説明

半導体製造装置

【課題】イオンビームの走査方法によらず、ウェハ上に形成された半導体装置への正のチャージアップを抑制できるようにする。
【解決手段】半導体製造装置は、ウェハ50の上に、絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、イオンビーム2を導入するイオン源1及びビームライン4と、被処理膜にイオンビーム2が持つ電荷を打ち消すための電子を供給するフラッドガン6と、被処理膜をイオンビーム2に対してr−θ方向の2方向に機械的に走査する回転ディスク5と、イオンビーム2により生じる電流密度を測定する後段ファラデー箱8と、被処理膜の走査速度を変更するディスク回転速度制御器11及びディスクスキャン速度制御器12と、電流密度により、被処理膜の走査速度を制御するビーム電流/電流密度計測器10とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜を有する半導体装置に不純物を注入する半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の微細化と共にゲート絶縁膜の薄膜化が進んでいるため、ゲート絶縁膜が製造プロセス中のダメージにより損傷を受け、絶縁破壊を起こす可能性が高まっている。
【0003】
例えば、イオン注入工程において、正に帯電したエネルギーを持つイオンビームを半導体素子及びウェハ(半導体基板)の表面に直接に打ち込むため、形成される半導体装置の表面は正に帯電しやすい。イオンビームによる電荷量が一定量、すなわちゲート絶縁膜に固有の破壊電荷量Qbdを超えた場合には、絶縁膜の破壊が発生する(例えば、非特許文献1を参照。)。このとき、一般に、ゲート絶縁膜の面積よりもゲート電極部分の面積の方が大きい、いわゆるアンテナ構造を取るため、絶縁破壊が起こりやすい。また、ゲート電極とゲート絶縁膜との面積の比であるアンテナ比の値が大きいほど破壊が発生しやすい。
【0004】
イオンビームによる破壊は、イオン注入時のビーム電流密度が高いほど発生しやすく、また、加速エネルギーが高いほど大きくなることが知られている。このため、イオン注入条件である加速エネルギー及びビーム電流をゲート絶縁膜の破壊電荷量Qbd以下となるように設定することによって、チャージアップによる絶縁破壊を避ける提案もなされている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
一方、イオンビームに起因する正のチャージアップを抑制するために、イオン注入時にイオンビームと同時に電子を供給して、正の電荷を打ち消すことにより正のチャージアップを抑制するフラッドガンシステム(flood gun system)が知られている。しかし、このフラッドガンシステムも負の電荷(電子)を半導体装置の表面に直接に供給するため、半導体表面が負に帯電してしまい、負のチャージアップによる破壊が発生することも知られている。このため、フラッドガンシステムから供給される電子のエネルギーを低く抑え、半導体素子の表面の負のチャージアップを破壊電圧以下の一定値に抑制する技術も報告されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された技術により、フラッドガンシステムに起因する負のチャージアップによるゲート絶縁膜の破壊は抑制されるものの、依然としてイオンビームによる正のチャージアップによるゲート絶縁膜の破壊は完全には抑制できていない。なぜなら、イオン注入時にフラッドガンシステムから電子を供給したとしても、イオンビームがウェハに照射される瞬間の電位は完全に打ち消されている訳ではなく、イオンビームと電子とにより決定される電位分布が存在するためである。このため、これまで述べられてきたように、イオンビームのビーム電流及び加速エネルギーだけではなく、イオンビームのウェハに対する走査速度にも依存して、チャージアップが発生してしまう。とりわけ、本願発明者らは、ビームの走査速度によりイオンビームによるチャージアップの状態が大きく異なることを見い出した。
【0007】
ビームの走査方法は、ウェハを固定してイオンビームを静電的若しくは電磁的にX−Y2次元方向に走査する方法、イオンビームを静電的若しくは電磁的に1次元方向に走査しながらウェハをイオンビームの走査方向に対して垂直な方向で且つ1次元方向に機械的に走査する方法、又はイオンビームを固定し且つウェハを回転ディスク上に保持し、ウェハが保持された回転ディスクを回転させながら、ディスクの径方向に1次元走査を行なうr−θスキャン走査法がある。さらには、イオンビームを固定してウェハをX−Y2次元方向に機械的に走査する方法等の多種多様な方法がある。従って、ビームの走査方法によって、イオンビームとウェハとの間の相対線速度は大きく異なる。このように、極めて低速の走査法から極めて高速の走査法まで多様な走査速度が存在するため、これら走査速度及び走査方法によらず、正のチャージアップを抑制する方法が要望される。
【非特許文献1】Hiroko KUBO et al., “Quantiative Charge Build-Up Evaluation Technique by Using MOS Capacitors with Charge Collecting Electrode in Wafer Processing”, IEICE Transactions on Electronics Vol.E79-C No.2,pp.198-pp.205, Feb. 1996
【特許文献1】特開平7−221306号公報
【特許文献2】特許第3202002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、イオン注入時のイオンビームによる正のチャージアップは、ゲート絶縁膜の絶縁破壊若しくは絶縁性の劣化、又はPN接合の接合破壊若しくは接合界面の劣化等の、半導体デバイスにとって致命的な損傷を及ぼすことを見い出している。
【0009】
通常は、前述したように、イオンビームによる正のチャージアップを中和するために、負の電荷を持つ電子をフラッドガンによりイオンビームの近傍に供給している。一方、フラッドガンについても負のチャージアップを引き起こすため、条件によってはフラッドガンにより半導体デバイスに損傷を与えることもある。このため、ゲート絶縁膜の膜厚をt(nm)としたとき、供給される電子の最大エネルギーを2t(eV)以下に抑制できる電子フラッドガンを用いることにより、フラッドガンによる損傷を低減できることが特許文献2に開示されている。従って、少なくともフラッドガンによる負の過剰なチャージアップは、特許文献2におけるフラッドガン条件を用いれば、デバイス構造によらずに回避することが可能である。
【0010】
しかしながら、正のチャージアップは、注入される正のイオンビームによって引き起こされるため、該イオンビームの加速エネルギーは使用されるプロセスでの設計値となる。従って、前述したフラッドガンの電子エネルギーのように一義的に決めることはできない。例えば、正のイオンビームの加速エネルギーは、プロセス設計により、通常の100eVから数百eV、ときには数MeVに設定される。また、正のイオンビーム電流についても、数百μAから数十mAまでそのドーズ量に応じて設定される。このため、正のイオンビームによるチャージアップは、ビーム電流密度及びビームの加速エネルギーによって大きく左右されることになる。このことは特許文献1にも記載されている。
【0011】
これまで、一般に、正のイオンビーム電流にフラッドガンからの電子を照射すると、正のイオンビームは電子により中和されると考えられてきたが、本願発明者らは、イオン注入されるウェハ表面の表面電位を詳細に解析することにより、正のイオンビームは負の電子により中和されるのではなく、図9(a)に示すように、フラッドガンから放出された電子102が正のイオンビーム101の周囲を単に取り巻いているに過ぎないということを突き止めた。
【0012】
具体的には、図9(b)に示すように、ウェハ103の一表面を正のイオンビームが通過するときには、まず、ウェハ103は、正のイオンビーム101を取り巻く電子102により負にチャージアップする。続いて、正のイオンビーム101により正にチャージアップし、続いて、正のイオンビームを取り巻く電子102により負に再度チャージアップする。従って、フラッドガンによる正のチャージアップの中和とは、一旦、正のイオンビーム101により上昇した表面電位が、その後のフラッドガンからの電子によって低下することにより達成されている。従って、フラッドガンからの電子による正のチャージアップの中和とは、イオンビームの照射時に、正のチャージアップが電子によって同時に中和されるのではなく、一旦、正にチャージアップした表面電位をフラッドガンからの電子により元の電位に戻すことによる、見かけ上の中和に過ぎない。
【0013】
図10(a)に示すように、表面電位は、一旦、フラッドガン102による負の電位105から、正のイオンビーム101により正の電位106に上昇する。このときの電位の変化率dV/dtはイオンのエネルギー及びビーム電流密度で決定される。また、最終的な上昇電位は、ビームがウェハ上の1点を通過するのに要する時間で決定される。このため、イオンビームが1点に照射され続ければ電位は上昇し、やがてゲート絶縁膜の絶縁破壊耐圧107を超えることになる。
【0014】
一方、ゲート絶縁膜の絶縁破壊耐圧107を超えると、ゲート絶縁膜にはトンネル電流が流れ始める。このため、表面電位の上昇は鈍くなるものの、ゲート絶縁膜に過大な電流が流れ続け、ついには絶縁破壊に至る。すなわち、ウェハ上の任意の1点において、ビームは常に走査により移動して表面電位が正にチャージアップし、絶縁破壊耐圧107に達しないうちにフラッドガンにより正のチャージアップ電圧を中和する必要がある。このことは、イオンビームの走査速度、すなわちウェハ上の1点とイオンビームとの相対速度が所定値よりも小さい場合に顕著に起こる。すなわち、イオンビームとウェハ上の1点との間の相対速度が所定値よりも小さければ、イオンビームの通過に多くの時間を要するため、その間にウェハの表面電位はビーム電流密度に応じて上昇を続け、ついにはゲート絶縁膜の絶縁破壊又は損傷に至る。このように、フラッドガンによる正のチャージアップの中和は、ゲート絶縁膜が正のチャージアップにより損傷を受けるか又は破壊された後に、電子が供給されるため、実際には正のチャージアップを中和することはできない。
【0015】
ところで、図10(b)に示すように、固定された正のイオンビーム101と、複数のウェハ103を保持した回転ディスク104とを有し、該回転ディスク104がY方向に機械的にスキャンする、いわゆるr−θスキャン装置の場合には、該スキャン装置の走査機構の制約及びプロセス条件の制約によって回転ディスク104の回転速度が決定される。従って、イオンビーム101の走査機構にかかわらず、該イオンビーム101の生成側で正のチャージアップを抑制できることが望ましい。
【0016】
本発明は、前記従来の問題を解決し、イオンビームの走査方法によらず、ウェハ上に形成された半導体装置への正のチャージアップを抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の目的を達成するために、本願発明者らは種々の検討を行なった。その結果について以下に述べる。
【0018】
図11(a)はイオンビームとウェハとの相対速度及びイオンビームの最大ビーム電流密度を種々の条件で変更したときの、走査されたウェハ上のゲート絶縁膜の破壊率の関係を表わしている。図11(a)において、横軸はイオンビームとウェハとの相対速度(スキャン速度)を表わし、縦軸はゲート絶縁膜の破壊率を表わしている。ここで、イオンビームの正の電荷を打ち消すためにフラッドガンから供給される電子の最大エネルギーは、ゲート絶縁膜の膜厚t(nm)に対して2t(eV)以下に保たれている。
【0019】
図11(a)から分かるように、イオンビームの最大ビーム電流密度が高いほど、正のチャージアップを抑制するには、イオンビームとウェハとの相対速度を大きくする必要がある。
【0020】
図11(b)にビーム電流密度をスキャン速度で規格化した値とウェハ上のゲート絶縁膜の破壊率との関係を示す。すなわち、図11(b)は図11(a)におけるビーム電流密度をスキャン速度で規格化してプロットし直している。図11(b)から分かるように、フラッドガンから供給される電子による負のチャージアップを抑制する条件下では、ゲート絶縁膜の正のチャージアップによる破壊率は、照射されるイオンビームの最大ビーム電流密度によらず、「最大ビーム電流密度をスキャン速度で除した値」にのみ依存している。すなわち、イオンビームの正のチャージアップは、以下の式(1)を満たせば、抑制可能であることを突き止めた。
【0021】
(イオンビームの最大ビーム電流密度[A/m])
/(イオンビームとウェハとの相対速度[m/s])≦5 ……… 式(1)
ビームの走査方法によっては、イオンビームとウェハとの相対速度はある程度の範囲に限定されるものの、使用可能なイオンビームの最大ビーム電流密度を決定することが可能である。逆に、イオン注入時に使用したいイオンビームの最大ビーム電流密度が決まれば、イオンビームとウェハとの相対速度の値を一義的に決める必要があることが分かる。
【0022】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、具体的には、以下の構成によって実現される。
【0023】
本発明に係る第1の半導体製造装置は、半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、被処理膜に、不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、被処理膜を不純物に対してX−Y方向又はr−θ方向の2方向に機械的に走査する走査手段と、不純物により生じる電流密度J(A/m)を測定する電流密度測定手段と、被処理膜の走査速度を変更する走査速度変更手段と、電流密度J(A/m)の値により、被処理膜の走査速度を制御する走査速度制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0024】
第1の半導体製造装置によると、機械的に2方向に走査する走査手段を備えた場合に、電流密度J(A/m)の値により、被処理膜の走査速度を制御する走査速度制御手段を備えているため、表面電位が正のチャージアップにより破壊電圧にまで達しないうちに、電子供給手段(フラッドガン)により電子を供給することが可能となり、被処理膜又は該被処理膜が形成されている半導体基板の正のチャージアップが防止される。すなわち、イオンビームの走査方法によらず、半導体基板上に形成された半導体装置への正のチャージアップを抑制することが可能となる。
【0025】
第1の半導体製造装置において、走査速度制御手段は、電流密度J(A/m)の値によって、被処理膜の走査速度を所定値以上の速度に制御することが好ましい。
【0026】
この場合に、被処理膜の走査速度の所定値は、式(1)からJ/5(m/s)であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る第2の半導体製造装置は、半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、被処理膜に、不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、被処理膜を不純物に対してX−Y方向又はr−θ方向の2方向に機械的に走査する走査手段と、不純物により生じる電流密度を測定する電流密度測定手段と、被処理膜の走査速度v(m/sec)を測定する走査速度測定手段と、被処理膜の走査速度を制御する走査速度制御手段と、不純物の発生量及び不純物により生じる電流密度を制御する第1の電流密度制御手段と、走査速度v(m/s)の値により、電流密度を制御する第2の電流密度制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0028】
第2の半導体製造装置によると、機械的に2方向に走査する走査手段を備えた場合に、走査速度v(m/s)の値により、電流密度を制御する第2の電流密度制御手段とを備えているため、表面電位が正のチャージアップにより破壊電圧にまで達しないうちに、電子供給手段(フラッドガン)により電子を供給することが可能となり、被処理膜又は該被処理膜が形成されている半導体基板の正のチャージアップが防止される。すなわち、イオンビームの走査方法によらず、半導体基板上に形成された半導体装置への正のチャージアップを抑制することが可能となる。
【0029】
第2の半導体製造装置において、第2の電流密度制御手段は、走査速度v(m/s)の値によって、不純物の電流密度を0よりも大きく且つ所定値以下の電流密度に制御することが好ましい。
【0030】
この場合に、電流密度の所定値は、式(1)から5v(A/m)であることが好ましい。
【0031】
第2の半導体製造装置において、第2の電流密度制御手段は、電流密度が5v(A/m)よりも大きい場合に、走査手段を制御することにより、不純物の導入動作を一旦停止し、電流密度が5v(A/m)以下の値に制御されると、不純物の導入動作を再開することが好ましい。
【0032】
第1又は第2の半導体製造装置において、不純物導入手段は、不純物としてイオンを注入するイオン注入手段であることが好ましい。
【0033】
また、第1又は第2の半導体製造装置は、電子供給手段により供給される電子のエネルギーを制御する電子エネルギー制御手段と、電子供給手段により供給される電子のエネルギーを測定する電子エネルギー測定手段とをさらに備えていることが好ましい。
【0034】
この場合に、電子エネルギー測定手段は、電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを測定することが好ましい。
【0035】
またこの場合に、電子エネルギー測定手段は、測定した電子のエネルギーに基づいて、エネルギー制御手段に対して、電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを所定値以下となるように制御することが好ましい。
【0036】
第1又は第2の半導体製造装置において、絶縁膜の膜厚はt(nm)であり、電子エネルギー制御手段は、電子の最大エネルギーを0(eV)よりも大きく且つ2t(eV)以下に制御することが好ましい。
【0037】
本発明に係る第3の半導体製造装置は、半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、被処理膜に、不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、被処理膜を不純物に対して一方向に機械的に走査する第1の走査手段と、被処理膜の走査速度を変更する第1の走査速度変更手段と、不純物を一方向に対して垂直な方向に走査する第2の走査手段と、不純物の走査速度を変更する第2の走査速度変更手段と、不純物により生じる電流密度J(A/m)を測定する電流密度測定手段と、電流密度J(A/m)の値により、被処理膜の走査速度及び不純物の走査速度を制御する走査速度制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0038】
第3の半導体製造装置によると、一方向に機械的に走査する走査手段を備えた場合に、電流密度J(A/m)の値により、被処理膜の走査速度及び不純物の走査速度を制御する走査速度制御手段を備えているため、表面電位が正のチャージアップにより破壊電圧にまで達しないうちに、電子供給手段(フラッドガン)により電子を供給することが可能となり、被処理膜又は該被処理膜が形成されている半導体基板の正のチャージアップが防止される。すなわち、イオンビームの走査方法によらず、半導体基板上に形成された半導体装置への正のチャージアップを抑制することが可能となる。
【0039】
第3の半導体製造装置において、走査速度制御手段は、電流密度J(A/m)の値によって、不純物の走査速度を所定値以上の速度に制御することが好ましい。
【0040】
この場合に、不純物の走査速度の所定値は、J/5(m/s)であることが好ましい。
【0041】
第3の半導体製造装置において、走査速度制御手段は、不純物の電流密度J(A/m)により不純物の走査速度及び被処理膜の走査速度を所定値以上の速度に制御することが好ましい。
【0042】
第3の半導体製造装置において、走査速度制御手段は、不純物の走査速度及び被処理膜の走査速度によって決定される被処理膜と不純物との相対速度がJ/5(m/sec)以上となるように制御することが好ましい。
【0043】
本発明に係る第4の半導体製造装置は、半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、被処理膜に、不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、被処理膜を不純物に対して一方向に機械的に走査する第1の走査手段と、被処理膜の走査速度を測定する第1の走査速度測定手段と、被処理膜の走査速度を制御する第1の走査速度制御手段と、不純物を一方向に対して垂直な方向に走査する第2の走査手段と、不純物の走査速度を測定する第2の走査速度測定手段と、不純物の走査速度を制御する第2の走査速度制御手段と、不純物の発生量及び不純物により生じる電流密度を制御する第1の電流密度制御手段と、不純物の走査速度及び被処理膜の走査速度によって決定される被処理膜と不純物との相対速度v(m/sec)の値により、不純物の電流密度を制御する第2の電流密度制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0044】
第4の半導体製造装置によると、一方向に機械的に走査する走査手段を備えた場合に、不純物の走査速度及び被処理膜の走査速度によって決定される被処理膜と不純物との相対速度v(m/sec)の値により、不純物の電流密度を制御する第2の電流密度制御手段を備えているため、表面電位が正のチャージアップにより破壊電圧にまで達しないうちに、電子供給手段(フラッドガン)により電子を供給することが可能となり、被処理膜又は該被処理膜が形成されている半導体基板の正のチャージアップが防止される。すなわち、イオンビームの走査方法によらず、半導体基板上に形成された半導体装置への正のチャージアップを抑制することが可能となる。
【0045】
第4の半導体製造装置において、第2の電流密度制御手段は、相対速度v(m/sec)の値によって、不純物の電流密度を0より大きく且つ所定値以下の電流密度に制御することが好ましい。
【0046】
第4の半導体製造装置において、第1の電流密度制御手段は、不純物により生じる電流密度を5v(A/m)以下に制御することが好ましい。
【0047】
第4の半導体製造装置において、第2の電流密度制御手段は、電流密度が5v(A/m)よりも大きい場合に、走査手段を制御することにより、不純物の導入動作を一旦停止し、電流密度が5v(A/m)以下の値に制御されると、不純物の導入動作を再開することが好ましい。
【0048】
第3又は第4の半導体製造装置において、不純物導入手段は、不純物としてイオンを注入するイオン注入手段であることが好ましい。
【0049】
また、第3又は第4の半導体製造装置は、電子供給手段により供給される電子のエネルギーを制御する電子エネルギー制御手段と、電子供給手段により供給される電子のエネルギーを測定する電子エネルギー測定手段とをさらに備えていることが好ましい。
【0050】
この場合に、電子エネルギー測定手段は、電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを測定することが好ましい。
【0051】
また、この場合に、電子エネルギー測定手段は、測定した電子のエネルギーに基づいて、電子エネルギー制御手段に対して、電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを所定値以下となるように制御することを特徴とする請求項23に記載の半導体製造装置。
【0052】
第3又は第4の半導体製造装置において、絶縁膜の膜厚はt(nm)であり、電子エネルギー制御手段は、電子の最大エネルギーを0(eV)よりも大きく且つ2t(eV)以下に制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0053】
本発明に係る半導体製造装置によると、イオンビームの走査方法によらず、半導体基板上に形成された絶縁膜を有する半導体装置における正のチャージアップを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る半導体製造装置についてイオン注入装置を例として図面を参照しながら説明する。
【0055】
図1は本発明の第1の実施形態に係る半導体製造装置を模式的に示している。図1に示すように、ウェハ50に不純物イオンとして注入されるイオンを発生するイオン源1と、該イオン源1から引き出されたイオンビーム2から所定のイオン種を選別する質量分析器3と、選別されたイオン種をウェハ50に導入するビームライン4と、複数のウェハ50を載置し且つその載置面内でウェハ50を回転する回転ディスク5とを有している。なお、ここでは、ウェハ50の主面上には、ゲート絶縁膜等の絶縁膜を介在させて形成され、イオンが導入される被処理膜が形成されているが、絶縁膜及び被処理膜の図示は省略している。
【0056】
ビームライン4にはイオンビーム2に電子を供給してチャージアップを抑制するフラッドガン6が設けられている。なお、フラッドガン6には、該フラッドガン6により供給される電子のエネルギーを制御する電子エネルギー制御器と、フラッドガン6により供給される電子のエネルギー、特に電子の最大エネルギーを測定する電子エネルギー測定器が設けられていることが好ましい。また、この場合に、ウェハ50に成膜された絶縁膜の膜厚をt(nm)とした場合に、電子エネルギー制御器は、電子の最大エネルギーを0(eV)よりも大きく且つ2t(eV)以下に制御することがことが好ましい。
【0057】
回転ディスク5は、回転運動と往復運動との2軸(r−θ)方向に走査可能であり、この構成により、イオンビーム2は各ウェハ50の主面の全面に照射される。
【0058】
ビームライン4には、前段ファラデー箱(Faraday cage)7がイオンビーム2の軌道上にまで移動可能に設けられており、イオンビーム2によるビーム電流及びビーム電流密度の値をそれぞれ計測することができる。
【0059】
回転ディスク5を挟んでビームライン4と対向する位置には、後段ファラデー箱8が設けられている。後段ファラデー箱8は、各ウェハ50にイオン注入を実際に行なっている際のイオンビーム2におけるビーム電流及びビーム電流密度の値をそれぞれ計測することができる。後段ファラデー箱8による計測時には、前段ファラデー箱7はイオンビーム2の軌道上から離れ、図1で示された待機位置に留まる。
【0060】
前段ファラデー箱7及び後段ファラデー箱8は、ビーム電流/電流密度計測器10と電気的に接続されている。従って、ビーム電流/電流密度計測器10は、イオン注入の直前には前段ファラデー箱7から、また、イオン注入時には後段ファラデー箱8からそれぞれビーム電流及びビーム電流密度の値をリアルタイムに取得することができる。
【0061】
また、回転ディスク5には、該回転ディスク5の回転速度を制御するディスク回転速度制御器11と、スキャン速度を制御するディスクスキャン速度制御器12とが電気的に接続されている。
【0062】
ビーム電流/電流密度計測器10は、取得したイオンビーム2のビーム電流及びビーム電流密度J(A/m)の値から、イオンビーム2と各ウェハ50との相対速度が所定の値以上となるように、回転ディスク5の回転速度及びスキャン速度を計算し、ディスク回転速度制御器11及びディスクスキャン速度制御器12に速度情報を送信する。
【0063】
一般に、ビーム電流は、イオン源1において生じる揺らぎ等によりイオン注入時に変動するが、後段ファラデー箱8はリアルタイムにその変動情報を取得して、ビーム電流/電流密度計測器10に取得した情報を送り、回転ディスク5の最適な回転速度及びスキャン速度を計算し、その計算結果をディスク回転速度制御器11及びディスクスキャン速度制御器12に送信して制御し続ける。
【0064】
図2にスキャン速度で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示す。図2はイオン注入条件として、例えばイオン種に砒素(As)イオンを用い、イオンの加速エネルギーを20keVとし、最大ビーム電流量をそれぞれ1mA、1.8mA、3.2mA、5.6mA、10mA及び18mAとしたときに、スキャン速度(相対速度)の上限値で計測した結果を示す。グラフの横軸は、イオン注入時におけるイオンビーム2の最大電流密度を各スキャン速度の上限値で除した値を表わし、縦軸はゲート酸化膜の破壊率を表わしている。
【0065】
図2から分かるように、イオンビーム2の最大ビーム電流密度をスキャン速度の上限値で除した値が5以下の場合にゲート酸化膜の破壊を抑制でき、さらに、除した値が3以下の場合には、ゲート絶縁膜の破壊をほぼ確実に抑制することができる。
【0066】
すなわち、式(1)の関係から、イオンビーム2の最大ビーム電流密度J(A/m)により、イオンビーム2とウェハ50との相対速度をJ/5(m/sec)以上とすることにより、イオンビーム2による正のチャージアップを抑制することができ、ゲート絶縁膜の破壊を防止することができる。
【0067】
なお、第1の実施形態おいて、イオン注入装置を例に説明したが、これに限られず、電荷を持つ不純物を導入する装置であれば、同様の効果を得ることができる。
【0068】
また、第1の実施形態においては、イオン注入条件として、イオン種をAs、イオンの加速エネルギーを20keV、ビーム電流値を1mA〜18mAとしたが、イオン注入条件はこれらに限定されず、イオン種、イオンの加速エネルギー、イオン注入量及びビーム電流値については適宜変更可能である。
【0069】
また、第1の実施形態においては、ウェハ50を保持し走査する手段として、回転ディスク5を用いたr−θ方向の2軸走査の場合を説明したが、これに限られない。例えば、x−y方向の2軸走査等、ウェハ50の全面にイオンビーム2を照射するために、イオンビーム2の軌道を固定し且つウェハ50を2軸以上で機械的に走査する方法であれば、同様の効果を得ることができる。
【0070】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る半導体製造装置についてイオン注入装置を例として図面を参照しながら説明する。
【0071】
図3は本発明の第2の実施形態に係る半導体製造装置を模式的に示している。図3において、図1に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0072】
図3に示すように、第2の実施形態の第1の実施形態との相違点は、回転ディスク5に該回転ディスク5の回転速度を計測するディスク回転速度計測器13と、回転ディスク5のスキャン速度(r方向)を計測するディスクスキャン速度計測器14とが設けられている点、及びイオン源1にビーム電流/電流密度計測器10からの信号を受けるイオン源調整器15が設けられている点である。
【0073】
第2の実施形態においては、ディスク回転速度計測器13が回転ディスク5の回転速度を計測し、また、ディスクスキャン速度計測器14が回転ディスク5のスキャン速度(スキャン駆動部の移動速度)を計測している。これらの計測結果は、ビーム電流/電流密度計測器10にリアルタイムに送信される。
【0074】
ビーム電流/電流密度計測器10は、ディスク回転速度計測器13及びディスクスキャン速度計測器14からそれぞれ取得した回転ディスク5の回転速度及びスキャン速度から、イオンビーム2とウェハ50との実際の相対速度を計算し、その計算値から現在のイオンビーム2の最大ビーム電流密度が所定値以下であるか否かを判定する。判定結果が所定値以下である場合は、そのままイオンの注入動作を継続し、逆に所定値よりも大きい場合はイオンの注入動作を一旦停止し、停止情報をイオン源調整器15に送信する。停止情報を受けたイオン源調整器15は、イオンビーム2におけるビーム電流及びビーム電流密度の値を再調整する。その後、イオンビーム2の最大ビーム電流密度が所定値を満足した場合は、再度イオン注入を再開する。
【0075】
前述したように、ビーム電流は、一般にイオン源1において生じる揺らぎ等によりイオン注入時に変動するが、後段ファラデー箱8はリアルタイムにその変動情報を取得して、ビーム電流/電流密度計測器10に該変動情報を送る。これと同時に、ディスク回転速度計測器13及びディスクスキャン速度計測器14は、それぞれ取得した回転ディスク5の回転速度及びスキャン速度をビーム電流/電流密度計測器10に送り続ける。ビーム電流/電流密度計測器10は、イオンビーム2の変動情報、回転ディスク5の回転速度及びスキャン速度からビーム電流密度が適当な値であるか否かを判定し、制御し続ける。
【0076】
図4にスキャン速度で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示す。図4はイオン注入条件として、例えばイオン種に砒素(As)イオンを用い、イオンの加速エネルギーを20keVとし、スキャン速度(相対速度)をそれぞれ1m/s、3m/s、10m/s、30m/s、100m/s及び300m/sのように、スキャン速度の上限値を変更して計測した結果を示す。グラフの横軸は、イオン注入時におけるイオンビーム2の最大電流密度を各スキャン速度の上限値で除した値を表わし、縦軸はゲート酸化膜の破壊率を表わしている。
【0077】
図4から分かるように、イオンビーム2の最大ビーム電流密度を各スキャン速度の上限値で除した値が5以下の場合にゲート酸化膜の破壊を抑制でき、さらに、除した値が3以下の場合には、ゲート絶縁膜の破壊をほぼ確実に抑制することができる。
【0078】
すなわち、式(1)の関係から、イオンビーム2とウェハ50の相対速度v(m/sec)により、イオンビーム2の最大電流密度を5v(A/m)以下に設定することにより、イオンビーム2による正のチャージアップを抑制することができ、ゲート絶縁膜の破壊を防止することができる。
【0079】
なお、第2の実施形態おいて、イオン注入装置を例に説明したが、これに限られず、電荷を持つ不純物を導入する装置であれば、同様の効果を得ることができる。
【0080】
また、第2の実施形態においては、イオン注入条件として、イオン種をAs、イオンの加速エネルギーを20keVとしたが、イオン注入条件はこれらに限定されず、イオン種、イオンの加速エネルギー及びイオン注入量については適宜変更可能である。
【0081】
また、第2の実施形態においては、ウェハ50を保持し走査する手段として、回転ディスク5を用いたr−θ方向の2軸走査の場合を説明したが、これに限られない。例えば、x−y方向の2軸走査等、ウェハ50の全面にイオンビーム2を照射するために、イオンビーム2の軌道を固定し且つウェハ50を2軸以上で機械的に走査する方法であれば、同様の効果を得ることができる。
【0082】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態に係る半導体製造装置についてイオン注入装置を例として図面を参照しながら説明する。
【0083】
図5は本発明の第3の実施形態に係る半導体製造装置を模式的に示している。図5において、図1に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0084】
図5に示すように、第3の実施形態の第1の実施形態との相違点は、質量分析器3とビームライン4との間にビームスキャン電極16が設けられている点、ウェハ50の保持手段を回転ディスク5に代えて、一方向に移動可能なプラテン17を用いる点である。従って、ディスク回転速度制御器11及びディスクスキャン速度制御器12は設けられない。
【0085】
ここで、ビームスキャン電極16には、ビーム電流/電流密度計測器10の制御を受けるビームスキャン速度制御器18が接続されている。
【0086】
プラテン17は、イオンビーム2のスキャン方向に対して垂直に振幅し、その結果、イオンビーム62ウェハ50の全面に照射される。なお、プラテン17には、ビーム電流/電流密度計測器10の制御を受けるプラテン移動速度制御器19が接続されている。
【0087】
ビーム電流/電流密度計測器10は、後段ファラデー箱8から取得したイオンビーム2のビーム電流及びビーム電流密度J(A/m)の値から、イオンビーム2とウェハ50との相対速度が所定の値以上となるように、イオンビーム2のスキャン速度及びプラテンの移動速度を計算し、ビームスキャン速度制御器18とプラテン移動速度制御器19とにそれぞれ速度情報を送信する。
【0088】
前述したように、ビーム電流は、一般にイオン源1において生じる揺らぎ等によりイオン注入時に変動するが、後段ファラデー箱8はリアルタイムにその変動情報を取得して、ビーム電流/電流密度計測器10に該変動情報を送る。これと同時に、ビーム電流/電流密度計測器10は、最適なビームスキャン速度とプラテン移動速度とを計算し、その計算結果をビームスキャン速度制御器18及びプラテン移動速度制御器19に送り、制御し続ける。
【0089】
図6にスキャン速度で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示す。図6はイオン注入条件として、例えばイオン種に砒素(As)イオンを用い、イオンの加速エネルギーを20keVとし、最大ビーム電流量をそれぞれ1mA、1.8mA、3.2mA、5.6mA、10mA及び18mAとしたときに、スキャン速度(相対速度)の上限値で計測した結果を示す。グラフの横軸は、イオン注入時におけるイオンビーム2の最大電流密度を各スキャン速度の上限値で除した値を表わし、縦軸はゲート酸化膜の破壊率を表わしている。
【0090】
図6から分かるように、イオンビーム2の最大ビーム電流密度をスキャン速度の上限値で除した値が5以下の場合にゲート酸化膜の破壊を抑制でき、さらに、除した値が3以下の場合には、ゲート絶縁膜の破壊をほぼ確実に抑制することができる。
【0091】
すなわち、式(1)の関係から、イオンビーム2の最大ビーム電流密度J(A/m)により、イオンビーム2とウェハ50との相対速度をJ/5(m/sec)以上とすることにより、イオンビーム2による正のチャージアップを抑制することができ、ゲート絶縁膜の破壊を防止することができる。
【0092】
なお、第3の実施形態おいて、イオン注入装置を例に説明したが、これに限られず、電荷を持つ不純物を導入する装置であれば、同様の効果を得ることができる。
【0093】
また、第3の実施形態においては、イオン注入条件として、イオン種をAs、イオンの加速エネルギーを20keV、ビーム電流値を1mA〜18mAとしたが、イオン注入条件はこれらに限定されず、イオン種、イオンの加速エネルギー、イオン注入量及びビーム電流値については適宜変更可能である。
【0094】
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態に係る半導体製造装置についてイオン注入装置を例として図面を参照しながら説明する。
【0095】
図7は本発明の第4の実施形態に係る半導体製造装置を模式的に示している。図7において、図1及び図5に示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0096】
図7に示すように、第4の実施形態の第2の実施形態との相違点は、ビームスキャン電極16にイオンビーム2のスキャン速度を計測するビームスキャン速度計測器20が設けられている点、プラテン17に該プラテン17の移動速度を計測するプラテン移動速度計測器21が設けられている点、及びイオン源1にビーム電流/電流密度計測器10からの信号を受けるイオン源調整器15が設けられている点である。
【0097】
第4の実施形態においては、ビームスキャン速度計測器20がビームスキャン電極16によるイオンビーム2のスキャン速度を計測し、プラテン移動速度計測器21がプラテン17の移動速度(振幅速度)を計測しており、これらの計測結果は、ビーム電流/電流密度計測器10にリアルタイムに送信される。
【0098】
ビーム電流/電流密度計測器10は、ビームスキャン速度計測器20及びプラテン移動速度計測器21からそれぞれ取得したイオンビーム2のスキャン速度及びプラテン17の移動速度から、イオンビーム2とウェハ50との実際の相対速度を計算し、その計算値から現在のイオンビーム2の最大ビーム電流密度が所定値以下であるか否かを判定する。判定結果が所定値以下である場合は、そのままイオンの注入動作を継続し、逆に所定値よりも大きい場合はイオンの注入動作を一旦停止し、停止情報をイオン源調整器15に送信する。停止情報を受けたイオン源調整器15は、イオンビーム2におけるビーム電流及びビーム電流密度の値を再調整する。その後、イオンビーム2の最大ビーム電流密度が所定値を満足した場合は、再度イオン注入を再開する。
【0099】
前述したように、ビーム電流は、一般にイオン源1において生じる揺らぎ等によりイオン注入時に変動するが、後段ファラデー箱8はリアルタイムにその変動情報を取得して、ビーム電流/電流密度計測器10に該変動情報を送る。これと同時に、ビームスキャン速度計測器20及びプラテン移動速度計測器21は、それぞれ取得したイオンビーム2のスキャン速度及びプラテン17の移動速度をビーム電流/電流密度計測器10に送り続ける。ビーム電流/電流密度計測器10は、イオンビーム2の変動情報、イオンビーム2のスキャン速度及びプラテン17の移動速度からビーム電流密度が適当な値であるか否かを判定し、制御し続ける。
【0100】
図8にスキャン速度で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示す。図8はイオン注入条件として、例えばイオン種に砒素(As)イオンを用い、イオンの加速エネルギーを20keVとし、スキャン速度(相対速度)をそれぞれ1m/s、3m/s、10m/s、30m/s、100m/s及び300m/sのように、スキャン速度の上限値を変更して計測した結果を示す。グラフの横軸は、イオン注入時におけるイオンビーム2の最大電流密度を各スキャン速度の上限値で除した値を表わし、縦軸はゲート酸化膜の破壊率を表わしている。
【0101】
図8から分かるように、イオンビーム2の最大ビーム電流密度を各スキャン速度の上限値で除した値が5以下の場合にゲート酸化膜の破壊を抑制でき、さらに、除した値が3以下の場合には、ゲート絶縁膜の破壊をほぼ確実に抑制することができる。
【0102】
すなわち、式(1)の関係から、イオンビーム2とウェハ50の相対速度v(m/sec)により、イオンビーム2の最大電流密度を5v(A/m)以下に設定することにより、イオンビーム2による正のチャージアップを抑制することができ、ゲート絶縁膜の破壊を防止することができる。
【0103】
なお、第4の実施形態おいて、イオン注入装置を例に説明したが、これに限られず、電荷を持つ不純物を導入する装置であれば、同様の効果を得ることができる。
【0104】
また、第4の実施形態においては、イオン注入条件として、イオン種をAs、イオンの加速エネルギーを20keVとしたが、イオン注入条件はこれらに限定されず、イオン種、イオンの加速エネルギー及びイオン注入量については適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係る半導体製造装置は、イオンビームの走査方法によらず、半導体基板上に形成された絶縁膜を有する半導体装置における正のチャージアップを抑制することができ、絶縁膜を有する半導体装置に不純物を注入する半導体製造装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体製造装置の模式的な正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る半導体製造装置におけるビームのスキャン速度(相対速度一定)で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る半導体製造装置の模式的な正面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る半導体製造装置におけるビームのスキャン速度で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る半導体製造装置の模式的な正面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る半導体製造装置におけるビームのスキャン速度(相対速度一定)で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示すグラフである。。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る半導体製造装置の模式的な正面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る半導体製造装置におけるビームのスキャン速度で規格化した最大ビーム電流密度とゲート絶縁膜の破壊率との関係を示すグラフである。
【図9】(a)はイオンビームとフラッドガンによる電子との位置関係を示す模式図である。(b)はイオンビームとそれを取り巻くフラッドガンによる電子とがウェハ表面を走査したときのウェハ表面における電位を示す模式図である。
【図10】(a)は従来例であって、図9(b)のイオンビームとそれを取り巻くフラッドガンによる電子とを用いてウェハを走査した場合のウェハ表面の電位の変化と最大破壊電圧との関係を示すグラフである。(b)は従来例に係るイオンビームのスキャン方法の一例を示す模式的な斜視図である。
【図11】(a)は本発明の概念を示すグラフであって、イオンビームとウェハとの相対速度及びイオンビームの最大ビーム電流密度を種々の条件で変更した場合のウェハ上のゲート絶縁膜の破壊率を示すグラフである。(b)は本発明の概念を示すグラフであって、ビーム電流密度を走査速度で規格化した値とウェハ上のゲート絶縁膜の破壊率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0107】
1 イオン源
2 イオンビーム
3 質量分析器
4 ビームライン
5 回転ディスク
6 フラッドガン
7 前段ファラデー箱
8 後段ファラデー箱
10 ビーム電流/電流密度計測器
11 ディスク回転速度制御器
12 ディスクスキャン速度制御器
13 ディスク回転速度計測器
14 ディスクスキャン速度計測器
15 イオン源調整器
16 ビームスキャン電極
17 プラテン
18 ビームスキャン速度制御器
19 プラテン移動速度制御器
20 ビームスキャン速度計測器
21 プラテン移動速度計測器
50 ウェハ(半導体基板)
101 イオンビーム(正電荷)
102 電子(負電荷)
103 ウェハ
104 回転ディスク
105 負の電位
106 正の電位
107 絶縁破壊耐圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、
前記被処理膜に、前記不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、
前記被処理膜を前記不純物に対してX−Y方向又はr−θ方向の2方向に機械的に走査する走査手段と、
前記不純物により生じる電流密度J(A/m)を測定する電流密度測定手段と、
前記被処理膜の走査速度を変更する走査速度変更手段と、
前記電流密度J(A/m)の値により、前記被処理膜の走査速度を制御する走査速度制御手段とを備えていることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項2】
前記走査速度制御手段は、前記電流密度J(A/m)の値によって、前記被処理膜の走査速度を所定値以上の速度に制御することを特徴とする請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項3】
前記走査速度の所定値は、J/5(m/s)であることを特徴とする請求項2に記載の不純物導入装置。
【請求項4】
半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、
前記被処理膜に、前記不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、
前記被処理膜を前記不純物に対してX−Y方向又はr−θ方向の2方向に機械的に走査する走査手段と、
前記不純物により生じる電流密度を測定する電流密度測定手段と、
前記被処理膜の走査速度v(m/sec)を測定する走査速度測定手段と、
前記被処理膜の走査速度を制御する走査速度制御手段と、
前記不純物の発生量及び前記不純物により生じる電流密度を制御する第1の電流密度制御手段と、
前記走査速度v(m/s)の値により、前記電流密度を制御する第2の電流密度制御手段とを備えていることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項5】
前記第2の電流密度制御手段は、前記走査速度v(m/s)の値によって、前記不純物の電流密度を0よりも大きく且つ所定値以下の電流密度に制御することを特徴とする請求項4に記載の半導体製造装置。
【請求項6】
前記電流密度の所定値は、5v(A/m)であることを特徴とする請求項5に記載の不純物導入装置。
【請求項7】
前記第2の電流密度制御手段は、前記電流密度が5v(A/m)よりも大きい場合に、前記走査手段を制御することにより、前記不純物の導入動作を一旦停止し、前記電流密度が5v(A/m)以下の値に制御されると、前記不純物の導入動作を再開することを特徴とする請求項4に記載の不純物導入装置。
【請求項8】
前記不純物導入手段は、前記不純物としてイオンを注入するイオン注入手段であることを特徴とする請求項1又は4に記載の半導体製造装置。
【請求項9】
前記電子供給手段により供給される電子のエネルギーを制御する電子エネルギー制御手段と、
前記電子供給手段により供給される電子のエネルギーを測定する電子エネルギー測定手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項1又は4に記載の半導体製造装置。
【請求項10】
前記電子エネルギー測定手段は、前記電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを測定することを特徴とする請求項9に記載の半導体製造装置。
【請求項11】
前記電子エネルギー測定手段は、測定した電子のエネルギーに基づいて、前記電子エネルギー制御手段に対して、前記電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを所定値以下となるように制御することを特徴とする請求項9に記載の半導体製造装置。
【請求項12】
前記絶縁膜の膜厚はt(nm)であり、
前記電子エネルギー制御手段は、前記電子の最大エネルギーを0(eV)よりも大きく且つ2t(eV)以下に制御することを特徴とする請求項1又は4に記載の半導体製造装置。
【請求項13】
半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、
前記被処理膜に、前記不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、
前記被処理膜を前記不純物に対して一方向に機械的に走査する第1の走査手段と、
前記被処理膜の走査速度を変更する第1の走査速度変更手段と、
前記不純物を前記一方向に対して垂直な方向に走査する第2の走査手段と、
前記不純物の走査速度を変更する第2の走査速度変更手段と、
前記不純物により生じる電流密度J(A/m)を測定する電流密度測定手段と、
前記電流密度J(A/m)の値により、前記被処理膜の走査速度及び前記不純物の走査速度を制御する走査速度制御手段とを備えていることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項14】
前記走査速度制御手段は、前記電流密度J(A/m)の値によって、前記不純物の走査速度を所定値以上の速度に制御することを特徴とする請求項13に記載の半導体製造装置。
【請求項15】
前記走査速度の所定値は、J/5(m/s)であることを特徴とする請求項14に記載の不純物導入装置。
【請求項16】
前記走査速度制御手段は、前記不純物の電流密度J(A/m)により前記不純物の走査速度及び前記被処理膜の走査速度を所定値以上の速度に制御することを特徴とする請求項13に記載の半導体製造装置。
【請求項17】
前記走査速度制御手段は、前記不純物の走査速度及び前記被処理膜の走査速度によって決定される前記被処理膜と前記不純物との相対速度がJ/5(m/sec)以上となるように制御することを特徴とする請求項13に記載の不純物導入装置。
【請求項18】
半導体基板の上に絶縁膜を介在させて形成された被処理膜に、電荷を持つ不純物を導入する不純物導入手段と、
前記被処理膜に、前記不純物が持つ電荷を打ち消すための電子を供給する電子供給手段と、
前記被処理膜を前記不純物に対して一方向に機械的に走査する第1の走査手段と、
前記被処理膜の走査速度を測定する第1の走査速度測定手段と、
前記被処理膜の走査速度を制御する第1の走査速度制御手段と、
前記不純物を前記一方向に対して垂直な方向に走査する第2の走査手段と、
前記不純物の走査速度を測定する第2の走査速度測定手段と、
前記不純物の走査速度を制御する第2の走査速度制御手段と、
前記不純物の発生量及び前記不純物により生じる電流密度を制御する第1の電流密度制御手段と、
前記不純物の走査速度及び前記被処理膜の走査速度によって決定される前記被処理膜と前記不純物との相対速度v(m/sec)の値により、前記不純物の電流密度を制御する第2の電流密度制御手段とを備えていることを特徴とする半導体製造装置。
【請求項19】
前記第2の電流密度制御手段は、前記相対速度v(m/sec)の値によって、前記不純物の電流密度を0より大きく且つ所定値以下の電流密度に制御することを特徴とする請求項18に記載の半導体製造装置。
【請求項20】
前記第1の電流密度制御手段は、前記不純物により生じる電流密度を5v(A/m)以下に制御することを特徴とする請求項18に記載の不純物導入装置。
【請求項21】
前記第2の電流密度制御手段は、前記電流密度が5v(A/m)よりも大きい場合に、前記走査手段を制御することにより、前記不純物の導入動作を一旦停止し、前記電流密度が5v(A/m)以下の値に制御されると、前記不純物の導入動作を再開することを特徴とする請求項18に記載の不純物導入装置。
【請求項22】
前記不純物導入手段は、前記不純物としてイオンを注入するイオン注入手段であることを特徴とする請求項13又は18に記載の半導体製造装置。
【請求項23】
前記電子供給手段により供給される電子のエネルギーを制御する電子エネルギー制御手段と、
前記電子供給手段により供給される電子のエネルギーを測定する電子エネルギー測定手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項13又は18に記載の半導体製造装置。
【請求項24】
前記電子エネルギー測定手段は、前記電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを測定することを特徴とする請求項23に記載の半導体製造装置。
【請求項25】
前記電子エネルギー測定手段は、測定した電子のエネルギーに基づいて、前記電子エネルギー制御手段に対して、前記電子供給手段により供給される電子の最大エネルギーを所定値以下となるように制御することを特徴とする請求項23に記載の半導体製造装置。
【請求項26】
前記絶縁膜の膜厚はt(nm)であり、
前記電子エネルギー制御手段は、前記電子の最大エネルギーを0(eV)よりも大きく且つ2t(eV)以下に制御することを特徴とする請求項13又は18に記載の半導体製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−166660(P2008−166660A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520(P2007−520)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】