説明

半導電性ベルト及びその製造方法

【課題】実使用上必要とされる低い摩擦係数を維持しつつベルトの伸縮に対する表面層構成塗膜の追随性を高めることにより,クラックの発生が改善された半導電性ベルト並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】半導電性ゴムからなる弾性層と表面層からなり,表面層はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する樹脂層からなり,表面層のSPM法(走査型プローブ顕微鏡)で測定した硬度対応ピーク電圧値が−6.35V以下である半導電性ベルトとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電子写真方式の基本原理を使用した普通紙複写機,カラー複写機,レーザービームプリンター,ファクシミリ並びにこれらの複合された機能を有するOA機器等の画像形成装置において転写ベルトや転写搬送ベルト等として使用可能な半導電性ベルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成装置に使用する転写ベルト,転写搬送ベルト,中間転写ベルトなどの半導電性ベルトは公知であり,係る半導電性ベルトは,クロロプレンゴム,NBR,エチレンプロピレンゴム等をゴム材料とする弾性層の少なくとも表面にポリ四フッ化エチレン微粉末を含有する樹脂等からなる塗料を塗布して形成された潤滑層である表面層を備えたものである(特許文献1〜4など)。
【0003】
上記の特許文献1開示のベルトは,弾性層の上に中間層を塗布し,その上にポリ四フッ化エチレン(商品名テフロン)微粉末を分散したウレタン樹脂からなる表面層を形成して得られるものである。引用文献2に開示されたベルトは,引用文献1開示のベルトと同様な構成を有するものであり,表面層構成材料としてシリコーン樹脂粉末を含有する四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂が開示されている。また特許文献3,4に開示されたベルトの表面層構成材料はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する水系樹脂であり,該構成を有する表面層形成に適した市販の塗料も記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−160766号公報
【特許文献2】特開平9−50190号公報
【特許文献3】特開平11−352787号公報
【特許文献4】特開2005−284119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転写ベルトや転写搬送ベルトにおいては,画像の鮮明さの確保や用紙の裏汚れの防止などのために,通常表面に付着したトナーをポリウレタンエラストマー製のクリーニングブレードないしブラシを使用してクリーニングする構成が採用される。このため,半導電性ベルトの表面層は摩擦係数の小さい材料で構成されることが求められる。一方,係る半導電性ベルトは一定の張力を負荷した状態で複数のローラーにより駆動されるため,ローラー接触部において表面側が繰り返し伸縮変形を受ける。その結果,特許文献1〜4に開示のような塗料をOA機器用の半導電性ベルトの表面層として使用した場合,摩擦係数を小さくすると,長期の使用により表面に微細なクラックが発生し,クラックの発生を防止するべくバインダー樹脂の弾性率を低下させて柔らかくすると摩擦係数が高くなるという相反する問題があり,低い摩擦係数を維持しつつベルトの寿命を長くすることが困難であった。
【0006】
本発明は,上記の公知技術の問題点に鑑みて,実使用上必要とされる低い摩擦係数を維持しつつベルトの伸縮に対する表面層構成塗膜の追随性を高めることにより,クラックの発生が改善された半導電性ベルト並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,半導電性ゴムからなる弾性層と表面層からなる半導電性ベルトであって,
前記表面層はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する樹脂層からなり,
前記表面層のSPM法(走査型プローブ顕微鏡)で測定した硬度対応ピーク電圧値が−6.35V以下であることを特徴とする。
【0008】
係る構成の半導電性ベルトは,実使用上必要とされる低い摩擦係数を維持しつつベルトの伸縮に対する表面層構成塗膜の追随性を高めてクラックの発生が改善されたものである。SPM法で測定した硬度対応ピーク電圧値は,−6.40V以下であることがより好ましい。また,SPM法で測定した硬度対応ピーク電圧値は−6.80V以上であることが好ましい。従来,ベルトの表面層構成塗膜の特性は,単に摩擦係数又は硬度の測定により評価が行われていたが,微小な探針(カンチレバー)のタッピングにより測定(SPM法)した硬度が,転写ベルトなどの半導電性ベルトの潤滑性,クリーニング性,耐クラック性の評価により適したものであることが判明した。
【0009】
本発明は,半導電性ゴムからなる弾性層と表面層とを有する半導電性ベルトであって,
前記表面層はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する樹脂からなる海部と前記海部よりも柔軟なポリウレタン樹脂からなる島部とを備えた海島構造であることを特徴とする。
【0010】
係る構成の半導電性ベルトも,実使用上必要とされる低い摩擦係数を維持しつつベルトの伸縮に対する表面層構成塗膜の追随性を高めてクラックの発生が改善されたものである。また係る構成により,SPM法で測定した硬度対応ピーク電圧値が−6.35V以下のベルトを得ることができる。
【0011】
上記の半導電性ベルトにおいては,前記海部を構成する水系潤滑性塗料の乾燥塗膜の伸びが50〜450%であり,前記島部を構成する水系ポリウレタン樹脂の乾燥塗膜の伸びが500〜1500%であること,即ち島部構成材料が海部構成材料よりも柔軟であることが好ましい。
【0012】
表面層を構成する海部の伸びが450%を超える場合には海部が柔らかくなりすぎる結果表面層の摩擦係数が高くなり,50%未満の場合には逆に硬くなりすぎてクラックの発生を十分に防止することができない。表面層を構成する島部の伸びが1500%を超える場合には,やはり表面層の摩擦係数が高くなり,500%未満の場合には摩擦係数は低くなるがクラックの発生を十分に防止することができない。また伸びが1500%を超えるポリウレタン樹脂は粘着性が強くなり,トナーが付着しやすくなる。海部の伸びは150〜400%であることがより好ましく,200〜350%であることがさらに好ましい。また前記島部の伸びは600〜1300%であることがより好ましい。
【0013】
伸びは,乾燥後の塗膜についてJIS K 6251規定の測定方法により測定した値である。塗膜の伸びは,硬度と相関性があり,伸びが大きいほど塗膜は一般的に柔らかい。表面層を構成する海部の硬度は,鉛筆硬度にてF〜HBであることが好ましく,表面層を構成する島部の硬度は,鉛筆硬度にてBよりも柔らかいことが好ましい。
【0014】
別の本発明は,半導電性ゴムからなる弾性層と表面層とを有する半導電性ベルトの製造方法であって,
半導電性ゴムからなる弾性層を製造する弾性層製造工程及び前記弾性層の上に表面層を形成する塗料を塗布し,乾燥する表面層形成工程を有し,
前記塗料はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末とバインダー樹脂を含む水系潤滑性塗料と水系ポリウレタン樹脂の混合物であることを特徴とする。
【0015】
係る構成の製造方法により製造された半導電性ベルトは,実使用上必要とされる低い摩擦係数を維持しつつベルトの伸縮に対する表面層構成塗膜の追随性を高めてクラックの発生が改善されたものである。水系潤滑性塗料により海部が,水系ポリウレタン樹脂により島部が,それぞれ形成される。また係る構成の製造方法により,SPM法で測定した硬度対応ピーク電圧値が−6.35V以下のベルトを得ることができる。
【0016】
上記製造方法においては,水系潤滑性塗料と水系ポリウレタン樹脂との混合比率は,乾燥後の重量(固形分)にて島部の割合が海部の重量に対して2〜65重量%であることが好ましく,5〜50重量%であることがより好ましい。水系ポリウレタン樹脂の割合が少なすぎる場合には表面層のクラック発生防止効果が低下し,多すぎると摩擦係数が高くなる。
【0017】
上記の半導電性ベルトの製造方法においては,前記海部を形成する水系潤滑性塗料塗膜の伸びが50〜450%であり,前記島部を形成する水系ポリウレタン樹脂塗膜の伸びが500〜1500%であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の半導電性ベルトの弾性層を構成するゴム材料としては,公知のゴム材料,好ましくはポリクロロプレンゴム,NBR,エピクロルヒドリンゴム等の極性ゴムを限定なく使用することができる。ゴム材料は,それ自体が所望の半導電性である場合には導電性を付与する添加剤を添加することなく使用することができ,SBR,EPDMなどの絶縁性のゴム材料の場合,ならびに極性ゴム材料だけでは達成できない半導電性ゴム材料とする場合には,半導電性にするために,カーボンブラック,導電性無機粉末,イオン性導電剤等の公知の導電性の充填剤を添加する。半導電性とは,一般的には体積抵抗率が10〜1012Ω・cmであることをいう。
【0019】
SPM(走査型プローブ顕微鏡)は,試料表面を微小な探針(カンチレバー)でタッピングしながら走査することによって,表面三次元形状を高倍率で観察する顕微鏡であり,タッピングの際に発生する電圧のピーク値は測定表面の硬度と対応するため,該電圧ピーク値により表面の硬度を表現することができる。
【0020】
表面層を構成する海部構成材料は,ポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する樹脂からなるものであり,樹脂としては特に限定されるものではなく,ポリウレタン樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂等が例示されるが,ポリウレタン樹脂,アクリル樹脂又はこれらの混合樹脂であることが好ましい。樹脂は非架橋タイプであってもよく,架橋剤を使用して架橋したものであってもよい。乾燥後の海部のポリ四フッ化エチレンの含有率は,10〜80重量%であることが好ましく,30〜70重量%であることがより好ましく,40〜65重量%であることがさらに好ましい。ポリ四フッ化エチレンの含有率が少なすぎると表面層の潤滑性が低下し,多すぎると伸張によりクラックが入りやすくなる。海部を構成する材料は樹脂のエマルジョン等の水性液ないし有機溶剤溶液にポリ四フッ化エチレン微粉末を混合分散することにより製造することができるが,市販の塗料を使用することもできる。市販の塗料としては,エムラロン345,エムラロンJLH−205(ヘンケルテクノロジー)を例示することができる。これらの市販の塗料は,いずれも水にて希釈可能な水系潤滑塗料であり,主剤と硬化剤とからなり,使用時に混合するタイプである。
【0021】
表面層を構成する島部構成材料は,ポリウレタン樹脂であり,該ポリウレタン樹脂を構成するポリオール化合物はポリエーテル系,ポリエステル系等特に限定されないが,表面層の耐久性が優れている観点よりポリエーテル系,とりわけPTMGを主たる(全ポリオール化合物の90モル%以上)ポリオール成分とするポリウレタン樹脂の使用がより好ましい。島部はポリ四フッ化エチレン微粉末を含有していてもよく,していなくてもよい。
【0022】
表面層を海島構造に構成する方法としては,島部を構成するポリウレタン樹脂としてエマルジョン樹脂を使用し,該エマルジョン樹脂を,海部を構成する水系のポリ四フッ化エチレン微粉末含有樹脂と混合した塗料を使用することが好ましい。島部構成樹脂は,架橋構造であってもよく,また非架橋構造であってもよい。島部を構成する水系ポリウレタン樹脂としては市販品を使用することができ,乾燥後の塗膜の伸びが500〜1500%,好ましくは600〜1300%のものを選択する。
【0023】
弾性層と表面層の間に中間層ないしプライマー層を設け,弾性層と表面層との接着を強固にすることは好ましい態様である。係る中間層構成材料としては,ポリウレタン樹脂,ハロゲン化ポリオレフィンなどを例示することができる(特開平11−352787号公報参照)。
【0024】
海部並びに島部には,必要に応じて公知の塗料の添加剤を添加することができる。添加剤としては,顔料や染料等の着色剤,消泡剤,レべリング剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤等を例示することができる。
【実施例】
【0025】
(弾性層製造例)
ポリクロロプレンゴム100重量部に対してアセチレンブラック25重量部,並びに加工助剤,可塑剤,充填剤,加硫剤等の周知の材料を配合した未加硫ゴム組成物を常法により調製し,押出成形法によりベルトの成形を行った。成形は,クロスヘッドを備えたベントタイプの押出機を使用して外径102mm,長さ360mmの金属製マンドレルを供給し,該マンドレルの外周面に厚さ1.0mmの弾性層を形成し,加熱加硫を行い,冷却後に厚さ0.5mmに研磨仕上を行い,弾性層とした。弾性層にはプライマー処理を施した。
【0026】
(実施例1)
主剤95重量部と硬化剤5重量部からなり,固形分中ポリ四フッ化エチレン微粉末含有率が50重量%であるエムラロン345(ヘンケルテクノロジー)(以下E成分という)とポリエーテルポリオールをポリオール成分とするポリウレタン樹脂エマルジョン(ポリ四フッ化エチレン微粉末非含有;非架橋タイプ:以下S成分という)をE成分の固形分に対するS成分の固形分の添加量が7.5重量%となるように混合して表面層形成用塗料とし,乾燥後の塗膜厚が10μmとなるように弾性層の表面に塗装,乾燥(120℃,20分加熱)して表面層を形成した。塗料に対しては,あらかじめ水分散した着色用カーボンブラックを固形分にて5重量部とベンガラを固形分にて7.5重量部添加し,水にてスプレー塗装に適した粘度に希釈した。形成された表面層を顕微鏡で観察するとポリ四フッ化エチレン微粉末を含む海部の中にS成分の島部が存在する海島構造であった。
【0027】
エムラロン345のみを使用して作製した塗膜の伸びは270%(アルミニウム板上に厚さ30μmにて形成した塗膜の鉛筆硬度はF〜HB)であり,ポリエーテルポリオールベースのポリウレタンエマルジョンのみを使用して作製した塗膜の伸びは700%(アルミニウム板上に厚さ30μmにて形成した塗膜の鉛筆硬度は2B)であり,塗膜の伸びはいずれもJIS K 6251にしたがって測定した値である。
【0028】
(実施例2)
E成分の固形分に対するS成分の固形分の添加量が15重量%となるように混合して表面層形成用塗料とした以外は実施例1と同じ方法で表面層を形成した。形成された表面層を顕微鏡で観察すると,実施例1と同様にポリ四フッ化エチレン微粉末を含む海部の中にS成分の島部が存在する海島構造であった。
【0029】
(実施例3)
E成分の固形分に対するS成分の固形分の添加量が22.5重量%となるように混合して表面層形成用塗料とした以外は実施例1と同じ方法で表面層を形成した。形成された表面層を顕微鏡で観察すると,実施例1と同様にポリ四フッ化エチレン微粉末を含む海部の中にS成分の島部が存在する海島構造であった。
【0030】
(実施例4)
E成分の固形分に対するS成分の固形分の添加量が45重量%となるように混合して表面層形成用塗料とした以外は実施例1と同じ方法で表面層を形成した。形成された表面層を顕微鏡で観察すると,実施例1と同様にポリ四フッ化エチレン微粉末を含む海部の中にS成分の島部が存在する海島構造であった。
【0031】
(比較例1)
S成分を添加することなくE成分のみを表面層形成用塗料として使用し,実施例1と同じ方法で表面層を形成した。形成された表面層を顕微鏡で観察すると,ポリ四フッ化エチレン微粉末を含む樹脂層であり,海島構造ではなかった。
【0032】
(比較例2)
E成分の固形分に対するS成分の固形分の添加量が75重量%となるように混合して表面層形成用塗料とした以外は実施例1と同じ方法で表面層を形成した。形成された表面層を顕微鏡で観察すると,実施例1と同様にポリ四フッ化エチレン微粉末を含む海部の中にS成分の島部が存在する海島構造であった。
【0033】
(評価)
塗膜の評価方法は以下のとおりであり,評価結果は(表1)に示した。
<1>塗膜硬度
走査型プローブ顕微鏡SPM−9500(島津製作所)を使用し,温度23℃にて測定を行った。測定は,カンチレバーとしてシリコンプローブPPP−NCHR(Nano World社製;C=42N/m)を使用し,タッピングモードの測定周波数1Hzにて測定範囲10μm×10μmの範囲を測定し,検知される電圧のピーク値にて硬度を表示した。
<2>静摩擦係数の測定
表面層を形成したベルトについて,トライボギアμs TYPE:94i(HEIDON)を使用し,温度23℃,湿度55%RHの環境下にて測定を行った。接触子はハードクロム処理をした黄銅40gを使用した。
<3>塗膜追随性
ベルト周方向にJIS 1号ダンベルサンプルを打ち抜き,両端部をチャッキングして伸張する伸張器具に装着してゆっくりとした速度で伸張し,表面塗膜面を拡大鏡で観察して塗膜にクラックが発生した伸張率を塗膜追随性(%)とした。
<4>耐クラック性
外径20mmの2本のローラーを備えたベルト伸張ユニットを使用して伸張率4%にてベルトを伸張した状態で装着し,ベルト回転数100rpmにて7日間ベルト走行試験を行い,試験後のベルト表面塗膜の状態を顕微鏡で観察してクラックの発生の有無により評価を行った。クラック発生しなかったものを○,クラックが発生したものを×として表示した。
<クリーニング性>
ベルトの表面に市販の黒色粉砕トナーを付着させ,40℃にて48時間放置した後にポリウレタン製クリーニングブレードにより容易に掻取ることができるか否かを評価した。結果は,容易に掻取ることができたものを○,容易に掻取れずにトナーが付着残存したものを×として示した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果に示されるように,塗膜の伸びが270%のエムラロン345(E成分)を海部とし,塗膜の伸びが700%のポリエーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョン(S成分)をE成分の固形分に対するS成分の固形分の添加量がそれぞれ7.5,15,22.5,45重量%の表面層を有する半導電性ベルトは,SPM法による硬度対応ピーク電圧値が−6.35〜−6.80Vの範囲であり,塗膜追随性,耐クラック性に優れ,静摩擦係数が低く,クリーニング性に優れたものであった。これに対して,従来技術であるS成分が添加されていない表面層である比較例1は,静摩擦係数は小さくてクリーニング性は良好であるが,塗膜追随性,耐クラック性は満足できるものではなかった。またS成分の固形分の添加量が75重量%である比較例2の組成の表面層は,比較例1の場合とは逆に塗膜追随性,耐クラック性の点では良好であったが,静摩擦係数が高く,クリーニング性の点では問題を有するものであった。静摩擦係数が0.6の比較例2の表面層を有するベルトの場合,クリーニングブレードを当接させると滑らず,クリーニングができなかった。伸びが700%のポリエーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンに代えて伸びが1000%のポリエーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンを使用し,E成分に対して固形分にて22.5重量%添加した場合も実施例2と同様な効果が得られた。
【0036】
(耐久性試験)
実施例2の表面層を備えた半導電性ベルトと比較例1の表面層を備えた半導電性ベルトを転写ベルトとして使用し,実機評価を行った。比較例1の表面層を備えた半導電性ベルトは,表面にクラックが入って交換すべき時期に至るまでのカウント数は240k枚(24万枚)であったが,実施例2の表面層を備えた半導電性ベルトを使用した場合は,500k枚であり,寿命が大幅に向上した。
【0037】
また,半導電性ベルトは,製造時においても,弾性層をマンドレルに装着して表面層を塗装形成後に脱着する際等にベルトが局部的な伸張を受けて表面層にクラックを発生して不良品となる場合があるが,実施例2の表面層を有するベルトをテスト的に1000本製造したところ,クラック発生による不良率は0%であったが,比較例1の表面層を備えた半導電性ベルトの場合には,不良率は,同じ製造工程において2%以下になることはなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導電性ゴムからなる弾性層と表面層とを有する半導電性ベルトであって,
前記表面層はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する樹脂層からなり,
前記表面層のSPM法で測定した硬度対応ピーク電圧値が−6.35V以下であることを特徴とする半導電性ベルト。
【請求項2】
半導電性ゴムからなる弾性層と表面層からなる半導電性ベルトであって,
前記表面層はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末を含有する樹脂からなる海部と前記海部よりも柔軟なポリウレタン樹脂からなる島部とを備えた海島構造であることを特徴とする半導電性ベルト。
【請求項3】
前記海部の伸びが50〜450%であり,前記島部の伸びが500〜1500%であることを特徴とする請求項2に記載の半導電性ベルト。
【請求項4】
半導電性ゴムからなる弾性層と表面層とを有する半導電性ベルトの製造方法であって,
半導電性ゴムからなる弾性層を製造する弾性層製造工程及び前記弾性層の上に表面層を形成する塗料を塗布し,乾燥する表面層形成工程を有し,
前記塗料はポリ四フッ化エチレン樹脂微粉末とバインダー樹脂を含む水系潤滑性塗料と水系ポリウレタン樹脂の混合物である半導電性ベルトの製造方法。
【請求項5】
前記水系潤滑性塗料と水系ポリウレタン樹脂の混合比率が,乾燥後の重量(固形分)にて前記水系ポリウレタン樹脂の割合が前記水系潤滑性塗料の重量に対して2〜65重量%であることを特徴とする請求項4に記載の半導電性ベルトの製造方法。
【請求項6】
前記水系潤滑性塗料の乾燥塗膜の伸びが50〜450%であり,前記水系ポリウレタン樹脂の乾燥塗膜の伸びが500〜1500%であることを特徴とする請求項4又は5に記載の半導電性ベルトの製造方法。

【公開番号】特開2010−122314(P2010−122314A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293702(P2008−293702)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】