説明

印刷装置

【課題】インク温度が低い場合に、印字率にかかわらずインク温度を上昇させることのできる印刷装置を、コストアップを招くことなく提供する。
【解決手段】インク吐出機構からインクを吐出して印刷を行なう印刷装置であって、画素毎のインク吐出数を示すデータに基づいて前記インク吐出機構に印加するインク吐出用駆動パルスを生成して出力する駆動信号生成手段と、前記インクの温度を計測する温度計測手段とを備え、前記駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定の基準値未満の場合に、前記インク吐出用駆動パルスの他に、前記インク吐出機構がインクを吐出しない形状の不吐出用駆動パルスを生成して出力することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式の印刷装置におけるインクの温度調整に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているようにインクジェット方式の印刷装置では、良好な印刷結果を得るために、インクの性能を保証する温度範囲が定められている。このため、インクを加熱するためのヒータを備え、環境温度が低くインク温度が保証範囲以下のときにヒータでインクを温めるインクジェットプリンタが提案されている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタでは、インク温度が保証範囲に上昇するまで印刷が行なわれないので、環境温度が低いときには、インク温めの時間分、実際の印刷開始が遅くなる。特に、特許文献2に記載されているようなインクを循環させるインク循環型のインクジェットプリンタでは循環しているインク全体を温める必要があるため、非循環型のインクジェットプリンタよりもインク温めのための時間が長くなる。
【特許文献1】特開2004−276486号公報
【特許文献2】特開2006−88575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒータを備えたインクジェットプリンタでは、インクを保証範囲の下限値に温めた後も所定の基準温度になるまでしばらく加熱を続け、印刷中にインク温度が保証範囲以下になってしまうことを防いでいる。この間、印刷は可能であるため、印刷実行とインクの加熱とを並行して行なう場合には、インクジェットプリンタの電源部は、印刷実行のための電力とヒータの電力とを供給する必要がある。
【0005】
大型の電源部であれば双方に十分な電力を供給することができるが、大型の電源部を備えることはコストアップにつながってしまう。コストアップを抑えるために小型の電源部を用いると、印刷実行とインクの加熱とを並行して行なうことが困難になる。
【0006】
印刷実行中にヒータによる加熱を行なわなくても、インクの吐出に伴う処理によってインクジェットヘッド等が発熱するため、印字率が高い印刷が続いた場合には、インク温度が上昇する。しかしながら、印字率が低いと発熱量が少なくインク温度の上昇は期待できない。このため印字率を算出して印字率が低い場合に限りヒータによる加熱を行なうことも考えられるが、印字率算出のための回路が必要になり、また、ヒータへの電力供給と印刷実行とを並行に行なえる程度の電源部が必要となりコストアップを招くことになる。
【0007】
そこで、本発明は、インク温度が低い場合に、印字率にかかわらずインク温度を上昇させることのできる印刷装置を、コストアップを招くことなく提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による印刷装置は、インク吐出機構からインクを吐出して印刷を行なう印刷装置であって、画素毎のインク吐出数を示すデータに基づいて前記インク吐出機構に印加するインク吐出用駆動パルスを生成して出力する駆動信号生成手段と、前記インクの温度を計測する温度計測手段とを備え、前記駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定の基準値未満の場合に、前記インク吐出用駆動パルスの他に、前記インク吐出機構がインクを吐出しない形状の不吐出用駆動パルスを生成して出力することを特徴とする。
【0009】
本発明では、不吐出用駆動パルスによりインク吐出機構が駆動される。このため、印字率が高い場合には、印刷動作によりインク温度が上昇し、印字率が低い場合であっても不吐出用駆動パルスによるインク吐出機構の駆動によりインク温度が上昇する。したがって、インク温度が低い場合に、印字率にかかわらずインク温度を上昇させることができる。この際、ヒータに頼らずにインク温度を上昇させるため、電源部のコストアップも避けることができる。本発明は、インク循環経路を備え、前記インク吐出機構に供給するインクを循環させるインク循環型の印刷装置に特に効果的に適用することができる。
【0010】
具体的には、前記駆動信号生成手段は、不吐出用駆動パルスを、前記インク吐出用駆動パルスを出力しない期間に対応させて出力することができる。また、前記インク吐出用駆動パルスは、負電圧パルスと正電圧パルスとを組み合わせた波形であり、前記不吐出用駆動パルスは、負電圧パルスおよび正電圧パルスのいずれかの波形とすることができる。また、ヒータに頼らないため、インクを加熱するためのヒータをさらに備えた場合でも、前記ヒータは、前記不吐出用駆動パルスを出力する際には加熱を停止することができる。さらに、前記インク吐出機構は、複数のインク色に対応して設けられ、前記駆動信号生成手段は、インク色毎に不吐出用駆動パルスを生成するか否かを判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る循環搬送路を備えたインクジェットプリンタ100の概要を示す図である。本図では特に印刷用紙搬送経路を示している。本図に示すようにインクジェットプリンタ100は、印刷用紙の供給を行なう給紙機構として、筐体側面の外部に露出したサイド給紙台320と、筐体内部に設けられた複数の給紙トレイ(330a、330b、330c、330d)とを備えている。また、印刷済の印刷用紙を排出する排紙機構として排紙口340を備えている。
【0013】
インクジェットプリンタ100は、印字機構として用紙搬送方向に直交する方向に伸び、多数のノズルが形成された印字ヘッドを複数本備え、それぞれの印字ヘッドから黒またはカラーインクを吐出してライン単位で印刷を行なうインクジェット方式のラインカラープリンタである。ただし、ライン方向に走査して画像形成を行なうシリアルカラープリンタとしてもよい。
【0014】
サイド給紙台320および給紙トレイ330のいずれかの給紙機構から1枚ずつ給紙された印刷用紙は、ローラ等の駆動機構によって筐体内の給紙系搬送路(図中の黒太線)に沿って搬送され、レジスト部Rgに導かれる。ここでレジスト部Rgは、印刷用紙の先端の位置あわせと斜行修正を行なうために設けられており、1対のレジストローラを備えて構成される。給紙された印刷用紙はレジスト部Rgで一時停止し、所定のタイミングで印字機構方向に搬送される。
【0015】
レジスト部Rgのさらに搬送方向側には、複数本のインクジェットヘッド130が設けられている。印刷用紙は、インクジェットヘッド130の対向面に設けられた環状の搬送ベルト360によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、各インクジェットヘッドから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。
【0016】
印刷済の印刷用紙は、さらに、ローラ等の駆動機構によって筐体内を搬送される。印刷用紙の片側の面のみに印刷を行なう片面印刷の場合は、そのまま排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台350に印刷面を下にして積載されていく。排紙台350は、筐体から突出したトレイ形状をしており、ある程度の厚みを有している。排紙台350は傾斜しており、傾斜の下位置に形成された壁により、排紙口340から排紙され、傾斜に沿って滑落する印刷用紙が自然に整えられて重なっていくようになっている。
【0017】
印刷用紙の両面に印刷を行なう両面印刷の場合は、表面(最初に印刷される面を「表面」、次に印刷される面を「裏面」とする)印刷終了時には排紙口340に導かれずに、さらに筐体内を搬送される。このため、インクジェットプリンタ100は、裏面印刷用に搬送路を切り替えるための切替機構370を備えている。切替機構370によって排出されなかった印刷用紙は、スイッチバック経路SRに引き込まれ、スイッチバックを行ない、搬送路に対して表裏が反転する。そして、ローラ等の駆動機構によって、切替機構372を経由して再度レジスト部Rgに導かれ、一時停止する。その後、所定のタイミングで印字機構方向に搬送され、表面と同様の手順によって裏面の印刷が行なわれる。裏面の印刷が行なわれ、両面に画像が形成された印刷用紙は、排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台350に積載されていく。
【0018】
インクジェットプリンタ100では、両面印刷時におけるスイッチバックを、排紙台350内に設けられた空間を利用して行なうようにしている。排紙台350内に設けられた空間は、スイッチバック時に印刷用紙が外部から取り出せないように覆われた構成となっている。これにより、利用者が誤ってスイッチバック動作中の印刷用紙を引き抜いてしまうことを防ぐことができる。また、<A NAME="OLE_LINK2"><A NAME="OLE_LINK1">排紙台350は、本来インクジェットプリンタ100に備えられているものであり、排紙台150内の空間を利用してスイッチバックを行なうことにより、インクジェットプリンタ100内に、別途スイッチバック用の空間を設ける必要がなくなる。したがって、筐体のサイズが増大してしまうことを防ぐことができる。さらには、排紙口とスイッチバック経路とを共用しないため、スイッチバック処理と他の用紙の排紙とを並行して行なうことができる。
【0019】
図2は、インクジェットプリンタ100のインク流路関連の構成を説明するためのブロック図である。本図に示すようにインクジェットプリンタ100は、CMYK4色のインクを用いて印刷を行なうカラープリンタとしている。各インクは着脱可能なインクボトルから供給され、シアンのインクを供給するインクボトル110C、マゼンタのインクを供給するインクボトル110M、イエローのインクを供給するインクボトル110Y、黒のインクを供給するインクボトル110Kが備えられている。
【0020】
また、インクジェットプリンタ100は制御部200を備えている。制御部200は、インクジェットプリンタ100における印刷処理、電力供給、インク温度制御、その他の処理を制御する機能部であり、ハードウェア的にはCPU、メモリ等により構成される。本実施形態において制御部200は、印刷対象の印刷データに基づいてドット毎のインク吐出量を算出して画像データとして出力する画像処理部210と、インクの温度を管理制御するインク温度調整部220とを備えている。インク温度調整部220は、必要に応じて後述する空吐出設定信号を出力する。
【0021】
インクボトル110から供給されたインクは、樹脂、金属等のパイプにより形成された流路を通って、インクジェットヘッド130の下流側に設けられた下流タンクに一旦溜められる。このため、インクジェットプリンタ100には、シアンのインクを溜める下流タンク122C、マゼンタのインクを溜める下流タンク122M、イエローのインクを溜める下流タンク122Y、黒のインクを溜める下流タンク122Kが備えられている。
【0022】
下流タンク122に溜められたインクは、ポンプ170によりインクジェットヘッド130の上流側に設けられた上流タンクに送られる。このため、インクジェットプリンタ100には、ポンプ170C、ポンプ170M、ポンプ170Y、ポンプ170Kおよび上流タンク120C、上流タンク120M、上流タンク120Y、上流タンク120Kが備えられている。上流タンク120に送られたインクは、インクを吐出する多数のノズルが設けられているインクジェットヘッドに送られて印刷に用いられる。本図に示すようにインクジェットプリンタ100には、シアンのインクを吐出するインクジェットヘッド130C、マゼンタのインクを吐出するインクジェットヘッド130M、イエローのインクを吐出するインクジェットヘッド130Y、黒のインクを吐出するインクジェットヘッド130Kが備えられている。本実施形態では、ピエゾ素子を用いてインクを噴射させる方式のインクジェットヘッドが用いられているものとする。
【0023】
各インクジェットヘッド130には、制御部200から送られる画像データに基づいてピエゾ素子を駆動するドライバ132(132C、132M、132Y、132K)が備えられている。なお、インクジェットプリンタ100は、インクを循環させる循環方式を採用しており、インクジェットヘッド130で印刷の際に消費されなかったインクは下流タンク122に戻される。上流タンク120からインクジェットヘッド130を経由して下流タンク122へのインク帰還は、上流タンク120と下流タンク122との水頭差を利用している。
【0024】
インクは印刷品質が保証される温度範囲が定められており、インク温度が低く、保証温度範囲を下回っているとインクを加熱する必要がある。このため、インク流路中にヒータ140が設けられている。ヒータ140の制御はインク温度調整部220により行なわれる。一方、ドライバ132やピエゾ素子は動作することにより発熱する。これらの発熱やインク振動のジュール熱により、高温時におけるインク温度上昇の影響等を抑制するために、インクを冷やすための冷却器160が設けられている。そして、ヒータ140、冷却器160を通ったインクは上流タンク120に送られる。
【0025】
また、各インクジェットヘッド130には、インク温度を直接的あるいは間接的に測定する温度計134(134C、134M、134Y、134K)が備えられている。インク温度調整部220は、温度計134が測定したインク温度に基づいてインク温度の制御を行なう。
【0026】
図3は、インクジェットヘッド130のドライバ132の構成を示すブロック図である。本図に示すように、ドライバ132は、駆動波形生成回路132aと、駆動トランジスタ群132bとを備えている。駆動波形生成回路132aは、画像処理部210が出力した画像データに基づいてピエゾ素子を駆動するための波形を生成し、駆動トランジスタ群132bに出力する。駆動トランジスタ群132bは、駆動波形生成回路132aが出力した駆動波形に基づいてピエゾ素子に印加する電圧を制御する。
【0027】
また、駆動波形生成回路132aは、インク温度調整部220が出力した空吐出設定信号に基づいて、インク吐出が行なわれない程度にピエゾ素子を駆動するための波形を生成し、駆動トランジスタ群132bに出力する。
【0028】
なお、画像処理部210が出力する画像データは、画素毎にノズルから吐出するインクのドロップ数を示したデータである。すなわち、インクジェットヘッド130は、階調をインクのドロップ数で表わしており、画像のハイライト部分は少ないドロップ数で表現し、シャドウ部分は多くのドロップ数で表現する。画像データは、インクを吐出しない画素については0ドロップで示す。
【0029】
本実施形態において、インクジェットプリンタ100は、温度計134におけるインク温度の計測値が20℃から45℃までが印字保証の範囲であるとする。このため、温度計134におけるインク温度の計測値が20℃未満のときは印刷を行なわずにインクを循環させ、ヒータ140を駆動することでインクを加熱する。そして、インク温度の計測値が20℃以上に温まると実際の印刷を開始する。ただし、本実施形態においてインク温度の各値は例示である。
【0030】
インク温度が20℃以上になると印刷を開始するが、印刷開始後に環境温度の影響等によりインク温度が保証範囲以下に低下することを防ぐために、インク温度の計測値が、所定の基準温度、例えば、25℃になるまでは加熱を続ける必要がある。この際に、ヒータ140による加熱を継続すると、印刷処理とヒータ加熱とが並行に行なわれることになる。
【0031】
インクジェットヘッド130とヒータ140とは図示しない電源部から電力の供給を受けている。この電源部を小型化した場合にはインクジェットヘッド130とヒータ140に対して十分な電力の供給ができなくなるため、ヒータ140によるインク加熱が制約を受けることになる。そこで、本実施形態ではヒータ140によるインク加熱に頼らずに以下に示すような制御を行なうものとする。
【0032】
図4は、本実施形態の処理の流れを説明するフローチャートである。本フローチャートは印刷開始時におけるインク温度の計測値が25℃未満の場合の処理を示している。この場合、まず、インク温度の計測値が保証温度範囲下限の20℃以上かどうかを判断する(S101)。その結果、20℃以上でない場合(S101:No)には、ヒータ140による加熱を行なってインクを温める(S102)。この際、インクは循環させる。そして、インク温度の計測値が20℃以上になるまで実際の印刷を開始せずに加熱を続ける。
【0033】
インク温度の計測値が20℃以上の場合あるいは加熱により20℃以上に上昇した場合(S101:Yes)は、ヒータ140による加熱を行なわない、あるいは、ヒータ140による加熱を停止する(S103)。
【0034】
そして、インク温度の計測値が所定の基準温度である25℃以上かどうかを判断する(S104)。その結果、インク温度の計測値が25℃以上でない場合(S104:No)には、インク温度を上昇させるために空吐出動作を行なう印刷処理を開始する(S105)。
【0035】
ここで、空吐出動作について図5を参照して説明する。一般に、インクジェットプリンタでは、1ドロップについて、インク室を拡大させる負電圧パルスとインク室を収縮させる正電圧パルスを1セットとしてピエゾ素子に印加する。したがって、図5に示すように、5ドロップの画素に対しては、このパルスセットを繰り返し5回印加することになる。空吐出動作とは、このパルスセットによるインク吐出のための動作ではなく、インク吐出が行なわれない程度にピエゾ素子を駆動させるものである。例えば、負電圧パルスあるいは正電圧パルスの一方のみを印加することで行なうことができる。もちろん、インク吐出を行なわないピエゾ素子の駆動であればパルス波の形状、大きさは問わない。
【0036】
このような空吐出動作を行なうことにより、印字率とは無関係にドライバ132やピエゾ素子が駆動するため発熱する。またインクが振動するためジュール熱も発生する。これらの熱によりインクが温められることになり、印刷を行ないながら、印字率にかかわらず、ヒータ140による加熱に頼ることなくインク温度を上昇させることができる。
【0037】
すなわち、仮に印字率が高ければ、インク吐出動作でインク温度が上昇し、印字率が低いとしても空吐出動作によりインク温度が上昇することになる。このとき、空吐出動作では、不要なインクの吐出は行なわれないため、印刷画像に影響を与えることはない。また、印刷処理に並行してインク温度を上昇させるため、インク温度の計測値が保証温度範囲下限から印刷を開始することができる。これにより、低温度時に印刷開始までの時間を短縮することができる。
【0038】
本実施形態では、このような空吐出動作を、ノズル単位でドロップが行なわれない期間に行なうようにする。例えば、最大ドロップ数が5ドロップの場合には、図5に示すように3ドロップの画素に対応したノズルは4ドロップ目と5ドロップ目の期間にはインク吐出動作を行なわない。そこで、この期間に空吐出を行なうようにする。また、0ドロップの画素に対応したノズルは全ドロップ期間についてインク吐出動作を行なわないため、空吐出動作を5回行なうことになる。なお、駆動波形生成回路132aにおける制御を容易にするため、空吐出のためのパルス波形は、0ドロップの画素に限り出力するようにしてもよい。
【0039】
具体的な制御としては、インク温度調整部220が温度計134の計測結果に応じて空吐出を行なうかどうかを判断し、空吐出を行なう場合には、ドライバ132の駆動波形生成回路132aに空吐出設定信号を出力する。この信号を受信した駆動波形生成回路132aは、画像データが示すドロップ数に応じて、ドロップが行なわれない期間等に空吐出のための駆動信号を生成するようにする。
【0040】
図4のフローチャートに戻って、空吐出動作を行なう印刷処理(S105)により、1ページ分の印刷を終えると次ページがあるかどうか判断する(S106)。その結果、次ページがない場合(S106:No)は印刷処理を終了する。一方、次ページがある場合(S106:Yes)は、インク温度の計測値が25℃以上に上昇したかどうかを判断し(S104)、上昇していない場合には(S104:No)には、空吐出動作を行なう印刷処理(S105)を繰り返して、インク温度を上昇させる。
【0041】
一方、インク温度の計測値が25℃以上に上昇した場合(S104:Yes)は、インク温度を上昇させる必要が無くなるため、通常の印刷処理、すなわち、空吐出動作を行なわない印刷処理(S107)を開始する。空吐出動作を行なわない印刷処理(S107)により、1ページ分の印刷を終えると次ページがあるかどうか判断する(S108)。その結果、次ページがない場合(S108:No)は印刷処理を終了する。
【0042】
一方、次ページがある場合(S109:Yes)は、インク温度の計測値が所定の基準温度、例えば、22℃以下に低下したかどうかを判断する(S108)。インク温度の計測値が一旦25℃に上昇した場合でも環境温度等の影響で低下する場合があり、インク温度の計測値が20℃以下になってしまうおそれがある。これを防ぐために、所定の基準温度、例えば、22℃に低下したことを検出するようにしている。もちろん、所定の基準温度は22℃に限られず、保証温度範囲の下限温度から、インク温度を上昇させる必要が無くなる温度までの間の温度をあらかじめ設定しておくことができる。
【0043】
この結果、インク温度の計測値が22℃以下に低下していない場合(S109:No)には、インク温度を上昇させる必要が無いものとして空吐出動作を行なわない印刷処理(S107)を繰り返す。一方、インク温度の計測値が22℃以下に低下した場合(S109:Yes)には、インク温度を上昇させるために空吐出動作を行なう印刷処理に移行する(S105)。
【0044】
このような空吐出動作を行なうことにより、本実施形態では、インク温度が低い場合に、印字率にかかわらずインク温度を上昇させることができるようになる。例えば、従来の空吐出動作を行なわないインクジェットプリンタで、インク温度が低い場合に20℃までヒータでインクを温めて、その後、ヒータを停止して印刷動作を開始すると、図6(a)に示すように、印字率が高い場合にはインク温度を上昇させることができるが、印字率が低い場合は20℃からインク温度が低下してしまう。
【0045】
これに対して、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100では、インク温度が低い場合に20℃までヒータでインクを温めて、その後、ヒータを停止して印刷動作を開始すると、図6(b)に示すように、印字率が高い場合であっても、印字率が低い場合であってもインク温度を上昇させることができる。さらに、インク温度が上昇して25℃を超えた場合には空吐出動作を停止するためインク温度が低下するが、22℃まで低下した時点で空吐出動作を再開するため、再度インク温度を上昇させることができる。
【0046】
なお、空吐出動作時にピエゾ素子を駆動させるための波形パターンは、上述のように図5に示したものに限られない。例えば、0ドロップの画素に対応するノズルに対して、図7(a)に示したような空吐出を5回繰り返すパルス波形に代えて、図7(b)に示すように空吐出のためのパルス波形を2回出力して残り3回のパルスを省くようにしてもよい。このとき、空吐出のためのパルス波形の回数をインク温度の計測値等に応じて変化させるようにしてもよい。例えば、インク温度が低い場合には空吐出のためのパルス波形の繰り返し回数を多くし、インク温度が上昇してきた場合には空吐出のためのパルス波形の繰り返し回数を少なくするようにすることができる。
【0047】
また、空吐出のためのパルス波形は、図7(c)に示すように負電圧パルスとしてもよい。いずれの極性であっても、インク温度等に応じてパルス幅を調整するようにしてもよい。例えば、図7(c)に示したパルス幅W1を、図7(d)に示すようなパルス幅W2に変更することで温度上昇の度合いを調整することができる。
【0048】
また、空吐出動作はインク色毎に行なうようにしてもよい。例えば、モノクロ印刷処理が続いて、黒(K)のインクだけが温度上昇し、他の色のインク(Cインク、Mインク、Yインク)のインク温度が低い場合には、図8に示すように、黒(K)インクについては空吐出動作を行なわず、他の色のインク(Cインク、Mインク、Yインク)については空吐出動作を行なってインク温度を上昇させるようにしてもよい。この場合は、図4に示した処理手順を各インクで独立に行なえばよい。
【0049】
また、空吐出動作は印刷実行中に限られない。複数枚数印刷中の紙間、印刷処理と印刷処理との間、印刷停止中等も空吐出動作を行なうようにしてもよい。例えば、紙間のインク温度上昇処理を模式的に表わした図9(a)に示すように、ヒータ加熱によりインク温度が20℃に上昇すると、紙間を含めて空吐出動作を行なうようにしてもよいし、図9(b)に示すように、用紙への印刷時には空吐出動作を行ない、紙間はヒータ加熱を行なうようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】インクジェットプリンタの概略構成を説明するためのブロック図である。
【図2】インクジェットプリンタのインク流路関連の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】インクジェットヘッドのドライバの構成を示すブロック図である。
【図4】本実施形態の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】空吐出動作について説明するための図である。
【図6】本実施形態の効果を説明するための図である。
【図7】空吐出動作時にピエゾ素子を駆動させるための波形パターンを説明する図である。
【図8】インク色毎に空吐出動作を行なう場合を説明する図である。
【図9】紙間のインク温度上昇処理を模式的に説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
100…インクジェットプリンタ、110…インクボトル、120…上流タンク、122…下流タンク、130…インクジェットヘッド、132…ドライバ、132a…駆動波形生成回路、132b…駆動トランジスタ群、134…温度計、140…ヒータ、160…冷却器、170…ポンプ、200…制御部、210…画像処理部、220…インク温度調整部、320…サイド給紙台、330…給紙トレイ、340…排紙口、350…排紙台、360…搬送ベルト、370・372…切替機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出機構からインクを吐出して印刷を行なう印刷装置であって、
画素毎のインク吐出数を示すデータに基づいて前記インク吐出機構に印加するインク吐出用駆動パルスを生成して出力する駆動信号生成手段と、
前記インクの温度を計測する温度計測手段とを備え、
前記駆動信号生成手段は、計測されたインク温度が所定の基準値未満の場合に、前記インク吐出用駆動パルスの他に、前記インク吐出機構がインクを吐出しない形状の不吐出用駆動パルスを生成して出力することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記駆動信号生成手段は、不吐出用駆動パルスを、前記インク吐出用駆動パルスを出力しない期間に対応させて出力することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記インク吐出用駆動パルスは、負電圧パルスと正電圧パルスとを組み合わせた波形であり、前記不吐出用駆動パルスは、負電圧パルスおよび正電圧パルスのいずれかの波形であることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1に記載の印刷装置であって、
インクを加熱するためのヒータをさらに備え、
前記ヒータは、前記不吐出用駆動パルスを出力する際には加熱を停止することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記インク吐出機構は、複数のインク色に対応して設けられ、
前記駆動信号生成手段は、インク色毎に不吐出用駆動パルスを生成するか否かを判断することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
インク循環経路を備え、前記インク吐出機構に供給するインクを循環させるインク循環型であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−190380(P2009−190380A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36451(P2008−36451)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】