説明

半導体電力変換装置及びその試験方法

【課題】インパルス試験において半導体素子のゲート回路に流れる電流を容易に測定することのできる半導体電力変換装置及びその試験方法を提供する。
【解決手段】電力変換器を構成する複数個の変換アーム2と、この変換アームを構成する半導体スイッチング素子3と、各々の半導体スイッチング素子3のゲート電極にゲートパルスを供給するためのゲート回路5とを備えた半導体電力変換装置1において、ゲート回路5の出力と半導体スイッチング素子3のゲート電極の間に1個または複数個直列接続した発光素子6を取り付け、変換アーム2の両端にインパルス電圧を印加したとき、発光素子6によりゲート電流の通電量を光信号に変換し、発光素子6に接続された光ファイバー8によってこの光信号を外部に設けられた光量測定器9に導いてゲート電流を測定することによりインパルス試験を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体電力変換装置及びその試験方法に関し、特にインパルス試験を適切に行なうことが可能な半導体電力変換装置及びその試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に接続される半導体電力変換装置は、接続される電力系統の電圧に応じてインパルス試験時の印加電圧が定められており、このインパルス電圧を印加することによって半導体電力変換装置の絶縁設計の健全性確認と、インパルス電圧によって半導体電力変換装置に誤動作が発生しないことを確認する。この概要は、例えばJEC2410「半導体電力変換装置」に記載されている。
【0003】
ここで、インパルス試験によって半導体電力変換装置に誤動作が発生するか否かを判断する方法としては、インパルス電圧印加によってゲート回路に誘起されるゲート電流の値が、半導体スイッチング素子が動作しないゲート電流の値(非トリガ電流レベル)より小さいか大きいかによって判断するのが普通である。
【0004】
通常、半導体電力変換装置を構成する半導体スイッチング素子のゲート電流を測定するには、ゲート回路に直列に挿入されたインピーダンスの両端の電圧を測定する。このゲート電流測定部を一部内蔵した半導体電力変換装置が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
従ってこのインパルス試験時に誘起される電流値を測定するためには、インパルス試験装置によって半導体電力変換装置の半導体スイッチング素子にインパルス電圧を印加したとき、ゲート回路に直列に挿入されたインピーダンスの両端の電圧を測定すれば良い。
【特許文献1】特開2003−143833(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インパルス試験時に誘起されるゲート電流は、特許文献1に示された回路を用いて測定可能ではあるが、微小な非トリガ電流を確認するために外部に測定器を設ける必要がある。また高電圧で使用する半導体電力変換装置の場合、この測定器はインパルス電圧に十分耐えることのできる絶縁耐力と、このインパルス電圧が印加される環境下で半導体素子の微小な非トリガ電流(数ミリアンペアから数十ミリアンペア)を測定できる精度と高い耐ノイズ性を有する必要がある。
【0007】
しかし、このような要求を満足する測定器は要求仕様の特殊性から非常に複雑で高価なものとなり、大規模な電力設備等では使用可能であるが、通常の設備に適用する場合には問題があった。
【0008】
本発明は上記に鑑みて為されたもので、インパルス試験において半導体素子のゲート回路に流れる電流を容易に測定することのできる半導体電力変換装置及びその試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の発明である半導体電力変換装置及びその試験方法は、電力変換器を構成する複数個の変換アームと、この変換アームを構成する半導体スイッチング素子と、前記各々の半導体スイッチング素子のゲート電極にゲートパルスを供給するためのゲート回路とを備えた半導体電力変換装置において、前記ゲート回路の出力と前記半導体スイッチング素子のゲート電極の間に1個または複数個直列接続した発光素子を取り付け、前記変換アームの両端にインパルス電圧を印加したとき、前記発光素子によりゲート電流の通電量を光信号に変換し、前記発光素子に接続された光ファイバーによってこの光信号を外部に設けられた光量測定器に導いて前記ゲート電流を測定することによりインパルス試験を行なうことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の第2の発明である半導体電力変換装置及びその試験方法は、電力変換器を構成する複数個の変換アームと、この変換アームを構成する半導体スイッチング素子と、
前記各々の半導体スイッチング素子のゲート電極にゲートパルスを供給し、その出力部に1個または複数個直列接続した発光素子を有するゲート回路とを備えた半導体電力変換装置において、前記変換アームの両端にインパルス電圧を印加したとき、前記発光素子によりゲート電流の通電量を光信号に変換し、前記発光素子に接続された光ファイバーによってこの光信号を外部に設けられた光量測定器に導いて前記ゲート電流を測定することによりインパルス試験を行なうことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インパルス試験において半導体素子のゲート回路に流れる電流を容易に測定することのできる半導体電力変換装置及びその試験方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例1に係る半導体電力変換装置のブロック構成図である。
【0014】
半導体電力変換装置1は、例えば直流を交流に変換するための装置である。この半導体電力変換装置1は電力変換部とそれを制御するための制御部を有しており、電力変換部の変換アームのうちの1つを示したものが変換アーム2である。この変換アーム2は、半導体スイッチング素子3を有している。変換アーム2における半導体スイッチング素子は、複数の素子を直列に接続したもの、並列に接続したもの、或いはこれ等を組み合わせたものであっても良い。その場合、半導体スイッチング素子3は複数個の半導体スイッチング素子のうちの1つを表す。尚、半導体スイッチング素子3はゲート電極を有する半導体スイッチング素子であり、例えばサイリスタ、トランジスタ、GTOサイリスタ、IGBT等がこれに該当する。
【0015】
前述した制御部の一部を構成するゲートパルス発生装置4は、半導体スイッチング素子3のゲートに与える基準パルスを発生する。この基準パルスはゲート回路5内の波形調整回路51及びフィルタ回路52を介し、通常運転時は直接半導体スイッチング素子3のゲートに与えられ、半導体スイッチング素子3のオンオフ動作を制御する。
【0016】
インパルス試験を行なうときは、図示したように発光素子6をゲート回路5の出力と半導体スイッチング素子3のゲート間に直列に挿入する。発光素子6は1個であっても良いが、図示したように複数個の発光素子を直列接続したものであっても良い。
【0017】
インパルス試験時においては、図示したように半導体電力変換装置1の外部からインパルス試験装置7によって変換アーム2の両端に所定の電圧パルスを印加し、そのときの半導体スイッチング素子3のゲート電流をチェックする。このゲート電流は発光素子6に流れる電流であるため、発光素子6が発生する光は、発光素子6に接続された光ファイバー8によって半導体電力変換装置1の外部に導出される。発光素子6がn個の直列接続体である場合は、この光をn本に分岐した光ファイバーで一本に集約する構成とする。
【0018】
そして、光ファイバー8によって導かれた光は、光量測定器9によって電気信号に変換され、オシロスコープ10によって観測される。ここで、光量測定器9は、直流電源91、抵抗92及び受光部のフォトダイオード93から構成されている。
【0019】
以上述べた構成によって、インバルス試験時に誘起されるゲート電流を測定することが可能となる。この方法によれば、高耐圧が必要となる部分は小型な発光素子6のみとなるため、従来のように、例えば波形調整回路51の両端に電源部分などを有する比較的大型の光信号変換器を取り付ける方法と比べて簡易な構成となるばかりでなく、ノイズの影響も受け難くなる。
【0020】
上記インパルス試験を行なう前に発光素子6を挿入した状態で模擬的にゲート電流を通電させてこの通常のゲート電流に対する光量測定器9の出力を測定しておくことによって非トリガ電流の較正が可能となる。尚、発光素子6が発生する光量の調整は発光素子6の直列数を調整すれば良い。
【実施例2】
【0021】
図2は本発明の実施例2に係る半導体電力変換装置のブロック構成図である。
【0022】
この実施例2の各部について、図1の実施例1に係る半導体電力変換装置のブロック構成図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、外部から付加する発光素子6に代え、発光素子6Aをゲート回路5の出力部に内蔵させる構成とした点である。
【0023】
実施例1においては、発光素子6は対象となるゲート回路のインパルス試験時のみにこれを付加し、通常運転時には取り外しておく。これに対し、本実施例においては、発光素子6Aをゲート回路5内に常時内蔵し、通常運転時にもこの発光素子6Aを介してゲートパルスを与えるようにする。
【0024】
従って、発光素子6Aによるゲート電圧ドロップを問題にしないような適用であれば、インパルス試験時には光ファイバー8を発光素子6Aに取り付けるだけでゲート電流の測定が可能となる。
【0025】
以上述べたように本実施例においては、ゲート回路5をインパルス試験用に標準化した構成となるため、半導体電力変換装置1の設計が容易になるばかりでなく、インパルス試験も更に簡単に行なうことが可能となる。
【実施例3】
【0026】
図3は本発明の実施例3に係る半導体電力変換装置のブロック構成図である。
【0027】
この実施例3の各部について、図2の実施例2に係る半導体電力変換装置のブロック構成図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例3が実施例2と異なる点は、ゲート回路5内の発光素子6Aと並列に短絡回路53を設ける構成とした点である。
【0028】
実施例2で説明したように、発光素子6Aによるゲート電圧ドロップを問題にしないような適用であれば、通常運転時にもこの発光素子6Aを介してゲートパルスを与えるようにすれば良いが、通常運転時に発光素子6Aによるゲート電圧ドロップを除外する必要がある場合には本実施例が有効である。インパルス試験の具体的方法としては、試験対象となるゲート回路の短絡回路53を外してインパルス試験を行なうようにすれば良い。
【実施例4】
【0029】
図4は本発明の実施例4に係る半導体電力変換装置のブロック構成図である。
【0030】
この実施例4の各部について、図1の実施例1に係る半導体電力変換装置のブロック構成図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例4が実施例1と異なる点は、ゲート回路5内の出力部にダイオード54と短絡回路55を設け、このダイオード54と短絡回路55の並列回路を介してゲート回路5がゲートパルスを供給するように構成した点である。
【0031】
高耐圧の半導体電力変換装置のゲート回路においては、ゲート電流がノイズ等の影響によって逆流するのを防止するためにダイオード54が直列に設けられている場合がある。従って、インパルス試験を行なうとき、試験対象となるゲート回路のダイオード54を短絡回路55によって短絡するようにすれば、インパルス試験時には実施例1の場合と等価な状態、即ちゲートの付加インピーダンスは発光素子6のインピーダンスとなる。これに対し、インパルス試験を行わないゲート回路は、短絡回路55を外し、ダイオード54の逆流防止機能を活かした状態とする。ここで、発光素子6のインピーダンスとダイオード54のインピーダンスが等しければ、全てのゲート回路についてインパルス試験時のゲート回路のインピーダンスを通常運転時のインピーダンスに合わせることが可能となる。従って、インパルス電圧印加時に誘起されるゲート電流の値は実運転状態におけるゲート電流と原理的に等しくなるため、更に測定精度を改善することが可能となる。
【0032】
尚、上記においてインピーダンスは順方向の電圧ドロップに相当する。従って、例えば逆流防止用のダイオード54が3個直列接続されており、発光素子6の1個あたりのインピーダンスが等しい場合は、発光素子6も3個直列接続するようにすればインピーダンスは略等しくなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1に係る半導体電力変換装置のブロック構成図。
【図2】本発明の実施例2に係る半導体電力変換装置のブロック構成図。
【図3】本発明の実施例3に係る半導体電力変換装置のブロック構成図。
【図4】本発明の実施例4に係る半導体電力変換装置のブロック構成図。
【符号の説明】
【0034】
1 半導体電力変換装置
2 変換アーム
3 半導体スイッチング素子
4 ゲートパルス発生回路
5 ゲート回路
51 波形調整回路
52 フィルタ回路
53 短絡回路
54 ダイオード
55 短絡回路

6 発光素子
7 インパルス試験装置
8 光ファイバー
9 光量測定器
91 直流電源
92 抵抗
93 フォトダイオード

10 オシロスコープ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換器を構成する複数個の変換アームと、
この変換アームを構成する半導体スイッチング素子と、
前記各々の半導体スイッチング素子のゲート電極にゲートパルスを供給するためのゲート回路と
を具備し、
前記変換アームの両端にインパルス電圧を印加してインパルス試験を行なうとき、
前記ゲート回路の出力と前記半導体スイッチング素子のゲート電極の間に1個または複数個直列接続した発光素子を取り付け、
前記インパルス試験時のゲート電流の通電量を光信号に変換して出力するようにしたことを特徴とする半導体電力変換装置。
【請求項2】
電力変換器を構成する複数個の変換アームと、
この変換アームを構成する半導体スイッチング素子と、
前記各々の半導体スイッチング素子のゲート電極にゲートパルスを供給するためのゲート回路と
を具備し、
前記ゲート回路は、その出力部に1個または複数個直列接続した発光素子を有し、
前記変換アームの両端にインパルス電圧を印加してインパルス試験を行なうとき、
ゲート電流の通電量を前記発光素子が光信号に変換して出力するようにしたことを特徴とする半導体電力変換装置。
【請求項3】
前記発光素子と並列に第1の短絡回路を設け、
前記各々のゲート回路のうちインパルス試験を行なわないゲート回路は、
前記第1の短絡回路により前記発光素子を短絡するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の半導体電力変換装置。
【請求項4】
前記ゲート回路は、その出力部に1個または複数個直列接続したダーオードとこのダイオードに並列に設けられた第2の短絡回路を有し、
前記各々のゲート回路のうちインパルス試験を行なわないゲート回路は、
前記第2の短絡回路により前記ダイオードを短絡するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の半導体電力変換装置。
【請求項5】
前記発光素子のインピーダンスと前記ダーオードのインピーダンスが略等しくなるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の半導体電力変換装置。
【請求項6】
電力変換器を構成する複数個の変換アームと、
この変換アームを構成する半導体スイッチング素子と、
前記各々の半導体スイッチング素子のゲート電極にゲートパルスを供給するためのゲート回路と
を備えた半導体電力変換装置において、
前記ゲート回路の出力と前記半導体スイッチング素子のゲート電極の間に1個または複数個直列接続した発光素子を取り付け、
前記変換アームの両端にインパルス電圧を印加したとき、前記発光素子によりゲート電流の通電量を光信号に変換し、
前記発光素子に接続された光ファイバーによってこの光信号を外部に設けられた光量測定器に導いて前記ゲート電流を測定することを特徴とするインパルス試験時における半導体電力変換装置の試験方法。
【請求項7】
電力変換器を構成する複数個の変換アームと、
この変換アームを構成する半導体スイッチング素子と、
前記各々の半導体スイッチング素子のゲート電極にゲートパルスを供給し、その出力部に1個または複数個直列接続した発光素子を有するゲート回路と
を備えた半導体電力変換装置において、
前記変換アームの両端にインパルス電圧を印加したとき、前記発光素子によりゲート電流の通電量を光信号に変換し、
前記発光素子に接続された光ファイバーによってこの光信号を外部に設けられた光量測定器に導いて前記ゲート電流を測定することを特徴とするインパルス試験時における半導体電力変換装置の試験方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−267436(P2007−267436A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84884(P2006−84884)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】