説明

単結晶直径計測装置

【課題】 チョクラルスキー法による単結晶成長時の直径を、撮影した画像をもとに直接的に精度よく求める方法を提供する。
【解決手段】 単結晶2と原料融液4との境界部を、設定した単結晶の回転角度毎に少なくとも2回撮影し、その撮影した各画像から前記境界部の計測点をそれぞれ特定し、その特定した計測点の座標A’、B’と、CCDカメラ14の取り付け角αと、カメラ焦点Fから単結晶2の回転中心までの水平距離と、から当該計測点における単結晶2の半径Riを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)等による酸化物などの単結晶の製造中に、当該単結晶の直径を計測する単結晶直径計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶をCZ法で成長させる方法としては、チャンバーの覗き窓越しに、成長した単結晶の直径を目視で確認し、作業者が成長装置を制御する方法がある。
しかしながら、この従来方法では、作業者が成長装置を常時監視する必要があり、また、単結晶の直径を目視で確認するため、単結晶の直径を一定にすることが難しく、単結晶の直径が目標寸法通りに成長するか否かは作業者の技量に大きく依存していた。
【0003】
そのため、例えば、成長した単結晶と原料融液との境界部をCCDカメラで撮影し、撮影した画像から複数の境界点を求め、数学的手法により単結晶の円形状を定義してその直径を計算し、得られた直径値をもとにコンピュータで単結晶成長時の直径を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2001−518443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、CCDカメラで撮影した画像から複数の境界点を求め、数学的手法により単結晶の円形状を定義してその直径を計算する方法では、撮影した画像から直接的に単結晶成長時の直径を求めているのではなく、しかも正確な円形状を定義するためには、より多くの境界点を求める必要があり、得られる直径値の精度が低い等の問題がある。
本発明は、単結晶直径計測装置における上記問題を解決するものであって、単結晶成長時の直径値を精度よく求めることができる単結晶直径計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、チョクラルスキー法等による単結晶の製造中に当該単結晶の直径を計測する装置であって、前記単結晶と原料融液との境界部を、設定した単結晶の回転角度毎に少なくとも2回撮影する撮影手段と、その撮影した各画像から前記境界部の計測点を特定する特定手段と、その特定した計測点の各座標と、前記撮影手段の取り付け角と、前記撮影手段の焦点から前記単結晶の中心までの水平距離と、から当該計測点における単結晶の半径を算出する算出手段と、を備え、これにより単結晶の直径を求めて上記問題を解決している。
【0006】
なお、溶融した原料を収容するるつぼ及び引き上げ装置により引き上げられる単結晶を覆うチャンバーを備えた単結晶成長装置であって、チャンバー内を覗くための覗き窓と、覗き窓を開閉する開閉装置と、覗き窓が開くのに連動して単結晶と原料融液の境界部を撮影するCCDカメラとを設けると、覗き窓を所定時間毎に自動的に開き、覗き窓が開くのに連動して、単結晶と原料融液との境界部をCCDカメラで撮影することにより、蒸発した原料が覗き窓のガラスに付着して単結晶の撮影ができなくなるという問題も解決できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撮影した画像をもとに直接的に半径を求めることができるため、例えば、撮影した画像から複数の境界点を求め、数学的手法により単結晶の円形状を定義して直径を計算する方法に比べ、単結晶成長時の直径値を精度よく求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の単結晶直径計測装置について、単結晶をチョクラルスキー法(CZ法)等で製造する単結晶成長装置に適用した実施形態を図面に基づき説明する。
即ち、この単結晶成長装置にあっては、引き上げプロセスにおいて、成長した単結晶と原料融液との境界部を単結晶の回転角度が45°の整数倍となるたびに固定カメラ(CCDカメラ)で撮影し、得られた画像のうち撮影順序が前後する2つの画像に基づき、前記境界部の計測点(後に撮影した画像においてCCDカメラの正面にある点)における単結晶の半径、及びカメラ焦点と原料融液との間の垂直距離を計算する。
【0009】
<単結晶成長装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態における単結晶成長装置の構成を示す構成図である。この図1に示すように、原料融液4を収容したるつぼ1は、チャンバー5で覆われている。
チャンバー5の上部中央には、パイプ15が設けられている。このパイプ15には、下部に種結晶3を取り付けた引き上げ軸6が挿通されており、この引き上げ軸6を時計回りに回転させながら上方へ移動させることにより、成長した単結晶2が引き上げられる。
チャンバー5の上部側方には、覗き窓7が設けられている。この覗き窓7は、上下回動可能に枢支されたアーム17に取り付けられており、また、覗き窓7の上面中央には、モータ9によって巻き上げ巻き下げされるワイヤ8の先端が連結されている。
【0010】
モータ9は、モータドライバ10を介してコンピュータ13に接続されている。覗き窓7の開及び閉の状態を検出する上限リミットスイッチ11と下限リミットスイッチ12もコンピュータ13に接続されている。
一方、覗き窓7が開いた状態で、るつぼ1内を撮影できる位置には、CCDカメラ14が設置されている。CCDカメラ14もコンピュータ13に接続されている。具体的には、CCDカメラ14は、図2(CCDカメラ14と単結晶2との位置関係を示す側面図及び平面図)に示すように、単結晶2の回転中心に光軸が向けられ、水平面から角度α傾き、前記回転中心とカメラ焦点Fとの間の水平距離が規定値Lyとなる位置に設置されている。また、CCDカメラ14には、CCDカメラ14のカメラ焦点Fを原点とし、単結晶2の回転中心に正対して右方向に伸びているXw軸、回転中心の方向に伸びているYw軸、垂直上方に伸びているZw軸を有するワールド座標系が既定されている。
【0011】
そして、CCDカメラ14は、図3に示すように、単結晶2の画像をCCD(CCDカメラ14の撮像素子)19上に投影し(単結晶2の回転中心をCCD19の中央を通って平面視上下方向に伸びている画素列に投影し)、得られた画像をコンピュータ13に出力する。また、CCD19には、CCD19の中央を原点とし、平面視右方向に伸びているXc軸、上方向に伸びているZc軸を有するCCD座標系が既定されている。なお、CCD座標系では、焦点距離fを単位長さとして規格化した座標値を表す。即ち、座標値は、「CCD座標系原点からの画素の数×CCD19の一画素の大きさ/焦点距離f」となる。
るつぼ1の周囲には、加熱電源16からの電力供給により、るつぼ1を加熱する加熱装置18が設けられている。
【0012】
<単結晶成長装置の動作>
単結晶2の引き上げプロセスでは、まず、加熱電源16から加熱装置18に電力を供給し、るつぼ1内で原料を加熱・溶融し、種結晶3を用いて種付けを行う。種付け完了後は、自動直径制御モードに切り替える。自動直径制御モードでは、引き上げ軸6を予めプログラムしておいた引き上げ速度並びに回転速度で動かす。
覗き窓7は通常閉じているが、予めプログラムされた時間毎にコンピュータ13からモータドライバ10へモータ9が正転又は逆転するように指令を出すことにより、モータ9がワイヤ8の巻き上げ巻き下げを行って覗き窓7を開閉する。
【0013】
また、覗き窓7が開くのと同期して、コンピュータ13は、CCDカメラ14に引き上げ軸6が1回転する間に単結晶2と原料融液4との境界を異なる角度位置にて8回撮影するように指令する。即ち、図4(a)〜(c)に示すように、単結晶2の回転角度が45°の整数倍となるたびに(単結晶2と原料用融液4との境界部を、単結晶2の回転軸を中心として45°刻みで8分割する点i(i=1〜8)による線0−i(単結晶2の回転中心と点iとを結ぶ線)とYw軸とのなす角度が0°となるたびに)前記指令を出力する。
【0014】
CCDカメラ14は、単結晶2と原料融液4との境界部を撮影し、撮影した画像から単結晶2と原料融液4の境界部を検出する。具体的には、まず、撮影順序が前後する2枚の画像のうち、後に撮影された画像について、図5(a)に示すように、当該画像の中央を通って平面視上下方向に伸びている画素列(スキャンライン)を平面視上側から平面視下側へスキャンして当該スキャンライン上の各画素の輝度を求める。そして、隣接する画素と輝度が大きく異なる画素を検出することで、計測点iがB地点にあるとき(図4の線0−iとYw軸とのなす角度が0°のとき)の座標B’(a2、b2)を特定する。
【0015】
次に、図5(b)に示すように、前記2枚の画像のうち、先に撮影された画像の所定画素領域(前記計測点iが撮影されている領域、スキャン領域)内において平面視上下方向に伸びているスキャンラインを平面視左側から平面視右側へ順次選択する。次いで、その選択されたスキャンラインを平面視上側から平面視下側へスキャンして当該スキャンライン上の各画素の輝度を求め、隣接する画素と輝度が大きく異なる画素を検出する。そして、単結晶2と原料融液4との境界点の座標(CCD座標系における座標)A”(a1’、b1’)を決定し、その座標A”を下記(1)式に代入し、左辺と右辺とが最も等しくなる座標A’を算出することで、前記計測点iがA地点にあるとき(図4の線0−iとYw軸とのなす角度が45°のとき)の座標A’(a1、b1)を特定する。
【0016】
【数1】

【0017】
また、それら特定された座標A’(a1、b1)、B’(a2、b2)に基づき、下記(2)(3)式に従って、前記計測点iにおける単結晶2の半径Ri、及びカメラ焦点Fと原料融液面との間の垂直距離hiを算出する。
【0018】
【数2】

【0019】
さらに、上記フローを点1〜点8について繰り返し実行することで、各点における半径Ri、及び原料融液4までの垂直座標hiを求める。そして、得られた半径Ri及び垂直座標hiに基づき、単結晶2と原料融液4との境界直径の平均値Dav、及びカメラ焦点Fと原料融液4との垂直座標の平均値Zavを下記(4)(5)式に従って算出する。
Dav=(ΣRi/8)×2=ΣRi/4 ・・・(4)
Zav=Σhi/8 ・・・(5)
【0020】
そして、コンピュータ13は、その算出された平均直径Davと設定した直径との差からPID制御などの手法を用いて、加熱電源16の出力を決定し、設定した直径との差違をなくすよう制御する。このとき、単結晶2の直径が設定した直径より大きくなった場合は、加熱電源18の出力を上げて直径が小さくなるようにし、逆に直径が設定した直径より小さくなった場合は、加熱電源18の出力を下げて直径が大きくなるように操作を行う。
【0021】
このように、本実施形態の単結晶成長装置にあっては、単結晶2と原料融液4との境界部を、設定した単結晶の回転角度毎に少なくとも2回撮影し、その撮影した各画像から前記境界部の計測点を特定し、その特定した計測点の座標A’、B’と、CCDカメラ14の取り付け角αと、カメラ焦点Fから単結晶2の回転中心までの水平距離と、から当該計測点における単結晶2の半径Riを算出するようにした。そのため、撮影した画像をもとに直接的に直径を求めることができるため、例えば、撮影した画像から複数の境界点を求め、数学的手法により単結晶の円形状を定義して直径を計算する方法に比べ、単結晶成長時の直径値を精度よく求めることができる。
【0022】
また、覗き窓7を所定時間毎に自動的に開き、覗き窓7が開くのに連動して、単結晶2と原料融液4との境界部をCCDカメラ14で撮影するようにした。そのため、蒸発した原料が覗き窓のガラスに付着して単結晶の撮影ができなくなるという問題も解決できる。
また、作業者が装置を常時監視する必要はなく、CCDカメラ14で、単結晶2と原料融液との境界部を撮影するために設けてある覗き窓7に、蒸発した原料が付着しないようにすることにより、覗き窓7内部に気体を流すための複雑な構造は不要となる。即ち、安定した結晶成長が可能で、装置費用が安価なCZ法による単結晶成長装置を提供できる。
【0023】
ちなみに、溶融した原料をいれたるつぼ1及び単結晶2を覆う形で設けられたチャンバー5に設置した窓ガラス越しに画像撮影を行う従来の方法では、蒸発した原料が窓ガラスに付着して曇りが生じ、撮影できなくなるため、一般的にはガラス内面部に気体を流して曇りを防止している。従って、覗き窓ガラス内面に一定流量の気体を流すための追加装置が必要となり、単結晶成長装置の費用が高くなるという問題がある。
【0024】
<半径算出式等の導出方法>
次に、CCDカメラ14で撮影した画像から単結晶の直径Ri、及びカメラ焦点Fと原料融液面との間の垂直距離hiを算出するための(2)(3)式の導出方法を説明する。
まず、図2及び図3に示すように、CCD座標系の座標をワールド座標系の座標に変換する変換マトリックスwRcは、下記(6)式で表される。
【0025】
【数3】

【0026】
また、前記変換マトリックスwRc(上記(6)式)により、ワールド座標系の座標P(X、Y、Z)とCCD座標系の座標P’(a、b)との間には、下記(7)〜(10)式の関係が成り立つ。
【0027】
【数4】

【0028】
即ち、
X=a/k ・・・(8)
Y=(cosα−b・sinα)/k ・・・(9)
Z=(sinα+b・cosα)/k ・・・(10)
上記(9)(10)式を利用すると、ワールド座標系の座標A(X1、Y1、h)とCCD座標系の座標A’(a1、b1)との間には、下記(11)(12)式の関係が成り立つ(図6参照)。
Y1=(cosα−b1・sinα)/k1 ・・・(11)
h=(sinα+b1・cosα)/k1 ・・・(12)
ここで、Y1=Ly―R・cos45°より、下記(13)式の関係が成り立つ。
【0029】
【数5】

【0030】
また同様に、上記(9)(10)式を利用すると、ワールド座標系の座標B(X2、Y2、h)とCCD座標系の座標B’(a2、b2)との間には、下記(14)(15)式の関係が成り立つ。
Y2=(cosα−b2・sinα)/k2 ・・・(14)
h=(sinα+b2・cosα)/k2 ・・・(15)
ここで、Y2=Ly―Rより、下記(16)式の関係が成り立つ。
【0031】
【数6】

【0032】
さらに、上記(13)(16)を利用すると、単結晶2の半径Riを算出するための下記(17)式の関係が成り立つ(上記(2)式が導出される)。
【0033】
【数7】

【0034】
そして、上記(17)式で算出された単結晶2の半径Riにより、カメラ焦点Fと原料融液面との間の垂直距離hを算出するための下記(18)式の関係が成り立つ(上記(3)式が導出される)。
【0035】
【数8】

【0036】
<座標A’検出式の算出方法>
次に、CCD座標系の座標A’を特定するための(1)式の導出方法を説明する。
まず、上記(8)(9)(10)式を利用すると、ワールド座標系の座標A、BとCCD座標系の座標A’、B’との間には、下記(19)〜(22)式の関係が成り立つ。
【0037】
【数9】

【0038】
また、幾何学上、座標A、Bについては、下記(23)式の関係が成り立つ。
【0039】
【数10】

【0040】
そのため、上記(19)〜(23)式を利用すると、下記(24)式の関係が成り立つ(上記(1)式が誘導される)。
【0041】
【数11】

【0042】
以上、上記実施形態では、図1のCCDカメラ14が特許請求の範囲の撮影手段を構成し、以下同様に、図1のコンピュータ13が特定手段及び算出手段を構成する。
なお、本発明の単結晶直径計測装置は、上記実施の形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
上記実施形態では、単結晶2が1回転する間に8枚撮影する(回転角度が45°の整数倍となるたびに撮影する)例を示したが、これに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態である単結晶成長装置の構成図である。
【図2】CCDカメラと単結晶との位置関係を示す側面図及び平面図である。
【図3】CCD上に投影された単結晶の画像を説明するための説明図である。
【図4】単結晶と原料融液との境界線上の計測点を示す側面図及び平面図である。
【図5】単結晶と原料融液との境界部の検出方法を説明するための説明図である。
【図6】半径算出式などの導出方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1はるつぼ、2は単結晶、3は種結晶、4は原料融液、5はチャンバー、6は引き上げ軸、7は覗き窓、8はワイヤ、9はモータ、10はモータドライバ、11は上限リミットスイッチ、12は下限リミットスイッチ、13はコンピュータ、14はCCDカメラ、15はパイプ、16は加熱電源、17はアーム、18は加熱装置、19はCCD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法等による単結晶の製造中に当該単結晶の直径を計測する装置であって、
前記単結晶と原料融液との境界部を、設定した単結晶の回転角度毎に少なくとも2回撮影する撮影手段と、その撮影した各画像から前記境界部の計測点を特定する特定手段と、その特定した計測点の各座標と、前記撮影手段の取り付け角と、前記撮影手段の焦点から前記単結晶の中心までの水平距離と、から当該計測点における単結晶の半径を算出する算出手段と、を備え、これにより単結晶の直径を求めることを特徴とする単結晶直径計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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