説明

半導体装置および半導体素子用基板の製造方法

【課題】半導体装置を、基板上に形成される多孔質層のクラックの発生を抑制し、大面積化しても高性能なものとする。
【解決手段】半導体装置1を、基板2と半導体素子3との間にモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとの加水分解・縮合反応により得られる化合物からなり、0.7g/cm3以下の密度を有する多孔質層4を備えたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、薄膜トランジスタ回路、ディスプレイ(画像表示装置)等の半導体装置および半導体素子用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイや薄膜太陽電池等の半導体装置においては、フレキシブル化の研究が盛んに行われている。可撓性を持たせるために基板にはPETやポリイミドといった樹脂フィルムが用いられているが、通常のガラス基板を用いたものに比較して、耐熱性が低いため、半導体の製造プロセス温度が室温付近に限定されるという問題がある。一方、半導体特性としては一般に高温プロセスで作製したものの方がその特性が良好であるため、フレキシブル化の大きな障害となっている。
【0003】
高温プロセスを行うために基板上に設けられる断熱材としては、従来より多孔質の金属化合物が知られている。典型的な例が、シリカのエアロゲルやキセロゲルに代表されるメソポーラスシリカであり、メソポーラスシリカをガラスや金属基板上に薄膜化する試みも広くなされている(特許文献1)。しかし、このような材料を樹脂基板上に膜化しようとしても、剥離が生じたり、多孔質構造の微細な空隙がつぶれて透過率が低下したり、白化したり、さらにはクラックが発生するといった問題があった。
【0004】
シリカエアロゲルの白化の問題を解決する方法として、アルコキシシランを加水分解重合反応させて薄膜状のゲル状化合物を形成し、このゲル状化合物を水及びアルコキシシランの加水分解重合反応触媒を含有する養生溶液に浸漬して養生し、ゲル状化合物を超臨界乾燥するという方法が特許文献2に記載されている。この方法によれば、養生の際にゲル状化合物が乾燥することを防ぐことができると共に、ゲル状化合物中の加水分解重合反応触媒が拡散されることを防ぐことができるので、ゲル状化合物の膜に白化や収縮、クラックが発生することを防止できると考えられる。しかし、超臨界乾燥工程を必要とするために高圧装置が必要となり、現実的な製造コストには見合わない。
【0005】
超臨界乾燥を必要としない方法として、特許文献3には、金属または半金属のアルコキシド、オルガノアルコキシシラン、ポリオルガノシロキサンから選ばれる1種または2種以上とHxSi(R5)y(OR6)4-x-y(R5、R6は炭素数1以上の有機基であり、xは1〜3の整数、yは0〜3の整数で、x+y≦4)を有機溶媒に溶解した溶液を加水分解または部分加水分解し、ゲル化、乾燥するに際して、HxSi(R5)y(OR6)4-x-yの含有量を所定量に調整することにより、低温常圧で多孔体を製造できる方法が記載されている。
一方、シランをベースとするナノポーラスシリカ薄膜を集積回路の低誘電体膜に利用することが特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−118841号公報
【特許文献2】特開2001−139321号公報
【特許文献3】特開2003−267719号公報
【特許文献4】特表2003−526197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノポーラスシリカ膜を基板上に膜化すると、数mmに1本といった頻度で、クラックが生じるという問題がある。大面積化しているディスプレイや薄膜太陽電池等の半導体装置において、このクラックは性能に大きな影響を及ぼす。クラックの原因は、溶媒乾燥時の膜の一時的な収縮が原因であると考えられる。すなわち、溶媒の蒸発に伴い多孔質膜は毛管現象により大きく収縮するが、基板と多孔質膜の界面が密着しているため、多孔質膜には極めて大きな引っ張り応力がかかることになる。ある程度の引っ張り応力までは基板と多孔質膜が一体となって反るのみであるが、多孔質膜の破断応力を超えると、多孔質膜にはクラックが入り、応力が緩和される。毛管現象による収縮は一時的なものであり、乾燥後、多孔質膜はある程度まで復元するが、クラックはそのまま残留してしまう。
【0008】
このクラックの問題は上記特許文献3に記載されているような含有量の調整では対応することができない。なお、特許文献4に記載されているナノポーラスシリカ薄膜は集積回路の製造に使用されるものであって、この集積回路の製造に際してクラック発生の問題はそもそも生じない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、基板上に形成される多孔質層のクラックの発生を抑制することが可能であって、大面積化しても高性能な半導体装置および半導体素子用基板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体装置は、基板と半導体素子からなる半導体装置であって、前記基板と前記半導体素子との間にモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとの加水分解・縮合反応により得られる化合物からなり、0.7g/cm3以下の密度を有する多孔質層を備えていることを特徴とするものである。
前記少なくとも1種のアルコキシシランはトリアルコキシシランであることが好ましく、メチルトリアルコキシシランであることがより好ましい。
【0011】
本発明の半導体素子用基板の製造方法は、基板上に、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとを含む塗布液を塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜中のアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる加熱によって密度が0.7g/cm3以下である多孔質層を形成することを特徴とするものである。
【0012】
前記塗布液に含まれる全アルコキシシランに対するテトラアルコキシシランの質量比は80%以下であることが好ましい。
前記塗布液は界面活性剤を含み、前記塗布膜中のアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる加熱をした後に、前記界面活性剤を除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体装置は、基板と半導体素子からなる半導体装置であって、基板と半導体素子との間にモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとの加水分解・縮合反応により得られる化合物からなり、0.7g/cm3以下の密度を有する多孔質層を備えているので、基板上に形成される多孔質層のクラックの発生を抑制することが可能であって、大面積化しても高性能な半導体装置とすることができる。
【0014】
本発明の半導体素子用基板の製造方法は、基板上に、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとを含む塗布液を塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜中のアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる加熱によって密度が0.7g/cm3以下である多孔質層を形成するので、高圧装置のような高額な装置を用いることなく、低コストで、量産性よく半導体素子用基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の半導体装置の一実施の形態を示す概略断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の半導体装置を図面を用いて説明する。図1は本発明の半導体装置の一実施の形態を示す概略断面模式図である。図1に示すように半導体装置1は基板2と半導体素子3との間に、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとの加水分解・縮合反応により得られる化合物からなり、0.7g/cm3以下の密度を有する多孔質層4を備えている。基板2と多孔質層4は半導体素子3の半導体素子用基板として機能する(以下、基板2と多孔質層4の積層構造を合わせて半導体素子用基板ともいう)。
【0017】
本発明における多孔質層はテトラアルコキシシランを必須の成分として含み、これによって加水分解・縮合反応により得られる化合物中のシロキサン結合の割合を増加させることが可能となり、結果弾性率を高めることができる。そして、この弾性率の向上によって、膜の乾燥時の一時的な収縮量を低減させ、膜にかかる引っ張り応力を低減することによって、多孔質層にクラックを生じさせないことが可能となる。
【0018】
多孔質層4の密度は、より好ましくは0.1g/cm3以上0.7g/cm3以下であることが好ましい。多孔質層の密度が0.7g/cm3よりも大きくなると熱伝導率が大きくなって、半導体層のアニール等の加熱の影響を受けやすくなる。一方で、多孔質層の密度が0.1g/cm3よりも小さくなると基板の材質によっては密着性が悪くなる上、半導体装置に適した強度を備えることが困難となる。
【0019】
多孔質層の密度は、例えば窒素吸着測定法(BET)により求めることができる。窒素吸着測定法では、細孔径および細孔容積V[cm3/g]を測定することができ、多孔質層の細孔を除いた真密度をρ[g/cm3]とすると、本発明における多孔質層の密度は、以下の式(1)から算出することができる。
密度 :ρ/(ρV+1)[g/cm3] (1)
なお、ポリメチルシルセスキオキサンの真密度は1.3〜1.4g/cm3程度であることが知られている(Advanced Materials.19.p1589-p1593.(2007))。
【0020】
空隙となる微細孔は、大きすぎると膜表面の平坦性に問題を生じることがあるため、好ましくは100nm以下である。一方で、小さすぎると低密度となる上、基板の材質によっては半導体装置に適した強度を有する多孔質層を得ることが困難である。従って細孔径の好ましい範囲は1〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmである。細孔径は、上記の窒素吸着測定法で測定することが可能である。また、透過電子顕微鏡観察像の画像処理から求めてもよい。
【0021】
なお、閉塞細孔や数nm以下の細孔には窒素分子が吸着できないため、上記の窒素吸着測定法でこのような細孔を計測することはできない。しかしながら、本発明における多孔質層は、ほとんどが数十nm程度の開放細孔から構成されており、窒素吸着測定法で密度を求めることに実質的な問題はない。なお、密度・細孔容積測定には、アルキメデス法、ピクノメーター、X線反射率測定、エリプソメーター、誘電率測定、陽電子寿命測定などを用いてもよい。
【0022】
多孔質層の厚さは、多孔質構造に由来する密度とその熱伝導率により、必要とされるアニール温度、また加熱方法によっても異なるが、1μm以上あれば半導体素子のアニール等の加熱の影響を受けない断熱層として十分に機能する。
【0023】
多孔質層に用いられるアルコキシシラン(出発物質となるモノマー)は、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシラン、アルコキシ基を2個有するジアルコキシシラン、アルコキシ基を3個有するトリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、アルコキシ基を4個有するテトラアルコキシシランである。これらのアルコキシ基の種類は特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等、アルコキシ基中の炭素原子の数が比較的少ないもの(炭素数として1〜4程度のもの)が反応性の点から有利である。また、トリアルコキシシランやジアルコキシシランを用いる場合は、アルコキシシラン中のケイ素原子には有機基、水酸基等が結合していてもよく、当該有機基はエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、等の官能基をさらに有していてもよい。
【0024】
モノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン等が好ましく挙げられる。
ジアルコキシシランとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン等が好ましく挙げられる。
【0025】
トリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、シアノプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イオドプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシ[2−(7−オキサビシクロ[4,1,0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アニリン、トリメトキシ[3−フェニルアミノプロピル]シラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシ[2−フェニルエチル]シラン、トリメトキシ(7−オクテン−1−イル)シラン、トリメトキシ(3,3,3−トリフルオロプロピル)シラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、[3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、トリメトキシ(3−メチルアミノ)プロピルシラン、
【0026】
メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、(1−ナフチル)トリエトキシシラン、[2−(シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、4−クロロフェニルトリエトキシシラン、(ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−イル)トリエトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピオニトリル、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート、ビス[3−トリエトキシシリルプロピル]テトラスルフィド、トリエトキシ(3−イソシアナトプロピル)シラン、トリエトキシ(3−チオイソシアナトプロピル)シラン等が好ましく挙げられる。
【0027】
とりわけ、少なくとも1種のアルコキシシランは、多孔質層の弾性率をある程度まで高めることによって、膜の乾燥時の一時的な収縮量を低減させ、膜にかかる引っ張り応力を低減するという観点からトリアルコキシシランであることが好ましく、加水分解反応の速さという観点からはメチルトリアルコキシシランであることが好ましい。
【0028】
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等が好ましく挙げられる。
【0029】
基板は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア等のセラミックス、ガラス、樹脂基板等を用いることができる。樹脂基板としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)、シンジオタクチックポリスチレンン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルホン(PSF)、ポリエステルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン等の樹脂基板を使用することができる。
【0030】
半導体素子3の細かな構成は半導体装置によって異なり、実際には複雑な構成を有している。図1は基板と半導体素子との関係を示すにとどめているが、例えば、半導体装置が薄膜トランジスタ回路の場合には、半導体素子3は画素スイッチング素子、半導体装置が太陽電池の場合には半導体素子3は光電変換素子、半導体装置が液晶表示、有機EL表示、タッチパネル用等の画像表示装置の場合には半導体素子3は画像表示素子からなる。それぞれの素子の製造方法は公知であり、各半導体装置に適した方法により製造することができる。
【0031】
続いて、半導体素子用基板の製造方法について説明する。多孔質層の形成方法としては、例えばAdvanced Materials,19,1589-1593,(2007)に記載の手法を用いることができる。この手法は、多孔質層の形成に鋳型として界面活性剤を用いることから、比較的安価な製法である。また、界面活性剤の除去に溶媒抽出法を用いていることから、超臨界乾燥法を用いる手法に比べて、温和な条件であり、連続製造にも適している。
【0032】
まず、塗布液を準備する。塗布液はモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランと溶剤とを混合する。溶剤としては、例えば、水、エタノール、メタノール等を用いることができる。またこれらにイソプロピルアルコールやメチルエチルケトン等を混合した混合溶剤を使用することもできる。
【0033】
このとき、塗布液に含まれる全アルコキシシランに対するテトラアルコキシシランの質量比は80%以下であることが好ましく、より好ましくは20%〜80%の範囲であることが好ましい。テトラアルコキシシランの添加量が20%よりも少ない場合、他のアルコキシシランの選択にもよるが、弾性率を高める効果が得られにくく、乾燥時に一時的に大きく収縮するため、クラックが入りやすくなる。一方で、テトラアルコキシシランの添加量が80%よりも多くなると、ゲル化が急速に進みすぎて成膜が困難となる場合がある。これは、塗布液中でテトラシラノールの安定性が低く、低温でも比較的短時間で重縮合反応が進んでしまい、塗布液のポットライフが短くなってしまうためであると考えられる。
【0034】
なお、塗布液は無機物を主成分とするマトリックスの前駆体、無機物の中空粒子、及び溶剤以外にも、各種酸(例えば、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸、リン酸、等)、各種塩基(例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等)、硬化剤(例えば、金属キレート化合物等)、粘度調整剤(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)等、その他の成分を含有していてもよい。
【0035】
上記のように準備した塗布液を基板上に塗布して塗布膜を形成する。塗布液を基板上に塗布する方法としては特に限定はなく、例えば、ドクターブレード法、ワイヤーバー法、グラビア法、スプレー法、ディップコート法、スピンコート法、キャピラリーコート法等の手法を用いることができる。
【0036】
用いる界面活性剤は、特に限定されるものではなく、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルトリエチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオール系非イオン性界面活性剤、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上を適宜混合して用いることができる。
【0037】
溶液中の界面活性剤の濃度は0.05〜1mol/Lであることが好ましい。この濃度が0.05mol/L未満であると多孔の形成が不完全となる傾向にあり、他方、1mol/Lを超えると未反応で溶液中に残留する界面活性剤の量が増大して多孔の均一性が低下する傾向にある。
【0038】
反応条件は、用いるアルコキシシラン等に応じて適宜選択されるが、一般的には0〜100℃程度の温度で1〜72時間程度の時間かけてアルコキシシランを加水分解・縮合反応を行う。これによって密度が0.7g/cm3以下である多孔質層を形成することができる。
【0039】
なお、ここでは多孔質層の塗布液に界面活性剤を添加する場合について説明をしたが、密度が0.7g/cm3以下である多孔質層を形成するには、アルコキシシランが環状シロキサンモノマーの場合にはこれを原料としたゾル・ゲル法等によっても製造することができる。
以下、本発明の半導体素子用基板の製造方法を実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
(密着層形成工程)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン10部、フェニルトリエトキシシラン10部、アルミニウムアセチルアセトネート0.2部、塩酸2部および水5部を混合して、密着層の塗布液Aを作製した。
最大突起厚さが0.01μm、厚さ100μmのPENフィルムを5分間、UV−オゾン処理した。処理したPENフィルム上にドクターブレード法で塗布液Aを塗布して塗布膜を形成し、形成した塗布膜を100℃で乾燥させ溶媒を除去した。続いて塗布膜を170℃で1時間加熱し、縮合反応により硬化させて密着層とした。
【0041】
(多孔質層形成工程)
0.01M酢酸35部、メチルトリメトキシシラン13部、メチルトリメトキシシラン12部、Pluronic F-127(ポリオール系非イオン性界面活性剤)5.5部、尿素2部を混合して、多孔質層の塗布液Bを作製した。上記で作製した密着層が形成されたPENフィルムの密着層上にドクターブレード法で塗布液Bを塗布して塗布膜を形成し、形成された塗布膜を密閉容器に投入し、60℃で3日間加水分解させた。続いてフィルムを60℃の水中で洗浄し、次いで60℃のメタノール中での溶媒置換、55℃のフッ素系溶剤(住友3M製Novec−7100)中での溶媒置換、を順次行い、その後乾燥させた。以上により、PENフィルム基板上に密着層と多孔質層を有する構成の半導体素子用基板を得た。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、基板をPENフィルムからガラス基板に変更し、塗布液Aをガラス基板上にスピンコート法で塗布した以外は実施例1と同様にして、半導体素子用基板を得た。
【0043】
(実施例3)
実施例1において、塗布液Bを0.01M酢酸35部、テトラメトキシシラン16部、メチルトリメトキシシラン10部、Pluronic F-127 5.5部、尿素2.5部を混合した溶液を混合した塗布液Cに変更した以外は同様の処理を行い、半導体素子用基板を得た。
【0044】
(実施例4)
実施例1において、塗布液Bを0.01M酢酸35部、テトラメトキシシラン13部、メチルトリメトキシシラン11部、フェニルトリメトキシシラン2部、Pluronic F-127 5.5部、尿素2.5部を混合した塗布液Dに変更した以外は同様の処理を行い、半導体素子用基板を得た。
【0045】
(比較例1)
実施例1において、塗布液Bを0.01M酢酸35部、メチルトリメトキシシラン24部、Pluronic F-127 5.5部、尿素2.5部を混合した塗布液Eに変更した以外は同様の処理を行い、半導体素子用基板を得た。
【0046】
(比較例2)
実施例1において、塗布液Bを0.01M酢酸35部、テトラメトキシシラン21部、メチルトリメトキシシラン5部、Pluronic F-127 5.5部、尿素2.5部を混合した塗布液Fに変更した以外は同様の処理を行い、半導体素子用基板を得た。
【0047】
(多孔質層の密度)
多孔質層を形成した塗布液B〜Fを、半密閉式のテフロン(登録商標)容器にいれ、80℃で2日間ゲル化反応を行った。ウェットゲルを沸騰水中で界面活性剤を洗浄除去した後、メタノール、及びフッ素溶媒(住友3M製、Novec−7100)で溶媒置換を行い、乾燥させて透明なドライゲルを得た。BET測定により求めた細孔容積およびこの細孔容積から上記式(1)を用いて算出した密度を表1に示す。なお、ポリメチルシルセスキオキサンの真密度は1.3g/cm3とした(Advanced Materials.19.p1589-p1593.(2007))。
【0048】
(クラックの確認)
実施例および比較例の多孔質層の5cm四方におけるクラックの本数を光学顕微鏡にて観察した。
【0049】
(多孔質層の耐熱温度)
実施例および比較例で作製した半導体素子用基板の多孔質層を分離し、熱重量分析により耐熱温度を測定した。
実施例および比較例の塗布液成分比、細孔容積、密度とともに測定結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜4の半導体素子用基板はいずれもクラックが発生していなかった。比較例1はテトラアルコキシシランを含まない塗布液により多孔質層を形成したものであるが、この場合には、多孔質層中のシロキサン結合の割合が少ないために、多孔質層の乾燥時の一時的な収縮量を低減させることができず、多孔質層にクラックが多数発生した。一方、比較例2は塗布液のテトラアルコキシシランの量が81%と大きく、ゲル化が急速に進みすぎて成膜ができなかった。
【0052】
また、実施例1〜4の半導体素子用基板は490℃〜520℃という高い耐熱温度を有しているため、半導体素子用基板上に半導体素子を設ける場合、多孔質層によって半導体素子側からの加熱の熱伝導が基板に影響を与える前に、半導体素子には性能向上に必要な十分な加熱をすることが可能であるため、基板の材質にかかわらず、高性能の半導体装置を煩雑な工程を行うことなく、低コストで、量産性よく製造することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 半導体装置
2 基板
3 半導体素子
4 多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と半導体素子からなる半導体装置であって、前記基板と前記半導体素子との間にモノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとの加水分解・縮合反応により得られる化合物からなり、0.7g/cm3以下の密度を有する多孔質層を備えていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記少なくとも1種のアルコキシシランがトリアルコキシシランであることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記トリアルコキシシランがメチルトリアルコキシシランであること特徴とする請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
基板上に、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとを含む塗布液を塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜中のアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる加熱によって密度が0.7g/cm3以下である多孔質層を形成することを特徴とする半導体素子用基板の製造方法。
【請求項5】
前記塗布液に含まれる全アルコキシシランに対するテトラアルコキシシランの質量比が80%以下であることを特徴とする請求項4記載の半導体素子用基板の製造方法。
【請求項6】
前記塗布液が界面活性剤を含み、前記塗布膜中のアルコキシシランを加水分解・縮合反応させる加熱をした後に、前記界面活性剤を除去することを特徴とする請求項4または5記載の半導体素子用基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−165804(P2011−165804A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25361(P2010−25361)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】