説明

半導電性ゴムロール

【課題】トナーが付着しにくく、結果として静電気力によるトナーの移動を妨げることのない半導電性ゴムロールを提供する。
【解決手段】トナー搬送部を有する半導電性ゴムロールであって、前記トナー搬送部は少なくともその最外層が加硫ゴムで形成されており、前記加硫ゴムは加硫ゴム100質量部に対して0.1〜30質量部の割合でフタロシアニン化合物を含んでおり、温度23℃、湿度55%で測定される印加電圧100Vにおける電気抵抗値が10〜10Ωであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導電性ゴムロールに関し、詳しくは電子写真装置に装着される現像ロール、クリーニングロール、帯電ロールまたは転写ロール等として用いられるトナー搬送部を有する半導電性ゴムロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による印刷技術においては、高速化、高画質化、カラー化、小型化といった改良が進み、広く世の中に普及してきた。これら改良において鍵となるのがトナーである。前記あらゆる要求を満たすために必要となるのが、トナーの微細化と、トナー粒径の均一化、トナーの球形化である。トナーの微細化については、トナー粒径が10μm以下、さらには5μm以下のものも出てきている。トナーの球形化については、真球度が99%を上回るものまで出てきている。さらに、高画質化を求めて、従来の粉砕トナーに代わり重合トナーが主流となりつつある。かかる重合トナーは、デジタル情報を印刷物にする際にドットの再現性が非常によく高品質な印刷物が得られる。
【0003】
このようなトナーの微細化および均一化・球形化、重合トナーへの移行に対応して、レーザービームプリンター等の電子写真装置の画像形成機構において、トナーに高い帯電性を付与しかつトナーを付着させることなく効率的に感光体に搬送させることができる現像ロールとして、半導電性ゴムロールが特に有用であるが、さらに、この半導電性ゴムロールの高性能な機能を製品の使用寿命の最後まで維持させることが求められる。
【0004】
このような市場からの要求に対して、イオン導電性ゴムを用いた半導電性ゴムロールが提案されており、より具体的には下記のような半導電性ゴムロールが提案されている。
例えば、本発明者が提案した特開2004−170845号公報(特許文献1)では、電気特性が均一なイオン導電性ゴムを用い、誘電正接調整用充填剤を配合して誘電正接を0.1〜1.5としている導電性ゴムロールを提供している。
前記導電性ゴムロールを用いれば、トナーに適切でかつ高い帯電を付加でき、結果として高画質な初期画像が得られる。さらに、トナーの帯電量が印刷枚数を経ても低下しにくく、結果として高画質が維持できる。
【0005】
前記特許文献1においては、イオン導電性を得るためにエピクロルヒドリンゴムに代表される塩素原子を含有するゴム成分を用いることがある。この場合、当該塩素原子を含有するゴム成分は一般に表面自由エネルギーが高く、トナーやトナー外添剤と付着しやすい傾向がある。あわせて、イオン導電性を示すエチレンオキサイドモノマーが重合されている場合は、表面自由エネルギーが上がり濡れやすくなり、導電性ゴムロールにトナーが付着する要因となる。さらに、表面に紫外線照射やオゾン暴露などを施し酸化膜を形成させると、その部分の酸素濃度が高くなるため表面自由エネルギーが上がり、この場合も、導電性ゴムロールに対してトナーが付着する要因となる。
加えて、誘電正接を0.1〜1.5とした場合はトナーの帯電性を向上できトナーの搬送量を低減できるためハーフトーン画像など高画質な画像が実現できるが、一方で現像ロール上のトナーの積層量が少なくなるため、現像ロールに対してトナーの付着する要因となる。
【0006】
このような導電性ゴムロールへのトナーの付着は、ごく初期の画像や連続的に印刷した画像には影響をあまり及ぼさないが、以下の(1)〜(4)の条件で印刷した場合にはその影響が無視できなくなる。即ち、通常帯電されたトナーは静電気力(クーロン力)により逆の電荷を持つ感光体に搬送されるところ、トナーと現像ロールの付着性が強いため、この静電気力によるトナーの搬送が妨げられ、トナーに付加する帯電量が変わらないにもかかわらず印刷濃度が低下するという問題が生じ得る。
(1)印刷をほどよく行い、トナーが現像ロールに比較的なじんだ時点(例えば1%印字画像を2,000枚程度印刷した時点)
(2)トナーの平均粒径が8μm以下、特に6μm以下の場合
(3)連続的に印刷せず、例えば一日停止して翌日印刷した場合
(4)トナーの帯電量が比較的高い低温低湿環境において使用する場合
【0007】
また、特開2005−225969号公報(特許文献2)には、ポリエーテル結合を有するゴムを含むイオン導電性ゴムにワックスを配合することで、加工性が向上し成形ムラや割れなどの表面欠陥を防ぐことができるとともに、表面の自由エネルギーを低減してトナー外添剤等の付着を長期にわたり防止することができる半導電性ゴム部材が提案されている。
しかしながら、当該半導電性ゴム部材においても上記のような状況下で印刷濃度の低下が見られることがあり、トナーの付着防止についてさらなる改善の余地がある。
さらには、ワックスのブリード等に起因する低分子量成分の存在と、約50℃程度の比較的高温環境下での粘着性の発現とによって、トナーや感光体への汚染がわずかであるが見られることがあり、高画質が要求されるプリンター等の用途においては使用できるゴムやポリマーが限定されてしまうという問題もある。
【0008】
さらに、特開2001−357735号公報(特許文献3)には、導電性基体上に形成される2層以上の機能層(例えば導電性弾性層など)を含んでなる導電性部材であって、最外層以外の少なくとも1以上の機能層の表面を特定の処理剤でコーティングした導電性部材が提案されている。
また、特開2002−23482号公報(特許文献4)には、外周に金属フタロシアニン化合物を含有する樹脂被服層が形成されている金属製の現像ローラが提案されている。
これら特許文献に記載の発明のようにコーティングを行うと、コーティング層の厚みやコーティング剤に含まれるフィラー等の分散性で電気特性が変わることから、電気特性の均一性や設計値の繰り返し再現性が損なわれることになる。たとえ被コーティング材にイオン導電性ゴムや金属などの電気特性の均一性等に優れた素材を用いても前記問題は解消できるものではない。さらには、製造にかかるコストの上昇が避けられないという工業的生産上の問題もある。
【0009】
【特許文献1】特開2004−170845号公報
【特許文献2】特開2005−225969号公報
【特許文献3】特開2001−357735号公報
【特許文献4】特開2002−23482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、トナーが付着しにくく、結果として静電気力によるトナーの移動を妨げることのない半導電性ゴムロールを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、トナー搬送部を有する半導電性ゴムロールであって、前記トナー搬送部は少なくともその最外層が加硫ゴムで形成されており、前記加硫ゴムは加硫ゴム100質量部に対して0.1〜30質量部の割合でフタロシアニン化合物を含んでおり、温度23℃、湿度55%で測定される印加電圧100Vにおける電気抵抗値が10〜10Ωであることを特徴とする半導電性ゴムロールを提供している。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、トナー搬送部の最外層を構成する加硫ゴムに加硫ゴム100質量部に対して0.1〜30質量部の割合でフタロシアニン化合物を配合することにより、トナー搬送部の表面からトナーが離れやすくなることを知見した。
さらに、このフタロシアニン化合物は、加硫ゴムに配合する場合の方が、例えば液状の熱硬化樹脂や高温で可塑化した熱可塑性樹脂に配合する場合に比べて高い分散性を示すことも知見した。これは、加硫ゴムは樹脂に比べて粘度が高いため、混合する際に例えばニーダ、バンバリーやロールといったゴム組成物混合のための汎用的な装置により高せん断を与えられるためであると考えられる。
そのうえ、本発明では、フタロシアニン化合物を含む加硫ゴム自体が最外層を形成しており、その厚みにムラが生じにくい。
ゆえに、樹脂にフタロシアニン化合物を含有させた分散性の悪いコーティング剤を厚さ1〜100μmというムラが生じてしまうのを避けられない薄さでコーティングしている特許文献4に記載の発明に比べ、本発明の方がフタロシアニン化合物の分散性も高く、かつフタロシアニン化合物を含む層の厚さムラも極めて少ないことから、トナー付着防止に関してより優れた効果を発揮する。
【0013】
本発明の半導電性ゴムロールは、トナーを表面に保持してトナーを搬送する機能をもつトナー搬送部を有する。該半導電性ゴムロールにおけるトナーの搬送量は、用途によっても異なるので特に限定されない。例えば現像ロールとして用いる場合は0.1〜1.0mg/cm程度のトナー搬送量を有することが好ましく、クリーニングロールとして用いる場合は0.0001〜0.1mg/cm程度のトナー搬送量を有することが好ましい。 本発明の半導電性ゴムロールはトナー搬送部を有していればその構造は問わないが、トナー漏れ防止用のシール部材を有することが好ましい。ここで、「シール部材」としてはトナー漏れ防止用に設けられたものに限らず、半導電性ゴムロールの外周面に摺動接触する部材をすべて含む。
【0014】
前記トナー搬送部は加硫ゴムで形成されている最外層を少なくとも有している。トナー搬送部の構造は当該最外層に備えていれば特に問わず、要求性能に応じて2層以上の複層構造としてもよいが、最外層のみからなる単層構造とすると物性のばらつきが少なく安価に製造できるため好ましい。
【0015】
最外層を構成する加硫ゴムはフタロシアニン化合物を含んでいる。
フタロシアニン化合物は加硫ゴム100質量部に対して0.1〜30質量部の割合で配合されている。フタロシアニン化合物の配合量が0.1質量部未満であると、半導電性ゴムロールの粘着性を十分に低減できず、トナーが半導電性ゴムロールの表面から離れにくくなり、ひいては印刷濃度の低下などの問題が生じ得る。一方、フタロシアニン化合物の配合量が30質量部を越えると、半導電性ゴムロールが高硬度になるとともに、トナーへの帯電付与性が変わる可能性がある。
【0016】
フタロシアニン化合物は、4つのイソインドールとそれぞれメソ位に位置する4つの窒素原子から構成される化学構造を基本骨格としている。そのため、テトラベンゾアザポルフィリンまたはテトラベンゾポルフィラジンと呼ばれることもあり、これら名称の化合物も本発明にいう「フタロシアニン化合物」に含まれる。
フタロシアニン化合物は、ビタミンC、葉緑素またはヘモグロビンなどを形成する天然に存在するポルフィリンと類似構造を有しているため、p電子共役系に基づく高い電子移動特性があり、また青から緑色を呈して可視光線に安定である。それゆえに染料および顔料として用いられることがほとんどであるが、本発明ではそれ自体がいかなる用途に使用されているかは特に問わず、公知のフタロシアニン化合物を用いることができる。
【0017】
本発明で用いるフタロシアニン化合物においては、前記基本骨格を有していれば公知の修飾を受けていてよく、例えばイソインドール環が化学的に許容される範囲で置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えばハロゲン原子(臭素原子、塩素原子など)、直鎖状もしくは分岐鎖状C1−6アルキル基、ヒドロキシル基、直鎖状もしくは分岐鎖状C1−6アルコキシ基、カルボキシル基、直鎖状もしくは分岐鎖状C1−6アルコキシ−カルボニル基、アミド基、スルホンアミド基、N−C1−12アルキルアミノスルホニル基(例えば−SONHC,−SONHC,−SONHC11,−SONHCHC(CH)H−C,−SONHCHC(C)H−Cなど)などの置換基が挙げられる。
【0018】
一般にフタロシアニン化合物は、分子の中心に金属を持たないメタルフリーフタロシアニンと、分子の中心に金属が配位した金属フタロシアニンに大別できるが、本発明においてはその何れも使用できる。
金属フタロシアニンにおける金属としては、周期律表のほとんどの金属を用いることができる。例えばV、Fe、Co、Ni、Pt、Cn、Zn、Al等が安定で好ましいが、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Ba、Hgなどであってもよい。
【0019】
フタロシアニン化合物として具体的には、フタロシアニン亜鉛、フタロシアニンコバルト、フタロシアニン鉄f、フタロシアニン銅(α型)、フタロシアニン銅(β型)、フタロシアニンナトリウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニンニッケルもしくはフタロシアニンマグネシウム等の金属フタロシアニン;ハロゲン化銅フタルシアニン等のハロゲン化した金属フタロシアニン;またはフタロシアニン有機化合物などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用して用いてよい。
なかでも、フタロシアニン化合物としてはフタロシアニン銅またはハロゲン化銅フタルシアニンを用いることが好ましい。
【0020】
本発明の半導電性ゴムロールにおいては、温度23℃、相対湿度55%で測定される印加電圧100Vにおける電気抵抗値が10〜10Ωである。当該条件における電気抵抗値は10〜10Ωであることがより好ましく、10〜10Ωであることが更に好ましい。本発明の半導電性ゴムロールを現像ローラとして用いる場合、前記電気抵抗値は10〜10Ωであることが特に好ましい。
半導電性ゴムロールの電気抵抗値は、流れる電流を制御して画像不良の発生を抑制し、感光体への放電を防ぐため10Ω以上とする。一方、トナー供給等の効率を維持し、かつトナーが感光体に移行する際に現像ロールの電圧降下が起って以後現像ロールから感光体へ確実にトナーを搬送できず画像不良が生じることを防ぐためには、半導電性ゴムロールの電気抵抗値は10Ω以下とする。さらに、電気抵抗値は10Ω以下であると、より幅広い環境下でも使用できるため極めて有用である。
なお、半導電性ゴムロールの電気抵抗値は下記実施例に記載方法で測定する。
【0021】
本発明の半導電性ゴムロールの最外層を構成する加硫ゴムの組成は特に限定されず、公知のゴム組成物を用いてよい。しかし、(1)塩素原子を有すること、(2)イオン導電性を示すこと、(3)電子導電材を含んでおり、かつSP値が18.0(MPa)1/2以上であることの3要件のうち少なくとも1の要件を満たすゴムを使用した場合、フタロシアニン化合物を添加することの効果が増すため好ましい。
【0022】
塩素原子を有するゴムは、例えばプラス帯電トナーに対して極めて容易にトナーを帯電できるという特長がある半面、塩素原子に起因して塩素原子を有さないゴムに比べ粘着力が大きい傾向がある。
しかし、フタロシアニン化合物を添加することにより高粘着性という塩素原子を有するゴムの欠点を抑制できる。特に塩素原子を有するゴムにおいては、塩素原子のおかげでフタロシアニン化合物が極めて分散しやすいことが実験によりわかった。そのため、粘着力の低減効果をより大幅に見込むことができる。
【0023】
イオン導電性ゴムは、電気特性の均一性や設計値の繰り返し再現性を確保することが容易である半面、水をイオン解離して導電性を得るため水とのなじみがよく、表面自由エネルギーが高く、濡れやすいため粘着力が大きい傾向がある。
しかし、フタロシアニン化合物を添加することにより、イオン導電性ゴムの利点を残したまま粘着力の低減効果が大幅に見込める。
【0024】
電子導電材を含むゴムはゴムの種類を選定することでプラス帯電トナーに対してもマイナス帯電トナーに対しても極めて高い導電性を与えることができる半面、SP値が18.0(MPa)1/2以上と極性が極めて高い場合は粘着力が大きい傾向がある。
しかし、フタロシアニン化合物を添加することにより高粘着性という当該ゴムの欠点を抑制できる。特に当該ゴムにおいては、極性があることとフィラーのせん断効果のおかげでフタロシアニン化合物が極めて分散しやすいことが実験によりわかった。そのため、粘着力の低減効果をより大幅に見込むことができる。
【0025】
以下に、本発明の半導電性ゴムロールの最外層を構成する加硫ゴムについてより詳細に説明する。
最外層を構成する加硫ゴムとしては、上述した塩素原子を有するゴムが好ましい。
塩素原子を有するゴムとしては塩素原子を有すれば公知のゴムであってよい。具体的には、例えばクロロプレンゴム、塩素化ブチルもしくはクロロスルホン化ポリエチレンなどのほとんど導電性を示さない非導電性ゴム、またはエピクロルヒドリン系共重合体などの導電性ゴムが挙げられる。
塩素原子を有するゴムとして非導電性ゴムを用いる場合は、最外層を導電性とするために、イオン導電性ゴムと組み合わせるか、イオン導電材または/および電子導電材を配合する。
【0026】
最外層を構成する加硫ゴムは、上記塩素原子を有するゴム以外の他のゴムを含んでいてもよい。前記「他のゴム」としては、例えばアクリロニトリルブタジエンゴム(以下「NBR」という)、アクリロニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。また、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートもしくはブタジエンモノオキシドなどの不飽和エポキシドとプロピレンオキシドとの二元共重合体等の低抵抗ポリマーも例示できる。これらは単独でまたは2種類以上組み合わせて用いることができる。
前記「他のゴム」の配合量は、フタロシアニン化合物の分散性を阻害しないなど本発明の目的に反しない範囲で調整され、具体的には全ゴム成分中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
最外層を構成する加硫ゴムとしては、上述したイオン導電性ゴムも好ましい態様として挙げられる。
最外層は、半導電性ゴムロールの電気抵抗値が10〜10Ωとなるよう導電性を有する必要がある。導電性には電子導電性とイオン導電性とがあるが、より均一な電気特性を得られることからイオン導電性を有することが好ましい。
最外層を構成する加硫ゴムにイオン導電性ゴムが含まれる場合は、その配合量を調整することによりイオン導電性とすることができる。もちろん下記するイオン導電材を併用してもよい。
最外層を構成する加硫ゴムにイオン導電性を示すゴムが含まれない場合はイオン導電材を添加する。
【0028】
前記イオン導電性ゴムとしてはエチレンオキサイドを含有する共重合体が挙げられる。エチレンオキサイドを含有する共重合体としては、例えばポリエーテル系共重合体またはエピクロルヒドリン系共重合体などが挙げられる。
【0029】
イオン導電材は種々選択できるが、例えば第4級アンモニウム塩、カルボン酸の金属塩、カルボン酸無水物もしくはエステル類等のカルボン酸誘導体、芳香族系化合物の縮合体、有機金属錯体、金属塩、キレート化合物、モノアゾ金属錯体、アセチルアセトン金属錯体、ヒドロキシカルボン酸金属錯体、ポリカルボン酸金属錯体、ポリオール金属錯体等の帯電防止剤または電荷制御剤などとして使用されているものを用いることができる。
また、イオン導電材としては、フルオロ基(F−)およびスルホニル基(−SO2−)を有する陰イオンを備えた塩も好適な例として挙げられる。より具体的には、ビスフルオロアルキルスルホニルイミドの塩、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メタンの塩またはフルオロアルキルスルホン酸の塩などが挙げられる。前記塩において陰イオンと対になる陽イオンとしては、アルカリ金属、2A族またはその他の金属イオンが好ましく、なかでもリチウムイオンがより好ましい。前記イオン導電材として具体的には、例えばLiCFSO、LiCSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiCH(SOCF等が挙げられる。
イオン導電材の配合量は、その種類によって適宜選択することができるが、例えばゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。
【0030】
最外層を構成する加硫ゴムとしては、上述したように電子導電材を含んでおり、かつSP値が18.0(MPa)1/2以上であるゴムも好ましい態様である。
電子導電材としては、ケッチェンブラック、ファーネスブラックもしくはアセチレンブラック等の導電性カーボンブラック;酸化亜鉛、チタン酸カリウム、アンチモンドープ酸化チタン、酸化スズもしくはグラファイト等の導電性金属酸化物;カーボン繊維等が挙げられる。なかでも、導電性カーボンブラックを用いることが好ましい。電子導電材の配合量は電気抵抗値などの物性を見ながら適宜選択すればよいが、例えばゴム成分100質量部に対して5〜35質量部程度である。
【0031】
加硫ゴムはSP値が18.0(MPa)1/2以上であれば、ほとんど導電性を示さない非導電性ゴムであっても、イオン導電性ゴムであってもよい。
2種類以上のゴムをブレンドする場合、SP値が18.0(MPa)1/2未満であるゴムを用いてよいが、みかけのSP値が18.0(MPa)1/2以上となるように配合量を調整する。みかけのSP値は、そのゴム固有のSP値と全体を1としたときの混合比の積をゴム成分ごとに算出し、その和で表されるものである。例えば、a成分のSP値をXa、全体を1としたときの混合比Yaとし、b成分のSP値をXb、全体を1としたときの混合比Ybとすると、見かけのSP値はXa・Ya+Xb・Ybとなる。
SP値とは溶解度パラメーターまたは溶解度定数のことであり、例えば「塗料の流動と顔料分散」(植木憲二監修、共立出版株式会社発行)等の文献で定義されており、各液体における凝集エネルギー密度の平方根であり、溶解性を特徴づける指標となる。SP値が高いほど極性が高い。SP値が18.0(MPa)1/2以上のゴムとしては、エピクロルヒドリン系共重合体、ポリエーテル系共重合体、アクリルゴム、アクリロニトリル量が20%以上であるNBRゴムまたはクロロプレンゴムなどが挙げられる。
【0032】
最外層を構成する加硫ゴムのより好ましい態様としては、
(a)エピクロルヒドリン系共重合体単独、
(b)クロロプレンゴムと、エピクロルヒドリン系共重合体または/およびポリエーテル系共重合体との組み合わせ、
(c)クロロプレンゴムと、NBRと、エピクロルヒドリン系共重合体または/およびポリエーテル系共重合体との組み合わせ、
(d)クロロプレンゴムとNBRとの組み合わせ
が挙げられる。
なかでも、(b−1)クロロプレンゴムとエピクロルヒドリン系共重合体との組み合わせ、(b−2)クロロプレンゴムとエピクロルヒドリン系共重合体とポリエーテル系共重合体との組み合わせ、(d)クロロプレンゴムとNBRとの組み合わせが特に好ましい。
【0033】
最外層を構成するゴムとして2種類以上のゴムを組み合わせる場合、その配合比は適宜選択すればよい。
例えば、(b−1)クロロプレンゴムとエピクロルヒドリン系共重合体とを組み合わせる場合、ゴム成分の総質量を100質量部とすると、エピクロルヒドリン系共重合体の含有量が5〜95質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは20〜50質量部、クロロプレンゴムの含有量が5〜95質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは50〜80質量部とすることが好適である。
(b−2)クロロプレンゴムとエピクロルヒドリン系共重合体とポリエーテル系共重合体とを組み合わせる場合、ゴム成分の総質量を100質量部とすると、エピクロルヒドリン系共重合体の含有量が5〜90質量部、好ましくは10〜70質量部、ポリエーテル系共重合体の含有量が5〜40質量部、好ましくは5〜20質量部、クロロプレンゴムの含有量が5〜90質量部、好ましくは10〜80質量部とすることが好適である。このような配合比にすることにより、3成分をうまく分散させることができ強度をはじめとする物性を向上させることができる。より好ましくは、質量比でエピクロルヒドリン系共重合体:クロロプレンゴム:ポリエーテル系共重合体=2〜5:4〜7:0.5〜1.5である。
(d)クロロプレンゴムとNBRとを組み合わせる場合、ゴム成分の総質量を100質量部とすると、NBRの含有量が5〜95質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは20〜50質量部、クロロプレンゴムの含有量が5〜95質量部、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは50〜80質量部とすることが好適である。
【0034】
エピクロルヒドリン系共重合体としては、例えば、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体等が挙げられる。
【0035】
エピクロルヒドリン系共重合体としてはエチレンオキサイドを含む共重合体が好ましく、エチレンオキサイド含量が30モル%以上95モル%以下、好ましくは55モル%以上95モル%以下、さらに好ましくは60モル%以上80モル%以下である共重合体が特に好適である。エチレンオキサイドは体積固有抵抗値を下げる働きがあるが、エチレンオキサイド含量が30モル%未満であるとその体積固有抵抗値の低減効果が小さい。一方、エチレンオキサイド含量が95モル%を超えると、エチレンオキサイドの結晶化が起こり分子鎖のセグメント運動が妨げられるため、逆に体積固有抵抗値が上昇する傾向があると共に、加硫ゴムの硬度上昇や加硫前のゴムの粘度上昇と言った問題が生じやすい。
【0036】
なかでも、エピクロルヒドリン系共重合体としてはエピクロルヒドリン(EP)−エチレンオキサイド(EO)−アリルグリシジルエーテル(AGE)共重合体を用いることが特に好ましい。前記共重合体中のEO:EP:AGEの好ましい含有比率はEO:EP:AGE=30〜95モル%:4.5〜65モル%:0.5〜10モル%であり、さらに好ましい比率はEO:EP:AGE=60〜80モル%:15〜40モル%:2〜6モル%である。
また、エピクロルヒドリン系共重合体としては、エピクロルヒドリン(EP)−エチレンオキサイド(EO)共重合体を用いることもできる。前記共重合体中のEO:EPの好ましい含有比率はEO:EP=30〜80モル%:20〜70モル%であり、さらに好ましい比率はEO:EP=50〜80モル%:20〜50モル%である。
【0037】
ポリエーテル系共重合体としては、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグルシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド−アリルグルシジルエーテル共重合体、プロピレンオキサイド−アリルグルシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体またはウレタン系ゴム等が挙げられる。
【0038】
ポリエーテル系共重合体としてはエチレンオキサイドを含む共重合体が好ましく、エチレンオキサイド含量が50〜95モル%である共重合体がより好ましい。エチレンオキサイドの比率が高い方が多くのイオンを安定化でき低抵抗化が実現できるが、エチレンオキサイドの比率を上げすぎるとエチレンオキサイドの結晶化が起こり分子鎖のセグメント運動が妨げられるため、逆に体積固有抵抗が上昇する可能性があるからである。
【0039】
ポリエーテル系共重合体はエチレンオキサイドに加えてアリルグリシジルエーテルをも含むことが好ましい。アリルグリシジルエーテルを共重合することにより、このアリルグリシジルエーテルユニット自体が側鎖として自由体積を得ることから、前記エチレンオキサイドの結晶化を抑制することができ、その結果として従来にない低抵抗化が実現できる。さらにアリルグリシジルエーテルの共重合により炭素−炭素間の二重結合を導入して他のゴムとの架橋を可能にでき、他のゴムと共架橋することによりブリードや感光体などの他の部材の汚染を防止することができる。
ポリエーテル系共重合体中のアリルグリシジルエーテル含量としては1〜10モル%が好ましい。1モル%未満ではブリードや他の部材の汚染の発生が起こり易くなる一方、10モル%を越えると、それ以上の結晶化の抑制効果は得られず、加硫後の架橋点の数が多くなり、却って低抵抗化が実現できず、また引張強度や疲労特性、耐屈曲性等が悪化することとなる。
【0040】
本発明で用いるポリエーテル系共重合体としては、なかでもエチレンオキサイド(EO)−プロピレンオキサイド(PO)−アリルグリシジルエーテル(AGE)三元共重合体を用いることが好ましい。プロピレンオキサイドを共重合させることにより、エチレンオキサイドによる結晶化をさらに抑制することができる。前記ポリエーテル系共重合体中のEO:PO:AGEの好ましい含有比率はEO:PO:AGE=50〜95モル%:1〜49モル%:1〜10モル%である。さらに、ブリードや他の部材の汚染をより有効に防止するため、前記EO−PO−AGE三元共重合体の数平均分子量Mnは10,000以上であることが好ましい。
【0041】
クロロプレンゴムはクロロプレンの重合体で乳化重合により製造されるが、分子量調節剤の種類によりイオウ変性タイプ、非イオウ変性タイプに分類される。
イオウ変性タイプは、イオウとクロロプレンを共重合したポリマーをチウラムジスルフィド等で可塑化し、所定のムーニー粘度に調整するものである。非イオウ変性タイプとしては、メルカプタン変性タイプまたはキサントゲン変性タイプ等が挙げられる。メルカプタン変性タイプは、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンまたはオクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を分子量調節剤として使用するものである。また、キサントゲン変性タイプはアルキルキサントゲン化合物を分子量調節剤として使用するものである。
また、クロロプレンゴムは生成クロロプレンゴムの結晶加速度により、結晶化速度が中庸のタイプ、結晶化速度が遅いタイプおよび結晶化速度が早いタイプに分けられる。
本発明においてはいずれのタイプを用いてもよいが、非イオウ変性で結晶化速度が遅いタイプが好ましい。
【0042】
また、本発明において、クロロプレンゴムとしてクロロプレンゴムに類似の構造を有するゴムまたはエラストマーを用いることもできる。例えば、クロロプレンと他の共重合可能な単量体1種以上との混合物を重合させて得られた共重合体を用いてもよい。クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、硫黄、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン並びにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらのエステル類などが挙げられる。
【0043】
NBRとしては、アクリロニトリル含量が25%以下である低ニトリルNBR、アクリロニトリル含量が25〜31%である中ニトリルNBR、アクリロニトリル含量が31〜36%である中高ニトリルNBR、アクリロニトリル含量が36%以上である高ニトリルNBRのいずれを用いてもよい。
本発明においてはゴム比重を低減するために比重の小さい低ニトリルNBRを用いることが好ましい。クロロプレンゴムとの混合性を鑑みれば中ニトリルNBRまたは低ニトリルNBRを用いることが好ましく、より具体的には溶解パラメーターの観点からアクリロニトリル含量が15〜39%、好ましくは17〜35%、より好ましくは20〜30%のNBRを用いることが好適である。
【0044】
最外層を構成する加硫ゴムに含まれるゴム成分およびフタロシアニン化合物以外の成分について以下に述べる。
最外層を構成する加硫ゴムにはゴム成分を加硫するための加硫剤が含まれる。
加硫剤としては硫黄系、チオウレア系、トリアジン誘導体系、過酸化物、各種モノマー等が使用できる。これらは単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。硫黄系加硫剤としては粉末硫黄、またはテトラメチルチウラムジスルフィドもしくはN,N−ジチオビスモルホリンなどの有機含硫黄化合物等が挙げられる。チオウレア系加硫剤としてはテトラメチルチオウレア、トリメチルチオウレア、エチレンチオウレアおよび(C2n+1NH)C=S(式中、nは1〜10の整数を表す。)で示されるチオウレア等が挙げられる。過酸化物としてはベンゾイルペルオキシドなどが挙げられる。
加硫剤の配合量はゴム成分100質量部に対して0.2質量部以上5質量部以下であることが好ましく、1質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0045】
前記加硫剤として硫黄およびチオウレア類を併用することが好ましい。
硫黄は、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下、好ましくは0.2質量部以上2質量部以下の割合で含まれているのが良い。前記範囲としているのは、0.1質量部より小さいと組成物全体の加硫速度が遅くなり生産性が悪くなりやすいためである。一方、5.0質量部より大きいと圧縮永久ひずみが大きくなったり、硫黄や促進剤がブルームしたりする可能性があるためである。
また、チオウレア類はゴム成分100gに対して合計0.0001mol以上0.0800mol以下、好ましくは0.0009mol以上0.0800mol以下、より好ましくは0.0015mol以上0.0400mol以下の割合で配合されているのが良い。前記チオウレア類を前記範囲で配合することにより、ブルームや他の部材の汚染を起こりにくくすることができると共に、ゴムの分子運動をあまり妨げないためより低い電気抵抗を実現できる。また、チオウレア類の添加量を増やし架橋密度を上げるほど電気抵抗値を下げることができる。すなわち、チオウレア類の配合量が0.0001molより少ないと圧縮永久ひずみを改善しにくい。電気抵抗値を効果的に下げるにはチオウレア類の配合量が0.0009mol以上であることが好ましい。一方、チオウレア類の配合量が0.0800molより多いとゴム組成物表面からチオウレア類がブルームし感光体などの他の部材を汚染したり、破断伸び等の機械的物性が極度に悪化しやすい。
【0046】
加硫剤の種類に応じて加硫促進剤や加硫促進助剤をさらに配合してもよい。
加硫促進剤としては、消石灰、マグネシア(MgO)もしくはリサージ(PbO)等の無機促進剤や以下に記す有機促進剤を用いることができる。有機促進剤としては、ジ−オルト−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1−オルト−トリルビグアニドもしくはジカテコールボレートのジ−オルト−トリルグアニジン塩等のグアニジン系;2−メルカプト・ベンゾチアゾールもしくはジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドもしくはジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系;チオウレア系等が挙げられ、これらを単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。
加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下が好ましく、0.5質量部以上2質量部以下がより好ましい。
【0047】
加硫促進助剤としては、亜鉛華等の金属酸化物;ステアリン酸、オレイン酸もしくは綿実脂肪酸等の脂肪酸;その他従来公知の加硫促進助剤が挙げられる。
加硫促進剤の添加量は、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上8質量部以下がより好ましい。
【0048】
最外層を構成する加硫ゴムとして塩素原子を有するゴムを用いる場合、受酸剤を配合することが好ましい。受酸剤を配合することにより、ゴム加硫時に発生する塩素系ガスの残留および他の部材の汚染を防止することができる。
受酸剤としては酸受容体として作用する種々の物質を用いることができるが、分散性に優れていることからハイドロタルサイト類またはマグサラットを用いることが好ましく、特にハイドロタルサイトを用いることがより好ましい。さらに、これらに酸化マグネシウムや酸化カリウムと併用することにより高い受酸効果が得られ、他の部材の汚染をより確実に防止することができる。
受酸剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対し1質量部以上10質量部以下、好ましくは1質量部以上5質量部以下としている。加硫阻害および他の部材の汚染を防止する効果を有効に発揮させるため受酸剤の配合量は1質量部以上であることが好ましく、硬度の上昇を防ぐため受酸剤の配合量は10質量部以下であることが好ましい。
【0049】
最外層を構成する加硫ゴムとしてイオン導電性ゴムを用いる場合、トナーに高い帯電性を付与し、かつその帯電性の持続性を向上させるために、誘電正接調整剤を配合することが好ましい。
誘電正接調整剤としては、弱導電性カーボンブラックまたは脂肪酸処理された炭酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、弱導電性カーボンブラックを用いる方が好ましい。
【0050】
弱導電性カーボンブラックとは粒径が大きくストラクチャーの発達が小さく導電性への寄与が小さいカーボンブラックであり、これを配合することにより導電性を高めることなく分極作用によるコンデンサー的な働きを得ることができ、電気抵抗の均一化を損なうことなく帯電性のコントロールを実現できる。
前記弱導電性カーボンブラックとして、一次粒径が80nm以上、好ましくは100nm以上のものを用いれば、より有効に前記効果が得られる。また、一次粒径が500nm以下、好ましくは250nm以下であると表面粗さを極めて小さくできる。前記弱導電性カーボンブラックの形状は表面積が小さいことから球形状または球形に近い形状が好ましい。
弱導電性カーボンブラックとしては種々の選択が可能であるが、中でも大粒径を得やすいファーネス法またはサーマル法により製造されたカーボンブラックが好ましく、ファーネスカーボンブラックがより好ましい。カーボンの分類で言うとSRFやFT、MTが好ましい。また顔料で用いられるカーボンブラックを用いても良い。
【0051】
弱導電性カーボンブラックの配合量は、誘電正接の低減効果を実質的に発揮するためにゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、硬度が上昇し接触する他の部材を損傷させるおそれを避け、かつ耐摩耗性の低下を回避するために、70質量部以下であることが好ましい。また、印加電圧に対しロール抵抗の電圧変動が小さい、いわゆるイオン導電性特性を得るためにも70質量部以下の配合が好ましい。弱導電性カーボンブラックの配合量は、他の成分との混合性の観点から10〜60質量部であることがより好ましく、25〜55質量部であることが特に好ましい。
【0052】
脂肪酸処理された炭酸カルシウムは、脂肪酸が炭酸カルシウムの界面に存在することにより通常の炭酸カルシウムに比べ活性が高く、また易滑性であることから高分散化が容易かつ安定して実現できる。脂肪酸処理により分極作用が促されると、前記2つの作用の働きでゴム内のコンデンサー的な働きが強まるため誘電正接を効率良く低減することができる。脂肪酸処理された炭酸カルシウムとしては、炭酸カルシウムの粒子表面に全面にわたってステアリン酸等の脂肪酸がコーティングされているものが好ましい。
脂肪酸処理された炭酸カルシウムの配合量はゴム成分100質量部に対して30〜80質量部、好ましくは40〜70質量部である。誘電正接を低減する効果を実質的に発揮するためには30質量部以上であることが好ましく、硬度の上昇および抵抗の変動を避けるためには80質量部以下であることが好ましい。
【0053】
前記成分の他に、本発明の目的に反しない限り、可塑剤、加工助剤、劣化防止剤、充填剤、スコーチ防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、造核剤、発泡剤、気泡防止剤または架橋剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0054】
前記可塑剤としてはジブチルフタレート(DBP)やジオクチルフタレート(DOP)、トリクレジルホスフェート等の各種可塑剤やワックスが挙げられ、加工助剤としてステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。これら可塑成分は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。酸化膜を形成する際にブリードが生じたり、プリンター装着時や運転時に感光体などの他の部材を汚染したりするのを防ぐためである。この目的を鑑みれば極性ワックスの使用が最も好ましい。
【0055】
前記劣化防止剤としては各種老化防止剤や酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合には、所望により施される表層部分における酸化膜の形成が効率よく進むよう、その配合量を適宜選択することが好ましい。
【0056】
前記充填剤としては、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、シリカ、カーボン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムまたは水酸化アルミニウム等の粉体を挙げることができる。充填剤を配合することにより機械的強度等を向上させることができる。なかでも、充填剤として酸化チタンおよび/または酸化アルミニウムを用いて上記フタロシアニン化合物と共存させると、フタロシアニン化合物の配合効果が上がるとともにフタロシアニン化合物のゴムへの分散性がよくなるので好ましい。
充填剤の添加量はゴム成分100質量部に対し60質量部以下とすることが好ましく、50質量部以下とすることがより好ましい。なお、前記弱導電性カーボンブラックは充填剤としての役割も果たす。
【0057】
前記スコーチ防止剤としては、N−シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、N−ニトロソジフェニルアミン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。なかでも、N−シクロヘキシルチオフタルイミドを用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合せて用いてもよい。スコーチ防止剤の添加量は、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下が好ましく、0.1質量部以上1質量部以下がより好ましい。
【0058】
本発明の半導電性ゴムロールは常法により作製できる。
例えば最外層のみからなる半導電性ゴムロールの製造方法について以下に述べる。
トナー搬送部を構成する成分をニーダ、ロールやバンバリーミキサ等の混合装置を用いて混練り後、ゴム押出機でチューブ状に予備成形し、この予備成形品を加硫したのち、芯金を挿入・接着し表面を研磨した後、所要寸法にカットし、適宜研磨を施してロール状とする。
加硫時間は、加硫試験用レオメータ(例:キュラストメータ)により最適加硫時間を求めて決めるとよい。なお、他の部材への汚染と圧縮永久ひずみを低減させるため、なるべく十分な加硫量を得られる様に条件を設定することが好ましい。具体的に、加硫温度は100〜220℃であることが好ましく、120〜180℃であることがより好ましい。加硫時間は15〜120分間であることが好ましく、30〜90分間であることが好ましい。 半導電性ゴムロールが2層以上から構成される場合は上記方法に準じ、複層状にゴムを押し出し加硫缶で加硫するか、連続加硫により加硫するかして製造することができる。

【0059】
さらに、本発明の半導電性ゴムロールにおいては、最外層の表面に酸化膜を形成させることが好ましい。酸化膜が低摩擦層となることでトナー離れがよくなり、画像形成が容易に行われ、その結果より良好な画像が得られる。
酸化膜としては多数のC=O基またはC−O基等を有する酸化膜が好ましい。酸化膜は最外層の表面に紫外線照射あるいは/およびオゾン照射等の処理を施し、最外層の表層部分を酸化することで形成させることができる。なかでも紫外線照射により酸化膜を形成することが、処理時間が早く、コストも低いことから好ましい。
【0060】
前記酸化膜を形成するための処理は公知の方法に従って行うことができる。例えば紫外線照射を行う場合には最外層の表面と紫外線ランプとの距離やゴムの種類等により異なるが、波長が100〜400nm、より好ましくは100〜300nmの紫外線を30秒〜30分、好ましくは1分〜10分程度半導電性ゴムロールを回転させながら照射することが好ましい。
また、紫外線照射を施す場合、NBRなど紫外線で劣化しやすいゴムは50質量部以下の配合が好ましい。紫外線を照射する場合特にクロロプレンおよびクロロプレン系ゴムの添加は極めて有効である。
【0061】
酸化膜形成前の半導電性ゴムロールに電圧50Vを印加した時のロール電気抵抗をR50とし、酸化膜形成後の印加電圧50Vにおけるロール電気抵抗をR50aとしたとき、log(R50a)−log(R50)=0.2〜1.5程度とすることが好ましい。当該範囲とすることは、耐久性の向上、半導電性ゴムロール使用時の抵抗変化の低減、トナーへのストレスの低減や感光体崩れ対策の観点から好ましい。このように安定して電圧を負荷することができる50Vという低電圧時のロール電気抵抗を指標値としているため、酸化被膜形成による微小な抵抗上昇を精度良く捉えることができる。なお、より好ましい範囲は下限は0.3、特に0.5が好ましく、上限は1.2、特に1.0が好ましい。
【0062】
以上のようにして製造される本発明の半導電性ゴムロールは、下記のような物性を示すことが好ましい。
本発明の半導電性ゴムロールにおいては、トナーに高い帯電性を付与し、かつその帯電性の持続性を向上させるために、電圧5V、周波数100Hzで交流電圧を印加した際の誘電正接が0.1〜1.8であることが好ましい。
半導電性ゴムロールの電気特性において誘電正接とは、電気の流し易さ(導電率)とコンデンサー成分(静電容量)の影響度を示す指標であり、交流電流を印加した際の位相遅れを示すパラメーターでもあり、電圧をかけた時のコンデンサー成分割合の大きさを示している。即ち、誘電正接はトナーが量規制ブレードにより高圧で現像ロールに接触した際に生成される帯電量と感光体へ搬送されるまでにロール上に逃げる帯電量とにより表され、感光体接触直前の帯電量を示す指標となる。
誘電正接が大きいと電気(電荷)を通しやすく分極は進みにくい。逆に誘電正接が小さいと電気(電荷)を通しにくく分極が進むことになる。よって、誘電正接が小さい方がロールのコンデンサー的特性が高く、摩擦帯電で生じたトナー上の電荷をロールから逃すことなく維持できる。すなわち、トナーに帯電性を付加でき、付加した帯電性を維持することができる。かかる効果を得るために誘電正接を約1.8以下としている。また、帯電量が上がりすぎて印刷濃度が低下しすぎるのを防ぐため、さらには誘電正接を調整するための添加物の量が多くなり硬くなるを避けるため、誘電正接は約0.1以上としている。誘電正接の下限は0.3以上がより好ましく、0.5以上が最も好ましく、また上限は1.5以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましく、0.8以下が最も好ましい。
【0063】
誘電正接は次の方法で測定する。
図3に示すようにトナー搬送部1を載置している金属板53と芯金2とを電極とし、トナー搬送部1に電圧5V、周波数100Hzの交流電圧を印加し、LCRメータ(安藤電気(株)製「AG−4311B」)にてR(抵抗)成分とC(コンデンサー)成分を分離して測定する。このRとCの値から以下の式により誘電正接を求めることができる。なお、前記測定は温度23℃、相対湿度55%の恒温恒湿条件下で行う。
誘電正接(tanδ)=G/(ωC),G=1/R
このように誘電正接は1本のロールの電気特性をロールの抵抗成分とコンデンサー成分の2種の並列等価回路としてモデル化した際にG/ωCとして求まる値である。
誘電正接の測定条件として5Vの微小電圧を印加しているのは、前記半導電性ゴムロールを現像ロールとした場合、現像ロールがトナーを保持した際、またトナーを感光体に搬送した際には極めて微小な電圧変動を生じるためである。また、周波数を100Hzとしているのは、現像ロールの回転数、現像ロールが接触または近接する感光体やブレード、トナー供給ロールとのニップを考慮すると100Hz程度の低周波数が極めて事象に適合するためである。

【0064】
本発明の半導電性ゴムロールは、表面の摩擦係数が0.1〜1.0であることが好ましく、0.1〜0.8であることがより好ましく、0.1〜0.6であることがより好ましい。かかる範囲であればトナーの帯電性向上およびトナーの付着防止を図ることができるためである。また、半導電性ゴムロールの摩擦係数が1.0以上であるとトナーにかかるせん断力などのストレスが大きくなる。また他の部材と摺動接触している部材においては摩擦による発熱量や摩耗が大きくなる。一方、半導電性ゴムロールの摩擦係数が0.1以下であると、トナーが滑って十分な量のトナーを搬送することやトナーを十分に帯電することが難しくなる等の不都合が出てくる。
前記摩擦係数の測定は、図4に示すように、デジタルフォースゲージ((株)イマダ製「Model PPX−2T」)41と、摩擦片(市販のポリエステル製のOHPフィルム、ロール長手方向との接触幅;50mm)42と、20gの重り44と、半導電性ゴムローラ43とからなる装置においてデジタルフォースゲージ41で測定された数値をオイラーの式に代入することにより、摩擦係数を算出することができる。
【0065】
本発明の半導電性ゴムロールは表面粗さRzが10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。表面粗さRzを小さくすることにより、半導電性ゴムロールの表面にはトナーの粒径より小さな凹凸が存在するにすぎなくなるため、均一なトナーの搬送ができ、トナーの流動性がよくなる結果トナーに帯電性を与える効率がきわめて高くなる。表面粗さRzは小さい方が好ましいが、通常は1μm以上である。表面粗さRzが1μm未満になるとトナーを搬送しにくくなる。
なお、表面粗さRzはJIS B 0601(1994)に準拠して測定する。
【0066】
本発明の半導電性ゴムロールにおいては、JIS K 6253に記載のデュロメーター硬さ試験タイプAの硬度が70度以下であることが好ましい。これは、軟らかいほどニップが大きくなり、転写、帯電、現像等の効率が大きくなる、または感光体等の他の部材への機械的ダメージを小さくできるという利点があるという理由による。なお、硬度の下限値としては、柔らかいほど好ましいが、耐摩耗性の観点から40度以上が好ましく、50度以上がより好ましい。
さらに、JIS K 6262に規定されている圧縮永久歪みが10%以下であることが好ましく、9.5%以下であることがより好ましい。圧縮永久歪みが10%以下であると、寸法変化が小さく、また耐久性が向上し、画像形成装置の精度をより長期に渡り維持することができるようになる。下限については加硫条件の最適化や安定した量産性の面で1%以上が好ましい。なお、圧縮永久歪みの測定条件は、測定温度70℃、測定時間24時間、圧縮率25%とする。
【0067】
本発明の半導電性ゴムロールは、レーザービームプリンター、インクジェットプリンター、複写機、ファクシミリまたはATMなどのOA機器における電子写真装置の画像形成機構に用いられることが好ましい。
なかでも、非磁性1成分トナーを感光体に搬送するための現像ロールとして好適に用いられる。電子写真装置の画像形成機構における現像方式としては感光体と現像ロールの関係で分類すると接触式または非接触式に大別されるが、本発明の半導電性ゴムロールはいずれの方式にも利用できる。なかでも本発明の半導電性ゴムロールを現像ロールとして用いる場合は感光体に概接触していることが好ましい。
本発明の半導電性ゴムロールは、現像ロールの他、感光ドラムを一様に帯電させるための帯電ロール、トナー像を感光体から転写ベルトや用紙に転写するための転写ロール、トナーを搬送させるためのトナー供給ロール、残留しているトナーを除去するためのクリーニングロール等として用いることもできる。
【発明の効果】
【0068】
本発明においては、トナー搬送部の最外層を構成する加硫ゴムにフタロシアニン化合物を特定割合で配合することによりトナー搬送部におけるトナーの付着を軽減することができる。特に、従来より各種特性を付与するためにゴム成分として塩素を含有するゴムやイオン導電性ゴムを用いることが多いが、この場合には表面自由エネルギーが高くなってしまい極めてトナーが付着しやすい状態になるという問題点があった。しかし、フタロシアニン化合物の添加によるトナーの付着低減効果は、このようなゴムの方が極めて顕著に現れる。
さらに、このトナーの付着低減効果は、ゴム成分の種類および組成や表面酸化膜の有無、半導電性ゴムロールの物性、特に誘電正接によって影響を受けることがない。加えて、環境や印刷状況によっても左右されず、長期に渡って、少なくともトナーが半導電性ゴムロールに比較的なじんだ時期においても、その効果を維持し続ける。
その結果、本発明の半導電性ゴムロールを画像形成装置の現像ロールとして用いた場合は、印刷濃度が低下することなく、安定した濃度の印刷物を長期間にわたって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
現像ロールとして用いる半導電性ゴムロール10は図1に示すように、円筒形状の肉厚0.5〜15mm、好ましくは3〜15mm、より好ましくは5〜15mmのトナー搬送部1と、その中空部に圧入された円柱形状の芯金(シャフト)2と、トナー4が漏れるのを防止するシール部3を備えている。前記トナー搬送部1と芯金2とは導電性接着剤で接合されている。前記トナー搬送部1の最表面には酸化膜が形成されている。
トナー搬送部1の肉厚を0.5〜15mmとしているのは、前記範囲より小さいと適当なニップを得にくく、前記範囲より大きいと部材が大きすぎて小型軽量化を図りにくいからである。
芯金2は、アルミニウム、アルミニウム合金、SUSもしくは鉄等の金属製、またはセラミック製等とすることができる。
シール部3はテフロン(登録商標)などの不織布やシートから構成されている。
【0070】
図1に示した半導電性ゴムロール10の製造方法について以下に述べる。
トナー搬送部1を構成する成分をバンバリーミキサで混練り後、ゴム押出機でチューブ状に予備成形し、この予備成形品を160℃で15〜70分間加硫したのち、芯金2を挿入・接着し表面を研磨した後、所要寸法にカットし、適宜研磨を施してロール状とする。加硫時間は、加硫試験用レオメータ(例:キュラストメータ)により最適加硫時間を求めて決めるとよい。また、加硫温度は必要に応じて前記温度に上下して定めてもよい。また、加硫温度は必要に応じて前記温度に上下して定めてもよい。また、発泡剤等を配合して、発泡ロールを形成させてもよい。
【0071】
ロールを水洗いしたあと、最外層の表面に酸化膜を形成する。具体的には、紫外線照射機を用い、ロールと紫外線ランプ間の距離を10cmとして周方向90度毎に紫外線(波長184.9nmと253.7nm)を5分間照射し、ロールを4回回転させることで、ロール全周(360度)に酸化膜を形成することができる。
【0072】
トナー搬送部1を構成する成分の第1実施態様としては、ゴム成分としてエピクロルヒドリン系共重合体とクロロプレンゴムとを組み合わせて用い、さらにフタロシアニン化合物、誘電正接調整剤、加硫剤および受酸剤を含む。
エピクロルヒドリン系共重合体としては、エチレンオキサイド:エピクロルヒドリン:アリルグリシジルエーテルの含有比率が60〜80モル%:15〜40モル%:2〜6モル%であるエチレンオキサイド−エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル三元共重合体を用いている。
クロロプレンゴムとしては、非硫黄系クロロプレンゴムを用いている。
エピクロルヒドリン系共重合体とクロロプレンゴムとの配合比は、ゴム成分の総質量を100質量部とすると、エピクロルヒドリン系共重合体の含有量が25〜45質量部、クロロプレンゴムの含有量が55〜75質量部としている。
【0073】
フタロシアニン化合物としてはフタロシアニン銅またはハロゲン化銅フタルシアニンを用いることが好ましく、ハロゲン化銅フタルシアニンを用いることがより好ましい。
ハロゲン化銅フタルシアニンは、銅フタロシアニンが有する16個の水素原子の一部または全てを塩素原子または臭素原子で置換したものであり、塩素原子または臭素原子が様々な比率で導入された化合物を用いてよい。なかでも、ハロゲン原子の数が銅フタロシアニン1分子中に平均8個以上である化合物が好ましく、そのハロゲン原子がすべて塩素原子であることがより好ましい。
フタロシアニン化合物の配合量はゴム成分100質量部に対して0.1〜30質量部としている。なかでも、フタロシアニン化合物の配合量は0.5〜20質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましく、3〜10質量部がとくに好ましい。
【0074】
前記誘電正接調整剤としては弱導電性カーボンブラックを用いている。該弱導電性カーボンブラックとしては、一次粒径が100〜250nmで、球形状または球形に近い形状のものが好ましい。さらに、よう素吸着量が10〜40mg/g、好ましくは10〜30mg/gで、DBP吸油量が25〜90ml/100g、好ましくは25〜55ml/100gの弱導電性カーボンブラックを用いることが好ましい。弱導電性カーボンブラックの配合量はゴム成分100質量部に対して20〜70質量部としている。
【0075】
前記加硫剤として硫黄およびチオウレア類を併用することが好ましい。
硫黄は、ゴム成分100質量部に対して0.2〜1質量部の割合で含まれているのが良い。
チオウレア類としてはエチレンチオウレアを用いることが好ましい。チオウレア類は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部の割合で含まれているのが好ましく、0.5〜3質量部の割合で含まれているのがより好ましい。
【0076】
前記受酸剤としてはハイドロタルサイト類またはマグサラットを用いることが好ましく、特にハイドロタルサイトを用いることがより好ましい。受酸剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対し1〜5質量部としている。
【0077】
トナー搬送部1を構成する成分の第2実施態様としては、ゴム成分としてクロロプレンゴムとNBRを組み合わせて用い、さらにフタロシアニン化合物、電子導電材、加硫剤および受酸剤を含む。
クロロプレンゴムとしては、非硫黄系クロロプレンゴムを用いている。
NBRとしては、アクリロニトリル含量が25%以下である低ニトリルNBRを用いている。
クロロプレンゴムとNBRとの配合比は、ゴム成分の総質量を100質量部とすると、クロロプレンゴムの含有量が55〜75質量部、NBRの含有量が25〜45質量部としている。
さらに、クロロプレンゴムとNBRのブレンドゴムにおいては、その配合比から算出される見かけのSP値が18.0(MPa)1/2以上となるように調整されている。
【0078】
電子導電材としては、導電性カーボンブラックを用いることが好ましく、アセチレンブラックを用いることがより好ましい。電子導電材の配合量はゴム成分100質量部に対して5〜25質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。
フタロシアニン化合物、加硫剤および受酸剤については、第1実施態様と同様である。
【0079】
トナー搬送部1を構成する成分の第3実施態様としては、ゴム成分としてエピクロルヒドリン系共重合体とクロロプレンゴムとポリエーテル系共重合体を組み合わせて用い、さらにフタロシアニン化合物、誘電正接調整剤、加硫剤および受酸剤を含み、加えて所望によりイオン導電材を含む。
エピクロルヒドリン系共重合体およびクロロプレンゴムについては、第1実施態様と同様である。
ポリエーテル系共重合体としては、エチレンオキサイド:プロピレンオキサイド:アリルグリシジルエーテルの含有比率が80〜95モル%:1〜10モル%:1〜10モル%であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体を用いる。当該共重合体の数平均分子量Mnは1万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。
前記エピクロルヒドリン系共重合体、ポリエーテル系共重合体およびクロロプレンゴムの配合比は、ゴム成分の総質量を100質量部とすると、エピクロルヒドリン系共重合体の含有量が15〜40質量部、ポリエーテル系共重合体の含有量が5〜20質量部、クロロプレンゴムの含有量が40〜80質量部としている。
【0080】
フタロシアニン化合物、誘電正接調整剤、加硫剤および受酸剤については、第1実施態様と同様である。
所望により添加されるイオン導電材としては第4アンモニウム塩が好ましい。イオン導電材の配合量はゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。
【0081】
本発明の半導電性ゴムロールは、温度23℃、相対湿度55%で測定される印加電圧100Vにおけるロール電気抵抗が約10
〜10Ωを示す。
本発明の半導電性ゴムロールにおいてはトナーとの付着性が軽減されており、静電気力(クーロン力)によるトナーの移動を無駄なく行うことができる。その結果として、例えば本発明の半導電性ゴムロールを現像ロールとしてプリンターに組み込んだ場合、印刷物の印刷濃度が低下することがない。具体的には例えば、最初の黒ベタ画像の印刷物の透過濃度をC0、1%印字にて2,000枚印刷後の黒ベタ画像の印刷物の透過濃度をC2000とすると、C2000/C0≧1となる。
【0082】
「実施例1〜10、比較例1〜3」
下記表に記載の配合材料(表中の数値は質量部を示す。)をバンバリーミキサで混練り後、ゴム押出機にて外径φ22mm、内径φ9〜9.5mmのチューブ状に押し出し加工を施した。該チューブを加硫用のφ8mmシャフトに装着し、加硫缶にて160℃で1時間加硫を行った後、導電性接着剤を塗布したφ10mmのシャフトに装着して160℃のオーブン内で接着した。その後、端部をカット成形し、円筒研磨機でトラバース研磨、ついで仕上げ研磨として鏡面研磨を施し、表面粗さRzが3〜5μmになるように仕上げた。なお表面粗さRzはJIS B 0601(1994)に従って測定した。その結果、φ20mm(公差0.05)の半導電性ゴムロールを得た。
【0083】
ロール表面を水洗いした後、紫外線照射を行い表層部分に酸化層を形成した。これは紫外線照射機(セン特殊光源(株)製「PL21−200」)を用い、ロールと紫外線ランプ間の距離を10cmとして周方向90度毎に紫外線(波長184.9nmと253.7nm)を5分間照射することによって行い、ロールを90度ずつ4回回転させてロール全周(360度)に酸化膜を形成させた。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】

各実施例および比較例の半導電性ゴムロールにおける構成成分としては以下のものを用いた。
(a)ゴム成分
・クロロプレンゴム;昭和電工(株)製「ショープレンWRT」(SP値=19.19)
・エピクロルヒドリン系共重合体;ダイソー(株)製「エピオンON301」
EO(エチレンオキサイド)/EP(エピクロルヒドリン)/AGE(アリルグリシジルエーテル)=73mol%/23mol%/4mol%
・NBR;日本ゼオン(株)製「ニッポールDN401LL」(アクリロニトリル含量18%、SP値=17.8)
・ポリエーテル系共重合体:日本ゼオン(株)製「ゼオスパンZSN8030」
EO(エチレンオキサイド)/PO(プロピレンオキサイド)/AGE(アリルグリシジルエーテル)=90mol%/4mol%/6mol%
(b)フタロシアニン化合物
ハロゲン化銅フタロシアニン;長瀬産業(株)製「イルガライトGreen GFNP」
【0087】
(c)その他の成分
・弱電性カーボンブラック;旭カーボン(株)製「旭#8」
平均1次粒径120nm、DBP吸油量29ml/100g、
よう素吸着量14mg/g
・導電性カーボンブラック;電気化学工業(株)製「デンカブラック」
・第4級アンモニウム塩 ;花王(株)製「KP4728」
・ハイドロタルサイト(受酸剤);協和化学工業(株)製「DHT−4A−2」
・粉末硫黄(加硫剤)
・エチレンチオウレア(加硫剤);川口化学工業(株)製「アクセル22−S」
【0088】
前記各実施例および比較例の半導電性ゴムロールについて下記の特性測定を行った。その結果を上記表に示した。
【0089】
「ロール電気抵抗の測定」
図2に示すように芯金2を通したトナー搬送部1をアルミドラム13上に当接搭載し、電源14の+側に接続した内部抵抗r(100Ω)の導線の先端をアルミドラム13の一端面に接続すると共に電源14の−側に接続した導線の先端をトナー搬送部1の他端面に接続して測定した。
前記電線の内部抵抗rにかかる電圧を検出し、検出電圧Vとした。この装置において印加電圧をEとすると、ロール電気抵抗RはR=r×E/(V−r)となるが、今回−rの項は微少とみなし、R=r×E/Vとした。芯金2の両端に500gずつの荷重Fをかけ30rpmで回転させた状態で、印加電圧Eを100Vとした時の検出電圧Vを4秒間で100個測定し、上式によりRを算出した。前記測定は温度23℃、相対湿度55%の恒温恒湿条件下で行った。
なお、表中にはlog10Rを記載した。
【0090】
「半導電性ゴムロールのトナー付着性の評価」
半導電性ゴムロールとトナーとの付着性を調べるため、市販のレーザープリンター(非磁性1成分トナーを使用した市販のプリンターで、トナー推奨印刷枚数約7,000枚相当)に実施例および比較例の各半導電性ゴムロールを現像ロールとして装着し、画像として出力したトナー量の変化、すなわち印刷物上のトナー積層量の変化を指標として性能評価を行った。なお、印刷物上のトナー積層量の測定は以下に示すような透過濃度の測定により代用できる。
具体的には、黒ベタ画像を印刷し、得られた印刷物上の任意の5点において反射透過濃度計(TECHKON社製「テシコン濃度計RT120/ライトテーブルLP20」にて透過濃度を測定し、その平均値を評価値(表中では「C0」と表す。)とした。
さらに、1%印字にて2,000枚印刷し、その後に黒ベタ画像を印刷し、得られた黒ベタ画像印刷物について前記と同様に透過濃度を測定し、その平均値を評価値(表中では「C2000」と表す。)とした。2,000枚印刷後の透過濃度を測定したのは、通常慣らし運転が終了するのが2,000枚程度だからである。
得られた値から濃度変化率(%)=C2000/C0を算出した。
【0091】
「トナー帯電量の評価」
前記のようにして測定される印刷物の透過濃度の変化に対してトナー帯電量の変化が影響を及ぼしていないかを調べるために、下記のようなトナー帯電量の評価を行った。
具体的には、黒ベタ画像を印刷し、ついで白ベタ画像(白紙)を印刷した後レーザープリンターからカートリッジをはずし、カートリッジに装着されている現像ロールに対して上方から吸引型帯電量測定機(トレック社製「Q/M METER Model 210HS−2」)によりトナーを吸引し、帯電量(μC)とトナー質量(g)を測定した。質量当たりの静電気量をトナー帯電量(μC/g)として算出した(表中では「T0」と表す。)。すなわち、トナー帯電量(
μC/g)=帯電量(μC)/トナー質量(g)である。
さらに、1%印字にて2,000枚印刷し、ついで黒ベタ画像を印刷し、そして2,002枚目の印刷物として白ベタ画像(白紙)を印刷し、その後、前記と同様にトナー帯電量(表中では「T2000」と表す。)を測定した。
【0092】
通常トナーは使用するとトナー帯電量が低下し、その結果印刷物上のトナー積層量、すなわち印刷物の透過濃度は上昇することが一般的に知られている。これは、現像ロールと感光体との間の電位差をトナーが有する帯電量が埋めており、前記電位差はトナーが有する帯電量、すなわちトナー帯電量(μC/g)×トナー質量(g)に比例するため、現像ロールと感光体との間の電位差は一定である以上トナー帯電量が低下すればトナー質量が上昇するという原理である。
しかし、比較例1〜3においては、トナーの帯電量が低下しているのに印刷物の透過濃度は上昇するどころか下がっている。これはトナーの一部が現像ロールに付着したためであることがわかった。
一方、実施例1〜10においては、トナーの帯電量の低下に伴い印刷物の透過濃度が上昇しており、比較例1〜3でみられるような現像ロールへのトナーの付着という現象が起きなかったことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の半導電性ゴムロールの概略図である。
【図2】半導電性ゴムロールのロール電気抵抗の測定方法を示す図である。
【図3】半導電性ゴムロールの誘電正接の測定方法を示す図である。
【図4】半導電性ゴムロールの摩擦係数の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 トナー搬送部
2 芯金
3 シール部
4 トナー
10 半導電性ゴムロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー搬送部を有する半導電性ゴムロールであって、前記トナー搬送部は少なくともその最外層が加硫ゴムで形成されており、前記加硫ゴムは加硫ゴム100質量部に対して0.1〜30質量部の割合でフタロシアニン化合物を含んでおり、
温度23℃、湿度55%で測定される印加電圧100Vにおける電気抵抗値が10〜10Ωであることを特徴とする半導電性ゴムロール。
【請求項2】
前記加硫ゴムが塩素原子を有するゴムを含む請求項1に記載の半導電性ゴムロール。
【請求項3】
前記加硫ゴムが、誘電正接調整剤を含むイオン導電性ゴムである請求項1または請求項2に記載の半導電性ゴムロール。
【請求項4】
前記イオン導電性ゴムが、イオン導電材を配合することによりイオン導電化されている請求項1〜3に記載の半導電性ゴムロール。
【請求項5】
前記加硫ゴムが電子導電材を含み、かつ、SP値が18.0(MPa)1/2以上である請求項1または請求項2に記載の半導電性ゴムロール。
【請求項6】
トナー搬送部が、最外層のみから構成されている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の半導電性ゴムロール。
【請求項7】
電子写真装置の画像形成機構において非磁性1成分トナーを用いた現像装置に用いられる現像ロールである請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の半導電性ゴムロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−116684(P2008−116684A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299685(P2006−299685)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】