説明

半導体発光装置及びその温度測定方法

【課題】封止樹脂部は小型であるため熱電対による温度測定が困難である。赤外線温度計を用いても、封止樹脂内部までは温度測定できないうえ、放射係数が分からないと正確な温度を知ることができない。
【解決手段】半導体発光素子15と、半導体発光素子15の封止樹脂11と、半導体発光素子15に電力を供給する電極19,21とを備える半導体発光装置10において、封止部材11がコレステリック液晶16を含有する。コレステリック液晶16の反射色から封止部材11の内部温度が分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂で封止したパッケージ構造を有する半導体発光装置及びその樹脂の温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子(以後とくに断らない限りLED素子と呼ぶ)を樹脂で封止しパッケージ化した半導体発光装置(以後とくに断らない限りLED装置と呼ぶ)が知られている。LED装置は発光にともない発熱するため、ジャンクション部(発光部)の温度を順方向電圧値から推定することが日常的に行われている。たとえば特許文献1では、LED装置の出力端子電極間の電圧とともに外部環境の温度を測り、LED素子(被測定LED1)の発光部からパッケージを経てLED装置の外部(周囲)に至る経路の熱抵抗を得ている(図1及び請求項2)。
【0003】
しかしながらこの方法で得られる温度情報はLED素子の発光部の温度に限られパッケージ全体の温度分布を示しているわけではない。これに対しパッケージは封止樹脂があり、この封止樹脂には温度により発光特性が敏感に変化する蛍光体が含まれていること多い。そこで品質管理をするうえで封止樹脂の温度を直接的に知りたいという要請が起きた。
【0004】
温度を測る手法には接触式と非接触式がある。接触式では温度センサーを物体に直接触れて温度を測定する。ところが測定対象が小さいと温度センサーの熱容量の影響で温度測定が不正確になることがある。例えば熱電対によりLED装置の封止樹脂の温度を測ろうとすると、LED素子が小型であるため熱電対自身の大きな熱容量の影響により封止樹脂の温度が大きく変化してしまう。これに対し測定対象物に触れない非接触式の温度測定は小物体の温度測定に向いている。例えば赤外線温度計の場合、物体が発する赤外線をレンズでサーモパイルに集光し、このときの赤外線強度から温度を測ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−300811号公報 (図1、請求項2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら赤外線温度計は物体の表面温度が分かるだけで封止樹脂内部までの温度は判然としない。また樹脂表面の放射係数が未知であると正確な温度が測定できない。そこで本発明は、これらの課題に鑑み、放射係数が未知であっても非接触で封止樹脂内の温度が測れる半導体発光装置及びその温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の半導体発光装置は、半導体発光素子と、該半導体発光素子の封止樹脂と、該半導体発光素子に電力を供給する電極とを備える半導体発光装置において、前記封止部材が液晶を含有することを特徴とする。
【0008】
前記液晶はコレステリック液晶であっても良い。
【0009】
前記液晶は散乱型液晶であっても良い。
【0010】
上記課題を解決するため本発明の半導体発光装置は、半導体発光素子と、該半導体発光
素子を封止し液晶を含有する封止樹脂と、該半導体発光素子に電力を供給する電極とを備える半導体発光装置の温度測定方法において、前記封止部材に光を当て、該光にもとづいて前記液晶から出射する光を計測し前記封止樹脂の温度を求めることを特徴とする。
【0011】
前記液晶から出射した光を直接測定する過程と、一方の偏光成分だけを測定する過程とを備えると良い。
【0012】
前記光を計測するとき前記半導体発光素子を消灯するが好ましい。
【0013】
前記液晶から出射する光の色から温度を測っても良い。
【0014】
前記液晶から出射する光の散乱度から温度を測っても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体発光装置及びその温度測定方法は、封止樹脂に含有された液晶が温度により光学特性を変化させることを利用し、この液晶に光を当て、液晶から出射する光を計測して封止樹脂内部の温度を知ることができる。このようにして封止樹脂に非接触で、さらに放射係数が未知であっても封止樹脂の内部温度を測ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態におけるLED装置の断面図。
【図2】図1のLED装置の封止樹脂温度を測る測定系の説明図。
【図3】本発明の第2実施形態におけるLED装置の断面図。
【図4】図3のLED装置の封止樹脂温度を測る測定系の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図1〜4を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお図面において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また説明のため部材の縮尺は適宜変更している。さらに特許請求の範囲に記載した発明特定事項との関係をカッコ内に記載している。
(第1実施形態)
【0018】
図1は本発明の第1実施形態におけるLED装置10(半導体発光装置)の断面図である。LED装置10は、回路基板22上にLED素子15をフリップチップ実装している。回路基板22表面及びLED素子15は封止樹脂11で被覆されている。
【0019】
回路基板22は、板材18の上面と下面にそれぞれ電極19,21を備え、電極19と電極21はスルーホール20で接続している。電極19,21はニッケル及び金層を備えた銅箔であり、厚さが10〜30μm程度である。スルーホール20は直径が100〜300μm程度で内面に金属箔を備え金属ペーストが充填されている。板材18は、厚さが数100μmで、熱伝導等を考慮して樹脂、セラミクス、金属から選ばれる。
【0020】
LED素子15はサファイア基板12の下面に半導体層13が形成され、半導体層13に2個のバンプ電極14が付着している。サファイア基板12は厚さが80〜120μmであるが、さらに薄くすればサファイア基板12の側面から出射する光が減り、上方へ向かう光が増える。半導体層13は厚さが7μm程度であり、発光層を備えた青色発光ダイオードである。2個のバンプ電極14はそれぞれアノードとカソードに相当し、電解メッキ法で形成され厚さが10〜30μm程度になる。バンプ電極14は金属共晶接合により電極19と接続している。
【0021】
封止樹脂11は厚さが数100μmのシリコーン樹脂であり、コレステリック液晶16と蛍光体17が分散している。コレステリック液晶16は常温から100℃程度の温度範囲のなかで反射色が変化するよう調整されている。コレステリック液晶16は温度変化にともなって螺旋ピッチが変化し、これに合わせて反射色も変化する。このとき螺旋の回転方向から決まる一方の回転方向の円偏光だけが反射される。蛍光体17は珪酸塩系(又は窒化物系)の緑色蛍光体と窒化物系の赤色蛍光体からなっている。半導体層13から出射した青色光と、この青色光により励起した蛍光体17からの緑色光及び赤色光とが混色し白色光が得られる。
【0022】
図2によりLED装置10に含まれる封止樹脂11の温度測定方法を説明する。図2は図1に示したLED装置10に含まれる封止樹脂11の温度を測る測定系の説明図である。LED装置10はマザー基板38上に実装されている。このときLED装置10の電極21(図1参照)はマザー基板38上に形成された配線電極37と半田(図示せず)で接続している。またLED装置10は、配線電極37に接触するプローブ36介して電源39から電力を供給される。
【0023】
測定用光源31はLED装置10の斜め上方に配置され、LED装置10に向って白色の光線34(可視光領域において一定の強度を示すもの)を出射する。輝度計33は、LED装置10に対して測定用光源31とは反対側の斜め上方に配置され、LED装置10が出射する光線35を受光する。この輝度計33は波長λごとに輝度を計測できるもので、波長λの関数として示される輝度から色度を演算する。輝度計33の前には、一方の回転方向の円偏光を透過し他方の回転方向の円偏光を反射する偏光板32が配置されている。この偏光板32は可動となっており、輝度計33は、偏光板32がないときの光線35と、偏光板32があるときの光線35をそれぞれ計測する。
【0024】
次に図2の測定系で、光線35から封止樹脂11(図1参照)に含まれるコレステリック液晶16(図1参照)の反射光を得る方法を説明する。光線35に含まれるコレステリック液晶16の反射光(波長λの関数として示される輝度)をLC(λ)、反射光以外で右回転している輝度成分をPR(λ)、左回転している輝度成分をPL(λ)とする。偏光板32がない状態で光線35の輝度I1(λ)を測定すると、I1(λ)は、
I1(λ)=LC(λ)+PR(λ)+PL(λ)
となる。LC(λ)が右回転であり、偏光板32も右回転成分だけを通過させるものである場合、偏光板32がある場合の輝度I2(λ)は、
I2(λ)=LC(λ)+PR(λ)
となる。また、半導体層13(図1参照)や蛍光体17(図1参照)の発光は等方的なので、
PR(λ)=PL(λ)
となるから、LC(λ)は、
LC(λ)=2・I2(λ)−I1(λ)
となる。この結果から、コレステリック液晶16の反射色が得られる。
【0025】
次にコレステリック液晶の反射光LC(λ)の色を判定する過程を説明する。本説明ではCIE1931標準表色系にもとづいて色をx,yで表す。色は等価的に赤色光R、緑色光G及び青色光Bの線形結合で表すことができる。このとき波長λの光に対し赤、緑、青と感じる度合いは三刺激値r(λ),g(λ)、b(λ)となる。ところが色をR,G,Bの線形結合で表そうとすると、実在の色に対しR、G又はBの係数が負になることがある。そこで係数が負になることを避けるため、
X=2.7689R+1.7517G+1.1302B
Y=1.0000R+4.5907G+0.0601B
Z=0.0000R+0.0865G+5.5943B
というように座標変換する。この座標変換にともない三刺激値r(λ),g(λ)、b(λ)は三刺激値x(λ),y(λ)、z(λ)に変換される。
この結果、反射光LC(λ)のX成分はLC(λ)・x(λ)となり、X全体としてはLC(λ)・x(λ)を可視光領域でλについて積分したものとなる(Y,Zも同様)。
【0026】
X、Y、Zは色相、彩度とともに明度の情報も含んでいるので、明度情報を除去し色に関する情報だけを残すため、
x=X/(X+Y+Z)
y=Y/(X+Y+Z)
とする。これらの演算により反射光LC(λ)からx,y値が求まり色が決まる。
【0027】
温度に対する反射色LC(λ)の関係は予め標準的な試料を使って求めておく。分散状態にあるコレステリック液晶粒の軸は媒質中でランダムな方向をとるので、媒質は透明であればよい。しかしながら反射色LC(λ)は角度に依存するので、試料を中心として測定用光源31と輝度計33の角度及び距離は常に一定とする必要がある。
【0028】
これまでの説明では、偏光板32のある場合と無い場合の2回の測定を行うことにより、バイアス成分のない反射色{LC(λ)}が得られることを示した。このときLED装置10は点灯した状態であっても良い。LED装置10が点灯状態にあるとき封止樹脂11の温度が計測できるため直接的である。しかしながらバイアスとなる青色光や、この青色光から波長変換された緑色光、赤色光の成分が大きいので反射色{LC(λ)}の精度が落ちる。そこで測定時に短時間だけLED装置10を消灯してもよい。この場合は、前述の青色光がなくなるのでバイアス成分{PR(λ),PL(λ)}が減るため反射光LC(λ)の測定精度が向上する。なおこのとき消灯期間は封止樹脂11の温度が下がらない程度に短くしなければならない。なお偏光板32の吸収・反射等の損失を補正することが好ましい。
【0029】
また偏光板32を移動させず、測定用光源31を点灯した状態で測定した値から、測定用光源31を消灯した状態で測定した値を減算し反射色LC(λ)を求めても良い。なおこの場合は測定用光源31により励起した蛍光体17による発光成分が混入するので前述の偏光板を移動させる方式に比べ精度が落ちる。
【0030】
同様に測定用光源31が消灯と点灯した状態で得たふたつの値から反射色LC(λ)を得ようとする手法では偏光板32を省いても良い。ただこのときは測定用光源31により励起された蛍光体17の発光のうち、反射光と反対回転の成分もノイズとなってしまうのでさらに精度が下がる。
【0031】
偏光板32を移動させず測定時にLED装置10を短時間消灯し光線35を測定しても良い。この場合も測定用光源31により励起した蛍光体17による発光成分が混入するので精度が下がる。また前述と同様の理由で偏光板32がないとさらに精度が落ちる。
(第2実施形態)
【0032】
図3は本発明の第2実施形態におけるLED装置40(半導体発光装置)の断面図である。LED装置40と、図1に示した第1実施形態のLED装置10との違いは、LED装置40において封止樹脂11に含まれる液晶がコレステリック液晶16(図1参照)ではなく散乱型液晶41となっていることだけである。
【0033】
散乱型液晶41は温度が変化すると屈折率が変化する。封止樹脂11の主成分であるシリコーンの屈折率と散乱型液晶41の屈折率の差が大きくなると散乱度が大きくなるので、温度と散乱度が一定の関係を持つようになる。
【0034】
図4によりLED装置40に含まれる封止樹脂11の温度測定方法を説明する。図4は図3に示したLED装置40の封止樹脂11の温度を測る測定系の説明図である。図4と図2(第1実施形態)との違いは、図4において被測定物がLED装置40になっていること以外に、測定用光源31の前面に偏光板42があること、光線44が偏光していること、光線45及び偏光板43とを光線35及び偏光板32(図2参照)と違った番号で示していることである。偏光板42は光線44を直線偏光とするものでよく、このとき偏光板43と偏光板42の偏光軸をあわせておく。なお偏光板42を円偏光板としたきは、偏光板43は光線44とは逆回転する成分を透過するものが良い。
【0035】
本実施形態でも図2と同様の方法で偏光板43のある場合とない場合で輝度測定をすると、バイアス成分を消すことが可能となり散乱型液晶41による散乱強度が得られる。また短時間だけLED装置40を消灯し、この間に散乱強度を測定しても良い。精度が下がるが偏光板42,43がなくても散乱強度測定により封止樹脂11の温度は測れる。同様に偏光板42,43を備えながら、偏光板43のある場合だけ測ってもよい。
【符号の説明】
【0036】
10,40…LED装置(半導体発光装置)、
11…封止樹脂、
12…サファイア基板、
13…半導体層、
14…バンプ電極、
15…LED素子(半導体発光素子)、
16…コレステリック液晶(液晶)、
17…蛍光体、
18…板材、
19,21…電極、
20…スルーホール、
22…回路基板、
31…測定用光源、
32,42,43…偏光板、
33…輝度計、
34,35,44,45…光線、
36…プローブ、
37…配線電極、
38…マザー基板、
39…電源、
41…散乱型液晶(液晶)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、該半導体発光素子の封止樹脂と、該半導体発光素子に電力を供給する電極とを備える半導体発光装置において、前記封止部材が液晶を含有することを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記液晶はコレステリック液晶であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記液晶は散乱型液晶であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
半導体発光素子と、該半導体発光素子を封止し液晶を含有する封止樹脂と、該半導体発光素子に電力を供給する電極とを備える半導体発光装置の温度測定方法において、
前記封止部材に光を当て、該光にもとづいて前記液晶から出射する光を計測し前記封止樹脂の温度を求めることを特徴とする半導体発光装置の温度測定方法。
【請求項5】
前記液晶から出射した光を直接測定する過程と、一方の偏光成分だけを測定する過程とを備えることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光装置の温度測定方法。
【請求項6】
前記光を計測するとき前記半導体発光素子を消灯することを特徴とする請求項4又は5に記載の半導体発光装置の温度測定方法。
【請求項7】
前記液晶から出射する光の色から温度を測ることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の半導体発光装置の温度測定方法。
【請求項8】
前記液晶から出射する光の散乱度から温度を測ることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光装置の温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202813(P2012−202813A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67517(P2011−67517)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【Fターム(参考)】