説明

半相互浸透性重合体ネットワーク

【課題】骨セメントおよび組織移植片としての生化学的使用に適当な機械的および化学的特性を有する生体分解性で生体適合性の重合体材料を提供すること。
【解決手段】線状疎水性生体分解可能重合体およびモノマーまたはマクロマーに基づいて、骨修復用の組成物が開発されており、その少なくとも1個は、無水物結合を含有する。これらのモノマーおよび/またはマクロマーは、互いに架橋するが、この線状重合体とは架橋せず、半相互浸透性ネットワークを形成する。この組成物は、種々の賦形剤、治療剤および/または診断剤を含有できる。この組成物は、溶解性粒子(例えば、無機塩およびタンパク質性材料)の存在下にて重合でき、多孔性重合体ネットワークを提供する。この組成物は、患者に注入してインサイチュで重合できるか、またはエキソビボで重合して移植できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般に、医療(特に、骨の修復)において、重合体状半相互浸透性重合体ネットワーク組成物の使用の領域にある。
【背景技術】
【0002】
骨格組織を置き換えるための移植片の好ましい設計には、骨の構造的および機械的な特性の知識、および移植片を身体に組み込む手段の理解が必要である。この情報は、次いで、この移植片が有機組織に匹敵する様式で機能することを保証するために、所望の特性を規定するのに使用できる。
【0003】
骨が欠けていて、それ自体を通常の時間量では修復しないとき、または損傷または癌によって、骨の欠損が起こるときには、移植片が必要であり得る。骨移植片は、以下の二重の機能を果たさなければならない:機械的安定性を与えること、および骨形成のためのマトリックスまたは環境であること。骨格損傷は、傷跡組織の形成によるよりもむしろ、骨の再生により修復されるので、移植は、Friedlaender, G.E., 「Current Concepts Review:Bone Grafts」 Journal of Bone and Joint Surgery, 69A(5), 786〜790(1987)により総説されているように、骨欠損の治癒を促進する実行可能手段である。骨誘発および骨伝導は、移植片が新しい骨の成長を刺激し得る2つの機構である。前者の場合には、殆ど理解されていない性質の誘導性信号は、結合組織細胞の骨細胞への表現型転換を生じる。後者では、この移植片は、骨の内殖のための足場を与える。
【0004】
この骨の再構築サイクルは、破骨細胞による現存骨の再吸収および造骨細胞の働きによる新規骨の形成が関与している連続事象である。通常、これらの2つの相は、同調して起こり、骨質量は一定のままである。しかしながら、これらのプロセスは、骨欠損の治癒および移植片を組み込むとき、分離される。破骨細胞は、この移植片を再吸収し、そのプロセスは、数ヶ月もかかり得る。多孔性の高い移植片ほど、より迅速に血管再生し、移植片の再吸収は、さらに完全となる。この移植片が再吸収された後、骨の形成が開始する。骨質量および機械的強度は、ほぼ正常に戻る。
【0005】
骨の欠損を修復する現在の方法は、有機的および合成的な構成の移植片を包含する。3個の有機移植片型が、一般的に使用されている:自家移植片、同種移植片、および異種移植片。自家移植片とは、患者において、1部位から他の部位へと移植された組織である。患者の組織を使用する利点には、この移植片が、強い免疫応答を誘起しないこと、およびその材料が、血管新生化されて、素早い組み込みを可能にすることにある。しかしながら、自家移植片の使用には、第二の手術が必要であり、これは、感染の危険を高め、そして採取部位は、さらに弱化する。さらに、移植に利用可能な骨は、限定数の部位(例えば、腓骨、肋骨および腸骨稜)から取り出すことができるにすぎない。同種移植片とは、同じ種の異なる個体から取り出される組織であり、また、異種移植片とは、異なる種の個体に由来する。後者の型の組織は、自家移植片よりも多い量で、容易に利用可能であるが、供与者と受容者との間の遺伝的な相違は、この移植片の拒絶を引き起こすおそれがある。
【0006】
合成移植片は、有機移植片に付随した問題点の多くを除き得る。さらに、合成物は、種々のストック形状およびサイズで製造でき、外科医は、Coombes, A.D.A.およびJ.D. Heckman, 「Gel Casting of Resorbable Polymers:Processing and Applications」 Biomaterials, 13(4):217〜224(1992)により記述されているように、必要性があるとき、移植片を選択できる。金属、リン酸カルシウムセラミックスおよび重合体は、全て、移植用途で使用されている。
【0007】
リン酸カルシウムセラミックスは、これらの物質が、非毒性で非免疫原性であり、カルシウムイオンおよびリン酸イオン(これらは、骨の主要成分である)から構成されているので、骨の欠損の修復において、移植片として使用されている(Jarcho, 1981;Frame, J.W., 「Hydroxyapatite as a biomaterial for alveolar ridge augmentation」 Int. J. Oral Maxillofacial Surgery, 16, 642−55(1987);Parsonsら「Osteoconductive Composite Grouts for Orthopedic Use」Annals N.Y. Academy of Sciences, 523, 190〜207(1988))。リン酸三カルシウム(TCP)[Ca3(PO42]およびヒドロキシアパタイト(HA)[Ca10(PO46(OH)2]の両方は、広く使用されている。しかしながら、リン酸カルシウムセラミックスの機械的な特性により、それらは、構造要素として働くには不向きである。セラミックスは、脆弱であり、衝撃負荷に対する抵抗性が低い。
【0008】
過去10年間にわたって、重合体材料の対する用途は、著しく増えている。これらは、D.K.GildingおよびA.M.Reed、「Biodegradable polymers for use in surgery:Polyglycolic acid/polylactic acid homo− and copolymers」,Polymer 20,1459−1464(1979);J.O.HollingerおよびG.C.Battisone、「Biodegradable bone repair materials:Synthetic polymers and ceramics」,Clin.Orthop.,207,290−305(1986);J.O.Hollinger、「Preliminary report on the osteogenic potential of a biodegradable copolymer of polylactide(PLA) and polyglycolide(PGA)」,J.Biomed.Mater.Res.17,71−82(1983);ならびにP.PotinおよびR.De Jaegar、「Polyphosphazenes:Synthesis,structures,properties,applications」,Eur.Polym.J.,27,341−348(1991)により総説されているように、外科用移植片および人工臓器に、広く使用されている。これらの材料は、Kulkarniら、J. Biomedical Materials Research, 5, 169−81 (1971);Hollinger, J.O.およびG.C. Battistone, 「Biodegradable Bone Repair Materials」 Clinical Orthopedics and Related Research, 207, 290〜305 (1986)により記述されているように、ホスト組織により交換される一時的な足場として働くことができ、加水分解により、非毒性産物(これは、排泄される)へと分解されるので、移植によく適合する。医用に広く使用されている4種の重合体には、ポリ(パラジオキサノン)(PDS)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、およびPLGA共重合体がある。共重合により、この材料の分解時間の調節が可能となる。重合の間の結晶性重合体と非晶質重合体との比を変えることにより、得られる物質の特性は、この用途の必要性に合うように変えることができる。
【0009】
これらの重合体は、ポリ(ラクチド−co−グリコール)酸(PLGA)を含めて、H.M. Elgendyら、「Osteoblast−like cell(MC3T3−E1) proliferation on bioerodible polymers:An approach towards the development of a bone−bioerodible polymer composite material」 Biomaterials, 14, 263〜269 (1993)により報告されているように、骨交換用の重合体複合材料として、使用されている。これらの材料の限界には、壊れた骨を共に接合するようにインサイチュで重合できないことがある。
【0010】
シアノアクリレート材料は、インサイチュで重合できるので、骨セメントとして使用されている。しかしながら、それらは、ある程度の強力な接着を与えるものの、脆弱であることがわかっている。従来の骨セメントであるポリメタクリル酸メチル(PMMA)は、手術室にて、粉末化し重合したメタクリル酸メチルを、少量の過酸化ベンゾイルおよび液状メタクリル酸メチルモノマーと組み合わせて混合することにより、適用される。このモノマーが反応性分子であり、それ自体、長い間にゆっくりと重合する傾向があるので、自発的な遊離ラジカル重合を阻害するために、ヒドロキノンが添加される。ジメチルトルイジン(DMT)もまた、この過酸化ベンゾイルによる遊離ラジカル形成のための閾値温度を下げるために、含有される。この液体および粉末を外科医が混合するとき、このPMMA粉末は、このMMAモノマーの溶媒作用により、部分的に溶解されて、不透明で粘稠な液体を形成する。この混合物は、遊離ラジカル重合の結果として、約10分間以内に、極度に固い物質を形成する。最初の前重合したPMMA粉末は、それを取り囲む新たに形成したPMMAと、化学的および機械的に結合される。
【0011】
PMMAは、生体分解性ではない。制御した生体分解性;部位(組織または骨のいずれか)に対する著しい付着性;適当な加工時間内での成形性;十分な物理的強度;環境安定性;ならびに持続放出性薬剤、ホルモン、成長因子、および他の生体活性化合物を組み込む性能を有する生体分解性重合体は、制御した放出のための代替骨セメントおよび重合体としての使用に好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、骨セメントおよび組織移植片としての生化学的使用に適当な機械的および化学的特性を有する生体分解性で生体適合性の重合体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
骨セメント、歯科用材料、フィラー、組織移植片として、および骨移植片、ピン、ネジ、プレート、ステント、および他の製造品として有用な組成物、ならびにそれらの調製方法および使用方法が開示されている。
【0014】
これらの組成物は、少なくとも2種の成分を含有する。第一成分は、線状重合体(線状疎水性生体分解性重合体または線状非生体分解性親水性重合体のいずれか)である。第二成分は、1種またはそれ以上の架橋可能なモノマーまたはマクロマーである。これらのモノマーまたはマクロマーの少なくとも1種は、分解可能結合(好ましくは、無水物結合)を含有する。これらの成分を混合し、この架橋可能成分を架橋するとき、半相互浸透性重合体ネットワークが形成される。
【0015】
これらの組成物は、必要に応じて、反応性希釈剤(これは、この組成物の粘度を改良するため、および/またはその硬化速度を調節するために、使用できる)、ならびに非反応性粘度調整剤を含有できる。
【0016】
これらの組成物はまた、賦形剤粒子(例えば、焼石膏、ヒドロキシアパタイトおよび他のセラミックス)を含有できる。
【0017】
これらの組成物はまた、種々の治療剤および/または診断剤を含有できる。これらの試薬は、この組成物に直接組み込むことができるか、または微粒子中に組み込まれ、これは、次いで、この組成物に組み込むことができる。これらの試薬を微粒子中に組み込むことは、この組成物の1種またはそれ以上の成分と反応性である試薬(すなわち、ヒドロキシ官能性またはアミン官能性を有する試薬であって、無水物結合を含む組成物に組み込まれるもの)については、有利であり得る。
【0018】
これらの組成物はまた、種々の粒子、例えば、無機塩およびタンパク質性物質(これらは、この組成物を著しく溶解しない条件下にて、溶解できる)を含有でき、これにより、一旦、これらの粒子が溶解すると、この組成物にて、多孔性を形成する。これらの物質は、所望のサイズまたはサイズ分布を有するように選択でき、また、制御した多孔性を与えるために、この組成物全体にわたって、一様に分布できる。
【0019】
この組成物は、注入に適当な粘稠な液体から成形可能なペースト様パテまでの範囲にわたる架橋前粘度を有し得る。この粘度は、反応性希釈剤を添加することにより、および/または適当な溶媒を添加することにより、調節できる。
【0020】
適当な溶媒には、この組成物の成分のいずれとも非反応性であるものがある。無水物結合が存在するので、非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。この組成物をエキソビボで重合する実施態様、これらの溶媒が、架橋した組成物から作製した製造品を移植する前に、効果的に除去できる実施態様では、ハロゲン化溶媒を使用し得る。インビボ用途については、非毒性である溶媒を使用するのが好ましい。これらの用途に適当な溶媒には、グリム(glyme)、ジメチルスルホキシド(DMSO)および他の極性非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0021】
これらの組成物は、固形品(例えば、ピンおよびネジ)を提供するために、エキソビボで重合でき、これらは、骨を修復するのに使用できる。あるいは、これらの組成物は、骨セメントとして機能するように、インサイチュで重合できる。注射によってアクセスできる領域については、この組成物は、好ましくは、適用するときに液体であり、そして重合するときに固体である。
【0022】
この組成物は、任意の適当な遊離ラジカル開始剤を使用して、重合できる。例には、光開始剤および熱活性化可能開始剤が挙げられる。好ましくは、この架橋がインビボで起こるとき、その重合条件は、それを取り囲む組織に損傷を与えない程に十分に穏やかである。重合は、この組成物を外生的な活性種源(典型的には、電磁放射線、好ましくは、可視光線および近紫外線)に晒すことにより、起こり得る。これらの組成物を架橋するとき、それらは、半相互浸透性重合体ネットワークを形成する。
【0023】
本発明は、さらに以下を提供する。
(項目1) 活性種への暴露後に半相互浸透性重合体ネットワークを形成する組成物であって、該組成物は、以下:
a)線状疎水性生体分解性重合体および線状非生体分解性親水性重合体からなる群から選択される線状重合体;および
b)少なくとも1個の遊離ラジカル重合可能基を含有する少なくとも1種のモノマーまたはマクロマーであって、ここで、該モノマーまたはマクロマーの少なくとも1種は、無水物結合または重合可能基を含有し、該重合可能基は、アクリレートまたは(メタ)クリレートからなる群から選択される、
を包含する、組成物。
(項目2) 骨の修復または交換に適当な形状である、項目1に記載の組成物。
(項目3) 前記生体分解性重合体が、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリジオキサノン、ポリカーボネートおよびポリアミノカーボネートからなる群から選択される選択される1個またはそれ以上の単量体状単位から形成される、項目1に記載の組成物。
(項目4) 前記生体分解性重合体が、ポリヒドロキシ酸およびポリ無水物からなる群から選択される1個またはそれ以上の単量体状単位から形成される、項目1に記載の組成物。
(項目5) 前記モノマーまたはマクロマーが、(メタ)クリレートからなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目6) 前記モノマーまたはマクロマーが、重合されており、それにより、前記組成物が、半相互浸透性ネットワークの形状である、項目1に記載の組成物。
(項目7) さらに、ヒドロキシアパタイト、焼石膏、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ポリホスフェート、ポリホスホネートおよびポリホスファイトからなる群から選択される賦形剤を含有する、項目1に記載の組成物。
(項目8) 前記共有的に架橋可能なモノマーまたはマクロマーが、30重量%と70重量%の間の重量%で存在している、項目1に記載の組成物。
(項目9) 前記線状重合体が、10重量%と90重量%の間の重量%で存在している、項目1に記載の組成物。
(項目10) さらに、1種またはそれ以上の診断剤または治療剤を含有する、項目1に記載の組成物。
(項目11) 前記診断剤または治療剤が、微粒子に組み込まれている、項目10に記載の組成物。
(項目12) さらに、無機塩およびタンパク質性物質からなる群から選択される1種またはそれ以上の多孔性形成剤を含有する、項目1に記載の組成物。
(項目13) 骨を修復または再生するかあるいは固形補てつ品をインサイチュで作成する方法であって、該方法は、以下:
a)患者に、以下を含有する組成物を注入すること:
i)線状疎水性生体分解性重合体および線状非生体分解性親水性重合体からなる群から選択される線状重合体;および
ii)少なくとも1個の遊離ラジカル重合可能基を含有する少なくとも1種のモノマーまたはマクロマーであって、ここで、該モノマーまたはマクロマーの少なくとも1種は、無水物結合を含有する;
b)活性種に暴露して、半相互浸透性ネットワークを形成すること、
を包含する、方法。
(項目14) 前記重合体が、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリジオキサノン、ポリカーボネートおよびポリアミノカーボネートからなる群から選択される選択される1個またはそれ以上の単量体状単位から形成される、項目13に記載の方法。
(項目15) 前記重合体が、ポリヒドロキシ酸およびポリ無水物からなる群から選択される1個またはそれ以上の単量体状単位から形成される、項目13に記載の方法。
(項目16) 前記モノマーまたはマクロマーが、(メタ)クリレートからなる群から選択される、項目13に記載の方法。
(項目17) 前記組成物が、さらに、ヒドロキシアパタイト、焼石膏、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ポリホスフェート、ポリホスホネートおよびポリホスファイトからなる群から選択される賦形剤を含有する、項目13に記載の方法。
(項目18) 前記共有的に架橋可能なモノマーまたはマクロマーが、30重量%と70重量%の間の重量%で存在している、項目13に記載の方法。
(項目19) 前記線状重合体が、10重量%と90重量%の間の重量%で存在している、項目13に記載の方法。
(項目20) 前記組成物が、さらに、1種またはそれ以上の診断剤または治療剤を含有する、項目13に記載の方法。
(項目21) 前記診断剤または治療剤が、微粒子に組み込まれている、項目20に記載の方法。
(項目22) 前記組成物が、さらに、無機塩およびタンパク質性物質からなる群から選択される1種またはそれ以上の多孔性形成剤を含有する、項目13に記載の方法。
(項目23) 骨を修復または再生することに使用するための固形品を作成する方法であって、該方法は、以下:
a)適当な型に、以下を含有する組成物を鋳造または注入すること:
i)線状疎水性生体分解性重合体および線状非生体分解性親水性重合体からなる群から選択される線状重合体;および
ii)少なくとも1個の遊離ラジカル重合可能基を含有する少なくとも1種のモノマーまたはマクロマーであって、ここで、該モノマーまたはマクロマーの少なくとも1種は、無水物結合を含有する;
b)活性種に暴露して、半相互浸透性ネットワークを形成すること、
を包含する、方法。
(項目24) 前記重合体が、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリジオキサノン、ポリカーボネートおよびポリアミノカーボネートからなる群から選択される1個またはそれ以上の単量体状単位から形成される、項目23に記載の方法。
(項目25) 前記重合体が、ポリヒドロキシ酸およびポリ無水物からなる群から選択される1個またはそれ以上の単量体状単位から形成される、項目23に記載の方法。
(項目26) 前記モノマーまたはマクロマーが、(メタ)クリレートからなる群から選択される、項目23に記載の方法。
(項目27) 前記組成物が、さらに、ヒドロキシアパタイト、焼石膏、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ポリホスフェート、ポリホスホネートおよびポリホスファイトからなる群から選択される賦形剤を含有する、項目23に記載の方法。
(項目28) 前記共有的に架橋可能なモノマーまたはマクロマーが、30重量%と70重量%の間の重量%で存在している、項目23に記載の方法。
(項目29) 前記線状重合体が、10重量%と90重量%の間の重量%で存在している、項目23に記載の方法。
(項目30) 前記組成物が、さらに、1種またはそれ以上の診断剤または治療剤を含有する、項目23に記載の方法。
(項目31) 前記診断剤または治療剤が、微粒子に組み込まれている、項目30に記載の方法。
(項目32) 前記組成物が、さらに、無機塩およびタンパク質性物質からなる群から選択される1種またはそれ以上の多孔性形成剤を含有する、項目23に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
骨セメント、歯科用材料、組織移植片、フィラーとして、および骨移植片、ピン、ネジ、プレート、ステント、および他の製造品として有用な組成物、およびそれらの調製方法および使用方法が開示されている。
【0025】
これらの組成物は、少なくとも2種の成分を含有する。第一成分は、線状疎水性生体分解性重合体(好ましくは、単独重合体または共重合体であり、これは、ヒドロキシ酸および/または無水物結合を含有する)または線状非生体分解性親水性重合体(好ましくは、ポリエチレンオキシドまたはポリエチレングリコール)である。第二成分は、1種またはそれ以上の架橋可能な単量体またはマクロマーである。これらの単量体またはマクロマーの少なくとも1種は、分解可能結合(好ましくは、無水物結合)を含有する。この線状重合体は、好ましくは、この組成物の10重量%と90重量%の間、より好ましくは、この組成物の30重量%と70重量%の間を構成する。この架橋重合体は、好ましくは、この半相互浸透性ネットワーク組成物の約30重量%と70重量%の間、さらに好ましくは、この組成物の40重量%と60重量%の間を構成し、その残りは、賦形剤、治療剤、および他の成分である。これらの組成物は、それらの成分を混合しその架橋可能成分を架橋するとき、半相互浸透性重合体ネットワークを形成する。半相互浸透性ネットワークとは、2種の独立した成分を含有する組成物として定義され、この場合、1成分は、架橋した重合体であり、そして他の成分は、非架橋重合体である。
【0026】
これらの組成物は、注入に適当な粘稠な液体と成形可能なペースト様パテとの間のいずれか架橋前粘度を有し得る。この粘度は、反応性希釈剤を添加することにより、および/または適当な溶媒を添加することにより、調節できる。しかしながら、架橋するとき、これらの組成物は、固形半相互浸透性ネットワークとなり、これらは、骨の成長および修復を支持できる。
【0027】
(線状疎水性生体分解性重合体)
線状重合体は、架橋されていない単独重合体またはブロック共重合体として定義される。疎水性重合体は、当業者に周知である。生体分解性重合体とは、生理学的条件下にて、約2時間と1年の間(好ましくは、6ヶ月未満、さらに好ましくは、3ヶ月未満)の半減期を有するものである。
【0028】
適当な生体分解性重合体の例には、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、およびポリアミノカーボネートが挙げられる。好ましい重合体には、ポリヒドロキシ酸およびポリ無水物がある。ポリ無水物は、最も好ましい重合体である。
【0029】
(線状親水性非生体分解性重合体)
線状親水性重合体は、当業者に公知である。非生体分解性重合体とは、生理学的な条件下にて、およそ1年より長い半減期を有するものである。適当な親水性非生体分解性重合体の例には、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、部分的にまたは完全に加水分解したポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体(ポロキサマー(poloxamers)およびメロキサポール(meroxapols))およびポロキサミン(polyxamines)が挙げられる。好ましい重合体には、ポリ(エチレングリコール)、ポロキサミン、ポロキサマーおよびメロキサポールがある。ポリ(エチレングリコール)は、最も好ましい重合体である。
【0030】
(単量体およびマクロマー)
この組成物は、1種またはそれ以上の単量体またはマクロマーを含有する。しかしながら、これらの単量体またはマクロマーの少なくとも1種は、無水物結合を含有する。使用できる他の単量体またはマクロマーには、少なくとも1個の遊離ラジカル重合可能な基を含有する生体適合性単量体およびマクロマーが挙げられる。例えば、光化学的に架橋できるエチレン性不飽和を含有する重合体は、WO 93/17669にて、the Board of Regents, University of Texas Systemsにより開示されているように使用し得、その開示内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【0031】
適当な重合可能基には、エチレン性不飽和基(すなわち、ビニル基)、例えば、ビニルエーテル、アリル基、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、および不飽和トリカルボン酸が挙げられる。不飽和モノカルボン酸には、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸が挙げられる。不飽和ジカルボン酸には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸またはシトラコン酸が挙げられる。好ましい重合可能基には、アクリレート基、ジアクリレート基、オリゴアクリレート基、ジメタクリレート基、オリゴメタクリレート基、および他の生物学的に受容可能な光重合可能基がある。(メタ)クリレートは、最も好ましい活性種重合可能基である。
【0032】
これらの官能基は、疎水性重合体および親水性重合体上に存在でき、これらは、この組成物の疎水性を調節するのに使用できる。適当な疎水性重合体には、上記のものが挙げられる。適当な親水性重合体には、合成重合体(例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、部分的にまたは完全に加水分解したポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体(ポロキサマーおよびメロキサポール)、ポロキサミン、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシアルキル化セルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルヒドロキシプロピルセルロース))、および天然重合体(例えば、ポリペプチド、多糖類または炭水化物(例えば、Ficoll(登録商標)ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストラン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、またはアルギン酸塩)、およびタンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、またはオボアルブミンまたはそれらの共重合体またはブレンド))が挙げられる。本明細書中で使用する「セルロース」は、上記の型のセルロースおよび誘導体を包含する;「デキストラン」は、デキストランおよびそれらの誘導体を包含する。
【0033】
これらの重合体は、生体分解性であるが、好ましくは、低い生体分解能(溶解の予測性に関して)を有し、しかし、排出可能な程に十分に低い分子量である。ヒト(または使用が意図される他の種)での排出を可能にする最大分子量は、重合体型と共に変わるが、しばしば、約20,000ダルトン以下である。
【0034】
これらの重合体は、2個またはそれ以上の水溶性ブロックを含有でき、これらは、他の基により、接合される。このような接合基は、生体分解性結合、重合可能結合、またはその両方を含有できる。例えば、不飽和ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、またはアコニチン酸)は、水酸基を含有する親水性重合体(例えば、ポリエチレングリコール)でエステル化でき、またはアミンを含有する親水性重合体(例えば、ポロキサミン)でアミド化できる。
【0035】
これらの重合体の合成方法は、当業者に周知である。例えば、Concise Encyclopedia of Polymer Science and Polymeric Amines and Ammonium Salts, E. Goethals著(Pergamen Press, Elmsford, NY 1980)を参照せよ。多くの重合体(例えば、ポリ(アクリル酸))は、市販されている。天然に生じる重合体および合成重合体は、当該技術分野で利用できる化学反応であって、例えば、March, 「Advanced Organic Chemistry」第4版, 1992, Wiley−Interscience Publication, New Yorkで記述された化学反応を用いて、変性し得る。
【0036】
好ましくは、遊離ラジカル重合可能な基を含有する単量体および/またはマクロマーは、1分子あたり、平均して、1個より僅かに多い架橋可能基、さらに好ましくは、1分子あたり、平均して、2個またはそれ以上の重合可能基または架橋可能基を含有する。各重合可能基は、鎖へと重合するので、架橋した物質は、1重合体あたり、1個より僅かに多い反応性基(すなわち、平均して、約1.02個の重合可能基)だけを用いて、生成できる。
【0037】
(反応性希釈剤)
これらの単量体およびマクロマーは、もし、この組成物の粘度を変性し、そしてこの組成物の硬化速度を調節するなら、反応性希釈剤と考えられている。反応性希釈剤には、上記単量体およびマクロマーが挙げられる。
【0038】
(賦形剤)
これらの組成物はまた、賦形剤(例えば、セラミックス)の粒子を含有できる。特定の賦形剤には、ヒドロキシアパタイト、焼石膏、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ポリホスフェート、ポリホスホネートおよびポリホスファイトが挙げられる。
【0039】
(治療剤)
これらの組成物はまた、種々の治療剤および/または診断剤を含有できる。これらの試薬は、この組成物に直接組み込むことができるか、または微粒子中に組み込まれ、これは、次いで、この組成物に組み込むことができる。これらの試薬を微粒子中に組み込むことは、この組成物の1種またはそれ以上の成分と反応性である試薬(すなわち、ヒドロキシ官能性またはアミン官能性を有する試薬であって、無水物結合を含む組成物に組み込まれるもの)については、有利であり得る。微粒子、およびそれらの調製方法は、当業者に周知である。
【0040】
この組成物に組み込むことができる治療剤の例には、タンパク質、多糖類、核酸分子、および合成有機または無機分子が挙げられる。これらは、治療目的または診断目的に有用であり得る。使用できる薬剤には、麻酔薬、抗生物質、抗ウイルス剤、核酸、化学療法剤、抗血管形成剤、ホルモン、血流および抗炎症に対して効果がある薬剤が挙げられる。
【0041】
これらの組成物は、細胞移植術および移植を促進するための体液因子と組み合わせることができる。例えば、これらの組成物は、血管形成因子、抗生物質、抗炎症剤、成長因子、分化を誘発する化合物、および細胞培養の当業者に公知な他の因子と組み合わせることができる。核酸分子には、遺伝子、転写を防止するために相補DNAに結合するアンチセンス分子、リボザイムおよびリボザイムガイドシーケンスが挙げられる。タンパク質は、100個以上のアミノ酸残基からなるとして、定義される;ペプチドは、100個未満のアミノ酸残基からなるとして、定義される。他に述べられていなければ、タンパク質との用語は、タンパク質およびペプチドの両方を意味する。例には、インシュリンおよび他のホルモンが挙げられる。多糖類(例えば、ヘパリン)もまた、投与できる。この組成物には、広範な分子量(例えば、50グラム/モルと500,000グラム/モルの間)を有する化合物を組み込むことができる。
【0042】
(診断剤)
これらの組成物内には、種々の診断剤のいずれかを組み込むことができ、これらは、患者への投与に続いて、組み込んだ試薬を局所的または全身的に送達できる。画像化剤が使用でき、これにより、この組成物の患者への移植に続いて、骨修復をモニターできるようになる。適当な画像化剤には、陽子射出断層撮影法(PET)、コンピューター断層撮影(CAT)、単光子射出コンピューター断層撮影、X線、蛍光透視、および磁気共鳴像(MRI)に用いる市販の試薬が挙げられる。
【0043】
MRIでの造影剤として使用するのに適当な材料の例には、現在利用できるガドリニウムキレート(例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)およびガドペントテートジメグルミン(gadopentotate dimeglumine))だけでなく、鉄、マグネシウム、マンガン、銅およびクロムが挙げられる。
【0044】
CATおよびX線に有用な材料の例には、ヨウ素ベースの材料(例えば、ジアトリゾアートおよびイオサラメート(iothalamate)により代表されるイオン性モノマー、非イオン性モノマー(例えば、イオパミドール、イソヘキソール(isohexol)、およびイオベルソル)、非イオン性ダイマー(例えば、イオトロールおよびイオジキサノール)、およびイオン性ダイマー(例えば、イオキサグレート))が挙げられる。
【0045】
これらの試薬は、当該技術分野で利用可能な標準的な方法および市販の設備を用いて、検出できる。
【0046】
(多孔性形成剤)
これらの組成物はまた、生理学的な条件下にて、この組成物よりも比較的に速い速度で溶解する種々の無機塩および/またはタンパク質性物質(例えば、ゼラチン)を含有できる。これらの粒子の比較的に速い溶解により、一旦、これらの粒子が溶解すると、この組成物において、多孔性が形成される。これらの物質は、所望のサイズまたはサイズ分布を有するように選択でき、また、制御した多孔性を与えるために、この組成物全体にわたって、一様に分布できる。
【0047】
適当な物質には、塩の粒子が挙げられる。これらの粒子は、結晶を形成する任意の塩または約100〜250ミクロンの直径を有する粒子であり得、この重合体から容易に除去され、この重合体とは反応せず、そしてもし、この重合体中にて、浸出後に、一部の残留物が残っているなら、非毒性である。さらに、上記微粒子はまた、もし、それらが、架橋した組成物よりも速い速度で劣化するなら、多孔性を与えるように使用できる。他の多孔性形成剤の例には、タンパク質(例えば、ゼラチンおよびアガロース)、デンプン、多糖類(例えば、アルギン酸塩)および他の重合体が挙げられる。好ましくは、この塩は、ナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム、酒石酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム)、およびこの重合体溶媒(例えば、THF)に溶解しない他の水溶性塩である。最も好ましい塩は、塩化ナトリウムである。
【0048】
好ましくは、これらの粒子は、まず、メッシュまたは一連のスクリーンによりふるい分けされて、比較的に均一な直径の粒子が得られる。これらの粒子は、次いで、この組成物に添加される。この多孔性形成剤の初期重量割合は、好ましくは、0.02乾燥重量%と0.9乾燥重量%の間である。この初期重量割合は、この半相互浸透性重合体マトリックスの特性を決定する際に、役に立つ。
【0049】
微粒子浸出プロセスは、多孔性重合体マトリックスを形成するのに、使用できる。1実施態様では、塩粒子は、この線状重合体および反応性モノマーまたはマクロマーを含有する溶液に懸濁され、この溶媒が除去され、そしてこれらの粒子は、このモノマーおよび/またはマクロマーが重合した後、硬化した重合体から浸出される。この組成物には、無水物結合が存在しているので、多孔性を形成するために塩を除去するのに水溶液を使用することは回避するのが好ましいが、むしろ、生理学的溶液にこの多孔性を形成させることが好ましい。
【0050】
これらの粒子の除去により、複数の比較的に一様に間隔を開けて相互連絡した間質間隔または細孔を有する重合体マトリックス(これは、以前は、その微粒子結晶で占められていた)が形成され、これらには、細胞が移動し、付着し、そして増殖できる。このマトリックスの多孔性は、組み込む粒子の量に依存して、非常に高く(例えば、典型的には、60%と90%の間)変化できる。
【0051】
多孔システムは、H.R.Allcockら、「Synthesis of poly[(amino acid alkyl ester)phosphazenes]」、Macromolecules、10、824−830(1977);H.R.Allcockら、「Hydrolysis pathways for aminophosphazenes」、Inorg.Chem.、21、515−521(1982);およびEggli,P.S.ら、「Porous hydroxyapatite and tricalcium phosphate cylinders with two different pore size ranges implanted in the cancerous bone of rabbits」、Clin.Orthop.、232、127−138(1987)により記述されるように、相互連絡している細孔ネットワークを与え、これは、細胞の侵入を容易にし、そして入来細胞および組織の組織的な増殖を促進する。この多孔性は、WhiteおよびShors「Biomaterial aspects of Interpore 200 porous hydroxyapatite」、Dental Clinical of N.Amer.、30、49−67(1986)、Klaitwatterら、「Application of porous ceramics for the attachment of load bearing orthopedic applications」J.Biomed.Mater.Res.Symp.、2、161(1971)により、種々の多孔性材料に対する生体適合性および骨統合に影響を与えることが立証されており、細胞および骨内殖を再生するためには、100μmを越える細孔サイズが適当であり、そして必要であることを明らかにした。
【0052】
上記のように、この組成物の多孔性は、この浸出可能粒子のサイズの適当な選択により、およそ100ミクロンと250ミクロンの間の範囲の細孔サイズを有することができる。
【0053】
(溶媒)
この組成物は、この溶液中に懸濁される成分または任意の粒子に悪影響を与えたり反応しない溶媒に溶解できる。この溶媒の相対量は、製造したマトリックスの構造に対して、最小の効果を有するが、溶媒の蒸発時間に影響を与える。この溶媒中のこの組成物の濃度は、典型的には、1%(w/v)と50%の範囲、好ましくは、10%と30%の間である。
【0054】
溶媒は、この組成物の成分と非反応性であるべきである。無水物結合が存在するので、非プロトン性を使用するのが好ましい。この組成物をエキソビボで重合する実施態様、これらの溶媒が、架橋した組成物から作製した製造品を移植する前に、効果的に除去できる実施態様では、ハロゲン化溶媒を使用し得る。インビボ用途については、非毒性である溶媒を使用するのが好ましい。これらの用途に適当に溶媒には、グライム、ジメチルスルホキシド(DMSO)および他の極性非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0055】
(これらの組成物の使用方法)
これらの組成物は、フリーラジカル重合可能基を含有し、これらは、重合したとき、これらの組成物を架橋して、半相互浸透性ネットワークを形成する。
【0056】
これらの組成物は、エキソビボで重合して、移植用の固形品を形成できるか、またはインサイチュで重合して、骨セメントとして、または歯科用途で使用でき、人工歯を形成するか、または損傷した骨(例えば、顎骨)を交換または修復する。
【0057】
(エキソビボ重合)
この組成物をエキソビボ重合するとき、この組成物の粘度は、好ましくは、ペーストまたは液体の粘度であり、その結果、この物質は、所望の形状に成形でき、そしてこのモノマーまたはマクロマーは、架橋できる。適当な形状には、ネジ、ピン、ステント、中空管、およびシャントが挙げられる。
【0058】
この組成物の溶液または分散体は、任意の適当な金型へと鋳込みまたは注入できる。このモノマーおよび/またはマクロマーを重合した後に形成されて得られる半相互浸透性重合体ネットワークは、この金型の形状を保持している。この溶媒は、次いで、室温で、一定時間(例えば、24時間)にわたって、この組成物から蒸発される。任意の残留溶媒は、引き続いて、凍結乾燥により、除去できる。
【0059】
(インサイチュ重合)
この組成物をインサイチュで重合する場合の特定の用途には、この組成物が、注入可能な程に十分に流動性であることが好ましい。患者の部位へと注入することに続いて、この組成物は、固形重合体ネットワークを形成するように、架橋することができる。
【0060】
この組成物は、硬組織欠損(例えば、骨または軟骨の欠損)のためのバルク剤として、使用できる。この例は、頭蓋骨を取り囲む領域(ここでは、外傷程に重要ではないが、骨欠陥が存在する)への注入、または長骨(例えば、大腿骨または脛骨)の複雑骨折の場合には、この骨または骨損失あるいは断片化領域への注入がある。これらの場合での注入は、局所麻酔または全身麻酔下での針または注射器の使用と共に、必要な領域へと直接行うことができる。さらに、この組成物は、再建手術で使用できる。
【0061】
歯科用途での使用のためには、その粘度は、好ましくは、損傷した歯の表面
に塗布できるのに十分に濃厚なペーストの粘度であり、例えば、この組成物は、所望の形状を維持し、重合すると硬化する。この粘度は、適当な粘度調整剤を添加することにより、調節できる。
【0062】
(この組成物を重合する方法)
この組成物は、任意の適当なフリーラジカル開始剤(活性種)(例えば、光開始剤および熱的に活性化可能な開始剤)を(細胞に非毒性である濃度、1重量%未満、さらに好ましくは、0.05重量%と0.01重量%の間の開始剤)で使用して、重合できる。この組成物は、架橋したとき、半相互浸透性重合体ネットワークを形成する。
【0063】
引用した文献の教示は、当業者の技術レベルおよび一般的な知見を示している。必要な範囲まで、これらの文献の内容は、本明細書中で参考として特に援用されている。
【0064】
適当な場合には、以下の定義を使用する。
【0065】
本明細書中で使用する「電磁放射」とは、その電磁スペクトルのエネルギー波を意味し、これには、X線、紫外線、可視光線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波および高周波が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書中で使用する「可視光線」とは、少なくともおよそ4.0×10-5cmの波長を有するエネルギー波を意味する。
【0067】
本明細書中で使用する「紫外線」とは、少なくともおよそ1.0×10-5cmであるが、7.0×10-5cm未満の波長を有するエネルギー波を意味する。
【0068】
本明細書中で使用する「紫外線」とは、少なくともおよそ1.0×10-5cmであるが、4.0×10-5cm未満の波長を有するエネルギー波を意味する。
【0069】
本明細書中で使用する「青色光」とは、少なくともおよそ4.5×10-5cmであるが、4.9×10-5cm未満の波長を有するエネルギー波を意味する。
【0070】
本明細書中で使用する「放射源」とは、(上記のような)放射源を意味する。例には、ランプ、日光、青色ランプ、および紫外線ランプが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
適当な熱活性化可能開始剤には、種々の過酸化物およびアゾビスイソブチロニトニル(AIBN)が挙げられる。適当な光開始剤には、0.01 mW/cm2と1Watt/cm2の間と同等の光に晒したとき、この組成物を架橋できる光開始剤が挙げられる。重合を誘発するためには、0.01 mW/cm2の最小光強度が必要である。最大光強度は、放射の波長に依存して、1〜1000 mW/cm2の範囲であり得る。UV光に晒すと活性種を発生する光開始剤は、当業者に周知である。
【0072】
組織は、より高い光強度、例えばより長い波長の可視光(これは短波長UV光よりも少ない組織/細胞損傷を引き起こす)に露光され得る。歯科的応用において、青色光(470〜490nm)が、臨床的に100〜400mW/cm2の強度で使用される。
【0073】
好ましくは、架橋化がインビボで生じる場合、重合化条件は周辺組織に損傷を与えないのに十分な穏やかさである。主に皮膚外部の光源の適用に関して本明細書中で記載したが、このことが、例えば、組成物が注入された場所に隣接した血管中、または修復されるべき骨に隣接した空間中のカテーテルから、組織を通して適用される光に、同じように応用され得ると解釈されるべきである。
【0074】
浸透の深さは、光重合化を引き起こすために使用される光の波長により制御され得る。例えば、可視光はUV光よりも深く組織を通って浸透する。組織を通る浸透は、ミクロン〜1cmの範囲であり得、1cmは可視光で生じる。好適な実施態様において、200と700nmとの間の波長を用いる放射が、活性種を創造し、そしてネットワークを重合化するために使用される。
【0075】
組成物中の重合可能な基は、光開始剤を使用して重合化され得、光開始剤は、UV光への露光により、または好ましくは長波長紫外光(LWUV)もしくは可視光を使用して、例えば特定の色素および化合物の光子吸収により活性種を生成する。LWUVおよび可視光が好ましい、というのはそれらがUV光よりも少ない損傷を組織および他の生物学的材料に引き起こすからである。有用な光開始剤は、細胞毒性を持たず、そして短い時間枠、多くて数分、および最も好ましくは数秒内で、マクロマーの重合化を開始するために使用され得るものである。
【0076】
色素およびアミンのような共触媒の、可視またはLWUV光への露光は、活性種を生成し得る。色素による光吸収は色素に三重項状態をとらせ、そして三重項状態は続いてアミンと反応して、重合化を開始させる活性種を形成する。重合化は、約200〜700nmの間の波長で、最も好ましくは長波長紫外光領域または可視領域(320nmまたはより長い)で、および最も好ましくは約365および514nmの間で光照射することにより開始され得る。
【0077】
非常に多くの色素が光重合化のために使用され得る。適した色素は当業者に周知である。好適な色素は、エリトロシン、フロキシム(phloxime)、ローズベンガル、トニン(thonine)、ショウノウキノン(camphorquinone)、エチルエオシン(ethyl eosin)、エオシン、メチレンブルー、リボフラビン、2,2−ジメチルー2−フェニルアセトフェノン、2−メトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、他のアセトフェノン誘導体、およびショウノウキノンを含む。適した共触媒は、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、N−ベンジルエタノールアミン、N−イソプロピルベンジルアミンのようなアミンを含む。トリエタノールアミンが好適な共触媒である。
【0078】
組成物は、エキソビボで重合化されて、ピンおよびネジのような固体の物品を提供し得、これらは骨を修復するために使用され得る。あるいは、組成物は、インサイチュで重合化されて骨セメントとして機能し得る。注入を介して接近され得るこれらの領域について、組成物は好ましくは、適用される際は液体であり、重合化されると固体である。
【0079】
(マトリックスの移植)
本明細書で記載されるマトリックスは、骨の修復または交換のための標準外科技術を使用して移植される。マトリックスは、骨成長が望まれる部位内に直接移植され得る。好適な実施態様において、マトリックスは骨の処置を必要としている骨の修復のための所望の形に予め成形される。
【0080】
本発明は、以下の非制限的な実施例を参考することによりさらに理解されるだろう。
【0081】
(実施例1:光硬化性単量体および重合体の合成)
(材料および方法)
セバシン酸(SA−Me2)および1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン(CPP−Me2)の混合無水メタクリル酸を、Ansethら(K.S.Anseth、V.R.Shastri、およびR.Langer、「整形外科的応用のための新規分解性ネットワークの光重合化」、ACS:PMSE、74、385、1996)に記載されるように合成し、そしてNMRおよびIRにより特徴付けた。HillおよびCarothers(HillおよびCarothers、「J.A.C.S.、54、1689、1932」により示されるように、多くの脂肪族ジカルボン酸(carboxylic diacids)の混合無水物は、自発的な環化および低重合体化のために、純粋な単量体状物質として調製され得ない。この現象は光架橋ネットワークの形成能に悪影響を与えなかった。共重合体、ポリ(CPP:SA);80:20を、すでに記載されたように合成し(Rosenら、Biomaterials、4、131、1983;DombおよびLanger、J.Polym.Sci.、23、3375、1987)、そして100ミクロン未満の粒子径にふるい分けた。
【0082】
(皮下移植のためのポリ無水物複合オブラートの調製)
(光硬化オブラート)2種のメタクリル化無水物単量体、CPP−Me2およびSA−Me2を、直線状共重合体ポリ(CPP:SA);80:20と、それぞれ重量比25/25/50で合わせた。光開始剤、Irgacure651(CIba−Geigy)を0.1%(w/w)で加え、そして混合して鋳造可能なパテを得た。これは、SA−Me2のロウの性質により可能であった。個別のオブラートを形成するために、ほぼ70mgの記載されたパテを、テフロン(登録商標)鋳型(ID.=8.0mm)に置き、そして手で圧力をかけて圧縮して1.0mmの厚さの軟オブラートを得た。次いで、これらのオブラートを、Ultracure100SS光硬化システム(EFOS Mississauga、Ontario)を使用して、20秒で3回のUV光の照射(doses)を用いて両側で照射した。100mW/cm2の光強度を使用して、材料を硬オブラートに硬化した。
【0083】
(直線状ポリ無水物オブラート)ポリ(CPP:SA)(80:20)重合体を、研究室Carverプレスを使用して硬化鋼鋳型中で圧縮し、同一の寸法(すなわち、8.0mm直径×1.0mm)を持つ硬ディスクを得た。
【0084】
(滅菌化)引き続いて、全ての重合体オブラートを、層流フード中で一晩、UV光に露光することにより滅菌した。
【0085】
(動物移植研究)4匹のラットの重量を量り、次いでケタミン/キシラジン(Xylazine)(1Kgあたり55/5mg)の筋肉内注射により麻酔をかけた。麻酔が効果を示すまで待った後(約5分)、ラットの背中をそり、そしてBetadine(登録商標)を使用して滅菌した。長さ2〜3cmの背面中線切開を、皮膚を通して作り、層および2個の向かい合う皮下ポケットを、鈍的剥離法を使用して背面中線切開のどちらかの側の浅筋膜に作った。直線状重合体オブラートを左のポケットに置き、そして光硬化オブラートを右のポケットに置いた。次いで、切開を3−0ナイロン縫糸(Ethicon)を使用して閉じ、そして外科手術部位を感染を予防するためにBetadine(登録商標)溶液で拭いた。次いで、暖かい環境でラットを覚醒させ、そして活動性および挙動における任意の異常についてチェックした。次いで、標準的手順に従い研究の継続期間中、ラットを個別にケージに入れた。
【0086】
3週間後および6週間後、対のラットに回収手術を行った。CO2窒息を使用してラットを安楽死させた。次いで、移植片を摘出し、そして周辺組織を先に作られたものと同様な切開を使用して収集した。収集直後、移植片および周辺組織を、中性緩衝化ホルマリンで固定化した。
【0087】
(組織の包埋、切断、および染色)一晩固定化の後、移植片および周辺組織を、一連の勾配のエタノール/キシレン溶液により脱水し、パラフィン中に包埋し、そしてロータリーミクロトームで5μmの厚さに切断した。薄片をガラスのスライドに載せ、脱パラフィン化し、そして標準的な組織学的手順を使用して光学顕微鏡評価のために、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0088】
(結果)
(3週間の移植片)周辺組織の壊死または膿種の形成は、移植片回収の前の、移植部位の全体的な検査において観測されなかった。両方の移植片が、周辺の皮下組織により十分に許容されていた。全ての重合体移植片は、完全に無傷であり、そしてそれらの全体的な形状および完全性を維持していた。光硬化重合体オブラートに対する炎症性および繊維形成応答は、直線状ポリ(CPP:SA)オブラートと比較して、明らかに少なかった。直線状ポリ(CPP:SA)移植片を取り囲む繊維質のカプセルはかなりのものであったが、対称的に、光硬化移植片の周囲ではごくわずかであった。その上さらに、周辺組織での光硬化重合体の浸潤および一体化は、直線状重合体と比較して明らかに大きかった。さらに、より多い数の血管が光硬化移植片の周りで観測された。最後に、架橋重合体オブラートは、分解が進んでおり、厚さが0.80〜0.85mmに減少(10〜16%の減少)していたが、一方CPP:SA(80:20)直線状重合体オブラートは0.90〜0.95mmの厚さで、事実上変化していなかった。
【0089】
(6週間の移植片)6週間で、2種の移植片に対する組織反応におけるかなり大きな違いが観測された。両方の重合体移植片が無傷であり、そしてそれらの全体的な形状および完全性を維持していた。光硬化重合体オブラート移植片は、厚さにおいて0.80〜0.85mm(30〜37%)までのかなりの減少が進行していた。対称的に、直線状重合体オブラート移植片は、0.90〜0.95mmの厚さで、事実上変化していなかった。その上さらに、光硬化移植片は、周辺組織と非常に良く一体化していた。依然繊維質組織カプセルにより取り囲まれていた直線状重合体移植片と比較して。さらに、組織学的検査は、光硬化重合体移植片の周りの血管分布が直線状ポリ(CPP:SA)(80:20)移植片と比較して明らかに高かったことを示した。6週間後、直線状移植片の周りの繊維質カプセルは3週間後よりも明らかにより厚くなっていたが、一方光硬化半−lPNは、緩やかに脈管化した結合組織により取り囲まれているのみであった。
【0090】
(7週間の移植片)架橋化オブラートはその形状を保持しながらも直径が60%より大きく減少していた。直線状ポリ無水物オブラートは、事実上未変化だった。さらに、血管分布を持つ優れた組織一体化が、架橋化材料の周りで観測されたが、一方直線状ポリ無水物に対する組織反応は、3週間および6週間で観測されたものと類似していた。
【0091】
(結論)
全体的な組織適合性は、光硬化重合体系の組織一体化、新脈管形成、および繊維質応答の程度により決定されるように、直線状ポリ(CPP:SA)(80:20)のものよりも優れている。炎症の明白な欠如は、光硬化重合体系の分解生成物が隣接する組織により十分に許容されたことを示唆する。光硬化重合体オブラートにおける場合であるように、かなり速く浸食する重合体表面は、その界面での全体的な組織応答に正の効果を有する。このことは、回復を促進するために骨欠陥中に置かれる場合、材料の骨化作用における活力を証明し得る。
【0092】
(実施例2:組成物を評価するための方法)
組成物は、例えばアクリル性骨セメント(6mm円×12mm長の供試体)に対してASTM標準F451−76を使用して、圧縮試験により、強度および弾性率について評価され得る。一軸圧縮試験が、例えば2個の潤滑化板の間の0.01/秒のひずみ速度で、行われ得る。自動データ取得技術が使用されてコンピューターで作成された応力対ひずみのx−yプロットを得、これから10%のひずみでの圧縮強度および弾性率が計算され得る。
【0093】
圧縮弾性率および強度は、循環水および少なくとも2:1の縦横比を有するシリンダーで測定され得る。
【0094】
組成物の生体分解性は、組成物を種々の液体、例えば生理学的pH、酸性pH、および/または塩基性pHの水溶液に浸漬することにより、インビトロで評価され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の組成物。

【公開番号】特開2010−5426(P2010−5426A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221667(P2009−221667)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【分割の表示】特願2000−502808(P2000−502808)の分割
【原出願日】平成10年7月10日(1998.7.10)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】