説明

半田鏝、それを用いて電子機器を製造する方法

【課題】フラックスの飛散を防止するとともに、高品質な半田付けを行うための半田鏝を提供する。
【解決手段】半田鏝1の中心軸に筒状の貫通孔を有し、半田鏝1の先端部が円錐台状又は角錐台状を形成し、先端部における貫通孔開口部2の径(d)が0.5〜3mmであり、該開口部2を含む平面の径が2〜6mmである形状を持ち、材質が半田に対して濡れにくいセラミック、ステンレス、チタンまたはクロムで形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸半田を溶融させて半田付けを行うための半田鏝、それを用いて電子機器を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配線基板のランドと金属ピンやワイヤなどの端子同士を半田付けするための鏝として、鏝先が椀状又はキャップ状をなすものが知られている(特許文献1)。ランドから突き出たピンを鏝先の開口部で囲った状態で鏝のキャップ内に糸半田を供給し、鏝を加熱することにより、半田を溶融し、ピンに半田付けさせると共に不要個所への半田付けとフラックスの飛散を防止しようとするものである。なお、溶融半田が接する鏝先のキャップ内面は、ハンダメッキ等により半田に対する濡れ性が高められている。
【0003】
前記特許文献1に記載の半田鏝を用いる場合、キャップ状空間の内面に付着した半田によりキャップ内が詰まりやすく、それを防止するために半田鏝の側面に形成した空気孔より半田が固化しない内に空気を吹き付け、キャップ側壁に付着する半田を吹き飛ばす必要がある。そのため、半田付けの装置が複雑になり実用化に問題が多い。
【特許文献1】特開平11−245029
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第一の課題は、フラックスの飛散を防止するとともに、詰まりの生じにくい半田鏝を提供することにある。第二の課題は、高品質の電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本課題を解決するために、本発明では以下の形状の筒状半田鏝を採用することで、フラックスの飛散を防止するとともに、詰まりの生じにくい半田鏝を実現することができた。即ち、
1)半田鏝の中心軸に筒状の貫通孔を有し、
2)半田鏝の先端部が円錐台状又は角錐台状を形成し、先端部における貫通孔開口部の径(d)が0.5〜3mmであり、
3)半田鏝の後端部の貫通孔の径(D)が先端部の開口部の径(d)と同じであるか、又は開口部の径(d)以上で且つ9mm以下である、
4)半田鏝は半田に対して濡れにくいセラミック、ステンレス、チタン又はクロムで形成されている、
ことを特徴とする筒状半田鏝を使用することで、本発明の課題を解決することが可能となった。
【0006】
この半田鏝によれば、鏝の軸方向に貫通孔があり、半田鏝の両端が開口しているので、この鏝をランドの上に立てて、一回の半田付けに必要な長さに切断した糸半田を鏝の後端から投入すれば、先端まで落下してランドやピンに接する。そして、鏝の先端部で半田を溶融させることにより、ピンやワイヤなどの相手側端子が一定量の半田で接合される。半田付け部が半田鏝の貫通孔で囲まれているので、溶融半田やフラックスが周囲に飛散することはなく、しかも溶融半田が均等に回り込むことができる。また、半田鏝の先端部が半田に対して濡れにくい材料(セラミック、ステンレス、チタン又はクロム)で形成されているので、貫通孔の内面に半田が付着することがほとんどなく、貫通孔の半田詰まりを抑制できる。その結果、供給半田の定量性が維持されるとともに、接合後のピンの外観がきれいに仕上がる。
【0007】
また、熱融解性被覆マグネットワイヤ(例えばポリウレタン被覆銅線)が金属ピンに巻き付けられたチョークコイルなどの電子部品を基板に接続する場合、この発明の鏝を用いれば、ワイヤ、金属ピン及びランドの三者を同時に半田付けすることができる。半田から溶出したフラックスが放散することなく筒内に止まり、金属の表面を浄化して半田に濡れやすくするからである。従って、ワイヤと金属ピンの二者をあらかじめ半田付けしておく必要が無く、工程を短縮化できる点で優れている。
【0008】
尚、この明細書においてランドとは、ピン挿入孔を有しないパッドをも含む広義の電子機器上の端子をいう。
【0009】
半田を溶融させるための加熱手段としては、適宜、汎用の加熱手段を使用することができる。好ましい加熱手段としては、前記半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーター等を挙げることができる。
【0010】
加熱手段により、半田鏝が加熱され、先端部(開口部)では250〜600℃になる。先端部(開口部)における好ましい温度範囲としては、300〜400℃を挙げることができる。通常使用される共晶半田の融点は約183°Cであるのに対して、Pbフリー半田の融点は約220°Cであり、約40°C近い融点の温度差があり、その分、半田付けの時間(加熱時間)が長くかかることになる。そのため、半田片が溶解する先端部(開口部)付近の温度が高温であれば溶融時間が短く、低温であれば溶融時間が長くなる。従って、半田溶融部分である、先端部(開口部)付近の温度が、通常は300〜400℃の範囲にあることが望ましい。半田溶解の操作性を考慮すれば、該温度は約320〜370℃の範囲が最も好ましい。
【0011】
従って、この半田鏝を用いて電子機器を製造する適切な方法は、以下の工程、
1)前記先端部で半田を溶融させるための加熱手段を設置し、該先端部の温度を250〜600℃になるよう加熱する、
2)該先端部の開口部を電子部品の端子銅線に差込み、基盤に接触させる、
3)糸半田を一回の半田付けに必要な長さに切断して、得られた半田片を後端部の貫通孔から投入落下させる、
4)該先端部の筒内で落下半田片を溶融させ、その溶融の間、筒状半田鏝を該端子銅線を中心に相対運動させる、
により、電子部品の端子銅線に半田付けを行なうことを特徴とする方法である。
【0012】
前記半田鏝の貫通孔の内径は、先端部における貫通孔開口部の径(d)が0.5〜3mmであり、後端部の貫通孔の径(D)が先端部の開口部の径(d)と同じであるか、又は開口部の径(d)以上で且つ9mm以下である。好ましい内径としては、1.0〜2.0mmを挙げることができる。
【0013】
なお、先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なる場合、先端部に設置された内径(d)の貫通孔の長さ(L)が0.5〜15mmであることが望ましい。あるいは、先端部の貫通孔の長さ(L)がほとんどなく、先端部がテーパ孔となっていることが望ましい。
【0014】
なお、当然ながら、貫通孔の内径は半田片の外径よりも大きく、ピンを挿入する場合はピンの外径よりも大きい。
【0015】
半田鏝の先端部は、円錐台あるいは角錐台の形状を形成し、加熱手段(加熱ブロック)よりも下部に突出している。
【0016】
また、この製造方法に適切な装置は、
切り刃及び受け刃からなり、少なくともいずれか一方に所定の長さの糸半田を受け入れ可能な半田保持孔が形成され、互いに擦れ合いながら相対的に変位することにより、半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニットと、
少なくとも先端部が半田に対して濡れにくい材料で形成され、糸半田が通過可能な内径の貫通孔を有し、両端が開口した半田鏝と、
前記先端部で半田を溶融させるための加熱手段と、
半田鏝の後端部を開閉するシャッター
を備えることを特徴とする。
【0017】
前記カッターユニットの一つの具体的構成においては、前記切り刃が駆動源の出力に応じて一方向に進退可能で、前記半田保持孔が切り刃の進退方向と直交する方向に貫通して形成される。この場合、前記受け刃が切り刃を進退方向に案内する凹部を有し、一側に切り刃の後退時に前記貫通孔と位置が合う半田供給孔が形成され、同じ側又は反対側に切り刃の前進時に前記貫通孔と位置が合う半田排出孔が形成される。そして、前記半田鏝の貫通孔が、径方向位置が前記半田排出孔と一致するように置かれる。
【0018】
この構成によれば、供給孔より保持孔に糸半田を供給した状態で、受け刃に対して切り刃を前進させると両刃の嵌合部に剪断力が作用して糸半田が切断される。得られた半田片は、排出孔より出て筒内に入り、自重で落下し、半田鏝の貫通孔の先端部が接触しているランドに接地する。そして、加熱溶融されて前記の通り接合が行われる。一回の半田付けに使用される半田は、保持孔に供給された長さで定まる一定長の半田片である。そして、保持孔に供給される糸半田の長さは、半田送りローラの回転数によって制御することができる。
【0019】
なお、好ましくは半田供給孔側に気体もしくはプランジャを受け入れる導入孔を有する。切断して得られた半田片にバリや曲げが生じていても導入孔から保持孔内に圧縮気体を吹き付けるかプランジャを挿入することにより、半田片を排出することができるからである。前記半田保持孔及び筒の内径は、半田保持孔の軸方向長さよりも小さいのが好ましい。これにより半田片を軸方向に立てた状態で少ない抵抗で半田鏝の先端部に送ることができる。
【0020】
前記カッターユニットの別の具体的構成においては、前記切り刃が駆動源の出力に応じて一方向に進退可能で、前記受け刃が、切り刃を進退方向に案内する平面を有する。この場合、前記半田保持孔が切り刃の進退方向と直交する方向に貫通して受け刃に形成される。そして、前記半田鏝の貫通孔が、径方向位置が前記半田保持孔と一致するように置かれる。
【0021】
この構成によれば、保持孔に糸半田を供給した状態で、受け刃に対して切り刃を前進させると両刃の嵌合部に剪断力が作用して糸半田が切断される。得られた半田片は、保持孔より出て半田鏝の貫通孔内に入り、自重で落下し、半田鏝の先端部が接触するランドに接地する。そして、加熱溶融されて前記の通り接合が行われる。一回の半田付けに使用される半田は、前記と同様に保持孔に供給された長さで定まる一定長の半田片である。
【0022】
半田鏝の後端部を開閉するシャッターの一つの具体的構成においては、前記シャッターは、前記半田排出孔と半田鏝の間に設置され、駆動源の出力に応じて一方向に進退可能である。そして、前記シャッターには半田鏝の貫通孔の部分と重なるような径の開口部を有する。この開口部は、半田保持孔と排出孔が一致し、糸半田が切断され自重で落下する際には、半田鏝の貫通孔の上に存在して、落下する糸半田を貫通孔に誘導できるようになっている。それ以外の場合には、貫通孔を遮蔽するようになっている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の半田鏝によれば、0.5〜3mmと言う微細な内径の貫通孔を持つ鏝先を有しており、精密電子機器の半田付けに際して、半田やフラックスの飛散がなく品質の良いものが得られる。更に、筒状の鏝先を有することから、上記のようにランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から加熱(輻射熱、伝導熱、対流熱)することにより、より的確な半田付けが可能となった。また、本発明の半田鏝の材質は、従来の半田鏝の材質(銅や鉄)と異なり、セラミック、ステンレス、チタン又はクロムのような半田濡れ性がないもので形成されている。そのことから、本発明の半田鏝を使用した場合には、従来のものとは異なり、銅や鉄が半田に溶け込まないので、高品質な半田付けが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
−実施形態1−
本発明の半田鏝の実施形態を図面とともに説明する。図1は半田鏝の貫通孔の形状を示す断面図であり、先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が同じである、ストレートな貫通孔を持つ半田鏝を示す。
【0025】
図2は、先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なる場合の半田鏝の断面図である。この半田鏝は、先端部に内径(d)の貫通孔が(L)の長さだけ設置されていることを示している。
【0026】
図3は、半田鏝の先端部の貫通孔の長さ(L)が0.5mm以下であり、ほとんどない場合の、先端部がテーパ孔となっている半田鏝の断面図である。
【0027】
図1において、半田鏝1の貫通孔2は、保持孔とほぼ同じ内径を有し、上下に貫通している。半田鏝の先端部は加熱ブロック3よりも下方に突出しており、周辺部品との干渉を避けるため先端部外径はテーパになっている。また、電子機器のランドと接触する半田鏝の先端部全体の形状は、円錐台状、角錐台状の形状になっている。
【0028】
半田鏝の材質は、600度程度の温度に耐えることができて、半田に対して濡れにくい性質を有するものであればよく、単一材料からなっていても複数部材の組み合わせであってもよい。単一材料からなる場合は、セラミック、またはステンレス、チタン又はクロムなどの非半田濡れ性金属が望ましい。また、セラミックの場合は窒化アルミニウム、炭化ケイ素などの高熱伝導性セラミックが特に望ましい。
【0029】
半田鏝1の貫通孔2の径(d)は、一回の半田付けに必要な半田の量に応じて適宜定めればよいが、供給半田片の径より大きく、半田付けするピンの径より大きいことが必須である。例えばピンの外径が0.6mmであるとき、糸半田Wの直径を0.8mm、貫通孔2の内径(d)を1.2mm、糸半田Wの切断片(半田片)の長さを1.2mmに設定することで、半田片が貫通孔2内でピンや貫通孔側壁に接触して起立した状態となり、半田片全体が速やかに加熱される。従って、糸半田Wが無鉛半田であった場合でも、半田鏝先端部の下端温度を350℃とすれば、良好に半田付けをすることができる。
【0030】
加熱手段3としては、汎用の加熱手段を適用することができ、半田鏝1と別体のヒータで加熱することができる。具体的には例えばシーズヒータ等を巻くことができる。いずれの場合も半田鏝1を直接加熱して立ち上がりが早く効率のよい加熱手段を適用することが望ましい。更にまた、半田付け対象のランドの予熱は、半田鏝からの輻射熱で行ってもよく、あるいは半田鏝を直接ランドとピンに当接し、伝導熱を利用して行っても良い。
【0031】
図2には、先端部の開口部2の径(d)と後端部の貫通孔4の径(D)が異なる場合の半田鏝1が示されている。半田鏝の後端部の貫通孔4の径(D)は、半田片が容易に落下し、落下途中で半田片が引っかかって溶融したり、半田片内のフラックスが蒸発しないだけの径を持つことが望ましい。具体的には、先端部の開口部2の径(d)と関係するが、径(D)は径(d)の1〜5倍の範囲であることが挙げられる。また、先端部に長さ(L)の貫通孔を有しているが、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構築されている。
【0032】
内径(d)の貫通孔の長さ(L)は、半田片の径や長さ、又は半田付けする端子やランドの大きさによって適宜選択されるが、0.5〜15mmの範囲であることが望ましい。より好ましくは1〜10mmの範囲を挙げることができる。
【0033】
半田鏝の材質、加熱手段等は図1と同様である。
【0034】
図3には、半田鏝の先端部の貫通孔の長さ(L)が0.5mm以下であるか、ほとんど長さ(L)がない場合の半田鏝で、先端部の貫通孔内部がテーパ孔となっている半田鏝が示されている。このテーパ孔についても、図2の場合と同様に、落下半田片が途中で引っかかって溶融することがなく、ランドに接地して、そこで溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構築されている。
【0035】
径(D)と(d)の関係、半田鏝の材質、加熱手段等は図1や図2と同様である。
−実施形態2−
本発明の半田鏝を用いた製造方法の実施形態を図4、図5の要部断面図として示す。即ち、半田付け装置を用いて半田付けをする手順は次の通りである。
【0036】
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、この配線基板5を治具に載せる。そして、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部2)の真下に位置するように治具を配線基板5とともに移動させる。半田鏝の下端面がランドの直近に位置するところまで、あるいはランドに接触するところまで下げる。図4に示すように切り刃8を保持孔9が供給孔10と一致するところまで後退させておく。ランドとピンは半田鏝の輻射熱で予熱される。送りローラ11を回転させて半田リールより糸半田Wを引き出して供給孔10に通す。糸半田Wが保持孔9に入り、所定の長さ送られた時点で送りローラ4を停止させる。糸半田Wの送り量は、送りローラ4の回転数によって制御される。この状態でシリンダ12を駆動して切り刃8を前進させる。
【0037】
切り刃8を前進させると図5に示すように、切り刃8と受け刃7との間に剪断力が働いて糸半田Wが所定の長さに切断され、半田片となって保持孔9とともに排出孔13上に移動する。ここで導入孔14に接続されたプッシャー15で半田片を保持孔9から押し出す。半田片は、排出孔13よりシャッターの開口部を通過して半田鏝の貫通孔4内に落下し、ランドに接地する。ランドに達した半田片は、半田鏝の先端部筒内側壁の熱により溶融し、ランドとピンを接合する。その際、溶融半田は半田鏝の貫通孔で囲まれているので、周囲に半田やフラックスが飛散することはない。また、半田鏝が半田に濡れにくい材料から形成されているので、半田片の全量が金属ピンとランドとの接合に消費され、接合後の外観もきれいに仕上がる。
【0038】
また、該先端部の筒内で落下半田片を溶融させる間、筒状半田鏝をピンを中心に相対運動させることによって、ランドとピンに溶融半田を充分なじませることができる。即ち、図6で示されるように、例えば半田鏝をピンの回りに偏心運動をさせることによって目的を達成させることができる。例えば、図6に要部断面図として示している実施形態では、先ず図6(a)に示すように半田片を半田鏝1の貫通孔内に落下させ、溶融させる。そして、図6(b)及び図6(c)に示すように半田鏝1を一方向(図面左方向)に移動させ、その後反対方向(同右方向)に移動させる。これにより溶融半田がランドの両端まで広がる。更に好ましくは前後方向にも移動させる。そして、半田鏝1を上方に退避させると、図6(d)に示すように半田がランド全体に広がる。いずれもランドに対して半田鏝1が相対移動すればよい。また、図示しない旋回機構によりピン18を中心として図6(e)に示すように半田鏝1を公転あるいは偏心運動をさせてもよい。その結果、品質のよい半田付けを達成することが出来る
シャッターは、受け刃7に固定されたシリンダ16、ロッド17及びシャッター板6からなり、ロッド17の往復に伴ってシャッターが排出孔13と半田鏝の貫通孔4との間を水平方向に進退することにより、貫通孔4の後端を開閉する。
【0039】
シャッター板の開口部は、保持孔9と排出孔13が一致する位相の場合に、同じく開口部が一致するように連動して動く。従って、半田片が排出孔13より排出される場合にのみ、シャッターが開き、落下する半田片が半田鏝の貫通孔4に入ることができる。この結果、シャッターは、必要なとき以外は閉じている。このため、溶融半田から揮発したフラックスは、排出孔13や保持孔9に付着することなく、ランドとピンの表面を浄化する。従って、ランドとピンが良好に接合される。更に、半田鏝からの輻射熱を遮蔽することができる。また、半田溶融時に発生するフラックスの飛散や発煙等による、汚れの付着を遮蔽することができる。このことにより、半田鏝以外の装置部品の耐久性をより向上させることができるようになった。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は、本発明の理解を補助するためのものであり、これに限定されるものではない。
実施例1:
図2で示した形状で、窒化アルミニウム焼結体から形成される半田鏝を使用した。半田鏝の先端部の径(d)が1.0mm、(L)が5mm、後端部の径(D)が2.5mmであるものを準備した。半田片は径が0.8mmであり、半田長さが1.2mmである無鉛半田を準備した。
【0041】
半田付けの対象部品として、ランド径1.5mmに電子部品の端子銅線径0.6mmのものを準備し、半田付けを行った。半田鏝の貫通孔内に半田片を供給し、半田鏝先端部の下端温度を350℃に保った。半田溶融時に、ピンを中心に半田鏝の偏心運動を行った。そのようにして半田付けを行ったところ、半田片の全部がピンとランドに付着した。これを約30回繰り返したが、半田鏝貫通孔の先端部の内面に半田が付着することなく、半田の詰まりが起きなかった。
【0042】
なお、半田濡れ性のある銅製の棒状半田鏝と対比すると、本発明の窒化アルミニウム材質では、半田に対する濡れ性がないため、半田への熱伝導が悪いと考えられたが、本発明の半田鏝は筒状になっているため、筒状の周囲側壁からの加熱(輻射熱、伝道熱、対流熱)により、あまり遜色なく溶解できた。また、従来の銅製の半田鏝の場合と対比して、本発明の場合には溶融半田への銅の溶け込みが回避できるので、高品質な半田付けが出来ている。
実施例2:
実施例1と同じ形状の半田鏝であるが、材質が炭化ケイ素で形成されている半田鏝を作成し、準備した。他の条件は実施例1と同様にして半田付けを行った。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
実施例3:
図1で示した形状で、窒化アルミニウム焼結体からなり、半田鏝の貫通孔の内径が2.5mmであるものを準備した。また、半田片は径が1.2mmであり、半田長さが6mmである無鉛半田を準備した。
【0043】
本発明の半田鏝の貫通孔の後端部に半田片を供給し、半田鏝の先端部の下端温度を350℃に保って半田付けを行ったところ、半田片の全部がピンとランドに付着した。これを数十回繰り返したが、半田鏝の先端部の内面に半田が付着することなく、半田の詰まりが起きなかった。
【0044】
比較のために、本発明の半田鏝と同形同大で銅からなる筒を作製し、これを用いて同様に半田付けを行ったところ、半田片の大部分が筒の内面に付着してしまい、ランド及びピンに半田が十分供給されず、ピンとランドが接合されなかった。また、半田付け3回目には半田の詰まりが起きてしまった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が同じである、ストレートな貫通孔を持つ半田鏝を示す。
【0046】

【図2】先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なる場合の半田鏝の断面図である。
【図3】先端部がテーパ孔となっている半田鏝の断面図である。
【図4】一定量の半田片を切断する前の状態を示した半田付け装置の要部断面図である。
【図5】一定量の半田片を切断した後の状態を示した半田付け装置の要部断面図である。
【図6】筒状半田鏝を該端子銅線(ピン)を中心に相対運動させて、溶融半田をピンに充分巻きつける工程の様子を順次示した半田付け装置の要部断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 半田鏝
2 半田鏝の先端部の開口部
3 半田鏝の加熱ブロック
4 半田鏝の後端部の開口部
5 電子回路基盤(ランド)
6 シャッター板
7 半田切断装置の受け刃
8 半田切断装置の切り刃8
9 半田保持孔
10 半田送入孔
11 ローラー
12 シリンダ12
13 半田排出孔
14 導入孔
15 プッシャー
16 シリンダ
17 ロッド
18 電子部品の端子銅線(ピン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の形状の筒状半田鏝であって、
半田鏝の中心軸に筒状の貫通孔を有し、
半田鏝の先端部が円錐台状又は角錐台状を形成し、先端部における貫通孔開口部の径(d)が0.5〜3mmであり、
半田鏝の後端部の貫通孔の径(D)が先端部の開口部の径(d)と同じであるか、又は開口部の径(d)以上で且つ9mm以下である、
半田鏝は半田に対して濡れにくいセラミック、ステンレス、チタン又はクロムで形成されている、
ことを特徴とする筒状半田鏝。
【請求項2】
先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なる場合、先端部の貫通孔の長さ(L)が0.5〜15mmであることを特徴とする、請求項1記載の筒状半田鏝。
【請求項3】
先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なり、先端部がテーパ孔となっていることを特徴とする、請求項1記載の筒状半田鏝。
【請求項4】
半田鏝がセラミックで形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の筒状半田鏝。
【請求項5】
セラミックが、窒化アルミニウム又は炭化ケイ素であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の筒状半田鏝。
【請求項6】
請求項1〜5記載の筒状半田鏝に、前記先端部で半田を溶融させるための加熱手段を設置し、該先端部の温度を250〜600℃になるよう加熱する、
該先端部の開口部を電子部品の端子銅線に差込み、基盤に接触させる、
糸半田を一回の半田付けに必要な長さに切断して、得られた半田片を後端部の貫通孔から投入落下させる、
該先端部の筒内で落下半田片を溶融させ、その溶融の間、筒状半田鏝を該端子銅線を中心に相対運動させることを特徴とする、半田付け電子機器の製造方法。
【請求項7】
先端部の温度が300〜400℃である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
相対運動が偏心運動である、請求項6又は7記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−195938(P2009−195938A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39575(P2008−39575)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(502366262)
【Fターム(参考)】