説明

半導体装置

【目的】上下のPt電極の間にPZT薄膜が挟まれた構造を持つPZT薄膜の製造方法に於いて、アニール後のPb含有量をPZT薄膜の深さ方向にほぼ一様とし、良好な強誘電体特性を得る。
【構成】アニール前、PZT前駆体薄膜は104から109の6層で形成されており、PZT前駆体薄膜のPb含有量が、下部電極103側のPZT前駆体薄膜104から表面側すなわち上部電極110側に行くにつれ増加している。アニール後のPb含有量の深さ方向分布はほぼ一様となる。
【効果】不揮発性メモリや、光スイッチ、キャパシタ、赤外線センサ、超音波センサ、薄膜圧電振動子として利用できる

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主に不揮発性メモリ装置に使用される強誘電体薄膜の製造方法に関し、特に鉛を1成分として含む強誘電体薄膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えばジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journalof Applied Physics)第64巻、1484項〜1493項に記載されていた様に、強誘電体メモリ装置等に使用される強誘電体キャパシタには、組成比が一様な前駆体薄膜を形成した後アニールし、強誘電体薄膜を形成していた。
【0003】図2の断面構造図を基に従来例を説明する。
【0004】すなわち、シリコン基板101上に下部電極103を形成し、下部電極103上に酸化鉛を過剰に含む、一様な組成比を持つ強誘電体薄膜の前駆体であるPZT200をスパッタ法により形成した後、ペロブスカイト構造の強誘電相を得るため、500℃から900℃の温度でアニールしていた。
【0005】その後上部電極110を形成していた。
【0006】この様に、スパッタ法に於て、強誘電体薄膜を得るには、強誘電体の前駆体薄膜を形成した後に後処理として500℃から900℃程度の温度で、酸素雰囲気中で1時間程度アニールを行い完全な強誘電相、すなわちペロブスカイト構造を得ていた。
【0007】また、従来ゾル−ゲル法に於いてもPZTを形成する場合、Pb、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)の金属アルコキシドを化学量論組成のモル比で均一溶液とし、これを下部電極上に塗布し、その後、700℃で焼成してはじめて強誘電相を得ることが出来る。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来Pbを1成分として含む強誘電体薄膜を形成する場合、この様にして下部電極上に形成された強誘電体の前駆体薄膜は、アニール時に蒸気圧の高いPbが前駆体薄膜表面から蒸発し、強誘電体薄膜の厚さ方向にPbの濃度分布が出来てしまい、化学量論的組成に非常に近い一様な強誘電性薄膜が有する特性に比べ、強誘電体薄膜の特性が著しく劣化してしまうという問題点を有していた。
【0009】そこで、本発明は従来のこの様な課題を解決しようとするもので、その目的とするところは、アニール後に於いて強誘電体薄膜の厚さ方向のPb濃度分布の変化を少なくし薄膜全体に於いて一様な組成、すなわち化学量論的組成に非常に近い膜を形成し、強誘電体特性の非常に良い膜を得る強誘電体薄膜の製造方法を提供するところにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の強誘電体薄膜の製造方法は、(1)下部電極と上部電極の間に鉛(Pb)を1成分として含む強誘電体薄膜が挟まれた構造を持つ強誘電体薄膜の製造方法に於いて、前記下部電極上に前記強誘電体薄膜または強誘電体の前駆体薄膜を前記下部電極側で鉛の濃度を低濃度に、前記上部電極側で鉛の濃度を高濃度に形成する工程と、前記強誘電体または、前記強誘電体の前駆体薄膜をアニールする工程と、前記上部電極を形成する工程とからなることを特徴とする。
【0011】(2)前記強誘電体薄膜または強誘電体の前駆体薄膜をアニールする工程と前記上部電極を形成する工程の順序が逆であることを特徴とする。
【0012】(3)前記強誘電体薄膜がPZT、PLZTであることを特徴とする。
【0013】(4)前記強誘電体薄膜または前記強誘電体の前駆体薄膜形成方法が、ゾル−ゲル法、スパッタ法のいずれかであることを特徴とする。
【0014】
【実施例】本発明の強誘電体薄膜の製造方法の第1の実施例を図1(a)〜(e)の製造工程断面図に基づき説明する。
【0015】ここでは簡単のため、強誘電体特性を調べるための試料の製造方法について述べることにする。
【0016】勿論この製造方法を半導体装置にそのまま応用すれば、強誘電体を用いた半導体メモリ装置を作ることが出来る。
【0017】第1の実施例では、強誘電体薄膜の製造方法としてゾル−ゲル法を用いた。
【0018】まず、図1(a)のように、n型シリコン基板101上に、化学的気相成長法により約5000Åの二酸化珪素膜102を、更にスパッタ法により約2000Åの白金(Pt)を下部電極103として順次形成する。
【0019】次に、図1(b)のように、500Åの第1の強誘電体前駆体薄膜104を塗布する。この強誘電体前駆体薄膜104は、Pb、Zr、Tiの金属アルコキシドを1.00:0.52:0.48のモル比で均一溶液としたものである。
【0020】この強誘電体前駆体薄膜104を下部電極103上に塗布した後、酸素雰囲気中、200℃で20分の仮焼成を行う。
【0021】その後、図1(c)に示すようにそれぞれ500Åの第2から第6の強誘電体前駆体薄膜105、106、107、108、109を同様にして形成する。
【0022】但し第2から第6の強誘電体前駆体薄膜105、106、107、108、109はPb、Zr、Tiの金属アルコキシドを下記に示すモル比で均一溶液としたものである。
【0023】Pb : Zr : Ti第2の強誘電体前駆体薄膜105 1.01:0.52:0.48第3の強誘電体前駆体薄膜106 1.02:0.52:0.48第4の強誘電体前駆体薄膜107 1.03:0.52:0.48第5の強誘電体前駆体薄膜108 1.04:0.52:0.48第6の強誘電体前駆体薄膜109 1.05:0.52:0.48すなわち、どんどん強誘電体前駆体薄膜が積み重なるにつれ、Pb濃度を増加するようにした。
【0024】第6の強誘電体前駆体薄膜109形成後にも仮焼成を行なった。
【0025】その後、酸素雰囲気中、700℃で焼成を1時間行うことにより、PZTの多結晶薄膜を形成することが出来た。
【0026】次に図1(d)に示すように、上部電極110として厚さ1000ÅのPtをスパッタ法で形成した後、図1(e)の様に、普通のフォトリソグラフィーを用いて上部電極110のPtを100μm角にパターニングした。
【0027】図3に700℃での焼成を行った前後のPb濃度の深さプロファイルを示す。
【0028】このように焼成後のPb濃度の深さ分布は、ほぼ一様となり化学量論的組成に非常に近いものであった。
【0029】図4に示すように、この強誘電体薄膜の強誘電体特性はソーヤ・タワー回路によるヒステリシスカーブで測定された。測定は室温、50Hzの周波数で行った。
【0030】残留分極30μC/cm2、抗電界30kV/cmと良好な強誘電性特性が 得られた。
【0031】第1の実施例では、強誘電体前駆体薄膜の塗布を6回行ったが、2回としてもよい。
【0032】その時は、1回目に塗布する強誘電体前駆体薄膜のPbモル比に比べて2回目に塗布する強誘電体前駆体薄膜のPbモル比を上げてやればよい。
【0033】本発明の強誘電体薄膜の製造方法の第2の実施例を図5(a)〜(d)の製造工程断面図に基づき説明する。
【0034】第2の実施例では、強誘電体薄膜の製造方法として高周波マグネトロンスパッタ法を用いた。
【0035】まず、図5(a)のように、第1の実施例と同様にして、シリコン基板101上に二酸化珪素膜102、下部電極103を形成する。
【0036】次に、図5(b)のように、2500Åの第1の強誘電体薄膜504を高周波マグネトロンスパッタ法により形成する。
【0037】この時ターゲットにPb1.1Zr0.5Ti0.53を用いた。
【0038】基板温度300℃、Ar:O2=9:1の雰囲気ガスとし、20mTorr、パワー300Wとした。
【0039】次に図5(c)に示すように、ガス圧力だけを25mTorrに増加してイン・シチュでスパッタデポジションを行ない、500Åの第2の強誘電体薄膜505を形成した。
【0040】同じターゲットを用いても雰囲気ガスの圧力だけを変化させることにより、デポジションされた薄膜の組成比を変化させることは可能である。
【0041】上に示した今のスパッタ条件に於いては、圧力を増加させることによりPb濃度を増加させることが出来る。
【0042】スパッタ直後の強誘電体薄膜504、505は完全な強誘電相すなわちペロブスカイト構造を示さない。
【0043】すなわち、ペロブスカイト構造と強誘電相を示さないパイロクロア相の混合状態となっている。
【0044】そこで、次に酸素雰囲気中、750℃で1時間アニールを行い多結晶の完全な強誘電体相を形成する。
【0045】最後に図5(d)に示すように、第1の実施例と同様にして、100μm角のPtからなる上部電極110を形成した。
【0046】図6に750℃でのアニールを行った前後のPb濃度の深さプロファイルを示す。
【0047】このようにアニール後のPb濃度の深さ分布は、ほぼ一様となり化学量論的組成に非常に近いものであった。
【0048】又、ターゲットにPb1.1Zr0.5Ti0.53.1を用い、実施例2と同様の方法を用いて強誘電体膜を製造した場合にもアニール後のPbの濃度の深さ分布はほぼ一様となった。
【0049】この強誘電体薄膜の残留分極は50μC/cm2、抗電界は35kV/cmと良好な強誘電性特性が得られた。
【0050】第2の実施例では、スパッタ中にガス圧力を2段階に分けてデポジションを行ったが、コンピュータ制御により、ガス圧力を連続的に増加させ、それにともなって強誘電体薄膜中のPb濃度を徐々に、増加させることも可能である。
【0051】また、全ガス圧力を一定に保ちながら、Ar分圧を増加させることによっても強誘電体薄膜中のPb濃度を増加させることもできるし、ターゲットとシリコン基板の距離を増加させることによっても、強誘電体薄膜中のPb濃度を増加させることが可能である。
【0052】第2の実施例において、アニールを行なってから上部電極110を形成したが、上部電極110を形成した後、アニールを行なってもよい。
【0053】第1及び第2の実施例に於いて、シリコン基板を用いたがマグネシア(MgO)、サファイア等他の基板を用いても良い。
【0054】また、強誘電体薄膜として、PZTすなわちPb(ZrXTi1-X)O3、X=0.48、0.5を用いて説明したが、他の組成比を持つPZTであってもよいし、ランタン(La)をドーピングしたPLZTでも勿論良いし、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、ナイオビウム(Nb)、ストロンチウム(Sr)等がドーピングされていても勿論良い。
【0055】
【発明の効果】本発明の強誘電体薄膜の製造方法は、以上説明したように下部電極と上部電極の間に鉛(Pb)を1成分として含む強誘電体薄膜が挟まれた構造を持つ強誘電体薄膜の製造方法に於いて、前記下部電極上に前記強誘電体の前駆体薄膜を前記下部電極側で鉛の濃度を低濃度に、前記上部電極側で鉛の濃度を高濃度に形成することによって、アニールを行い完全な強誘電相を得た後のPb組成比の上下方向のずれを極力無くす事により、強誘電体特性の良好な薄膜を得ることが出来る効果を有する。
【0056】更に、この強誘電体薄膜の製造方法を用いれば、不揮発性メモリや、光スイッチ、キャパシタ、赤外線センサ、超音波センサ、薄膜圧電振動子として利用できるといった効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の強誘電体薄膜の製造方法の第1実施例を示す製造工程断面図である。
【図2】従来の強誘電体薄膜の製造方法を説明するための断面構造図である。
【図3】本発明の第1実施例の強誘電体薄膜のPb濃度の表面からの深さ依存性を示すグラフである。
【図4】本発明の第1実施例の強誘電体薄膜の強誘電体特性を示す図である。
【図5】本発明の強誘電体薄膜の製造方法の第2実施例を示す製造工程断面図である。
【図6】本発明の第2実施例の強誘電体薄膜のPb濃度の表面からの深さ依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
101 シリコン基板
102 二酸化珪素膜
103 下部電極
104 第1の強誘電体前駆体薄膜
105 第2の強誘電体前駆体薄膜
106 第3の強誘電体前駆体薄膜
107 第4の強誘電体前駆体薄膜
108 第5の強誘電体前駆体薄膜
109 第6の強誘電体前駆体薄膜
110 上部電極
200 PZT
504 第1の強誘電体薄膜
505 第2の強誘電体薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下部電極と上部電極の間に鉛(Pb)を1成分として含む強誘電体薄膜が挟まれた構造を持つ強誘電体薄膜の製造方法に於いて、前記下部電極上に前記強誘電体薄膜または前記強誘電体の前駆体薄膜を前記下部電極側で鉛の濃度を低濃度に、前記上部電極側で鉛の濃度を高濃度に形成する工程と、前記強誘電体薄膜または前記強誘電体の前駆体薄膜をアニールする工程と、前記上部電極を形成する工程とからなることを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の強誘電体薄膜または強誘電体の前駆体薄膜をアニールする工程と上部電極を形成する工程の順序が逆であることを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項3】 請求項1記載の強誘電体薄膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)であることを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項4】 請求項1記載の強誘電体薄膜または強誘電体の前駆体薄膜形成方法が、ゾル−ゲル法、スパッタ法のいずれかであることを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−82796(P2000−82796A)
【公開日】平成12年3月21日(2000.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−255974
【分割の表示】特願平4−240908の分割
【出願日】平成4年9月9日(1992.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)