符号の説明】
【0059】
100 半導体レーザ
101 n−InP基板
102 n−InPバッファ層
103 InGaAsP下側ガイド層
104 InGaAlAs下側SCH層
105 量子井戸活性層(活性層に対応)
106 InGaAlAs上側SCH層
107 InGaAsP上側ガイド層
108A p−InP層(境界層に対応)
108B p−InP層
109 p−InGaAsP導波層
110A、B p−InPクラッド層
111 リッジ
112 n−InP埋め込み層
113 p−InGaAsコンタクト層
114 p側オーミック電極
115 n側オーミック電極
300 半導体レーザ
301 p−InP基板
302 p−InPバッファ層
303 InGaAsP下側ガイド層
304 InGaAlAs下側SCH層
305 量子井戸活性層(活性層に対応)
306 InGaAlAs上側SCH層
307 InGaAsP上側ガイド層
308A n−InP層(境界層に対応)
308B n−InP層
309 n−InGaAsP導波層
310A、B n−InPクラッド層
311 リッジ
312 InP埋め込み層
313 n−InGaAsコンタクト層
314 n側オーミック電極
315 p側オーミック電極
316 回折格子
400 半導体レーザ
401 n−InPクラッド層
402 n−InGaAsコンタクト層
403 リッジ
404 InP埋め込み層
405 n側オーミック電極
406 p側オーミック電極
500 変調器
501 n−InP基板
502 n−InPバッファ層
503 InGaAlAsガイド層
504 量子井戸活性層(活性層に対応)
505 InGaAlAsガイド層
506A n−InP層
506B n−InP層
507 導波層
508 n−InPクラッド層
509 n−InGaAsコンタクト層
510 リッジ
511 埋め込み層
512 n側オーミック電極
513 p側オーミック電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al系材料で構成された活性層を有するInP基板上の半導体光素子において、
前記InP基板と、
前記InP基板の上の前記活性層と、
前記活性層の前記InP基板と対向する面の上の境界層と、
前記境界層の前記活性層と対向する面の上の、Alを含有しない導波層を有するリッジと、
前記境界層の前記活性層と対向する面の上の、前記リッジを埋め込む埋め込み層と
を備えることを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
前記埋め込み層は、InPであることを特徴とする請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記埋め込み層は、FeまたはRuがドーピングされていて、半絶縁性であることを特徴とする請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記導波層の屈折率は、前記埋め込み層の屈折率より高く、かつ、前記活性層の屈折率より低いことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記導波層は、InGaAsPであることを特徴とする請求項4に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記導波層は、InGaAsPのフォトルミネッセンス発光波長が1.0μm以上、かつ、活性層のフォトルミネッセンス発光波長未満であることを特徴とする請求項5に記載の半導体光素子。
【請求項7】
前記導波層は、前記導波層の層厚が0.02μm以上0.35μm以下、かつ、前記リッジの幅が0.5μm以上2.6μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の半導体光素子。
【請求項8】
前記リッジは、前記導波層の前記境界層と対向する面の上に、クラッド層をさらに有し、
前記境界層の屈折率は前記導波層より低く、前記クラッド層の屈折率は前記導波層より低いことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の半導体光素子。
【請求項9】
動作する波長帯が1.3ミクロン帯または1.55ミクロン帯であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の半導体光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−282975(P2008−282975A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125605(P2007−125605)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】