説明

単結晶引き上げ装置

【課題】チョクラルスキー(Cz)法による単結晶引き上げ装置において、安価なるつぼの使用を可能とするとともに、るつぼ内の融液の温度勾配を緩くして、成長させた単結晶の歪みを抑制する。
【解決手段】単結晶引き上げ装置1は、サファイア単結晶からなるサファイアインゴット200を成長させるための加熱炉10を有している。断熱容器11の内側下方には、アルミナ融液300を収容するるつぼ20が配置されている。断熱容器11の内側且つるつぼ20の外側にあって、るつぼ20の壁部22を取り巻くように設けられた発熱体17を備えている。そして、発熱体17の内側且つるつぼ20の外側にあって、るつぼ20の壁部22を取り巻くように設けられ、発熱体17の構成材料がるつぼ20内のアルミナ融液300に混入するのを防止する遮蔽体18を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融液から単結晶を引き上げて成長させる単結晶引き上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(Cz法)を用いた単結晶引き上げ装置では、るつぼ内に収容され、るつぼを介して加熱される原料融液から、目的とする材料の単結晶の引き上げを行っている。
例えば、Cz法により単結晶を製造するには、まずるつぼに原料を充填し、高周波加熱法や抵抗加熱法によりるつぼを加熱し原料を溶解する。原料が溶解して原料融液となったところで、予め定められた結晶方位に切り出された種結晶を原料融液表面に接触させ、種結晶を予め定められた回転速度で回転させながら予め定められた速度で引き上げることで単結晶を成長させる。
このとき、イリジウム製のるつぼが多く用いられていた。しかし、イリジウム製のるつぼは高価であって、単結晶の製造コストを押し上げる要因になっていた。そこで、るつぼをイリジウムに比べ1/20程度と価格の低いモリブデン(Mo)製等にすることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、チャンバー内にMo製ルツボが設置され、該ルツボの外周には、筒状のカーボン製ヒータ及びカーボン製保温体が設置された単結晶サファイア引上装置が記載されている。
特許文献2には、るつぼに価格の低いモリブデン(Mo)又はタングステン(W)を用い、加熱室形成部材としてカーボンフェルト成形品及びカーボンフェルトが使用できるようにしたサファイア単結晶引上成長装置が記載されている。
特許文献3には、イリジウム製ルツボ(B)の内側に、モリブデン製又はタングステン製ルツボ(A)を互いに接触しないように設置して二重構造とし、ルツボ(B)を高温に加熱し、その輻射熱でルツボ(A)を間接的に加熱することで、ルツボ(A)に熱的ダメージを与えることなく、効率的に原料粉末を溶融でき、比較的安価なモリブデン製又はタングステン製ルツボ(A)を用いてもインクルージョンのない高品質なサファイア単結晶を成長させうるサファイア単結晶育成装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−247683号公報
【特許文献2】特開2005−1934号公報
【特許文献3】特開2008−7353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高周波加熱法を用いたCz法では、るつぼは、原料融液を保持する容器としての役割と、るつぼ自体が発熱して原料を溶解するヒータとしての役割とを兼ねている。このため、るつぼには、発熱した部分と発熱していない部分とが混在することになり、るつぼ内の融液の温度勾配が急峻になってしまっていた。このため、成長させた単結晶に歪みが生じてしまっていた。
そこで、特許文献3にあるように、るつぼを二重構造にし、間接的に加熱することが提案されている。しかし、特許文献3では、高価なイリジウム製のるつぼの使用を必要としていた。
本発明は、チョクラルスキー(Cz)法による単結晶引き上げ装置において、安価なるつぼの使用を可能とするとともに、るつぼ内の融液の温度勾配を緩くして、成長させた単結晶の歪みを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が適用される単結晶引き上げ装置は、底部および底部の周縁から立ち上がる壁部を有し、原料融液を収容するるつぼと、るつぼと近接するが接触せずにるつぼを包囲するように設けられた第1の筒状部材と、第1の筒状部材を包囲するように設けられた炭素または炭素を含む材料から構成される第2の筒状部材と、第2の筒状部材の外側に巻き回され、交流電流の供給によって第2の筒状部材を誘導加熱するコイルと、るつぼの上方に配置され、るつぼに収容される原料融液から柱状の単結晶を引き上げる引き上げ部材とを含んでいる。
そして、るつぼは、モリブデン(Mo)、モリブデン(Mo)を含む合金、タングステン(W)、あるいはタングステン(W)を含む合金で構成されることを特徴とすることができる。
また、第1の筒状部材は、タンタル(Ta)、タングステン(W)、またはこれらのうち少なくとも一種の元素の炭化物で構成されることを特徴とすることができる。
さらに、第2の筒状部材は、グラファイトで構成されることを特徴とすることができる。
【0007】
このような単結晶引き上げ装置において、るつぼは、原料融液としてアルミナ融液を収容し、引き上げ部材は、るつぼに収容されたアルミナ融液から柱状のサファイア単結晶を引き上げることを特徴とすることができる。
さらにまた、引き上げ部材は、るつぼに収容されたアルミナ融液からc軸方向に成長させた柱状のサファイア単結晶を引き上げることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チョクラルスキー(Cz)法による単結晶引き上げ装置において、安価なるつぼの使用を可能とするとともに、るつぼ内の融液の温度勾配を緩くすることができるので、成長させた単結晶の歪みが抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態が適用される単結晶引き上げ装置の構成の一例を説明するための図である。
【図2】単結晶引き上げ装置を用いて製造されるサファイアインゴットの構成の一例を示す図である。
【図3】るつぼ、発熱体および遮蔽体の構成の一例を示す斜視図である。
【図4】単結晶引き上げ装置を用いてサファイアインゴットを製造する手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(単結晶引き上げ装置1)
図1は、本実施の形態が適用される単結晶引き上げ装置1の構成の一例を説明するための図である。
この単結晶引き上げ装置1は、柱状の単結晶の一例としてのサファイア単結晶からなるサファイアインゴット200を成長させるための加熱炉10を有している。この加熱炉10は、円柱状の外形を有し、その内部には円柱状の空間が形成された断熱容器11を備えている。そして、断熱容器11は、ジルコニア製の断熱材からなる部品を組み立てることで構成されている。また、加熱炉10は、内部の空間に断熱容器11を収容するチャンバ14をさらに備えている。さらに、加熱炉10は、チャンバ14の側面に貫通形成され、チャンバ14の外部からチャンバ14を介して断熱容器11の内部にガスを供給するガス供給管12と、同じくチャンバ14の側面に貫通形成され、断熱容器11の内部からチャンバ14を介して外部にガスを排出するガス排出管13とを備えている。
【0011】
断熱容器11の内側下方には、酸化アルミニウム(Al)を溶融してなる原料融液の一例としてのアルミナ融液300を収容するるつぼ20が配置されている。るつぼ20は、鉛直上方に向かって開口する形状を有している。このるつぼ20は、底部21と、底部21の周縁から上方に立ち上がる壁部22とを有している。るつぼ20は、例えばモリブデン(Mo)製である。
【0012】
また、断熱容器11の内側下方且つるつぼ20の底部21の下には、円板状の外形を有するるつぼ支持台15が配置されている。このるつぼ支持台15は、るつぼ20と同様にモリブデン製であってよい。そして、このるつぼ支持台15は、断熱容器11の内側底面からシャフト16によって支持されている。このシャフト16も、るつぼ20およびるつぼ支持台15と同様にモリブデン製であってよい。このように、るつぼ20はるつぼ支持台15およびシャフト16によって、断熱容器11の内側底面から支持されている。
【0013】
さらに、断熱容器11の内側且つるつぼ20の外側にあって、るつぼ20の壁部22を取り巻くように設けられた、第2の筒状部材の一例としての発熱体17を備えている。発熱体17は、例えばグラファイト(黒鉛)等のカーボン(炭素)製である。
そして、発熱体17の内側且つるつぼ20の外側にあって、るつぼ20の壁部22を取り巻くように設けられ、発熱体17の構成材料が、るつぼ20内のアルミナ融液300に混入するのを防止する第1の筒状部材の一例としての遮蔽体18を備えている。遮蔽体18の構成材料としては、例えば金属のタンタル(Ta)、金属のタングステン(W)、またはこれらのうち少なくとも一種の元素の炭化物が挙げられる。中でも、遮蔽体18は炭化タンタル(タンタルカーバイド:TaC)製であることが好ましい。
すなわち、るつぼ20の外側の側面は、筒状の遮蔽体18と、さらにその遮蔽体18の外側に設けられた発熱体17とで取り囲まれている。
【0014】
なお、るつぼ20と遮蔽体18とは、近接して配置されるが、接触しないように設けられている。一方、発熱体17と遮蔽体18とは、密着して設けられている。なお、発熱体17と遮蔽体18とは、それぞれ部材により断熱容器11の内側底面または内側上面から固定されている(不図示)。
るつぼ20、遮蔽体18、発熱体17については、後に詳述する。
【0015】
さらに、加熱炉10は、断熱容器11の下部側の側面外側であってチャンバ14の下部側の側面内側となる部位に巻き回された金属製の加熱コイル30を備えている。この加熱コイル30は、断熱容器11を介して発熱体17の側面と対向するように配置されている。
加熱コイル30は、例えば中空状の銅管によって構成されている。また、加熱コイル30は螺旋状に巻き回されており、全体としてみたときに円筒状の形状を有している。すなわち、加熱コイル30の上部側の内径と下部側の内径とがほぼ同一になっている。これにより、巻き回された加熱コイル30によってその内部に形成される空間が円柱状となっている。また、円柱状の空間を通る加熱コイル30の中心軸は、水平方向に対しほぼ垂直すなわち鉛直方向に沿うようになっている。
【0016】
さらにまた、加熱炉10は、断熱容器11、チャンバ14それぞれの上面に設けられた貫通孔を介して上方から下方に伸びる引き上げ部材の一例としての引き上げ棒40を備えている。この引き上げ棒40は、鉛直方向への移動および軸を中心とする回転が可能となるように取り付けられている。なお、チャンバ14に設けられた貫通孔と引き上げ棒40との間には、不図示のシール材が設けられている。そして、引き上げ棒40の鉛直下方側の端部には、サファイアインゴット200を成長させるための基となる種結晶210(後述する図2参照)を装着、保持させるための保持部材41が取り付けられている。
【0017】
また、単結晶引き上げ装置1は、引き上げ棒40を鉛直上方(矢印A方向)に引き上げるための引き上げ駆動部50および引き上げ棒40を矢印B方向へ回転させるための回転駆動部60を備えている。ここで、引き上げ駆動部50はモータ等で構成されており、引き上げ棒40の矢印A方向への引き上げ速度を調整できるようになっている。また、回転駆動部60もモータ等で構成されており、引き上げ棒40の矢印B方向への回転速度を調整できるようになっている。
【0018】
さらに、単結晶引き上げ装置1は、ガス供給管12を介してチャンバ14の内部にガスを供給するガス供給部70を備えている。本実施の形態において、ガス供給部70は、例えば窒素、アルゴン等の不活性ガスを供給することができる。そして、ガス供給部70は、チャンバ14の内部に供給するガスの流量を調整することも可能となっている。
【0019】
一方、単結晶引き上げ装置1は、ガス排出管13を介してチャンバ14の内部からガスを排出する排気部80を備えている。排気部80は例えば真空ポンプ等を備えており、チャンバ14内の減圧や、ガス供給部70から供給されたガスの排気をすることが可能となっている。
【0020】
さらにまた、単結晶引き上げ装置1は、加熱コイル30に高周波の交流電流(以下の説明では高周波電流と呼ぶ。)を供給するコイル電源90を備えている。コイル電源90は、加熱コイル30への高周波電流の供給の有無および供給する電流量、さらには加熱コイル30に供給する高周波電流の周波数を設定できるようになっている。
【0021】
また、単結晶引き上げ装置1は、引き上げ棒40を介して引き上げ棒40の下部側に成長するサファイアインゴット200の重量を検出する重量検出部110を備えている。この重量検出部110は、例えば従来公知のロードセル等を含んで構成される。
【0022】
そして、単結晶引き上げ装置1は、上述した引き上げ駆動部50、回転駆動部60、ガス供給部70、排気部80およびコイル電源90の動作を制御する制御部100を備えている。また、制御部100は、重量検出部110から出力される重量信号に基づき、引き上げられるサファイアインゴット200の結晶直径の計算を行い、コイル電源90にフィードバックする。
【0023】
(サファイアインゴット200)
図2は、図1に示す単結晶引き上げ装置1を用いて製造されるサファイアインゴット200の構成の一例を示す図である。
このサファイアインゴット200は、サファイアインゴット200を成長させるための基となる種結晶210と、種結晶210の下部に延在しこの種結晶210と一体化した肩部220と、肩部220の下部に延在し肩部220と一体化した直胴部230と、直胴部230の下部に延在し直胴部230と一体化した尾部240とを備えている。そして、このサファイアインゴット200においては、上方すなわち種結晶210側から下方すなわち尾部240側に向けてc軸方向にサファイアの単結晶が成長している。
【0024】
ここで、肩部220は、種結晶210側から直胴部230側に向けて、徐々にその直径が拡大していく形状を有している。また、直胴部230は、上方から下方に向けてその直径がほぼ同じとなるような形状を有している。なお、直胴部230の直径は、所望するサファイア単結晶のウエハの直径よりもわずかに大きな値に設定される。そして、尾部240は、上方から下方に向けて徐々にその直径が縮小していくことにより、上方から下方に向けて凸状となる形状を有している。なお、図2には、尾部240が直胴部230の下方に突出する凸状の形状を有している例を示しているが、製造条件を異ならせた場合には、図2に破線で示すように直胴部230の下方において窪む凹状の形状を有していることもある。
【0025】
なお、本実施の形態において、c軸方向に結晶成長させたサファイアインゴット200を製造しているのは、次の理由による。
一般的に、青色LEDの基板材料や液晶プロジェクタの偏光子の保持部材等では、サファイア単結晶のc軸に垂直な面((0001)面)が主面となるように、インゴットから切り出されたウエハが用いられることが多い。したがって、歩留まりの観点からすれば、c軸方向に結晶成長させたサファイア単結晶のインゴットをウエハの切り出しに用いることが好ましい。このため、本実施の形態では、このような後工程での利便性を考慮し、c軸方向に結晶成長させたサファイアインゴット200の製造を行っている。
【0026】
ただし、図1に示す単結晶引き上げ装置1は、c軸方向に結晶成長させたサファイアインゴット200だけでなく、例えばa軸方向に結晶成長させたサファイアインゴット200を引き上げることも可能である。また、サファイアに限らず、各種の酸化物単結晶を引き上げることも可能であり、さらには酸化物以外の単結晶を引き上げることも可能である。
【0027】
(るつぼ20、発熱体17および遮蔽体18)
図3は、図1に示するつぼ20、発熱体17および遮蔽体18の構成の一例を示す斜視図である。
以下では、るつぼ20、発熱体17および遮蔽体18の位置関係を説明する。
【0028】
<るつぼ20>
最初に、るつぼ20の構成について説明する。
本実施の形態では、るつぼ20はモリブデンによって構成されている。るつぼ20は、実質的にモリブデン材料のみからなるもの、あるいはタングステン(W)材料のみからなるものでよい。この他に、モリブデンとタングステンとの合金(Mo−W)、さらにはニオブデン、タンタルなど他の金属元素を含有するものであってもよい。モリブデンとタングステンとの合金(Mo−W)製であれば、タングステンを10質量%〜40質量%含有するものが好ましい。これらを用いたるつぼ20は、いずれであっても、イリジウム製に比べ安価である。
【0029】
底部21は円形状を有しており、全域にわたってほぼ均一な厚さ(例えば2mm〜7mm程度)となっている。また、壁部22は円筒形状を有しており、こちらも全域にわたってほぼ均一な厚さ(例えば2mm〜7mm程度)となっている。
なお、るつぼ20の内径は、成長させようとする単結晶の直径で決まる。例えば、直径約150mm(約6インチ)のサファイア単結晶を育成する場合には、るつぼ20の内径は、約220mmである。
【0030】
<発熱体17>
次に、発熱体17について説明する。発熱体17は、加熱コイル30に供給された高周波電流によって生じた磁束の一部が、断熱容器11を介して発熱体17を横切ると、発熱体17の壁面にはその磁界の変化をさまたげるような磁界が発生し、結果として発熱体17内には渦電流が発生する。そして、発熱体17には、渦電流(I)によって発熱体17の表皮抵抗(R)に比例したジュール熱(W=IR)が発生し、発熱体17が発熱する(誘導加熱)。よって、発熱体17は、電気抵抗がある程度高いことが好ましい。
また、発熱体17は、るつぼ20に投入された原料を加熱溶解するために設けられているので、るつぼ20に投入された原料の融点付近の温度において安定であることを要する。例えば、アルミナの融点は2040℃程度であって、アルミナ融液300の温度は2100℃から2400℃に加熱される。
【0031】
グラファイトは融点が3500℃以上と十分な耐熱性を有している。さらに、グラファイトは効率よく誘導加熱を生じる電気抵抗を有している。
よって、本実施の形態では、グラファイトを発熱体17として用いている。なお、発熱体17は、グラファイトに限らず、上記要件を満たすものであればよく、カーボン(炭素)を含む材料であることが好ましい。
発熱体17の厚さは、コイル電源90から供給される高周波電流の周波数に影響を受けるので、本発明においては5mm〜30mmの範囲がよい。30mmよりも厚すぎると発熱体17による発熱効率が低下する。すなわち、発熱体17が厚くなりすぎると発熱しない部分が生じ、これに熱が奪われるため、発熱体17の発熱効率がよくない。また、5mmよりも薄すぎると、発熱体17による発熱効率が低下する。すなわち、発熱体17が薄くなりすぎると発熱する部分が少なくなるので加熱コイル30に供給された高周波電流が発熱量に反映しにくくなる。発熱体17の厚さは、好ましくは10mm〜20mmである。
【0032】
なお、グラファイトは、剥離しやすいと共に、上記2100℃から2400℃に加熱されると、蒸気圧を持つようになる。そして、カーボンガス及びカーボンガスが固化したカーボン粒子が発生する。この発生したカーボンガス及びカーボン粒子がるつぼ20内のアルミナ融液300に混入すると、サファイア単結晶に取り込まれ、結晶欠陥となってしまう。また、カーボンガス及びカーボン粒子は、アルミナ融液300を還元して、酸素(O)や一酸化炭素(CO)を生成する。このため、るつぼ20のモリブデンと反応し、昇華性に富むモリブデンの酸化物を生成する。これにより、るつぼ20が腐食し、るつぼ20の寿命を短くしてしまう。
【0033】
<遮蔽体18>
遮蔽体18は、るつぼ20の外側の壁部22と発熱体17との間にあって、発熱体17構成材料(例えば、発熱体17がグラファイトの場合にはカーボンガス及びカーボン粒子)が、るつぼ20内のアルミナ融液300に混入するのを防止する。このため、遮蔽体18は、るつぼ20に投入された原料の融点付近の温度において安定であることを要するとともに、例えば、発熱体17がグラファイトの場合にはカーボンガス及びカーボン粒子により分解されないことが好ましい。
【0034】
炭化タンタルは、融点が3873℃と高く、高温で安定した炭化物材料である。よって、カーボンガス及びカーボン粒子により分解することがない。そこで、本実施の形態では、炭化タンタルを用いている。なお、遮蔽体18は、炭化タンタルに限らず、上記要件を満たすものであればよく、炭化物を含む材料であることが好ましい。
【0035】
るつぼ20と遮蔽体18とは、近接して配置されるが、接触しないように設けられている。遮蔽体18は、発熱体17からの熱伝導または熱輻射により加熱されているので、るつぼ20と遮蔽体18とが接触すると、るつぼ20の接触した部分の温度が高くなって、るつぼ20内のアルミナ融液300の温度勾配が急峻になってしまう。
一方、発熱体17と遮蔽体18とは、接触していてもかまわないが、局部的に発熱体17と遮蔽体18とが接触すると、その部分が高温になってしまう。そこで、発熱体17と遮蔽体18と密着させるか、接触しないで近接して配置することが好ましい。
遮蔽体18の厚さは、0.1mm〜10mmの範囲がよい。厚さが10mmよりも厚すぎると、加工し難くなりまたコストアップとなる。また、厚さが0.1mmよりも薄すぎると、遮蔽体18としての強度が脆くなり単結晶引き上げ装置1内からの取出し時(ハンドリング時)に破損するおそれがあり、強度面の信頼性がなくなる。遮蔽体18の厚さは、好ましくは0.3mm〜5mmの範囲である。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態では、加熱コイル30によって、発熱体17が加熱され、発熱体17に密着または近接して配置された遮蔽体18が、発熱体17からの熱伝導および/または熱輻射によって加熱される。そして、遮蔽体18に近接して配置されたるつぼ20が、加熱された遮蔽体18からの熱輻射によって加熱される。本実施の形態では、るつぼ20はアルミナ融液300を保持する容器としての役割のみを担い、ヒータとしての役割は発熱体17に担わせている。すなわち、るつぼ20は、間接的に加熱されていることになる。
本実施の形態においては、るつぼ20が間接的に加熱されるため、誘導加熱によってるつぼ20にヒータとしての役割も担わせる場合に比べ、るつぼ20内のアルミナ融液300の温度勾配が緩和される。これにより、育成される単結晶における歪みの発生が抑制されることになる。
【0037】
発熱体17の側面の長さは、るつぼ20の壁部22の長さよりも短くても構わないが、好ましくはるつぼ20の壁部22の長さまたはそれ以上であって、発熱体17の上端および下端がそれぞれるつぼ20の上端および下端よりはみ出して設定されているのが、るつぼ20を加熱する効率の点でよい。本実施の形態では、るつぼ20と発熱体17との間には遮蔽体18が介在しているが、遮蔽体18の熱容量が小さいため、遮蔽体18はるつぼ20を加熱する十分な熱源となり得ない。したがって、るつぼ20を加熱する熱の大部分は発熱体17から供給される。そこで、筒状の発熱体17の側面の長さが、るつぼ20の壁部22の長さ(るつぼ20の高さ)より短いと、るつぼ20の壁部22の上部または/および下部において、発熱体17(遮蔽体18を含む)からの十分な熱輻射が受けられず、るつぼ20、強いてはアルミナ融液300に急峻な温度勾配を生じるおそれがある。
【0038】
一方、遮蔽体18は、発熱体17の構成材料(例えば、発熱体17がグラファイトの場合にはカーボンガス及びカーボン粒子)がるつぼ20内に混入するのを防止するために設けられている。この観点から、遮蔽体18の上端は、発熱体17の上端よりも高く設定される。すなわち、遮蔽体18の上端は、発熱体17の上端よりも高いことが好ましい。なお、遮蔽体18の上端は、るつぼ20の側壁22の上端よりも低くてもよいが、るつぼ20の側壁22の上端の高さまたはそれ以上の高さに設けるのがさらに好ましい。一方、遮蔽体18の下端は、少なくとも、るつぼ20の側壁22の範囲内にあればよく、るつぼ20の側壁22の下端より低く設定されてもよい。同様に、遮蔽体18の下端は、発熱体17の側面の範囲内にあればよく、発熱体17の下端より低く設定されてもよい。すなわち、遮蔽体18は、鉛直上方に向かって設けられたるつぼ20の開口部分において、るつぼ20と発熱体17とを隔てるように設けられている。これは、発熱体17の構成材料のるつぼ20内のアルミナ融液300への混入が、鉛直上方に向かって設けられたるつぼ20の開口部分を介して生じるためであり、るつぼ20の開口部分において、遮蔽体18が発熱体17の構成材料の混入を抑制できればよいからである。
【0039】
(サファイアインゴット200の製造方法)
図4は、図1に示す単結晶引き上げ装置1を用いて、図2に示すサファイアインゴット200を製造する手順の一例を説明するためのフローチャートである。
サファイアインゴット200の製造にあたっては、まず、チャンバ14内のるつぼ20内に充填された固体の酸化アルミニウムを加熱によって溶融する溶融工程を実行する(ステップ101)。
次に、酸化アルミニウムの融液すなわちアルミナ融液300に種結晶210の下端部を接触させた状態で温度調整を行う種付け工程を実行する(ステップ102)。
次いで、アルミナ融液300に接触させた種結晶210を回転(図1の矢印B方向)させながら上方(図1の矢印A方向)に引き上げることにより、種結晶210の下方に肩部220を形成する肩部形成工程を実行する(ステップ103)。
引き続いて、種結晶210を介して肩部220を回転させながら上方に引き上げることにより、肩部220の下方に直胴部230を形成する直胴部形成工程を実行する(ステップ104)。
さらに引き続いて、種結晶210および肩部220を介して直胴部230を回転させながら上方に引き上げてアルミナ融液300から引き離すことにより、直胴部230の下方に尾部240を形成する尾部形成工程を実行する(ステップ105)。
そして、るつぼ20内のアルミナ融液300の加熱を停止して冷却する冷却工程を実行し(ステップ106)、得られたサファイアインゴット200が冷却された後にチャンバ14の外部に取り出して、一連の製造工程を完了する。
【0040】
なお、このようにして得られたサファイアインゴット200は、まず、肩部220と直胴部230との境界および直胴部230と尾部240との境界においてそれぞれ切断され、直胴部230が切り出される。次に、切り出された直胴部230は、さらに、長手方向に直交する方向に切断され、サファイア単結晶のウエハとなる。このとき、本実施の形態のサファイアインゴット200はc軸方向に結晶成長していることから、得られるウエハの主面はc面((0001)面)となる。そして、得られたウエハは、青色LEDや偏光子の製造等に用いられる。
【0041】
では、上述した各工程について具体的に説明を行う。ただし、ここでは、ステップ101の溶融工程の前に実行される準備工程から順を追って説明を行う。
【0042】
<準備工程>
準備工程では、まず、c軸(<0001>)の種結晶210を用意する。次に、引き上げ棒40の保持部材41に種結晶210を取り付け、所定の位置にセットする。続いて、るつぼ20内に酸化アルミニウムの原材料すなわちアルミナ原料を充填し、るつぼ20をるつぼ支持台15上に配置した後、チャンバ14内に断熱容器11を組み立てる。
そして、ガス供給部70からのガス供給を行わない状態で、排気部80を用いてチャンバ14内を減圧する。その後、ガス供給部70がチャンバ14内に所定のガスを供給し、チャンバ14の内部を常圧にする。
【0043】
<溶融工程>
溶融工程では、ガス供給部70が所定のガスをチャンバ14内に供給する。なお、溶融工程において供給するガスは、準備工程と同じものであってもよいし異なるものであってもよい。ただし、るつぼ20が例えばモリブデン等の酸化されやすい材料で構成されている場合には、ガス供給部70から供給するガスに酸素を混合することは好ましくない。
このとき、回転駆動部60は、引き上げ棒40を第1の回転速度で回転させる。
【0044】
また、コイル電源90が加熱コイル30に高周波電流を供給する。コイル電源90から加熱コイル30に高周波電流が供給されると、加熱コイル30の周囲において磁束が生成・消滅を繰り返す。
【0045】
このようにして加熱コイル30で生じた磁束の一部が、断熱容器11を介して発熱体17を横切ると、発熱体17の壁面にはその磁界の変化をさまたげるような磁界が発生し、結果として発熱体17内には渦電流が発生する。
そして、発熱体17からの熱輻射または熱伝導によって、遮蔽体18が加熱される。さらに、遮蔽体18からの熱輻射によってるつぼ20が加熱される。るつぼ20は熱伝導によって全体が加熱される。
【0046】
このようにして、るつぼ20の底部21および壁部22が加熱され、これに伴ってるつぼ20内に収容される酸化アルミニウムがその融点(2054℃)を超えて加熱されると、るつぼ20内においてアルミナ原料すなわち酸化アルミニウムが溶融し、アルミナ融液300となる。
【0047】
<種付け工程>
種付け工程では、ガス供給部70が、所定のガスをチャンバ14内に供給する。なお、種付け工程において供給するガスは、溶融工程と同じものであってもよいし異なるものであってもよい。ただし、溶融工程と同様に、酸素の混合は好ましくない。
そして、引き上げ駆動部50は、保持部材41に取り付けられた種結晶210の下端が、るつぼ20内のアルミナ融液300と接触する位置まで引き上げ棒40を下降させて停止させる。その状態で、コイル電源90は、重量検出部110からの重量信号をもとに加熱コイル30に供給する高周波電流の電流値を調節する。
【0048】
<肩部形成工程>
肩部形成工程では、コイル電源90が加熱コイル30に供給する高周波電流を調節したのち、アルミナ融液300の温度が安定するまでしばらくの間保持し、その後、引き上げ棒40を第1の回転速度で回転させながら第1の引き上げ速度にて引き上げる。
【0049】
すると、種結晶210は、その下端部がアルミナ融液300に浸った状態で回転されつつ引き上げられることになり、種結晶210の下端には、鉛直下方に向かって拡開する肩部220が形成されていく。
なお、肩部220の直径が所望とするウエハの直径よりも数mm程度大きくなった時点で、肩部形成工程を完了する。
【0050】
<直胴部形成工程>
直胴部形成工程では、ガス供給部70が所定のガスをチャンバ14内に供給する。なお、直胴部形成工程において供給するガスは、肩部形成工程と同じものであってもよいし異なるものであってもよい。ただし、溶融工程と同様に、酸素の混合は好ましくない。
また、コイル電源90は、引き続き加熱コイル30に高周波電流の供給を行い、るつぼ20を介してアルミナ融液300を加熱する。
さらに、引き上げ駆動部50は、引き上げ棒40を第2の引き上げ速度にて引き上げる。ここで第2の引き上げ速度は、肩部形成工程における第1の引き上げ速度と同じ速度であってもよいし、異なる速度であってもよい。
さらにまた、回転駆動部60は、引き上げ棒40を第2の回転速度で回転させる。ここで、第2の回転速度は、肩部形成工程における第1の回転速度と同じ速度であってもよいし、異なる速度であってもよい。
【0051】
種結晶210と一体化した肩部220は、その下端部がアルミナ融液300に浸った状態で回転されつつ引き上げられることになるため、肩部220の下端部には、好ましくは円柱状の直胴部230が形成されていく。直胴部230の直径は、所望とするウエハの直径以上であればよい。
【0052】
<尾部形成工程>
尾部形成工程では、ガス供給部70が所定のガスをチャンバ14内に供給する。なお、尾部形成工程において供給するガスは、直胴部形成工程と同じものであってもよいし異なるものであってもよい。ただし、溶融工程と同様に、酸素の混合は好ましくない。
また、コイル電源90は、引き続き加熱コイル30に高周波電流の供給を行い、るつぼ20を介したアルミナ融液300を加熱する。
さらに、引き上げ駆動部50は、引き上げ棒40を第3の引き上げ速度にて引き上げる。ここで第3の引き上げ速度は、肩部形成工程における第1の引き上げ速度あるいは直胴部形成工程における第2の引き上げ速度と同じ速度であってもよいし、これらとは異なる速度であってもよい。
さらにまた、回転駆動部60は、引き上げ棒40を第3の回転速度で回転させる。ここで、第3の回転速度は、肩部形成工程における第1の回転速度あるいは直胴部形成工程における第2の回転速度と同じ速度であってもよいし、これらとは異なる速度であってもよい。
なお、尾部形成工程の序盤において、尾部240の下端は、アルミナ融液300と接触した状態を維持する。
そして、所定の時間が経過した尾部形成工程の終盤において、引き上げ駆動部50は、引き上げ棒40の引き上げ速度を増速させて引き上げ棒40をさらに上方に引き上げさせることにより、尾部240の下端をアルミナ融液300から引き離す。これにより、図2に示すサファイアインゴット200が得られる。
【0053】
<冷却工程>
冷却工程では、ガス供給部70が所定のガスをチャンバ14内に供給する。なお、冷却工程において供給するガスは、尾部形成工程と同じものであってもよいし異なるものであってもよい。ただし、溶融工程と同様に、酸素の混合は好ましくない。
また、コイル電源90は、加熱コイル30への高周波電流の供給を停止し、るつぼ20を介したアルミナ融液300の加熱を中止する。
さらに、引き上げ駆動部50は引き上げ棒40の引き上げを停止させ、回転駆動部60は引き上げ棒40の回転を停止させる。
このとき、るつぼ20内には、サファイアインゴット200を形成しなかった酸化アルミニウムがアルミナ融液300として少量残存している。このため、加熱の停止に伴ってるつぼ20中のアルミナ融液300は徐々に冷却され、酸化アルミニウムの融点を下回った後にるつぼ20中で固化し、酸化アルミニウムの固体となる。
そして、チャンバ14内が十分に冷却された状態で、チャンバ14内からサファイアインゴット200が取り出される。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態では、加熱コイル30によりるつぼ20の壁部22を直接加熱することなく、るつぼ20を間接的に加熱している。このため、加熱コイル30によりるつぼ20の壁部22を直接加熱した場合に比べ、るつぼ20内の融液の温度勾配を緩和することができる。よって、急激な温度勾配によって成長させた単結晶に発生する歪みを抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…単結晶引き上げ装置、10…加熱炉、11…断熱容器、14…チャンバ、15…るつぼ支持台、16…シャフト、17…発熱体、18…遮蔽体、20…るつぼ、30…加熱コイル、40…引き上げ棒、41…保持部材、50…引き上げ駆動部、60…回転駆動部、70…ガス供給部、80…排気部、90…コイル電源、100…制御部、110…重量検出部、200…サファイアインゴット、210…種結晶、220…肩部、230…直胴部、240…尾部、300…アルミナ融液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部および底部の周縁から立ち上がる壁部を有し、原料融液を収容するるつぼと、
前記るつぼと近接するが接触せずに当該るつぼを包囲するように設けられた第1の筒状部材と、
前記第1の筒状部材を包囲するように設けられた炭素または炭素を含む材料から構成される第2の筒状部材と、
前記第2の筒状部材の外側に巻き回され、交流電流の供給によって当該第2の筒状部材を誘導加熱するコイルと、
前記るつぼの上方に配置され、当該るつぼに収容される前記原料融液から柱状の単結晶を引き上げる引き上げ部材と
を備えることを特徴とする単結晶引き上げ装置。
【請求項2】
前記るつぼは、モリブデン(Mo)、モリブデン(Mo)を含む合金、タングステン(W)、あるいはタングステン(W)を含む合金で構成されることを特徴とする請求項1に記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項3】
前記第1の筒状部材は、タンタル(Ta)、タングステン(W)、またはこれらのうち少なくとも一種の元素の炭化物で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項4】
前記第2の筒状部材は、グラファイトで構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項5】
前記るつぼは、前記原料融液としてアルミナ融液を収容し、
前記引き上げ部材は、前記るつぼに収容された前記アルミナ融液から柱状のサファイア単結晶を引き上げること
を特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の単結晶引き上げ装置。
【請求項6】
前記引き上げ部材は、前記るつぼに収容された前記アルミナ融液からc軸方向に成長させた前記柱状のサファイア単結晶を引き上げることを特徴とする請求項5に記載の単結晶引き上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−105575(P2011−105575A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265119(P2009−265119)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】