説明

印刷装置、版胴、ナノ粒子印刷材料生成装置、印刷方法およびそれにより製造された電子シート

【課題】不純物の混入が抑えられるとともに、比較的均質な形状及び大きさに生成された金属のナノ粒子を含むナノ粒子インクで被印刷体にパターンの転写を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】印刷装置1は、基板Wを保持する載置ステージ20と、金属のイオンを含んだイオン溶液を供給する溶液供給部30と、イオン溶液を通過させる溶液通過層100を備える版胴10と、を備える。溶液通過層100はナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層112を備える。イオン溶液はナノ多孔質層112を通過することによって金属のナノ粒子を含むナノ粒子溶液に変化する。版胴10は、溶液通過層100の外側に形成された転写面1135から滲出したナノ粒子溶液の所定のパターンを基板Wに転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の微粒子を含む印刷材料を用いて、被印刷体にパターンを形成する技術に関するもので、特に、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、PDP用ガラス基板、磁気/光ディスク用のガラス/セラミック基板、PV、電子ペーパー、無線タグなどの各被印刷体に対して、電気配線などのパターニング印刷を行う所謂プリンテッドエレクトロニクスに好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒中に金属のナノ粒子が分散しているナノ粒子インクを被印刷体表面に吐出し、吐出された金属のナノ粒子を焼結させることで、電極や電子回路における配線パターンを形成する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属のナノ粒子がインク中に分散している金属ナノインクが、基板表面上に形成されたレジスト層の側壁と基板表面とで形成された溝に沿って吐出されることによって、パターンを形成する技術が開示されている。この方法では、金属ナノインクが吐出された後でレジスト層が除去されることにより、金属のナノ粒子によって描かれたパターンが基板上に形成される。
【0004】
また、特許文献2には、非分散性の金属のナノ粒子に、溶媒中における分散性を持たせる表面改質処理技術が開示されている。また、表面改質処理が施された金属のナノ粒子を含むナノインクについても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−260954号公報
【特許文献2】特開2008−095197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のナノ粒子インクは、あらかじめ別工程で生成された金属のナノ粒子を、溶媒中に分散させる工程を経て製造される。このため、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術は、以下に示す問題点を有する。
【0007】
一つ目は、ナノ粒子インク中に不純物が混入してしまう問題である。上述のように、ナノ粒子インクは、ナノ粒子そのものの生成工程や、生成されたナノ粒子を溶剤中に混合させる工程などの複数の工程を経て生成されるため、その分不純物が混入しやすい。また、一旦混入した不純物はナノ粒子インク中から取り除き難い。
【0008】
二つ目は、ナノ粒子の生成工程において、均質な形状及び大きさのナノ粒子の生成が難しいという問題である。各ナノ粒子の形状及び大きさが不揃いである場合、微細なパターンの形成に困難性を有する。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、不純物の混入が抑えられるとともに、比較的均質な形状及び大きさに生成された金属のナノ粒子を含むナノ粒子インクで被印刷体にパターンの転写を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、印刷装置であって、被印刷体を保持する保持部と、金属のイオンを含んだ第1溶液を供給する溶液供給部と、前記溶液供給部から供給された前記第1溶液を通過させることによって前記第1溶液を第2溶液へと変化させる溶液通過層を備えるとともに、前記溶液通過層の外側に形成された転写面から滲出した前記第2溶液の所定のパターンを前記被印刷体に転写する転写部と、を備え、前記溶液通過層が、ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、を備えることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に係る印刷装置であって、前記溶液通過層は、前記ナノ多孔質層に形成された空孔よりも径が大きい空孔が分布した補助多孔質材料によって形成され、前記転写面とは反対側において前記ナノ多孔質層に積層された補助多孔質層、をさらに備え、前記溶液供給部から供給された前記第1溶液は、前記補助多孔質層を通過した後に、前記ナノ多孔質層に与えられることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に係る印刷装置であって、前記溶液通過層は、前記ナノ多孔質層と前記転写面との間に配置された、弾性を有する樹脂多孔質層、をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1の発明ないし第3の発明のいずれか一つに記載の印刷装置であって、前記溶液供給部によって供給された前記第1溶液の温度を調節して前記溶液通過層に与える温度調節部、をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第4の発明に係る印刷装置であって、前記転写部の内部には、前記溶液通過層の層面の各部分に前記第1溶液を配送する配送空間が形成されており、前記温度調節部は、前記配送空間内に配置された温調構造を有することを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第1の発明ないし第5の発明のいずれか一つに記載の印刷装置であって、前記転写部は円筒形とされて、その外周に前記転写面が規定されるとともに、前記溶液通過層は、前記転写面よりも筒心側に配置した円筒型層構造として形成されており、前記第1溶液は、前記円筒型層構造よりも筒心側に設けられた空間に供給されることを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、第1の発明ないし第6の発明のいずれか一つに記載の印刷装置であって、前記ナノ多孔質層の空孔の孔径が2ナノメートル以上50ナノメートル以下である。
【0017】
第8の発明は、第1の発明ないし第7の発明のいずれか一つに記載の印刷装置であって、前記ナノ多孔質層の材料は窒化炭素を主たる原料とする。
【0018】
第9の発明は、版胴であって、円筒構造として形成され、金属のイオンを含んだ第1溶液を筒心側から筒面側に向かって通過させることによって前記第1溶液を第2溶液へと変化させる溶液通過層と、前記円筒構造の前記筒心側に設けられ、前記第1溶液を受け入れて前記溶液通過層に導入する溶液供給管と、を備え、前記溶液通過層の筒面側に所定のパターンを形成することによって、前記第2溶液のパターンを被印刷体に転写可能であり、前記溶液通過層が、ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、を備えることを特徴とする。
【0019】
第10の発明は、第9の発明に係る版胴であって、前記溶液供給管が前記円筒構造の回転軸を構成する。
【0020】
第11の発明は、第9の発明または第10の発明に係る版胴であって、前記溶液通過層の前記円筒構造の筒心側の空間が、前記第1溶液を前記溶液通過層の層面の各部分に配送する配送空間とされており、前記配送空間内に配置された温調構造、をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
第12の発明は、ナノ粒子印刷材料生成装置であって、金属のイオンを含んだ第1溶液を供給する溶液供給部と、前記溶液供給部から供給された前記第1溶液を通過させることによって前記第1溶液を第2溶液へと変化させる溶液通過層と、を備え、前記溶液通過層が、ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、を備えることを特徴とする。
【0022】
第13の発明は、印刷方法であって、金属のイオンを含んだ第1溶液を所定の溶液通過層に通過させることによって、前記第1溶液を第2溶液へと変化させる工程と、前記溶液通過層の外側に形成された転写面から滲出した前記第2溶液の所定のパターンを被印刷体に転写する工程と、を備え、前記溶液通過層が、ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、を備えることを特徴とする。
【0023】
第14の発明は、第13の発明に係る印刷方法によって印刷された電子回路パターンを有する電子シートである。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明から第14の発明において、金属のイオンを含んだ第1溶液がナノ多孔質層を備える溶液通過層を通過することによって金属のイオンが還元されて微粒子が生成される。つまり、第1溶液から、金属の微粒子を含む溶液が第2溶液として生成される。このように、金属の微粒子の生成工程と、金属の微粒子を溶液中で分散させる工程とが一つの工程として行われるため、不純物の混入を抑えられる。
【0025】
また、生成される微粒子はナノ多孔質層の空孔のサイズと同等の粒子径を有するため、各微粒子の粒子径を揃えることができる。また、いずれの空孔においても微粒子の生成条件はほぼ一定であるため、生成される微粒子の形状を揃えることができる。
【0026】
特に、第1ないし第11の発明では、転写面から滲出した第2溶液のパターンが被印刷体に転写されるため、転写面に余分に付着した第2溶液をかき取る部材(ドクターブレードに相当する部材)が不要であり、簡易な装置構成を実現できるという利点もある。
【0027】
特に、第2の発明において、溶液通過層は、ナノ多孔質層に形成された空孔よりも径が大きい空孔の分布を有する補助多孔質層をさらに備える。このため、溶液通過層の強度が増すとともに、第1溶液が溶液通過層を流れる際の抵抗を低く抑えられる。また、ナノ多孔質層が溶液通過層に占める割合は小さくなるため、溶液通過層の作製にかかるコストも抑えられる。
【0028】
特に、第3の発明において、溶液通過層が、弾性を有する樹脂材料からなる樹脂多孔質層をさらに備える。このため、印刷処理時に、溶液通過層が被印刷体に押し当てられても、樹脂多孔質層がその衝撃を和らげるため、ナノ多孔質層が破壊されることを抑えられる。
【0029】
特に、第4の発明において、温度調節部が溶液供給部によって供給された第1溶液の温度を調節する。これによって、外気条件によらず、第1溶液はその粘度が一定に保持された状態で供給される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る印刷装置の側面図である。
【図2】第1の実施形態に係る印刷装置が備える制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る版胴の部分断面図である。
【図4】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】印刷処理の一部である被覆層形成工程が実施される前の版胴の部分断面図である。
【図6】印刷処理の一部である被覆層形成工程が実施された後の版胴の部分断面図である。
【図7】印刷処理の一部であるパターン形成層作製工程が実施されている状態の版胴の部分断面図である。
【図8】印刷処理の一部である溶液供給工程の様子を示す図である。
【図9】印刷処理の一部である洗浄工程の様子を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る版胴の部分断面図である。
【図11】変形例に係る転写プレートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0032】
<1.第1の実施形態>
<1−1.印刷装置1の説明>
図1には、本発明の実施形態に係る印刷装置1の側面図が示されている。
【0033】
印刷装置1は、円筒形の版胴10、載置ステージ20、溶液供給部30及び温調水供給部40を備える。また、印刷装置1は、装置の各動作機構を制御して印刷処理を実行させる制御部90を備える。なお、制御部90は印刷装置1とは別体に構成されたコンピュータであってもよい。制御部90に予めインストールされたプログラムに従って、後述する一連のシーケンスが実行される。
【0034】
印刷処理は被印刷体が載置ステージ20上に載置及び保持された状態で実施される。本実施形態では、例えばガラス基板などの基板Wが被印刷体に使用される。
【0035】
載置ステージ20は平板状の外形を有し、その上面に基板Wを水平姿勢に載置する。載置ステージ20の上面には複数の図示しない吸引孔が形成されており、この吸引孔に負圧(吸引圧)を形成することによって、載置ステージ20上に載置された基板Wが固定保持される。
【0036】
載置ステージ20には、一対の直動ガイド71及びリニアモータ72などの移動機構70が配設されている。これらの移動機構70が駆動することによって、載置ステージ20は、所定の速度で基台80の上を図1における水平Y軸方向に沿って往復搬送される。
【0037】
印刷装置1は、基台80に設置されるとともに、鉛直方向(Z軸方向)に沿って昇降可能な図示しない昇降テーブルを備える。この昇降テーブルが後に詳述する版胴10を保持する。載置ステージ20と版胴10との鉛直方向における間隔は、昇降テーブルを昇降させることによって調節することができる。これによって、印刷処理時における基板Wへの版胴10の押圧力が調節される。なお、版胴10は着脱自在であり、昇降テーブルに対して容易に取り外し又は取り付けを行うことができる。
【0038】
溶液供給部30はイオン溶液供給部31と洗浄溶液供給部32とを備える。イオン溶液供給部31はイオン溶液(第1溶液)が貯留されるイオン溶液貯留部310と、イオン溶液を所定の圧力で後述する溶液通過層100に押し流すポンプ311と、を備える。
【0039】
イオン溶液は、金属のイオンが溶剤中に存在する溶液であって、基板Wにパターンを転写する際に使用される溶液(第2溶液)の基礎となる液体材料である。金属としては例えば金などが使用される。本実施形態では、イオン溶液に含まれる金属のイオンが還元されて、ナノメートルオーダーのサイズを有する微粒子(以下において、ナノ粒子と称する。)が生成される。つまり、第1溶液であるイオン溶液から、金属のナノ粒子が溶剤中に存在するナノ粒子溶液が第2溶液として生成される。
【0040】
洗浄溶液供給部32は、洗浄溶液が貯留される洗浄溶液貯留部320と、洗浄溶液を所定の圧力で溶液通過層100に押し流すポンプ321とを備える。洗浄溶液は、溶液通過層100の内部に残るイオン溶液、ナノ粒子溶液及びパターン形成層113のレジストを除去し、溶液通過層100を洗浄するために使用される。
【0041】
イオン溶液供給部31と洗浄溶液供給部32との各々に接続された配管302及び配管303は、切替弁300を介して、溶液通過層100に繋がる流路を構成する配管301に接続されている。切替弁300が切り替えられることによって、パターン転写処理時にはイオン溶液供給部31と溶液通過層100とを繋ぐ流路が構成され、洗浄処理時には洗浄溶液供給部32と溶液通過層100とを繋ぐ流路が構成される。
【0042】
なお、図1では、配管301と後述する溶液供給配管122との接続状態が概略的に記載されている。実際には例えば、メカニカルシールが端部に取り付けられた状態の溶液供給配管122が配管301に接続されるなど、版胴10が回転しても溶液供給配管122と配管301との接続部から溶液が漏れることを抑えられる構造が採用される。
【0043】
温調水供給部40は、所定の温度に調節された温調水を貯留する温調水貯留部410と、温調水を所定の圧力で温調水配管41に押し流すポンプ411とを備える。
【0044】
温調水配管41は、版胴10の内側に挿通されており、その両端が版胴10の回転軸12各々の内側に位置する。後述するように、円筒型層構造とされた溶液通過層100が版胴10に形成されており、その筒心側の空間は、イオン溶液を溶液通過層100の層面の各部へ配送する配送空間SPとされている。温調水配管41は、この配送空間SP内に配置されている。
【0045】
温調水は室温よりも高温に昇温されており、配管401を流れて、回転軸12の一端に位置する温調水配管41の端部から温調水配管41の内部に供給され、回転軸12の他端に位置する温調水配管41の端部から排出される。温調水配管41から排出された温調水は、再び温調水貯留部410に回収、又は廃棄される。
【0046】
また、配管401は、図1では概略的に記載されているが、実際には温調水配管41側の配管401の部分は配管301の内側に配置されており、それ以外の配管401の部分は配管301の一部分から配管301の外側に延び出て、温調水供給部40に接続されている。温調水配管41と配管401との接続及び温調水配管41と図示しない排出配管との接続にも、例えばメカニカルシールが使用されるなど、版胴10が回転しても各接続部分から温調水が漏れることを抑えられる構造が採用される。
【0047】
図2には、制御部90のハードウェア構成が示されている。制御部90のハードウェアとしての構成は、一般的なコンピュータと同様である。即ち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU91、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるRОM92、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM93及び制御用ソフトウェア、又はデータなどを記憶しておく磁気ディスク94、キーボード及びマウスなどの入力部95をバスライン99に接続して構成されている。さらに、バスライン99には、リニアモータ72、図示しない版胴10の回転機構、イオン溶液貯留部310、ポンプ311、洗浄溶液貯留部320、ポンプ321、温調水貯留部410、ポンプ411などが電気的に接続されている。
【0048】
なお、後述する制御部160についても同様のハードウェア構成を備える。制御部160では基板Wに転写されるパターンのデータが記憶されている。
【0049】
<1−2.版胴10について>
図3を用いて、本実施形態における版胴10について説明する。図3には、印刷装置1が備える版胴10の部分断面図が示されている。版胴10は、主に円筒形の胴部11と、胴部11の中心軸に沿って配設された回転軸12とを備えており、X方向に延設された回転軸12を中心にして、回転機構を構成するモータMTRの駆動によって回転する。この版胴10が本実施形態における転写部に相当する。
【0050】
本実施形態における胴部11は、円筒形状(円筒型層構造)の溶液通過層100と、溶液通過層100の両端が固定されてその側面を閉塞する閉塞部120とを備える。すなわち、胴部11は、溶液通過層100が胴部11の外周部分の全面を巻回し、その両端面を一対の閉塞部120が支持するドラム型となっている。
【0051】
溶液通過層100のうちの最内面は、イオン溶液が流入する流入面101となっている。また溶液通過層100の外周面には、ナノ粒子溶液が外部に滲出する滲出面102が形成される。つまり、イオン溶液は、円筒形状の溶液通過層の筒心側(内側)から筒面側(外側)に向かって流れる。より詳細には、流入面101から流入したイオン溶液は、流入面101から滲出面102に至る溶液通過層100の内部流路に沿って流れつつ、後述する過程によってナノ粒子溶液へと変化して、最終的に滲出面102から滲出する。なお、滲出面102については後に詳述する。
【0052】
本実施形態における溶液通過層100は、その内周面が流入面101を規定するパイプ部110、マイクロ多孔質層111及びその外周面が滲出面102を規定するナノ多孔質層112を備える。
【0053】
印刷処理時には、この滲出面102に規定されるナノ多孔質層112の面の外側に、後述するパターン形成層113が形成される。より詳細には、パイプ部110、マイクロ多孔質層111、ナノ多孔質層112、及びパターン形成層113がこの順に内側から積層配置された四重かつ同心の円筒形状の構造が採用される。つまり、溶液通過層100の筒面側にパターン形成層が配置される。
【0054】
パイプ部110は円筒形状の金属で構成されており、内側の部分に空間(配送空間SP)を有する。このパイプ部110には多数の貫通孔1101がほぼ均等に分布して形成されている。パイプ部110の内側の配送空間SPに供給されたイオン溶液及び洗浄溶液は、この貫通孔1101から溶液通過層100の各層面にほぼ均等に流入する。
【0055】
パイプ部110の両端における2つの開口は閉塞部120各々によって塞がれている。閉塞部120は、パイプ部110の開口の面積よりも大きい面積を有するとともに、中心部に回転軸が接続される孔が形成された円形の平板であり、閉塞部120の中心と開口の中心とが一致するようにして、パイプ部110と一体に接続されている。従って、閉塞部120は貫通孔1101が形成されたパイプ部110の面よりも外周側に張り出た部分を有する。この閉塞部120の張り出し部分がマイクロ多孔質層111、ナノ多孔質層112のX軸方向における両端部に接しており、マイクロ多孔質層111及びナノ多孔質層112の位置ずれを規制する。
【0056】
マイクロ多孔質層111は、マイクロメートルオーダーの多数の空孔のほぼ一様な分布を有する多孔質材料によって構成された多孔質層である。このマイクロ多孔質層111は、ナノ多孔質層112よりも上流側で、パイプ部110よりも下流側に配置されている。パイプ部110の貫通孔1101から溶液通過層100に流入したイオン溶液は、マイクロ多孔質層111の空孔を流路として、マイクロ多孔質層111の内部をナノ多孔質層112に向かって流れる。
【0057】
マイクロ多孔質層111は、例えば、セラミックがパイプ部110の外側の面に均等に溶射されるとともに、溶射されたセラミックの外側の面が円筒形状に削られることによって形成される。パイプ部110が用いられることによって、内側に空間を有するマイクロ多孔質層111の成形を容易に行うことができる。
【0058】
なお、ナノ多孔質層112の上流側に配置される多孔質層は、マイクロ多孔質層111に限られず、ナノ多孔質層112よりも空孔の径が大きい多孔質材料からなる多孔質層であればよい。本実施形態では、マイクロ多孔質層111が補助多孔質層に相当する。
【0059】
ナノ多孔質層112はナノメートルオーダーの多数の空孔のほぼ一様な分布を有する多孔質材料で構成された多孔質層である。このナノ多孔質層112は、マイクロ多孔質層111よりも下流側で、パターン形成層113よりも上流側に配置される。後に詳述するように、イオン溶液は、このナノ多孔質層112の空孔を流路として流れるうちにナノ粒子溶液に転換される。
【0060】
このようなナノ多孔質層112は、セラミックがマイクロ多孔質層111の外側の面に均等に溶射されるとともに、溶射されたセラミックの外側の面が円筒形状に削られることによって形成される。なお、マイクロ多孔質層111とナノ多孔質層112とは、セラミック溶射の種類、加熱温度などの溶射条件に応じて、生成される空孔の孔径が変化することを利用して作り分けられる。
【0061】
本実施形態のナノ多孔質層112として、空孔の孔径が2〜50nmであり、窒素と炭素とで構成された物質であるメソポーラス窒化炭素がナノ多孔質層112に採用される。この窒化炭素で構成されたナノ多孔質層112は空孔の内部にアミノ基を備える。
【0062】
パターン形成層113は、パターンがレジスト層114に形成された構造を有する。このパターン形成層113は、ナノ多孔質層112よりも下流側に配置されており、パターンは、レジスト層114の一部が選択的に除去されることによる透孔部1131で形成されている。このため、パターン形成層113のパターンが形成されている部分では、その内側に位置するナノ多孔質層112が透孔部1131を介して外部に露出している。この透孔部1131から外部に露出した部分のナノ多孔質層112の外側の面が滲出面102に相当する。滲出面102以外のナノ多孔質層112の外側の面は、レジストによって塞がれているため、ナノ粒子溶液が外側に滲出することはない。パターン形成層113は、印刷版としての機能を有しており、印刷すべきパターンが変わると、新たなパターン用に取り替えられる。このパターン形成層113の外側の面が転写面1135に相当する。
【0063】
印刷すべきパターン(たとえば電子回路パターンや、画素配列パターン)は、ナノ粒子溶液が溶液通過層100の滲出面102からパターン形成層113の透孔部1131に滲出した状態のパターン形成層113の転写面1135が押し当てられることによって基板Wに転写される。本実施形態では、回転する版胴10が搬送される基板Wの表面に押し当てられることでパターンの転写処理が実施される。なお、パターンの転写処理は、版胴10が移動しながら、固定設置された基板Wの表面に押し当てられつつ回転することで実施される形態であっても構わない。
【0064】
本実施形態では、レジスト層114及びパターン形成層113が未形成の状態の版胴10を処理前版胴9と称する。一般的に、パターン転写処理が施される直前に、処理前版胴9に対して後述する被覆層形成工程及びパターン形成層作製工程が実施される。これによって、パターン形成層113が処理前版胴9の外側の面に形成され、版胴10を用いたパターン転写処理の実施が可能となる。
【0065】
回転軸12には、溶液供給配管122の内側に温調水配管41が挿通された二重構造の配管が採用される。
【0066】
回転軸12を構成する溶液供給配管122の一端は溶液供給部30に繋がる配管301に連結され、他端は閉塞部120の中心部に連結されている。また、溶液供給配管122の内側の空間はパイプ部110の内側の配送空間SPに連なっている。つまり、溶液供給部30から供給されたイオン溶液または洗浄溶液は、溶液供給配管122を流れて、パイプ部110の内側の配送空間SPに供給される。溶液供給配管122が回転中心である回転軸12を構成するため、版胴10が回転するにもかかわらず、比較的簡易な構成でイオン溶液及び洗浄溶液をパイプ部110の内側の配送空間SPに供給することができる。
【0067】
温調水配管41は、上述のように、溶液供給配管122と溶液供給配管122に連設されるパイプ部110との内側の配送空間SPに挿通されている。このため、イオン溶液または洗浄溶液は溶液供給配管122を流れる段階で、温調水配管41によって効率よく所定の温度に調節される。
【0068】
<1−3.印刷方法>
続いて、図4のフローチャートに沿って、本実施形態の印刷装置の動作と、それを用いた印刷方法について説明する。
【0069】
<被覆層形成工程>
被覆層形成工程(ステップS1)ではまず、処理前版胴9(図5)が、図示しないレジスト塗布機構に取り付けられる。レジスト塗布機構では、処理前版胴9をその軸心まわりに回転させつつ、レジストの被膜が処理前版胴9の外周面上に一定の膜厚で塗布される。このようにして、ナノ多孔質層112の外側の面を覆うレジスト層114、つまり本実施形態における被覆層が、図6に示すように形成される。
【0070】
<パターン形成層作製工程>
次に、ナノ多孔質層112の外側の面に形成されたレジスト層114に対してパターン形成層作製工程が実施される(ステップS2)。パターン形成層作製工程は、例えば精密レーザ150によって実施される。
【0071】
図7には、精密レーザ150がレジスト層114にパターンを形成する様子が示されている。精密レーザ150は、レジスト層114に形成されるパターンが予めパターンデータとして記憶されている制御部160に接続されている。
【0072】
この制御部160が精密レーザ150の駆動を制御する。制御部160は、精密レーザ150がレジスト層114に照射するレーザをパターンデータに則って変調させつつ、精密レーザ150を版胴10の延在方向(X軸方向)に沿って走査させる。精密レーザ150が処理前版胴9の延在方向(X軸方向)に沿ってレジスト層114の一端から他端に移動すると、処理前版胴9は所定の角度だけ回転し、精密レーザ150は、未走査のレジスト層114の面に露光を行う。
【0073】
露光処理が施されたレジスト層114に対して現像処理が実施される。これによって、精密レーザ150に照射されたレジストの部分は取り除かれ、パターン形成層113が作製される。
【0074】
<溶液供給工程>
図8には、溶液供給工程(ステップS3)における版胴10の様子が示されている。
【0075】
まず、版胴10が印刷装置1の昇降テーブルに取り付けられるとともに、昇降テーブルの高さ調整、換言すれば載置ステージ20と版胴10との間隔が調節される。また、溶液供給配管122と配管301とが連結されるとともに切替弁300が切り替えられて、溶液供給部30と溶液供給配管122とを繋ぐイオン溶液の流路が構成される。さらに、温調水配管41の一端に配管401が連結され、温調水配管41の他端に図示しない温調水の排出管が連結される。このようにして、温調水供給部40によって供給された温調水が温調水配管41を流れる流路が構成される。
【0076】
続いて、温調水貯留部410が備える開閉弁が開放されて、所定の温度に調節された温調水の供給が開始される。温調水は、ポンプ411によって所定の圧力で押し流され、温調水配管41に供給される。
【0077】
そして、イオン溶液供給部31がイオン溶液の供給を開始する。イオン溶液貯留部310が備える開閉弁が開放されることで流れ出たイオン溶液はポンプ311の駆動により所定の圧力で押し流され、パイプ部110の内側の配送空間SPに供給される。このとき、イオン溶液は溶液供給配管122内で温調水配管41(温調構造)の外側の面に接しつつ流れるため、所定の温度に調節される。つまり、イオン溶液の粘度が調節される。
【0078】
ポンプ311はイオン溶液に対して圧力をかけ続けるため、パイプ部110の内側の配送空間SPがイオン溶液で充たされると、イオン溶液はマイクロ多孔質層111の空孔を流路としてマイクロ多孔質層111に滲入し始める。マイクロ多孔質層111に滲入したイオン溶液は流路を通ってナノ多孔質層112に向かって流れる。
【0079】
ナノ多孔質層112に滲入したイオン溶液は、ナノ多孔質層112の空孔を流路としてパターン形成層113に向かって流れる。このとき、イオン溶液に印加されるポンプ311の圧力に基づいてポンプ311の駆動は調節され、圧力制御が行われる。
【0080】
イオン溶液がナノ多孔質層112に形成された空孔の内部を流れると、イオン溶液中に含まれる金属のイオンが還元されて微粒子が生成される。より具体的には、本実施形態では、窒化炭素がナノ多孔質層112に使用されるため、窒化炭素のアミノ基が、金属のイオンを空孔内に固定するとともに、ゼロ価の金属原子に還元させる。このゼロ価の金属原子が凝集し、空孔のサイズに応じた孔径に成長することで、金属の微粒子が生成される。本実施形態では、孔径が2nm〜50nmであるメソポーラスな窒化炭素がナノ多孔質層112に使用されるため、ナノメートルオーダーの径を有する金属のナノ粒子が生成される。
【0081】
イオン溶液に加えられる圧力がポンプ311で調節されることにより、アミノ基による金属のナノ粒子の固定状態は解除される。つまり、イオン溶液に印加される圧力が所定の圧力以上に調節されることによって、生成された金属のナノ粒子は液中に分散する。このようにして、金属のイオンが溶剤中に存在するイオン溶液から、金属のナノ粒子が溶剤中に存在するナノ粒子溶液が生成される。
【0082】
ナノ多孔質層112の滲出面102から滲出したナノ粒子溶液は、ナノ多孔質層112を覆うパターン形成層113に形成された透孔部1131を通って、パターン形成層113の転写面1135から滲出する。
【0083】
<パターン転写工程>
続いて、パターン転写工程(ステップS4)について説明する。
【0084】
ナノ粒子溶液がパターンの形状に沿ってパターン形成層113の転写面1135に滲出し始めた段階で、制御部90は版胴10の回転及び基板Wが載置された載置ステージ20の移動を開始させる。
【0085】
そして、ダミー転写処理が実施される。ダミー転写処理は、転写面1135から不規則にナノ粒子溶液が滲出する間、すなわち版胴10がモータMTRによって回転を始めておよそ一回転する間、版胴10が、基板Wにおける進行方向の下流側の部分を占めるパターンの非転写領域に押し当てられる処理をいう。これによって、転写面1135から滲出するナノ粒子溶液の状態は整えられ、ナノ粒子溶液は規則的に滲出するようになる。
【0086】
ダミー転写処理が実施された後でパターン転写処理が実施される。版胴10の外側の面(転写面1135)が基板Wにおけるパターンの転写領域に押し当てられて、モータMTRによる版胴10の回転と載置ステージ20の並進移動とが同期して行われつつ、ナノ粒子溶液のパターンが基板Wの表面に順次転写されていく。パターンが転写された基板Wは、載置ステージ20によって、次工程の処理が施される装置へと搬送される。
【0087】
制御部90は、当該金属のナノ粒子でのパターン転写処理が未実施の基板Wが存在するか否かを判断し(ステップS5)、未処理の基板Wが存在する限り、パターン転写処理は連続して行われる。
【0088】
<洗浄工程>
制御部90が、未処理の基板Wが存在しないことを判断すると、洗浄工程(ステップS6)が実施される。図9には、洗浄処理が実施されている状態の版胴10が示されている。
【0089】
まず、吸収剤200が載置ステージ20上に設置される。吸収剤200には、例えば不織布などが採用される。
【0090】
続いて、流路の切り替えが行われる。切替弁300が切り替えられ、洗浄溶液供給部32と溶液供給配管122とが繋がる洗浄溶液の流路が設定される。そして、洗浄溶液貯留部320が備える開閉弁が開放され、貯留されていた洗浄溶液がポンプ321によって所定の圧力で押し流される。洗浄溶液はパイプ部110の内側の空間に供給される。
【0091】
洗浄溶液は、溶液供給工程時におけるイオン溶液と同様に、パイプ部110、マイクロ多孔質層111そしてナノ多孔質層112へと順に流れる。これによって、空孔内に残存するイオン溶液及びナノ粒子溶液は各層から取り除かれる。また、洗浄溶液はナノ多孔質層112の外周面を覆うレジストを剥離する。吸収剤200がこれらのイオン溶液、ナノ粒子溶液及びレジストを含む洗浄溶液を吸収し、版胴10の洗浄処理が行われる。
【0092】
なお、温調水供給部40は、洗浄処理時においても温調水を供給し続けるため、洗浄溶液は洗浄に適した温度に調節された状態で使用される。従って、より効果的に洗浄を行うことが可能である。
【0093】
洗浄工程が実施されると、制御部90は、新たな種類のイオン溶液、またはパターンで印刷処理を行うか否かを判断し(ステップS7)、印刷処理が行われる場合には被覆層形成工程が再び実施され、印刷処理が行われない場合には処理が終了する。
【0094】
このようにして、金属のナノ粒子を含むナノ粒子溶液で被印刷体の表面にパターン形成が行われる。この印刷方法は、電子回路パターンを有するシート、例えば電子ペーパー、又は電子タグなどの製造に際して、金属材料で回路配線を印刷する際に採用される。これによって、より微細なパターンを備える電子ペーパーや電子タグなどを実現することが可能となる。
【0095】
以上のように、本実施形態では、金属のイオンを含んだイオン溶液がナノ多孔質層112を備える溶液通過層100を通過することによって、金属のナノ粒子を含むナノ粒子溶液が生成される。従って、金属のナノ粒子の生成工程と、金属のナノ粒子を溶液中で分散させる工程とが一つの工程として行われる。つまり、ナノ粒子が溶剤中に存在するナノ粒子溶液を作製するにあたって複数の工程を要しないため、不純物の混入を抑えられる。
【0096】
また、ナノ多孔質層112が備える空孔の大きさ、イオン溶液の粘度及び空孔内を流れるイオン溶液の流速は、ナノ多孔質層112のいずれの位置を占める空孔においても同等である。換言すれば、ナノ粒子の生成条件はナノ多孔質層112における空孔各々で同等であるため、生成される金属のナノ粒子はいずれも同等の形状を有する。また、ナノ粒子の生成は、ナノ多孔質層112に形成された空孔内で起こるため、生成された金属のナノ粒子が空孔の大きさ以上になることはない。従って、生成される金属のナノ粒子はいずれも同等の大きさになる。このように、比較的均質な形状及び大きさでナノ粒子は生成されるため、印刷後の焼結等の工程が安定する。
【0097】
また、版胴10の外側の面にパターン形成層113が形成されており、パターンに沿ってナノ粒子溶液が滲出した状態の版胴10が基板Wに押し当てられることでパターンが転写される。このため、印刷装置1は、版胴10の表面に塗布された余分なナノ粒子溶液をかき取る部材、つまりドクターブレードを備える必要がない。従って、印刷装置1は簡易な装置構成を実現できる。
【0098】
さらに、本実施形態では、インクに圧力をかけて押し出すため、従来のグラビア印刷やフレキソ印刷よりも厚膜印刷を行うことができ、電子部品の製造に適している。
【0099】
また、金属のイオンを含むイオン溶液がナノ多孔質層112を流れることで自動的にナノ粒子溶液が生成されるため、予めナノ粒子が液中に分散しているナノ粒子溶液は不要であり、コストを削減することができる。
【0100】
また、転写部である版胴10がナノ多孔質層112を備える。このため、多孔質材料の空孔が、配線サイズが微細化することによって、印刷されるパターンに対して相対的に大きくなることを抑えられる。従って、ナノ粒子溶液の供給はパターンに対して均一に行うことが可能であり、微細な配線パターンを印刷してもパターン欠けなどの不具合が生じにくく、歩留まりも向上する。
【0101】
また、溶液通過層100は円筒形状の構造を有する。また、転写部である版胴10は、溶液通過層100の回転軸12、ナノ多孔質層112の内側にイオン溶液を供給する溶液供給配管122を備える。従って、ナノ粒子溶液は、円筒形状の溶液通過層100の外側の面から外部に滲出するため、溶液通過層100を回転させることで連続した印刷処理を容易に実施することができる。
【0102】
また、溶液供給配管122が回転軸12を構成するため、転写部である版胴10が回転するにもかかわらず、比較的簡易な構成でイオン溶液をナノ多孔質層112の内側の空間に供給できる。
【0103】
また、溶液通過層100は、マイクロ多孔質層111のような、ナノ多孔質層112に形成された空孔よりも径が大きい空孔を有する多孔質材料からなる多孔質層をさらに備える。このため、溶液通過層100の厚みが同じである場合、ナノ多孔質層112で構成された溶液通過層100と比較して、溶液通過層100の強度が増すとともに、イオン溶液が流路を流れる際の抵抗を低く抑えられる。また、ナノ多孔質層112が溶液通過層100に占める割合は小さくなるため、溶液通過層100の作製にかかるコストも抑えられる。
【0104】
また、温調水供給部40が溶液供給部30によって供給されたイオン溶液の温度を調節する。これによって、外気条件によらず、イオン溶液はその粘度が一定に保持された状態で供給される。従って、イオン溶液の粘度変化によって、ポンプ311の印加圧力が変化する要素は排除されるため、生成された金属のナノ粒子を溶剤中に分散させることを目的としたポンプ311による印加圧力の制御を行うことができる。
【0105】
また、窒化炭素がナノ多孔質層112に採用されることによって、金属のナノ粒子を生成させるに際して、従来の工程では必要であった還元剤及び安定剤が不要である。このため、金属のナノ粒子の生成にかかるコストを抑えられる。
【0106】
<2.第2の実施形態>
次に、図10を参照しつつ、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、以下において、上記第1の実施形態に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されており、上記第1の実施形態と異なる点についてのみ説明するものとする。
【0107】
上記第1の実施形態では、溶液通過層100は、パイプ部110、マイクロ多孔質層111、ナノ多孔質層112を備えていたが、このような構成に限られない。溶液通過層100が、弾性を有する樹脂材料で形成された樹脂多孔質層116をさらに備えていてもよい。以下において、樹脂多孔質層116をさらに備える溶液通過層100を溶液通過層100aと称し、溶液通過層100aを備える版胴を版胴10aと称する。
【0108】
樹脂多孔質層116は、溶液通過層100のナノ多孔質層112よりも下流側(つまり版胴10aの外周側)に配置される。パターン形成層113は、この樹脂多孔質層116の外側に形成される。つまり、本実施形態では、パターン形成層113の透孔部1131から外部に露出している樹脂多孔質層116の外側の面が滲出面102に相当する。樹脂多孔質層116に形成された空孔が、溶液通過層100におけるナノ粒子溶液の流路を構成する。従って、ナノ粒子溶液は、ナノ多孔質層112、樹脂多孔質層116、そしてパターン形成層113の順に流れる。
【0109】
樹脂多孔質層116はナノ多孔質層112よりも下流側、すなわち転写面1135側に配置されるため、版胴10aが基板Wの表面に押し当てられた際に、樹脂多孔質層116がその衝撃を和らげる。このため、印刷処理時において、ナノ多孔質層112に過大な力がかかることは抑えられ、ナノ多孔質層112が破壊されることを抑えられる。
【0110】
<3.変形例>
転写部は、例えば平たい板状の構造を有する転写プレート60であっても構わない。図11には、転写プレート60の断面図が示されている。なお、図11では、洗浄溶液供給部及び温調水供給部は不図示としている。
【0111】
転写プレート60は、中空部65、マイクロ多孔質層111a及びナノ多孔質層112aが順に積み重ねられた構造を有する。このうち、マイクロ多孔質層111a及びナノ多孔質層112aはいずれも平板状に形成されている。印刷処理時には、ナノ多孔質層112aの外側の面に平板状のパターン形成層113aが形成される。
【0112】
イオン溶液は、中空部65の内側に形成された空間に所定の圧力で供給される。中空部65に供給されたイオン溶液は中空部65の下面に形成された貫通孔651から下層に向けて各層を順に流れる。そして、ナノ多孔質層112aにてイオン溶液から生成されたナノ粒子溶液が、パターンを形成する滲出面102aから透孔部1131aを通ってパターン形成層113の外側に滲出する。
【0113】
パターン形成層113aからナノ粒子溶液が滲出した状態の転写プレート60が、転写プレート60の下方に載置された基板Wの表面に降下し、基板Wの表面に押し当てられる。これによって、基板Wの表面にナノ粒子溶液のパターンが転写される。パターンが基板Wに転写されると転写プレート60は上昇し、パターンが転写された基板Wは次工程に搬送される。このように、昇降動作が行われることによって、基板Wにパターンの転写処理を行う転写プレート60が転写部として採用されても構わない。
【0114】
また、上記実施形態では、転写部である版胴10が溶液通過層100を備えており、版胴10の内側からナノ粒子溶液を滲出させて印刷処理を行う形態であったが、これに限られない。例えば、メソポーラス窒化炭素で構成された多孔質層を通過することによって、イオン溶液から生成されたナノ粒子溶液が、版胴の外側の面に固定されて所定のパターンが形成された印刷版に外部から塗布され、印刷版を被印刷体に押し当てることでパターンを転写する形態であってもよい。この場合には、上記実施形態と同様の溶液通過層100を用いた装置は、印刷装置内で使用される「ナノ粒子印刷材料生成装置」として機能する。
【符号の説明】
【0115】
1 印刷装置
10 版胴
12 回転軸
20 載置ステージ
30 溶液供給部
40 温調水供給部
41 温調水配管(温調構造)
70 移動機構
80 基台
90 制御部
100 溶液通過層
102 滲出面
111 マイクロ多孔質層(補助多孔質層)
112 ナノ多孔質層
113 パターン形成層
114 レジスト層
116 樹脂多孔質層
120 閉塞部
122 溶液供給配管
1135 転写面
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷体を保持する保持部と、
金属のイオンを含んだ第1溶液を供給する溶液供給部と、
前記溶液供給部から供給された前記第1溶液を通過させることによって前記第1溶液を第2溶液へと変化させる溶液通過層を備えるとともに、前記溶液通過層の外側に形成された転写面から滲出した前記第2溶液の所定のパターンを前記被印刷体に転写する転写部と、
を備え、
前記溶液通過層が、
ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記溶液通過層は、
前記ナノ多孔質層に形成された空孔よりも径が大きい空孔が分布した補助多孔質材料によって形成され、前記転写面とは反対側において前記ナノ多孔質層に積層された補助多孔質層、
をさらに備え、
前記溶液供給部から供給された前記第1溶液は、前記補助多孔質層を通過した後に、前記ナノ多孔質層に与えられることを特徴とする、印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記溶液通過層は、
前記ナノ多孔質層と前記転写面との間に配置された、弾性を有する樹脂多孔質層、
をさらに備えることを特徴とする、印刷装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の印刷装置であって、
前記溶液供給部によって供給された前記第1溶液の温度を調節して前記溶液通過層に与える温度調節部、
をさらに備えることを特徴とする、印刷装置。
【請求項5】
請求項4に記載の印刷装置であって、
前記転写部の内部には、前記溶液通過層の層面の各部分に前記第1溶液を配送する配送空間が形成されており、
前記温度調節部は、
前記配送空間内に配置された温調構造を有することを特徴とする、印刷装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載の印刷装置であって、
前記転写部は円筒形とされて、その外周に前記転写面が規定されるとともに、
前記溶液通過層は、前記転写面よりも筒心側に配置した円筒型層構造として形成されており、
前記第1溶液は、前記円筒型層構造よりも筒心側に設けられた空間に供給されることを特徴とする、印刷装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一つに記載の印刷装置であって、
前記ナノ多孔質層の空孔の孔径が2ナノメートル以上50ナノメートル以下である印刷装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一つに記載の印刷装置であって、
前記ナノ多孔質層の材料は窒化炭素を主たる原料とする印刷装置。
【請求項9】
円筒構造として形成され、金属のイオンを含んだ第1溶液を筒心側から筒面側に向かって通過させることによって前記第1溶液を第2溶液へと変化させる溶液通過層と、
前記円筒構造の前記筒心側に設けられ、前記第1溶液を受け入れて前記溶液通過層に導入する溶液供給管と、
を備え、
前記溶液通過層の筒面側に所定のパターンを形成することによって、前記第2溶液のパターンを被印刷体に転写可能であり、
前記溶液通過層が、
ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、
を備えることを特徴とする、版胴。
【請求項10】
請求項9に記載の版胴であって、
前記溶液供給管が前記円筒構造の回転軸を構成する、版胴。
【請求項11】
請求項9または10に記載の版胴であって、
前記溶液通過層の前記円筒構造の筒心側の空間が、前記第1溶液を前記溶液通過層の層面の各部分に配送する配送空間とされており、
前記配送空間内に配置された温調構造、
をさらに備えることを特徴とする、版胴。
【請求項12】
金属のイオンを含んだ第1溶液を供給する溶液供給部と、
前記溶液供給部から供給された前記第1溶液を通過させることによって前記第1溶液を第2溶液へと変化させる溶液通過層と、
を備え、
前記溶液通過層が、
ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、
を備えることを特徴とする、ナノ粒子印刷材料生成装置。
【請求項13】
金属のイオンを含んだ第1溶液を所定の溶液通過層に通過させることによって、前記第1溶液を第2溶液へと変化させる工程と、
前記溶液通過層の外側に形成された転写面から滲出した前記第2溶液の所定のパターンを被印刷体に転写する工程と、
を備え、
前記溶液通過層が、
ナノメートルオーダーの空孔が分布した多孔質材料によって形成されたナノ多孔質層、
を備えることを特徴とする、印刷方法。
【請求項14】
請求項13に記載の印刷方法によって印刷された電子回路パターンを有する電子シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−28068(P2013−28068A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165554(P2011−165554)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】