説明

半導体集積回路装置

【課題】マルチビットデルタシグマ変調器において、信号伝達関数特性が周波数依存性を持たず、量子化器入力の加算器を不要とする。
【解決手段】デルタシグマ型A/D変換器1は、入力信号Xのフィードフォワードパスとして、フィードフォワード係数kのゲインを乗じた信号とクロック信号の1周期遅延(Z-1)した入力信号に、ゲイン係数c−kを乗じた信号を加算し、積分器8の入力として加算している。この入力信号Xのフィードフォワードパスにより、積分器8は、図2に示したように、本来の積分機能と、加算器、ならびに入力信号のバッファ機能を併せ持つことができ、直接、量子化器入力に入力信号Xを加算したのと同じ効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A/D(Analog/digital)変換器における高精度な信号変換技術に関し、特に、デルタシグマ変調器による伝達特性の向上に有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路装置には、アナログ信号の入力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器が備えられているものがある。このA/D変換器の1つとして、たとえば、図10に示す1次のデルタシグマ変調器を用いたものがある。
【0003】
1次デルタシグマ変調器100は、図示するように、帰還DA変換器101、積分器102、および比較器103で構成される。ここで、アナログ入力信号をVIN、比較器で量子化する際に発生する量子化雑音をQ、変調器出力信号をVDSとすると以下の関係になることが知られている。ここで、積分器は関数で記述してあり、式中のzはz関数を表す。Qは一般的に白色雑音として現される。
【0004】
【数1】

【0005】
上式から信号VINは1サンプリング周波数遅延した信号となり、何も変化せず、量子化雑音Qは(1−z-1)の項が掛けられ、1次の微分で表せることがわかる。ここでサンプリング周波数fs、周波数をfとして表すと、次の式が成り立つことが知られている。
【0006】
【数2】

【0007】
つまり、低周波領域はほぼ0に近い値となり、fs/2で最大となるsin波で表現できる。つまり、デルタシグマ変調による量子化雑音はfs/2周辺に偏在することとなり、図10のデジタルフィルタにて高周波の雑音を除去すれば、量子化雑音のエネルギは小さくなり、分解能の高いAD変換結果を得ることが可能となることが知られている。
【0008】
さらに、積分器を直列に多段接続することで式2の雑音の伝達関数は積分器の次数分だけべき乗され、量子化雑音をfs/2周辺に偏在させる効果が高まり、低いオーバーサンプリング率で高い信号/量子化雑音比を得ることができる。
【0009】
また、この種のA/D変換器においては、積分器、特に感度の高い第一積分器の出力振幅を抑制するためにフィードフォワード型のデルタシグマ型A/D変換器があり、各積分器フィードフォワードパスを第三積分器入力で加算するもの(たとえば、非特許文献1参照)や、すべての積分器の出力を量子化器で加算し、入力信号も量子化器で加算するもの(たとえば、非特許文献2参照)などが知られている。
【0010】
さらに、マルチビット−デルタシグマA/D変換器においては、オーバサンプル比やアナログ積分器の次数を高くせずに、高精度化、および広帯域化を可能とするもの(非特許文献3参照))が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Coban et al.,"A New Forth-Order Single-Loop Delta-Sigma Modurator for Audio",IEEE ISCAS'96, vol.1,pp461-464, May, 1996
【非特許文献2】Richard Schreier, G.C.Temes, "Understanding Delta-Sigma Data Converters",IEEE Press,pp122,2005
【非特許文献3】Richard Schreier, G.C.Temes, "Understanding Delta-Sigma Data Converters",IEEE Press,pp179-181,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記のようなデルタシグマ変調器によるアナログ/デジタル変換技術では、次のような問題点があることが本発明者により見い出された。
【0013】
すなわち、非特許文献1におけるデルタシグマ変調器では、信号の伝達関数が周波数の依存性をもち、ゲインが増大してしまうことになる。このため安定性を保つために雑音伝達関数ゲインを下げる必要があり、SNR(Signal to Noise Ratio)を下げる一因となっているという問題がある。
【0014】
また、非特許文献2によるデルタシグマ変調器においては、量子化器入力に加算器が配置されており、マルチビット量子化器の場合、加算アンプ、もしくは比較器に電荷加算回路を設ける必要があり、レイアウト面積が増加してしまい、消費電力なども大きくなってしまうという問題がある。
【0015】
本発明の目的は、マルチビットデルタシグマ変調器において、信号伝達関数特性が周波数依存性を持たず、量子化器入力の加算器を不要とすることのできる技術を提供することにある。
【0016】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0018】
本発明は、第1〜第n(n≧2)の積分器と、入力された信号をデジタル信号に変換して量子化する量子化器とを有するデルタシグマ型からなるA/D変換器を備えた半導体集積回路装置であって、該A/D変換器は、最終段となる第nの積分器の入力に、A/D変換器に入力される入力信号をフィードフォワードするフィードフォワードパスと、第nの積分器の入力に、A/D変換器の量子化器出力信号をフィードバックするフィードバックパスとを備え、該フィードフォワードパスは、入力信号に第1の係数を乗じた信号と任意のクロック周期分遅延した入力信号に、第2の係数を乗じた信号と加算した信号を出力し、フィードバックパスは、任意の周期遅延させた出力信号に第3の係数を乗じた信号を出力し、第nの積分器は、入力信号を遅延しない構成よりなるものである。
【0019】
また、本願のその他の発明の概要を簡単に示す。
【0020】
本発明は、前記フィードフォワードパスが、入力信号を任意に遅延して出力する第1の遅延回路と、該遅延回路が遅延した信号に第1の係数を乗じて出力する第1のゲインと、入力信号に第2の係数を乗じて出力する第2のゲインと、第1、および第2のゲインから出力された信号を加算する加算器とよりなるものである。
【0021】
さらに、本発明は、前記フィードバックパスが、出力信号を任意に遅延して出力する第2の遅延回路と、該第2の遅延回路が遅延した信号に第3の係数を乗じて出力する第3のゲインと、該第3のゲインから出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器とよりなるものである。
【0022】
また、本発明は、前記第1の遅延回路が、入力信号をクロック信号の1周期分遅延させるものである。
【0023】
さらに、本発明は、前記第1〜第n−1の積分器が、入力信号を任意の周期で遅延させる構成よりなるものである。
【0024】
また、本発明は、前記第1の遅延回路が、入力信号をクロック信号の半周期分遅延させるものである。
【発明の効果】
【0025】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0026】
(1)信号伝達関数特性が周波数依存性を持たず、ゲインを1とすることができるので、安定したSNRを実現することができる。
【0027】
(2)また、量子化器の入力部に接続される加算器を不要とすることができるので、回路面積の縮小化、および消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1によるデルタシグマ型A/D変換器の回路構成の一例を示す回路図である。
【図2】図1のデルタシグマ型A/D変換器に設けられた最終段の積分器における回路構成の一例を示す回路図である。
【図3】本発明者が検討したフィードフォワード型の一方式である3次のデルタシグマ変調器の一例を示す回路図である。
【図4】図3のデルタシグマ変調器における信号伝達関数の絶対値の一例を示す説明図である。
【図5】本発明者が検討した3次のデルタシグマ変調器の他の例を示した回路図である。
【図6】図5のデルタシグマ変調器がn次の際の加算器、および量子化器の回路構成例を示す説明図である。
【図7】図1のデルタシグマ型A/D変換器における信号伝達関数の絶対値の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態2によるデルタシグマ型A/D変換器の回路構成の一例を示す回路図である。
【図9】本発明の実施の形態3によるデルタシグマ型A/D変換器の回路構成の一例を示す回路図である。
【図10】本発明者が検討した1次デルタシグマ変調器を用いたA/D変換器の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1によるデルタシグマ型A/D変換器の回路構成の一例を示す回路図、図2は、図1のデルタシグマ型A/D変換器に設けられた最終段の積分器における回路構成の一例を示す回路図、図3は、本発明者が検討したフィードフォワード型の一方式である3次のデルタシグマ変調器の一例を示す回路図、図4は、図3のデルタシグマ変調器における信号伝達関数の絶対値の一例を示す説明図、図5は、本発明者が検討した3次のデルタシグマ変調器の他の例を示した回路図、図6は、図5のデルタシグマ変調器がn次の際の加算器、および量子化器の回路構成例を示す説明図、図7は、図1のデルタシグマ型A/D変換器における信号伝達関数の絶対値の一例を示す説明図である。
【0031】
本実施の形態1において、デルタシグマ型A/D変換器1は、たとえば、自動車のエンジン制御用などに用いられる半導体集積回路装置のA/D変換器として用いられる。
【0032】
デルタシグマ型A/D変換器1は、図1に示すように、減算器2〜4、加算器5、積分器6〜8、量子化器9、D/A(Digital/Analog)変換器10,11、フィードバックゲイン12、フィードフォワードゲイン13,14、遅延回路15,16、およびゲイン17〜20から構成されている。
【0033】
減算器2の一方の入力部、第1の遅延回路である遅延回路15の入力部、ならびに第2のゲインとなるフィードフォワードゲイン14の入力部には、アナログの入力信号Xが入力されるようにそれぞれ接続されている。減算器2の出力部には、積分器6の入力部が接続されており、該積分器6の出力部には、減算器3の一方の入力部、およびフィードフォワードゲイン13の入力部がそれぞれ接続されている。
【0034】
減算器3の出力部には、積分器7の入力部が接続されており、該積分器7の出力部には、ゲイン17の入力部が接続されている。遅延回路15の出力部には、第1のゲインとなるゲイン18の入力部が接続されており、該ゲイン18の出力部、およびフィードフォワードゲイン14の出力部には、加算器5の異なる入力部がそれぞれ接続されている。
【0035】
加算器5の出力部、ゲイン17の出力部、フィードフォワードゲイン13の出力部、ならびにD/A変換器11の出力部には、減算器4の異なる入力部がそれぞれ接続されている。減算器4の出力部には、積分器8の入力部が接続されており、該積分器8の出力部には、ゲイン20の入力部、およびフィードバックゲイン12の入力部がそれぞれ接続されている。
【0036】
また、フィードバックゲイン12の出力部には、減算器3の他方の入力部が接続されている。ゲイン20の出力部には、量子化器9の入力部が接続されており、該量子化器9の入力部には、D/A変換器10の入力部が接続されている。
【0037】
このD/A変換器10の出力部には、減算器2の他方の入力部が接続されている。そして、量子化器9の出力部は、デルタシグマ型A/D変換器1の出力部となり、デジタル出力信号Yが出力される。
【0038】
減算器2は、アナログの入力信号XとD/A変換器10から出力されたアナログ信号の差分を演算する。積分器6は、減算器2の演算結果を積分する。減算器3は、積分器6の積分結果とフィードバックゲイン12が積分器8の積分結果に任意のフィードバック係数(g)を乗算した値との差分を演算する。
【0039】
積分器7は、減算器3の演算結果を積分する。ゲイン17は、積分器7の積分結果に任意のゲイン係数(b)を乗算して出力する。遅延回路15は、入力信号XをZ-1(クロック信号1周期)の期間、遅延してゲイン18に出力する。
【0040】
フィードフォワードゲイン14は、入力信号Xに任意のフィードバック係数(第2の係数となるk)を乗算する。フィードフォワードゲイン13は、積分器6の積分結果に任意のフィードフォワード係数(a)を乗算して出力する。
【0041】
ゲイン18は、任意のフィードバック係数(第1の係数となるc−k)を乗算して出力する。加算器5は、ゲイン18の演算結果、およびフィードフォワードゲイン14の演算結果を加算して減算器4に出力する。
【0042】
減算器4は、加算器5の演算結果、ゲイン17の演算結果、フィードフォワードゲイン13の演算結果、ならびにD/A変換器11の演算結果の差分を演算する。積分器8は、減算器4の演算結果を積分する。
【0043】
フィードバックゲイン12は、積分器8の積分結果に任意のフィードバック係数(g)を乗算する。ゲイン20は、積分器8の積分結果に任意のゲイン係数(d)を乗算する。量子化器9は、ゲインを介して入力された信号をデジタル出力信号Yに変換して量子化する。
【0044】
D/A変換器10は、量子化器9から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。第2の遅延回路である遅延回路16は、量子化器9から出力されたデジタル信号をZ-1(クロック信号1周期)の期間、遅延して出力する。
【0045】
第3のゲインであるゲイン19は、遅延回路16から出力される遅延信号に任意のゲイン係数(第3の係数となるc)を乗算して出力する。D/A変換器11は、ゲイン19を介して入力されるデジタル信号をアナログ信号に変換する。
【0046】
また、積分器8は、図2に示すように、クロック信号φ1(図2の下方に示す)で動作するスイッチSW1〜SW6、およびクロック信号φ2(図2の下方に示す)で動作するSW7〜SW12、D/A変換器DAC、静電容量素子C1〜C5,Cs、およびアンプapから構成されている。
【0047】
積分器8の入力は、アナログの入力信号X、積分器6の出力、ならびに積分器7の出力である。積分器8は、図1の係数a,b,c,kに対応するそれぞれ値を、静電容量素子C1,C2,C3,C4,C5と静電容量素子Csとの比で生成する。
【0048】
加算器は、スイッチトキャパシタ回路で構成されているので、積分器と同一の回路で動作するため、加算器のための特別な演算増幅器を不要とすることができる。
【0049】
ここで、本発明者が検討したフィードフォワード型の一方式である3次のデルタシグマ変調器の一例について、図3を用いて説明する。
【0050】
デルタシグマ変調器54は、図示するように、積分器55〜57、量子化器58、減算器59〜61、D/A変換器62,63、フィードフォワードゲイン64、ゲイン65〜67、およびフィードバックゲイン68から構成されている。
【0051】
デルタシグマ変調器54には、アナログ信号Xが入力され、デジタル出力信号Yが出力される。積分器55〜57が3段直列に配置されており、最終段にアナログ信号をデジタル信号化する量子化器58が設けられている。
【0052】
量子化器58は、1bitのものと、マルチビットと呼ばれる2bit〜5bit程度の分解能を持つものが一般的である。積分器55、積分器56の出力が、任意のゲイン(a,b)を掛けられて、積分器57の入力に加算され量子化器58の入力となる。
【0053】
積分器57から積分器56の入力への帰還パスは、雑音伝達関数に零点を持たせるためのものである。
【0054】
このデルタシグマ変調器54の特徴としては、各積分器フィードフォワードパスを積分器57の入力で加算している点にある。これにより、量子化器58前段に加算器を持たせることなく、積分器57の出力が直接量子化器58の入力になっている。
【0055】
これは量子化器58をマルチビット構成にした時に大きな効果がある。マルチビット構成の場合、通常、量子化器は比較器を2M個(Mは量子化器bit数)並べて、1クロックでA/D変換するフラッシュ型を用いる。これは、デルタシグマ変調器では量子化器の遅延が安定性に影響を与えるためであり、遅延の少ないフラッシュ型を用いるのが一般的である。
【0056】
このとき、量子化器に加算器が必要となると、加算アンプを用いるか、容量結合型の電荷加算回路を比較器の数だけ用いる必要があり、電力と面積的に不利となってしまう。また、積分器55の出力は入力信号の微分となり、サンプリング周波数よりも十分に低い信号周波数に対しては、入力信号は、積分器55の出力にはほとんど見えず、量子化雑音を積分した信号が支配的となる。
【0057】
デルタシグマ変調器54の方式は、信号伝達関数が図4に示すように、高周波側でゲインが大きくなることが知られている。これは、通常信号帯域外の領域ではあるが、信号伝達関数のゲインピークになる周波数の信号が入力した場合、量子化器に過大な信号が入力したように見え、ループが不安定になる恐れがある。
【0058】
また、ループを任意の周波数に対して安定とするためには、雑音伝達関数のゲインを下げ、ループを安定とする必要があり、結果としてSNRを劣化する要因となってしまうことになる。
【0059】
図5は、本発明者が検討した3次のデルタシグマ変調器の他の例を示したものである。
【0060】
デルタシグマ変調器69は、図示するように、積分器70〜72、量子化器73、減算器74,75、加算器76、D/A変換器77、フィードフォワードゲイン78,79、ゲイン80、ならびにフィードバックゲイン81から構成されている。
【0061】
この場合、全ての積分器70〜72の出力が量子化器73の入力で加算されて、入力信号Xも量子化器73の前段で加算される構成となっている。この構成では、入力信号Xが直接量子化されるため、図3に示したデルタシグマ変調器54と異なり、信号の伝達関数は1となり、ゲインを持つことはない。
【0062】
しかしながら、量子化器73の前段で加算する必要があるため、マルチビット構成では、加算器に加算アンプか、量子化器73における各比較器の入力に電荷加算器を構成する必要があり、小面積化が困難であり、消費電力の面でも不利となる。
【0063】
図6は、図5のデルタシグマ変調器69がn次の際の加算器76、および量子化器73の回路構成例を示す説明図である。
【0064】
加算器76はクロック信号φ1(図6の下方に示す)で動作するスイッチSW501〜SW50n+1,SW51,SW54、およびクロック信号φ2(図6の下方に示す)で動作するSW521〜SW52n+1,SW53、静電容量素子C501〜C50n+1,C0、および演算増幅器OP50から構成されている。また、量子化器73は、参照電圧を生成する電圧生成部VR、2M個の比較器CP1〜CPM、ならびにエンコーダENCから構成されている。
【0065】
アナログの入力信号Xや積分器70〜72の出力は、演算増幅器OP50を使用した加算器76で加算され、後段の量子化器73によってデジタル値に変換される。デルタシグマ変調器の量子化器は遅延が小さいフラッシュ型がしばしば使用される。
【0066】
このように、量子化器73の前段に加算器76を用いる構成の場合は、図6のように演算増幅器OP50が必要となってしまい、該演算増幅器OP50の消費電流や面積が問題となっていた。
【0067】
しかしながら、前述したように、図2に示した積分器8では、加算器をスイッチトキャパシタ回路で構成しているので、加算器として機能する容量素子があればよく、積分器と同一の回路で動作するため、加算器のための特別な演算増幅器を不要とすることができる。
【0068】
次に、本実施の形態によるデルタシグマ型A/D変換器1の作用について説明する。
【0069】
デルタシグマ型A/D変換器1は、入力信号Xのフィードフォワードパスとして、フィードフォワード係数kのゲインを乗じた信号とクロック信号の1周期遅延(Z-1)した入力信号に、ゲイン係数c−kを乗じた信号を加算し、積分器8の入力として加算している。
【0070】
この入力信号Xのフィードフォワードパス(フィードフォワードゲイン14、ゲイン18、遅延回路15、および加算器5)により、積分器8は、図2に示したように、本来の積分機能と、加算器、ならびに入力信号のバッファ機能を併せ持つことができ、直接、量子化器入力に入力信号Xを加算したのと同じ効果を得ることができる。
【0071】
また、デルタシグマ型A/D変換器1の信号の伝達関数STF(z)は、以下のようになる。
【0072】
【数3】

【0073】
ここで、k=1/dとし、3−bg≒3となるbg値を選択すると、STF(Signal Transfer Function)=1となり、周波数依存性がなくなる。係数の掛け算bgは、実際の設計では雑音伝達関数に零点を構成するための係数で、オーバーサンプリング率が十分高い場合は、0.01以下程度の値であり、3−bg≒3と考えても差し支えない。
【0074】
図7は、デルタシグマ型A/D変換器1における信号伝達関数の一例を示す説明図である。図示するように、伝達関数が周波数依存性をほとんど持たずに1倍(0dB)になっていることが明らかである。信号伝達関数は、図5に示したデルタシグマ変調器69と同じとなり、デジタル出力信号Yは次の式で表せる。
【0075】
【数4】

【0076】
ここでNFT(z)は、雑音伝達関数、Qは量子化器発生する量子化雑音である。
【0077】
よって、積分器6と積分器7とには、量子化雑音成分のみが入力され、演算を行うので、入力による歪が発生しにくいという効果を得ることができる。
【0078】
また、積分器6,7の出力も量子化雑音を積分した信号がほとんどなので、マルチビット量子化器の場合は信号振幅が小さくなり、積分器が歪みにくく、積分アンプの整定時間やスルーレートも緩和することが可能となる。
【0079】
このように、デルタシグマ型A/D変換器1による構成では、積分器6,7に量子化雑音成分のみが入力されて演算が行われるので、入力による歪が発生しにくい特徴がある。また、積分器6,7の出力においても量子化雑音を積分した信号がほとんどなので、マルチビット量子化器の場合は信号振幅が小さくなり、積分器が歪みにくく、積分アンプの整定時間やスルーレートも緩和することできる。
【0080】
それにより、本実施の形態1によれば、信号伝達関数が周波数依存性を持たずにゲインを1とすることができるので、入力最大信号振幅で安定になる雑音伝達関数のゲインに設定すればよく、SNRの低下を低減することができる。
【0081】
また、量子化器9の入力部に加算器が不要なため、レイアウト面積、ならびに消費電力を削減することができる。
【0082】
さらに、積分器7、および積分器8には、量子化雑音成分のみが入力され、演算を行うので、入力による歪が発生しにくく、高精度な演算を行うことができ、積分器7,8の出力も量子化雑音を積分した信号がほとんどなので、信号振幅が小さくなり、積分器が歪みにくく、積分アンプの整定時間やスルーレートを緩和することができる。
【0083】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2によるデルタシグマ型A/D変換器の回路構成の一例を示す回路図である。
【0084】
前記実施の形態1では、3以上の積分器を有する3次のデルタシグマ型A/D変換器について説明したが、たとえば、図8に示すように、2次、4次、あるいは5次以上などのn次のデルタシグマ型A/D変換器に適用することが可能である。
【0085】
n次のデルタシグマ型A/D変換器1aは、減算器2〜4、加算器5、n個の積分器211〜21n、量子化器9、D/A変換器10,11、フィードバックゲイン12、n−2個のフィードフォワードゲイン131〜13n-2、フィードフォワードゲイン14、遅延回路15,16、およびゲイン17〜20から構成されている。
【0086】
この場合、減算器2の出力部には、積分器211の入力部が接続されている。また、積分器211と減算器3との間には、積分器212〜21n-2が直列に接続されている。また、積分器211〜21n-2の出力部には、フィードフォワードゲイン131〜13n-2の入力部がそれぞれ接続されており、これらフィードフォワードゲイン131〜13n-2の出力部には、減算器4の異なる入力部がそれぞれ接続されている。
【0087】
また、積分器21n-2の出力部には、減算器3の一方の入力部が接続されており、該減算器3の出力部には、積分器21n-1の入力部が接続されている。この積分器21n-1の出力部には、ゲイン17の入力部が接続されている。そして、減算器4の出力部には、積分器21nの入力部が接続されている。
【0088】
その他の接続構成、および作用については、前記実施の形態1の図1と同様であるので、説明は省略する。
【0089】
このように、量子化器9の前段の積分器21nを積分器211〜積分器21n-1の出力の加算器兼積分器として構成し、入力信号Xを積分器21nに入力してバッファとすることで構成しているので、デルタシグマの次数に依存せず、次数nがn≧2を満たせば適用することできる。
【0090】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3によるデルタシグマ型A/D変換器の回路構成の一例を示す回路図である。
【0091】
本実施の形態3において、デルタシグマ型A/D変換器1bは、図9に示すように、前記実施の形態2の図8と同様に、減算器2〜4、加算器5、n個の積分器211〜32n、量子化器9、D/A変換器10,11、フィードバックゲイン12、n−2個のフィードフォワードゲイン131〜13n-2、フィードフォワードゲイン14、遅延回路15,16、およびゲイン17〜20から構成されており、前記実施の形態2のデルタシグマ型A/D変換器1aと異なるところは、遅延回路15の入力遅延が、Z-1(クロック信号1周期)の遅延ではなく、Z-0.5(クロック信号0.5周期遅延)となっている点である。
【0092】
このようにサンプリング時間の半分の遅延にしても、高周波領域でのSTFゲイン増加はあるが、図3のデルタシグマ変調器54よりもSTFのゲイン増加を抑制することができる。
【0093】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、マルチビットデルタシグマ変調器における高精度なA/D変換技術に適している。
【符号の説明】
【0095】
1 デルタシグマ型A/D変換器
1a デルタシグマ型A/D変換器
1b デルタシグマ型A/D変換器
2 減算器
3 減算器
4 減算器
5 加算器
6 積分器
7 積分器
8 積分器
9 量子化器
10 D/A変換器
11 D/A変換器
12 フィードバックゲイン
13 フィードフォワードゲイン
131〜13n-2 フィードフォワードゲイン
14 フィードフォワードゲイン
15 遅延回路
16 遅延回路
17 ゲイン
18 ゲイン
19 ゲイン
20 ゲイン
211〜21n 積分器
54 デルタシグマ変調器
55 積分器
56 積分器
57 積分器
58 量子化器
59〜61 減算器
62,63 D/A変換器
64 フィードフォワードゲイン
65〜67 ゲイン
68 フィードバックゲイン
69 デルタシグマ変調器
70〜72 積分器
73 量子化器
74,75 減算器
76 加算器
77 D/A変換器
78,79 フィードフォワードゲイン
80 ゲイン
81 フィードバックゲイン
100 1次デルタシグマ変調器
101 帰還DA変換器
102 積分器
103 比較器
SW1〜SW12 スイッチ
C1〜C5 静電容量素子
Cs 静電容量素子
DAC D/A変換器
ap アンプ
SW501〜SW50n+1 スイッチ
SW51,SW53,SW54 スイッチ
SW521〜SW52n+1 スイッチ
C501〜C50n+1 静電容量素子
C0 静電容量素子
OP50 演算増幅器
VR 電圧生成部
CP1〜CPM 比較器
ENC エンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1〜第n(n≧2)の積分器と、入力された信号をデジタル信号に変換して量子化する量子化器とを有するデルタシグマ型からなるA/D変換器を備えた半導体集積回路装置であって、
前記A/D変換器は、
最終段となる前記第nの積分器の入力に、前記A/D変換器に入力される入力信号をフィードフォワードするフィードフォワードパスと、
前記第nの積分器の入力に、前記A/D変換器の出力信号をフィードバックするフィードバックパスとを備え、
前記フィードフォワードパスは、
入力信号に第1の係数を乗じた信号と任意のクロック周期分遅延した入力信号に、第2の係数を乗じた信号と加算した信号を出力し、
前記フィードバックパスは、
任意の周期遅延させた出力信号に第3の係数を乗じた信号を出力し、
前記第nの積分器は、
入力信号を遅延しない構成であることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体集積回路装置において、
前記フィードフォワードパスは、
入力信号を任意に遅延して出力する第1の遅延回路と、
前記遅延回路が遅延した信号に第1の係数を乗じて出力する第1のゲインと、
入力信号に第2の係数を乗じて出力する第2のゲインと、
前記第1、および前記第2のゲインから出力された信号を加算する加算器とよりなることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体集積回路装置において、
前記フィードバックパスは、
出力信号を任意に遅延して出力する第2の遅延回路と、
前記第2の遅延回路が遅延した信号に第3の係数を乗じて出力する第3のゲインと、
前記第3のゲインから出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器とよりなることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の半導体集積回路装置において、
前記第1の遅延回路は、
入力信号をクロック信号の1周期分遅延させることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項5】
請求項2または3記載の半導体集積回路装置において、
前記第1の遅延回路は、
入力信号をクロック信号の半周期分遅延させることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体集積回路装置において、
前記第1〜第n−1の積分器は、入力信号を任意の周期で遅延させることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体集積回路装置において、
前記第1〜第n−1の積分器における出力信号は、前記第nの積分器の入力に入力されることを特徴とする半導体集積回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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