説明

印刷装置、サーバー、印刷特性改善方法及びコンピュータプログラム

【課題】印刷ヘッドに印刷特性の改善情報を搭載する以外の方法で、印刷特性を改善する。
【解決手段】ネットワーク経由でサーバーに接続される印刷装置に、印刷ヘッドに固有の識別情報をネットワーク経由でサーバーに通知する改善情報要求部と、ダウンロードされたヘッド特性の改善情報を格納する改善情報保管部と、改善情報保管部に格納されたヘッド特性の改善情報を参照して印刷動作を実行する印刷処理部を搭載する。一方、サーバーに、印刷ヘッドに固有の識別情報とヘッド特性の改善情報とを関連づけて格納する記憶領域と、ネットワーク経由で受信した印刷ヘッドに固有の識別情報に対応するヘッド特性の改善情報を記憶領域から読み出して送信する改善情報供給部を搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書で提案する発明は、印刷ヘッドに固有の印刷特性のばらつきを改善する技術に関する。
なお、発明者が提案する発明は、印刷装置、サーバー、印刷特性改善方法及びコンピュータプログラムとしての側面を有する。
【背景技術】
【0002】
印刷品質は、印刷ヘッドの印刷特性に大きく左右される。ところが、実際の印刷ヘッドの印刷特性は一定ではなく、印刷ヘッド毎にバラツキが存在するのが現状である。この印刷特性のバラツキが、印刷品質がバラつく原因となっている。
【0003】
印刷特性のバラツキには、大きく分けて2つの種類がある。一つは、印刷ヘッド全体としての印刷特性のバラツキであり、他の一つは、印刷ヘッドを構成する個々の印刷素子や画素列間における印刷特性のバラツキである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下では、印刷特性のバラツキが印刷品質に与える影響を印刷特性の種類別に説明する。
【0005】
(A)印刷ヘッド単位のバラツキに起因した課題
印刷品質は、階調特性の影響を大きく受ける。以下では、インクジェット方式の印刷装置を例に印刷特性のバラツキが階調特性に与える影響を説明する。
図1に、印刷処理部1の構造例を示す。
【0006】
印刷処理部1には、入力データとして、例えばRGB形式のデジタルデータが与えられる。図1の場合、各色に対応する入力データのビット長は8ビットである。従って、各色のデジタルデータは、0〜255までの256階調の情報を有している。なお、3色全体のビット長は計24ビットになる。
【0007】
色変換部3は、入力データをインク色に対応する4色(すなわち、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック))データ(それぞれ0〜255の8ビット)に変換する処理を実行する。
ハーフトーニング部5は、色変換後データを各色に対応する印刷ヘッド7の駆動データに変換する処理を実行する。
【0008】
印刷ヘッド7は、駆動データに基づいてインク滴を吐出し、被印刷媒体上に印刷像を形成する。
ところで、色変換部3から出力される色変換後データの値0〜
255に対する各色の出力結果の濃度は、理想的な値(たとえば図2のような関係)になっていればよいが、実際には図3のように、理想的な値になっていないのが通常である。
【0009】
そこで一般には、図4に示す構成の印刷処理部1を用い、各色の出力結果を理想的な値に補正する方法を採用する。すなわち、図5に示すような階調補正曲線を有する階調補正部9を色変換部3の後段に設けて入力信号(色変換後データ)の階調特性(図3)を補正し、出力結果が図2の線上にのるようにしている。
【0010】
ところが、この階調補正曲線が固定されている場合、印刷ヘッド7の印刷特性にバラツキがあると、各印刷ヘッドの階調濃度を最適な状態に補正できないという問題がある。なお、この問題を解決するには、印刷ヘッドの印刷特性に応じた階調補正曲線を適用すれば良い。
【0011】
しかし、この方法の実現には、印刷ヘッド毎に最適な階調補正曲線データを格納しておく必要がある。すなわち、印刷ヘッドに記憶媒体を搭載する必要がある。
ところが、この方法では印刷ヘッドがコストアップするという問題がある。
【0012】
また、このコストを少しでも削減するため、最適な階調補正曲線データを選択するための情報や決定するための情報を印刷ヘッドに格納し、その情報に基づいて予め用意しておいた階調補正曲線データの中から最適なものを選んだり、最適な階調補正曲線データを作成したりする場合もある。
【0013】
また、この階調補正曲線データ又は選択データ(決定データを含む。)は印刷ヘッドに搭載された記憶媒体の中のみに存在するので、何らかの理由により情報が失われた場合や読み出せない場合には、印刷ヘッド本来の性能を引き出せなくなってしまうという問題もあった。
【0014】
また、印刷ヘッド側で階調補正曲線データ等が書き換えられた場合、出荷元では、どのような階調補正曲線データに基づいて印刷処理が実行されているのかを把握できない。このため、階調特性に不具合が生じたというクレームを受けた場合、階調特性の劣化原因を把握することができないという問題があった。
【0015】
(B)印刷ヘッドを構成する印刷素子間のバラツキに起因した課題
複数の印刷素子間に存在する印刷特性(インクの吐出特性)のバラツキは、濃度ムラの発生原因となる。そこで、このバラツキの影響をなくしたい場合、従来は、印刷素子毎に最適な階調補正曲線データを記憶媒体に格納しておき、このデータに基づいて各印刷素子に対応する入力データを補正することにより、出力結果のムラが目だたないようにしていた。
【0016】
しかし、この場合も印刷素子の数だけ補正情報の記憶領域が必要になり、印刷ヘッド7のコストアップにつながっていた。
また、このコストを少しでも削減するため、最適な階調補正曲線データを選択するための情報や決定するための情報を印刷ヘッドに格納し、その情報に基づいて予め用意しておいた階調補正曲線データの中から最適なものを選んだり、最適な階調補正曲線データを作成したりする場合もある。
【0017】
また、この階調補正曲線データや選択情報等は印刷ヘッドに搭載された記憶媒体の中のみに存在するので、何らかの理由により情報が失われた場合や読み出せない場合には、印刷ヘッド本来の性能を引き出せなくなってしまうという問題もあった。
【0018】
また、印刷ヘッド側のこれらデータが書き換えられた場合、印刷装置の出荷元は、どのような階調補正曲線データに基づいて印画がなされているのかがわからないため、階調特性が劣化した等のクレームを受けた場合に、対応に窮する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで、発明者は、印刷装置が搭載するネットワーク通信機能に着目し、必要な情報をサーバー側で管理できる仕組みと、その情報をダウンロードして印刷処理に反映できる仕組みを提案する。
【0020】
このため、印刷装置には、印刷ヘッドに固有の識別情報をネットワーク経由でサーバーに通知する改善情報要求部と、ダウンロードされたヘッド特性の改善情報を格納する改善情報保管部と、改善情報保管部に格納されたヘッド特性の改善情報を参照して印刷動作を実行する印刷処理部とを搭載する。
【0021】
また、サーバーには、印刷ヘッドに固有の識別情報とヘッド特性の改善情報とを関連づけて格納する記憶領域と、印刷ヘッドに固有の識別情報がネットワーク経由で受信された時、当該識別情報に対応するヘッド特性の改善情報を記憶領域から読み出して送信する改善情報供給部とを搭載する。
【発明の効果】
【0022】
発明者の提案する仕組みの場合、印刷ヘッドや個々の印刷素子に関する印刷特性の改善情報をサーバー側で管理することができる。このため、印刷ヘッド自体に大容量の記憶媒体を搭載せずに済み、印刷ヘッドのコストアップを避けることができる。
【0023】
また、印刷特性の改善情報は、印刷装置本体が搭載する記憶領域に格納できる。このため、印刷ヘッドの記憶領域に格納する場合に比して格納する情報量を増やすことができる。
また、サーバー側で改善情報を管理できるので、印刷品質に関するトラブル発生時にも原因の把握が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、発明に係る印刷特性の改善技術を説明する。
なお、本明細書で特に図示又は記載されない部分には、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。
また以下に説明する実施形態は、発明の一つの実施形態であって、これらに限定されるものではない。
【0025】
(A)印刷システムの全体構成
図6に、印刷システム11の全体構成を示す。発明者の提案する印刷システム11は、ネットワーク13を経由して接続される印刷装置15及びサーバー17で構成される。
【0026】
ここで、印刷装置15は、印刷ヘッドを特定するヘッド識別情報(例えばシリアル番号)をサーバー17に送信し、当該ヘッド識別情報に対応するヘッド特性改善情報をサーバー17より取得するように動作する。
【0027】
なお、ネットワーク13は、無線ネットワークでも有線ネットワークのいずれでも良い。ネットワーク13には、例えばインターネットを想定する。
【0028】
図7に、印刷装置15の機能構成例を示す。印刷装置15は、改善情報読取部21、改善情報保管部23、印刷処理部25及び印刷ヘッド27で構成される。
このうち、改善情報読取部21は、印刷装置15に装着された印刷ヘッド27の印刷特性を改善するのに必要な情報(ヘッド特性改善情報)をサーバー17からダウンロードする処理機能を搭載する。
【0029】
このため、改善情報読取部21には、ネットワーク13との通信機能が搭載されている。また、改善情報読取部21は、印刷ヘッド27の装着時、当該印刷ヘッド27に付属するヘッド識別情報を光学的又は電気的に読み出し、サーバー17に通知する処理機能も搭載する。
【0030】
ヘッド識別情報の記録形態には、様々な方法が考えられる。例えば印刷ヘッドの半導体メモリやICタグにデジタルデータとして格納する方法が考えられる。また例えば抵抗値として格納する方法、接触点の配置パターンとして格納する方法等が考えられる。
【0031】
また例えば論理回路その他の電気的に情報の読み出しが可能な構造として格納する方法が考えられる。また例えば筐体表面の印刷パターン(バーコード)のように光学的に情報の読み出しが可能な構造パターンとして格納する方法が考えられる。また例えば切り欠きのように機械的な結合により情報の読み出しが可能な構造パターンとして格納する方法が考えられる。
【0032】
また、印刷装置に取り付けたキーボードやキースイッチ又は印刷装置に接続したコンピュータ等を通じてユーザーがヘッド識別情報を手入力し、サーバーに通知するようにしても良い。この場合、ヘッド識別情報は、印刷ヘッドや印刷装置(セット)に印刷されていたり、シール上に印刷された状態で印刷ヘッドや印刷装置(セット)に貼付されていたり、書類上に印刷された状態で印刷ヘッドや印刷装置(セット)に同梱されていたりする等、ユーザーが確認可能な様々な態様が考えられる。
【0033】
改善情報保管部23は、サーバー17からダウンロードされたヘッド特性改善情報を格納する記憶領域である。改善情報保管部23には、印刷装置本体が搭載する記憶媒体の一部領域を使用する。例えばフラッシュメモリ、磁気ディスク装置その他の書き換え可能な記憶媒体を使用する。
【0034】
印刷処理部25は、色変換処理、階調補正処理、ハーフトーニング処理その他の処理機能を実行する信号処理部である。なお、印刷処理部25は、改善情報保管部23からヘッド特性改善情報を引き出して信号処理に使用する。この形態例の場合、印刷処理部25の処理機能は、ソフトウェア処理として実現する。
【0035】
印刷ヘッド27は、印刷装置15に対して着脱できる機構を有している。なお、印刷ヘッド27の着脱は、ユーザー自身が交換可能な場合に限らず、サポートスタッフによる交換を想定する場合も含むものとする。
【0036】
なお、印刷ヘッド27の印刷方式(印刷機構)は、シリアルヘッド方式でもラインヘッド方式でも良い。図8に示すシリアルヘッド方式の場合、印刷素子の配列幅が記録幅よりも短く形成される。このため、印刷像の形成には、被記録媒体を少しずつ搬送させては止めて、印刷ヘッド27を被記録媒体の記録幅方向に対して往復駆動させながら印画する。
【0037】
一方、図9に示すラインヘッド方式の場合、印刷素子の配列幅は記録幅と同じ若しくは少し広い。このため、印刷ヘッドを固定した状態のまま、被記録媒体側を搬送方向に搬送しながら印画するだけで印刷像を形成することができる。また逆に、被記録媒体側を固定したまま、印刷ヘッドを搬送しながら印画するだけでも印刷像を形成することができる。
【0038】
なお、ラインヘッド方式の印刷ヘッド27には、図9(A)に示すように、1つの画素列を1つの印刷素子で形成する方式と、図9(B)に示すように、1つの画素列を複数の印刷素子で形成する方式がある。
【0039】
ここで、図9(A)に示す印刷方式は、サーマルヘッドやインクジェット方式の印刷ヘッドに採用されている。一方、図9(B)に示す印刷方式は、出願人が提案するインクジェット方式の印刷ヘッドに採用されている。
【0040】
また、印刷ヘッド27には、1つのピクセルを多階調で表現できるものがある。例えば図10に示すように、1つのピクセル領域31内に複数個のドット33を形成することにより多階調を表現できるものがある。因みに、図10(A)は、ピクセル領域31内に4つのドット33を重畳的に形成する印刷方式の例を示す。
【0041】
また、図10(B)は、ピクセル領域31を9つのサブピクセル領域に分割し、1つのピクセルを最大9個のドットで形成する印刷方式の例を示す。
また例えば図11に示すように、ドット33の大きさを可変することにより多階調を表現できるものもある。
【0042】
因みに、図11(A)は、ドット33の大きさが小さい場合であり、図11(B)は、ドット33の大きさが大きい場合である。
【0043】
図12に、サーバー17の機能構成例を示す。サーバー17は、データベース41、ヘッド識別情報受信部43及び改善情報送信部45で構成される。
【0044】
このうち、データベース41は、個々の印刷ヘッド27に付されるヘッド識別情報(例えばシリアル番号)と、そのヘッド特性改善情報とを関連付けて保存する記憶領域である。管理対象とする全ての情報を保存するため、例えば大容量のハードディスク装置が使用される。
【0045】
ヘッド識別情報受信部43は、ネットワーク13経由で印刷装置15側からヘッド識別情報を受信する処理機能を実現する。一方、改善情報送信部45は、ヘッド識別情報に対応するヘッド特性改善情報をデータベース41から読み出し、印刷装置15に送信する処理機能を実現する。
【0046】
ここでのヘッド特性改善情報には、前述したように印刷ヘッド27を単位とする場合、印刷ヘッドの個々の印刷素子を単位とする場合、画素列を単位とする場合がある。なお、ヘッド特性改善情報は、製品出荷時に格納された情報だけでなく、メンテナンス時や修繕時の解析に基づいて設定された情報でも良い。
【0047】
例えばメンテナンス時等に、サポートスタッフが設定した改善情報でも良い。ユーザーから階調特性が劣化したため、改善してほしいといった要求があった場合、その装置の現在の印刷特性を把握し、その結果の解析に基づいた改善情報を提供することが可能となる。なお、印刷特性を把握する仕組みには、テストパターンの印刷結果を郵送等によりサポートスタッフが入手する方法やテストパターンの印刷結果を光学的に読み取った画像データとしてネットワーク13経由で入手する方法等がある。
【0048】
また、ヘッド特性改善情報は、印刷処理で使用するデータ値そのものの他、当該データの選択情報(印刷装置15側に印刷処理で使用するデータ値が選択可能な状態で格納されている場合)、当該データの決定情報(印刷処理で使用するデータ値を印刷装置15側で決定できる場合)でも良い。
【0049】
選択情報には、例えばデータ値を指定する識別コードがある。また、選択情報には、例えばインクジェット方式の印刷ヘッドの平均ノズル径がある。印刷ヘッドのノズル径は形成されるドット径に影響し、被記録媒体上に形成される階調情報の再現性に大きな影響を与えるためである。
【0050】
これらの場合、印刷装置側には識別コードや平均ノズル径に対応するデータ値の組を予め搭載しておけば良い。
この他、ヘッド特性改善情報は、印刷処理で使用する一群のデータ値の生成に必要な代表値でも良い。印刷装置の側で、代表値に基づいて他のデータ値を生成できる場合に使用する。
【0051】
(B)印刷特性の改善例
(B−1)階調補正データのダウンロード例
【0052】
ここでは、ヘッド特性改善情報として階調補正データが与えられる場合について説明する。図13に、この形態例のイメージを示す。すなわち、サーバー17がヘッド識別情報に対応する階調補正データを印刷装置15に送信する場合について説明する。
【0053】
(a)階調補正データが印刷ヘッド単位で与えられる場合
ここでは、階調補正データが印刷ヘッド単位で与えられる場合について説明する。
この例には、階調補正データが色別に与えられる場合とヘッドチップ別に与えられる場合がある。
【0054】
階調補正データが色別に与えられる場合、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色別に階調補正データが与えられる。
階調補正データがヘッドチップ別に与えられる場合、印刷ヘッド27を構成するヘッドチップ別に階調補正データが用意される。
【0055】
例えばラインヘッド方式の印刷ヘッドでは、ヘッド長が長いため、複数個のヘッドチップを組み合わせて1つの印刷ヘッドを構成することが多い。
【0056】
図14に、この種の印刷装置例を示す。図14に示す印刷装置51は、改善情報読取部21、改善情報保管部23、印刷処理部25(色変換部251、階調補正部253、ハーフトーニング部255)及び印刷ヘッド27で構成されている。
【0057】
この印刷装置51の場合、初回印刷時や印刷ヘッドの装着時等に、改善情報読取部21が印刷ヘッド27のシリアル番号を読み取ってネットワーク13経由でサーバー17に与えると共に、対応する階調補正データをサーバー17からダウンロードする。
【0058】
ダウンロードされた階調補正データは、改善情報保管部23に格納される。もっとも、印刷のたびにダウンロードを実行することもできる。しかし、ダウンロード時間だけ印刷に要する時間が長くなるので、ここでは印刷処理を実行する前に改善情報保管部23に格納する手法を採用する。
【0059】
印刷実行時には、まず、色変換部251がRGBの3原色で与えられる入力データを色分解し、インク色のイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)に対応する色変換後データY、M、C、Kに変換する。
【0060】
次に、階調補正部253は、改善情報保管部23に保管されている階調補正データを参照し、印刷ヘッドそれぞれの階調特性が理想的な特性になるように補正処理を実行する。階調補正後の入力データは、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”として出力される。なお、階調補正データの参照は、色別又はヘッドチップ単位で行うことができる。
【0061】
ハーフトーニング部255は、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”に対するハーフトーニング処理を実行してヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’を生成し、印刷ヘッド27に与える。
この結果、印刷ヘッド27の印刷特性のバラツキに関わらず、被記録媒体上に再現される階調特性を理想的な状態に近づけることができる。
【0062】
(b)階調補正データが印刷素子単位で与えられる場合
ここでは、階調補正データが印刷ヘッドを構成する個々の印刷素子毎に与えられる場合について説明する。この場合は、印刷素子毎に階調特性を補正できるため、印刷品質をより高めることができる。
【0063】
例えば特定の印刷素子の階調再現特性が他の印刷素子と異なる場合に効果的である。なお、
図15に、この種の印刷装置例を示す。図15に示す印刷装置61は、改善情報読取部21、改善情報保管部23、印刷処理部25(色変換部251、階調補正部253、ハーフトーニング部255)及び印刷ヘッド27で構成されている。
【0064】
この印刷装置61の場合も、初回印刷時や印刷ヘッドの装着時等に、改善情報読取部21が印刷ヘッド27のシリアル番号を読み取ってネットワーク13経由でサーバー17に与えると共に、対応する階調補正データをサーバー17からダウンロードする。
【0065】
ダウンロードされた階調補正データは、改善情報保管部23に格納される。もっとも、印刷のたびにダウンロードを実行することもできる。しかし、ダウンロード時間だけ印刷に要する時間が長くなるので、ここでは印刷処理を実行する前に改善情報保管部23に格納する手法を採用する。
【0066】
印刷実行時には、まず、色変換部251がRGBの3原色で与えられる入力データを色分解し、インク色のイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)に対応する色変換後データY、M、C、Kに変換する。
【0067】
次に、階調補正部253は、改善情報保管部23に保管されている階調補正データを参照し、各印刷素子に対応する色変換後データの階調特性が理想的な特性になるように補正処理を実行する。階調補正後の入力データは、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”として出力される。なお、階調補正データの参照は、印刷素子単位で行うことができる。
【0068】
ハーフトーニング部255は、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”に対するハーフトーニング処理を実行してヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’を生成し、印刷ヘッド27に与える。
この結果、印刷ヘッド27を構成する各印刷素子の印刷特性のバラツキに関わらず、被記録媒体上に再現される階調特性を理想的な状態に近づけることができる。
【0069】
(c)階調補正データが画素列単位で与えられる場合
一つの画素又は一つの画素列を一つの印刷素子で形成する場合には、前述したように印刷素子単位で階調特性を補正すれば良い。
【0070】
しかし、一つの画素列を複数の印刷素子で形成する場合には、補正情報を関連する複数の印刷素子に分解して適用する必要があり処理が複雑になる。この場合は、印刷素子ごとではなく、画素列を単位として階調補正を実行する方が処理を簡素化できる。
【0071】
特に、インク滴の吐出方向を複数方向に変更できるライン型の印刷ヘッドの場合には、有効印刷領域内の画素位置が定まると、使用する印刷素子も確定される。従って、画素列ごとに色変換後データを階調補正すれば、その補正結果を複数の印刷素子に与えることができる。
【0072】
図16に、この種の印刷装置例を示す。図16に示す印刷装置71は、改善情報読取部21、改善情報保管部23、印刷処理部25(色変換部251、階調補正部253、ハーフトーニング部255)及び印刷ヘッド27で構成されている。
【0073】
この印刷装置71の場合も、初回印刷時や印刷ヘッドの装着時等に改善情報読取部21が印刷ヘッド27のシリアル番号を読み取ってネットワーク13経由でサーバー17に与えると共に、対応する階調補正データをサーバー17からダウンロードする。
【0074】
ダウンロードされた階調補正データは、改善情報保管部23に格納される。もっとも、印刷のたびにダウンロードを実行することもできる。しかし、ダウンロード時間だけ印刷に要する時間が長くなるので、ここでは印刷処理を実行する前に改善情報保管部23に格納する手法を採用する。
【0075】
印刷実行時には、まず、色変換部251がRGBの3原色で与えられる入力データを色分解し、インク色のイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)に対応する色変換後データY、M、C、Kに変換する。
【0076】
次に、階調補正部253は、改善情報保管部23に保管されている階調補正データを参照し、画素列毎に階調特性が理想的な特性になるように補正処理を実行する。階調補正後の入力データは、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”として出力される。なお、階調補正データの参照は、画素列単位で行うことができる。
【0077】
ハーフトーニング部255は、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”に対するハーフトーニング処理を実行してヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’を生成し、印刷ヘッド27に与える。
この結果、印刷ヘッド27を構成する各印刷素子の印刷特性のバラツキに関わらず、被記録媒体上に再現される階調特性を理想的な状態に近づけることができる。
【0078】
(B−2)誤差拡散境界値データのダウンロード例
ここまで、ヘッド特性改善手段として、階調補正曲線データを用いて、入力データの階調を補正することで、印画物上の階調特性を理想的なものにする方法に関して説明してきたが、階調補正曲線を用いて補正すると実際の階調数が減少してしまうという欠点がある。
【0079】
この欠点を補うため、本発明者は、パルス幅変調、パワー変調、又は1画素内の打ち込み回数変調等を通じて1画素で3値から8値程度の階調を出力できる印刷装置に関し、印刷結果が理想的な階調特性曲線に沿うように多値誤差拡散用の境界値(誤差拡散境界値データ)を最適化する方法(特許文献1)を提案している。
【特許文献1】特開2005−252633号公報
【0080】
この方法を適用した場合、階調数を大幅に減少させることなく入力信号に対する画像濃度を理想的な関係に近づけることが可能になる。なお、境界値間の階調特性は、理想的な特性曲線に対して多少ずれることがある。そこで、実際の印刷システムでは、ずれを微調整する目的で階調補正部を併用することもある。
【0081】
なお、最適化に使用する多値誤差拡散用の境界値(以下、誤差拡散境界値データという。)の与え方には、印刷ヘッドを単位とする方法、印刷素子を単位とする方法、画素列を単位とする方法、インク色を単位とする方法等がある。
【0082】
また、最適化に必要な誤差拡散境界値データを印刷装置に設定する方法には、誤差拡散境界値データそのものをサーバー17からダウンロードして印刷装置に設定する方法、誤差拡散境界値データを選択するための情報又は決定するための情報をサーバー17からダウンロードし、当該情報に基づいて一組の境界値を印刷装置に設定する方法、誤差拡散境界値データを構成する境界値の数を選択する又は決定するための情報をサーバー17からダウンロードし、当該情報に基づいて誤差拡散境界値データを印刷装置に設定する方法等がある。
【0083】
ここでは、前述したいずれかの誤差拡散境界値データがヘッド特性改善情報として与えられる場合について説明する。図17に、この形態例のイメージを示す。すなわち、サーバー17がヘッド識別情報に対応する誤差拡散境界値データを印刷装置15に送信する場合について説明する。
【0084】
(a)誤差拡散境界値データが印刷ヘッド単位で与えられる場合(その1)
ここでは、誤差拡散境界値データが印刷ヘッド単位で与えられる場合について説明する。この例には、誤差拡散境界値データが色別に与えられる場合とヘッドチップ別に与えられる場合がある。
【0085】
図18に、この種の印刷装置例を示す。図18に示す印刷装置81は、改善情報読取部21、改善情報保管部23、印刷処理部25(色変換部251、階調補正部253、ハーフトーニング部255)及び印刷ヘッド27で構成されている。
【0086】
この印刷装置81の場合も、初回印刷時や印刷ヘッドの装着時等に改善情報読取部21が印刷ヘッド27のシリアル番号を読み取ってネットワーク13経由でサーバー17に与えると共に、対応する誤差拡散境界値データをサーバー17からダウンロードする。
【0087】
ダウンロードされた誤差拡散境界値データは、改善情報保管部23に格納する。もっとも、印刷のたびにダウンロードを実行することもできる。しかし、ダウンロード時間だけ印刷に要する時間が長くなるので、ここでは印刷処理を実行する前に改善情報保管部23に格納する手法を採用する。
【0088】
印刷実行時には、まず、色変換部251がRGBの3原色で与えられる入力データを色分解し、インク色のシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)に対応する色変換後データY、M、C、Kに変換する。
【0089】
次に、階調補正部253は、出荷時等に設定された変換条件に従い、入力データの階調特性が理想的な特性になるように補正処理を実行する。階調補正後の入力データは、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”として出力される。なお、階調補正データの参照は、色別又はヘッドチップ単位で行うことができる。
【0090】
ハーフトーニング部255は、改善情報保管部23に保管されている誤差拡散境界値データを参照し、印刷ヘッドそれぞれの階調特性が理想的な特性になるように誤差拡散処理を実行する。
【0091】
すなわち、ハーフトーニング部255は、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”に対するハーフトーニング処理を実行してヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’を生成し、印刷ヘッド27に与える。
【0092】
この結果、印刷ヘッド27の印刷特性のバラツキに関わらず、被記録媒体上に再現される階調特性を理想的な状態に近づけることができる。
なお、階調補正部253を用いずに、色変換部251で変換した色変換後データY、M、C、Kをハーフトーニング部255で処理する方法を用いても良い。
【0093】
図19に、境界値テーブルを変更することで画像濃度が変化する様子を示す。この図19は、1画素を5段階で印画(印画しない(レベル0)、レベル1で印画、レベル2で印画、レベル3で印画、レベル4で印画)できる場合に、入力信号をこれら5レベルのいずれかに多値誤差拡散する場合の関係を示している。
【0094】
図19(A)は、入力信号を0から255とする場合に、入力信号が0の時は印画しない、入力信号が64のときはレベル1で印画し、入力信号が128のときはレベル2で印画し、入力信号が196のときはレベル3で印画し、入力信号が255のときはレベル4で印画することとし、入力信号が1から63の間のときは印画しないかレベル1で印画するかのどちらか、入力信号が65から127までのときはレベル1で印画するかレベル2で印画するかのどちらか、入力信号が129から195までのときはレベル2で印画するかレベル3で印画するかのどちらか、入力信号が197から254のときはレベル3で印画するかレベル4で印画するのかどちらかという風に境界値を設定して多値誤差拡散を行なった場合の入力信号と濃度との関係を表したものである。
【0095】
ここで、レベル1で印画する64、レベル2で印画する128等は、多値誤差拡散の範囲を切り替える境界となっているので誤差拡散の境界値と呼ぶ。ここで、入力信号と濃度の関係が比例関係になるのが理想的な場合は、この印刷ヘッドの階調特性に応じて境界値テーブルを最適化すると、図19(B)に示すように階調幅が減少することなく、ほぼ理想的な階調特性に補正される。
【0096】
なお、ダウンロードする誤差拡散境界値データは、一組の境界値に対応する境界値テーブルの形態で印刷装置15に送信する場合の他、あらかじめ装置の中に用意されていた複数の境界値テーブルの中から最適な境界値テーブルを選択するためのデータや境界値テーブル自身を決定するためのデータの形態で印刷装置15に送信しても良い。
【0097】
例えば図20に示すテーブルデータ(選択情報と境界値テーブルが関連付けられているデータ)が印刷装置15に予め搭載されている場合には、その選択データを送信する。
図21に示すテーブルデータ(決定情報と境界値テーブルが関連付けられているデータ)が印刷装置15に予め搭載されている場合には、その決定データを送信する。図21は、決定データに印刷ヘッド27の平均ノズル径を使用する例を示す。
【0098】
(b)誤差拡散境界値データが印刷ヘッド単位で与えられる場合(その2)
前述の説明は、境界値の組み合わせの変更により再現される階調カーブを最適化する場合について説明した。
【0099】
しかし、印刷ヘッドの最高濃度にバラツキがあると、境界値を変更するだけでは階調カーブを理想的な階調カーブに近づけることができない。
最高濃度のバラツキ例を図22に示す。
【0100】
図22に示す印刷ヘッドAの場合、3ドットで最高濃度として必要な濃度に達している。一方、印刷ヘッドBの場合、5ドットで最高濃度として必要な濃度に達している。また、印刷ヘッドCの場合、4ドットで最高濃度として必要な濃度に達している。このような濃度特性の違いは、例えばノズル径の違いや吐出力のバラツキに起因したドット径の大きさの違い等により発生する。
【0101】
このような特性がある場合、誤差拡散の境界値だけを最適化しても最高濃度近辺の濃度特性に大きな差を生じてしまう。そこで、各印刷ヘッドの濃度特性が揃うように境界値の数も変えて境界値を設定する。
【0102】
例えば図22の印刷ヘッドAに対しては、誤差拡散用の境界値を0,138,212,255の4つに設定する。また、図22の印刷ヘッドBに対しては、誤差拡散用の境界値を0,76,134,182,224,255の6つに設定する。
【0103】
同様に、図22の印刷ヘッドCに対しては、誤差拡散用の境界値を0,100,169,220,255の5つに設定する。
この場合、入力データに対する各印刷ヘッドの画像濃度は、図23、図24、図25に示すようになる。
【0104】
誤差拡散用の境界値をこのように決定すれば、いずれの印刷ヘッドも理想的な階調特性を得ることができる。
なお、図23〜図25の場合には、理想的な階調特性が直線状に並ぶかのように図示しているが、これは曲線でもかまわず、その理想曲線上に境界値のデータが乗るように設定すれば良い。
【0105】
ところで、このように誤差拡散の境界値を任意に設定する方法は、多値誤差拡散処理に要する計算量が増大し、処理時間がかかりすぎる懸念がある。
しかし、図26〜図28に示すように各入力データ値に対する閾値、境界値、出力値などをテーブル化にしておけば、計算や処理の負担を軽減することができる。
【0106】
なお、閾値は、入力信号値に周辺画素の誤差成分を加算した値(入力値)に対する判定基準として用いられる。
境界値Lは、入力値が判定閾値より小さい場合に割り当てられる境界値である。境界値Hは、入力値が判定閾値より大きい場合に割り当てられる境界値である。
【0107】
出力値Lと出力値Hはそれぞれ、判定閾値より小さい入力値と判定閾値より大きい入力値に割り当てるドット数(量子化値)である。
以上のように、誤差拡散境界値データを最適化することにより、階調カーブだけでなく最高濃度のバラツキも少ない理想的な階調特性に近づけることができる。
【0108】
(B−3)ヘッド駆動信号補正データのダウンロード例
ここでは、ハーフトーニング処理後のヘッド駆動信号を補正するデータをヘッド特性改善情報としてダウンロードする場合について説明する。図29に、この形態例のイメージを示す。すなわち、サーバー17がヘッド識別情報に対応するヘッド駆動信号補正データを印刷装置15に送信する場合について説明する。
【0109】
(a)ヘッド駆動信号補正データが印刷素子又は画素列単位で与えられる場合
図30に、この種の印刷装置例を示す。図30に示す印刷装置91は、改善情報読取部21、改善情報保管部23、印刷処理部25(色変換部251、階調補正部253、ハーフトーニング部255、出力補正部257)及び印刷ヘッド27で構成されている。
【0110】
この印刷装置91の場合、初回印刷時や印刷ヘッドの装着時等に改善情報読取部21が印刷ヘッド27のシリアル番号を読み取ってネットワーク13経由でサーバー17に与えると共に、対応するヘッド駆動信号補正データをサーバー17からダウンロードする。
【0111】
ダウンロードされたヘッド駆動信号補正データは、改善情報保管部23に格納される。もっとも、印刷のたびにダウンロードを実行することもできる。しかし、ダウンロード時間だけ印刷に要する時間が長くなってしまう。従って、ここでは印刷処理を実行する前に改善情報保管部23に格納する手法を採用する。
【0112】
印刷実行時には、まず、色変換部251がRGBの3原色で与えられる入力データを色分解し、インク色のイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)に対応する色変換後データY、M、C、Kに変換する。
【0113】
次に、階調補正部253は、出荷時等に設定された変換条件に従い、入力データの階調特性が理想的な特性に近い特性になるよう補正処理を実行する。階調補正後の入力データは、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”として出力される。なお、階調補正データの参照は、色別又はヘッドチップ単位で行うことができる。
【0114】
ハーフトーニング部255は、階調補正後信号Y”、M”、C”、K”に対するハーフトーニング処理を実行してヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’を生成し、出力補正部257に出力する。
【0115】
出力補正部257は、印刷素子又は画素列単位で設定されたヘッド駆動信号補正データを読み出してヘッド駆動信号Y’、M’、C’、K’を補正し、補正後ヘッド駆動信号Yout 、Mout 、Cout 、Kout として印刷ヘッド27に出力する。
この結果、印刷ヘッド27の印刷特性のバラツキに関わらず、被記録媒体上に再現される階調特性を理想的な状態に近づけることができる。
【0116】
以下、具体例を示す。ここでは、ある画素列に対応するヘッド駆動信号が3、3、3、3、3、3、3、3、3、3で与えられるものとする。
また、ヘッドはヘッド駆動信号が0のときは、その画素を印画せず、1のときはレベル1の印画、2のときはレベル2の印画、3のときはレベル3の印画・・・というふうに、ヘッド駆動信号の値が大きくなるにつれて、濃度が濃くなるような印画をすることとする。
【0117】
濃度を濃くする方法としては、インクジェット方式の印刷装置であれば、その画素に打ち込む液滴の数を増やしたり、液滴の大きさを変えたり、液滴の濃さを変えたりするなどの方法がある。また、熱転写方式の印刷装置であれば、与える熱量をかえて転写するインクの面積を変えるなどの方法がある。
【0118】
この場合、当該画素列に対応するヘッド駆動信号補正データが1.2(補正しない場合を1とする。)に設定されているとすると、出力補正部257は、変換式に基づいて仮出力値を算出する。
【0119】
変換式は、補正前出力値と補正情報を変数とする関数として定義する。すなわち、仮出力値=f(補正前出力値,補正情報)として定義する。ここでは、f(補正前出力値,補正情報)=補正前出力値×補正情報と定義する。
【0120】
この場合、前述したヘッド駆動信号列は、3.6、3.6、3.6、3.6、3.6、3.6、3.6、3.6、3.6、3.6に変換される。
【0121】
ここで、レベル3.6という印画が可能な印刷装置であれば、レベル3.6という印画を行なう。
しかし、印刷素子によるドットの形成をステップ的にしか与えられない場合には、補正後ヘッド駆動信号が整数値である必要がある。
この場合には、仮出力値を疑似誤差拡散処理し、補正後ヘッド駆動信号を生成する。
【0122】
例えば閾値を3.5とすると、仮出力値は閾値を超えるので、最初のヘッド駆動信号は4に変換される。次のヘッド駆動信号を計算する場合は、直前のヘッド駆動信号(仮出力値)と実際の出力値との差分(ここでは、−0.4)を次のヘッド駆動信号(仮出力値)に加えたものを閾値と比較し、補正後ヘッド駆動信号とする。
【0123】
すなわち、3.2(=3.6+(−0.4))を閾値3.5と比較することにより、2番目のヘッド駆動信号を3に変換する。
以後、この処理を継続することにより、同じ印刷素子又は画素列に対する補正後ヘッド駆動信号を整数化する。前述の例の場合、補正後ヘッド駆動信号は、4、3、4、3、4、4、3、4、3、4に変換される。
【0124】
なお、この説明では、疑似誤差拡散処理の際に発生する誤差を次に入力されるヘッド駆動信号に100%振り分けているが、誤差の2/3を次のヘッド駆動信号に振り分け、誤差の1/3を次の次のヘッド駆動信号に振り分けることもできる。すなわち、重み付きの誤差拡散処理を採用することもできる。
【0125】
また、ここでの説明では、画素列方向(主走査方向)に誤差を拡散し、副走査方向に隣接する他の画素列との相関は求めていない。このため、同じような周期で濃淡が生じる可能性がある。この濃淡の出現は、濃淡ムラとして知覚される可能性がある。これを防ぐには、初期の誤差を乱数で与える仕組みや隣り合う他の画素列の補正状況を考慮して補正値を決定する仕組みを採用する。
【0126】
(C)各形態例の効果
以上説明したように、ヘッド特性改善情報をネットワーク経由でサーバー側から印刷装置に提供する仕組みを採用することにより、従来技術では得られない以下の効果を実現できる。
【0127】
まず、個々の印刷ヘッドにヘッド特性改善情報を記憶する必要がなくなるので製造コストを下げることができる。
また、ヘッド特性改善情報は必要なだけサーバーに蓄えることができるため(印刷装置側では印刷ヘッドではなく、装置本体の記憶領域に格納できるため)、記憶領域の制約があった従来手法よりも詳細な情報を用いて補正することが可能となる。
【0128】
また、印刷ヘッドにはヘッド特性改善情報の記憶領域を搭載しないため、読み出し不良、情報紛失、情報変更その他の従来の問題を回避できる。
また、ヘッド特性改善情報がサーバー側で管理されるため、ユーザーがどのような情報に基づいて補正して印画しているのかがわからないという事態を避けることができる。
【0129】
結果的に、印刷特性の劣化時や不良発生時に、印刷装置の提供側において、より正しい対応が可能になる。例えば経時変化等で補正情報を修正する必要が生じた場合にも、症状に適した新たな補正情報を提供することができる。
【0130】
(D)印刷装置の応用例
最後に、印刷装置の応用例を示す。
前述した印刷装置は、様々な用途の製品に応用できる。
【0131】
例えばキオスク型の印刷装置に応用できる。図31に、キオスク型の印刷装置の一般的な外観構成を示す。この種の印刷装置101は、筐体103の前面に操作用の表示領域105と、メディア挿入口107と、印刷物排出口109を搭載する。
【0132】
また例えば、汎用型の印刷装置にも応用できる。図32に、この種の印刷装置に一般的な外観構成を示す。この種の印刷装置111は、筐体113の前面にメディア挿入口115と表示領域117を搭載する。
【0133】
また例えば、医療機関等の特殊な用途で使用する印刷装置にも応用できる。医療現場等で使用する印刷装置の場合、レントゲン写真のようにモノクロ画像やMRI画像のようなカラー画像の印刷に使用される。特に、発明者の提案する印刷装置では、階調情報をほとんど失わずに再現できるのに加え、最高濃度のばらつきの影響も無いため非常に高い画質を期待できる。
【0134】
また、表示デバイスを構成するカラーフィルターや各種電子デバイスのパターン印刷に使用する印刷装置にも適用できる。印刷特性にバラツキがある場合でも、製造装置の提供者側でその印刷特性を改善する情報を管理すれば、ネットワーク経由で印刷特性を改善することができる。
【0135】
(E)他の形態例
(a)印刷ヘッド単位の補正と印刷素子又は画素列単位の補正の組み合わせ
前述の説明では、印刷ヘッド単位で印刷特性を補正する場合と印刷素子又は画素列単位で印刷特性を補正する場合について説明した。
【0136】
しかし、両方の補正機能を搭載する印刷装置にも適用できる。図33に、印刷装置例を示す。図33は、印刷ヘッド単位の補正処理をハーフトーニング部255で実行し、印刷素子又は画素列単位の補正処理を出力補正部257で実行する場合の構成例である。
【0137】
(b)ヘッド特性改善情報の更新
前述の形態例においては、基本的に事前に用意されたヘッド特性改善情報をサーバー側から印刷装置側に提供する場合について説明した。
しかし、より良い印刷結果を実現するには、使用開始後もヘッド特性を適時改善できる仕組みが求められる。
【0138】
図34に、そのイメージ図を示す。図34に示すように、印刷装置でテストパターンの印刷結果をサーバー側に通知する方法には、2通りの方法が考えられる。一つは、印刷物を郵送サービスや配送サービスを用いてサーバー側に送付する方法である。他の一つは、印刷物をスキャナーで読み込んだデータをネットワーク経由でサーバー側に送付する方法である。
【0139】
図35に、テストパターン例を示す。図35(A)は、複数個の濃度パターンを用意することで階調曲線上の数点の印刷濃度を測定するための例である。もっとも、図35(B)に示すように、1つの濃度パターンより印刷濃度を測定することにより補正データを決めることもできる。
また、ここには図示しないが、たとえば入力データ0から255のすべてに対する濃度パターンを印画するようにしても良い。
【0140】
ところで、印刷ヘッドの特性は、濃度だけでなくドットの形成位置のズレもあり、それぞれに適したテストパターンを使用する。なお、言うまでもなく印刷結果は、印刷モード、被印刷媒体、画質(カラー、白黒、高品位、写真、テキスト、ドラフト、高解像度、低解像度等)によっても異なる特性がある。
【0141】
従って、これら個々の印刷条件に応じた印刷結果を用いればこれら個々の印刷条件に応じたヘッド特性改善情報を取得することができる。もっとも、1つの印刷結果から複数の印刷条件に対応したヘッド特性改善情報を取得することができる場合もある。
【0142】
(c)前述したヘッド特性改善情報の通信機能は、同等のハードウェア処理によっても実現できる。
また、これらの処理機能の全てをハードウェア又はソフトウェアで実現するだけでなく、その一部はハードウェアとソフトウェアの組み合わせ処理により実現しても良い。
【0143】
(d)前述の形態例には、発明の趣旨の範囲内で様々な変形例が考えられる。また、本明細書の記載に基づいて創作される各種の変形例及び応用例も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】印刷装置で実行されるデータ処理の概略的な流れを示す図である。
【図2】理想的な階調特性を説明する図である。
【図3】高濃度域で飽和するような階調特性を説明する図である。
【図4】階調補正機能付きのデータ処理システム例を示す図である。
【図5】階調補正曲線の一例を示す図である。
【図6】提案する印刷システムの概念構成を示す図である。
【図7】印刷装置の機能構成例を示す図である。
【図8】シリアルヘッドの印刷方式を説明する図である。
【図9】ラインヘッドの印刷方式を説明する図である。
【図10】1ピクセルを多階調で表現できる印刷方式を説明する図である。
【図11】1ピクセルを多階調で表現できる印刷方式を説明する図である。
【図12】サーバーの機能構成例を示す図である。
【図13】階調補正データのダウンロード例を説明する図である。
【図14】ダウンロードした階調補正データを参照する方式の印刷装置例を示す図である。
【図15】ダウンロードした階調補正データを参照する方式の印刷装置例を示す図である。
【図16】ダウンロードした階調補正データを参照する方式の印刷装置例を示す図である。
【図17】誤差拡散境界値データのダウンロード例を説明する図である。
【図18】ダウンロードした誤差拡散境界値データを参照する方式の印刷装置例を示す図である。
【図19】境界値テーブルの変更による画像濃度の再現特性の変化を説明する図である。
【図20】テーブルデータ例を示す図である。
【図21】テーブルデータ例を示す図である。
【図22】印刷ヘッド間における最高濃度のバラツキを説明する図である。
【図23】最高濃度に応じた境界値の設定例を示す図である(境界値数=4)。
【図24】最高濃度に応じた境界値の設定例を示す図である(境界値数=6)。
【図25】最高濃度に応じた境界値の設定例を示す図である(境界値数=5)。
【図26】境界値テーブル例を示す図である(境界値数=4)。
【図27】境界値テーブル例を示す図である(境界値数=6)。
【図28】境界値テーブル例を示す図である(境界値数=5)。
【図29】ヘッド駆動信号補正データのダウンロード例を説明する図である。
【図30】ダウンロードしたヘッド駆動信号補正データを参照する方式の印刷装置例を示す図である。
【図31】キオスク型の印刷装置の外観例を説明する図である。
【図32】汎用型の印刷装置の外観例を説明する図である。
【図33】印刷装置の他の構成例を示す図である。
【図34】テストパターンの印刷結果をサーバー側に通知する手法を説明する図である。
【図35】テストパターンと印刷濃度との関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0145】
1 印刷処理部
3 色変換部
5 ハーフトーニング部
7 印刷ヘッド
9 階調補正部
15 印刷装置
17 サーバー
21 改善情報読取部
23 改善情報保管部
25 印刷処理部
27 印刷ヘッド
31 ピクセル領域
33 ドット
41 データベース
43 ヘッド識別情報受信部
45 改善情報送信部
251 色変換部
253 階調補正部
255 ハーフトーニング部
257 出力補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク経由でサーバーに接続される印刷装置であって、
印刷ヘッドに固有の識別情報をネットワーク経由でサーバーに通知する改善情報要求部と、
ダウンロードされたヘッド特性の改善情報を格納する改善情報保管部と、
前記改善情報保管部に格納されたヘッド特性の改善情報を参照して印刷動作を実行する印刷処理部と
を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、印刷ヘッドを単位とする情報である
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、印刷ヘッドを構成するヘッドチップを単位とする情報である
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、色単位別の階調補正データである
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、色単位別の誤差拡散用境界値テーブルである
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、色単位別の誤差拡散用境界値テーブルを選択する情報である
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、最小印刷単位としての印刷素子別の情報である
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、画素列を単位とする情報である
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、色単位の階調補正データである
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の印刷装置において、
前記ヘッド特性の改善情報は、ヘッド駆動信号を補正する補正データである
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
印刷ヘッドに固有の識別情報とヘッド特性の改善情報とを関連づけて格納する記憶領域と、
印刷ヘッドに固有の識別情報がネットワーク経由で受信された時、当該識別情報に対応するヘッド特性の改善情報を前記記憶領域から読み出して送信する改善情報供給部と
を有することを特徴とするサーバー。
【請求項12】
請求項11に記載のサーバーにおいて、
前記ヘッド特性の改善情報は、印刷ヘッドを単位とする情報である
ことを特徴とするサーバー。
【請求項13】
請求項11に記載のサーバーにおいて、
前記ヘッド特性の改善情報は、印刷ヘッドを構成するヘッドチップを単位とする情報である
ことを特徴とするサーバー。
【請求項14】
請求項11に記載のサーバーにおいて、
前記ヘッド特性の改善情報は、最小印刷単位としての印刷素子別の情報である
ことを特徴とするサーバー。
【請求項15】
請求項11に記載のサーバーにおいて、
前記ヘッド特性の改善情報は、画素列を単位とする情報である
ことを特徴とするサーバー。
【請求項16】
印刷装置の印刷特性を改善する方法であって、
印刷ヘッドに固有の識別情報をネットワーク経由でサーバーに通知する処理と、
ダウンロードされたヘッド特性の改善情報を格納する処理と、
前記改善情報保管部に格納されたヘッド特性の改善情報を参照して印刷動作を実行する処理と
を有することを印刷特性改善方法。
【請求項17】
ネットワーク経由で接続された印刷装置から印刷ヘッドに固有の識別情報を受信する処理と、
印刷ヘッドに固有の識別情報がネットワーク経由で受信された時、当該識別情報に対応するヘッド特性の改善情報を記憶領域から読み出して送信する処理と
を有することを特徴とする印刷特性改善方法。
【請求項18】
ネットワーク経由でサーバーに接続される印刷装置に搭載されるコンピュータに、
印刷ヘッドに固有の識別情報をネットワーク経由でサーバーに通知する処理と、
ダウンロードされたヘッド特性の改善情報を格納する処理と、
前記改善情報保管部に格納されたヘッド特性の改善情報を参照して印刷動作を実行する処理と
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項19】
ネットワーク経由で印刷装置に接続されるサーバーに搭載されるコンピュータに、
ネットワーク経由で接続された印刷装置から印刷ヘッドに固有の識別情報を受信する処理と、
印刷ヘッドに固有の識別情報がネットワーク経由で受信された時、当該識別情報に対応するヘッド特性の改善情報を記憶領域から読み出して送信する処理と
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2008−273136(P2008−273136A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122387(P2007−122387)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】