説明

単結晶引上装置の輻射シールド

【課題】単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できる単結晶引上装置の輻射シールドを提供する。
【解決手段】円筒状の直胴部6bと、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部に開口を形成する下肩部6cとを有し、育成する単結晶Cの直径をΦcry(mm)とすると、前記下肩部における断熱部材6dの下端部開口の厚さ寸法t1は、式(1)により規定され、前記直胴部における断熱部材の外側面を下方に延長した仮想線と、前記下肩部における断熱部材の下端部を含む水平面との交点から、水平面に対して45°の傾斜線を前記下肩部に向けてひいたとき、その断熱部材に対する交点における断熱部材の厚さ寸法t2は、式(2)により規定される。t1=0.1Φcry〜0.5Φcry・・・(1)t2≦2t1・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を育成しながら引き上げる単結晶引上装置が具備する輻射シールドに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、図7に示すように、ヒータ52の熱によりルツボ50内にシリコンの溶融液Mを形成し、その表面に種結晶Pを接触させ、ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pを反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
このCZ法を実施する単結晶引上装置においては、特許文献1に開示されるように、単結晶Cの引上領域を囲むように、ルツボの上方に輻射シールド51が設けられる。この輻射シールド51は、育成する単結晶Cの外周面への輻射熱を効果的に遮断するものであって、これにより引き上げ中の単結晶Cの凝固を促進し、単結晶Cを速やかに冷却することができる。
また、図示するように輻射シールド51の内側に水冷体53を配置した構成の場合には結晶からの抜熱効果が向上するため、引上速度を速くすることができる。
また、シールド内面に断熱材54を設けることによって、輻射熱を効果的に遮蔽することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−52982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図7の構成にあっては、図8に輻射シールド51の一部拡大図を示すように、シールド内側の断熱材54は、結晶外周面からの熱を効率的に散発するために、シールド下端部開口における厚さ寸法t1が薄く形成されている。
【0006】
しかしながら、その場合、固液界面近傍の結晶外周面に対する熱遮蔽効果が不十分となるため、結晶外周近傍の熱流束(図7の溶融液M中に示す矢印、及び単結晶C中に示す矢印)が結晶中心部よりも非常に大きくなり、結晶外周近傍の溶融液内において、過冷却部M1が発生しやすいという課題があった。
また、特に、図示するように水冷体53が配置され、更にルツボ側方からの横磁場印加がなされる構成にあっては、溶融液Mにおいて中央から外側に向かう離心流(図示せず)が発生するため、それにより図6に示すように結晶の周りに一層、過冷却部M1が形成されやすくなり、育成する単結晶が有転位化しやすいという課題があった。
【0007】
一方、前記シールド開口部における断熱材54の厚さ寸法t1を厚く形成した場合には、結晶外周面からの熱が散発され難くなるため、結晶引上速度を速くすることができず、グローイン欠陥などの結晶欠陥が発生しやすくなるという別の課題があった。
【0008】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置の輻射シールドであって、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できる単結晶引上装置の輻射シールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドは、種結晶をルツボ内のシリコン溶融液に接触させ、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置において、引き上げられるシリコン単結晶を包囲するように前記ルツボ上方に配置されると共に、所定の厚さに形成された外筒部材と、前記外筒部材の内側に設けられた断熱部材とからなる輻射シールドであって、円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部に開口を形成する下肩部とを有し、育成する単結晶の直径をΦcry(mm)とすると、前記下肩部における断熱部材の下端部開口の厚さ寸法t1は、式(1)により規定され、前記直胴部における断熱部材の外側面を下方に延長した仮想線と、前記下肩部における断熱部材の下端部を含む水平面との交点から、水平面に対して45°の傾斜線を前記下肩部に向けてひいたとき、その断熱部材に対する交点における断熱部材の厚さ寸法t2は、式(2)により規定されることに特徴を有する。
[数1]
1=0.1Φcry〜0.5Φcry ・・・式(1)
2≦2t1 ・・・式(2)
尚、前記断熱部材は、カーボン繊維からなるフェルト材によって形成されていることが望ましい。
また、前記下肩部における断熱部材は、その内側面が断面放物線状に形成され、外側面が断面円弧状に形成されていることが望ましい。
【0010】
このように構成することにより、下肩部における断熱部材の下端部開口の厚さ寸法t1が薄すぎることがなく、固液界面近傍の結晶外周面に対し充分に熱遮蔽することができ、結晶外周における熱流束を低減することができる。その結果、結晶外周近傍の溶融液における過冷却の発生を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
また、下肩部における断熱部材の厚さ寸法t2が適度に薄く形成されるため、輻射シールド内の水冷体を配置した場合に、水冷体を溶融液面に近づけることができ、結晶中心部を効果的に冷却することができる。
即ち、結晶の引上速度を向上できるため、欠陥析出温度帯の通過時間を短縮することができ、欠陥発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チョクラルスキー法によってルツボからシリコン単結晶を引上げる単結晶引上装置の輻射シールドであって、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できる単結晶引上装置の輻射シールドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る輻射シールドが配置された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の単結晶引上装置が具備する輻射シールドの一部拡大断面図である。
【図3】図3(a)〜図3(f)は、本発明に係る輻射シールドの変形例を示す一部拡大断面図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は、本発明に係る輻射シールドの変形例を示す一部拡大断面図である。
【図5】図5は、実施例1と比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図6】図6は、磁場印加方向との交差角度θ(deg)を説明するために概略図である。
【図7】図7は、従来の輻射シールドが配置された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
【図8】図8は、図7の単結晶引上装置が具備する輻射シールドの一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドの実施形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る輻射シールドが配置された単結晶引上装置の一部構成を示す断面図である。
この単結晶引上装置1は、炉体(図示せず)内に設けられたルツボ2と、ルツボ2に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)Mを溶融するヒータ3と、育成される単結晶Cをワイヤ4で引上げる引上げ機構5とを有している。尚、ルツボ2は、二重構造であり、内側が石英ガラスルツボ、外側が黒鉛ルツボで構成されている。また、ワイヤ4の先端に種結晶Pが取り付けられている。
【0014】
また、ルツボ2の上方且つ近傍には、本発明に係る輻射シールド6が設けられている。この輻射シールド6は、単結晶Cの周囲を包囲するよう上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するヒータ3や溶融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽する。また、輻射シールド6は、所定の厚さに形成された外筒部材7が炉体(図示せず)に固定され、外筒部7の内側に断熱部材8が設けられることによって構成されている。
【0015】
前記外筒部材7は、例えば高純度な黒鉛、或いは表面にSiCがコーティングされた黒鉛により形成されている。また、前記断熱部材8は、例えばカーボン繊維からなるフェルト材によって形成されている。
尚、輻射シールド6下端と溶融液面との間の距離寸法(ギャップ)は、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を維持するよう制御される。
【0016】
前記輻射シールド6は、図2の一部拡大断面図に示すように、上端に形成され、炉体(図示せず)に固定されるフランジ部6aと、フランジ部6aの内周縁から下方に延びる円筒状の直胴部6bと、直胴部6bの下端から内側に湾曲し、下端部に開口を形成する下肩部6cとからなる。
下肩部6cにおける断熱部材8は、その内側面6dが、断面放物線状に形成され、外側面6eが、断面円弧状に形成されている。
また、育成する単結晶Cの直径をΦcry(mm)とすると、輻射シールド6の下端部開口における断熱部材8の厚さ寸法t1は、式(1)で規定される。
【0017】
[数2]
1=0.1Φcry〜0.5Φcry ・・・式(1)
また、直胴部6bにおける断熱部材8の外側面を下方に延長した仮想線と、下肩部6cにおける断熱部材8の下端の高さの水平面との交点Cから、水平面に対して45°の傾斜線を下肩部6cに向けてひいたとき、断熱部材8に対する交点Dにおける断熱部材8の厚さ寸法tは、式(2)で規定される。この厚さ寸法tは前記交点Dを通る断熱部材8の内側面に垂直な垂線上の長さ寸法である。
【0018】
[数3]
2≦2t1 ・・・式(2)
また、輻射シールド6の下端開口の直径Φ1は、式(3)で規定される。
[数4]
Φcry+50mm≧Φ1≧Φcry ・・・式(3)
また、輻射シールド6の直胴部内径Φ2は、式(4)で規定される。
[数5]
Φ2=1.5Φcry〜3Φcry ・・・式(4)
【0019】
また、輻射シールド6の直胴部6bの内側であって、下肩部6cの上方には、円筒状の水冷体9が配備されている。この水冷体9には、冷却水供給手段(図示せず)によって冷却水が供給され、循環することによって所定温度が維持されるように構成されている。
【0020】
前記のように構成された輻射シールド6によれば、下肩部6cの下端部開口における断熱部材8の厚さ寸法t1が式(1)に従い規定されている。これにより、前記下端部開口の厚さ寸法t1が薄すぎることがなく、結晶外周面に対し充分に熱遮蔽することができ、結晶外周における熱流束を低減することができる。その結果、結晶外周近傍の溶融液における過冷却の発生を抑制し、結晶の有転位化を防止することができる。
【0021】
また、下肩部6cの厚さ寸法t2が式(2)に従い規定され、これにより下肩部6cにおける断熱部材8の厚さ寸法が適度に薄く形成されるため、水冷体9を溶融液面に近づけることができ、結晶中心部を効果的に冷却することができる。
即ち、結晶の引上速度を向上し、欠陥析出温度帯の通過時間を短縮することができ、欠陥発生を抑制することができる。
【0022】
尚、前記実施の形態においては、輻射シールド6の下肩部6c(断熱部材8)の形状について、その内側面6dを、断面放物線状に形成し、外側面6eを、断面円弧状に形成したものを示した。
しかしながら、本発明に係る輻射シールド6は、それに限定されることなく、前記式(1)、及び式(2)を満足する形状であれば、前記した効果を得ることができる。
例えば、図3(a)〜図3(f)、図4(a)〜図4(d)に示す変形例のいずれかの形状であってもよい。
【実施例】
【0023】
本発明に係る単結晶引上装置の輻射シールドについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施形態に示した輻射シールドを用いて単結晶引き上げを行った。
【0024】
(実施例1)
実施例1では、結晶外周直下における溶融液の温度分布を測定した。具体的な条件としては、ルツボへの原料シリコンのチャージ量を370kg、育成する単結晶の直径を300mm、結晶長さを1700mm、磁場強度(磁束密度)を3000ガウス、磁場位置を0mm、ルツボ下端と溶融液面とのギャップを20mmとした。
また、輻射シールドは、下端部開口における断熱部材の厚さ寸法t1を55mm、下肩部中央における断熱部材の厚さ寸法t2を60mmに形成したものを用いた。
【0025】
(比較例1)
比較例1では、前記実施例1の条件のうち、厚さ寸法t1を20mm、厚さ寸法t2を100mmに形成したものを用いた。
図5に実施例1、並びに比較例1の結果をグラフとして示す。このグラフにおいて、横軸は、磁場印加方向との交差角度θ(deg)であり、縦軸は、溶融液温度(K)である。尚、磁場印加方向との交差角度θ(deg)とは、図6に示すように、ルツボ2の中心を通るシリコン溶融液Mの任意垂直断面とシリコン溶融液表面とが接する交線Lが磁場印加方向Bを0度として反時計方向になす角度である。
図5に示すように、比較例1では、磁場印加方向に拘わらず、シリコン融点を下回る(過冷却が生じやすい)結果となったが、本発明の構成であれば、溶融液温度がシリコン融点を殆ど下回ることが無く、過冷却が生じないことを確認した。
【0026】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の条件において、300mmの結晶長さ育成後における無転位化率を10本の引上本数に基づき求めた。
(比較例2)
比較例2では、比較例2の条件において、300mmの結晶長さ形成後における無転位化率を10本の引上本数に基づき求めた。
表1に、実施例2、並びに比較例2の結果(無転位化率)を示す。
【0027】
【表1】

表1に示すように、実施例2では、10本中8本について無転位化を達成することができた。一方、比較例2では、10本中1本のみを無転位のまま引き上げることが出来た。
【0028】
(実施例3)
実施例3では、実施例1の条件において、結晶長さ500mmまで育成したときの単結晶引上速度と、結晶中のグローイン欠陥密度について測定した。
(比較例3)
比較例3では、比較例1の条件において、結晶長さ500mmまで育成したときの単結晶引上速度と、結晶中のグローイン欠陥密度について測定した。
【0029】
表2に、実施例3、並びに比較例3の結果(引上速度、グローイン欠陥密度)を示す。尚、表中の引上速度は、比較例3での引上速度に対する相対速度(割合)で示す。また、グローイン欠陥密度は、実施例3でのウエハ面内の80nm以上のグローイン欠陥数と、比較例3での欠陥数との比率を示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、実施例3では、従来よりも引上速度を30%向上することができた。また、従来よりもグローイン欠陥を20%低減することができた。
以上の実施例の結果より、本発明に係る輻射シールドによれば、単結晶の引上速度を向上して結晶欠陥の発生を抑制し、且つ、結晶の有転位化を抑制できることを確認した。
【符号の説明】
【0032】
1 単結晶引上装置
2 ルツボ
3 ヒータ
4 ワイヤ
5 引上機構
6 輻射シールド
6a フランジ部
6b 直胴部
6c 下肩部
7 外筒部材
8 断熱部材
9 水冷部材
C 単結晶
M シリコン溶融液
P 種結晶
θ 磁場印加方向との交差角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶をルツボ内のシリコン溶融液に接触させ、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置において、引き上げられるシリコン単結晶を包囲するように前記ルツボ上方に配置されると共に、所定の厚さに形成された外筒部材と、前記外筒部材の内側に設けられた断熱部材とからなる輻射シールドであって、
円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から内側に湾曲し、下端部に開口を形成する下肩部とを有し、
育成する単結晶の直径をΦcry(mm)とすると、前記下肩部における断熱部材の下端部開口の厚さ寸法t1は、式(1)により規定され、
前記直胴部における断熱部材の外側面を下方に延長した仮想線と、前記下肩部における断熱部材の下端部を含む水平面との交点から、水平面に対して45°の傾斜線を前記下肩部に向けてひいたとき、その断熱部材に対する交点における断熱部材の厚さ寸法t2は、式(2)により規定されることを特徴とする単結晶引上装置の輻射シールド。
[数1]
1=0.1Φcry〜0.5Φcry ・・・式(1)
2≦2t1 ・・・式(2)
【請求項2】
前記断熱部材は、カーボン繊維からなるフェルト材によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置の輻射シールド。
【請求項3】
前記下肩部における断熱部材は、その内側面が断面放物線状に形成され、外側面が断面円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された単結晶引上装置の輻射シールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206862(P2012−206862A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71310(P2011−71310)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】