説明

半導体発光装置

【課題】 半導体発光素子から発生する熱および光により、蛍光体を含む封止樹脂が劣化するのを防止する構造を備え、長寿命となる半導体発光装置を提供すること。
【解決手段】 半導体発光装置100は、半導体発光素子101を接触しないように覆う蛍光体を含む封止樹脂102と、封止樹脂102、及び半導体発光素子101が配設される基板103と、封止樹脂102内に、半導体発光素子101が配置される空間層105と、空間層105と連通する排熱口106と、を備え、半導体発光素子101から空間層105へ放熱された熱を排熱口106から外部へ排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子から発生した熱により、蛍光体層を含む封止樹脂が劣化するのを防止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光装置が広く用いられている。この半導体発光装置は、例えば、特許文献1に記載されるような構造として、封止樹脂の劣化を防止する技術が提案されている。
【0003】
この従来の半導体発光装置は、図1に示すように、半導体発光素子10の周囲に断熱層11を印刷法により高精度で作製し、該断熱層の外側に蛍光体層12を設けることで、半導体発光素子10の発熱が直接蛍光体110に触れないようにし、発熱による蛍光体110の経時的劣化を改善する技術が開示されている。また、図1は、従来技術を示す模式図である。尚、図1において、引用文献1に記載の図、及び符号を用いているため、ここで説明しない構成要素の符号もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の半導体発光装置において、断熱層11は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂から選択される1種または2種以上の組み合せからなり、有機物で構成されていることから、半導体発光素子から発生する紫外線などの光エネルギー、熱により変色、劣化などのダメージを受け易い。
【0005】
このように有機物から構成された断熱層11が劣化するメカニズムは、熱、光などにより樹脂内にあるベンゼン環に隣接した官能基が、電子移動をしてしまい、発色団であるキノン成分に変化してしまい変色するということが有力な説とされている。
【0006】
特に、エポキシ樹脂は、光エネルギー、および熱に弱く、半導体発光素子10の点灯時に発せられる光および熱により劣化が進み、半導体発光素子10から放出される光を妨げ、明るさを軽減させるという問題がある。また、電流値を上げることにより、半導体発光素子10から放出する光の明るさは増加するが、半導体発光素子10の発熱量が増加し、樹脂の劣化を促進させるという問題がある。
【0007】
このような理由により、有機物、特にエポキシ樹脂が含まれる断熱層11は、黄変などの経時的劣化を起こし、半導体発光素子10から放出した光を外部へ取り出す効果を妨げるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは半導体発光素子から発生する熱および光により、蛍光体を含む封止樹脂が劣化するのを防止する構造を備え、長寿命となる半導体発光装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明の半導体発光装置は、半導体発光素子と、前記半導体発光素子を接触しないように覆う蛍光体を含む封止樹脂と、前記封止樹脂、及び前記半導体発光素子が配設される基板と、前記封止樹脂によって形成され、前記半導体発光素子が配置される空間層と、前記空間層と連通する排熱口と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体発光素子から発生した熱は、空間層および排熱口を通して外部に放出される。これにより、蛍光体層が半導体発光素子の熱を直接受けることなく、経時的に劣化するのを防止することができる。その結果、長寿命な半導体発光装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の半導体発光装置を示す断面図
【図2】第1の実施形態に係る半導体発光装置を示す斜視図
【図3】同、図2のIII−III線に沿った半導体発光装置の断面図
【図4】同、変形例の半導体発光装置を示す断面図
【図5】第2の実施形態に係る他の半導体発光装置を示す斜視図
【図6】同、変形例の半導体発光装置を示す斜視図
【図7】第3の実施形態に係る半導体発光装置を示す分解斜視図
【図8】同、図7のVIII−VIII線に沿った半導体発光装置を示す断面図
【図9】第4の実施形態に係る他の半導体発光装置を示す分解斜視図
【図10】同、図9のX−X線に沿った半導体発光装置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の実施の形態について説明する。図2に第1の実施の形態に係る半導体発光装置の斜視図を、図3に図2の半導体発光装置のIII−III線断面図を示す。また、図4に半導体発光装置の変形例を示す。
【0013】
図2、および図3に示す、半導体発光装置100は、半導体発光素子101と、封止樹脂である蛍光体層102と、外部へ導通する基板であるリード電極103a,103bを構成する電極一体基板103と、この電極一体基板103のリード電極103a,103b同士の電気的短絡を防止するための絶縁体である絶縁性物質104と、を備えて主に構成されている。
【0014】
半導体発光素子101は、電極一体基板103の各リード電極103a,103bと電気的に接続されている。この半導体発光素子101は、リード電極103a(103b)にアノード電圧、およびカソード電圧を印加すると発光する。尚、半導体発光素子101の実装形態は、ここではフリップチップボンディングとして図示しているが、他にもワイヤーボンディング、はんだ、電導性接着剤、ACF、NCPなどの工法を用いても良い。
【0015】
電極一体基板103は、Cu系合金、Fe系合金などの機械的強度、電気伝導度、熱伝導度、耐食性などの優れた母材を用い、この母材表面には、Au、Ag、Sn、Niめっきなどを施している。尚、電極一体基板103は、図4に示すような構造でも良く、外部に接続を取り出せる構造であれば制限はない。この場合、セラミックなどの絶縁物質から形成された絶縁体の基板103´上にリード電極103a,103bを任意に作製することが可能であり、設計の自由度を増大させることができる。
【0016】
蛍光体層102は、蛍光体を含む透明樹脂で構成されており、半導体発光素子101を覆うように配設されている。この蛍光体層102を形成する透明樹脂としては、エポキシ系、アクリル系、シリコーン系などを用い、切削、注型、成形などの加工方法で作製される。透明樹脂内は、蛍光体を分散し、濃度が略均一になるように作製されている。
【0017】
尚、半導体発光素子101は、青色発光、または紫外発光の発光素子を用いた場合、黄色蛍光体を用いれば白色光が容易に実現することができる。また、青色ダイオードに赤色蛍光体および緑色蛍光体を用いれば同様にして、白色光を容易に実現することができる。
【0018】
このように白色光が必要となる場合には、半導体発光素子101の発色を考慮して、蛍光体を選択すれば、容易に白色光を実現することができる。また、白色光に限らず、半導体発光素子と蛍光体を適宜選択すれば、所望の発色を実現することができる。
【0019】
蛍光体層102は、図2に示すように4つの脚部107が形成された構造である。これら脚部107は、蛍光体層102における、ここでは四隅下方に延設されたものであり、電極一体基板103上に固着される。具体的には、これら4つの脚部107は、電極一体基板103の面接触する部分が接着剤等(不図示)によって、電極一体基板103上に固着されている。
【0020】
接着剤等による固着後は、半導体発光素子101が実装されている面からその反対面に向かった上下方向に蛍光体層102と電極一体基板103との間、及び左右方向に脚部107間に形成された間隙が、本実施の形態の排熱口106を構成する。尚、蛍光体層102は、図2に示したような、外形が直方体構造だけでなく、ドーム状、円錐状、そして蛍光体層102主面の角部にR面取り構造を設けるなどしても良い。
【0021】
空間層105は、半導体発光素子101と蛍光体層102との間に形成された空間である。蛍光体層102は、空間層105が設けられることにより、半導体発光素子101に対して所定の離間距離を保つように配置されており、半導体発光素子101と非接触となっている。換言すると、半導体発光素子101と蛍光体層102とは、一定の距離が保たれるように非接触に配置されている。
【0022】
以上のように構成された半導体発光装置100は、半導体発光素子101から発生した熱108が空間層105に放熱され、排熱口106を経て、外部へ放出される構造となっている。そのため、空間層105の中に半導体発光素子101から発生する熱が停滞することがないため、蛍光体層102内部の温度上昇を抑制することができ、熱による蛍光体層102への劣化によるダメージを軽減できる。
【0023】
上記のような構成により、本実施の形態の半導体発光装置100は、半導体発光素子101から発生した熱が空間層105、および排熱口106を通して外部に放出される。このことから、蛍光体層102が半導体発光素子101からの発熱による黄変などの経時的劣化を抑制し、蛍光体層102を含む樹脂の劣化を防止することができる。
【0024】
以上の説明から、本実施の形態の半導体発光装置100は、蛍光体層102が半導体発光素子101からの熱を直接受けることなく、経時的に劣化するのを防止することができる。その結果、長寿命な半導体発光装置100を実現することができる。
【0025】
また、半導体発光装置100は、半導体発光素子101と蛍光体層102とが一定の距離が保たれるように非接触に配置されているため、蛍光体層102が半導体発光素子101と直接に接触した状態よりも、半導体発光素子101からの光エネルギーの影響を受け難くなり、有機物、特にエポキシ樹脂から形成した蛍光体層102への劣化によるダメージも軽減される。
【0026】
(第2の実施形態)
第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、前記排熱口106の構成における変形例について示したものである。図5、および図6に第2の実施の形態に係る半導体発光装置の斜視図を示す。尚、第1の実施の形態にて説明した半導体発光装置100と同一の構成要素については、それらの説明を省略すると共に、同一の符号を用いる場合がある。
【0027】
図5に示すように、半導体発光装置200は、蛍光体層202に少なくとも1つ以上、つまり、複数の排熱口206を形成した構成となっている。尚、蛍光体層202は、下方縁辺部207が電極一体基板103上に接着されている。
【0028】
これら複数の排熱口206は、蛍光体層202を貫通しており、空間層(105、図5においては不図示)と外部空間を連通する、ここでは複数の孔部である。半導体発光素子(101、図5においては不図示)から発生した熱は、蛍光体層202に形成された複数の排熱口206を通過し、外部空間へと放出される。
【0029】
排熱口206は、作製方法として、切削、注型などの加工方法で作製される。尚、その形状、サイズ、位置などは不問である。
【0030】
尚、図6に示すように、半導体発光装置200は、蛍光体層202が電極一体基板103上に当接する箇所に、逆三角形状の脚部208を複数設けた構造としても良い。例えば、蛍光体層202の下部を山切りに加工する。
【0031】
この場合、電極一体基板103と蛍光体層202との間に形成された断面三角形の間隙が排熱口206aとしての機能を有する。
【0032】
このような構造を有した蛍光体層202の作製方法として、上述と同様に切削、注型などの加工方法で作製される。尚、これらの脚部208は、電極一体基板103、または絶縁性物質104に接着剤(不図示)などで固着される。
【0033】
以上に説明した本実施の形態の半導体発光装置200でも、第1の実施の形態と同様の効果を奏する構成とすることができる。
蛍光体層202の形状は、勿論、ここでも、図6に示すような直方体だけでなく、ドーム状、円錐状でも可能である。
【0034】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態について説明する。図7は、第3の実施の形態に係る半導体発光装置を示す分解斜視図、図8は図7のVIII−VIII線に沿った半導体発光装置を示す断面図である。尚、本実施の形態においても、第1の実施の形態にて説明した半導体発光装置100と同一の構成要素については、それらの説明を省略すると共に、同一の符号を用いる場合がある。
【0035】
前記第1、第2の実施の形態に係る半導体発光装置100,200においては、排熱口106,206(206a)を蛍光体層102,202、または蛍光体層102,202と電極一体基板103の間隙に設けたが、第3の実施の形態に係る半導体発光装置300は、図7に示すように電極一体基板303にも排熱口309を設けた構成となっている。
【0036】
具体的には、電極一体基板303は、リード電極303a,303b部分の夫々に、空間層105に連通するように半導体発光素子101が実装されている面からその反対面に向かった上下方向に開口する孔部である排熱口309を形成されている。
【0037】
これにより、本実施の形態の半導体発光装置300は、蛍光体層102に設けた排熱口106と、電極一体基板303に設けた排熱口309の2方向から、半導体発光素子101から発生した空間層105に放熱された熱308が外部へ容易に逃げることになる。すなわち、半導体発光装置300は、半導体発光装置100からの熱308が蛍光体層102と電極一体基板303の間に形成された排熱口306、および電極一体基板303に形成された排熱口309を介して外部空間に放出される。このような構造により、半導体発光装置300は、第1の形態の効果に加え、半導体発光素子101からの熱をより効果的に放熱することが可能である。
【0038】
尚、半導体発光素子101に電気を供給できるような構造であれば、電極一体基板303に設けた排熱口309の形状、サイズ、位置は、不問である。
【0039】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態について説明する。図9は、第4の実施の形態に係る半導体発光装置を示す分解斜視図、図10は図9のX−X線に沿った半導体発光装置の断面図である。
【0040】
尚、本実施の形態において、第3の実施の形態にて説明した半導体発光装置300と同一の構成要素については、それらの説明を省略すると共に、同一の符号を用いる場合がある。
【0041】
本実施の形態に係る半導体発光装置400は、図9に示す、電極一体基板303のリード電極303a,303b間に配設された絶縁体である絶縁物質404にも、複数の排熱口410を設けた構成となっている。
【0042】
リード電極303a,303b同士の短絡を防止するために設けた絶縁物質404は、空間層105に連通するように、半導体発光素子101が実装されている面からその反対面に向かった上下方向に開口する孔部となる、少なくとも1つ以上の複数の排熱口410が形成されている。
【0043】
すなわち、これら複数の排熱口410は、半導体発光素子101が実装されている面からその反対面に向かった上下に向けて、絶縁物質404内を貫通するように形成されている。この絶縁物質404は、リード電極303a,303b同士の短絡を防止する機能を有していれば、排熱口410の形状、サイズは不問である。また、これら複数の排熱口410は、切削、注型加工などで形成される。
【0044】
本実施の形態の半導体発光装置400は、半導体発光素子101から発生した熱408が蛍光体層102に設けた排熱口106と、電極一体基板303に設けた排熱口309と、絶縁物質404に設けた排熱口410と、の複数箇所を介して外部空間へ放出される。すなわち、半導体発光装置400は、第3の形態の効果に加え、半導体発光素子101からの熱を、より効果的に放熱することが可能である。
【0045】
以上の説明から、半導体発光素子101から発生した熱408は、空間層105および排熱口106、309、410を通して外部空間に放出される。従って、空間層105に半導体発光素子101から発生した熱408が停滞することが無いため、蛍光体層102が経時的に劣化するのを防止することができる。これにより、上述の各実施の形態と同様に、長寿命な半導体発光装置400を実現できる。
【0046】
なお、上記各実施の形態では、半導体発光素子101として発光ダイオードを用いたが、これに限定されることなく、レーザダイオードを用いても良いことは勿論である。
【0047】
以上の各実施の形態に記載した発明は、その実施の形態、および変形例に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0048】
例えば、実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0049】
100,200,300,400…半導体発光装置
101…半導体発光素子
102,202…蛍光体層
103,303…電極一体基板
103a,103b,303a,303b…リード電極
104 絶縁性物質
105 空間層
106,206,206a,309,410…排熱口
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【特許文献1】特開2007-194525号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子を接触しないように覆う蛍光体を含む封止樹脂と、
前記封止樹脂、及び前記半導体発光素子が配設される基板と、
前記封止樹脂によって形成され、前記半導体発光素子が配置される空間層と、
前記空間層と連通する排熱口と、
を具備することを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記排熱口は、少なくとも1つ以上有することを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記排熱口は、前記封止樹脂に設けられていることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記排熱口は、前記基板に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記排熱口は、前記基板の一対の電極の夫々に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記排熱口は、前記一対の電極間に配設される絶縁体に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の半導体発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−239004(P2010−239004A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86697(P2009−86697)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】