説明

印字装置、印字方法及び制御プログラム

【課題】低温時の印字でシート搬送方向に縮んだ印字が行われるという問題を解消し、印字時間を長く費やすことがなく、動作保証温度以下でも良好な印字結果を得ることができる印字装置を提供することを目的とする。
【解決手段】雰囲気の温度が温度センサによって検出され(S1)、検出され温度が所定値以下かどうか判断される(S2)。検出され温度が所定値以下であると判断されると(S2のNO)、印字テープの種類の検出が行われる(S3)。そして、検出された温度と、検出されたテープの種類の情報に基づいて、印字すべき印字データを拡大加工する拡大率が設定される(S4)。次に、入力された印字すべき情報の印字データが展開され(ステップ5)、更に設定された拡大率により印字データが副走査方向に拡大されて拡大印字データに加工される(S6)。そして、加工された拡大印字データに基づいて印字が行われる(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに印字を行う印字装置、印字方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印字テープに印字しラベルを作成する印字装置は、サーマルヘッドとプラテンローラの間に印字テープを挟んで押圧し、プラテンローラを駆動することにより印字テープを搬送しつつテープ幅に対応して印字素子が配列されたサーマルヘッドを駆動して印字テープ上に印字を行い、印字された部分を切断してラベルを作成するものであった。このような印字装置は、装置が正常に動作できることを保証する動作保証温度が決められており、その動作保証温度は、例えば、10〜35°C等とされている。
【0003】
この印字装置は、決められた動作保証温度の範囲で使用していれば、特に問題はないのであるが、動作保証温度の範囲から外れた10°C以下の低い雰囲気温度で使用するような場合、印字テープ上に形成される印字像が印字テープのテープ送り方向である長さ方向(副走査方向)に縮んで印字される傾向にある。これは、低温になると印字テープの剛性が大きくなり、印字テープのコシが強くなって搬送時の抵抗が大きくなりテープ搬送が正常に行われず、正常なテープ搬送量が確保できないことによるものである。この結果、低温時の印字では、常温時(動作保証温度の範囲)での印字に比べて、印字像がテープ長方向に縮んだものとなり、テープ長を指定してラベルを作成しても指定されたテープ長が得られず、指定寸法より短いラベルとなってしまう。この現象の程度は印字テープの材質によって異なり、印字テープの材質がより剛性の大きいものにより顕著に見られる。
【0004】
このような低温時の印字の問題に対応する技術として、特許文献1に記載される技術がある。この特許文献1に記載される印字装置では、雰囲気の温度が所定値より低くなると、シートの搬送速度を遅くして低温によりシートの剛性が大きくなっても搬送手段とシートを馴染ませることにより、正常なシート搬送量を確保して低温下での印字への悪影響を解消しようとしたものである。
【特許文献1】特開平7−246740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の印字装置は、低温時にシートの搬送速度を遅くして印字を行うものであるため、印字時間が必要以上に長くなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決するものであり、低温時の印字でシート搬送方向に縮んだ印字が行われるという問題を解消し、印字時間を長く費やすことがなく、動作保証温度以下でも良好な印字結果を得ることができる印字装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置において、雰囲気の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段によって検出された温度が所定値より低い場合、印字すべき印字データを前記印字ヘッドの副走査方向に所定拡大率で拡大する加工を行う印字データ加工手段と、 前記搬送手段を制御するとともに、前記印字データ加工手段によって加工された印字データに基づいて前記印字ヘッドを駆動して前記シートに印字を行う印字制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、更に、前記印字装置にセットされるシートの種類を検出するシート種類検出手段と、シートの種類毎に、雰囲気の温度に対応して前記印字データを副走査方向に拡大する際の拡大率データを予め記憶する拡大率データ記憶手段を備え、前記印字データ加工手段は、前記シート種類検出手段によって検出されるシートの種類及び前記温度検出手段によって検出される温度に対応する拡大率データを前記拡大率データ記憶手段から読み出し、読み出された拡大率データに従って前記印字データを加工することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置において、基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの、副走査方向における実測長の値を入力する実測長入力手段と、前記実測長入力手段によって入力された実測長の値と前記基準印字データの前記基準長の値に基づいて印字すべき印字データを拡大する拡大率を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された拡大率によって、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置において、基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの副走査方向における実測長の値と、前記基準印字データの前記基準長の値との比率に基づいた印字すべき印字データの拡大率のデータを入力する拡大率入力手段と、前記拡大率入力手段によって入力された拡大率のデータに基づいて、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置の印字方法であって、雰囲気の温度を検出するステップと、検出された温度が所定値より低い場合、印字すべき印字データを副走査方向に所定拡大率で拡大する加工を行うステップと、前記搬送手段によりシートを搬送しつつ、加工された印字データに基づいて前記印字ヘッドを駆動してシートに印字を行うステップとを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段とを備えた印字装置の印字方法であって、所定の印字モードを設定するステップと、前記所定の印字モードが設定されたときに、基準温度の雰囲気中で印字した場合に副走査方向に所定の基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを用いてシートに印字を行うステップと、シート上に印字された前記基準印字データの、副走査方向における実測長の値を入力するステップと、入力された前記基準印字データの実測長の値と前記基準印字データの前記基準長の値に基づいて印字すべき印字データを拡大する拡大率を算出するステップと、算出された拡大率によって、印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行うステップと、加工された印字データをシートに印字するステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置の印字方法であって、所定の印字モードを設定するステップと、前記所定の印字モードが設定されたときに、基準温度の雰囲気中で印字した場合に副走査方向に所定の基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを用いてシートに印字を行うステップと、シート上に印字された前記基準印字データの副走査方向における実測長の値と、前記基準印字データの前記基準長の値との比率に基づいた印字すべき印字データの拡大率のデータを入力するステップと、入力された比率に基づいた拡大率によって、印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行うステップと、加工された印字データをシートに印字するステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置のコンピュータを制御するための制御プログラムであって、前記コンピュータを、雰囲気の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段によって検出された温度が所定値より低い場合、印字すべき印字データを副走査方向に所定拡大率で拡大する加工を行う印字データ加工手段と、前記搬送手段を制御するとともに、前記印字データ加工手段によって加工された印字データに基づいて前記印字ヘッドを駆動して前記シートに印字を行う印字制御手段、として機能させるようにしたコンピュータ読み込み可能な制御プログラムである。
【0015】
請求項9の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置のコンピュータを制御するための制御プログラムであって、前記コンピュータを、基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの、副走査方向における実測長の値を入力する実測長入力手段と、前記実測長入力手段によって入力された実測長の値と前記基準印字データの前記基準長の値に基づいて印字すべき印字データを拡大する拡大率を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された拡大率によって、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段として機能させるようにしたコンピュータ読み込み可能な制御プログラムである。
【0016】
請求項10の発明は、シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置のコンピュータを制御するための制御プログラムであって、前記コンピュータを、基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの副走査方向における実測長の値と、前記基準印字データの前記基準長の値との比率に基づいた印字すべき印字データの拡大率のデータを入力する拡大率入力手段と、前記拡大率入力手段によって入力された拡大率のデータに基づいて、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段、として機能させるようにしたコンピュータ読み込み可能な制御プログラムである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、雰囲気の温度を検出し、その検出された温度が所定値より低い場合、印字データを副走査方向に所定拡大率で拡大した拡大印字データに加工し、その加工された印字データを印字するように構成したため、低温時でシートの剛性が大きくなることにより常温時のような正常なシートの搬送ができない動作環境でも、印字像が搬送方向に縮まない印字を行うことが可能になる。
【0018】
また、請求項3の発明によれば、基準印字データを印字し、その基準印字データの副走査方向の実測長の値を入力すると、基準印字データの実測長の値と基準長の値に基づいて拡大率を求め、その拡大率によって印字データを副走査方向に拡大加工するため、低温時でシートの剛性が大きくなることにより常温時のような正常なシートの搬送ができない動作環境でも、印字像が搬送方向に縮まない印字を行うことが可能になる。
【0019】
また、請求項4の発明によれば、基準印字データを印字し、その基準印字データの副走査方向の実測長と基準長との比率に基づいた拡大率を入力すると、その拡大率によって印字データを副走査方向に拡大加工するため、低温時でシートの剛性が大きくなることにより常温時のような正常なシートの搬送ができない動作環境でも、印字像が搬送方向に縮まない印字を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態に係る電子装置としての印字装置の外観を示す平面図、図2はその印字装置に使用するテープカセットの外観及び印字装置の内部構造の一部を示す斜視図である。図1及び図2に示すように、印字装置1は、装置本体2の上面に入力部3、表示部4、および開閉蓋5を備えている。開閉蓋5の内側には印字テープ31及びインクリボン35を収容したテープカセット21を装填するためのカセット装填部6が形成されている。
【0021】
入力部3には、文字情報を入力するための文字キー、数字キー、記号キー等の文字入力キーが備えられ、さらに、電源キー、表示部4上に表示されるカーソルを移動させるカーソルキー、印字モードを設定するための印字モード設定キー、入力された文字情報により作成された文書情報の登録処理を行なう際に操作される登録キー、各種入力情報や選択データの確定、所定機能の開始の指示等を行なうときに操作される実行キー、入力された文字情報により作成された文書情報の印刷処理を実行する際に操作される印刷キー等が備えられる。表示部4は液晶表示装置であり、入力された文字情報や各種設定のための選択メニュー画面や処理に関するメッセージなどが表示されるとともに、作成されるラベルの長さや印字モードの状態などの各種の情報が表示される。
【0022】
カセット装填部6内には、印字素子が印字テープ(シート)31の幅方向に対応する縦方向に配列され印字テープ31に印字を行う印字ヘッド(サーマルヘッド)7と、サーマルヘッド7との間で印字テープ31及びインクリボン35を挟んでこれを搬送するプラテンローラ8と、印字に使用したインクリボン35をテープカセット21内に巻き取るリボン巻取軸9とを備えたテープ印字機構が設けられている。更に、テープカセット21を所定の位置に支持するためのカセット受部10を備えている。また、カセット装填部6の一端部には装置本体2外に通じる排出口12が形成されており、この排出口12には、固定刃13aと可動刃13bとを備え、印字テープ31を切断するためのカッタ13が設けられている。前記カセット受部10には印字テープ31の種類をテープカセット21に設けられた識別部を介して検出する複数個のテープ種類検出スイッチ48が設けられている。
【0023】
一方、テープカセット21は、カセットケース22を備え、このカセットケース22の内部には、印字テープ31を巻回したテープコア23、未使用のインクリボン35を巻回したリボン供給コア24、印字に使用済のインクリボン35を巻き取るリボン巻取コア25がそれぞれ収納されている。前記印字テープ31は、印字が行われる印字テープ層と貼着剤層と剥離テープ層の積層構造を有している。また、長尺シート状の印字テープ31は、作成するラベルの用途に応じた複数種類が用意されており、例えば、標準テープ、反射テープ、マグネットテープなどがある。標準テープはPETのシートで構成され、反射テープはガラスビーズを含む樹脂シートで構成され、マグネットテープは磁性材料を含むシートで構成される。
【0024】
また、前記テープカセット21のカセットケース22には、カセット装填部6内にテープカセット21を装填したときにサーマルヘッド7が配置されるヘッド配置部27が形成されており、また、カセットケース22の隅部には、カセット装填部6のカセット受部10に係合してそれに支持される被係合部29が形成されている。また、被係合部29には、テープカセット21に収容する印字テープ31の種類を表し印字装置1のテープ種類検出スイッチ48によって検出される識別部が設けられている。この識別部は、標準テープ、反射テープ、マグネットテープのテープ種類に応じて異なる形状に形成され、複数個のテープ種類検出スイッチ48を異なる組合せでオン・オフ動作させ、それによりテープの種類の識別を可能にしている。また、図示しないが、カセット装填部6内には、その雰囲気の温度を検出するサーミスタからなる温度センサが設けられている。
【0025】
この印字装置1では、入力部3から文字データ等の印字すべき情報を入力し、その印字を指示すると、印字テープ31とインクリボン35とがテープカセット21から引き出され、重ね合わせた状態でプラテンローラ8とサーマルヘッド7の間に挟まれて共に搬送されるとともに、サーマルヘッド7が入力された印字すべき文書情報の印字データに基づいて発熱駆動されてインクリボン35のインクが印字テープ31に熱転写されて印字テープ31に印字が行われる。印字が終了すると、カッタ13が作動して印字テープ31が切断されて1枚のラベルが作成される。
【0026】
図3はこの印字装置の電子回路の構成を示すブロック図である。この印字装置の電子回路には、コンピュータであるCPUからなる制御部40が備えられる。制御部40は、入力部3からのキー操作信号に応じてROM41に予め記憶されているシステムプログラム、あるいはメモリカード,CD−ROMなどの外部記憶媒体50からその記憶媒体読み取り部51を介して内部メモリに読み込まれた装置制御プログラム、あるいは外部通信ネットワークN上のWebサーバ52から通信制御部53を介して内部メモリに読み込まれた装置制御プログラムを起動させ、RAM42をワークメモリとして回路各部の動作を制御する。この制御部40には、前記入力部3、前記表示部4、前記プリンタ部20、ROM41、RAM42が接続される他、表示用の文字フォントを格納する表示用フォントROM43、印字用の文字フォントを格納する印字用フォントROM44が接続される。また、制御部40には、基準印字データメモリ45、拡大率データメモリ46が接続される。また、制御部40には、カセット装填部6内に設けられる前記温度センサ47及び前記テープ種類検出スイッチ48が接続される。
【0027】
ROM41には、入力部3から入力された文書情報を印字するためのプログラム、本発明に係る低温時の印字処理を行うプログラム、及び印字装置1によって行われる各処理のプログラムが記憶されている。また、RAM42には、入力された文書情報を記憶する入力データメモリ、印字する文書情報の印字パターンデータ(印字データ)が記憶される印字データメモリ45a、表示部4に表示されるパターンデータが記憶される表示データメモリの各領域が確保され、印字処理などに必要なデータを一時的に記憶するレジスタやカウンタなどが設けられている。
【0028】
前記基準印字データメモリ45には基準印字データが記憶されている。この準印字データメモリ45に記憶される基準印字データを、所定の基準温度(動作保証温度範囲の温度)で印字した場合、サーマルヘッド7の主走査方向と直交方向(副走査方向、あるいは印字テープ31の搬送方向)に、所定の基準長の範囲で基準印字データに対応する印字像が形成されるようになっている。この基準長の寸法の数値データはROM41に保持されている。
【0029】
また、前記拡大率データメモリ46には、印字テープ31の種類毎に、温度に対応して印字データを拡大印字データに加工するための拡大率データが予め記憶されている。図4は拡大率データメモリ46に予め記憶されている拡大率データの説明図である。図4のように、標準テープ、反射テープ、マグネットテープの各印字テープの種類毎に、温度に対応して拡大率データが記憶されている。例えば、4°Cでは、標準テープの拡大率は1.03倍、反射テープの拡大率は1.06倍、マグネットテープの拡大率は1.3倍となっている。そして、低温時の印字処理において、温度センサ47によって検出される温度とテープ種類検出スイッチ48によって検出される印字テープの種類に対応する拡大率データが拡大率データメモリ46から読み出されるようになっている。3種類のテープでは、標準テープ、反射テープ、マグネットテープの順序で剛性が大きく、特に低温時に剛性の大きさの差が顕著になる。
【0030】
以下に、本発明の印字装置の印字処理を説明する。この印字装置の印字処理では低温時(装置の動作保証温度以下の温度時)の印字に対応する機能を有している。図5は、印字装置の印字処理のフローチャートを示している。入力部3から印字すべき情報が入力された後、入力部3の印字キーの操作により処理が開始される。まず雰囲気の温度が温度センサ47によって検出され、そのデータが読み込まれる(ステップS1)。次に、検出され温度が所定値以下かどうか判断される(ステップS2)。図4に図示のように、動作保証温度から外れた低温印字時への対策を行うためであり、約10°Cから影響が生じ始めるため、比較対象となる前記所定値は摂氏10°Cとしている。検出され温度が所定値以下であると判断されると(ステップS2のNO)、テープ種類検出スイッチ48の状態が読み出されて印字テープ(シート)の種類の検出が行われる(ステップS3)。そして、温度センサ47によって検出された温度と、テープ種類検出スイッチ48によって検出されたテープの種類の情報に基づいて、拡大率データメモリ46から拡大率データが読み出されて、印字すべき印字データを拡大加工する拡大率が設定される(ステップS4)。
【0031】
次に、入力された印字すべき情報の印字データが印字データメモリ45aに展開され(ステップS5)、更に設定された拡大率により印字データが副走査方向に拡大されて拡大印字データに加工される(ステップS6)。例えば、印字すべき情報が「ABC」の文字列であり、この文字列のテープ長方向の前後に所定長の余白を設け、印字テープ31の長さ方向に沿って印字して所定長のラベルを作成するものとする。そして、このラベルでは、文字列部分の総印字ライン数をmとし、前後の余白部分の総印字ライン数を夫々nとする。一方、印字テープ31の種類がマグネットテープであり、雰囲気温度が6°Cであることが検出されたとする。この場合には、拡大率データメモリ46から「1.2」の拡大率データが読み出されて拡大率が設定されることになる。しかして、印字ライン数nの前後余白と印字ライン数mの文字列の印字データについて、設定された拡大率によって拡大印字データに加工される。拡大印字データの加工は、前後余白部分では5本の印字ライン毎に空白のラインデータを補間し、文字列部分は5本の印字ライン毎に隣接する印字ラインと同じデータを補間する。これによって、前後余白部分は夫々n×0.2の印字ライン数が増加され、文字列部分はm×0.2の印字ライン数が増加されることにより、前後余白部分の総印字ライン数は夫々n×1.2となり、文字列部分の総印字ライン数はm×1.2となる。
【0032】
ステップS6によって加工された拡大印字データに基づいて印字が行われる(ステップS7)。一方、温度センサ47によって検出された温度が所定値以下ではない場合、入力された印字すべき情報の印字データが印字データメモリ45aに展開され(ステップS8)、その印字データがそのまま印字される(ステップS7)。
【0033】
この実施の形態によれば、テープ種類検出スイッチ48によってカセット装填部6に装填されたテープカセット21の印字テープ31の種類を検出し、温度センサ47によって雰囲気の温度を検出し、その検出された温度が装置の動作保証温度の最低温度より低い場合、検出された印字テープ31の種類及び雰囲気温度に基づいて拡大率データメモリ46から拡大率データを読み出し、その拡大率によって印字データを副走査方向に拡大して印字するように構成したため、低温時で印字テープ31の剛性が大きくなることにより常温時のような正常な印字テープ31の搬送ができない動作環境でも、印字像が搬送方向に縮まない印字を行うことが可能になる。
【0034】
次に、図6は他の低温時(装置の動作保証温度以下の温度時)の印字処理について説明するフローチャートである。入力部3の印字モードの設定キーの操作によって、印字装置1において設定可能な複数の印字モードのうちの1つである低温印字モードが設定されることにより、図6の低温時の印字処理がスタートする。まず、基準印字データメモリ45に予め記憶されている基準印字データが読み出され(ステップA1)、その基準印字データが印字テープ31の長さ方向に印字される(ステップA2)。図7は基準印字データの印字例を示している。図7に図示するように、副走査方向(印字テープ31の搬送方向であるテープ長方向)に基準印字データが印字される。この基準印字データは、常温(動作保証温度範囲)において、副走査方向に基準長の範囲で2本の線分A、Bが印字されるもので、常温において印字された場合、線分A、B間の長さは予め定めた基準長で印字されるようになっている。例えば、基準長が100mmとしている。また、ステップA2の印字では、基準印字データの印字とともに、ユーザに線分A、B間の長さの測定とその実測長のデータを印字装置に入力することを促す「A〜Bの長さを測り、そのデータを入力してください」の文言が印字テープ31に印字される。なお、基準印字データは図7に示す間隔をあけた2本の線分に限らず、印字テープ31の長さ方向に伸びる直線状の線分であってもよく、その他図形でもよく、その形態は任意のものでよい。
【0035】
基準印字データの印字後、印字装置1の表示部3に印字サンプル上での基準データの長さを実測し、その実測値の入力を促す入力要求画面が表示される(ステップA3)。ユーザからの実測値の入力が判断されると(ステップA4のYES)、次にユーザから入力された実測長の値と予めROM41に保持されている基準長の値との比率が算出され(ステップA5)、更に、算出された比率に基づいて印字すべき情報の印字データの拡大率が算出される(ステップA6)。例えば、実測長が80mmであり基準長が100mmでるとすると、ステップA5では、比率として4/5が求められ、ステップA6では拡大率として1.25が求められる。また、印字すべき情報の印字データが印字データメモリ42aに展開される(ステップA7)。そして、図5のステップS6と同様にして、求めた拡大率に応じて印字データに補間が行われて印字データを副走査方向に拡大する加工が行われ(ステップA8)、加工された印字データが印字テープに印字される(ステップA9)。
【0036】
この実施の形態によれば、基準印字データを印字テープに印字し、その印字された基準印字データの副走査方向の長さの実測値をユーザが入力すると、その実測値と基準印字データの基準長の比率に基づいて印字すべき情報の印字データの拡大率が算出され、その拡大率によって印字データを副走査方向に拡大して印字するように構成したため、低温時で印字テープ31の剛性が大きくなることにより常温時のような正常な印字テープ31の搬送ができない動作環境でも、印字像が搬送方向に縮まない印字を行うことが可能になる。
【0037】
なお、上記実施の形態では、基準印字データの副走査方向の長さの実測値を入力するようにしたが、基準印字データの実測値と基準長の比率を入力したり、その比率に基づいた印字すべき情報の印字データの拡大率を入力するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る電子装置としての印字装置の平面図。
【図2】その印字装置に使用するテープカセットの外観及び印字装置の内部構造の一部を示す斜視図。
【図3】その印字装置の電子回路の構成を示すブロック図。
【図4】拡大率データメモリの拡大率データの説明図。
【図5】その印字装置の低温印字処理のフローチャート。
【図6】その印字装置の低温印字処理のフローチャート。
【図7】その印字装置の基準データの印字例の説明図。
【符号の説明】
【0039】
1…印字装置 3…入力部 4…表示部 6…カセット装填部 7…サーマルヘッド
8…プラテンローラ 13…カッタ 21…テープカセット 31…印字テープ
40…制御部 41…ROM 42…RAM 42a…元印字データメモリ
45…基準印字データメモリ 46…拡大率データメモリ 47…温度センサ
48…テープ種類検出スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置において、
雰囲気の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度が所定値より低い場合、印字すべき印字データを前記印字ヘッドの副走査方向に所定拡大率で拡大する加工を行う印字データ加工手段と、
前記搬送手段を制御するとともに、前記印字データ加工手段によって加工された印字データに基づいて前記印字ヘッドを駆動して前記シートに印字を行う印字制御手段と、
を備えることを特徴とする印字装置。
【請求項2】
更に、前記印字装置にセットされるシートの種類を検出するシート種類検出手段と、
シートの種類毎に、雰囲気の温度に対応して前記印字データを副走査方向に拡大する際の拡大率データを予め記憶する拡大率データ記憶手段を備え、
前記印字データ加工手段は、前記シート種類検出手段によって検出されるシートの種類及び前記温度検出手段によって検出される温度に対応する拡大率データを前記拡大率データ記憶手段から読み出し、読み出された拡大率データに従って前記印字データを加工することを特徴とする請求項1記載の印字装置。
【請求項3】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置において、
基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、
所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、
前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、
前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの、副走査方向における実測長の値を入力する実測長入力手段と、
前記実測長入力手段によって入力された実測長の値と前記基準印字データの前記基準長の値に基づいて印字すべき印字データを拡大する拡大率を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された拡大率によって、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、
前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段と、
を備えることを特徴とする印字装置。
【請求項4】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置において、
基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、
所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、
前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、
前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの副走査方向における実測長の値と、前記基準印字データの前記基準長の値との比率に基づいた印字すべき印字データの拡大率のデータを入力する拡大率入力手段と、
前記拡大率入力手段によって入力された拡大率のデータに基づいて、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、
前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段と、
を備えることを特徴とする印字装置。
【請求項5】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置の印字方法であって、
雰囲気の温度を検出するステップと、
検出された温度が所定値より低い場合、印字すべき印字データを副走査方向に所定拡大率で拡大する加工を行うステップと、
前記搬送手段によりシートを搬送しつつ、加工された印字データに基づいて前記印字ヘッドを駆動してシートに印字を行うステップと、
を備えることを特徴とする印字方法。
【請求項6】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段とを備えた印字装置の印字方法であって、
所定の印字モードを設定するステップと、
前記所定の印字モードが設定されたときに、基準温度の雰囲気中で印字した場合に副走査方向に所定の基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを用いてシートに印字を行うステップと、
シート上に印字された前記基準印字データの、副走査方向における実測長の値を入力するステップと、
入力された前記基準印字データの実測長の値と前記基準印字データの前記基準長の値に基づいて印字すべき印字データを拡大する拡大率を算出するステップと、
算出された拡大率によって、印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行うステップと、
加工された印字データをシートに印字するステップと、
を備えることを特徴とする印字方法。
【請求項7】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置の印字方法であって、
所定の印字モードを設定するステップと、
前記所定の印字モードが設定されたときに、基準温度の雰囲気中で印字した場合に副走査方向に所定の基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを用いてシートに印字を行うステップと、
シート上に印字された前記基準印字データの副走査方向における実測長の値と、前記基準印字データの前記基準長の値との比率に基づいた印字すべき印字データの拡大率のデータを入力するステップと、
入力された比率に基づいた拡大率によって、印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行うステップと、
加工された印字データをシートに印字するステップと、
を備えることを特徴とする印字方法。
【請求項8】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置のコンピュータを制御するための制御プログラムであって、
前記コンピュータを、
雰囲気の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段によって検出された温度が所定値より低い場合、印字すべき印字データを副走査方向に所定拡大率で拡大する加工を行う印字データ加工手段と、
前記搬送手段を制御するとともに、前記印字データ加工手段によって加工された印字データに基づいて前記印字ヘッドを駆動して前記シートに印字を行う印字制御手段、
として機能させるようにしたコンピュータ読み込み可能な制御プログラム。
【請求項9】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置のコンピュータを制御するための制御プログラムであって、
前記コンピュータを、
基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、
所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、
前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、
前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの、副走査方向における実測長の値を入力する実測長入力手段と、
前記実測長入力手段によって入力された実測長の値と前記基準印字データの前記基準長の値に基づいて印字すべき印字データを拡大する拡大率を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された拡大率によって、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、
前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段、
として機能させるようにしたコンピュータ読み込み可能な制御プログラム。
【請求項10】
シートに印字を行う印字ヘッドと、前記シートを副走査方向に搬送する搬送手段を備えた印字装置のコンピュータを制御するための制御プログラムであって、
前記コンピュータを、
基準温度の雰囲気中で印字した場合、副走査方向に所定基準長の範囲で印字がなされる基準印字データを記憶する基準印字データ記憶手段と、
所定の印字モードを設定する印字モード設定手段と、
前記印字モード設定手段によって所定の印字モードが設定されたときに、前記基準印字データ記憶手段に記憶されている基準印字データをシートに印字する第1の印字制御手段と、
前記第1の印字制御手段によってシート上に印字された前記基準印字データの副走査方向における実測長の値と、前記基準印字データの前記基準長の値との比率に基づいた印字すべき印字データの拡大率のデータを入力する拡大率入力手段と、
前記拡大率入力手段によって入力された拡大率のデータに基づいて、前記印字すべき印字データを副走査方向に拡大する加工を行う印字データ加工手段と、
前記印字データ加工手段によって加工された印字データをシートに印字する第2の印字制御手段、
として機能させるようにしたコンピュータ読み込み可能な制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−233909(P2009−233909A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80022(P2008−80022)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】