説明

単結晶シリコン太陽電池の製造方法及び単結晶シリコン太陽電池

【課題】 薄膜の光変換層を結晶性の高い単結晶シリコンとした光閉じ込め型単結晶シリコン太陽電池を提供する。
【解決手段】 単結晶シリコン基板に水素イオンまたは希ガスイオンを注入する工程と、金属基板上に透明絶縁性層を形成する工程と、前記イオン注入面と前記透明絶縁性層の表面とのうち少なくとも一方に表面活性化処理を行う工程と、その両者を貼り合わせる工程と、前記単結晶シリコン基板を機械的に剥離して、単結晶シリコン層とする工程と、前記単結晶シリコン層の前記剥離面側に、第二導電型の拡散領域を複数形成し、前記単結晶シリコン層の前記剥離面に複数の第一導電型領域と複数の第二導電型領域とが存在するようにする工程と、前記単結晶シリコン層の前記複数の第一、第二導電型領域上にそれぞれ複数の個別電極を形成する工程と、それぞれの集電電極を形成する工程と、透明保護膜を形成する工程とを含む単結晶シリコン太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコン太陽電池の製造方法及び単結晶シリコン太陽電池に関するものであり、特に金属基板上に単結晶シリコン層が形成された単結晶シリコン太陽電池の製造方法及び単結晶シリコン太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
珪素を主原料とする太陽電池は、その結晶性により単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、非晶質シリコン太陽電池に分類される。このうち、単結晶シリコン太陽電池は、結晶引上げによる単結晶インゴットをワイヤーソーによりウエーハ状に切り出し、100〜200μm厚のウエーハに加工し、これにpn接合、電極、保護膜等を形成して太陽電池セルとしている。
【0003】
多結晶シリコンでは、結晶引き上げによらず、鋳型にて溶融金属珪素を結晶化させることで多結晶のインゴットを製造し、これを単結晶シリコン太陽電池と同様にワイヤーソーによりウエーハ状に切り出し、同様に100〜200μm厚のウエーハとし、単結晶シリコン基板と同様にpn接合、電極、保護膜を形成して太陽電池セルとしている。
【0004】
非晶質シリコン太陽電池では、例えば、プラズマCVD法により、シランガスを気相中で放電により分解することで、基板上に非晶質の水素化珪素膜を形成し、これにドーピングガスとしてジボラン、ホスフィン等を添加し、同時に堆積させることで、pn接合と成膜工程を同時に行い、電極、保護膜を形成して太陽電池セルとしている。非晶質シリコン太陽電池では、非晶質シリコンが直接遷移型として入射光を吸収するため、その光吸収係数は単結晶及び多結晶シリコンのそれと比べおよそ一桁高い(非特許文献1)ことで、非晶質シリコン層の厚さは結晶系の太陽電池に比べておよそ100分の1の膜厚の1μm前後で十分であるという利点がある。近年、太陽電池の生産量が世界で年間1ギガワットを越し、今後更に生産量が伸びることを考えると、資源を有効に活用できる薄膜の非晶質シリコン太陽電池に対する期待は大きい。
【0005】
しかし、非晶質シリコン太陽電池の製造には、原料にシランやジシラン等の高純度のガス原料を用いることや、そのガス原料の有効利用率はプラズマCVD装置内で基板以外に堆積するものもあることなどの事情から、結晶系太陽電池に必要な膜厚との単純な比較で資源の有効利用率を決定することはできない。また、結晶系太陽電池が変換効率において15%前後であるのに対して、非晶質シリコン太陽電池は10%前後であり、更に、光照射下における出力特性劣化の問題が依然残されている。
【0006】
一方、結晶系シリコン材料を用いて薄膜太陽電池を開発する試みが種々なされている(非特許文献2)。例えば、アルミナ基板やグラファイト基板等にトリクロロシランガスやテトラクロロシランガス等を用いて多結晶の薄膜を堆積させるものである。この堆積膜には結晶欠陥が多く、そのままでは変換効率が低いので、変換効率を向上させるために、帯域溶融を行い、結晶性を改善する必要がある(例えば特許文献1参照)。しかし、このような帯域溶融による方法をとっても、結晶粒界でのリーク電流及びライフタイムの低下により長波長域での光電流応答特性が低下する等の問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−342909号公報
【非特許文献1】高橋清、浜川圭弘、後川昭雄編著、「太陽光発電」、丸善、1980年、233頁
【非特許文献2】高橋清、浜川圭弘、後川昭雄編著、「太陽光発電」、丸善、1980年、217頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリコン太陽電池において、その原料となる珪素の有効活用を図るために光変換層を薄膜とするとともに、変換特性に優れ、更に光照射による劣化の少ない薄膜単結晶シリコン太陽電池を、膜厚に比して効率をできるだけ高めた光閉じ込め型構造を有する太陽電池として提供すること、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明は、少なくとも、金属基板と、光変換層としての単結晶シリコン層と、透明保護膜とが積層され、前記透明保護膜側を受光面とする単結晶シリコン太陽電池を製造する方法であって、少なくとも、金属基板と第一電導型の単結晶シリコン基板とを用意する工程と、前記単結晶シリコン基板に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入して、イオン注入層を形成する工程と、前記金属基板上に、透明絶縁性層を形成する工程と、前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記金属基板上の透明絶縁性層の表面とのうち少なくとも一方に表面活性化処理を行う工程と、前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記金属基板上の透明絶縁性層の表面とを貼り合わせる工程と、前記イオン注入層に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板を機械的に剥離して、単結晶シリコン層とする工程と、前記単結晶シリコン層の前記剥離面側に、前記第一導電型とは異なる導電型である第二導電型の拡散領域を複数形成し、少なくとも面方向にpn接合を複数形成するとともに前記単結晶シリコン層の前記剥離面に複数の第一導電型領域と複数の第二導電型領域とが存在するようにする工程と、前記単結晶シリコン層の前記複数の第一導電型領域上にそれぞれ複数の第一の個別電極を形成し、前記複数の第二導電型領域上にそれぞれ複数の第二の個別電極を形成する工程と、前記複数の第一の個別電極をつなぐ第一の集電電極及び前記複数の第二の個別電極をつなぐ第二の集電電極を形成する工程と、前記複数の第一導電型領域及び複数の第二導電型領域を覆う透明保護膜を形成する工程とを含むことを特徴とする単結晶シリコン太陽電池の製造方法を提供する(請求項1)。
【0010】
このような工程を含む単結晶シリコン太陽電池の製造方法によれば、光変換層として薄膜の単結晶シリコン層を有し、受光面とは反対側に金属の光反射層を有する光閉じ込め型構造とした薄膜単結晶シリコン太陽電池を製造することができる。この薄膜単結晶シリコン太陽電池は、光変換層を単結晶シリコン層とした太陽電池であるので、膜厚に比して変換効率が高く、光照射による劣化が少ない太陽電池とすることができる。
そして、このような工程を含む単結晶シリコン太陽電池の製造方法によれば、光変換層としての単結晶シリコン層の形成を、単結晶シリコン基板から剥離することによって行うので、該単結晶シリコン層の結晶性を高めることができる。その結果、太陽電池としての変換効率をより高めることができる。
【0011】
また、単結晶シリコン基板と透明絶縁性皮膜を形成した金属基板とを表面活性化処理を施した後に貼り合わせるため、両者を強固に貼り合わせることができる。従って、結合力を高める高温熱処理を施さなくても十分に強固な接合となる。また、このように接合面が強固に接合しているので、その後、イオン注入層に衝撃を与えて単結晶シリコン基板を機械的に剥離し、透明絶縁性皮膜を形成した金属基板上に薄い単結晶シリコン層を形成することができる。従って、剥離のための熱処理を行わなくても単結晶シリコン層の薄膜化をすることができる。
また、単結晶シリコン層の形成のための単結晶シリコン基板の剥離を、加熱によらず機械剥離によって行うので、光変換層に熱膨張率の相違に基づく亀裂や欠陥が導入されることを抑制することができる。
【0012】
また、シリコン層の薄い薄膜太陽電池とするため、珪素原料を節約し、有効に利用することができる。
また、金属基板を薄いフィルム状の基板とすることで、曲面状に広げたり、ロール状に収納し、必要に応じて広げて利用する太陽電池とすることができる。
【0013】
この場合、前記金属基板を、可視光に対して60%以上の反射率を有するものとすることが好ましい(請求項2)。
このように、金属基板を、可視光に対して60%以上の反射率を有するものとすれば、薄膜単結晶シリコン層を透過した可視光が金属基板界面で高反射率で反射され、再び該薄膜単結晶シリコン層で吸収されて光電変換される光閉じ込め構造を容易に作製することができる。
【0014】
また、前記透明絶縁性層を、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものとすることが好ましい(請求項3)。
このように、透明絶縁性層を、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものとすれば、貼り合わせに最適な清浄面を得ることが容易となり、また、貼り合わせ面から単結晶シリコン層への金属成分の拡散を防止することができる。
【0015】
また、前記表面活性化処理を、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方とすることが好ましい(請求項4)。
このように、表面活性化処理を、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方とすれば、容易に表面活性化を行うことができ、単結晶シリコン基板と金属基板上の透明絶縁性層とを強固に貼り合わせることができる。
【0016】
また、前記イオン注入の深さを、イオン注入面から2μm以上50μm以下とすることが好ましい(請求項5)。
このように、イオン注入の深さを、イオン注入面から2μm以上50μm以下とすることにより、製造される単結晶シリコン太陽電池の光変換層としての単結晶シリコン層の厚さをおよそ2μm以上50μm以下とすることができる。そして、このような厚さの薄膜単結晶シリコン層を有する単結晶シリコン太陽電池であれば、薄膜単結晶シリコン太陽電池として実用的な変換効率が得られるとともに、使用する珪素原料の量を節約することができる。
【0017】
また、前記透明絶縁性層を、光散乱性を有するものとしたり(請求項6)、前記透明保護膜を、光散乱性を有するものとする(請求項7)のが好ましい。
【0018】
このように、透明絶縁性層や透明保護膜が光散乱性を有するものとすれば、光変換層としての単結晶シリコン層に入射する光の光路長をさらに延ばすことができ、該光変換層としての単結晶シリコン層により多くの光を吸収させることができる光閉じ込め型構造を有する薄膜単結晶シリコン太陽電池を製造することができる。その結果、変換効率をより向上させることができる。
【0019】
また、本発明は、上記のいずれかの単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって製造された単結晶シリコン太陽電池を提供する(請求項8)。
このように、上記のいずれかの単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって製造された単結晶シリコン太陽電池であれば、光変換層としての単結晶シリコン層の形成を、単結晶シリコン基板から剥離することによって行い、単結晶シリコン層の剥離を、加熱によらず機械剥離によって行ったものであるので、結晶性の高い単結晶シリコン層とすることができる。そのため、膜厚に比して変換効率が高い薄膜太陽電池とすることができる。また、受光面とは反対側に金属の光反射層を有する光閉じ込め型構造とすることができる。
【0020】
また、本発明は、少なくとも、金属基板と、透明絶縁性層と、単結晶シリコン層と、透明保護膜とが順次積層され、前記単結晶シリコン層は、前記透明保護膜側の面に、複数の第一導電型領域と複数の第二導電型領域とが形成され、少なくとも面方向にpn接合が複数形成されているものであり、前記単結晶シリコン層の前記複数の第一導電型領域上にはそれぞれ複数の第一の個別電極が形成され、前記複数の第二導電型領域上にはそれぞれ複数の第二の個別電極が形成されており、前記複数の第一の個別電極をつなぐ第一の集電電極及び前記複数の第二の個別電極をつなぐ第二の集電電極が形成されているものであることを特徴とする単結晶シリコン太陽電池を提供する(請求項9)。
【0021】
このような構造を有する単結晶シリコン太陽電池は、光変換層として薄膜の単結晶シリコン層を有し、受光面とは反対側に金属の光反射層を有する光閉じ込め型構造とした薄膜単結晶シリコン太陽電池である。この薄膜単結晶シリコン太陽電池は、光変換層が単結晶シリコン層である太陽電池であるので、膜厚に比して変換効率が高く、光照射による劣化が少ない太陽電池とすることができる。
【0022】
この場合、前記金属基板は、可視光に対して60%以上の反射率を有するものであることが好ましい(請求項10)。
このように、金属基板が、可視光に対して60%以上の反射率を有するものであれば、薄膜単結晶シリコン層を透過した可視光が金属基板界面で高反射率で反射され、再び該薄膜単結晶シリコン層で吸収されて光電変換される太陽電池とすることができる。
【0023】
また、前記透明絶縁性層は、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものであることが好ましい(請求項11)。
このように、透明絶縁性層が、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものであれば、金属基板から単結晶シリコン層への金属成分の拡散を防止することができる。
【0024】
また、前記単結晶シリコン層の膜厚は、2μm以上50μm以下であることが好ましい(請求項12)。
このように、単結晶シリコン層の膜厚が2μm以上50μm以下であれば、薄膜単結晶シリコン太陽電池として実用的な変換効率が得られるとともに、使用する珪素原料の量を節約することができる。
【0025】
また、前記透明絶縁性層は、光散乱性を有するものであり(請求項13)、あるいは、前記透明保護膜は、光散乱性を有するものであること(請求項14)が好ましい。
【0026】
このように、透明絶縁性層や透明保護膜が光散乱性を有するものであれば、光変換層としての単結晶シリコン層に入射する光の光路長をさらに延ばすことができ、該光変換層としての単結晶シリコン層により多くの光を吸収させることができる光閉じ込め型構造を有する薄膜単結晶シリコン太陽電池とすることができる。その結果、変換効率をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に従う単結晶シリコン太陽電池の製造方法であれば、金属基板上に、光変換層として、結晶性が良好であり、変換効率の高い単結晶シリコン層が配置された光閉じ込め型薄膜太陽電池を製造することができる。
また、本発明に従う単結晶シリコン太陽電池であれば、金属基板上に、光変換層として、結晶性が良好であり、変換効率の高い単結晶シリコン層が配置された光閉じ込め型薄膜太陽電池であるので、膜厚に比して変換効率が高い太陽電池とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
前述したように、珪素原料を節約できる薄膜太陽電池においても、より一層の高変換効率が求められており、そのために結晶系太陽電池とすることを採用した上で、さらに結晶性を改善することが求められていた。
【0029】
そこで本発明者らは、この課題に対して検討を行い、その結果、単結晶シリコン基板と、透明絶縁性層を形成した金属基板とを該透明絶縁性層を介して貼り合わせた後に該単結晶シリコン基板を薄膜化することによって、光変換層としてのシリコン層の結晶性を高くすることを見出した。さらに、単結晶シリコン基板と透明絶縁性層を形成した金属基板とを貼り合わせる前に両者の表面を活性化させておくことにより、高温の熱処理をしなくても接合強度を高くし、また剥離の際にも機械的剥離を行うことで高温の熱処理をせずに剥離することによって単結晶シリコン層の結晶性を良好に保つことができることに想到し、本発明を完成させた。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明に係る単結晶シリコン太陽電池の製造方法の一例を示す工程図である。
【0031】
まず、単結晶シリコン基板11及び金属基板12を用意する(工程a)。
単結晶シリコン基板11としては種々のものを用いることができ、例えばチョクラルスキー法により育成された単結晶をスライスして得られたもので、例えば直径が100〜300mm、導電型がp型またはn型、抵抗率が0.1〜20Ω・cm程度のものを用いることができる。厚さも特に限定されず、例えば500〜2000μm程度のものを用いることができる。
なお、このときに準備した単結晶シリコン基板の導電型を第一導電型とする。
【0032】
また、金属基板12としては可視光に対して60%以上の反射率を有するものを用いることが好ましい。具体的には、SUS304等のステンレス基板、アルミニウム基板、銀が蒸着されたステンレス基板(銀蒸着ステンレス基板)等を用いることができる。このような金属基板であれば、可視光を高反射率で反射するので、より高効率の太陽電池を製造することができる。また、この金属基板を薄板状の可撓性を有する基板とすることで、曲面に設置可能な太陽電池とすることもできる。
【0033】
なお、単結晶シリコン基板11は、後述する工程eの貼り合わせ工程の際の接合強度を高めるために、貼り合わせようとする表面が十分に平坦化されたものであることが望ましい。このような高平坦度の表面は、例えば研磨等により表面を平坦化することによって実現できる。
【0034】
次に、単結晶シリコン基板11に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入して、イオン注入層14を形成する(工程b)。
例えば、単結晶シリコン基板の温度を200〜350℃とし、その表面13から所望の単結晶シリコン層の厚さに対応する深さ、例えば2μm以上50μm以下の深さにイオン注入層14を形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入する。この場合、水素イオンは軽いために、同じ加速エネルギーにおいて、イオン注入面13からより深く注入されるために特に好ましい。水素イオンの電荷は正負のいずれでもよく、原子イオンの他、水素ガスイオンであってもよい。希ガスイオンの場合も電荷の正負はいずれでもよい。
また、単結晶シリコン基板の表面にあらかじめ薄いシリコン酸化膜などの絶縁膜を形成しておき、それを通してイオン注入を行えば、注入イオンのチャネリングを抑制する効果が得られる。
【0035】
次に、金属基板12上に、透明絶縁性層15を形成する(工程c)。
透明絶縁性層15としては、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものとすることが好ましい。このような材料の透明絶縁性層とすれば、工程eの単結晶シリコン基板11との貼り合わせに最適な清浄面を得ることが容易となり、また、工程eの貼り合わせ工程以降において、貼り合わせ面から単結晶シリコン層への金属成分が拡散することを防止することができる。
【0036】
なお、透明絶縁性層15の形成方法は特に限定されず、材料等によって適宜選択することができる。例えば、上記の酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムであれば、プラズマCVD法等により金属基板上に形成することができる。
また、透明絶縁性層15の表面は、工程eの貼り合わせ工程の際の接合強度を高めるために、表面が十分に平坦化されたものであることが望ましい。このような高平坦度の表面は、例えば研磨等により表面を平坦化することによって実現できる。
【0037】
なお、工程bの単結晶シリコン基板へのイオン注入工程と、工程cの金属基板上の透明絶縁性層形成工程は、どちらを先に行っても構わない。
【0038】
次に、単結晶シリコン基板11のイオン注入面13と、金属基板12上の透明絶縁性層15の表面とのうち少なくとも一方に表面活性化処理を行う(工程d)。
この表面活性化処理は、次の工程eの貼り合わせ工程で、高温の熱処理をせずとも単結晶シリコン基板11と金属基板12上の透明絶縁性層15の表面とが強固に貼り合わせられるようにするためのものであり、貼り合わせようとする側の表面を活性化処理することを目的とするものである。また、その方法は特に限定されないが、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方によって好適に行うことができる。
【0039】
プラズマで処理をする場合は、低周波プラズマ、高周波プラズマ、常圧プラズマ、減圧プラズマの何れをも選択することができる。例えば、真空チャンバ中にRCA洗浄等の洗浄をした単結晶シリコン基板11及び/または透明絶縁性層15を形成した金属基板12を載置し、プラズマ用ガスを導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度晒し、少なくとも、工程eで貼り合わせようとする側の表面、すなわち、単結晶シリコン基板11ではイオン注入面13、透明絶縁性層15を形成した金属基板12では透明絶縁性層15の表面をプラズマ処理する。プラズマ用ガスとしては、特に限定されるものではなく、単結晶シリコン基板を処理する場合、表面を酸化する場合には酸素ガスのプラズマ、酸化しない場合には水素ガス、アルゴンガス、またはこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスを用いることができる。金属基板12上の透明絶縁性層15を処理する場合はいずれのガスでもよい。
【0040】
オゾンで処理をする場合は、大気を導入したチャンバ中にRCA洗浄等の洗浄をした単結晶シリコン基板11及び/または透明絶縁性層15を形成した金属基板12を載置し、窒素ガス、アルゴンガス等のプラズマ用ガスを導入した後、高周波プラズマを発生させ、大気中の酸素をオゾンに変換することで、少なくとも上記表面活性化処理する表面をオゾン処理する。プラズマ処理とオゾン処理とはどちらか一方又は両方行ってもよい。
【0041】
このプラズマ処理やオゾン処理等の表面活性化処理により、単結晶シリコン基板11及び/または金属基板12上の透明絶縁性層15の表面の有機物が酸化して除去され、さらに表面のOH基が増加し、活性化する。この表面活性化処理は単結晶シリコン基板11、金属基板12上の透明絶縁性層15の表面の両方ともに行なうのがより好ましいが、いずれか一方だけ行なってもよい。
【0042】
次に、単結晶シリコン基板11のイオン注入面13と金属基板12上の透明絶縁性層15の表面とを貼り合わせる(工程e)。
工程dにおいて、単結晶シリコン基板のイオン注入面13または金属基板12上の透明絶縁性層15の表面の少なくとも一方が表面活性化処理されているので、両者を例えば減圧または常圧下、室温〜250℃程度、好ましくは室温程度の温度下で密着させるだけで後工程での機械的剥離に耐え得る強度で強く接合できる。
この貼り合わせ工程は、室温から250℃前後までの温度条件で行うものとし、300℃以上の高温の熱処理は行わない。単結晶シリコン基板11と、金属基板12上の透明絶縁性層15を貼り合わせた状態で300℃以上の高温熱処理を行うと、それぞれの層の熱膨張係数の違いから、熱歪、ひび割れ、剥離等が発生するおそれがあるためである。このように、300℃以上の高温熱処理を行わないようにすることは、後述する工程fの単結晶シリコン基板11の剥離転写が終了するまでは同様である。
【0043】
次に、イオン注入層14に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板11を機械的に剥離して、単結晶シリコン層17とする(工程f)。
本発明においてはイオン注入層に衝撃を与えて機械的剥離を行うので、加熱に伴う熱歪、ひび割れ、剥離等が発生するおそれがない。イオン注入層に衝撃を与えるためには、例えばガスや液体等の流体のジェットを接合したウエーハの側面から連続的または断続的に吹き付ければよいが、衝撃により機械的剥離が生じる方法であれば特に限定はされない。
【0044】
なお、単結晶シリコン基板の機械剥離の際に、少なくとも金属基板の背面に補助基板を密着させて単結晶シリコン基板の剥離を行うことが望ましい。このように補助基板を用いて機械剥離を行えば、剥離転写されたシリコン単結晶層17において、反りによる微小な亀裂及びこれによる結晶欠陥の発生を防止し、太陽電池の変換効率の低下を防止することができる。両者の基板が1mm程度以下の厚さのように薄い場合にはこの方法による効果が顕著である。例えば、金属基板の厚さが1mm未満の場合には、補助基板を用い、金属基板と補助基板の総計の厚さを1mm以上として剥離を行う。補助基板は剛性が高いものを用いることが好ましい。
【0045】
また、単結晶シリコン基板の剥離転写を行った後、単結晶シリコン層17の表面付近におけるイオン注入ダメージを回復するための熱処理を行ってもよい。この時点では既に単結晶シリコン基板11は剥離転写され、薄膜の単結晶シリコン層17となっているため、熱処理を300℃以上で行っても亀裂やそれに伴う欠陥は新たにほとんど導入されない。また、このことは以降の工程でも同様である。
【0046】
次に、単結晶シリコン層17の剥離面側に、工程aで用意した単結晶シリコン基板の導電型である第一導電型とは異なる導電型である第二導電型の拡散領域22を複数形成する。このとき、少なくとも面方向にpn接合を複数形成する(pn接合界面の法線が単結晶シリコン層17の面方向を向く成分を少なくとも有する)ようにし、単結晶シリコン層17の剥離面部には、複数の第一導電型領域21と複数の第二導電型領域22とが存在するようにする(工程g)。
【0047】
工程aで用意した単結晶シリコン基板11がp型単結晶シリコンであった場合には、第一導電型はp型であり、第二導電型としてn型の拡散領域を形成する。一方、n型の単結晶シリコンであった場合には、第一導電型はn型であり、第二導電型としてp型の拡散領域を形成する。具体的な複数の第二導電型の拡散領域の形成方法は例えば以下のようにすることができる。工程aで用意した単結晶シリコン基板11がp型であった場合には、単結晶シリコン層17の表面にリンの元素イオンを複数の領域(例えば複数の平行線状の領域)にイオン注入法で注入し、これに、フラッシュランプアニールまたは単結晶シリコン層表面での吸収係数の高い紫外線、深紫外線のレーザー照射等を行い、ドナーの活性化処理を行うことで複数のpn接合を形成することができる。このとき、複数のn型の拡散領域同士が重なって単一の領域とならないように、イオン注入量、拡散時間及び拡散温度等を適宜調節することが望ましい。また、このような複数のpn接合の形成は、ドナーを形成するリンを含むペースト状の組成物を作成し、これを単結晶シリコン層17表面上の複数の領域(例えば複数の平行線状の領域)にスクリーン印刷法などにより塗布し、これをフラッシュランプアニールまたは単結晶シリコン層表面での吸収係数の高い紫外線、深紫外線のレーザー照射、赤外線加熱炉等で拡散及び活性化処理を行うことであってもよい。
【0048】
なお、第二導電型領域22は、単結晶シリコン層17の金属基板12との接合界面まで達するように形成してもよい。
また、第二導電型の拡散領域を複数形成する一方、該複数の第二導電型の拡散領域の間に、第一導電型の高濃度拡散領域を形成してもよい。例えば、上記のp型のシリコン基板に複数の領域にリンなどを拡散してn型の拡散領域を形成する場合、硼素などのアクセプターを形成する元素を、上記の複数のn型の拡散領域の間に同様の手法により拡散及び活性化処理して複数のp領域を形成してもよい。
【0049】
次に、単結晶シリコン層17の複数の第一導電型領域21上にそれぞれ複数の第一の個別電極23を形成し、複数の第二導電型領域22上にそれぞれ複数の第二の個別電極24を形成する(工程h)。
例えば、単結晶シリコン層17の表面に、金属または透明導電性材料を用いて、真空蒸着法または化成スパッタ法等により、複数の第一導電型領域21上にそれぞれ複数の第一の個別電極23を形成し、複数の第二導電型領域22上にそれぞれ複数の第二の個別電極24を形成する。また、金属等を含むペースト状の個別電極形成用組成物を上記所定の領域に印刷法などにより塗布し、熱処理によって硬化させる方法等であってもよく、種々の公知の方法を採用することができる。
なお、このとき、第一の個別電極23が第二導電型領域22に接合しないようにし、第二の個別電極24が第一導電型領域21に接合しないようにする。
【0050】
なお、工程gの拡散領域形成工程と、工程hの個別電極形成工程とは、以下のようにして同時に行うことができる。すなわち、ドナー或いはアクセプターとなるドーパント材料を含有する電極形成用組成物を印刷法或いはインクジェット法により所定の領域に塗布し、熱処理することにより複数の電極を硬化形成するとともにドーパントを拡散させる形態としてもよい。この場合の熱処理も、上記のフラッシュランプアニールまたは単結晶シリコン層表面での吸収係数の高い紫外線、深紫外線のレーザー照射、赤外線加熱炉等によって行うことができる。
【0051】
それぞれの個別電極形成用組成物の塗布間隔は10μm以上とすることができ、100μm以上とすることもできる。本発明に係る単結晶シリコン層17は結晶粒界がなく、光生成キャリアの移動度及びライフタイムは通常の単結晶シリコン基板と同等であるため、個別電極形成用組成物の間隔を、多結晶シリコン薄膜及び非晶質シリコン薄膜のそれより拡げることが可能である。
【0052】
次に、複数の第一の個別電極23をつなぐ第一の集電電極25及び複数の第二の個別電極24をつなぐ第二の集電電極26を形成する(工程i)。
このときの結線の態様は特に限定されないが、第一の集電電極25が、第二導電型領域22や第二の個別電極24に接触しないようにし、第二の集電電極26が、第一導電型領域21や第一の個別電極23に接触しないようにする。
このように第一の集電電極25と第二の集電電極26を形成することで、複数の第一の個別電極23、複数の第二の個別電極24で収集された電子及びホールを効率よく取り出すことができる。
【0053】
次に、複数の第一導電型領域21及び複数の第二導電型領域22を覆う透明保護膜27を形成する(工程j)。
この透明保護膜27は、第一の個別電極23及び第一の集電電極25と、第二の個別電極24及び第二の集電電極26とが短絡しないように絶縁性のものとする。単結晶シリコン層17上に形成した各種電極を埋め込むようにして透明保護膜27を形成する。なお、図1(j)では第一の集電電極25と第二の集電電極26の図示を省略している。
なお、透明保護膜27の材料は特に限定されないが、可視光の透過率が高いものが望ましい。例えば、酸化珪素や窒化珪素、酸化アルミニウム等とすることができる。また、透明保護膜27を形成する方法も特に限定されない。例えば、上記の酸化珪素や窒化珪素、酸化アルミニウム等であれば、各種CVD法や、反応性スパッタ法等の堆積法により透明保護膜27を形成することができる。
【0054】
そして、工程a〜jにより製造された単結晶シリコン太陽電池は、製造の際に熱歪、接合面の剥離、ひび割れ等が発生しておらず、薄くて良好な膜厚均一性を有し、結晶性に優れた単結晶シリコン層を有する薄膜単結晶シリコン太陽電池31である。なお、受光面は透明保護膜27側となり、金属基板12が裏面反射層となる。
【0055】
太陽電池の変換効率を向上させるには、光が入射する側、及び裏面反射する側において光散乱を生じさせる構造とすることが一つの手段である。このような光散乱を生じさせる構造とするには、例えば、透明保護膜27や透明絶縁性層15が光散乱性を有するものとすることにより実現することができる。
【0056】
例えば、透明絶縁性層15を、内部に高屈折率の光散乱性粒子を含むか、或いは微小な空孔を内部に有するものとすることで、太陽電池動作時における光の入射光路が単結晶シリコン層の裏面側で散乱され、単結晶シリコン層に入射する光の光路長をさらに伸ばすことができ、単結晶シリコン層により多くの光を吸収させることができる光閉じ込め構造とすることができる。その結果、太陽電池の変換効率を向上させることができる。このとき、光散乱性の微粒子の場合は0.1μm程度以上の大きさを有し、微小な空孔の場合は0.1μm程度以上であることが望ましい。高屈折率の光散乱性微粒子の材料としては、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化ハフニウムなどが選択できる。
【0057】
また、同様に、透明保護膜27中に0.1μm程度以上の屈折率の異なる微小透明粒子を含む構造としたり、微小な空孔を含む構造とすることにより、透明保護膜27が光散乱性を有するようにすることができる。
なお、透明保護膜27や透明絶縁性層15の全ての領域が光散乱性を有する必要はなく、一部が光散乱性を有するようにしてもよい。例えば、透明保護膜27の表面を0.1μm程度以上の凹凸を有する粗面とすることなどによって光散乱性を付加することができる。
【0058】
なお、上記の光散乱を生じさせる構造を形成する各種の方法は、それぞれ組み合わせて行うことができる。
【0059】
なお、工程fで単結晶シリコン層17を剥離転写した後の残りの単結晶シリコン基板は、剥離後の粗面およびイオン注入層を研磨により平滑化および除去処理を行い、繰り返しイオン注入処理を行うことで、再び、単結晶シリコン基板11として利用することができる。本発明の単結晶シリコン太陽電池の製造方法では、イオン注入工程から剥離工程において、単結晶シリコン基板を350℃以上に加熱する必要がないため、酸素誘起欠陥が単結晶シリコン基板に導入されるおそれがない。そのため、最初に1mm弱の厚さの単結晶シリコン基板を用いた場合には、単結晶シリコン層17の膜厚を5μmとする場合には、100回以上剥離転写することも可能となり、50μmとする場合でも10回以上剥離転写を繰り返すことが可能となる。
【0060】
このような製造方法によって製造された単結晶シリコン太陽電池31は、図2(a)に構造の概略を示し、図2(b)に電極の結線パターンを模式的に示したように、金属基板12と、透明絶縁性層15と、単結晶シリコン層17と、透明保護膜27とが順次積層され、単結晶シリコン層17は、透明保護膜27側の面(剥離面)に、複数の第一導電型領域21と複数の第二導電型領域22とが形成され、少なくとも面方向にpn接合が複数形成されている(pn接合界面の法線が単結晶シリコン層17の面方向を向く成分を少なくとも有する)ものであり、単結晶シリコン層17の複数の第一導電型領域21上にはそれぞれ複数の第一の個別電極23が形成され、複数の第二導電型領域22上にはそれぞれ複数の第二の個別電極24が形成されており、複数の第一の個別電極23をつなぐ第一の集電電極25及び複数の第二の個別電極24をつなぐ第二の集電電極26が形成されているものである。
【0061】
このような構造を有する太陽電池31においては、透明保護膜27側から光が入射し、単結晶シリコン層17で光が一部吸収されてpn接合により電力に変換され、各電極によって電力が取り出される。
【0062】
また、単結晶シリコン太陽電池31は、透明保護膜27側とは反対側に金属基板12を有しているので、透明保護膜27側から入射した光の一部が単結晶シリコン層17で吸収されずに透過しても金属基板12によって反射され、再び単結晶シリコン層17内を通過させることができ、全体としての光吸収率を高めることができる。特に、金属基板が、例えば、SUS304等のステンレス基板、アルミニウム基板、銀蒸着ステンレス基板等のように、可視光に対して60%以上の反射率を有するものであれば、薄膜単結晶シリコン層を透過した可視光が金属基板界面で高効率で反射され、再び該薄膜単結晶シリコン層で吸収されて光電変換される太陽電池とすることができる。光変換層として光吸収率がアモルファスシリコンに比べて格段に低い単結晶シリコン層を用いて、非常に薄いものとした薄膜単結晶シリコン太陽電池において変換効率を高めるためには、このような裏面反射板(金属基板)等のいわゆる光閉じ込め構造が有効となる。
【0063】
さらに、上記したような方法により、透明保護膜27が光散乱性を有するものであったり、透明絶縁性層15が光散乱性を有するものであったりする構造とすれば、光が散乱されることによって、単結晶シリコン層17に入射する光の光路長をさらに延ばすことができ、単結晶シリコン層17により多くの光を吸収させることができる光閉じ込め構造とすることができる。その結果、太陽電池の変換効率を向上させることができる。
【0064】
また、金属基板を薄いフィルム状、薄板状の可撓性を有する基板とすることで、曲面状に広げたり、ロール状に収納したりでき、必要に応じて広げて利用できる太陽電池とすることができる。
【0065】
また、上記したような方法等により、単結晶シリコン層17が2μm以上50μmである単結晶シリコン太陽電池とすれば、薄膜単結晶シリコン太陽電池として実用的な効率が得られるとともに、使用する珪素原料の量を十分に節約できる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。
(実施例1)
単結晶シリコン基板11として、直径200mm(8インチ)、結晶面(100)、p型、面抵抗15Ωcmの単結晶シリコン基板を用意した。また、金属基板12として、厚さ200μm、直径200mmのステンレス(SUS304)に銀を蒸着法により20nm蒸着させた基板(銀蒸着ステンレス基板)を用意した(工程a)。
次に、単結晶シリコン基板の一方の主表面(後の工程でイオン注入する面13)をCMP研磨により、表面の粗さを0.5nm以下とした。次に、この研磨した表面13に、加速電圧350keVで水素プラスイオンをドーズ量1.0×1017/cmの条件で注入した(工程b)。イオン注入層14の深さはイオン注入面13からおよそ3μmとなった。
【0067】
次に、上記で用意した銀蒸着ステンレス基板にプラズマCVD法により、テトラアルコキシシランを用いて、透明絶縁性層15として酸化珪素の薄膜を200nm形成した(工程c)。この酸化珪素の薄膜をCMP研磨により、表面の粗さを0.5nm以下とした。
【0068】
次に、単結晶シリコン基板11のイオン注入面13と金属基板12の透明絶縁性層15の表面とを、減圧プラズマ法により、窒素プラズマに15秒晒すことによって表面活性化処理を行った(工程d)。
次に、上記表面活性化処理を行った表面同士を貼り合わせ面として、単結晶シリコン基板11と透明絶縁性層15が形成された金属基板12とを強固に貼り合せた(工程e)。
【0069】
次に、接合界面近傍に高圧窒素ガスを吹き付けた後、該吹き付け面から剥離が開始するように、単結晶シリコン基板11を引き剥がすように機械的に剥離を行った(工程f)。このとき、単結晶シリコン基板11および金属基板12に背面から補助基板を吸着させた後剥離するようにした。
また、剥離転写された単結晶シリコン層17にフラッシュランプアニール法により表面が瞬間的に700℃となる条件で照射熱処理し、水素注入ダメージを回復した。
【0070】
単結晶シリコン層17の表面に、リンガラスを含むエチルセロソルブを増粘剤とする拡散用ペーストを用いて、スクリーン印刷法により線状の多数のパターンを印刷した。これにフラッシュランプにより瞬間的に表面が600℃以上となるように照射を行い、およそ1μmの接合深さのn型拡散領域22を複数形成した(工程g)。これにより、単結晶シリコン層17の表面には、p型領域21とn型領域22が交互に存在し、複数のpn接合が面方向に形成された。
【0071】
この拡散ペーストを弗酸及びアセトン、イソプロピルアルコールで除去洗浄後、真空蒸着法及びパターニング法により、電極材料を銀として、複数のp型領域21上にそれぞれ第一の個別電極23を、複数のn型領域22上にそれぞれ第二の個別電極24を形成した(工程h)。
【0072】
その後、さらに、電極材料を銀として、複数の第一の個別電極23を結線するように第一の集電電極25、複数の第二の個別電極24を結線するように第二の集電電極26をそれぞれ金属マスクを用いて真空蒸着法により形成した(工程i)。
次に、取り出し電極部分を除いた表面に、反応性スパッタ法により窒化珪素の皮膜(透明保護膜27)を形成した(工程j)。
【0073】
このようにして、図2(a)及び(b)に示すような、金属基板12、透明絶縁性層15、pn接合が形成された単結晶シリコン層17と、各種電極及び透明保護膜27が積層された薄膜単結晶シリコン太陽電池31を製造した。
【0074】
このようにして製造した単結晶シリコン太陽電池31に、ソーラーシミュレーターによりAM1.5で100mW/cmの光を照射し、変換効率を測定した。変換効率は12%であり、経時変化はなかった。
光変換層が3μmと非常に薄い薄膜単結晶シリコン太陽電池であるにも関わらず、高い変換効率が得られた。光変換層であるシリコン層が、結晶性の良い単結晶シリコンであり、裏面が金属の光反射層である光閉じ込め構造としたことによりこのような高い変換効率が得られたものと考えられる。
【0075】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的思想に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る単結晶シリコン太陽電池の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に係る単結晶シリコン太陽電池の一例を示す概略断面図であり、(a)は、各集電電極を省略した概略断面図であり、(b)は各集電電極の結線の様子を模式的に表した概略断面図である。
【符号の説明】
【0077】
11…単結晶シリコン基板、 12…金属基板、
13…イオン注入面、 14…イオン注入層、
15…透明絶縁性層、
17…単結晶シリコン層、
21…第一導電型領域、 22…第二導電型領域、
23…第一の個別電極、 24…第二の個別電極、
25…第一の集電電極、 26…第二の集電電極、
27…透明保護膜、
31…単結晶シリコン太陽電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、金属基板と、光変換層としての単結晶シリコン層と、透明保護膜とが積層され、前記透明保護膜側を受光面とする単結晶シリコン太陽電池を製造する方法であって、少なくとも、
金属基板と第一電導型の単結晶シリコン基板とを用意する工程と、
前記単結晶シリコン基板に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも一方を注入して、イオン注入層を形成する工程と、
前記金属基板上に、透明絶縁性層を形成する工程と、
前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記金属基板上の透明絶縁性層の表面とのうち少なくとも一方に表面活性化処理を行う工程と、
前記単結晶シリコン基板のイオン注入面と前記金属基板上の透明絶縁性層の表面とを貼り合わせる工程と、
前記イオン注入層に衝撃を与えて前記単結晶シリコン基板を機械的に剥離して、単結晶シリコン層とする工程と、
前記単結晶シリコン層の前記剥離面側に、前記第一導電型とは異なる導電型である第二導電型の拡散領域を複数形成し、少なくとも面方向にpn接合を複数形成するとともに前記単結晶シリコン層の前記剥離面に複数の第一導電型領域と複数の第二導電型領域とが存在するようにする工程と、
前記単結晶シリコン層の前記複数の第一導電型領域上にそれぞれ複数の第一の個別電極を形成し、前記複数の第二導電型領域上にそれぞれ複数の第二の個別電極を形成する工程と、
前記複数の第一の個別電極をつなぐ第一の集電電極及び前記複数の第二の個別電極をつなぐ第二の集電電極を形成する工程と、
前記複数の第一導電型領域及び複数の第二導電型領域を覆う透明保護膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記金属基板を、可視光に対して60%以上の反射率を有するものとすることを特徴とする請求項1に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記透明絶縁性層を、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記表面活性化処理を、プラズマ処理またはオゾン処理の少なくとも一方とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記イオン注入の深さを、イオン注入面から2μm以上50μm以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記透明絶縁性層を、光散乱性を有するものとすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記透明保護膜を、光散乱性を有するものとすることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池の製造方法によって製造されたことを特徴とする単結晶シリコン太陽電池。
【請求項9】
少なくとも、金属基板と、透明絶縁性層と、単結晶シリコン層と、透明保護膜とが順次積層され、前記単結晶シリコン層は、前記透明保護膜側の面に、複数の第一導電型領域と複数の第二導電型領域とが形成され、少なくとも面方向にpn接合が複数形成されているものであり、前記単結晶シリコン層の前記複数の第一導電型領域上にはそれぞれ複数の第一の個別電極が形成され、前記複数の第二導電型領域上にはそれぞれ複数の第二の個別電極が形成されており、前記複数の第一の個別電極をつなぐ第一の集電電極及び前記複数の第二の個別電極をつなぐ第二の集電電極が形成されているものであることを特徴とする単結晶シリコン太陽電池。
【請求項10】
前記金属基板は、可視光に対して60%以上の反射率を有するものであることを特徴とする請求項9に記載の単結晶シリコン太陽電池。
【請求項11】
前記透明絶縁性層は、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムのうち少なくとも一種を含むものであることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の単結晶シリコン太陽電池。
【請求項12】
前記単結晶シリコン層の膜厚は、2μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池。
【請求項13】
前記透明絶縁性層は、光散乱性を有するものであることを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池。
【請求項14】
前記透明保護膜は、光散乱性を有するものであることを特徴とする請求項9ないし請求項13のいずれか一項に記載の単結晶シリコン太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−258540(P2008−258540A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101781(P2007−101781)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】