説明

半導体発光素子および光散乱基板

【課題】より光抽出効率を向上させることの可能な半導体発光素子を提供する。
【解決手段】
発光波長に対して透明な光散乱基板12上に発光部30を備え、発光部30で発生した光を光散乱基板12側から射出する。光散乱基板12は基板10(サファイア基板)の上に突状の複数の光散乱部11を有している。光散乱部11は、例えばSiO2 (酸化シリコン)からなる媒質部分13の内部に例えばSi(シリコン)からなる多数の散乱粒子14を分散したものである。発光光は、光散乱部11の斜面で屈折したり、光散乱部11の内部の散乱粒子14により散乱されて臨界角未満の角度に変化する。これにより光抽出効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板側から光を射出する半導体発光素子、およびこれに用いる光散乱基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)等の半導体発光素子の外部量子効率は、内部量子効率と光抽出効率との2つの要素からなり、これらの効率を改善することにより、長寿命、低消費電力、かつ、高出力の半導体発光素子を実現することが可能となる。ここで、前者の内部量子効率は、例えば、結晶欠陥や転位の少ない良質な結晶が得られるように成長条件を正確に管理したり、キャリア・オーバーフローの発生を抑制することの可能な層構造とすることにより改善される。一方、後者の光抽出効率は、活性層から発光した光が基板や活性層で吸収される前に射出窓に対して臨界角未満で入射する割合が多くなるような幾何形状や層構造とすることにより改善される。
【0003】
例えば、基板上に、基板とは異なる種類の材料からなる半導体層を積層する際に、外部量子効率を改善する方策として、例えば特許文献1および特許文献2に記載の技術がある。これらの技術では、基板表面にあらかじめ凹凸を形成しておき、その凹凸のある基板表面に半導体層を横方向成長させるようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−6931号公報
【特許文献2】特開2004−6937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、基板表面に設けられた凹凸の構造や結晶成長条件が適切でなければ、半導体層中に隙間が形成されたり、高結晶欠陥が広範囲に広がるなど、外部量子効率の向上の望めない素子が形成されることとなる。
【0006】
そこで、基板表面に所定の凹凸を設けると共に、この基板上に結晶成長時に所定の面が形成されるような成長条件で半導体層を隙間なく形成する技術が本出願人と同一出願人により提案されている。これにより内部量子効率を大幅に改善することができ、さらに凸部の側面の傾斜角や面積を調整することにより光抽出効率も改善することができる。
【0007】
ただ、先に提案した技術では、内部量子効率の改善に主眼が置かれていたため、光抽出効率については改善の余地があった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、より光抽出効率を向上させることの可能な半導体発光素子、およびこれに用いる光散乱基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光散乱基板は、発光波長に対して透明な基板の表面に突状の1または複数の光散乱部を有するものであり、その光散乱部の内部には複数の光散乱粒子が分散されている。本発明の半導体発光素子は、この光散乱基板上に、活性層を含み活性層からの発光光を基板側に導くための発光部を備えている。
【0010】
この半導体発光素子では、活性層からの発光光のうち、基板に対して臨界角以上の角度で進入しようとする光の多くは、光散乱部の斜面で屈折したり、光散乱部の内部に分散した散乱粒子により散乱されることにより臨界角未満の角度に変化する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半導体発光素子によれば、基板上に、内部に複数の散乱粒子が分散された光散乱部を設けるようにしたので、基板側に向かう光、特に臨界角以上の角度で向かう光が散乱される。このため発光光が基板に対して臨界角未満で入射する割合が多くなり、これにより光抽出効率が向上する。よって、高出力の発光ダイオードを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施の形態に係る発光ダイオード(LED)1の断面構造を表したものである。この発光ダイオード1は、光散乱基板12上に発光部30を設けたものであり、図2はその光散乱基板12のみを抜き出して斜視的に表している。なお、図1および図2は模式的に表したものであり、実際の寸法、形状とは異なっている。
【0014】
光散乱基板12は、基板10、例えばサファイア基板の一面側に断面台形状の複数の光散乱部11を周期的に形成したものである。ここでは各光散乱部11は基板10の〈1−100〉方向に帯状に延在している。
【0015】
基板10は、光散乱部11の形成されている表面(主面)がc面となっており、そのc面は平坦面となっている。なお、光散乱部11はc面以外の他の面に形成されていてもよい。また、この基板10は、発光部30から発生する光の発光波長に対して透明であればよく、サファイア以外の材料、例えばGaN(窒化ガリウム)により構成されていてもよい。
【0016】
光散乱部11は、例えば上底の幅が2μm、高さが1μmの台形状の断面を有しており、隣り合う光散乱部11とは、例えば2μmの間隙を有する。光散乱部11は媒質部分13中に複数の散乱粒子14を分散したものであり、基板10側に向かう発光光はこの光散乱部11を透過する際にその斜面で屈折したり、内部の多数の散乱粒子14によって散乱されるようになっている。
【0017】
なお、光散乱部11は台形状の他、例えば、図3に示したような半球形状の断面を有するものであってもよく、また、図4に示したような三角形状の断面を有するものであってもよい。このように、傾斜面の面積を多く設けることにより、傾斜面で屈折した発光光が射出窓に対して臨界角未満で入射する割合が多くなり、光抽出効率を向上させることができる。
【0018】
媒質部分13は、散乱粒子14よりも小さな屈折率を有すると共に、発光光を透過させる材料、例えば、SiO2 、TiO2 、Sb2 3 、CaOまたはIn2 3 よりなる。散乱粒子14は、媒質部分13の構成材料よりも大きな屈折率を有すると共に、発光光の発光波長に相当するエネルギーより大きなバンドギャップとなるサイズの粒子であり、例えば、発光光の発光波長が300nm以上1000nm以下のとき、直径0.5nm以上5nm以下のSi、Ti、Sb、CaまたはInにより構成される。
【0019】
以上の光散乱基板12上に設けられた発光部30は、例えばIII−V族窒化物半導体の積層構造により形成されたものである。ここでいうIII−V族窒化物半導体とは、ガリウム(Ga)と窒素(N)とを含んだ窒化ガリウム系化合物のことであり、例えばGaN,AlGaN(窒化アルミニウム・ガリウム),あるいはAlGaInN(窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム)などが挙げられる。これらは、必要に応じてSi(シリコン),Ge(ゲルマニウム),O(酸素),Se(セレン)などのIV族およびVI族元素からなるn型不純物、または、Mg(マグネシウム),Zn(亜鉛),C(炭素)などのII族およびIV族元素からなるp型不純物を含有している。
【0020】
具体的に、発光部30は、n型GaN層15,n型GaInN層16,n型GaN層17,n型GaInN層18,活性層19,p型GaInN層20,p型AlInN層21,p型GaN層22およびp型GaInN層23をこの順に積層して構成されたものである。ここで、活性層19のうち、後述のp側電極25およびn側電極26により電流注入されることにより発光する領域を発光領域19Aと称する。なお、以下、上記発光部30を積層した方向を縦方向、発光光の射出方向を軸方向、軸方向と縦方向とに垂直な方向を横方向と称する。
【0021】
なお、n型GaN層15は、光散乱基板12の表面の光散乱部11が形成されていない領域、すなわち光散乱部11間の領域に、主面に対して傾斜したファセット面((1−101)面)を斜面に有する二等辺三角柱状の結晶(種結晶)を形成したのち、横方向成長が支配的となる成長条件により形成されたものである。これにより発光部30と光散乱基板12との間に隙間ができたり、発光部30中に高結晶欠陥が広範囲に広がることがなくなるので、欠陥密度が極めて小さくなり、その結果、内部量子効率を大幅に向上させることができる。
【0022】
発光部30には、p型GaInN層23が形成されたのち、例えばRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)により、p型GaInN層23,p型GaN層22,p型AlInN層21,p型GaInN層20,活性層19,n型GaInN層18およびn型GaN層17まで選択的にエッチングすることによりリッジ部24が形成されている。
【0023】
また、この発光部30には、リッジ部24の上面、すなわち、p型GaInN層23の表面にp側電極25が形成されており、一方、n型GaInN層16のうち露出している表面にn側電極26が形成されている。p側電極25は、例えば、Ti(チタン)層,Pt(白金)層およびAu(金)層をp型GaInN層23の表面にこの順に積層した構造を有しており、p型GaInN層23と電気的に接続されている。また、n側電極26は、例えば、AuとGe(ゲルマニウム)との合金層,Ni(ニッケル)層およびAu層とをこの順に積層した構造を有しており、n型GaInN層16と電気的に接続されている。
【0024】
このような構成を有する発光ダイオード1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0025】
まず、基板10の表面に、Siが過剰に含まれるSiOx(0<x<2)層11Aを、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition )法、または、同時スパッタ法を用いて形成する。
【0026】
プラズマCVD法では、例えば、基板10の温度を400℃、SiH4 の流量を100sccm、N2 Oの流量を2000sccm、圧力を3.3×102 Pa、RFパワーを150〜300W、RFパワーを印加するための平行平板のギャップを14mmとする条件下において、SiOx層11Aを形成する。
【0027】
一方、同時スパッタ法では、例えば、Ar(アルゴン)の流量を20sccm、圧力を1×10-4Pa、RFパワーを500Wとする条件下において、SiO2 ターゲット上に複数のSiチップを配置し、SiO2 ターゲットおよびSiチップをArで同時にスパッタすることによりSiOx層11Aを形成する。
【0028】
なお、プラズマCVD法および同時スパッタ法のいずれにおいても、発光ダイオード1の用途に応じてSiOx層11Aの膜厚や組成が変わるので、各用途に応じて上記成膜条件を変更すればよい。
【0029】
SiOx層11Aを形成したのち、図5(A)に示したようにSiOx層11Aを選択的にエッチングして帯状の領域を周期的に形成し、続いてAr(アルゴン)やN2 (窒素)などの不活性雰囲気において、例えば約700℃以上1400℃以下の温度でアニール処理を行う。すると、図5(B)に示したように、SiOxがSiO2 と、Siとに分離し、SiO2 媒質中にSi微粒子が分散した状態になる。このようにして媒質部分13中に多数の散乱粒子14が分散し、複数の光散乱部11を有する光散乱基板12が形成される。
【0030】
次に、この光散乱基板12上に発光部30を形成する。すなわち、まず、光散乱光散乱基板12の光散乱部11間の領域に、主面に対して傾斜したファセット面((1−101)面)を斜面に有する二等辺三角柱状の結晶(種結晶)(図示せず)を形成したのち、横方向成長によりn型GaN層15を形成する。続いて、このn型GaN層15上に、n型GaInN層16,n型GaN層17,n型GaInN層18,活性層19,p型GaInN層20,p型AlInN層21,p型GaN層22およびp型GaInN層23をこの順に積層する。なお、各層の成長方法としては、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法を用い、ドナー不純物の原料としては、例えばセレン化水素(H2 Se)を用い、アクセプタ不純物の原料としては、例えばジメチル亜鉛(DMZn)を用いる。
【0031】
次に、RIE法を用いて、上記積層構造をp型GaInN層23から選択的にエッチングすることによりリッジ部24を形成したのち、リッジ部24の上面(p型GaInN層23の表面)にp側電極25を形成すると共に、n型GaInN層16の露出面にn側電極26を形成する。このようにして本実施の形態の発光ダイオード1が製造される。
【0032】
次に、本実施の形態の発光ダイオード1の作用・効果について説明する。
【0033】
本実施の形態の発光ダイオード1では、p側電極25とn側電極26との間に所定の電圧が印加されると、n側電極26から電子が、p側電極25から正孔がそれぞれ活性層19へ注入される。そして、この活性層19に注入された電子と正孔が再結合することにより発光領域19Aから光子が発生し、その結果、発光光が基板10の裏面から外部に射出される。
【0034】
このとき、発光領域19Aからの発光光のうち、基板10に対して臨界角以上の角度で進入しようとする光の多くは、複数の光散乱部11の斜面で屈折したり、光散乱部11の内部に分散した散乱粒子14により散乱されることにより臨界角未満の角度に変化する。
【0035】
このように本実施の形態の発光ダイオード1では、光散乱部11の内部に分散した散乱粒子14によって、基板10側に向かう光、特に臨界角以上の角度で向かう光が散乱される。このため発光光が基板10に対して臨界角未満で入射する割合が多くなり、これにより光抽出効率が向上する。よって、高出力の発光ダイオード1を実現することが可能となる。
【0036】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、基板10の表面は平坦面であったが、基板10の表面のうち互いに隣り合う光散乱部11間の領域に溝が形成されていてもよい。また、発光部30はIII−V族窒化物半導体に限らず、他の材料系により構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発光ダイオードの断面構成図である。
【図2】サファイア基板および光散乱部の斜視図である。
【図3】光散乱部の一変形例を表す断面構成図である。
【図4】光散乱部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図5】発光ダイオードの製造工程を説明するための断面構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1…発光ダイオード、10…基板(サファイア基板)、11…光散乱部、11A…SiOx層、12…光散乱基板、13…媒質部分、14…散乱粒子、15…n型GaN層、16…n型GaInN層、17…n型GaN層、18…n型GaInN層、19…活性層、19A…発光領域、20…p型GaInN層、21…p型AlInN層、22…p型GaN層、23…p型GaInN層、24…リッジ部、25…p側電極、26…n側電極26、30…発光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長に対して透明な基板、および前記基板の表面に設けられると共に内部に複数の光散乱粒子が分散された突状の1または複数の光散乱部を有する光散乱基板と、
前記光散乱基板上に設けられると共に活性層を含み、前記活性層からの発光光を前記基板側に導く発光部と
を備えたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記散乱粒子は発光波長に相当するエネルギーより大きなバンドギャップとなるサイズを有する
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記光散乱部は、SiO2 、TiO2 、Sb2 3 、CaOまたはIn2 3 よりなる媒質部分内に、散乱粒子としてSi、Ti、Sb、CaまたはInからなる粒子を含む
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記光散乱部は、前記基板の表面に沿って帯状に延在している
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記光散乱部は、台形状,半球状または三角形状の断面を有する
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項6】
活性層を含む発光部が表面に形成されると共に、前記活性層からの発光光を透過させる光散乱基板であって、
発光波長に対して透明な基板と、
前記基板の表面に設けられると共に内部に複数の光散乱粒子が分散された突状の1または複数の光散乱部と
を備えたことを特徴とする光散乱基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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