説明

半導体素子の製造方法

【目的】 水素化工程を改善した半導体素子の製造方法を提供する。
【構成】 本発明の半導体素子の製造方法は、基板1上にソース3、ドレイン4、活性層5、ゲート絶縁層6、ゲート7、絶縁層10、電極8および電極9を形成する第1工程と、前記第1工程で形成された層の上面にプラズマ窒化物層11を形成する第2工程と、プラズマ窒化物層11の上面にキャップ層12を形成する第3工程と、前記第3工程によりキャップ層12の形成されたトランジスタにプラズマ窒化物層11から発生する水素が拡散されて入るように熱処理する第4工程とを含む。水素拡散係数の低い材料からなるキャップ層12により、前記第4工程時に外部へ逃げる水素の量が少なくなり内部に拡散する水素の量が多くなるため水素化効果が増大する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体素子の製造方法に係り、詳細にはSOI(Silicon On Insulator)素子や薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)やMOSFET(metal-oxide semiconductor field-effect transistor)などのIC用のトランジスタを製造する際にトランジスタの特性向上のために行われる水素化工程を改善した半導体素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体素子の製造方法における水素化方法として、r.f.プラズマ水素化、ECR(electron cyclotron resonance)水素化、熱水素化、プラズマ窒化物(plasma nitride;a−SiNx :H)を使用した水素化などの方法がある。図1は従来のプラズマ窒化物を使用した薄膜トランジスタにおける水素化工程を示す熱処理工程の断面図、図3は従来のプラズマ窒化物を使用したMOSFETにおける水素化工程を示した熱処理工程の断面図である。
【0003】図1に示す薄膜トランジスタの構造は次の通りである。基板1上にバッファ用の酸化物層2が積層されており、酸化物層2の上面には活性層5が積層されている。活性層5の両端にはドーパントが注入されてソース3とドレイン4とがそれぞれ形成され、その間は通電用のチャネルになっている。前記チャネルの上部にはゲート絶縁層6を介して前記チャネルと電気的に絶縁されるゲート7が形成されている。そして、ゲート7の両側に層間の絶縁のための絶縁層10が形成されており、絶縁層10に形成された窓を通じてソース電極8およびドレイン電極9が形成されている。
【0004】この薄膜トランジスタを水素化する水素化工程は、基板1上に各素子の層を形成する第1工程と、該第1工程で形成された層の上面にプラズマ窒化物層11を形成する第2工程と、そして該第2工程により形成されたプラズマ窒化物層11から下部のトランジスタの各層へ水素が拡散されて入るように熱処理する第3工程とからなる。
【0005】また、図3に示すMOSFETにおいて、21は基板、22はソース、23はドレイン、24は酸化物層、25はゲート、26はソース電極、27はドレイン電極、28は絶縁層、そして29はプラズマ窒化物を示す。このMOSFETにおいても、図1に示す薄膜トランジスタと同様の方法によって水素化工程が行われる。
【0006】
この水素化工程によって次のような効果が得られる。
(1)順方向のゲート電圧が印加される時のターンオン電流が増加する。
(2)逆方向のゲート電圧が印加される時のターンオフ電流が減少する。
(3)サブスレショルドスロープ(subthreshold slope)が大きくなる。
(4)スレショルド電圧が低くなる。
(5)キャリア移動度が大きくなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このような効果があるにもかかわらず、従来のプラズマ窒化物を使用した水素化工程では、図1および図3に示すように、水素化熱処理時に外部へ拡散(out-diffusion)して抜けていく水素の量が多く、十分な水素化が成されないため上記の効果が十分に得られないという問題がある。また、水素の拡散効果が最も高い時間が短いため工程の安定性に欠けるという問題がある。
【0008】本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、水素化工程の熱処理時に外部へ拡散されて抜けていく水素の量を減少させて水素化効果を増大させた半導体素子の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するために、本発明による半導体素子の製造方法は、基板上に、ソースとドレインおよび前記ソースと前記ドレインの間に通電用のチャネルを形成する活性層、前記活性層を電気的に絶縁するゲート絶縁層、前記ゲート絶縁層上に形成されるゲート、各トランジスタ素子間を絶縁する絶縁層、および、前記ソースと前記ドレインにそれぞれ電極を形成する第1工程と、前記第1工程で形成された層の上面にプラズマ窒化物層を形成する第2工程と、前記第2工程で形成された前記プラズマ窒化物層の上面にキャップ層を形成する第3工程と、前記第3工程により前記キャップ層の形成されたトランジスタに前記第2工程によって形成された前記プラズマ窒化物層から発生する水素が拡散されて入るように熱処理する第4工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】本発明は、前記キャップ層を水素拡散係数の小さい物質で、あるいは耐熱性の金属で形成するのが望ましい。
【0011】
【作用】プラズマ窒化物を使用した水素化工程時に水素拡散係数の低いキャップ層を使用して水素化熱処理を行うことにより、水素化工程の熱処理時に外部へ拡散されて抜けていく水素の量が減少し、水素化効果が増大する。これにより、順方向ゲート電圧が印加される時にターンオン電流が増加し、逆方向ゲート電圧が印加される時にターンオフ電流が減少し、サブスレショルドスロープが大きくなり、スレショルド電圧が低くなり、キャリア移動度が大きくなる。
【0012】
【実施例】以下、添付した図面に基づき、本発明による半導体素子の製造方法をより詳細に説明する。
(第1実施例)本発明の第1実施例を図2に示す。この第1実施例は、本発明の半導体素子の製造方法を薄膜トランジスタに適用した例である。
【0013】ガラスや水晶などからなる基板1上にバッファ用の酸化物層2を形成し、ソース3、ドレイン4およびソース3とドレイン4との間に形成される通電のための活性層5、活性層5を電気的に絶縁するためのゲート絶縁層6、ゲート絶縁層6上に形成されるゲート7、各トランジスタ素子間の絶縁のための絶縁層10、そしてソース電極8およびドレイン電極9など、トランジスタの基本構造を形成する第1工程を行う。
【0014】次に、前記第1工程で形成された層の上面にプラズマ窒化物層11を形成する第2工程を行ったのちに、前記第2工程で形成されたプラズマ窒化物層11の上面にキャップ層12を形成する第3工程を行う。次いで、前記第2工程によって形成されたプラズマ窒化物層11から水素が発生して第1工程によって形成されたトランジスタの基本構造の中へ拡散されて入るように熱処理する第4工程を行うことにより、本発明による水素化効果を増大させた半導体素子の製造が終わる。
【0015】このように、キャップ層12を形成してから水素拡散のための熱処理を行うことにより、プラズマ窒化物11(例えば、a−SiNx :H)から発生する水素が外部へほとんど抜け出ずトランジスタの内部へ拡散されて入るようになり水素化の効果が増大する。また、キャップ層12は、プラズマシリコン(a−Si:H :plasma amorphous silicon)や耐熱性の金属など水素の拡散係数の小さい物質で形成することにより、外部へ拡散され抜け出る水素の量を減らして内部における水素拡散量を増大させ、高い濃度の勾配を長い間維持して工程上の再現性と容易性とを増大させる効果がある。
【0016】特に、水素拡散係数の小さいプラズマシリコン(a−Si:H)をキャップ層12として使用すると、多くのダングリングボンドが生じて、水素の外部への拡散に対する効果的な障壁となることができ、水素発生源としても作用できるだけでなく、プラズマ窒化物11の蒸着後に in situ成長でプラズマシリコン層を蒸着することができ、製造工程が簡単になる。また、耐熱性の水素拡散係数の小さい金属材料をキャップ層に用いることもできる。
【0017】(第2実施例)本発明の第2実施例を図4に示す。この第2実施例は、本発明の半導体素子の製造方法をMOSFETに適用した例である。図4に示したようなMOSFETに対する水素化方法は、図2に示したようなTFTに対する水素化方法と同様である。ここで、図4のMOSFETは、図3のMOSFET構造と同様の構造である。キャップ層30を除いた他の部材は図3と同一の部材番号で示した。
【0018】このように、キャップ層30を形成してから水素拡散のための熱処理を行うことにより、第1実施例と同様にプラズマ窒化物29(例えば、a−SiNx :H)から発生する水素が外部へほとんど抜け出ずトランジスタの内部へ拡散されて入るようになり水素化の効果が増大する。このようなプラズマ窒化物を使用した水素化工程において、キャップ層の使用の有無による水素の拡散深さの差を図5および図6に示す。
【0019】図5および図6は、水素化時間(t<t'<t''<t''')によるプラズマ窒化物層から半導体素子の内外への水素拡散濃度を示す特性図である。図5はキャップ層を使用していない場合、図6はキャップ層を使用した場合の水素の拡散深さを示す。キャップ層を使用することにより、トランジスタ内部への水素拡散量が多くなり拡散深さが深くなっていることが判る。
【0020】また、キャップ層を使用した場合と、使用していない場合との水素化時間に対する水素化効果を図8R>8に示す。図8において、aはキャップ層を使用した場合、bはキャップ層を使用しない場合である。キャップ層を使用した場合のほうが水素化時間に対する水素化効果が高くなっていることが判る。プラズマ窒化物を使用した薄膜トランジスタにおける水素化を450℃で30分間施した際に、キャップ層を使用した場合と、使用していない場合との薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流(Vgs-Ids)の特性曲線を図7に示す。図7において、aはキャップ層を使用した場合、bはキャップ層を使用しない場合である。キャップ層を使用した場合にはキャップ層を使用しない場合に比べてさらに良い水素化効果が現れることが判る。
【0021】
【発明の効果】プラズマ窒化物を使用した水素化工程時に、水素拡散係数の低いキャップ層を使用して水素化熱処理を行うことにより、水素化工程の熱処理時に外部へ拡散されて抜けていく水素の量が減少し、水素化効果が増大する。これにより、順方向ゲート電圧が印加される時にターンオン電流が増加し、逆方向ゲート電圧が印加される時にターンオフ電流が減少し、サブスレショルドスロープが大きくなり、スレショルド電圧が低くなり、キャリア移動度が大きくなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術による薄膜トランジスタの熱処理工程を示す断面図である。
【図2】本発明による薄膜トランジスタの熱処理工程を示す断面図である。
【図3】従来技術によるMOSFETの熱処理工程を示す断面図である。
【図4】本発明によるMOSFETの熱処理工程を示す断面図である。
【図5】従来技術による工程と水素濃度分布の変化を示す特性図である。
【図6】本発明による工程と水素濃度分布の変化を示す特性図である。
【図7】キャップ層を使用した場合と使用しない場合との薄膜トランジスタのVgs-Idsの特性曲線の比較グラフである。
【図8】キャップ層を使用した場合と使用しない場合との工程と水素化効果の変化を比較して示す特性図である。
【符号の説明】
1 基板
2 酸化物層
3 ソース
4 ドレイン
5 活性層
6 ゲート絶縁層
7 ゲート
8 ソース電極
9 ドレイン電極
10 絶縁層
11 プラズマ窒化物層
12 キャップ層
21 基板
22 ソース
23 ドレイン
24 酸化物層
25 ゲート
26 ソース電極
27 ドレイン電極
28 絶縁層
29 プラズマ窒化物
30 キャップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、ソースとドレインおよび前記ソースと前記ドレインの間に通電用のチャネルを形成する活性層、前記活性層を電気的に絶縁するゲート絶縁層、前記ゲート絶縁層上に形成されるゲート、各トランジスタ素子間を絶縁する絶縁層、および、前記ソースと前記ドレインにそれぞれ電極を形成する第1工程と、前記第1工程で形成された層の上面にプラズマ窒化物層を形成する第2工程と、前記第2工程で形成された前記プラズマ窒化物層の上面にキャップ層を形成する第3工程と、前記第3工程により前記キャップ層の形成されたトランジスタに前記第2工程によって形成された前記プラズマ窒化物層から発生する水素が拡散されて入るように熱処理する第4工程と、を含むことを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】 前記キャップ層を水素拡散係数の小さい物質で形成することを特徴とする請求項1項記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】 前記キャップ層を耐熱性の金属で形成することを特徴とする請求項2項記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】 前記キャップ層をa−Si:Hで形成することを特徴とする請求項2項記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平7−211921
【公開日】平成7年(1995)8月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−327367
【出願日】平成6年(1994)12月28日
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)