説明

半導体発光素子

【課題】ダブルへテロ構造とは異なる、光閉じ込め係数Γの大きい、新規な素子構造を有する半導体発光素子を提供することを提供すること。
【解決手段】絶縁膜上に光共振器、該光共振器の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記光共振器は、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2の半導体細線、これら半導体細線の両端部にそれぞれ設けられた光共振器ミラー、及び前記第1及び第2の半導体細線間に配置され、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜を備え、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、電流注入により前記半導体超薄膜からレーザ発振を生ずることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に係り、特に、超薄膜活性層を用いた新規な素子構造を有する半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学的用途には不向きと考えられてきたシリコン材料をベースに、光励起により発振するシリコンラマンレーザー、GHzで高速動作するシリコン光変調器など、未来の超高速・低消費光電気混載LSIの礎となるシリコンフォトニクス技術が相次ぎ報告されている。
【0003】
シリコンフォトニクスとは、「発光−伝送−受光」の基本光配線ユニットを構成する個別の光エレクトロニクス素子を、CMOS互換のLSI技術によりオンチップ化・システム化する研究分野である。現在、米国を中心に、シリコンベースの光変調器、スイッチ、導波路、受光素子が盛んに研究されている。こうした中で、実用的な素子の開発に未だ成功していないのが、シリコンをベースとする電流注入型発光素子であり、中でもシリコン半導体レーザである。
【0004】
半導体レーザは、基本光配線ユニットにおいて「送信機」の役目を担い、基幹素子として位置づけられる。半導体レーザがシリコン化できると、コスト及び製造メリットは非常に大きい。しかしながら、長年に亘る研究開発にも拘らず、実用的なシリコン半導体レーザは未だ実現できていない。
【0005】
シリコン半導体レーザの課題を、レーザ発振条件を用いて以下に説明する。
【0006】
レーザ発振条件は、実効利得(Γ×g)≧損失α(Γ:光閉じ込め係数、g:利得、α:損失)なる条件式で表される。この条件式から、レーザ発振は、実効利得が損失を上回るときに生じることが直感的に理解できる。以下、各物理パラメータΓ、g、αについて、シリコンと化合物半導体とを比較し、シリコンにおける問題を明らかにする。
【0007】
損失αは、光共振器のミラー損失、半導体材料の吸収、散乱損、回折損を足し合わせたものである。シリコンにより光共振器を構成したときのαは、化合物半導体により光共振器を構成した場合と同等レベルの値とすることが技術的に可能である。このことから、αに関して、シリコンと化合物半導体とで本質的な相違は無い。
【0008】
利得gは、発振を支配する重要な物理パラメータである。発光の内部量子効率が高いほどgは大きく、レーザ発振しやすい。化合物半導体により半導体レーザが実現できた理由の1つは、内部量子効率が高いためである。一方、シリコンは間接半導体であり、フォノン支援遷移に起因して非発光性であるため、内部量子効率はほぼゼロである。これは、レーザ発振以前の問題として、そもそもシリコンにより発光素子を作ることが困難であることを意味する。
【0009】
シリコンを用いた発光素子を明るく発光させるために、量子ドット、超薄膜、希土類ドーピング、ディスローケーション・エンジニアリング(dislocation engineering)、半導体シリサイド等、様々な技術が試みられているが、発光の内部量子効率が未だ小さすぎるという課題がある(例えば、非特許文献1、2、3参照)。
【0010】
本発明者らの研究によれば、シリコンをはじめ、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム化合物などのIV族元素半導体の内部量子効率は、特定の不純物をドーピングし、さらに超薄膜化することで著しく高まり、化合物半導体と同等レベルの強発光性を発現させることが可能である。従って、活性層として厚さ数nmの強発光性「不純物ドープ超薄膜シリコン」を用いることによりgを増大させることができ、シリコンベースでの発光素子が実現可能になる。このことから、gについても、αと同様、シリコンと化合物半導体とで本質的な相違は無い。
【0011】
光閉じ込め係数Γは、活性層に空間的に閉じ込められている光子エネルギーの割合と定義される量である。シリコン発光素子のΓは低い値を示し、上述のαやgと異なり、化合物半導体との差が歴然としている。
【0012】
例えば、絶縁層上に形成されたP層とN層の間に、超薄膜からなる活性層を備える横通電構造のシリコン発光素子(例えば、特許文献1参照)では、この素子中を伝播する光のモード電場分布は、超薄膜活性層ではなく隣接するP層、N層に集中している。このため、Γはほぼゼロに近い値となる。
【0013】
これに対して、一般的なリッジ構造を有する化合物半導体レーザでは、Γは数%の値を持つ。この値は、シリコン発光素子と比較して桁違いに大きい。確かに化合物半導体レーザの場合も、シリコン発光素子と同様、活性層に単一量子井戸や多重量子井戸といった超薄膜が用いられる。しかし、横通電構造のシリコン発光素子との根本的な相違は、化合物半導体レーザでは活性層よりも低屈折率で、かつワイドギャップで、かつ導電性を有し、活性層と組成が僅かに異なる半導体層(P層、N層)が存在し、それらの層により活性層を直接挟み込むダブルへテロ構造を構成することができる点である。このダブルへテロ構造が可能であるが故に、伝播モードの電場分布を超薄膜活性層内に閉じ込めることができ、延いてはΓの増大を実現できるのである。
【0014】
活性層が超薄膜からなる横通電構造のシリコン発光素子において、ダブルへテロ構造をとらない理由は2つある。1つは、相応しいP層、N層を構成する材料が無いためである。化合物半導体レーザにおけるP層、N層とは異なり、シリコン発光素子のP層、N層は、超薄膜活性層に電流注入する役割だけを負う。もう1つは、たとえそのような半導体材料が存在したとしても、内部量子効率の観点で、「不純物ドープ超薄膜シリコン」活性層には横通電構造が適しているためである。不純物ドープ超薄膜シリコンでは、電子−正孔対束縛を強めることで内部量子効率を高めており、エネルギー的に強い閉じ込めが必要である。このため、電流注入のためのP層、N層との微小接合部を除けば、残り大部分はワイドギャップの絶縁体と接することが必要だからである。
【0015】
以上の説明から、シリコン発光素子の実効利得Γgは、主にΓが小さいことに起因して、化合物半導体レーザと比較して桁違いに小さいことが理解される。従って、シリコン発光素子は、電流注入発光は生じてもレーザ発振は生じない。言い換えれば、発光ダイオードを作ることができても半導体レーザを実現することが困難であった。シリコン半導体レーザの実現には光閉じ込め係数Γの向上が必須であるが、光閉じ込めが難しい横通電構造の超薄膜活性層によりΓの向上を達成することは、非常に困難である。
【非特許文献1】S. Saito, et.al, Jpn. J. Appl. Phys, 45, L679(2006)
【非特許文献2】L. Pavesi, Materials Today, 8, 18(2005)
【非特許文献3】K. P. Homewood, Materials Today, 8, 34(2005)
【特許文献1】特開2007−294628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、従来のシリコン発光素子では、電流注入によるレーザ発振の実現には至らなかった。
【0017】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、ダブルへテロ構造とは異なる、光閉じ込め係数Γの大きい、新規な素子構造を有する半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、絶縁膜上に光共振器、該光共振器の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記光共振器は、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2の半導体細線、これら半導体細線の両端部にそれぞれ設けられた光共振器ミラー、及び前記第1及び第2の半導体細線間に配置され、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜を備え、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、電流注入により前記半導体超薄膜からレーザ発振を生ずることを特徴とする半導体発光素子を提供する。
【0019】
このような半導体発光素子において、前記光共振器ミラーとして、高屈折率を有するIVb族単体半導体またはIVb族化合物半導体と、低屈折率を有する絶縁体からなる誘電体多層構造ミラーを用いることが出来る。
【0020】
また、前記光共振器を前記光共振器ミラーを介して導波路と光学的に接続し、導波路からレーザ発振光を取り出することが出来る。
【0021】
前記光共振器ミラー間の間隔を10nm以上、10μm以下とし、前記第1及び第2の細線間の間隔を10nm以上、200nm以下とすることが出来る。
【0022】
本発明の第2の態様は、絶縁膜上にリング状光共振器、該光共振器の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記光共振器は、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2のリング状半導体細線、及び前記第1及び第2の半導体細線間に配置され、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜を備え、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、電流注入により前記半導体超薄膜からレーザ発振を生ずることを特徴とする半導体発光素子を提供する。
【0023】
このような半導体発光素子において、前記光共振器を該光共振器に近接する導波路と光学的に接続し、導波路からレーザ発振光を取り出すことが出来る。
【0024】
本発明の第3の態様は、絶縁膜上に、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2の半導体細線、該第1及び第2の半導体細線の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記第1及び第2の半導体細線間には、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜が配置され、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、前記半導体超薄膜から電流注入発光を生ずることを特徴とする半導体発光素子を提供する。
【0025】
以上の本発明の第1〜第3の半導体発光素子において、前記半導体超薄膜を、発光センターを形成し、強発光性を与える不純物、即ち、N及びIn、またはS、またはC、またはLaとLuを除く希土類イオンを含み、かつ四面体結合構造を有するIVb単体半導体、またはIVb−IVb化合物半導体により構成することが出来る。
【0026】
或いは、前記半導体超薄膜を、不純物を含まず、四面体結合構造を有するIVb単体半導体、またはIVb−IVb化合物半導体により構成することが出来る。
【0027】
また、前半導体超薄膜の厚さを10nm以下とすることが出来る。また、前記半導体超薄膜の間隔を、前記発光波長より狭くすることが出来る。更に、前記半導体超薄膜を、前記絶縁膜の面に対し、縦に又は横に配置することが出来る。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、光閉じ込め係数Γが大きい新規な素子構造とすることで、従来は困難であった、実用可能なシリコン半導体レーザならびに発光ダイオードを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の特徴をなす、強発光性の不純物ドープシリコン超薄膜を活性層として用いた、光閉じ込め係数Γが大きい、新規なレーザ素子構造について説明する。また、このレーザ素子構造において、Γが大きくなる理由について説明する。
【0031】
なお、発光ダイオードは、光共振器ミラーを設けないことを除けば、半導体レーザと基本的に同じ構造である。また、活性層の半導体超薄膜や半導体細線に用いる半導体材料としては、ダイヤモンド構造、または閃亜鉛鉱構造、またはウルツ鉱構造など、sp3混成軌道で特徴付けられたIV族半導体、またはIV族化合物半導体を用いることが出来る。具体的には、シリコン、シリコンゲルマニウム、ゲルマニウム、シリコンカーバイト、カーボンシリコンゲルマニウムなどが挙げられる。以下では、シリコンを例に挙げて説明する。
【0032】
なお、超薄膜活性層に強発光性を付与する不純物としては、N−Fペア以外では、N−Inペア、またはS、またはC、またはLaとLuを除く希土類イオンを用いることが出来る。強発光性を与える不純物であれば、上記以外の不純物を用いることも出来る。
【0033】
(1)高Γを有するシリコン半導体レーザのシミュレーション
第1の実施形態に係るシリコン半導体レーザは、図1に示すように、ファブリペロー型光共振器1を有する。第2の実施形態に係るシリコン半導体レーザは、、図2に示すように、リング型光共振器2を有する。両者ともに、光共振器は、絶縁体上に設けられた、発光波長よりも狭く近接する2本のシリコン細線3a,3bを備える。活性層4を構成する不純物ドープシリコン超薄膜は、シリコン細線3a,3b間に縦に複数並べて配置され、各々のシリコン細線3a,3bと電気的に接続されている点が特徴的である。
【0034】
なお、ファブリペロー型光共振器1では、シリコン細線3a,3bの両端に誘電体多層膜ミラー5a,bが設けられ、導波路6からレーザ発振光が取り出されるように構成されている。リング型光共振器2では、誘電体多層膜ミラー5a,bは設けられておらず、レーザ発振光は、リング型光共振器2に近接する導波路7から取り出される。
【0035】
不純物ドープシリコン超薄膜間にはSiOが充填されているが、図では省略されている。なお、SiOを充填せずに、空間とすることも可能である。一方のシリコン細線3aはP電極に、他方のシリコン細線3bはN電極にそれぞれ接続されている。
【0036】
これら光共振器1,2は、1本のシリコン導波路を発光波長以下の狭い溝を隔てて2本のシリコン細線3a,3bに分割したものであり、そこに活性層材料が充填された系と考えることができる。期待される効果は、共振器モードの光電場分布と活性層とが空間的に良く重なり合うために、高いΓが得られることである。
【0037】
図1及び2に示すシリコン半導体レーザは、次のように動作する。即ち、電流注入するとN層とP層を介して活性層の不純物ドープ超薄膜シリコンに電子と正孔が各々供給され、不純物中心において電子正孔対が再結合発光し、光共振器で増幅され、Γg≧αとなるしきい電流を超えると、レーザ発振が生じる。
【0038】
レーザ発振させるためには、Γの値として化合物半導体レーザ並みの%オーダーの値が必要である。図3は、図1に示すシリコン半導体レーザの屈折率分布から求めた、光電場モード分布のシミュレーション結果を示す。図4は、従来構造(例えば、特許文献1)のシミュレーション結果を示す。
【0039】
ここで、光の波長は1200nm、超薄膜を構成する不純物ドープシリコンの屈折率はバルク結晶シリコンと同じ3.5、膜厚2nm、幅100nm、高さ200nm、隣接間ピッチ20nmとし、超薄膜の間はSiO(屈折率約1.5)で充填され、一方、活性層領域をサンドイッチするシリコン細線3a,3bは、幅200nm、高さ200nmとして計算した。
【0040】
計算結果より、図4に示すように、従来構造ではP層、N層に光電場モード分布が集中しており、活性層の超薄膜シリコンとは空間的に重ならないことがわかる。これに対して、図1に示す構造のシリコン半導体レーザでは、図3に示すように、活性層と重なるように光電場モードが分布する。これらの光電場分布からΓを計算すると、従来構造が0.02%であるのに対して、図1に示す構造構造は3.5%となった。
【0041】
図1に示す構造とすることにより、Γは従来構造の100倍以上に増大し、化合物半導体レーザと同等レベルにまで光閉じ込めが可能になるのである。
【0042】
(2)高Γとなる理由(スロット導波路効果)
図1に示す本実施形態に係る構造では、光電場が活性層に集中分布するが、これは一般にスロット導波路効果と呼ばれる物理現象であると考えられる(V. R. Almeida, Q. Xu, C. A. Barrios, and M. Lipson, Opt. Lett, 29, 1209(2004); V. R. Almeida, Q. Xu, C. A. Barrios, and M. Lipson, Opt. Lett, 29, 1209(2004))。
【0043】
スロット導波路とは、図5に示すような、高屈折率物質からなる導波路中に設けられた、低屈折率物質(または真空、または大気を含むガス雰囲気)からなり、伝播光の波長サイズより遥かに狭いナノメータースケールの、導波路内にある第2の導波路のことを指す。スロット導波路効果は、TEモードの光(図5に示す構造では、光電場が低屈折率領域/高屈折率領域界面に対して垂直な光)が、選択的に、低屈折率のスロット導波路内に強く閉じ込められながら伝播する現象である。
【0044】
この現象の本質は、マックスウェル方程式を満たすために、図5に示す低屈折率領域/高屈折率領域界面の法線方向に関して、光電場ではなく、電束が保存する点にある。ns、nhをそれぞれ低屈折率領域と高屈折領域の屈折率とし、εs(≒ns)、εh(≒nh)をそれぞれ低屈折率領域と高屈折領域の誘電率とし、Es、Ehを界面における低屈折率側光電場と高屈折率側光電場とすると、電束D=εs×Es=εh×Ehとなる。従って、Es=Eh×(εh/εs)≒Eh×(nh/ns)となり、界面の低屈折率側の光電場は、高屈折率側に対して(nh/ns)倍に増大する。
【0045】
この光電場増大は、屈折率界面だけに生ずる現象であり、界面から離れると低屈折率側の光電場は急速に減衰する。要するに、低屈折率側の光電場は屈折率界面のエバネッセント場の一種である。ところが、スロット導波路では低屈折領域が非常に狭いために、2つの屈折率界面の光電場増強効果が足し合わされて、低屈折率領域に強く閉じ込められた導波モードが形成されるのである。
【0046】
(3)光電場増大の物理解析(Γの解析的な見積り)
本実施形態において、スロット導波路は強発光性の半導体超薄膜と、その間を充填するSiO(屈折率〜1.5)などの絶縁性の低屈折率物質あるいは中空構造からなり、スロット導波路をサンドイッチする高屈折率媒体は半導体細線からなる。図4の計算に用いた素子構造を例にとると、この系で高Γが得られるキーポントは、
(1)不純物ドープ超薄膜シリコンの厚さ2nmに対して、SiOが18nmであるため、活性層領域の屈折率は体積換算で1.7と低く、
(2)発光波長の1200nmに対して不純物ドープ超薄膜シリコンの厚さやピッチが各々2nm、20nmと十分短く、この波長光では分解能は無いことから、活性層領域は等価屈折率1.7の均一な低屈折率媒質と見做せるためである。
【0047】
ここで、解析的にΓを見積もる。活性層領域における光電場の強さは、両側の高屈折率シリコン細線領域と比較して(3.5/1.7)≒4倍に増大する。光子エネルギーに換算すると、活性層領域のエネルギーは高屈折率領域の4=16倍に達する。Γの定義は活性層に閉じ込められた光子エネルギーの割合であることから、Γを式(Es×スロット導波路幅)/[(Es×スロット導波路幅)+(Eh×シリコン細線幅×シリコン細線本数)]×(スロット導波路中を占める超薄膜活性層の体積率)×(平均的光電場/最大光電場)で近似すると、Γ≒16E×100nm/(16E×100nm+E×200nm×2本)×10%×(1/√2)=5.7%と求められる。
【0048】
この値はシミュレーション結果の1.6倍程度であり、ラフな解析ではあるが、一致の度合いは良好である。この結果が示す重要な点は、シミュレーションでは主にΓの数値結果が得られたが、物理的な解析結果からも、本実施形態に係る構造のΓは、確かに高い値を示したという点である。
【0049】
上式によれば、幅一定の条件下では、Γが最大となる超薄膜活性層の体積率が存在する。即ち、活性層の体積率60%で、Γは最大18%にまで達すると見積もられる。物理解析ではΓを過大評価する傾向にあるが、それでも10%程度の値が期待できる。なお、これまでの議論から明らかなように、不純物ドープ超薄膜シリコンの膜厚やピッチが発光波長に対して無視できない大きさになると、スロット導波路効果は弱まり、Γは大きく減少する。
【0050】
以上はTEモードの光についての結果である。TMモードの光(図5に示す構造では、光電場が低屈折率領域/高屈折率領域界面に対して平行な光)については、仮に低屈折率領域が低透磁率領域であり、高屈折率領域が高透磁率領域であるとするならば、上の議論における屈折率、電場、電束をそれぞれ透磁率、磁場、磁束に置き換え、上のTEモードの場合と同様の議論を展開することにより、TMモードの光がスロット導波路内に強く閉じ込められながら伝播することが示されるであろう。しかしながら、導波路に用いられるSiOやシリコンのような物質の透磁率は、普通物質の種類に依らずほぼ1と見做して良い。従って、TMモードの光がスロット導波路内へ閉じ込められる現象はまず起こらない。スロット導波路効果は偏波依存性を有する。
【0051】
最後に、米国Cornell大のBarriosらは、図1に示す構造と類似したレーザ素子構造において、スロット導波路領域に、活性層材料として、半導体の不純物ドープ超薄膜シリコンではなく、絶縁体のErドープSiO単体を充填した系を想定し、電流注入によりErからレーザ発振させるタイプの半導体レーザを提唱している(C. A. Barrios and M. Lipson, Opt. Express, 13, 10092(2005))。
【0052】
しかし、彼らの系は大きな問題を抱えている。その問題とは、ErドープSiOへの電流注入が困難なことである。図1に示す構造と類似の構造であるため、Γは確かに高い値を示すが、彼らの系はそもそも電流注入発光が微弱で、利得gは小さいものと推測される。その結果、彼らの系は結局Γg積が小さく、レーザ発振が困難であると思われる。この点が、Γとgを両方高めてΓg積を増大させた本発明と根本的に異なる点である。これを裏付けるように、提案はされたものの、彼らの構造による電流注入レーザ発振は、まだ実現されていない。
【0053】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子について説明する。
【0054】
不純物ドープ超薄膜シリコンを用いて半導体レーザ素子を構成する際のポイントの1つは、活性層の形成である。本発明の一実施形態に係るて半導体レーザ素子について説明する前に、これについて簡単に説明する。
【0055】
本発明の一実施形態に係るシリコン半導体レーザ素子の模式的な図は、図1に示す通りである。なお、図1に示す素子は、以下に説明する半導体レーザ素子の作製プロセスの説明のために例として取り上げたものであり、もちろん、図2に示すリング共振器を有するリング型半導体レーザなど、他の素子構成も可能である。
【0056】
図1に示す横通電型半導体レーザ素子では、p領域、活性層である不純物ドープ超薄膜シリコン領域、n領域が面内に並ぶ構造を持つ。図示していないが、p領域はp電極と接し、n領域はn電極と接する。p領域から正孔を注入し、またn領域から電子を注入することで、不純物ドープ超薄膜シリコン領域で電子と正孔を再結合発光させる。
【0057】
図6は、NFドープ超薄膜シリコンを例にとり、素子形成プロセスを工程順に示す斜視図である。一連の流れは、SOI基板のトップシリコン層をエッチングにより導波路形状に加工する工程(a)と、この導波路と接する層にAsとBをそれぞれイオン注入しアニールしてN型化、P型化する工程(b)と、その後、今度はNとFをイオン注入し、アニールして発光センターを形成し、活性化する工程(c)と、STI(Shallow Trench Isolation)プロセスによる活性層である不純物ドープ超薄膜シリコンを形成し、NFドープ超薄膜シリコン表面のプロセスダメージ劣化層を除去し、発光の内部量子効率を改善する表面酸化の工程(d)と、NFドープ超薄膜シリコン間の中空領域へSiOを充填する工程(e)とからなる。
【0058】
光共振器ミラーは、図1に示すように、シリコン導波路を加工したシリコン/SiO誘電体多層ミラー5である。なお、電極の作製工程はLSIで採用されている通常のプロセスに準拠しており、誘電体多層膜ミラー作製工程と合わせて、その詳細は省略する。
【0059】
N、F注入工程では、エネルギー、ドーズ、基板面方位、チルト角、基板温度などを最適化して注入する。SOI基板のトップシリコン層中に注入分布が含まれるように、上記注入パラメータを選択する。
【0060】
アニール工程では、イオン注入で乱された結晶格子を回復すると同時にNF発光センターの形成を行う。アニール温度、時間、雰囲気を調整し最適化することで残留欠陥を減少し、トップシリコン層の結晶のクオリティーを上げておく。こうすることで、後工程のSTIによる超薄膜化において、高品位なNFドープ超薄膜シリコンが得られる。
【0061】
NFドープ超薄膜シリコン作製工程では、STIプロセスにより、すでにNF発光センターが形成済であるSOI基板のトップシリコン層を異方性エッチングしながら超薄膜化する。膜厚はガス種、ガス圧、温度、時間などで制御する。
【0062】
以上説明したように、イオン注入とアニールとSTIとを組み合わせることで、不純物ドープ超薄膜シリコンからなる活性層を作ることができる。なお、これ以外の方法によって作られた不純物ドープ超薄膜シリコンや、N、F以外で強発光性を与える他の不純物原子を含む不純物ドープ超薄膜シリコンを用いることもできる。強発光性を与える不純物であれば、上記以外の不純物を用いることも出来る。
【0063】
なお、以上、不純物ドープ超薄膜シリコンについて説明したが、ノンボープ超薄膜シリコンによっても、gは小さく、しきい値が高いが、レーザ発振を行なうことが可能である。また、超薄膜はSOI基板上に縦に配置したが、SOI基板上に横に配置することも可能である。
【0064】
以下、本発明の種々の実施例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0065】
(実施例1)(半導体レーザ)
本実施例は、図1に示した半導体レーザ素子を具体化した例である。すなわち、本実施例に係るシリコン半導体レーザ素子は、母体半導体がシリコンからなる横通電構造を有する。光共振器長は、誘電体多層膜ミラー5a,b間の距離とすると、300μmである。なお、ミラー反射率を高めれば、より短い光共振器長でレーザ発振が可能になる。
【0066】
活性層である不純物ドープ超薄膜シリコン領域には、不純物としてNとFをドープしている。NとF濃度はともに1×1018/cm3である。活性層のNFドープ超薄膜シリコン層の膜厚は2nmとした。その他のサイズは図3に示す構造と同様である。
【0067】
本実施例に係る素子で用いたN、F不純物は、特許文献1にも示されるように、シリコンのバンドギャップ内に光学許容となる2準位を作る。結晶シリコン中では、NF発光センター由来の励起準位とシリコン伝導帯とがエネルギー的に近接し、NF発光センターからシリコンに電子が逃げて電子正孔対が解離するために室温消光する。この系は、遷移自体は光学許容であるため、シリコンの超薄膜化により電子正孔対の結合を強めて解離を抑えることにより、室温発光が可能になる。
【0068】
このように構成された半導体レーザ素子を電流駆動すると、p領域から正孔が注入され、またn領域から電子が注入され、NFドープ超薄膜シリコンからなる活性層領域で電子と正孔が再結合することで電流注入発光が生じる。発光は光共振器で増幅され、閾値電流を超えるとレーザ発振が生ずる。
【0069】
本実施例に係る素子では、電流注入により1.2μm付近(〜1eV)にピークを持つ電流注入発光が得られ、30mAを超える電流を振り込むと、0.98eVに鋭いピークを持つレーザ発振が得られた。室温25℃における動作特性は、出力20mW、外部量子効率18.55%(110mA、4.4V動作時)である。本発明の原理に従ってΓを高める素子構造とすることにより、シリコンにより実用的な特性を有する半導体レーザが得られる。
【0070】
(実施例2)(リング型半導体レーザ)
本実施例は、図2に示すリング型半導体レーザを具体化した例である。本実施例に係る半導体レーザが、実施例1に係る半導体レーザと異なる点は、光共振器2がリング型である点、従って光共振器ミラーが無い点、そしてレーザ光を光共振器の外に取り出すために、光共振器に近接して分布結合型の導波路7が設けられている点の3点であり、それ以外の点は実施例1に係る半導体レーザと同様である。なお、リングの大きさは、100μm×100μmであり、コーナー部の半径は10μmである。
【0071】
このように構成された半導体レーザ素子を電流駆動すると、p領域から正孔が注入され、またn領域から電子が注入され、NFドープ超薄膜シリコンからなる活性層領域で電子と正孔が再結合することで電流注入発光が生じる。発光は光共振器2で増幅され、閾値電流を超えるとレーザ発振が生ずる。
【0072】
本実施例に係る半導体レーザ素子では、電流注入により1.2μm付近(〜1eV)にピークを持つ電流注入発光が得られ、25mAを超える電流を振り込むと、0.96eVに鋭いピークを持つレーザ発振が得られた。室温25℃における動作特性は、出力18mW、外部量子効率18.8%(100mA、4V動作時)である。本発明の原理に従ってΓを高める素子構造とすることにより、シリコンにより実用的な特性を有する半導体レーザが得られる。
【0073】
(実施例3)(発光ダイオード)
本実施例は、図7に示す発光ダイオード素子を具体化した例である。本実施例に係る発光ダイオード素子が実施例1に係る半導体レーザと異なる点は、光共振器が無い点、従って誘電体多層膜ミラーを設けていない点であり、それ以外の点は実施例1に係る半導体レーザと同じである。
【0074】
このように構成された発光ダイオード素子を電流駆動すると、p領域から正孔が注入され、またn領域から電子が注入され、NFドープ超薄膜シリコンからなる活性層4の領域で電子と正孔が再結合することで電流注入発光が生じる。
【0075】
本実施例に係る素子では、電流注入により1.2μm付近(〜1eV)にピークを持つ指向性の強い電流注入発光が得られた。室温25℃における動作特性は、出力15mW、外部量子効率12.5%(120mA、4.5V動作時)であった。本発明の原理に従ってΓを高めた素子構造とすることにより、シリコンにより実用的な特性を有する指向性の強い発光ダイオードが得られる。
【0076】
以上の実施例では、細線及び超薄膜を構成する材料として、シリコンを用いた例を示したが、本発明では、シリコンに限らず、シリコンゲルマニウム、ゲルマニウム、シリコンカーバイト、カーボンシリコンゲルマニウムなどのIV族半導体またはIV族化合物半導体を用いることが出来る。
【0077】
また、超薄膜活性層に強発光性を付与する不純物としては、N−Fペア以外では、N−Inペア、またはS、またはC、またはLaとLuを除く希土類イオンを用いることが出来る。強発光性を与える不純物であれば、上記以外の不純物を用いることも出来る。
【0078】
更に、不純物ドープ超薄膜について説明したが、ノンボープ超薄膜によっても、gは小さく、しきい値が高いが、レーザ発振を行なうことが可能である。また、超薄膜はSOI基板上に縦に配置したが、SOI基板上に横に配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシリコン半導体レーザの斜視図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るシリコン半導体レーザの斜視図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るシリコン半導体レーザの光電場モード分布のシミュレーション結果を示す図。
【図4】従来の半導体レーザの光電場モード分布のシミュレーション結果を示す図。
【図5】スロット導波路の説明図
【図6】本発明の第1の実施形態に係るシリコン半導体レーザのの素子形成のプロセスを工程順に示す図。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るシリコン発光ダイオードの斜視図。
【符号の説明】
【0080】
1…ファブリペロー型光共振器、2…リング型光共振器、3a,3b…シリコン細線、4…活性層、5a,5b…誘電体多層膜ミラー、6,7…導波路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜上に光共振器、該光共振器の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記光共振器は、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2の半導体細線、これら半導体細線の両端部にそれぞれ設けられた光共振器ミラー、及び前記第1及び第2の半導体細線間に配置され、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜を備え、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、電流注入により前記半導体超薄膜からレーザ発振を生ずることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記光共振器ミラーは、高屈折率を有するIVb族単体半導体またはIVb族化合物半導体と、低屈折率を有する絶縁体からなる誘電体多層構造ミラーであることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子
【請求項3】
前記光共振器が前記光共振器ミラーを介して導波路と光学的に接続され、導波路からレーザ発振光が取り出されることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記光共振器ミラー間の間隔は10nm以上、10μm以下であり、前記第1及び第2の細線間の間隔は10nm以上、200nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
絶縁膜上にリング状光共振器、該光共振器の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記光共振器は、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2のリング状半導体細線、及び前記第1及び第2の半導体細線間に配置され、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜を備え、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、電流注入により前記半導体超薄膜からレーザ発振を生ずることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項6】
前記光共振器が、該光共振器に近接する導波路と光学的に接続され、導波路からレーザ発振光が取り出されることを特徴とする請求項5に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
絶縁膜上に、発光波長よりも狭い間隔を隔てて並置された第1及び第2の半導体細線、該第1及び第2の半導体細線の両側にそれぞれ配置されたp電極及びn電極を具備する半導体発光素子であって、前記第1及び第2の半導体細線間には、それぞれた前記第1及び第2の半導体細線に電気的に接続された複数の半導体超薄膜が配置され、前記第1の細線は前記p電極に、前記第2の細線は前記n電極にそれぞれ電気的に接続され、前記半導体超薄膜から電流注入発光を生ずることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項8】
前記半導体超薄膜は、N及びF、またはN及びIn、またはS、またはC、またはLaとLuを除く希土類イオンを含み、かつ四面体結合構造を有するIVb単体半導体、またはIVb−IVb化合物半導体からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記半導体超薄膜は、不純物を含まず、四面体結合構造を有するIVb単体半導体、またはIVb−IVb化合物半導体からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前半導体超薄膜は、厚さが10nm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記半導体超薄膜の間隔は、前記発光波長より狭いことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記半導体超薄膜は、前記絶縁膜の面に対し、縦に又は横に配置される請求項1〜11のいずれかに記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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