説明

半導体実装方法およびフレキシブル配線板

【課題】 フレキシブル配線板に液晶ポリマからなるフィルムを用いている場合に、適切な温度範囲内で超音波接合し、加振エネルギーの利用効率を向上し、接合信頼性を向上させる。
【解決手段】 液晶ポリマのフィルム(12)を用いたフレキシブル配線板(10)の配線に半導体ベアチップ(16)のバンプを超音波フリップチップ接合技術により実装する半導体実装方法であって、半導体チップ(16)に液晶ポリマの配向方向と略同方向に超音波振動を加えて接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バンプを有する半導体ベアチップに超音波振動を加えてフレキシブル配線板上の配線に超音波接合するフリップチップ実装技術を用いた半導体実装方法と、この方法の実施に直接使用するフレキシブル配線板とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリイミドフィルムを用いたフレキシブル配線板(基板)は、TAB(Tape Automated Bonding)やCOF(Chip On Film)などの用途で使われてきたが、吸湿が大きく、これによる寸法変化や誘電率の変動が大きいという欠点があった。このため、吸湿が少なく誘電率も安定した液晶ポリマ樹脂、特に全芳香族ポリエステル樹脂からなるフレキシブル配線板(基板)が開発されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−34862号
【0004】
このフレキシブル配線板を使ってフリップチップ実装する方法が検討されている。この方法(参考方法)は、熱と圧力を併用して接合する工法である。すなわち、一般的にはSnめっきされた配線上に金バンプを荷重を加えながら300℃以上に加熱し、AuSn共晶合金を形成して接合する方法や、異方性導電フィルム(ACF)を用いて200℃以上の熱を加えて接着剤を硬化させて強度維持する方法が考えられる。
【0005】
図5はこの参考方法を説明するための断面図であり、(A)は接合前を、(B)は接合後を示している。これらの図で符号2はフレキシブル配線板の基板となる液晶ポリマのフィルム、4はこのフィルム2の表面に形成されたリード配線である。符号6は半導体ベアチップ、8はその下面(フィルム2に対向する面)に突出する金パンプである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この液晶ポリマ樹脂は熱可塑性であるため、部品実装を行わない配線基板単体としては使用できても、特に液晶ポリマを薄いフィルムにして半導体ベアチップをフリップチップ実装するのは、非常に困難であった。すなわち、ポリイミド樹脂などの熱硬化材料と異なり液晶ポリマ樹脂は熱可塑性材料であるため、温度上昇と共に軟化する。このため弾性率の低下が著しく、100℃以上の温度で接合に必要な荷重(圧力)を加えると材料の塑性変形が生じ、実装部分の陥没による変形や導電粒子の圧接力が低下する。このため導通を確保することができなかった。
【0007】
図5の(B)はこの状態を示す。すなわち加熱によるフィルム2の軟化により、半導体ベアチップ6を上から(フィルム2との接合面から見て裏面から)加圧するとフィルム2が塑性変形して陥没する。このため前記のようにリード配線4とバンプ8との接触圧が減少し、接続信頼性が低下するという問題が生じるものである。
【0008】
そこで液晶ポリマを加熱することなく超音波接合することが考えられる。しかし液晶ポリマは配向性があって、そのフィルムは伸延方向により引張弾性率が異なるため、接合場所によって接合強度にバラツキが生じる。すなわち弾性率の低い方向に超音波振動を加えると液晶ポリマ自身が大きく振動し、バンプと配線が一体に振動してしまい両者の接合界面における相対振幅が小さくなるため、超音波加振エネルギーが接合に十分に使われず効率が悪くなるためである。
【0009】
そこで超音波加振力を強くすることが考えられるが、加振力が強くなると液晶ポリマ自身の振動がさらに大きくなり、この液晶ポリマのフィルム上に形成した配線とフィルムとの接合状態が不均一になったり、配線によじれが生じたりして接合信頼性が一層低下するという問題が生じる。
【0010】
この発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、フレキシブル配線板に液晶ポリマからなるフィルムを用いている場合に、フィルムを過度に加熱することなくフィルムが不適切に軟化しない温度範囲内で超音波接合でき、加振エネルギーの利用効率が向上し、接合信頼性を向上させることができる半導体接合方法を提供することを第1の目的とする。またこの方法の実施に直接使用するフレキシブル配線板を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によればこの第1の目的は、液晶ポリマのフィルムを用いたフレキシブル配線板の配線に半導体ベアチップのバンプを超音波フリップチップ接合技術により実装する半導体実装方法であって、前記半導体チップに前記液晶ポリマの配向方向と略同方向に超音波振動を加えて接合することを特徴とする半導体実装方法、によって達成できる。
【0012】
また第2の目的は、請求項1〜5のいずれかの半導体実装方法に用いるフレキシブル配線板であって、半導体ベアチップのバンプが接合される位置につながるフレキシブル配線板の主なリード配線の方向が、液晶ポリマの配向方向にほぼ一致しているフレキシブル配線板、によって達成可能である。
【発明の効果】
【0013】
液晶ポリマは延伸による配向性が著しく、伸ばした後の強度特に伸ばした方向の強度が大きく増加する性質を持つ。すなわちフィルムはその延伸方向(配向方向)の強度が大きい。この発明では、半導体ベアチップに加える超音波加振方向をフィルムの配向方向と略同方向にするから、フィルム自身が振動しにくくなり、フィルムが不均質に伸縮することがなくなる。このためバンプとリード配線との接合位置変化による接合状態の不均一性が小さくなり、接合信頼性が向上する。
【0014】
またフィルムの振動を抑制し接合界面のバンプと配線との相対振幅を大きくすることができ、加振効率が向上する。このためフレキシブル配線板を過度に加熱することなく確実に超音波接合することができる。フィルムの温度が低いので、フィルムが軟化せず、バンプがフィルムに陥没して接合信頼性が低下するおそれもない。
【0015】
請求項6に記載した発明によれば、請求項1〜5のいずれかの方法の実施に直接使用するのに適するフレキシブル配線板が得られる。特に配線とフィルムとの接合部に不均一な力が加わらないのでこの接合部が安定し、配線によじれが発生しなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
フレキシブル配線板の配線の最終めっき処理を金めっきとし、半導体ベアチップのバンプも金バンプとすれば、接合部に十分な圧力を加えることができ、半導体ベアチップに加える超音波振動を確実に金バンプに伝え接合界面における相対振幅を大きくすることができ、接合信頼性が向上する(請求項2)。
【0017】
液晶ポリマは液晶構造を発現する高分子の総称であり、ある温度範囲で液晶性を示すもの(サーモトロピック)と、溶液状態で液晶性を示すもの(リオトロピック)とがある。前者の代表的なものとしてザイダーやベクトラ(共に商品名)などの全芳香族ポリエステルがある。後者の代表的なものとしてケブラー(商品名)などの全芳香族ポリアミドがある。
【0018】
この発明ではこの液晶ポリマの配向性すなわち分子配列を伸延方向に揃えることによりその方向の強度が増加する性質を利用するが、このフィルムは全芳香族ポリエステルが好適であり、この場合には厚さを25μm以下にするのが望ましい(請求項3)。25μmをこえると、フレキシブル配線板としての柔軟性が不十分となるから望ましくない。また液晶ポリマは全芳香族ポリアミドであってもよい。
【0019】
液晶ポリマはその配向方向の引張粘弾性率は3GPa以上となる温度領域にして接合するのが望ましい(請求項4)。この温度領域であれば液晶ポリマの硬さを十分に大きく保つことができ、バンプをフィルムに押圧した時にバンプがフィルムに過大に陥没することがないからである。
【0020】
フレキシブル配線板の主なリード配線は、液晶ポリマの配向方向にほぼ一致させれば、半導体ベアチップに加えた(配向方向の)超音波振動がリード配線の長さ方向とほぼ平行なので、リード配線によじれが生じるおそれがない(請求項5)。このため接合信頼性が一層向上する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の一実施例である接合方法を示す斜視図である。この図1において符号10はプリント配線板であり、液晶ポリマからなるフィルム12の上面に配線14を形成したものである。配線14は銅箔をフォトエッチングなどで形成し、最終めっき処理を金めっきとしたものである。液晶ポリマとしてはゴアテックス社製の全芳香族ポリエステル樹脂(商品名:BIAC RF)を用いる。フィルム12の厚さは25μmである。
【0022】
このフィルム12の配線14に半導体ベアチップ16の金バンプを位置合わせして上から押圧しつつ超音波振動を半導体ベアチップ16の上面に加える。この時超音波振動の振動方向は液晶ポリマの配向方向に一致させる。
【0023】
この場合の超音波による溶着強度試験結果が図2,3に示されている。図2はダイシェア強度のテスト結果であり、液晶ポリマのフィルム12に形成した配線14に所定数の金バンプを有する半導体ベアチップ16(図1)を押圧して超音波接合した時に、フィルム12とベアチップ16の間の接線方向の引張り強度(ダイシェア強度)を測定したものである。ここにベアチップ16のフィルム12に対する押圧力は、バンプ変形量(高さの変化Δt(μm))を単位として横軸にとり、接合強度の単位を(N/chip)として縦軸にとって示す。
【0024】
この図2によれば、フィルム温度(基板温度)を60℃と40℃として測定した接合強度は40℃の方が大きい。すなわち基板温度は低い方が接合強度は大きい。またバンプ変形量が大きいと(従って金バンプの高さ変化Δtが大きいと)、接合強度は逆に低下することが解る。
【0025】
図3は液晶ポリマの粘弾性(引張粘弾性)の温度依存性をポリイミドと比較して示す図である。この図3によれば基板温度60℃(40℃)の時には液晶ポリマの引張粘弾性は3.0(3.8)GPaになることが解る。ベアチップ16の接合強度としては、20N以上が望ましいから、図2から基板温度を60℃(望ましくは40℃)以下としてバンプ変形量Δtを8μm以下(同じく約13μm以下)とすればよい。この時の液晶ポリマの引張粘弾性は3.0GPa(3.8GPa)以上である。従って液晶ポリマの引張粘弾性率が3GPa以上となる温度領域(図3から60℃以下)に保って、その時のバンプ変形量Δtを8μmの加圧力を加えて超音波接合すれば、所望の接合強度(20N以上)が得られる。
【実施例2】
【0026】
図4は他の実施例であるフレキシブル配線板を示す斜視図である。このフレキシブル配線板10Aには、液晶ポリマからなるフィルム12Aの配向方向に多数の(望ましくは全てもしくは主要な)リード配線14Aが形成されている。
【0027】
このフレキシブル配線板10Aは、例えば液晶表示板や有機ELディスプレイのドライバ回路用に使用されるチップ(図示せず)を実装するものであり、このチップの入力側と出力側のリード配線14Aがチップ実装領域16Aを挟んで対向している。
【0028】
この場合にチップを実装領域16Aに位置合わせしバンプを各リード配線14Aに重ね、上から(チップの裏面)から液晶ポリマの配向方向すなわちリード配線14Aの長さ方向に加振方向をほぼ一致させて超音波加振する。
【0029】
この実施例によれば主要なリード配線14Aが液晶ポリマの配向方向にほぼ一致しているから、主要なリード配線14Aと液晶ポリマとの接合部に不均一な力が加わらない。仮にリード配線が液晶ポリマの配向方向に交わる方向にのびていると、バンプからリード配線に加わる振動(配向方向の超音波振動)はリード配線を介して配向方向以外の方向にも伝わり、加振力の一部は液晶ポリマ自身を振動させるために消費される。このため効率が悪くなるばかりでなく、リード配線に配向方向以外の方向の力が加わることにもなる。このためリード配線に不均一な力が加わり、リード配線とフィルムとの接合部が不安定になったり、リード配線によじれが発生することにもなる。
【0030】
この実施例によればリード配線に加わる力が配向方向に一致しているから、このような不都合が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例の接合方法を示す斜視図
【図2】接合強度の試験結果を示す図
【図3】引張り粘弾性の温度依存性を示す図
【図4】他の実施例であるフレキシブル配線板の斜視図
【図5】参考方法の説明図
【符号の説明】
【0032】
10,10A フレキシブル配線板
12,12A 液晶ポリマのフィルム
14,14A 配線(リード配線)
16 半導体ベアチップ
16A 半導体ベアチップの実装領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマのフィルムを用いたフレキシブル配線板の配線に半導体ベアチップのバンプを超音波フリップチップ接合技術により実装する半導体実装方法であって、
前記半導体チップに前記液晶ポリマの配向方向と略同方向に超音波振動を加えて接合することを特徴とする半導体実装方法。
【請求項2】
フレキシブル配線板の配線の最終めっき処理が金めっきであり、半導体ベアチップのバンプが金バンプである請求項1の半導体実装方法。
【請求項3】
液晶ポリマは、全芳香族ポリエステル樹脂であり、液晶ポリマのフィルムは厚さが25μm以下である請求項1または2の半導体実装方法。
【請求項4】
フレキシブル配線板の温度を、液晶ポリマの配向方向の引っ張り粘弾性率が3GPa以上となる温度領域に保持しつつ接合する請求項1〜3のいずれかの半導体実装方法。
【請求項5】
半導体ベアチップのバンプが接合されるフレキシブル配線板の主なリード配線が液晶ポリマの配向方向にほぼ一致している請求項1〜4のいずれかの半導体実装方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの半導体実装方法に用いるフレキシブル配線板であって、
半導体ベアチップのバンプが接合される位置につながるフレキシブル配線板の主なリード配線の方向が、液晶ポリマの配向方向にほぼ一致しているフレキシブル配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−120683(P2006−120683A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303959(P2004−303959)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】