説明

印刷装置の製造方法、印刷装置、および印刷方法

【課題】光沢ムラやブロンズ現象の影響をより抑制する色変換ルックアップテーブルを作成することのできる技術を提供する。
【解決手段】色変換ルックアップテーブルを記憶する印刷装置の製造方法である。予め準備した複数のインク量セットをそれぞれ表す複数のテストインク量セットと、前記各テストインク量セットに従って印刷されるカラーパッチの正反射光による正反射L***値との組合せを学習データとして学習を行ったニューラルネットワークを準備する。そして、各正反射L***値に基づいて、候補となった各インク量セットを評価することで、候補となった複数のインク量セットの中から、処理対象となる表色値に対応づけるインク量セットを決定し、前記決定されたインク量セットに基づいて、色変換ルックアップテーブルを作成し、その色変換ルックアップテーブルを記憶部に記憶させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置のための色変換処理を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷装置として、カラーインクジェット式のものが広く普及している。カラーインクジェット式の印刷装置では、所定の表色系によって表現された画像データの色値を、複数種類のインクの量の組合せ(インク量セット)に変換する色変換処理が行われる。この色変換処理では、色とインク量セットとが対応付けられたルックアップテーブル(以下、単に「色変換LUT」ともいう)が参照される。
【0003】
色変換LUTは、各色のインク量に応じて変化する様々な評価値を用いて作成されることが知られている。こうした評価値として、特許文献1には光沢ムラを示す評価値を用いることが、特許文献2にはブロンズ現象を示す評価値を用いることが開示されている。ブロンズ現象とは、印刷された記録媒体表面に映り込んだ照明の像に、照明本来の色と異なる金属ブロンズを帯びた色が観察される現象である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−221799号公報
【特許文献2】特開2008−143135号公報
【0005】
前記従来の技術では、多数のカラーパッチを印刷し、各カラーパッチの光沢ムラやブロンズ現象を、正反射光を利用して実測し、それら実測値を用いて色変換LUTを作成するようにしている。しかしながら、複数種類のインクの量の組合せの全てに亘って、光沢ムラやブロンズ現象を測定することは困難であることから、前記従来の技術では、光沢ムラやブロンズ現象の影響を十分に抑えた色変換LUTを作成することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、光沢ムラやブロンズ現象の影響をより抑制する色変換ルックアップテーブルを作成することのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1] 所定の表色系における表色値を、印刷装置で使用される複数種類のインクの量の組み合わせであるインク量セットに変換するための色変換ルックアップテーブルを記憶部に記憶する印刷装置の製造方法であって、
予め準備した複数のインク量セットをそれぞれ表す複数のテストインク量セットと、前記各テストインク量セットに従って印刷されるカラーパッチの正反射光による第1の均等色空間値との組合せを学習データとして学習を行った学習モデルを準備する準備工程と、
前記表色系において処理対象となる表色値を、処理対象表色値として選択する選択工程と、
前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットの候補を順次、取得し、前記学習モデルを用いて、前記候補となった各インク量セットを、前記第1の均等色空間値に変換する第1の均等色空間値演算工程と、
前記第1の均等色空間値演算工程により得られた各第1の均等色空間値を評価することで、前記候補となった複数のインク量セットの中から前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットを決定するインク量セット決定工程と、
前記決定されたインク量セットに基づいて、前記色変換ルックアップテーブルを作成するルックアップテーブル作成工程と、
前記作成された色変換ルックアップテーブルを、前記記憶部に記憶させる記憶工程と
を備える印刷装置の製造方法。
【0009】
この方法によれば、準備工程により準備した学習モデルを用いて、インク量セットの候補から第1の均等色空間値が得られる。そして、各第1の均等色空間値を評価することで、候補となった複数のインク量セットの中から、処理対象となる表色値に対応づけるインク量セットが決定され、前記決定されたインク量セットに基づいて、前記色変換ルックアップテーブルが作成される。前記学習モデルは、複数のテストインク量セットと、前記各テストインク量セットに従って印刷されるカラーパッチの正反射光による第1の均等色空間値との組合せを学習データとして学習を行ったもので、複数種類のインクの量の組合せの全てに亘って、第1の均等色空間値を得ることも可能である。このために、候補となった各インク量セットを、光沢ムラやブロンズ現象の影響を十分に抑制することのできるように評価することができるので、光沢ムラやブロンズ現象の影響を十分に抑制する色変換ルックアップテーブルを備えた印刷装置を製造することができる。
【0010】
[適用例2] 適用例1記載の印刷装置の製造方法であって、フォワードモデルを用いて、前記候補となった各インク量セットから拡散反射光による第2の均等色空間値をそれぞれ求める工程を備え、前記インク量セット決定工程は、前記第1の均等色空間値に基づいて求められる第1の評価指数と、前記第2の均等色空間値に基づいて求められる第2の評価指数とを用いて、前記候補となった各インク量セットを評価する評価工程と、前記評価の結果に基づいて、前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットの決定を行う工程とを備える、印刷装置の製造方法。
【0011】
この方法によれば、第1の均等色空間値に基づく第1の評価指数と、第2の均等色空間値に基づいて求められる第2の評価指数とを用いて評価を行って得ることのできる色変換ルックアップテーブルを備えた印刷装置を製造することができる。
【0012】
[適用例3] 適用例2に記載の印刷装置の製造方法であって、前記評価工程では、前記第1の評価指数に対する重み係数を、前記第2の評価指数に対する重み係数よりも小さくして評価を行う、印刷装置の製造方法。
【0013】
この方法によれば、第2の均等色空間値に基づく第2の評価指数による評価をより高いものとすることができる。
【0014】
[適用例4] 適用例2または3に記載の印刷装置の製造方法であって、前記評価工程では、前記第1の評価指数は、正反射光によるL***値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数であり、前記第2の評価指数は、拡散反射光によるL***値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数である印刷装置の製造方法。
【0015】
この方法によれば、拡散反射L***値に基づく第2の評価指数により拡散反射光によるL***値の階調性に優れ、正反射L***値に基づく第1の評価指数により正反射光によるL***値の階調性に優れた色変換ルックアップテーブルを作成することができる。すなわち、L***値の階調性を維持した上で、正反射光によるL***値の階調性が優れた色変換ルックアップテーブルを作成することができる。この結果、光沢ムラの抑制や、ブロンズ現象の変化を滑らかにすることのできる色変換ルックアップテーブルを備えた印刷装置を製造することができる。
【0016】
[適用例5] 適用例1ないし4のいずれかに記載の印刷装置の製造方法であって、前記学習モデルは、ニューラルネットワークである印刷装置の製造方法。
【0017】
インク量セットと第1の均等色空間値との間は非線形性が強いが、ニューラルネットワークによれば、インク量セットを入力することにより、高精度の第1の均等色空間値を得ることができる。このために、光沢ムラやブロンズ現象の影響をより十分に抑制することのできる色変換ルックアップテーブルを備えた印刷装置を製造することができる。
【0018】
本発明は、上述した印刷装置の製造方法としての構成のほか、印刷方法および印刷装置、ルックアップテーブルの作成方法やルックアップテーブルの作成装置、コンピュータープログラムとしても構成することができる。かかるコンピュータープログラムは、コンピューターが読取可能な記録媒体に記録されていてもよい。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスクやCD−ROM、DVD−ROM、光磁気ディスク、メモリーカード、ハードディスク等の種々の媒体を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例としての印刷装置の概略構成図である。
【図2】印刷処理のフローチャートである。
【図3】色変換LUT作成装置の概略構成図である。
【図4】フォワードモデルコンバーターの概略図である。
【図5】色変換LUTのデータ構造を示す表である。
【図6】色変換LUTのデータ構造を示す説明図である。
【図7】色変換LUT作成ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】印刷装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】処理対象格子点の選択順序の概念を示す説明図である。
【図10】処理対象格子点の他の選択方法の例を示す図である。
【図11】Lab階調性指数SIの算出方法を示す説明図である。
【図12】ニューラルネットワークの構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、上述した本発明の作用・効果を一層明らかにするため、本発明の実施の形態を実施例に基づき次の順序で説明する。
A.印刷装置:
B.色変換LUT作成装置:
C.処理対象格子点の選択方法:
D.評価値算出方法:
E.変形例:
【0021】
A.印刷装置:
図1は、本発明の一実施例としての印刷装置の概略構成図である。印刷装置10は、カラーインクジェット式印刷装置であり、紙送りモーター74によって印刷媒体Pを搬送する機構と、キャリッジモーター70によってキャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ80に搭載された印刷ヘッド81を駆動してインクの吐出およびドット形成を行う機構と、紙送りモーター74,キャリッジモーター70および印刷ヘッド81とを制御する制御ユニット30と、図示していないコンピューターや記録媒体から画像データを取得して制御ユニット30に供給する画像データ供給部91と、を備えている。
【0022】
キャリッジ80には、カラーインクとして、例えば、シアンインクCと、マゼンタインクMと、イエロインクYと、ブラックインクKとをそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜85が搭載される。キャリッジ80の下部の印刷ヘッド81には、上述の各色のカラーインクに対応するノズル列が形成されている。キャリッジ80にこれらのインクカートリッジ82〜85を上方から装着すると、インクカートリッジ82〜85から印刷ヘッド81へのインクの供給が可能となる。
【0023】
制御ユニット30は、CPU40と、ROM51と、RAM52と、EEPROM60とを備えている。CPU40は、ROM51に予め記憶された制御プログラムをRAM52に展開して実行することで、キャリッジ80の往復動や紙送りを制御すると共に、印刷ヘッド81を駆動して、印刷媒体Pへのインク吐出を制御する。
【0024】
EEPROM60には、色変換LUT61が記憶されている。色変換LUT61は、画像データ供給部91から供給されたRGB形式の画像データORGの色値を、インクカートリッジ82〜85に収容されたインク(C,M,Y,K)のそれぞれのインク量を表すインク量セットに変換するためのテーブルである。この色変換LUT61は、後述する色変換LUT作成装置(図3参照)によって予め作成されるものである。
【0025】
図2は、印刷装置によって実行される印刷処理のフローチャートである。ユーザーが印刷処理を指示すると、CPU40は、画像データ供給部91からRGB形式の画像データORGを取得する(ステップS100)。画像データORGを取得すると、CPU40は、EEPROM60に記憶された色変換LUT61を参照して、画像データORGの色値をインク量セットに変換する(ステップS200)。RGB値からインク量セットへの色変換処理が完了すると、CPU40は、インク量セットに変換された画像データに対して、ハーフトーン処理を行う(ステップS300)。ハーフトーン処理の具体的な方法としては、例えば、組織的ディザー法、誤差拡散法、濃度パターン法などを採用することができる。次に、CPU40は、画像データのデータを並べ替えるためのラスタライズ処理を行う(ステップS400)。ラスタライズ処理を行うと、CPU40は、ラスタライズされたデータに基づいて、キャリッジモーター70、紙送りモーター74および印刷ヘッド81を駆動し、印刷ヘッド81からカラーインクを吐出させて、印刷を実行する(ステップS500)。
【0026】
B.色変換LUT作成装置:
B1.装置構成:
図3は、図1に示した色変換LUT61を作成するための色変換LUT作成装置20の概略構成図である。色変換LUT作成装置20は、CPU41と、ROM53と、RAM54と、HDD55と、図示していないモニタや各種入出力インタフェースを備えるコンピューターとして構成されている。CPU41は、ROM53またはHDD55に記憶されたプログラムをRAM54に展開して実行することにより、処理対象格子点選択部100、インク量セット算出部300、フォワードモデルコンバーター(FMC)500、ニューラルネットワーク(NN)600等の各機能を実現する。HDD55には、この色変換LUT作成装置20によって作成される色変換LUT61が格納される。
【0027】
図4は、フォワードモデルコンバーター500の概略図である。フォワードモデルコンバーター500は、インク量セットをCIELAB色空間におけるL*値、a*値、b*値に変換する機能を備えており、分光プリンティングモデルコンバーター510と、色コンバーター520とを備える。なお、以下、L*値は単に「L値」とも、a*値は単に「a値」とも、b*値は単に「b値」ともそれぞれいう。また、L*値、a*値、b*値をまとめて単に「L***値」あるいは「Lab値」という。
【0028】
分光プリンティングモデルコンバーター510は、CMYKの各値によって表されるインク量セットを、分光反射率R(λ)に変換する。この分光反射率R(λ)は、そのインク量セットによって形成されるカラーパッチの測色値を表している。なお、本明細書において「カラーパッチ」とは、有彩色のパッチに限らず、無彩色のパッチを含む広い意味を有している。分光反射率R(λ)は、45/0度タイプの分光測色計で計測したときの分光反射率を想定している。
【0029】
色コンバーター520は、分光プリンティングモデルコンバーター510によって得られた分光反射率R(λ)から、Lab値を算出する。このとき、色コンバーター520は、予め設定された光源の種類(例えば、標準光源であるD65)や印刷用紙の種類(例えば、光沢紙)に基づいて、Lab値を算出する。つまり、フォワードモデルコンバーター500を用いれば、インク量セットを入力することにより、そのインク量セットに対応したLab値を一意に取得することができる。分光プリンティングモデルコンバーター510は、例えば、セル分割ユール・ニールセン分光ノイゲバウアモデル(Cellular Yule-Nielsen Spectral Neugebauer Model)等のフォワードモデルを使用する。分光プリンティングモデルコンバーター510や色コンバーター520の構成、機能の詳細については、例えば、特表2007−511175号公報や、特開2008−263579号公報に開示されている。ニューラルネットワーク600については、後述する。
【0030】
インク量セット算出部(図3参照)300は、色変換LUT61内の処理対象格子点(詳細は後述)に対して格納するインク量セットを算出する機能を有する。
【0031】
図5および図6は、HDDに格納される色変換LUT61のデータ構造を示す説明図である。図5に示すように、色変換LUT61には、RGB値と、Lab値と、インク量セットとがそれぞれ一意に対応付けられる。インク量セットは、インク量セット算出部300により算出されたものである。
【0032】
Lab値によって表されるLab色空間は、RGB値によって表されるRGB色空間よりも広い色再現範囲を有し、機器に依存しないという性質を有する。RGB値を構成するR値、G値、B値は、それぞれ、本実施例では17段階に区分されている。つまり、色変換LUT61は、図6に示すように、R軸とG軸とB軸とを有する3次元色空間において、17個×17個×17個の格子点を有する六面体として表すことができる。そのため、この六面体を構成する各格子点には、RGB値とLab値とインク量セットとが対応付けられることになる。各格子点に対応付けられるRGB値は、(R,G,B)=(0,0,0)、Lab値は、(L,a,b)=(0,0,0)、インク量セットは、(C,M,Y,K)=(0,0,0,0)のように多次元の座標値によって表すことができる。隣り合う格子点の間隔(RGB値の間隔)は、ほぼ等間隔である。完全に等間隔ではない理由は、R値、G値、B値が採り得る範囲が、規定の区分数(本実施例では17)に等しく区分できるとは限らないからである。区分の数は、17には限らず、例えば、R値、G値、B値が採り得る範囲を11や32などの任意の数に区分することもできる。また、隣り合う格子点の間隔は、ある範囲において狭くし、ある範囲において広くするなど、不均等にすることもできる。さらに、隣り合う格子点の間隔は、等間隔にすることもできるし、R値、G値、B値が採り得る範囲が、規定の区分数(本実施例では17)に等しく区分できない場合は、ほぼ等間隔にすることもできる。
【0033】
B2.色変換LUTの作成フロー:
図7は、色変換LUT作成装置20によって実行される色変換LUT作成ルーチンを示すフローチャートである。まず、CPU41は、前述したフォワードモデルコンバーター500を準備するとともに(ステップS2)、後述するニューラルネットワークを準備する(ステップS4)。
【0034】
次いで、CPU41は、色変換LUT61の初期化を行う(ステップS10)。具体的には、色変換LUT61の各格子点のRGB値に対して、Lab値と、インク量セットの初期値(以下、初期インク量セットという)を対応付ける。初期インク量セットは、例えば、以下の式(1)および式(2)により算出することができる。また、Lab値は、初期インク量セットの値をフォワードモデルコンバーター500に入力することで得ることができる。
【0035】
【数1】

【数2】

【0036】
ここで、上記式(1)におけるインク量Ij(R,G,B)の添え字jは、インク量セットを構成するインクの種類の数に対応している。本実施例は(C,M,Y,K)の4種類のインクを使用しているため、j=1〜4である。RGB値のいずれかが0または255である格子点に対するインク量Ij(R,G,B)は、ユーザーによりあらかじめ入力された値を用いる。式(1)および式(2)によれば、任意のRGB値におけるインク量Ij(R,G,B)を求めることができ、このインク量Ij(R,G,B)を組み合わせた情報が、当該任意のRGB値におけるインク量セットとして決定される。なお、初期インク量セットの値は、前述した計算によらず、他の方法によって決定された値を設定することとしてもよい。また、初期インク量セットは、例えば、特開2009−33239号公報に記載された「インバースモデル初期LUT」を用いることで、Lab値からより好ましい値に修正することができる。
【0037】
以上のようにして色変換LUT61の初期化を行うと、処理対象格子点選択部100が、所定の順序に従って、色変換LUT61の中から最適インク量セットを決定する対象となる格子点(以下、「処理対象格子点」と記載する)を選択する(ステップS20)。処理対象格子点を選択する順序については後述する。処理対象格子点を選択すると、インク量セット算出部300が、処理対象格子点に対応付けるインク量セットを算出する処理を行う(ステップS30)。この処理は、処理対象格子点について、インク量の組み合わせに対する評価値に基づくインク量の組み合わせの最適化によって最適となるインク量セット(以下、「最適インクセット」と呼ぶ)を決定するもので、詳しくは、次の通り行う。
【0038】
インク量セット算出部300は、まず、処理対象格子点に対応付ける最適インク量セットの候補(インク量セット候補)を取得する(ステップS32)。初回に取得されるインク量セット候補は、色変換LUT61にはじめから記録されている初期インク量セットとなる。インク量セット候補が取得されると、インク量セット算出部300は、取得されたインク量セット候補についての評価値を算出する(ステップS34)。「評価値」とは、インク量セット候補が最適なインク量セットであるか否かを判断するための指標である。評価値の算出方法は、ステップS20で選択された処理対象格子点が、図6に示した六面体内のどの格子点に該当するかに応じて異なる。この評価値の算出の際に、ステップS2、S4で準備したフォワードモデルコンバーター500とニューラルネットワーク600を用いるが、評価値の算出方法の詳細は後述する。
【0039】
評価値が算出されると、CPU41は、評価値が最小となったか否かを判断する(ステップS36)。評価値が最小でない場合には、CPU41は、処理を上記ステップS32に戻す。
【0040】
上記ステップS32において、2回目以降、インク量セット算出部300は、インク量セット候補の取得を次のように行う。初期インク量セットから、インク量セットを構成する各インク量の値をそれぞれ微少に変化させて、2回目のインク量セット候補を得る。この変化の方向は、評価値が最適化する方向(すなわち、評価値が小さくなる方向)であり、その後、順次、前回得られたインク量セット候補を構成する各インク量の値をそれぞれ微小に変化させて、次のインク量セット候補を得る。各インク量セット候補に対して、ステップS34およびS36がそれぞれ実行される。ステップS32ないしS36の処理を繰り返し行えば、最終的には、ステップS36で肯定判定されたとききに、評価値が最適化した(最小となった)インク量セット候補が得られることになり、ステップS60で、その得られたインク量セット候補が最適インク量セットとして決定される。
【0041】
ステップS32ないしS36の繰り返しの処理、すなわち、ステップS30によるインク量セットの算出の処理は、具体的には、公知の最適化法、たとえば、最急降下法、準ニュートン法、シンプレックス法などを用いて実現される。ステップS60では、上記得られた最適インクセット候補を、色変換LUT61の現在の処理対象格子点に対応づける。
【0042】
最適インク量セットを処理対象格子点に対応付けると、CPU41は、他に処理対象格子点が存在するか否かを判断する(ステップS70)。他に処理対象格子点が存在する場合はステップS20に戻って上述した一連の処理を繰り返し実行する。処理対象格子点が存在しない場合、つまり、全ての格子点について最適インク量セットを決定した場合には、当該色変換LUT作成ルーチンを終了する。
【0043】
図8は、印刷装置の製造方法を示すフローチャートである。この印刷装置の製造方法は、色変換LUT作成装置20を含む印刷装置製造システムにより実行されるものである。印刷装置製造システムは、まず、前述してきた印刷装置10のハードウェアを準備する(ステップS80)。次いで、色変換LUT作成装置20を用いて、前述したLUTの作成フローに従って色変換LUT61を作成する(ステップS85)。この作成された色変換LUT61は、前述したようにHDD55に格納される。その後、印刷装置製造システムは、HDD55から色変換LUT61を読み出し、EEPROMライター等により色変換LUT61をEEPROM60に書き込む(ステップS90)。そして、このEEPROM60を印刷装置10内の制御ユニット30に実装することで(ステップS95)、印刷装置10を製造する。
【0044】
なお、EEPROM60への色変換LUT61の書き込みは他の方法を採用してもよい。例えば、印刷装置10のCPU40が、画像データ供給部91を通じて色変換LUT61を取得し、EEPROM60に書き込むことも可能である。また、EEPROM60に色変換LUT61を書き込む際には、予め色変換LUT61から、Lab値を消去してもよい。こうすることで、色変換LUT61は、RGB値とインク量セットの対応関係のみを表すことになる。また、上記ステップS90、S95の処理は、EEPROMライターや、各種の工具や装置を使って、作業者が手作業で行う構成としてもよい。
【0045】
C.処理対象格子点の選択方法:
図9は、図7のステップS20における処理対象格子点の選択順序の概念を示す説明図である。図6に示したように、色変換LUT61は3次元空間において17個×17個×17個の格子点を含む六面体と捉えることができるが、図9では説明の簡単のために、この六面体の1つの表面が9個×9個の格子点によって構成されている例を示している。図9に示した数字は、数字に最も近接している格子点、つまり六面体の辺上の格子点の選択順序であり、数字が小さいほど、その格子点が早く選択されることを表している。
【0046】
図9に示した例では、処理対象格子点選択部100は、六面体の頂点に位置する格子点(図9において、選択順序「1」が付された格子点)を第1処理対象格子点として選択し、次に、2つの第1処理対象格子点の略中央に位置する格子点(図9において、格子点処理順序2が付された格子点)を、第2処理対象格子点として選択する。選択する格子点の位置が「略」中央である理由は、各格子点間の間隔が、等間隔であるとは限らないからであり、また、2つの格子点の間に偶数個の格子点が存在することもあるからである。なお、「略中央に位置する格子点」とは、換言すれば、2つの第1処理対象格子点の中央に最も近い格子点、あるいは、2つの第1処理対象格子点の中央に最も近い格子点のうちいずれか一つの格子点、ということができる。また、この略中央に位置する格子点は、2つの第1処理対象格子点に挟まれているとも言うことができる。第1処理対象格子点と第2処理対象格子点とが選択された後には、第1処理対象格子点と第2処理対象格子点の略中央に位置する格子点(図9において、格子点処理順序3が付された格子点)が第3処理対象格子点として選択される。
【0047】
このように、本実施例では、六面体の頂点に位置する格子点を最初に選択して最適インク量セットを決定し、その後、最適インク量セットが決定された2つの格子点の略中央に位置する格子点を次々に選択していくことで、六面体の辺上の各格子点の最適インク量セットを決定していく。なお、六面体の辺上の格子点の最適インク量セットを決定した後には、辺で囲まれる面内の各格子点に対して最適インク量セットを決定していく。このときも、辺上の格子点の選択順序と同様に、最適インク量セットが決定された相対する辺上の2つの格子点の略中央に位置する格子点を選択して最適インク量セットを決定し、その後、最適インク量セットが決定された2つの格子点の略中央に位置する格子点を次々に選択していくことで、六面体の面上の各格子点のインク量セットを決定していく。また、4つの頂点もしくは4つの格子点の略中央に位置する格子点を最初に選択し、次に、その格子点と、4つの頂点もしくは4つの格子点の略中央にそれぞれ位置する格子点を処理対象格子点として順番に選択することもできる。
【0048】
こうして、面内の格子点の最適インク量セットをすべて決定した後には、6つの面で囲まれる六面体内部の格子点に対して最適インク量を決定していく。このときも、六面体の辺上の格子点の選択順序と同様に、2つの格子点の略中央の格子点を選択することができ、また、8つの頂点もしくは6つの面上の6つの格子点の略中央に位置する格子点を最初に選択し、次に、その格子点と、8つの頂点もしくは6つの面上の6つの格子点の略中央にそれぞれ位置する格子点を処理対象格子点として順番に選択することもできる。このように、本実施例では、辺、辺で作成される面内、面で作成される六面体内、の順に、最適インク量セットを決定していく。
【0049】
図10は、処理対象格子点の他の選択方法の例を示す図である。図10に示す例では、各格子点に対して、処理対象格子点を選択するための順序づけ指標を予め付与し、その指標に基づいて格子点の選択を行う。この方法では、まず、図10に示したD(1)軸(例えばL軸)およびD(2)軸(例えば、a軸)に対して、処理対象格子点を選択するための順序づけ指標となる格子点ラベルを設定する。格子点ラベルによって、図10に示した格子点を表すと、D(1)軸上にて左から3番目、D(2)軸上にて上から4番目の格子点の格子点ラベルは、(3,4)、D(1)軸上にて左から5番目、D(2)軸上にて上から5番目の格子点の格子点ラベルは、(2,2)である。
【0050】
次に、すべての格子点の中から、格子点ラベルの数値が1のみからなる格子点を選択する。図10に示した格子点の集合を四角形としてとらえると、四角形の頂点にあたる格子点が格子点ラベル(1,1)であり、第一処理対象格子点として選択される。次の段階では、格子点ラベルの数値に1もしくは、2をもつ格子点ラベルが選択され、その中で、1を含む格子点ラベルをもつ格子点が優先して選択される。つまり格子点ラベルが(2,1)もしくは(1,2)、(2,2)である格子点が選択され、その中で格子点ラベルが(1,2)、(2,1)の格子点が優先して選択される。図10に示した格子点に付された数値は、当該方法で格子点を選択した場合の格子点の選択順序である。このようにして、格子点に付与された格子点ラベルに従って処理対象格子点を選択していけば、並列的な処理の実行が可能であり、色変換LUT61の作成にかかる時間を短縮することもできる。なお、この方法は2次元に限ったものではなく、入力軸がNある場合には、それぞれの軸に順序づけ指標を付与し、処理対象格子点に対して格子点ラベルを設定して最適インク量セットを決定することができる。このとき、最適インク量セットの決定は、格子点を処理する順序を決定してから行うことができるが、格子点処理順序を決定するのと同時に行うこともできる。なお、前記処理対象格子点が、本発明における「処理対象表色値」に相当する。
【0051】
D.評価値算出方法:
続いて、図7のステップS34における評価値の算出方法について説明する。フォワードモデルコンバーター500によれば、インク量セットを入力することにより、一意のLab値を得ることができる。しかし、一つのLab値からインク量セットを一意に決定することは一般に困難である。これは、例えば、CMYKからなるインク量セットの値が、(C,M,Y,K)=(0,0,0,60)でも、(C,M,Y,K)=(20,20,20,0)でも同じLab値を示すことがあるからである。そこで、本実施例では、下記式(3)によって表される評価関数によって、インク量セット候補に応じた評価値Eiを求め、この評価値Eiが小さくなるインク量セット候補を、処理対象格子点に対応する最適インク量セットとして決定する。
【0052】
【数3】

【0053】
式(3)に示した評価関数は、異なる4つの評価指数の線形結合によって表されている。Lab階調性指数SIは、Lab値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数である。粒状性指数GIは、印刷物におけるインクの粒状感を評価するための評価指数である。非色恒常性指数CIIは、異なる光源下で印刷物を観察した際の色の恒常性を評価するための評価指数である。正反射階調性指数ssspLabSIは、正反射Lab値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数である。ここでいう正反射Lab値は、前述してきたLab値と異なったものであるが、詳細については後述する。
【0054】
式(3)に示すように、それぞれの評価指数には所定の重み係数wが乗算されている。重み係数wのそれぞれの値は、印刷装置10の特性やユーザーの嗜好等に応じて適宜設定可能である。また、重み係数wをゼロとすることにより、4つの評価指数の中から実際に使用する評価指数を選択することができる。本実施例では、これらの4つの評価指数のうち、少なくともLab階調性指数SIと正反射階調性指数sspLabSIに基づいて評価値の算出を行う。もちろん、これらの4つの評価指数に加えて、他の評価指数(例えば、インク量の変化の滑らかさを評価する指数など)を用いることも可能である。
【0055】
D1.Lab階調性指数sLabSI算出方法:
図11は、式(3)に含まれるLab階調性指数sLabSIの算出方法を示す説明図である。図11においては、説明の簡単のため、入力軸Lおよびaで表される2次元上で処理対象格子点に最適インク量セットを決定するための例を示している。最適インク量セットがすでに決定された格子点(以降、「参照可能格子点」とも記載する)が2つ存在する場合、図9または図10に示した処理対象格子点の選択順序によると、その間の位置である略中央の格子点が処理対象格子点となる。図11においては、座標点Aが一方側の参照可能格子点についてのLab値であり、座標点Bが他方側の参照可能格子点についてのLab値であり、座標点Cが処理対象格子点についてのLab値である。
【0056】
Lab階調性指数sLabSIを算出するに当たり、インク量セット算出部300は、まず、処理対象格子点に対応する座標点Cについてインク量セット候補を取得する。そして、そのインク量セット候補から、フォワードモデルコンバーター500を用いてLab値Xを算出する。そして、以下の式(4)に基づき、座標点AのLab値(L1,a1,b1)と、座標点BのLab値(L2,a2,b2)と、インク量セット候補に対応するLab値(LX,aX,bX)と、に基づいて二次微分値を算出する。この二次微分値が、Lab階調性指数SIの値となる。
【0057】
【数4】

【0058】
式(4)の右辺の第1項が、座標点Aから、インク量セット候補で表されるLab値X(座標点C)への傾きを示す。式(4)の右辺の第2項が、Lab値X(座標点C)から座標点Bへの傾きを示す。図示するように、Lab階調性指数SIの値が0に近づけば近づくほど、前者の傾きと後者の傾きとが等しくなり、座標点Aから座標点Cを介して座標点Bに至るLab空間中の階調変化が滑らかになる。つまり、Lab階調性指数SIの値が0に近づけば近づくほど、Lab値の階調性に優れた色変換LUT61を作成することができる。なお、図11では、前述したように、説明の簡単のため、2次元上で処理対象格子点に最適インク量セットを決定するとして説明を行ったが、実際は、3次元上での演算式によって計算が行われる。
【0059】
D2.粒状性指数GI算出方法:
式(3)に示した評価指数のうち、粒状性指数GIは、各種の粒状性予測モデルを用いて算出可能であり、例えば以下の式(5)に基づいて算出することができる。
【0060】
【数5】

【0061】
ここで、aLは明度補正係数、WS(u)はカラーパッチの印刷に利用されるハーフトーンデータが示す画像のウイナースペクトラム、VTF(u)は視覚の空間周波数特性、uは空間周波数である。ハーフトーンデータは、カラーパッチのインク量Ijからハーフトーン処理によって決定される。上記式(5)は一次元で表現しているが、空間周波数u,vの関数として二次元画像の空間周波数を算出することとしてもよい。粒状性指数GIの具体的な計算方法としては、例えば、特表2007−511161号公報に記載された方法や、Makoto Fujino,Image Quality Evaluation of Inkjet Prints, Japan Hardcopy '99, p.291-294に記載された方法を利用することができる。
【0062】
D3.非色恒常性指数CII算出方法:
式(3)に示した評価指数のうち、非色恒常性指数CIIは、例えば以下の式(6)に基づいて算出することができる。
【0063】
【数6】

【0064】
ここで、ΔLは2つの異なる観察条件下(異なる光源下)におけるカラーパッチの明度差、ΔCabは彩度差、ΔHabは色相差を示す。非色恒常性指数CIIの計算時には、2つの異なる観察条件下でのLab値は、色順応変換(CAT)を用いて標準観察条件(例えば標準の光D65の観察下)に変換される。CIIについては、Billmeyer and Saltzman's Principles of Color Technology, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc, 2000, p.129, pp. 213-215を参照することができる。
【0065】
D4.正反射階調性指数sspLabSI算出方法:
ここでは、まず、拡散反射Lab値と正反射Lab値について説明する。フォワードモデルコンバーター500の分光プリンティングモデルコンバーター510(図4)で求められる分光反射率R(λ)は、前述したように45/0度タイプの分光測色計で計測したときの分光反射率を想定している。45/0度タイプの分光測色計は、正反射光を取り除き計測を行う一般的なもの(通常の計測器)である。このため、色コンバーター520(図4)により、分光反射率R(λ)から求められるLab値は、拡散反射光によるLab値となる。この拡散反射光によるLab値を、本明細書では「拡散反射Lab値」と呼ぶ。
【0066】
これに対して、「正反射Lab値」は、測定対象からの正反射光を測色したときのCIELAB色空間におけるL***値である。正反射Lab値の変化をセンシングすることで、測定対象の光沢ムラやブロンズ現象の変化の度合いを捉えることが可能である。なお、本明細書では、単に「Lab値」と呼ぶときは、拡散反射Lab値を意味する。本発明における「第1の均等色空間値」が正反射Lab値に対応し、「第2の均等色空間値」が拡散反射Lab値に対応する。
【0067】
前述したように、正反射Lab値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数が正反射階調性指数sspLabSIである。正反射Lab値は、ニューラルネットワーク600を用いて次のようにして求める。
【0068】
図12は、ニューラルネットワーク600の構造を示す説明図である。図示するように、ニューラルネットワーク600は入力層、中間層、出力層から構成される。中間層は10〜20ユニットにより構成した。このニューラルネットワークは、CMYKの各値によって表されるインク量セットが、どのような色(正反射Lab値)であるかを学習したものでる。
【0069】
カラーパッチからの正反射光を測色計で測色し、その測色値である分光データから求められたLab値(すなわち、正反射光によるLab値(=正反射Lab値))を教師データとし、カラーパッチを形成したインク量セット(=テストインク量セット)を入力データとする。入力データと教師データとの対を1組の学習データとし、多数の組の学習データを用いて学習を行う。すなわち、インク量セット→正反射Lab値の各組合せを学習データとしてニューラルネットワークの学習を行う。カラーパッチは、フォワードモデルコンバーター500の作成時に用いたものと同一のものを用いればいいが、必ずしも同一である必要はなく別のものであってよい。学習則としてはバックプロパゲーション法を使用した。バックプロパゲーション法は、出力と教師データとの二乗誤差が最小になるように、ユニット間を結合するウエイトを修正して学習を進める周知の方法である。前記のように構築したものを図7のステップS4では準備する。
【0070】
式(3)に含まれる正反射階調性指数sspLabSIは、次のようにして求める。この正反射階調性指数sspLabSIは、第2階調性指数SIを算出したときと同様に、参照可能格子点に対応する座標点Aと、参照可能格子点に対応する座標点Bと、処理対象格子点に対応する座標点Cに着目して求める。正反射階調性指数sspLabSIを算出するに当たり、まず、処理対象格子点に対応する座標点Cを求め、その座標点Cについてのインク量セット候補を取得する。そして、そのインク量セット候補を微小に変化させたときの値であるCMYKの各値をニューラルネットワーク600の入力層に入力し、ニューラルネットワーク600の出力層から正反射Lab値を算出する。
【0071】
そして、前述した式(4)を用いて、参照可能格子点に対応する座標点Aの正反射Lab値と、参照可能格子点に対応する座標点Bの正反射Lab値と、前記ニューラルネットワーク600で得られた正反射Lab値と、に基づいて二次微分値を算出する。この正反射階調性指数sspLabSIを求める際には、式(4)におけるL,aの各値は正反射Lab値のL値、a値として扱う。参照可能格子点に対応する座標点A、Bの正反射Lab値は既出であるから、それを用いればよい。上記算出した2次微分値が、正反射階調性指数sspLabSIとなる。
【0072】
正反射階調性指数sspLabSIは、図11で説明したLab階調性指数SIと同様に、Lab階調性指数SIの値が0に近づけば近づくほど、座標点Aから座標点Bに至るLab空間中の階調変化が滑らかになる。つまり、正反射階調性指数sspLabSIの値が0に近づけば近づくほど、正反射Lab値の階調性に優れた色変換LUT61を作成することができる。
【0073】
なお、本実施例では、正反射階調性指数sspLabSIに対する重み係数wsspは、Lab階調性指数SIに対する重み係数wsよりも小さい。これにより、拡散反射Lab値に基づくLab階調性指数SIによる評価を、正反射Lab値に基づく正反射階調性指数sspLabSIより高いものとしている。
【0074】
以上で説明した本実施例の印刷装置の製造方法によれば、色変換LUT61の各格子点に対応付ける最適インク量セットを決定するために、評価指数として正反射階調性指数sspLabSIを用いる。このために、正反射光によるL***値の階調変化を滑らかにすることができる色変換LUT61を作成することが可能となる。特に、正反射階調性指数sspLabSIの算出に必要となる正反射Lab値は、CMYK値からニューラルネットワーク600を用いて求める構成であることから、複数種類のインクの量の組合せの全てに亘って、正反射Lab値を高い精度で得ることが可能となる。
【0075】
また、本実施例では、評価指数として、Lab階調性指数SIを用いることで、拡散反射光によるLab値(=拡散反射Lab値)の階調変化を滑らかにすることができる。これらの結果、本実施例では、Lab値の*階調性を維持した上で、正反射光によるLab値が優れた色変換LUT61を作成することができる。したがって、光沢ムラの抑制や、ブロンズ現象の変化を滑らかにすることのできる色変換LUT61を備えた印刷装置を製造することができる。
【0076】
E.変形例:
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明はこのような実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、ソフトウェアによって実現した機能は、ハードウェアによって実現するものとしてもよい。そのほか、以下のような変形が可能である。
【0077】
・変形例1:
上述した実施例においては、フォワードモデルコンバーター500を用いてインク量セットに対応したLab値を取得していたが、フォワードモデルコンバーター500を用いる方法にかえて、あらかじめ、インク量セット候補とLab値が対応付けられた対応表を作成しておき、その中からインク量セット候補を選択してもよい。
【0078】
・変形例2:
上述した実施例においては、ニューラルネットワーク600を用いてインク量セットに対応した正反射Lab値を取得していたが、ニューラルネットワーク600を用いる方法にかえて、遺伝的アルゴリズムや、ブースティング等の他の学習制御としてもよい。複数のインク量セットをそれぞれ表す複数のテストインク量セットと、各テストインク量セットに従って印刷されるカラーパッチの正反射光による正反射Lab値との組合せを学習データとして学習を行った学習モデルであれば、いずれの種類の学習モデルとしてもよい。
【0079】
・変形例3:
上述した実施例においては作成される色変換LUT61には、RGB値と、Lab値と、最適インク量セットがそれぞれ一意に対応づけられていたが(図5および図6参照)、ここでRGB値および最適インク量セットとともに対応付けられる値は、Lab値に限らない。例えば、L*C*h*値やL*u*v*値などの階調性を評価することのできる表色系の値を採用することができる。また、RGB値および最適インク量セットに正反射Lab値を対応づけることもできる。
【0080】
・変形例4:
正反射Lab値に基づいて求められる評価指数として、正反射Lab値の階調変化の滑らかさを示す正反射階調性指数sspLabSIを採用していたが、これに限る必要はなく、正反射Lab値に基づいて算出される評価指数であれば、他のものに替えることができる。例えば、以下の式(7)により算出することができる指数ABIとすることができる。
【0081】
【数7】

正反射Lab値のうちのa値、b値はブロンズ現象が発生すると大きくなることから、式(7)によって表される指数ABIが小さくなるようにすれば、ブロンズ現象を抑制することができる。
【0082】
また、正反射Lab値のうちのL値は光沢特性の指標とすることができることから、L値が所定範囲(例えば、80〜100)に収まるように、この所定範囲に対するL値の偏差を評価指数としてもよい。この評価指数が小さくなるように、すなわちL値の所定範囲に対する偏差が小さくなるようにすれば、光沢特性の変化、すなわち光沢ムラを抑制することができる。
【0083】
・変形例5:
上述した実施例では、学習モデルを用いて、候補となった各インク量セットを正反射Lab値に変換していたが、学習モデルはLab値に変換するもの限らない。例えば、L*u*v*値や、L*C*h*値等の他の均等色空間値に変換する構成としてもよい。
【0084】
・変形例6:
上述した実施例においては、印刷装置10が備えるキャリッジ80には、カラーインクとして、例えば、シアンインクCと、マゼンタインクMと、イエロインクYと、ブラックインクKとをそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜85が搭載されているが、搭載されるインクはこれらのインクに限らない。例えば、キャリッジ80には、これらのインクに加えてライトシアンLcやライトマゼンタLm等のインクなどが搭載されていてもよい。この場合、色変換LUT作成装置20は、ライトシアンLcやライトマゼンタLm等のインク量を含む最適インク量セットの決定を行い、色変換LUT61の作成を行う。
【0085】
・変形例7:
上述した実施例においては、印刷装置10は、インクジェット式印刷装置であったが、これに代えて、カラートナーを印刷媒体上に付着させて印刷を行うレーザプリンターや、オフセット印刷装置を採用することができる。
【0086】
・変形例8:
上述した実施例においては、既に最適インク量セットが決定された2つの格子点の略中央に位置する格子点に対して最適インク量セットの決定を行ったが、最適インク量セットを決定する順序はこれに限られず、2つの格子点に挟まれる格子点であれば、どの位置の格子点から最適インク量セットの決定を行ってもかまわない。また、参照可能格子点が4つの場合や6つの場合についても同様に、それらの格子点に挟まれる格子点であれば、どの位置の格子点から最適インク量セットの決定を行ってもよい。
【0087】
・変形例9:
上述した実施例においては、印刷装置10と色変換LUT作成装置20とを分離させた構成としたが、印刷装置10に色変換LUT作成装置20の機能を組み込んでもよい。つまり、印刷装置10が、色変換LUT61を作成することとしてもよい。また、コンピューターと印刷装置とを含む印刷システムを広義の印刷装置として捉え、コンピューターが色変換LUT61を作成して、この色変換LUT61を用いてコンピューターが色変換処理を行うこととしてもよい。この場合、コンピューターは、更に、ハーフトーン処理やラスタライズ処理を行い、印刷装置を制御して印刷を行わせることができる。
【0088】
・ 変形例10:
上述した実施例においては、EEPROM60に色変換LUT61が記憶されていたが、色変換LUT61は、その他ROMやRAM、HDD等の他の記憶装置に記憶することとしてもよい。
【0089】
なお、印刷装置の製造方法の本発明について侵害物件の特定の際には、その対象物件である印刷装置の記憶部に格納された色変換LUTの内容が、本発明の製造方法で作成される色変換LUTの内容と、一定以上(例えば、30〜40%以上)の一致点が見られるか否かを判断することもできる。一定以上の一致点が見られたとき、その対象物件の印刷装置は、本発明と同一の方法により生産されたものと推定することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…印刷装置
20…色変換LUT作成装置
30…制御ユニット
40…CPU
41…CPU
51…ROM
52…RAM
53…ROM
54…RAM
55…HDD
60…EEPROM
61…色変換LUT
70…キャリッジモーター
74…紙送りモーター
75…プラテン
80…キャリッジ
81…印刷ヘッド
82〜85…インクカートリッジ
91…画像データ供給部
100…処理対象格子点選択部
300…インク量セット算出部
500…フォワードモデルコンバーター
510…分光プリンティングモデルコンバーター
520…色コンバーター
600…ニューラルネットワーク
P…印刷媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の表色系における表色値を、印刷装置で使用される複数種類のインクの量の組み合わせであるインク量セットに変換するための色変換ルックアップテーブルを記憶部に記憶する印刷装置の製造方法であって、
予め準備した複数のインク量セットをそれぞれ表す複数のテストインク量セットと、前記各テストインク量セットに従って印刷されるカラーパッチの正反射光による第1の均等色空間値との組合せを学習データとして学習を行った学習モデルを準備する準備工程と、
前記表色系において処理対象となる表色値を、処理対象表色値として選択する選択工程と、
前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットの候補を順次、取得し、前記学習モデルを用いて、前記候補となった各インク量セットを、前記第1の均等色空間値に変換する第1の均等色空間値演算工程と、
前記第1の均等色空間値演算工程により得られた各第1の均等色空間値を評価することで、前記候補となった複数のインク量セットの中から前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットを決定するインク量セット決定工程と、
前記決定されたインク量セットに基づいて、前記色変換ルックアップテーブルを作成するルックアップテーブル作成工程と、
前記作成された色変換ルックアップテーブルを、前記記憶部に記憶させる記憶工程と
を備える印刷装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置の製造方法であって、
フォワードモデルを用いて、前記候補となった各インク量セットから拡散反射光による第2の均等色空間値をそれぞれ求める工程
を備え、
前記インク量セット決定工程は、
前記第1の均等色空間値に基づいて求められる第1の評価指数と、前記第2の均等色空間値に基づいて求められる第2の評価指数とを用いて、前記候補となった各インク量セットを評価する評価工程と、
前記評価の結果に基づいて、前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットの決定を行う工程と
を備える、印刷装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置の製造方法であって、
前記評価工程では、
前記第1の評価指数に対する重み係数を、前記第2の評価指数に対する重み係数よりも小さくして評価を行う、
印刷装置の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の印刷装置の製造方法であって、
前記評価工程では、
前記第1の評価指数は、正反射光によるL***値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数であり、
前記第2の評価指数は、拡散反射光によるL***値の階調変化の滑らかさを評価するための評価指数である
印刷装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷装置の製造方法であって、
前記学習モデルは、ニューラルネットワークである
印刷装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の印刷装置の製造方法によって製造された印刷装置。
【請求項7】
所定の表色系における表色値を、印刷装置で使用される複数種類のインクの量の組み合わせであるインク量セットに変換するための色変換ルックアップテーブルを用いて印刷を行う印刷方法であって、
予め準備した複数のインク量セットをそれぞれ表す複数のテストインク量セットと、前記各テストインク量セットに従って印刷されるカラーパッチの正反射光による第1の均等色空間値との組合せを学習データとして学習を行った学習モデルを準備する準備工程と、
前記表色系において処理対象となる表色値を、処理対象表色値として選択する選択工程と、
前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットの候補を順次、取得し、前記学習モデルを用いて、前記候補となった各インク量セットを、前記第1の均等色空間値に変換する第1の均等色空間値演算工程と、
前記第1の均等色空間値演算工程により得られた各第1の均等色空間値を評価することで、前記候補となった複数のインク量セットの中から前記処理対象表色値に対応づけるインク量セットを決定するインク量セット決定工程と、
前記決定されたインク量セットに基づいて、前記色変換ルックアップテーブルを作成するルックアップテーブル作成工程と、
前記作成された色変換ルックアップテーブルを、前記記憶部に記憶させる記憶工程と
を備える印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−231304(P2012−231304A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98418(P2011−98418)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】