半導体発光素子および波長変換基板
【課題】大型化することなく、複数の波長の光を発光させることの可能な半導体発光素子を提供する。
【解決手段】発光波長に対して透明な波長変換基板12上に発光部30を備え、発光部30で発生した光を波長変換基板12側から射出する。波長変換基板12は基板10(サファイア基板)の上に突状の複数の波長変換部11を有している。波長変換部11は、例えばSiO2 (酸化シリコン)からなる媒質部分13の内部に例えば1または複数の希土類元素を含んで構成された変換粒子14を分散したものである。発光領域19Aからの発光光のうち波長変換部11に入射した光は、波長変換部11の内部の変換粒子14によって波長変換されたのち、基板10側から射出される。これにより複数の波長の光が半導体発光素子から射出される。
【解決手段】発光波長に対して透明な波長変換基板12上に発光部30を備え、発光部30で発生した光を波長変換基板12側から射出する。波長変換基板12は基板10(サファイア基板)の上に突状の複数の波長変換部11を有している。波長変換部11は、例えばSiO2 (酸化シリコン)からなる媒質部分13の内部に例えば1または複数の希土類元素を含んで構成された変換粒子14を分散したものである。発光領域19Aからの発光光のうち波長変換部11に入射した光は、波長変換部11の内部の変換粒子14によって波長変換されたのち、基板10側から射出される。これにより複数の波長の光が半導体発光素子から射出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板側から光を射出する半導体発光素子、およびこれに用いる波長変換基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)等の半導体発光素子は、その発光原理上、半導体のバンドギャップのエネルギーに相当する波長の光、すなわち単一波長の光(単色光)を発光する。そのため、例えば、色補正や、混色など、異なる波長の光が必要な場合は、バンドギャップの異なる半導体材料からなる半導体発光素子を別個に設けたり、半導体発光素子の射出窓を覆うモールドを設けてそのモールド内に無機顔料および有機顔料などの着色剤や、希土類元素などの蛍光体を添加する方策が考えられる(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−363635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の方策では、複数の波長の光を発光させるためには、別個の半導体発光素子やモールドを設けることが必要となるので、占有体積が増加し、大型化してしまうという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、大型化することなく、複数の波長の光を発光させることの可能な半導体発光素子、およびこれに用いる波長変換基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の波長変換基板は、発光波長に対して透明な基板の表面に突状の1または複数の波長変換部を有するものであり、その波長変換部の内部には複数の変換粒子が分散されている。本発明の半導体発光素子は、この波長変換基板上に、活性層を含み活性層からの発光光を基板側に導くための発光部を備えている。
【0007】
この半導体発光素子では、活性層からの発光光のうち波長変換部に入射した光は、波長変換部の内部の変換粒子によって波長変換されたのち、基板側から射出される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導体発光素子によれば、基板上に、内部に複数の変換粒子が分散された波長変換部を設けるようにしたので、活性層で発光したときの波長の光と、波長変換部において変換された波長の光との複数の波長の光が基板側から外部に射出される。そのため、わざわざ別個の半導体発光素子やモールドを設ける必要がなくなる。これより、大型化することなく、複数の波長の光を発光させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施の形態に係る発光ダイオード(LED)1の断面構造を表すものである。この発光ダイオード1は、波長変換基板12上に発光部30を設けたものであり、図2はその波長変換基板12のみを抜き出して斜視的に表している。なお、図1および図2は模式的に表したものであり、実際の寸法、形状とは異なっている。
【0011】
波長変換基板12は、基板10、例えばサファイア基板の一面側に断面台形状の複数の波長変換部11を周期的に形成したものである。ここでは各波長変換部11は基板10の〈1−100〉方向に帯状に延在している。
【0012】
基板10は、波長変換部11の形成されている表面(主面)がc面となっており、そのc面は平坦面となっている。なお、波長変換部11はc面以外の他の面に形成されていてもよい。また、この基板10は、発光部30から発生する光や、後述のように波長変換部11により波長変換された光などの、基板10側に向かう複数波長の発光光に対して透明であればよく、サファイア以外の材料、例えばGaN(窒化ガリウム)により構成されていてもよい。
【0013】
波長変換部11は、例えば上底の幅が2μm、高さが1μmの台形状の断面を有しており、隣り合う波長変換部11とは、例えば2μmの間隙を有する。波長変換部11は媒質部分13中に複数の変換粒子14を分散したものであり、発光部30から発生する光はこの波長変換部11を透過する際にその斜面で屈折したり、内部の変換粒子14によって波長変換されるようになっている。
【0014】
なお、波長変換部11は台形状の他、例えば、図3に示したような半球形状の断面を有するものであってもよく、また、図4に示したような三角形状の断面を有するものであってもよい。このように、傾斜面の面積を多く設けることにより、傾斜面で屈折した発光光が射出窓に対して臨界角未満で入射する割合が多くなり、光抽出効率を向上させることができる。
【0015】
媒質部分13は、基板10側に向かう複数波長の発光光を透過させる材料、例えば、SiO2 、TiO2 、Sb2 O3 、CaOまたはIn2 O3 よりなる。変換粒子14は、発光部30から発生する光の発光波長に相当するエネルギーより小さなバンドギャップの物質であり、例えば、1または複数の希土類元素を含んで構成される。ここで、希土類元素とは、原子番号21のSc(スカンジウム)、原子番号39のY(イットリウム)および原子番号57のLa(ランタン)から原子番号71のLu(ルテチウム)の範囲内の元素のことであり、これら希土類元素に由来したイオンは、以下の表に一例として示したように、発光部30から発生する光を波長変換することが可能である。
【0016】
【表1】
【0017】
以上の波長変換基板12上に設けられた発光部30は、例えばIII−V族窒化物半導体の積層構造により形成されたものである。ここでいうIII−V族窒化物半導体とは、ガリウム(Ga)と窒素(N)とを含んだ窒化ガリウム系化合物のことであり、例えばGaN,AlGaN(窒化アルミニウム・ガリウム),あるいはAlGaInN(窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム)などが挙げられる。これらは、必要に応じてSi(シリコン),Ge(ゲルマニウム),O(酸素),Se(セレン)などのIV族およびVI族元素からなるn型不純物、または、Mg(マグネシウム),Zn(亜鉛),C(炭素)などのII族およびIV族元素からなるp型不純物を含有している。
【0018】
具体的に、発光部30は、n型GaN層15,n型GaInN層16,n型GaN層17,n型GaInN層18,活性層19,p型GaInN層20,p型AlInN層21,p型GaN層22およびp型GaInN層23をこの順に積層して構成されたものである。ここで、活性層19のうち、後述のp側電極25およびn側電極26により電流注入されることにより発光する領域を発光領域19Aと称する。なお、以下、上記発光部30を積層した方向を縦方向、発光光の射出方向を軸方向、軸方向と縦方向とに垂直な方向を横方向と称する。
【0019】
なお、n型GaN層15は、波長変換基板12の表面の波長変換部11が形成されていない領域、すなわち波長変換部11間の領域に、主面に対して傾斜したファセット面( (1−101)面)を斜面に有する二等辺三角柱状の結晶(種結晶)を形成したのち、横方向成長が支配的となる成長条件により形成されたものである。これにより発光部30と波長変換基板12との間に隙間ができたり、発光部30中に高結晶欠陥が広範囲に広がることがなくなるので、欠陥密度が極めて小さくなり、その結果、内部量子効率を大幅に向上させることができる。
【0020】
発光部30には、p型GaInN層23が形成されたのち、例えばRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)により、p型GaInN層23,p型GaN層22,p型AlInN層21,p型GaInN層20,活性層19,n型GaInN層18およびn型GaN層17まで選択的にエッチングすることによりリッジ部24が形成されている。
【0021】
また、この発光部30には、リッジ部24の上面、すなわち、p型GaInN層23の表面にp側電極25が形成されており、一方、n型GaInN層16のうち露出している表面にn側電極26が形成されている。p側電極25は、例えば、Ti(チタン)層,Pt(白金)層およびAu(金)層をp型GaInN層23の表面にこの順に積層した構造を有しており、p型GaInN層23と電気的に接続されている。また、n側電極26は、例えば、AuとGe(ゲルマニウム)との合金層,Ni(ニッケル)層およびAu層とをこの順に積層した構造を有しており、n型GaInN層16と電気的に接続されている。
【0022】
このような構成を有する発光ダイオード1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0023】
まず、基板10の表面に、例えば、SiO2 中にTb(テルビウム)を分散した波長変換層11Aを、例えば、イオン注入法、または、同時スパッタ法を用いて形成する。
【0024】
イオン注入法では、SiO2 を成膜したのち、SiO2 表面から10nmの深さまでの範囲内でTbの濃度が最大となるように加速エネルギーを10keVに設定して、TbをSiO2 に注入する。Tbの濃度は、1×1011個/cm2以上1×1015個/cm2以下であることが好ましく、1×1012個/cm2以上1×1014個/cm2以下であることがより好ましい。このようにして、図5(A)に示したように、波長変換層11Aを形成する。
【0025】
一方、同時スパッタ法では、例えば、Ar(アルゴン)の流量を20sccm、圧力を1×10-4Pa、RFパワーを500Wとする条件下において、SiO2 ターゲット上に複数のTb4 O7 タブレットを配置し、SiO2 ターゲットおよびTb4 O7 タブレットをArで同時にスパッタする。このようにして、図5(A)に示したように、波長変換層11Aを形成する。
【0026】
なお、プラズマCVD法および同時スパッタ法のいずれにおいても、発光ダイオード1の用途に応じて波長変換層11Aの膜厚や組成が変わるので、各用途に応じて上記成膜条件を変更すればよい。
【0027】
波長変換層11Aを形成したのち、図5(B)に示したようにマスク層Mを形成し、波長変換層11Aを選択的にエッチングして帯状の領域を周期的に形成する。これにより、図5(C)に示したように、複数の波長変換部11を有する波長変換基板12が形成される。
【0028】
次に、この波長変換基板12上に発光部30を形成する。すなわち、まず、波長変換基板12の波長変換部11間の領域に、主面に対して傾斜したファセット面((1−101)面)を斜面に有する二等辺三角柱状の結晶(種結晶)(図示せず)を形成したのち、横方向成長によりn型GaN層15を形成する。続いて、このn型GaN層15上に、n型GaInN層16,n型GaN層17,n型GaInN層18,活性層19,p型GaInN層20,p型AlInN層21,p型GaN層22およびp型GaInN層23をこの順に積層する。なお、各層の成長方法としては、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法を用い、ドナー不純物の原料としては、例えばセレン化水素(H2 Se)を用い、アクセプタ不純物の原料としては、例えばジメチル亜鉛(DMZn)を用いる。
【0029】
次に、RIE法を用いて、上記積層構造をp型GaInN層23から選択的にエッチングすることによりリッジ部24を形成したのち、リッジ部24の上面(p型GaInN層23の表面)にp側電極25を形成すると共に、n型GaInN層16の露出面にn側電極26を形成する。このようにして本実施の形態の発光ダイオード1が製造される。
【0030】
次に、本実施の形態の発光ダイオード1の作用・効果について説明する。
【0031】
本実施の形態の発光ダイオード1では、p側電極25とn側電極26との間に所定の電圧が印加されると、n側電極26から電子が、p側電極25から正孔がそれぞれ活性層19へ注入される。そして、この活性層19に注入された電子と正孔が再結合することにより発光領域19Aから光子が発生し、その結果、発光光が基板10の裏面側に向かって発光する。
【0032】
このとき、発光領域19Aからの発光光のうち波長変換部11に入射した光は、波長変換部11の内部の変換粒子14によって波長変換されたのち、基板10側から射出される。一方、発光領域19Aからの発光光のうち波長変換部11に入射せずに直接基板10に到達した光は、波長変換されることなく基板10側から射出される。
【0033】
このように、本実施の形態の発光ダイオード1では、基板10上に波長変換部11を設けると共に波長変換部11内に複数の変換粒子14を分散させるようにしたので、発光領域19Aで発光したときの波長の光と、波長変換部11において変換された波長の光との複数の波長の光が基板10側から外部に射出される。そのため、わざわざ別個の発光ダイオードやモールドを設ける必要がなくなる。これより、大型化することなく、複数の波長の光を発光させることができる。
【0034】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0035】
例えば、上記実施の形態では、媒質部分13中に複数の変換粒子14を分散した波長変換部11を備えていたが、図6に示したように、媒質部分33A中に複数の変換粒子34Aを分散した第1層31A上に、媒質部分33Aと同一または別個の材料からなる第2層31Bを積層した波長変換部31を備えていてもよいし、図7に示したように、後述の媒質部分43Bと同一または別個の材料からなる第1層31A上に、媒質部分43B中に複数の変換粒子44Bを分散した第2層41Bを積層した波長変換部41を備えていてもよいし、図8に示したように、媒質部分33A中に複数の変換粒子34Aを分散した第1層31A上に、媒質部分43B中に複数の変換粒子44Bを分散した第2層41Bを積層した波長変換部51を備えていてもよい。
【0036】
また、上記実施の形態では、基板10の表面は平坦面であったが、図9、図10、図11および図12に示したように、基板10の表面のうち互いに隣り合う波長変換部11,31,41,51間の領域に溝が形成されていてもよい。また、発光部30はIII−V族窒化物半導体に限らず、他の材料系により構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発光ダイオードの断面構成図である。
【図2】サファイア基板および波長変換部の斜視図である。
【図3】波長変換部の一変形例を表す断面構成図である。
【図4】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図5】発光ダイオードの製造工程を説明するための断面構成図である。
【図6】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図7】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図8】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図9】波長変換基板の一変形例を表す断面構成図である。
【図10】波長変換基板の他の変形例を表す断面構成図である。
【図11】波長変換基板の他の変形例を表す断面構成図である。
【図12】波長変換基板の他の変形例を表す断面構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1…発光ダイオード、10…基板(サファイア基板)、11…波長変換部、11A…波長変換層、12…波長変換基板、13…媒質部分、14…変換粒子、15…n型GaN層、16…n型GaInN層、17…n型GaN層、18…n型GaInN層、19…活性層、19A…発光領域、20…p型GaInN層、21…p型AlInN層、22…p型GaN層、23…p型GaInN層、24…リッジ部、25…p側電極、26…n側電極26、30…発光部。
【技術分野】
【0001】
本発明は基板側から光を射出する半導体発光素子、およびこれに用いる波長変換基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)等の半導体発光素子は、その発光原理上、半導体のバンドギャップのエネルギーに相当する波長の光、すなわち単一波長の光(単色光)を発光する。そのため、例えば、色補正や、混色など、異なる波長の光が必要な場合は、バンドギャップの異なる半導体材料からなる半導体発光素子を別個に設けたり、半導体発光素子の射出窓を覆うモールドを設けてそのモールド内に無機顔料および有機顔料などの着色剤や、希土類元素などの蛍光体を添加する方策が考えられる(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−363635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の方策では、複数の波長の光を発光させるためには、別個の半導体発光素子やモールドを設けることが必要となるので、占有体積が増加し、大型化してしまうという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、大型化することなく、複数の波長の光を発光させることの可能な半導体発光素子、およびこれに用いる波長変換基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の波長変換基板は、発光波長に対して透明な基板の表面に突状の1または複数の波長変換部を有するものであり、その波長変換部の内部には複数の変換粒子が分散されている。本発明の半導体発光素子は、この波長変換基板上に、活性層を含み活性層からの発光光を基板側に導くための発光部を備えている。
【0007】
この半導体発光素子では、活性層からの発光光のうち波長変換部に入射した光は、波長変換部の内部の変換粒子によって波長変換されたのち、基板側から射出される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導体発光素子によれば、基板上に、内部に複数の変換粒子が分散された波長変換部を設けるようにしたので、活性層で発光したときの波長の光と、波長変換部において変換された波長の光との複数の波長の光が基板側から外部に射出される。そのため、わざわざ別個の半導体発光素子やモールドを設ける必要がなくなる。これより、大型化することなく、複数の波長の光を発光させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施の形態に係る発光ダイオード(LED)1の断面構造を表すものである。この発光ダイオード1は、波長変換基板12上に発光部30を設けたものであり、図2はその波長変換基板12のみを抜き出して斜視的に表している。なお、図1および図2は模式的に表したものであり、実際の寸法、形状とは異なっている。
【0011】
波長変換基板12は、基板10、例えばサファイア基板の一面側に断面台形状の複数の波長変換部11を周期的に形成したものである。ここでは各波長変換部11は基板10の〈1−100〉方向に帯状に延在している。
【0012】
基板10は、波長変換部11の形成されている表面(主面)がc面となっており、そのc面は平坦面となっている。なお、波長変換部11はc面以外の他の面に形成されていてもよい。また、この基板10は、発光部30から発生する光や、後述のように波長変換部11により波長変換された光などの、基板10側に向かう複数波長の発光光に対して透明であればよく、サファイア以外の材料、例えばGaN(窒化ガリウム)により構成されていてもよい。
【0013】
波長変換部11は、例えば上底の幅が2μm、高さが1μmの台形状の断面を有しており、隣り合う波長変換部11とは、例えば2μmの間隙を有する。波長変換部11は媒質部分13中に複数の変換粒子14を分散したものであり、発光部30から発生する光はこの波長変換部11を透過する際にその斜面で屈折したり、内部の変換粒子14によって波長変換されるようになっている。
【0014】
なお、波長変換部11は台形状の他、例えば、図3に示したような半球形状の断面を有するものであってもよく、また、図4に示したような三角形状の断面を有するものであってもよい。このように、傾斜面の面積を多く設けることにより、傾斜面で屈折した発光光が射出窓に対して臨界角未満で入射する割合が多くなり、光抽出効率を向上させることができる。
【0015】
媒質部分13は、基板10側に向かう複数波長の発光光を透過させる材料、例えば、SiO2 、TiO2 、Sb2 O3 、CaOまたはIn2 O3 よりなる。変換粒子14は、発光部30から発生する光の発光波長に相当するエネルギーより小さなバンドギャップの物質であり、例えば、1または複数の希土類元素を含んで構成される。ここで、希土類元素とは、原子番号21のSc(スカンジウム)、原子番号39のY(イットリウム)および原子番号57のLa(ランタン)から原子番号71のLu(ルテチウム)の範囲内の元素のことであり、これら希土類元素に由来したイオンは、以下の表に一例として示したように、発光部30から発生する光を波長変換することが可能である。
【0016】
【表1】
【0017】
以上の波長変換基板12上に設けられた発光部30は、例えばIII−V族窒化物半導体の積層構造により形成されたものである。ここでいうIII−V族窒化物半導体とは、ガリウム(Ga)と窒素(N)とを含んだ窒化ガリウム系化合物のことであり、例えばGaN,AlGaN(窒化アルミニウム・ガリウム),あるいはAlGaInN(窒化アルミニウム・ガリウム・インジウム)などが挙げられる。これらは、必要に応じてSi(シリコン),Ge(ゲルマニウム),O(酸素),Se(セレン)などのIV族およびVI族元素からなるn型不純物、または、Mg(マグネシウム),Zn(亜鉛),C(炭素)などのII族およびIV族元素からなるp型不純物を含有している。
【0018】
具体的に、発光部30は、n型GaN層15,n型GaInN層16,n型GaN層17,n型GaInN層18,活性層19,p型GaInN層20,p型AlInN層21,p型GaN層22およびp型GaInN層23をこの順に積層して構成されたものである。ここで、活性層19のうち、後述のp側電極25およびn側電極26により電流注入されることにより発光する領域を発光領域19Aと称する。なお、以下、上記発光部30を積層した方向を縦方向、発光光の射出方向を軸方向、軸方向と縦方向とに垂直な方向を横方向と称する。
【0019】
なお、n型GaN層15は、波長変換基板12の表面の波長変換部11が形成されていない領域、すなわち波長変換部11間の領域に、主面に対して傾斜したファセット面( (1−101)面)を斜面に有する二等辺三角柱状の結晶(種結晶)を形成したのち、横方向成長が支配的となる成長条件により形成されたものである。これにより発光部30と波長変換基板12との間に隙間ができたり、発光部30中に高結晶欠陥が広範囲に広がることがなくなるので、欠陥密度が極めて小さくなり、その結果、内部量子効率を大幅に向上させることができる。
【0020】
発光部30には、p型GaInN層23が形成されたのち、例えばRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)により、p型GaInN層23,p型GaN層22,p型AlInN層21,p型GaInN層20,活性層19,n型GaInN層18およびn型GaN層17まで選択的にエッチングすることによりリッジ部24が形成されている。
【0021】
また、この発光部30には、リッジ部24の上面、すなわち、p型GaInN層23の表面にp側電極25が形成されており、一方、n型GaInN層16のうち露出している表面にn側電極26が形成されている。p側電極25は、例えば、Ti(チタン)層,Pt(白金)層およびAu(金)層をp型GaInN層23の表面にこの順に積層した構造を有しており、p型GaInN層23と電気的に接続されている。また、n側電極26は、例えば、AuとGe(ゲルマニウム)との合金層,Ni(ニッケル)層およびAu層とをこの順に積層した構造を有しており、n型GaInN層16と電気的に接続されている。
【0022】
このような構成を有する発光ダイオード1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0023】
まず、基板10の表面に、例えば、SiO2 中にTb(テルビウム)を分散した波長変換層11Aを、例えば、イオン注入法、または、同時スパッタ法を用いて形成する。
【0024】
イオン注入法では、SiO2 を成膜したのち、SiO2 表面から10nmの深さまでの範囲内でTbの濃度が最大となるように加速エネルギーを10keVに設定して、TbをSiO2 に注入する。Tbの濃度は、1×1011個/cm2以上1×1015個/cm2以下であることが好ましく、1×1012個/cm2以上1×1014個/cm2以下であることがより好ましい。このようにして、図5(A)に示したように、波長変換層11Aを形成する。
【0025】
一方、同時スパッタ法では、例えば、Ar(アルゴン)の流量を20sccm、圧力を1×10-4Pa、RFパワーを500Wとする条件下において、SiO2 ターゲット上に複数のTb4 O7 タブレットを配置し、SiO2 ターゲットおよびTb4 O7 タブレットをArで同時にスパッタする。このようにして、図5(A)に示したように、波長変換層11Aを形成する。
【0026】
なお、プラズマCVD法および同時スパッタ法のいずれにおいても、発光ダイオード1の用途に応じて波長変換層11Aの膜厚や組成が変わるので、各用途に応じて上記成膜条件を変更すればよい。
【0027】
波長変換層11Aを形成したのち、図5(B)に示したようにマスク層Mを形成し、波長変換層11Aを選択的にエッチングして帯状の領域を周期的に形成する。これにより、図5(C)に示したように、複数の波長変換部11を有する波長変換基板12が形成される。
【0028】
次に、この波長変換基板12上に発光部30を形成する。すなわち、まず、波長変換基板12の波長変換部11間の領域に、主面に対して傾斜したファセット面((1−101)面)を斜面に有する二等辺三角柱状の結晶(種結晶)(図示せず)を形成したのち、横方向成長によりn型GaN層15を形成する。続いて、このn型GaN層15上に、n型GaInN層16,n型GaN層17,n型GaInN層18,活性層19,p型GaInN層20,p型AlInN層21,p型GaN層22およびp型GaInN層23をこの順に積層する。なお、各層の成長方法としては、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法を用い、ドナー不純物の原料としては、例えばセレン化水素(H2 Se)を用い、アクセプタ不純物の原料としては、例えばジメチル亜鉛(DMZn)を用いる。
【0029】
次に、RIE法を用いて、上記積層構造をp型GaInN層23から選択的にエッチングすることによりリッジ部24を形成したのち、リッジ部24の上面(p型GaInN層23の表面)にp側電極25を形成すると共に、n型GaInN層16の露出面にn側電極26を形成する。このようにして本実施の形態の発光ダイオード1が製造される。
【0030】
次に、本実施の形態の発光ダイオード1の作用・効果について説明する。
【0031】
本実施の形態の発光ダイオード1では、p側電極25とn側電極26との間に所定の電圧が印加されると、n側電極26から電子が、p側電極25から正孔がそれぞれ活性層19へ注入される。そして、この活性層19に注入された電子と正孔が再結合することにより発光領域19Aから光子が発生し、その結果、発光光が基板10の裏面側に向かって発光する。
【0032】
このとき、発光領域19Aからの発光光のうち波長変換部11に入射した光は、波長変換部11の内部の変換粒子14によって波長変換されたのち、基板10側から射出される。一方、発光領域19Aからの発光光のうち波長変換部11に入射せずに直接基板10に到達した光は、波長変換されることなく基板10側から射出される。
【0033】
このように、本実施の形態の発光ダイオード1では、基板10上に波長変換部11を設けると共に波長変換部11内に複数の変換粒子14を分散させるようにしたので、発光領域19Aで発光したときの波長の光と、波長変換部11において変換された波長の光との複数の波長の光が基板10側から外部に射出される。そのため、わざわざ別個の発光ダイオードやモールドを設ける必要がなくなる。これより、大型化することなく、複数の波長の光を発光させることができる。
【0034】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0035】
例えば、上記実施の形態では、媒質部分13中に複数の変換粒子14を分散した波長変換部11を備えていたが、図6に示したように、媒質部分33A中に複数の変換粒子34Aを分散した第1層31A上に、媒質部分33Aと同一または別個の材料からなる第2層31Bを積層した波長変換部31を備えていてもよいし、図7に示したように、後述の媒質部分43Bと同一または別個の材料からなる第1層31A上に、媒質部分43B中に複数の変換粒子44Bを分散した第2層41Bを積層した波長変換部41を備えていてもよいし、図8に示したように、媒質部分33A中に複数の変換粒子34Aを分散した第1層31A上に、媒質部分43B中に複数の変換粒子44Bを分散した第2層41Bを積層した波長変換部51を備えていてもよい。
【0036】
また、上記実施の形態では、基板10の表面は平坦面であったが、図9、図10、図11および図12に示したように、基板10の表面のうち互いに隣り合う波長変換部11,31,41,51間の領域に溝が形成されていてもよい。また、発光部30はIII−V族窒化物半導体に限らず、他の材料系により構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発光ダイオードの断面構成図である。
【図2】サファイア基板および波長変換部の斜視図である。
【図3】波長変換部の一変形例を表す断面構成図である。
【図4】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図5】発光ダイオードの製造工程を説明するための断面構成図である。
【図6】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図7】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図8】波長変換部の他の変形例を表す断面構成図である。
【図9】波長変換基板の一変形例を表す断面構成図である。
【図10】波長変換基板の他の変形例を表す断面構成図である。
【図11】波長変換基板の他の変形例を表す断面構成図である。
【図12】波長変換基板の他の変形例を表す断面構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1…発光ダイオード、10…基板(サファイア基板)、11…波長変換部、11A…波長変換層、12…波長変換基板、13…媒質部分、14…変換粒子、15…n型GaN層、16…n型GaInN層、17…n型GaN層、18…n型GaInN層、19…活性層、19A…発光領域、20…p型GaInN層、21…p型AlInN層、22…p型GaN層、23…p型GaInN層、24…リッジ部、25…p側電極、26…n側電極26、30…発光部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長に対して透明な基板、および前記基板の表面に設けられると共に内部に複数の変換粒子が分散された突状の1または複数の波長変換部を有する波長変換基板と、
前記波長変換基板上に設けられると共に活性層を含み、前記活性層からの発光光を前記基板側に導く発光部と
を備えたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記変換粒子は発光波長に相当するエネルギーより小さなバンドギャップの物質よりなる
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記変換粒子は1または複数の希土類元素を含んで構成される
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記波長変換部は、台形状,半球状または三角形状の断面を有する
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項5】
活性層を含む発光部が表面に形成されると共に、前記活性層からの発光光を所定の波長の光に変換する波長変換基板であって、
発光波長に対して透明な基板と、
前記基板の表面に設けられると共に内部に複数の変換粒子が分散された突状の1または複数の波長変換部と
を備えたことを特徴とする波長変換基板。
【請求項1】
発光波長に対して透明な基板、および前記基板の表面に設けられると共に内部に複数の変換粒子が分散された突状の1または複数の波長変換部を有する波長変換基板と、
前記波長変換基板上に設けられると共に活性層を含み、前記活性層からの発光光を前記基板側に導く発光部と
を備えたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記変換粒子は発光波長に相当するエネルギーより小さなバンドギャップの物質よりなる
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記変換粒子は1または複数の希土類元素を含んで構成される
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記波長変換部は、台形状,半球状または三角形状の断面を有する
ことを特徴とする請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項5】
活性層を含む発光部が表面に形成されると共に、前記活性層からの発光光を所定の波長の光に変換する波長変換基板であって、
発光波長に対して透明な基板と、
前記基板の表面に設けられると共に内部に複数の変換粒子が分散された突状の1または複数の波長変換部と
を備えたことを特徴とする波長変換基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−109792(P2007−109792A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297665(P2005−297665)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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