説明

半導体発光装置

【課題】 半導体発光装置の信頼性を向上させる。
【解決手段】 半導体発光装置は、AlGaInPからなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に形成され、アンドープのAlGaInPからなる発光層と、前記発光層上に形成され、Mgを添加したAlGaInPからなるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に形成され、Znを添加したp型のGaInPからなる電流拡散層とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体発光装置(LED)は、化合物半導体基板上に所望の結晶をエピタキシャル成長し製造される。AlGaInP系LEDの場合、基板にはGaAs結晶が用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図17は、従来例によるダブルヘテロ構造の半導体発光装置(LED)500の概略断面図である。半導体発光装置(LED)は、n型GaAs基板51、n型の第1のクラッド層52、アンドープの活性層53、p型の第2のクラッド層54、p型電流拡散層55、p側電極(第1電極)56及びn側電極(第2電極)57を含んで構成される。
【0004】
n型GaAs基板51の上には、MOCVD法にて、第1の導電型(例えば、n型)を有し活性層53よりもバンドギャップの大きい第1のクラッド層52が形成されている。第1のクラッド層52は、例えば、n型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P結晶からなり、バンドギャップは2.3eVである。
【0005】
第1のクラッド層52の上には、所望の波長を発光する活性層(発光層)53が形成されている。活性層53は、例えば、アンドープの(Al0.1Ga0.90.5In0.5P結晶からなり、バンドギャップは、1.9eVで赤色発光する。なお、活性層53は、AlGaInP系化合物半導体からなる井戸層と障壁層とを持つ量子井戸構造(QW)としてもよい。
【0006】
活性層53の上には、第2の導電型(例えば、p型)を有し発光層よりもバンドギャップの大きい第2のクラッド層54が形成されている。第2のクラッド層54は、例えば、p型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P結晶からなり、バンドギャップは2.3eVである。
【0007】
第2のクラッド層54の上には、必要に応じて、p型電流拡散層55が形成される。p型電流拡散層55は、例えば、p型GaP結晶からなり、バンドギャップは2.25eVである。
【0008】
なお、電流を供給するために、p型電流拡散層55(p型電流拡散層55を形成しない場合は、第2のクラッド層54)の上面の一部の領域上に、p側電極56が形成され、GaAs基板51の下面上にn側電極57が形成されている。
【0009】
LED50のさらなる高輝度化を目指して、吸収層である成長に用いたGaAs基板51を除去して透明基板に貼り合わせたものや、Siなどの永久基板に反射構造を作製した反射基板を貼り合わせて輝度アップを施した構造が知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。この高輝度化により、LEDの市場がさらに拡大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−121796号公報
【特許文献2】特開2009−4487号公報
【特許文献3】特開2010−50318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
昨今LEDの市場が拡大するにつれて信頼性への要求が高まっている。特に、通電による光度劣化は、p型不純物が活性層に拡散することが大きな原因と考えられている。
【0012】
その対策として、活性層とp型クラッド層の間にアンドープ層を挿入する方法が知られている。アンドープ層を挿入することにより、活性層への拡散は抑制されるものの、p型クラッド層からのキャリアの注入が減少するため、大電流領域では効率が落ちてしまい、電流・光出力間の線形性がない。
【0013】
また、p型クラッド層および電流拡散層の不純物としてZnよりも拡散係数の小さいMgを用いる方法も知られている。p型不純物としてMgはドーピング効率がよいが、ドーピング遅れ(供給を開始してから、実際に取り込まれるまでの時間が長い)や成長炉内に残留する効果(メモリー効果)が大きいという問題を持っており、扱いにくい材料である。
【0014】
本発明の目的は、半導体発光装置の信頼性を向上させることである。
【0015】
また、本発明の他の目的は、半導体発光装置の電流・光出力間の線形性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一観点によれば、半導体発光装置は、AlGaInPからなるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に形成され、アンドープのAlGaInPからなる発光層と、前記発光層上に形成され、Mgを添加したAlGaInPからなるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に形成され、Znを添加したp型のGaInPからなる電流拡散層とを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体発光装置の信頼性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明によれば、半導体発光装置の電流・光出力間の線形性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例による半導体発光装置101の概略断面図である。
【図2】本発明の実施例による半導体発光装置101のn型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層4のSIMS分析結果を表すグラフである。
【図3】第1の比較例(比較例1)による半導体発光装置111の概略断面図である。
【図4】比較例1による半導体発光装置111のn型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層64のSIMS分析結果を表すグラフである。
【図5】比較例1の変形例による半導体発光装置111のSIMS分析結果を表すグラフである。
【図6】通電時における発光出力の変化を示すグラフである。
【図7】第2の比較例(比較例2)による半導体発光装置121の概略断面図である。
【図8】作製1回目と作製連続3回目の比較例2による半導体発光装置121のSIMS分析結果を表すグラフである。
【図9】第3の比較例(比較例3)による半導体発光装置131の概略断面図である。
【図10】比較例3による半導体発光装置131のn型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層84のSIMS分析結果を表すグラフである。
【図11】本発明の実施例によるLEDデバイス構造100の概略断面図である。
【図12】本発明の実施例によるLEDデバイス構造100の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図13】本発明の実施例によるLEDデバイス構造100の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図14】本発明の実施例によるLEDデバイス構造100と比較例1によるLEDデバイス構造の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図15】比較例1及びその変形例を用いたLEDデバイス構造の電流・光出力間特性を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例と比較例1〜3のp型クラッド層及び電流拡散層を比較した表である。
【図17】従来例によるダブルヘテロ構造の半導体発光装置(LED)50の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施例による半導体発光装置101の概略断面図である。
【0021】
半導体発光装置101は、n型GaAs基板1と、n型クラッド層2と、発光層3と、p型クラッド層4と、p型電流拡散層5と、p側電極(第1電極)6と、n側電極(第2電極)7とを含んで構成される。
【0022】
n型クラッド層2は、n型GaAs基板1上に配置され、n型不純物としてSiをドープした(AlGa1−yIn1−xP(0.45≦x≦0.55、0.3≦y≦1)からなる。本実施例では、例えば、n型(Al0.7Ga0.30.5In0.5P層であり、膜厚は約3μm、キャリア濃度は1×1018cm−3である。
【0023】
発光層3は、n型クラッド層2上に形成され、アンドープの(Aly1Ga1−y1In1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y1≦0.7)からなる井戸層とアンドープの(Aly2Ga1−y2In1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y2≦0.7)からなる障壁層とからなる量子井戸構造である(ただし、y2>y1)。または、アンドープの(AlGa1−yIn1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)からなるバルク活性層を発光層3としてもよい。本実施例では、例えば、膜厚10nmの(Al0.1Ga0.90.5In0.5Pからなる井戸層と、膜厚10nmの(Al0.5Ga0.50.5In0.5Pからなる障壁層を20周期繰り返した量子井戸(QW)構造である。
【0024】
p型クラッド層4は、発光層3上に形成され、Mgを故意に添加した(AlGa1−yIn1−xP(0.45≦x≦0.55、0.3≦y≦1)からなり、キャリア濃度は、1×1017〜1×1018cm−3の範囲である。本実施例では、例えば、(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなり、膜厚は約1μmで、キャリア濃度は、2×1017cm−3である。
【0025】
p型電流拡散層5は、p型クラッド層4上に配置され、Znを故意に添加したp型のGa1−zInP(0≦z≦0.1)層であり、Znドーパント濃度は、3×1018〜1×1019cm−3の範囲である。本実施例では、例えば、GaPからなり、膜厚は約1μmで、Znのドーパント濃度は3×1018cm−3である。なお、p型クラッド層4は、p型電流拡散層5から拡散してきたZnを含む。p型クラッド層4の拡散によるZnドーパント濃度は、5×1016〜5×1017cm−3の範囲である。
【0026】
n型GaAs基板1、n型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層4及びp型電流拡散層5は、周知のMOCVD法で作製し、原料としてホスフィン、III族原料として有機金属材料TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMI(トリメチルインジウム)を用いた。
【0027】
n型クラッド層2の形成ためのドーパントとしてシラン(SiH)、p型クラッド層4形成のためのドーパントとしてジシクロペンタマグネシウム(CpMg)、p型電流拡散層5形成のためのドーパントとしてジメチルジンク(DMZn)を用いた。
【0028】
キャリアガスとしては、水素を用い、V/III比は30〜200、AlGaInP層の成長温度は670℃、GaP層の成長温度は770℃で、10kPaの減圧下で半導体発光装置101を作製した。
【0029】
電流を供給するために、p型電流拡散層5の上面の一部の領域上に、p側電極(第1電極)6を形成し、GaAs基板1の下面上にn側電極(第2電極)7を形成し、200μm角にダイシングを行った。それをTO−46Sステムに搭載し、Auワイヤーを装着した。これに電流を20mA流したところ、光出力は1.0mW、半導体発光装置に印加された電圧は1.95Vとなった。
【0030】
図2は、本発明の実施例による半導体発光装置101のn型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層4のSIMS(Secondary Ionmicroprobe Mass Spectrometer)分析結果を表すグラフである。
【0031】
本実施例では、p型クラッド層4にZnを故意に添加していないが、Znが検出されていることが分かる。このp型クラッド層4のZnはZnを故意に添加したp型電流拡散層(Zn−GaP層)5からの拡散によるものである。
【0032】
電流を均一に拡げるためには、p型電流拡散層(Zn−GaP層)5へのZnの高濃度ドーピングが必要であり、GaP層は上述したように、作製温度が770℃程度で、AlGaInP層の作製温度である670℃程度より、100℃程度高くなっていることから、Znが拡散する。しかし、本実施例では、p型クラッド層4に故意にZnをドーピングしていないために、発光層3にはほとんどZnは拡散していない。
【0033】
なお、p型電流拡散層5にMgをドーピングすると、後述する第2の比較例(比較例2)におけるのと同様のMg残留の影響が発生する。これは、p型電流拡散層5は電流を均一に流すことと電極との良好なコンタクトをとるためにキャリア濃度を高くする必要があり、p型クラッド層4よりも大量のMgをドーピングする必要があるためである。しかし、本実施例では、p型クラッド層4にのみMgをドーピングし、p型電流拡散層5にはZnをドーピングしているため、Mg残留の影響がない。なお、p型クラッド層4へのMgドーピング量は、1×1018cm−3以下であるため、残留の影響はない。
【0034】
図3は、第1の比較例(比較例1)による半導体発光装置111の概略断面図である。図1に示す実施例による半導体発光装置101とは、p型クラッド層64のみが異なる。その他の構成は実施例と同様であるので、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0035】
半導体発光装置111のp型クラッド層64は、Znを故意に添加した(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなり、例えば、膜厚は約1μmで、Znドーパント濃度は2×1017cm−3である。
【0036】
図4は、比較例1による半導体発光装置111のn型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層64のSIMS分析結果を表すグラフである。
【0037】
電流を均一に拡げるためには、電流拡散層(Zn−GaP層)5へのZnの高濃度ドーピングが必要であり、p型電流拡散層5は、AlGaInPよりも作製温度が高い(+100℃以上)ため、p型クラッド層64および発光層3にZnが拡散していることがわかる。この拡散したZnのため、通電により光度劣化が生じる。
【0038】
図5は、比較例1の変形例による半導体発光装置111のSIMS分析結果を表すグラフである。この変形例では、発光層3へのZn拡散を防止するために、図4に示す比較例1による半導体発光装置111の発光層3とp型クラッド層64との間にアンドープのAlGaInP層を300nmの膜厚で挿入した。アンドープ層を挿入することにより、発光層3までZnは拡散していないことが分かる。
【0039】
図6は、通電時における発光出力の変化を示すグラフである。実施例による半導体発光装置101と比較例1によるZnのみドーピングし、アンドープ層のない構造の半導体発光装置111を室温において、20mAの通電試験を行った。
【0040】
実施例による半導体発光装置101では、通電時間を増やしても発光出力は変化しないのに対し、比較例1の半導体発光装置111は、初期の早い段階で発光出力が減少している。これは、発光層3まで拡散したZnが影響していると考えられる。比較例1では、拡散したZnが通電により、非発光センターとして働いていると考えられる。
【0041】
さらに、実施例による半導体発光装置101において、p型クラッド層4のMgドーパント濃度を、1×1018cm−3とし、電流拡散層(GaP層)5のZnドーパント濃度を、1×1019cm−3とした場合においても、発光層3へのZn拡散はなく、通電試験においても同様の効果を確認した。電流拡散層(GaP層)5のZnドーパント濃度を1×1019cm−3とした場合にも、SIMS分析を行ったところ、同様の拡散現象が確認された。p型電流拡散層5のZnドーパント濃度が高いため、p型クラッド層4中のZnドーパント濃度は、5×1017cm−3となったが、上述した半導体発光装置101と同様にZnの発光層3への拡散は見られなかった。これは、p型クラッド層4で故意に添加したMgが、p型電流拡散層5から発光層3へのZn拡散を止める効果があるためと考えられる。また、この場合も、通電による光度劣化は起こらないことが分かった。
【0042】
図7は、第2の比較例(比較例2)による半導体発光装置121の概略断面図である。図1に示す実施例による半導体発光装置101とは、電流拡散層75のみが異なる。その他の構成は実施例と同様であるので、同一の参照番号を付して説明を省略する。なお、p型クラッド層74は、実施例のp型クラッド層4と同様に、Mgを故意に添加した(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなり、例えば、膜厚は約1μmで、Mgのドーパント濃度は、2×1017cm−3であるが、拡散によるZnを含まないので、p型クラッド層4とは異なる参照番号を付した。
【0043】
比較例2の電流拡散層75は、Mgを故意に添加したp型のGaPからなり、例えば、膜厚は、約1μmで、Mgのドーパント濃度は3×1018cm−3である。この半導体発光装置121に電流を20mA流したところ、光出力は0.2mW、半導体発光装置に印加された電圧は1.95Vとなった。
【0044】
MgはZnに比べて拡散係数が小さく、発光層3までは拡散しにくい。しかしながら、電流拡散層75においてMgの高濃度ドーピングを行わなければならず、メモリー効果の大きいMgが反応炉内部に残留してしまう。そのため、半導体発光装置121の作製を繰り返すうちに、残留Mgが増大するために、意図しないMgがp型クラッド層74や電流拡散層75以外に取り込まれてしまう。
【0045】
図8は、作製1回目と作製連続3回目の比較例2による半導体発光装置121のSIMS分析結果を表すグラフである。
【0046】
図から明らかなように、作製1回目ではMgはp型クラッド層74中のみで検出されているのに対し、3回目では発光層3およびn型クラッド層2においてもMgが検出されている。このような意図せずに残留したMgは、デバイス特性に悪影響を与え、その結果として、明るさが急激に減少するという不具合を生じさせる。
【0047】
図9は、第3の比較例(比較例3)による半導体発光装置131の概略断面図である。図1に示す実施例による半導体発光装置101とは、p型クラッド層84のみが異なる。その他の構成は実施例と同様であるので、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0048】
p型クラッド層84は、MgおよびZnを故意に添加した(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなり、例えば、膜厚は約1μmで、Mg及びZnのドーパント濃度は2×1017cm−3である。比較例3による半導体発光装置131に電流を20mA流したところ、光出力は0.3mW、半導体発光装置に印加された電圧は1.95Vとなった。
【0049】
図10は、比較例3による半導体発光装置131のn型クラッド層2、発光層3、p型クラッド層84のSIMS分析結果を表すグラフである。
【0050】
Mg及びZnのp型クラッド層84への同時ドーピングにより、p型クラッド層84にMg、Znが検出されている。p型クラッド層84及びp型電流拡散層5にZnをドーピングしているため、結晶中にZnが拡散している。MgはZn拡散を抑制する効果があるため、発光層3中にはZn拡散していないが、発光層3近傍(深さ約1μmの領域)にZnドーパント濃度の高い領域が存在する。この発光層3近傍のZnドーパント濃度の高い領域が非発光センターを形成し、比較例3では、発光出力が急激に減少すると考えられる。
【0051】
続いて、特開2009−4487号公報の段落[0012]〜[0026]、又は特開2010−50318号公報の段落[0013]〜[0020]に記載された方法を用いて、図1に示す本発明の実施例による半導体発光装置構造10と、GaAs基板1(図1)とは別の材料からなる永久基板(Si)11との貼り合わせを行い、GaAs基板1を除去し、図11に示す電極を配置しLEDデバイス構造100を作製した。作製したLEDデバイス構造100を、ステム上に搭載し、ワイヤーを装着し、エポキシ系の樹脂により、直径5mmの砲弾型LEDを作製した。
【0052】
図11は、本発明の実施例によるLEDデバイス構造100の概略断面図である。
【0053】
LEDデバイス構造100は、第1のPt層(第1電極)12、支持基板11、第2のPt層13、Ti(チタン)層14、接合(AuSnNi)層15、第1の電極(TaN)層16、第2の電極(TiW)層17、第3の電極(TaN)層18、第4の電極(AuZn)層19、コンタクト部(コンタクト層)20が複数箇所に埋めこまれた反射絶縁(SiO)層21及び実施例による半導体発光装置構造10が順次積層された構造を有している。また、半導体発光装置構造10上には、例えば、Auからなる第2電極22が形成されている。
【0054】
以下に、図11〜図13を参照して、LEDデバイス構造100の製造工程を簡単に説明する。
【0055】
まず、図12に示すように、n型不純物を添加したシリコン(Si)からなる支持基板(永久基板)11の主表面上に第2のPt層13を形成するとともに、主表面とは反対側の底面上にも、第1電極(第1のPt層)12を形成する。第1電極(第1のPt層)12及び第2のPt層13は、オーミック電極として用いられる。また、第1電極12は、外部と電気的接続をとるための電極として機能する。Pt層は、例えば抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング等により形成される。
【0056】
第2のPt層13上には、Ti層14を形成する。Ti層14上には、Niからなる第1のSn吸収層151、Au層152、AuSn合金からなる半田層153を形成する。Ti層14及び第1のSn吸収層151は、例えば電子ビーム蒸着またはスパッタリングにより形成され、Au層152及び半田層153は、例えば抵抗加熱蒸着またはスパッタリングにより形成される。
【0057】
次に、図13に示すように、半導体からなる第2の基板(仮基板)110の主表面上に、図1に示す実施例による半導体発光装置構造10を成長させる。その後、化学気相成長(CVD)法によって半導体発光装置構造10上に、SiOからなる反射絶縁層(SiO層)21が形成される。その後、反射絶縁層21上にレジストが塗布、パターンニングし、パターンニングしたレジストをマスクとしてエッチングを行い、反射絶縁層21に複数の開口部を形成する。開口部によって部分的に露出した半導体発光装置構造10上に、スパッタリングによってAuZnからなるコンタクト部20が埋め込まれる。なお、コンタクト部20は、抵抗加熱蒸着又は電子ビーム蒸着によって堆積されても良い。
【0058】
次に、反射絶縁層21上に、AuZnからなる反射電極層(第4の電極層)19を抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、またはスパッタリングにより形成する。反射電極層19は、コンタクト部20を介して、半導体発光装置構造10とオーミックコンタクトを取る。また、反射電極層19は、半導体発光装置構造10から入射した光を反射絶縁層(SiO層)21との界面で効率よく反射させる機能を有する。
【0059】
さらに、反射電極層19上に、反応性スパッタリングによりTaNからなる第3の電極(TaN)層18を形成し、その後、例えば、窒素雰囲気下において、約500℃で熱処理を行う。この熱処理により、AuZnからなる反射電極層19(コンタクト部20)とp型AlGaInPからなる半導体発光装置構造10の表層部とが合金化し、良好なオーミック接触が得られる。
【0060】
次に、第3の電極(TaN)層18上に、反応性スパッタリングによりTiW(チタン−タングステン合金)からなる第2の電極層17及びTaN(窒化タンタル)からなる第1の電極層16を形成する。TaN(窒化タンタル)からなる第1の電極層16、TiW(チタン−タングステン合金)からなる第2の電極層17及びTaNからなる第3の電極層18は、金属原子の拡散を防止するバリア層として機能する。
【0061】
その後、TaN層16の上に、Niからなる第2のSn吸収層154を、電子ビーム蒸着またはスパッタリングにより形成する。第2のSn吸収層154の上に、Au層155を、抵抗加熱蒸着またはスパッタリングにより形成する。
【0062】
次に、図12に示す支持基板(永久基板)11と図13に示す仮基板110とを、それらの主表面同士が対向するように配置し、支持基板11側のAuSn半田層153と、仮基板110側のAu層155とを密着させて、窒素雰囲気下で熱圧着を行う。
【0063】
図11に示すように、AuSn半田層153が溶融し、Au層152、155のAu、第1のSn吸収層151及び第2のSn吸収層154のNiが、溶融している半田層153に溶解し、及びAu層152、155、半田層153のAu及びSnが、第1のSn吸収層151及び第2のSn吸収層154内に拡散し、吸収される。溶融した半田層153が固化することにより、AuSnNiからなる接合層15が形成される。接合後、仮基板110を除去する。仮基板110がGaAsで形成されている場合には、例えば、アンモニア水と過酸化水素水との混合液を用いたウェットエッチングにより除去することができる。なお、ウェットエッチングの他に、ドライエッチング、化学機械研磨(CMP)、機械的研削等により除去することも可能である。
【0064】
最後に、仮基板110を除去することにより露出した半導体発光装置構造10の表面の一部の領域上に、Auからなる第2電極22を抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング等による成膜と、リフトオフ法により形成する。第2電極22を形成した後、例えば、窒素雰囲気下において、約400℃で熱処理を行うことにより、オーミック接触を確保する。
【0065】
以上のようにして作製した実施例によるLEDデバイス構造100の電流・光出力間特性を評価したところ、50mAの電流域でも、線形性がよいことが確認された。
【0066】
さらに、本発明の実施例による半導体発光装置構造10の代わりに図3に示す比較例1による半導体発光装置構造60を用いてLEDデバイス構造を作製した。作製した比較例1によるLEDデバイス構造を、ステム上に搭載し、ワイヤーを装着し、エポキシ系の樹脂により、直径5mmの砲弾型LEDを作製した。また、比較例1による半導体発光装置構造60にアンドープ層を挿入した比較例1の変形例を用いて同様にLEDデバイス構造を作製した。
【0067】
図14は、本発明の実施例によるLEDデバイス構造100と比較例1によるLEDデバイス構造の電流−電圧特性を示すグラフである。
【0068】
本発明の実施例によるLEDデバイス構造100は、比較例1によるLEDデバイス構造と比べて、同じ電流値でも電圧値が低く(抵抗値が低く)、効率のよいことが分かった。これは、実施例のp型クラッド層4にZnとMgが含まれていることに起因しており、比較例1のようにp型クラッド層64に含まれるのがZnのみでは効率が悪いことを示している。上述した図6に示す通電試験と同様の試験を実施したところ、実施例によるLEDデバイス構造100では通電による光度劣化は観測されなかった。
【0069】
図15は、比較例1及びその変形例を用いたLEDデバイス構造の電流・光出力間特性を示すグラフである。
【0070】
アンドープ層を挿入した比較例1の変形例を用いたLEDデバイス構造は、低電流領域(50mA以下)では、線形性があるのに対し、高電流領域(50mA以上)では、急速に光出力が減少することが分かる。
【0071】
一方、アンドープ層のない比較例1を用いたLEDデバイス構造では、電流・光出力間の線形性が高電流領域でも保たれていることが分かる。比較例1の変形例ではアンドープ層を挿入したことにより、発光層3へのキャリアの注入効率が悪くなったことが原因と考えられる。アンドープ層によるZn拡散抑制では、発光層3に拡散するZnは抑制されるが、電流・光出力間特性の線形性が悪くなることが分かった。
【0072】
図16は、本発明の実施例と比較例1〜3のp型クラッド層及び電流拡散層を比較した表である。
【0073】
比較例1では、図3に示す構造において、p型クラッド層64にZnを故意に添加したので、Znドーパント濃度は1×1017〜1×1018cm−3となっており、Znが非常に拡散しやすく、発光層3にZnが拡散してしまう。よって、発光効率は高く、Mg残留の影響もないものの、信頼性は低く、電流−電圧特性も良好ではない。
【0074】
比較例2では、図7に示す構造において、電流拡散層75にMgを故意に添加し、Mgドーパント濃度を3×1018〜1×1019cm−3とした。Mgは拡散しにくいので、発光層3までは拡散しないものの、メモリー効果の大きいMgが反応炉内部に残留してしまい、作製を繰り返すと発光層3およびn型クラッド層2においてもMgが検出されてしまう。よって、発光効率は低く、Mg残留の影響がある。
【0075】
比較例3では、図9に示す構造において、p型クラッド層84へMg及びZnを同時ドーピングし、ドーパント濃度を1×1017〜1×1018cm−3としている。MgはZn拡散を抑制する効果があるため、発光層3中にはZn拡散していないが、発光層3近傍にZnドーパント濃度の高い領域が存在する。よって、Mg残留の影響はないものの、発光効率が低い。
【0076】
以上の比較例1〜3に対し、本発明の実施例では、図1に示す構造において、p型クラッド層4のMgドーパント濃度を、1×1017〜1×1018cm−3、p型電流拡散層5のZnドーパント濃度を3×1018〜1×1019cm−3とした。これにより、p型クラッド層4に拡散するZnドーパント濃度を5×1016〜5×1017cm−3とすることができ、発光層3へのZnの拡散を防ぐことができた。このような構造をとることにより、信頼性が高く、電流−電圧特性が良好であり、発光効率も高く、Mg残留の影響のない半導体発光装置101を作製することができる。
【0077】
なお、上述の実施例では、クラッド層2、4や発光層3にAlGaInP層を用いているが、GaAs基板1に整合する条件で作製されている。GaAs基板1に整合する条件は成長する温度によって異なる。
【0078】
GaAs基板1に整合するためには、(AlGa1−yIn1−xPのxの値を調整すれば良い。温度が500℃〜700℃の範囲で成長する場合は、(AlGa1−yIn1−xPのxの値の範囲は0.45≦x≦0.55となる。この範囲でも、実施例で得られたキャリア濃度と厚みで制御することにより、得られる効果は変わらない。
【0079】
活性層(量子井戸構造の活性層およびバリア層)3については、臨界膜厚以下にすれば、GaAs基板1に整合する必要はなく、この範囲でなくともよい。好ましい井戸層およびバリア層の組成の範囲は、臨界膜厚を考慮すると(AlGa1−yIn1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)である。
【0080】
また、上述の実施例では、n型クラッド層2として、Al組成が70%の(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pを用いたが、n型クラッド層2は、発光層3に対して透明であればよく、Ga組成が0%、すなわち、Al0.5In0.5Pをn型クラッド層2として用いても、実施例によるキャリア濃度と厚みに制御すれば良い。つまり、(AlGa1−yIn1−xP(0.45≦x≦0.55、0.3≦y≦1)クラッドにおけるAl組成yの範囲であっても、発光層3に対して透明であれば構わない。
【0081】
また、nクラッド構造を複数のAl組成からなる構造、例えば、GaAs基板1側から、膜厚2500nmの(Al0.7Ga0.30.5In0.5P、膜厚500nmの(Al0.5Ga0.50.5In0.5Pとしても、実施例によるキャリア濃度に制御すれば良く、得られる効果は変わらない。
【0082】
なお、上述の実施例では、n型導電を得るために、ドーパントとしてシラン(SiH)を用いたが、ジエチルテルル(DeTe)、もしくは、セレン化水素(HSe)を用いても、本発明の効果はn型不純物によって変わることはなく、n型層の不純物の種類に依存するものではなく、得られる効果は変わらない。また、n型クラッド層2の厚みに関しても、本発明に影響を与えるものではなく、3μmに限定されるものではない。
【0083】
また、上述の実施例では、赤色発光する量子井戸構造(Al組成10%)を示したが、量子井戸構造の厚みや周期数を変更しても、p型クラッド層4およびp型電流拡散層5の構造を本発明の実施例と同様にすれば、同様の効果を得ることができる。また、発光層3は、量子井戸構造に限らずホモpn接合構造、ダブルへテロ構造、またはシングルへテロ構造としてもよい。
【0084】
また、量子井戸層のAl組成に関しても同様であり、Al組成を変更して、黄色発光(590nm)素子や真紅発光素子(660nm)としても、実施例の効果を得ることができる。さらに、基板のオフ角に関しても同様であり、オフ角、オフ方向の異なるGaAs基板を用いても効果は変わらない。実施例では、(100)から15度オフしたn型GaAs基板1を用いたが、(100)から4度オフしたn型GaAs基板においても同様の効果を確認している。
【0085】
また、上述の実施例では、p型電流拡散層5としてGaPを用いたが、インジウム(In)を添加し、InGaPとした場合においても、p型電流拡散層5が発光層3に対して透明であればよく、実施例の効果に影響を与えるものではない。
【0086】
また、本発明の実施例は半導体基板に直接作製するタイプのLEDのみだけではなく、GaPなどの半導体基板に限らず、他の永久基板(例えばシリコン、銅、ガラス)に貼りあわせるタイプの発光装置にも有効である。電極の構造は、pn接合を介して活性層に電流を注入する構造であれば良く、上下に電極を配置する必要は無く、例えばフリップチップタイプの構造でも良い。
【0087】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0088】
1、51 n型GaAs基板
2、52 n型クラッド層(第1のクラッド層)
3、53 活性層
4、54、64、74、84 p型クラッド層(第2のクラッド層)
5、55、75 電流拡散層
6、56 p側電極(第1電極)
7、57 n側電極(第2電極)
10、60、70、80 半導体発光装置構造
11 支持基板
12 第1電極
13 第2のPt層
14 Ti(チタン)層
15 接合層
16 第1の電極層
17 第2の電極層
18 第3の電極層
19 第4の電極層
20 コンタクト部(コンタクト層)
21 反射絶縁層
22 第2電極
100 LEDデバイス構造
101、111、121、131、500 半導体発光装置
110 第2の基板(仮基板)
151 第1のSn吸収層
152 Au層
153 半田層
154 第2のSn吸収層
155 Au層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlGaInPからなるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成され、アンドープのAlGaInPからなる発光層と、
前記発光層上に形成され、Mgを添加したAlGaInPからなるp型クラッド層と、
前記p型クラッド層上に形成され、Znを添加したp型のGaInPからなる電流拡散層と
を有する半導体発光装置。
【請求項2】
前記p型クラッド層は、Mgを添加した(AlGa1−yIn1−xP(0.45≦x≦0.55、0.3≦y≦1)からなり、前記電流拡散層から拡散したZnを含み、キャリア濃度が1×1017〜1×1018cm−3の範囲である請求項1記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記p型クラッド層のZnドーパント濃度が、5×1016〜5×1017cm−3の範囲である請求項2記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記発光層は、アンドープの(AlGa1−yIn1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)からなる活性層とアンドープの(AlGa1−yIn1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)からなるバリア層とからなる量子井戸構造である請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記発光層は、アンドープの(AlGa1−yIn1−xP(0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.7)からなるバルク活性層である請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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