説明

単結晶シリコンの製造装置

【課題】ヒータ、石英坩堝、シリコン融液等からの熱を遮熱部材で効果的に遮断して、シリコン融液のシード浸漬部や育成途上結晶を確実に冷却でき、単結晶シリコンの成長を促進できるとともに、生産性を向上できる単結晶シリコンの製造装置を提供する。
【解決手段】チャンバ内に、シリコン融液を貯留する有底筒状の坩堝と、前記坩堝の径方向外側に配置されたヒータとを備え、前記シリコン融液に浸漬したシードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造装置であって、前記坩堝の上方には、前記シードを囲むように筒状に形成された遮熱部材24が配設され、前記遮熱部材24は、黒鉛からなり内部に収容空間25Aが形成された第1部材25と、前記収容空間25Aに収容された第2部材26と、を有し、前記第2部材26は、シード側とは反対側を向く面が光沢面27Aとされた反射板27を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝に貯留したシリコン融液にシードを浸漬し、このシードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造装置に関するものであり、特に、単結晶シリコンの製造装置内の遮熱部材の材質及び構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板等に用いられる単結晶シリコンは、一般的にチョクラルスキー法により製造されている。チョクラルスキー法は、例えば特許文献1に示すように、高耐圧気密チャンバ内に配置した石英製の坩堝内に多結晶シリコン(シリコン原料)を入れて、石英坩堝内の多結晶シリコンを加熱溶融し、石英坩堝の上方に配置されたシードチャックにシード(種結晶)を取り付けるとともにこのシードを石英坩堝内のシリコン融液に浸漬し、シード及び石英坩堝を回転させながらシードを引き上げて単結晶シリコンを成長させるようになっている。
【0003】
このような単結晶シリコンの製造装置では、石英坩堝の周囲にヒータを配置している。そして、ヒータを用いて、石英坩堝内に収容されたシリコン原料を加熱、溶解してシリコン融液を製出するとともに、このシリコン融液を保温するようにしている。また、その一方で、シリコン融液におけるシードを浸漬する部分近傍(以下「シード浸漬部」と省略する)は、単結晶シリコンの成長を促進する目的で、過冷却状態にする必要があり、また、育成途上の結晶自体(以下「育成途上結晶」と省略する)の温度を冷却することにより結晶の引き上げ速度を向上することが可能である。
【0004】
そこで、このような単結晶シリコンの製造装置では、一般的に、石英坩堝の上方に例えば逆円錐台形状の中空筒状に形成され、黒鉛からなる遮熱部材を配設している。また、遮熱部材内の中空の空間(収容空間)には、フェルト状の黒鉛が収容される。このような遮熱部材を設けることによって、ヒータからの熱が、坩堝の上方を回り込んでシリコン融液のシード浸漬部や育成途上結晶を加熱することがないようにしている。
【0005】
また、このような遮熱部材を用いて、ヒータからの熱以外に、石英坩堝や該石英坩堝内の外周側に位置するシリコン融液からの熱等、チャンバ内における種々の熱源からの熱がシード浸漬部や育成途上結晶を加熱しないように構成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−278696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、単結晶シリコンの製造装置においては、更なる生産性の向上が要求されている。すなわち、単結晶シリコンの引き上げ速度を高めることへの要望があり、そのため、ヒータ、石英坩堝、シリコン融液等からの熱を遮熱部材で効果的に遮断して、シリコン融液のシード浸漬部や育成途上結晶を確実に冷却する必要があった。
しかしながら、従来の遮熱部材を用いた場合には、遮熱部材が多結晶シリコンの溶解時に生じる液はねによって劣化し、長期に亘り単結晶シリコンの品質を確保しつつ引き上げ速度を高めることは未だ難しかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ヒータ、石英坩堝、シリコン融液等からの熱を遮熱部材で効果的に遮断して、シリコン融液のシード浸漬部や育成途上結晶を確実に冷却でき、単結晶シリコンの成長を促進できるとともに、生産性を向上できる単結晶シリコンの製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、チャンバ内に、シリコン融液を貯留する有底筒状の坩堝と、前記坩堝の径方向外側に配置されたヒータとを備え、前記シリコン融液に浸漬したシードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造装置であって、前記坩堝の上方には、前記シードを囲むように筒状に形成された遮熱部材が配設され、前記遮熱部材は、黒鉛からなり内部に収容空間が形成された第1部材と、前記収容空間に収容された第2部材と、を有し、前記第2部材は、シード側とは反対側を向く面が光沢面とされた反射板を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、遮熱部材の第2部材は、シード側とは反対側を向く面が光沢面とされた反射板を備えているので、この光沢面が、前記反対側から遮熱部材に到達するヒータ、坩堝、シリコン融液等の熱を効率よく反射して、遮熱部材の内側(シード側)に熱が伝達されにくくされている。従って、シリコン融液のシード浸漬部や育成途上結晶を確実に冷却でき、単結晶シリコンの成長を促進できるとともに、生産性を向上できる。
【0011】
また、反射板は第1部材の収容空間に収容されているので、その光沢面の光沢が長期に亘って維持されるとともに、前述した熱の反射性能が安定して確保される。また、反射板が露出されないことから、該反射板の耐久性が高められている。
【0012】
詳しくは、例えば、反射板が遮熱部材の前記反対側へ向けて露出し配置された場合には、光沢面が外気に晒されて酸化しやすくなり、早期に曇ったりくすんだりして、前述の熱の反射性能を安定して確保できない。また、反射板が遮熱部材のシード側へ向けて露出し配置された場合には、飛散したシリコン融液等が反射板に付着して該反射板が脆化し、部分的に落下するなどして、機械的強度が確保できない。また、このように反射板がシリコン融液内に落下した場合、製造するシリコン結晶に不純物が混入することになり、製品に使えなくなる不具合が生じる。一方、本発明では、反射板を第1部材の収容空間に収容し露出させない構成としているので、前述のような問題が生じない。
【0013】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、前記第2部材は、前記反射板を複数備え、これらの反射板同士が、互いに積層するように配置されていることとしてもよい。
【0014】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、第2部材は、複数の反射板を有しているとともに、これらの反射板同士を積層するように配置してなる複層構造とされていることから、遮熱部材が前記反対側からの熱を確実に遮断できる。
【0015】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、前記反射板が、モリブデン板、タンタル板及び耐熱合金のうちいずれかを備えることとしてもよい。
【0016】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、第2部材の反射板として、耐熱性に優れるモリブデン板、タンタル板及び耐熱合金のうちいずれかを用いていることから、熱により光沢面が変形することが抑制され、熱の反射性能が安定して確保される。
【0017】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、前記反射板が、石英板又はセラミック板からなり、その少なくとも前記シード側とは反対側を向く面に、モリブデン、タンタル及び耐熱合金のうちいずれかで形成された前記光沢面を有することとしてもよい。
【0018】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、反射板の熱変形を確実に抑制できるとともに、光沢面による熱の反射性能が十分に確保される。
【0019】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、複数の前記反射板のうち、少なくともシード側に配置された反射板が、ステンレス板であることとしてもよい。
【0020】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、複数の反射板のうち、少なくともシード側に配置された反射板がステンレス板であるので、前述した熱の反射性能を確保しつつ、製造コストを低減できる。
【0021】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、前記反射板の板厚が、0.1〜2mmの範囲内に設定されることとしてもよい。
【0022】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、反射板の板厚が、0.1〜2mmの範囲内に設定されているので、該反射板の剛性及び加工性が確保できる。すなわち、反射板の板厚が0.1mm未満に設定された場合は、該反射板の剛性を充分に確保できず、熱変形しやすくなることがある。また、反射板の板厚が2mmを超えて設定された場合は、反射板の加工性が悪くなり、所望の形状に精度よく形成できないことがある。
【0023】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、前記遮熱部材は、その下端開口部よりも上端開口部が大径とされた逆円錐台形状をなしていることとしてもよい。
【0024】
また、本発明に係る単結晶シリコンの製造装置において、前記収容空間には、前記第2部材の端部に配置されて該第2部材と前記第1部材とを互いに離間させるセラミックスペーサーが配設されていることとしてもよい。
【0025】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、第2部材の端部にセラミックスペーサーが配設されているので、第1、第2部材が高温で直接接触し反応するようなことが防止される。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る単結晶シリコンの製造装置によれば、ヒータ、石英坩堝、シリコン融液等からの熱を遮熱部材で効果的に遮断して、シリコン融液のシード浸漬部や育成途上結晶を確実に冷却でき、単結晶シリコンの成長を促進できるとともに、生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る単結晶シリコンの製造装置を示す説明図である。
【図2】図1の単結晶シリコンの製造装置におけるフロー管を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の単結晶シリコンの製造装置を用いた実施例における温度測定結果を示すグラフである。
【図4】従来の単結晶シリコンの製造装置を用いた比較例における温度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照し、この発明の一実施形態について説明する。
図1はこの発明の一実施形態に係る単結晶シリコンの製造装置の概略を模式的に示す図であり、符号1は単結晶シリコンの製造装置を示している。
【0029】
単結晶シリコンの製造装置1は、耐圧気密に構成された水冷ジャケット構造のチャンバ10内に、石英坩堝(坩堝)15、シードチャック17、ヒータ19、坩堝支持台21を備えている。また、チャンバ10の上方にシードチャック駆動機構30を備えている。
【0030】
水冷ジャケット構造のチャンバ10は、水冷ジャケット構造のメインチャンバ11と、メインチャンバ11の上方に接続された水冷ジャケット構造のトップチャンバ12と、トップチャンバ12の上方に接続された水冷ジャケット構造のプルチャンバ13とを備えている。メインチャンバ11は、底部11Aと底部11Aに立設された筒状部11Bとから構成され、その中心部に石英坩堝15が配置されている。また、底部11Aに形成された排気孔11Dには図示しない真空ポンプが接続されていて、チャンバ10内を減圧又は真空状態とすることが可能とされている。
【0031】
また、メインチャンバ11の底部11A上には、スピルトレイ14が配置されていて、石英坩堝15が破損してシリコン融液Mが流出することがあった場合に、シリコン融液Mが底部11Aと直接接触しチャンバ10が破損するのを防止できるようになっている。
【0032】
プルチャンバ13は、略円筒形状に形成され、引き上げられた単結晶シリコンTを収納する空間を有しており、トップチャンバ12により該プルチャンバ13よりも大径のメインチャンバ11と連結されている。
【0033】
石英坩堝15は、有底筒状をなし、その内部に単結晶シリコンTの原料である塊状の多結晶シリコン(シリコン原料)を保持可能とするとともに多結晶シリコンが加熱、溶融されて生成したシリコン融液Mを貯留可能とされている。また、石英坩堝15は、有底筒状の黒鉛サセプタ16に収納されている。
【0034】
黒鉛サセプタ16は、坩堝支持台21の上面に配置されたペディスタル21Cに保持されることにより一体に組み合わせて形成され、坩堝支持台21はその支持軸21Aがメインチャンバ11の底部11Aの中心部にて底部11A及びスピルトレイ14を貫通して形成された貫通孔11Hに挿入されており、支持軸21Aに接続された駆動モータ18によって、メインチャンバ11に対して相対的に回転及び昇降が可能とされている。
【0035】
また、黒鉛サセプタ16の径方向外側には、円筒状のヒータ19が配設されている。ヒータ19は、その下方が電極継手19Aにボルト19Bで固定され、電極継手19Aは、スピルトレイ14の貫通孔に配置された黒鉛電極19Cを介して図示しない電源に接続されている。
【0036】
また、ヒータ19の径方向外側には、円筒状の保温筒22が配設されている。保温筒22は、円筒状の黒鉛からなる内側保温筒22Aと、内側保温筒22Aの外方に配置された円筒状の多孔質黒鉛からなる外側保温筒22Bと、内側保温筒22A及び外側保温筒22Bの下方に配置されこれら内側、外側保温筒22A、22Bを載置するロアリング22Cと、内側保温筒22A及び外側保温筒22Bの上方に配置されたアッパリング22Dとを有している。ロアリング22C及びアッパリング22Dは、略リング板状をなし、内側保温筒22Aの内径と略同じ内径の孔が夫々形成されている。
【0037】
シードチャック17は、その下方を向く先端側がカーボンにより形成されたカーボンチャック部17Aとされ、カーボンチャック部17Aの先端面中央には、先端側から上方の基端側に向かって延びる孔(不図示)が形成されている。この孔には、シードSが挿入されて、カーボンチャック部17Aに固定されている。
【0038】
また、シードチャック17は、その上方を向く基端側がワイヤWに接続され、ワイヤWがシードチャック駆動機構30に接続されることにより、シードSがメインチャンバ11に対して相対的に回転及び昇降自在とされている。
【0039】
シードチャック駆動機構30は、プルチャンバ13の上部に設けられ、ワイヤWの基端側が接続されるとともに巻き回されるプーリ31と、石英坩堝15の中央を通る回転軸線Oを中心として、ワイヤWをプルチャンバ13に対して相対的に回転可能とする回転駆動部32とを備えている。また、このプーリ31を駆動させてワイヤWを巻き取る引上駆動モータ33と、回転駆動部32をプルチャンバ13に対して回転させる回転駆動モータ34とを備えている。
【0040】
このような構成によって、プーリ31がワイヤWを巻き取ることによりシードチャック17が昇降し、回転駆動部32が回転することによりシードチャック17が回転軸線O回りに回転するようになっている。
【0041】
そして、チャンバ10内において、保温筒22の上端には、リング板状のアダプタ23を介してフロー管(遮熱部材)24が取り付けられている。フロー管24は、石英坩堝15の上方に配置され、シリコン融液Mに浸漬するシードSの径方向外側を囲むように筒状に形成されている。詳しくは、フロー管24は、下端開口部よりも上端開口部が大径とされた逆円錐台形状の中空筒状に形成されている。
【0042】
図2に示すように、フロー管24は、内部に収容空間25Aが形成された第1部材25と、収容空間25Aに収容された第2部材26と、を有している。
第1部材25は、黒鉛からなり、フロー管24の外装をなしている。また、第1部材25は、略逆円錐台形状の筒状をなす内側壁部25B及び外側壁部25Cを、径方向に互いに間隔を開け連結し形成されている。また、前記間隔によって収容空間25Aが形成されている。
【0043】
また、内側壁部25Bの内周面から外側壁部25Cの外周面までの距離(すなわちフロー管24の厚さ寸法)は、10〜15mmの範囲内に設定されている。
【0044】
また、第2部材26は、逆円錐台形状の筒状をなすモリブデン板(反射板)27と、このモリブデン板27の径方向内側に配置され、逆円錐台形状の筒状をなすステンレス板(反射板)28とを備えている。モリブデン板27の板厚は、0.1〜2mmの範囲内に設定されている。また、モリブデン板27の径方向外側を向く面は、光沢を有する光沢面27Aとされている。また、ステンレス板28の径方向外側を向く面は、光沢を有する光沢面28Aとされている。
【0045】
図2に示すように、例えば、外側壁部25Cとモリブデン板27との間、モリブデン板27とステンレス板28との間、及び、ステンレス板28と内側壁部25Bとの間には、夫々僅かに間隙が設けられている。
【0046】
このように間隙が設けられることで、モリブデン板27及びステンレス板28を収容空間25Aに収容する際に、比較的精度を必要とせず、製造が容易となる。また、収容空間25A内におけるこれらモリブデン板27及びステンレス板28の熱変形が許容され、フロー管24が変形したり破損したりするようなことが防止される。また、収容空間25A内は、真空等の減圧雰囲気に設定されており、このような雰囲気内において前記間隔が設けられることで、充分な断熱効果を奏することができるとともに、フロー管24の遮熱効果がより高められる。尚、これらの間隙を設けずにフロー管24を構成しても構わない。
【0047】
また、フロー管24における収容空間25A内の上端部及び下端部には、略リング板状のセラミックスペーサー29、29がそれぞれ配設されている。セラミックスペーサー29、29は、第2部材26の上端部及び下端部に当接するようにそれぞれ配置されているとともに、黒鉛部材である第1部材25と金属部材である第2部材26とが直接接触しないように、これらを互いに離間させている。
【0048】
次に、この単結晶シリコンの製造装置1を用いた単結晶シリコンTの製造手順について説明する。
まず、減圧状態としたチャンバ10内において、原料となる塊状の多結晶シリコンを石英坩堝15に充填し、ヒータ19で石英坩堝15を加熱し多結晶シリコンを溶解して、1420℃のシリコン融液Mとする。また、その一方で、シリコン融液Mにおけるシード浸漬部を過冷却状態とする。
【0049】
次に、シードチャック17のカーボンチャック部17AにシードSを挿入し固定した状態で、シードチャック駆動機構30を駆動し、シードチャック17を下降させて、シードSをシリコン融液Mのシード浸漬部に浸漬する。この状態で、シードSをシリコン融液Mになじませる。
【0050】
シードSがシリコン融液Mになじんだら、シードチャック17を、回転軸線Oを中心に時計回り又は反時計回りに回転させながら、0.5mm/分から6.0mm/分の速度で上昇させる。
このとき、石英坩堝15は、シードチャック17の回転方向と同じ方向に回転されていて、その回転速度は、例えば、シードチャック17の回転速度に対して90〜110%の範囲内に設定される。
【0051】
このように、シードチャック17を引き上げるとともにシードSを引き上げて、単結晶シリコンTを成長させ、略円柱状の単結晶シリコンTを製造する。
【0052】
本実施形態に係る単結晶シリコンの製造装置1によれば、フロー管24の第2部材26は、径方向外側を向く面が光沢面27Aとされたモリブデン板27を備えているので、この光沢面27Aが、径方向外側からフロー管24に到達するヒータ19、石英坩堝15、石英坩堝15内の外周側に位置するシリコン融液M等の熱を効率よく反射して、フロー管24の径方向内側に熱が伝達されにくくされている。さらに、第2部材26は、径方向外側を向く面が光沢面28Aとされたステンレス板28を備えているので、前述した熱の反射性能がより高められている。
【0053】
従って、シリコン融液Mのシード浸漬部や育成途上結晶を確実に冷却でき、単結晶シリコンTの成長を促進できるとともに、生産性を向上できる。具体的には、前述の構成によって、単結晶シリコンTを1.2mm/分から2.0mm/分の引き上げ速度で製造することができる。
【0054】
また、第2部材26として、耐熱性に優れるモリブデン板27を用いていることから、熱により光沢面27Aが変形することが抑制され、熱の反射性能が安定して確保される。また、モリブデン板27及びステンレス板28は第1部材25の収容空間25Aに収容されているので、その光沢面27A、28Aの光沢が長期に亘って維持されるとともに、前述した熱の反射性能が安定して確保される。また、モリブデン板27及びステンレス板28が露出されないことから、該モリブデン板27及びステンレス板28の耐久性が高められている。これによって、成長速度の速い結晶成長が実現でき、結晶成長の生産性改善効果が得られる。また、モリブデン板27やステンレス板28等の反射板部材の長寿命化を果たすことができ、結晶製造コストの低減を図ることができる。
【0055】
詳しくは、例えば、第2部材26のモリブデン板27がフロー管24の径方向外側へ向けて露出し配置された場合には、光沢面27Aが外気に晒されて酸化しやすくなり、早期に曇ったりくすんだりして、前述の熱の反射性能を安定して確保できない。また、モリブデン板27がフロー管24の径方向内側へ向けて露出し配置された場合には、飛散したシリコン融液M等がモリブデン板27に付着してMoSi(珪化モリブデン)が形成されるとともに脆化し、該モリブデン板27が部分的に落下するなどして、機械的強度が確保できない。また、このようにモリブデン板27がシリコン融液M内に落下した場合、製造する単結晶シリコンTに不純物が混入することになり、製品に使えなくなる不具合が生じる。一方、本実施形態のように、モリブデン板27を第1部材25の収容空間25Aに収容し露出させない構成とすれば、前述のような問題が生じない。
【0056】
また、第2部材26は、収容空間25Aにおける径方向外側にモリブデン板27を配置し、該モリブデン板27の径方向内側にステンレス板28を配置している。このように、第2部材26が径方向に積層するように多層(複層)構造とされていることから、フロー管24がその径方向外側からの熱を確実に遮断できる。また、第2部材26にステンレス板28を用いていることから、製造コストを低減できる。
【0057】
また、モリブデン板27の板厚が、0.1〜2mmの範囲内に設定されているので、該モリブデン板27の剛性及び加工性が確保できる。
【0058】
また、第2部材26における上下の端部にセラミックスペーサー29、29がそれぞれ配設されているので、第1、第2部材25、26が高温で直接接触し反応するようなことが防止されている。
【0059】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態では、第2部材26は、モリブデン板27の径方向内側にステンレス板28を配設していることとしたが、これに限定されるものではない。
【0060】
すなわち、ステンレス板28の代わりに、モリブデン板27の径方向内側に、他のモリブデン板を配設することとしてもよい。また、モリブデン板27の径方向内側に、ステンレス板28や他のモリブデン板を複数配置して、第2部材26を3層以上で構成してもよい。また、ステンレス板28や他のモリブデン板以外の金属材料を配設してもよい。また、第2部材26を複層構造とせず、モリブデン板27の単一層のみで構成しても構わない。
【0061】
また、本実施形態では、第2部材26の反射板として、モリブデン板27及びステンレス板28を用いることとしたが、反射板はこれらに限定されるものではない。すなわち、反射板として、例えば、上記以外のタンタル板や耐熱合金等の高融点金属を用いることとしてもよく、また、このような高融点金属が一重又は多重に備えられていてもよい。第2部材26の反射板として、耐熱性に優れるモリブデン板、タンタル板及び耐熱合金のうちいずれかを用いた場合、熱により光沢面が変形することが確実に抑制され、熱の反射性能が安定して確保される。
【0062】
また、第2部材26の反射板が、筒状に成形された石英板又はセラミック板からなり、その少なくとも径方向外側を向く面に、モリブデン、タンタル及び耐熱合金のうちいずれかをスパッタリング又はコーティグしてなる光沢面を有することとしてもよい。この場合、反射板の熱変形がより確実に抑制されるとともに、光沢面による熱の反射性能が十分に確保される。また、反射板の汚れを簡単に拭い取ることができ、黒鉛との接触も防止できるので好ましい。
【0063】
また、フロー管24の収容空間25Aには、第2部材26の上下の端部に配置されて該第2部材26と第1部材25とを直接接触させないように互いに離間させるセラミックスペーサー29、29が配設されていることとしたが、セラミックスペーサー29、29は設けられていなくても構わない。
【0064】
また、本実施形態では、フロー管24が、その下端開口部よりも上端開口部が大径とされた逆円錐台形状をなしているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、フロー管24の形状は、逆円錐台形状以外の円筒状や多角形筒状等であっても構わない。
【0065】
また、本実施形態では、モリブデン板27の板厚が、0.1〜2mmの範囲内に設定されるとしたが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例]
実施例として、前述の実施形態で説明した単結晶シリコンの製造装置1を用いた。すなわち、単結晶シリコンの製造装置1のフロー管24における収容空間25Aに、反射板としてモリブデン板27及びステンレス板28を備えたものを用意した。そして、石英坩堝15にシリコン融液Mを貯留せずにヒータ19により加熱(空焼き)した際の、フロー管において径方向内側を向く面(以下「内面」と省略)の温度、内側保温筒22Aに配置したヒータ温度制御用のATC(Automatic Thermal Control)センサの温度、前記シリコン浸漬部に相当する部分の温度、をそれぞれ測定した。結果を図3のグラフに示す。尚、図3において、符号F1はフロー管の内面温度、符号A1はATCセンサの温度、符号S1はシリコン浸漬部に相当する部分の温度をそれぞれ示している。
【0068】
[比較例]
また、比較例として、従来のように、フロー管の収容空間にフェルト状の黒鉛を収容したものを用意した。そして、実施例と同様にして空焼きした際の、フロー管の内面温度、ATCセンサの温度、前記シリコン浸漬部に相当する部分の温度、をそれぞれ測定した。結果を図4のグラフに示す。尚、図4において、符号F2はフロー管の内面温度、符号A2はATCセンサの温度、符号S2はシリコン浸漬部に相当する部分の温度をそれぞれ示している。
【0069】
(結果)
図3に示すように、実施例では、F1の温度上昇が大幅に抑制されているとともに、S1が結晶成長に適した温度付近に達した際のA1の温度が1551℃と比較的高められることがわかった。すなわち、ヒータ19からの熱がフロー管24により効果的に反射されて、該フロー管24の径方向内側のシリコン浸漬部を加熱するようなことが防止されているとともに該シリコン浸漬部を冷却しやすくなっていることがわかった。また、このようにフロー管24がヒータ19の熱を反射するので、該ヒータ19の熱が石英坩堝15内のシリコン融液Mの加熱に効率よく用いられることがわかった。また、図のグラフからわかるように、S1は温度上昇の傾斜が比較的緩やかであるので、結晶成長に適した温度に制御しやすくなっている。よって、単結晶シリコンTの製造が安定して行える。
【0070】
一方、図4に示す比較例では、F2の温度上昇が顕著に見受けられた。すなわち、ヒータ19からの熱がフロー管に反射されることなく該フロー管自体を加熱しているとともに、このフロー管を通してシリコン浸漬部に達して、該シリコン浸漬部を加熱していることがわかった。また、フロー管を介してヒータ19の熱が拡散されることから、S2が結晶成長に適した温度付近に達した際のA2の温度は1528℃に抑制された。
【符号の説明】
【0071】
1 単結晶シリコンの製造装置
10 チャンバ
15 石英坩堝(坩堝)
19 ヒータ
24 フロー管(遮熱部材)
25 第1部材
25A 収容空間
26 第2部材
27 モリブデン板(反射板)
27A 光沢面
28 ステンレス板(反射板)
28A 光沢面
29 セラミックスペーサー
M シリコン融液
S シード
T 単結晶シリコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に、シリコン融液を貯留する有底筒状の坩堝と、前記坩堝の径方向外側に配置されたヒータとを備え、前記シリコン融液に浸漬したシードを引き上げて単結晶シリコンを成長させる単結晶シリコンの製造装置であって、
前記坩堝の上方には、前記シードを囲むように筒状に形成された遮熱部材が配設され、
前記遮熱部材は、黒鉛からなり内部に収容空間が形成された第1部材と、前記収容空間に収容された第2部材と、を有し、
前記第2部材は、シード側とは反対側を向く面が光沢面とされた反射板を備えることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
前記第2部材は、前記反射板を複数備え、
これらの反射板同士が、互いに積層するように配置されていることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
前記反射板が、モリブデン板、タンタル板及び耐熱合金のうちいずれかを備えることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
前記反射板が、石英板又はセラミック板からなり、その少なくとも前記シード側とは反対側を向く面に、モリブデン、タンタル及び耐熱合金のうちいずれかで形成された前記光沢面を有することを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
複数の前記反射板のうち、少なくともシード側に配置された反射板が、ステンレス板であることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
前記反射板の板厚が、0.1〜2mmの範囲内に設定されることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
前記遮熱部材は、その下端開口部よりも上端開口部が大径とされた逆円錐台形状をなしていることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の単結晶シリコンの製造装置であって、
前記収容空間には、前記第2部材の端部に配置されて該第2部材と前記第1部材とを互いに離間させるセラミックスペーサーが配設されていることを特徴とする単結晶シリコンの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101971(P2012−101971A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251133(P2010−251133)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】