説明

印捺物の製造方法、捺染物の製造方法、印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置

【課題】染料を含む乾式トナーを基材に転写する際の転写性が良好な印捺物の製造方法等を提供する。
【解決手段】印捺物の製造方法は、染料成分とバインダ樹脂とを含有する少なくとも1種の乾式トナー粒子80を中間転写ベルト13に静電的に付着させる付着工程S31と、乾式トナー粒子80を中間転写ベルト13から基材17に転写する転写工程S33とを備え、転写工程S33は、中間転写ベルト13に付着した乾式トナー粒子80が電気的な斥力を受けるように乾式トナー粒子80に電界を印加することにより、乾式トナー粒子80を中間転写ベルト13から基材17に向かって飛翔させる飛翔工程S335を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印捺物の製造方法、捺染物の製造方法、印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染は、糸、編織物、二次製品等の種々の形態の繊維品およびその他材料に適用されている。下記特許文献1〜5には、インクジェットを用いた捺染方法が開示されており、下記特許文献6〜9には、電子写真方式の捺染方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−195776号公報
【特許文献2】特許第2995135号公報
【特許文献3】特開2003−96340号公報
【特許文献4】特開平7−278482号公報
【特許文献5】特開平8−226083号公報
【特許文献6】特開平9−73198号公報
【特許文献7】特開平10−239916号公報
【特許文献8】特開平5−027474号公報
【特許文献9】特開平5−033275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェットを用いた捺染方法においては、捺染濃度を高くすることが困難であったり、連続して印捺を行うと捺染濃度が変化し易かったりといった問題点がある。この点、電子印刷方式を用いた捺染方法を用いることにより、そのような問題点を解決することができる。
【0005】
電子写真方式を用いた捺染方法においては、感光体に捺染する画像に対応する所定形状の静電潜像を形成する工程と、当該感光体に染料を含有するトナーを付着させる工程と、感光体と基材とを接触させてトナーを布帛等の基材へ転写することにより当該基材へ所定形状にトナーを印捺する工程と、印捺されたトナー中の染料成分を発色させる工程が行われる。
【0006】
このような電子写真方式を用いた捺染方法として、液体トナーを用いる方法(例えば、上記特許文献6及び7)と、乾式トナーを用いる方法(例えば、上記特許文献8及び9)が知られている。
【0007】
しかしながら、液体トナーを用いる電子写真方式の捺染方法においては、2色以上の捺染を行い難いという問題点がある。具体的には、第1の色のための液体トナーで捺染した基材の領域を、第2の色のための液体トナーでさらに捺染すると、第2の色の捺染濃度を高くすることが困難であるという問題点がある。さらに、液体トナーを用いる電子写真方式の捺染方法においては、複雑な工程を行う必要があるという問題点もある。さらに、トナーは基材の凸部には効率良く転写されるのに対して、基材の凹部には転写し難い傾向があるため、捺染部の鮮明さに欠ける傾向がある。そのため、転写性が低いという問題点がある。
【0008】
それに対して、乾式トナーを用いる電子写真方式の捺染方法においては、液体トナーを用いる場合のような2色以上の捺染を行い難いという問題点、及び、複雑な工程を行う必要があるという問題点は解決される。しかしながら、乾式トナーを用いる電子写真方式の捺染方法においても、トナーは基材の凸部には効率良くに転写されるのに対して、基材の凹部には転写し難い傾向があるため、転写性が低いという問題点がなお存在する。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、染料を含む乾式トナーを基材に転写する際の転写性が良好な印捺物の製造方法、捺染物の製造方法、印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明に係る印捺物の製造方法は、染料が印捺された基材からなる印捺物の製造方法であって、染料成分とバインダ樹脂とを含有する少なくとも1種の乾式トナーを帯電体に静電的に付着させる付着工程と、乾式トナーを帯電体から基材に転写する転写工程とを備え、転写工程は、帯電体に付着した乾式トナーが電気的な斥力を受けるように乾式トナーに電界を印加することにより、乾式トナーを帯電体から基材に向かって飛翔させる飛翔工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る印捺物の製造方法によれば、飛翔工程において、帯電体に付着した乾式トナーは、電気的な斥力によって帯電体から離間し、基材に向かって飛翔する。そのため、帯電体を基材に押圧して転写を行う場合と比較して、基材の表面の凹凸に起因して乾式トナーが基材に転写され難くなることは抑制される。そのため、乾式トナーを基材に転写する際の転写性が向上する。
【0012】
さらに、本発明に係る印捺物の製造方法においては、飛翔工程では、乾式トナーと基材との間に間隙が設けられた状態、又は、帯電体が乾式トナーを基材に対して押圧しない状態で記乾式トナーに上記電界を印加することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る印捺物の製造方法は、転写工程後に、乾式トナーの基材に対する付着強度を向上させる付着強度向上工程をさらに備えることが好ましい。これにより、転写工程において基材に転写された乾式トナーが、基材から離間したり、基材内で移動したりすることを抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明に係る印捺物の製造方法においては、付着強度向上工程では、基材に非接触な加熱手段を用いて、乾式トナーをバインダ樹脂のガラス転移以上、融点未満の温度に加熱することによって、乾式トナーの基材に対する付着強度を向上させることが好ましい。これにより、付着強度向上工程において、基材に転写された乾式トナーが、基材から離間したり、基材内で移動したりすることを抑制しつつ、乾式トナー中のバインダ樹脂が、後の工程で除去が困難になってしまう程度に基材に強く付着することを抑制することが、容易となる。
【0015】
さらに、本発明に係る印捺物の製造方法においては、飛翔工程では、定電流源によって、乾式トナーに印加される電界を発生させることが好ましい。これにより、飛翔工程において乾式トナーと基材との間の間隙の大きさが変動して、基材に転写される乾式トナーの量が変動することを抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る印捺物の製造方法においては、転写工程は、基材を基材搬送部の表面に配置する配置工程と、基材搬送部によって、基材の帯電体に対する相対位置を移動させる基材移動工程と、基材搬送部の表面の除電を行う第1除電工程と、基材搬送部の裏面の除電を行う第2除電工程とをさらに有することが好ましい。
【0017】
これにより、基材搬送部が帯電していることに起因して、飛翔工程における乾式トナーの基材への転写が不安定になることを抑制することができる。
【0018】
また、上述の課題を解決するため、本発明に係る捺染物の製造方法は、上述のいずれかの方法によって印捺物を製造する工程と、乾式トナー中の染料成分によって基材を染色する染色工程とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る捺染物の製造方法によれば、上述のいずれかの方法によって印捺物を製造しているため、乾式トナーを基材に転写する際の転写性が向上する。
【0020】
また、上述の課題を解決するため、本発明に係る印捺物の製造装置は、染料が印捺された基材からなる印捺物の製造装置であって、基材が配置される表面を有する基材搬送部と、染料成分とバインダ樹脂とを含有する少なくとも1種の乾式トナーを静電的に保持する帯電体と、乾式トナーを帯電体から基材に転写する転写部とを備え、転写部は、電気的な斥力によって乾式トナーを帯電体から基材に向かって飛翔させるように、乾式トナーに電界を印加する電界印加部を有することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る印捺物の製造装置によれば、転写部が有する電界印加部によって、帯電体に付着した乾式トナーを、電気的な斥力によって帯電体から離間させ、基材に向かって飛翔させることができる。そのため、帯電体を基材に押圧して転写を行う場合と比較して、基材の表面の凹凸に起因して乾式トナーが基材に転写され難くなることは抑制される。そのため、乾式トナーを基材に転写する際の転写性が向上する。
【0022】
さらに、本発明に係る印捺物の製造装置において、転写部は、乾式トナーと基材との間に間隙が設けられた状態、又は、帯電体が前記乾式トナーを基材に対して押圧しない状態で、乾式トナーに前記電界を印加することが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に係る印捺物の製造装置は、乾式トナーの基材に対する付着強度を向上させる付着装置であって、転写部よりも基材搬送部による搬送方向下流側に設けられた付着装置をさらに備えることが好ましい。これにより、転写部によって基材に転写された乾式トナーが、基材から離間したり、基材内で移動したりすることを抑制することができる。
【0024】
さらに、本発明に係る印捺物の製造装置において、付着装置は、基材に非接触な状態で、乾式トナーをバインダ樹脂のガラス転移以上、融点未満の温度に加熱することが好ましい。
【0025】
これにより、転写部によって基材に転写された乾式トナーが、基材から離間したり、基材内で移動したりすることを抑制しつつ、乾式トナー中のバインダ樹脂が、後の工程で除去が困難になってしまう程度に基材に強く付着することを抑制することが、容易となる。
【0026】
さらに、本発明に係る印捺物の製造装置において、転写部は、定電流源を有し、この定電流源によって乾式トナーに印加される上記電界を発生させることが好ましい。
【0027】
これにより、乾式トナーと基材との間の間隙の大きさが変動して、転写部によって基材に転写される乾式トナーの量が変動することを抑制することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る印捺物の製造装置は、基材搬送部の表面を除電するための第1除電装置と、基材搬送部の裏面を除電するための第2除電装置とをさらに備えることが好ましい。
【0029】
これにより、基材が帯電していることに起因して、乾式トナーの基材への転写が不安定になることを抑制することができる。
【0030】
また、上述の課題を解決するため、本発明に係る捺染物の製造装置は、上述のいずれかの印捺物の製造装置と、乾式トナー中の染料成分によって基材を染色する染色部であって、付着装置よりも基材の搬送部による搬送方向下流側に設けられた染色部とを備えることを特徴とする。
【0031】
本発明に係る捺染物の製造装置によれば、上述のいずれかの印捺物の製造装置を備えているため、乾式トナーを基材に転写する際の転写性が向上する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、染料を含む乾式トナーを基材に転写する際の転写性が良好な印捺物の製造方法、捺染物の製造方法、印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係る印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置を示す模式図である。
【図2】印捺物の製造装置の転写部近傍の模式図である。
【図3】実施形態に係る印捺物の製造方法及び、捺染物の製造方法を示すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施の形態に係る印捺物の製造方法、捺染物の製造方法、印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0035】
まず、本実施形態の印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置について説明する。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に係る印捺物の製造装置、及び、捺染物の製造装置を示す模式図である。
【0037】
図1に示すように、本実施形態の印捺物の製造装置100は、主として、イエロー作像ユニット3、マゼンタ作像ユニット5、シアン作像ユニット7、ブラック作像ユニット9、露光部11、帯電体としての中間転写ベルト13、基板搬送部としての搬送ベルト15、転写部65、付着装置85、第1除電装置81、及び、第2除電装置83を備えている。
【0038】
印捺物の製造装置100は、4色一括転写方式で印捺及び捺染を行う。そのため、印捺物の製造装置100は、4つの単色作像ユニット、即ち、イエロー作像ユニット3、マゼンタ作像ユニット5、シアン作像ユニット7、及び、ブラック作像ユニット9を備えている。
【0039】
イエロー作像ユニット3、マゼンタ作像ユニット5、シアン作像ユニット7、及び、ブラック作像ユニット9は、それぞれ、感光体19Y,19M,19C,19K、帯電装置としての帯電ローラ21Y,21M,21C,21K、現像装置23Y,23M,23C,23K、クリーニング装置25Y,25M,25C,25K、及び、除電装置としての除電ローラ27Y,27M,27C,27Kを有している。
【0040】
感光体19Y,19M,19C,19Kは、例えば、それぞれ円筒形状であり、円筒形状の中心軸を回転軸として、矢印R19Y,R19M,R19C,R19Kで示す回転方向にそれぞれ回転することができる。帯電ローラ21Y,21M,21C,21K、現像装置23Y,23M,23C,23K、クリーニング装置25Y,25M,25C,25K、及び、除電ローラ27Y,27M,27C,27Kは、それぞれ、感光体19Y,19M,19C,19Kの外周面に沿ってこの順に配置されている。
【0041】
帯電ローラ21Y,21M,21C,21Kは、それぞれ、感光体19Y,19M,19C,19Kの外周面を帯電させる機能を有する。露光部11は、感光体19Y,19M,19C,19Kのそれぞれの外周面の所定の領域に光を照射する。現像装置23Y,23M,23C,23Kは、それぞれ、染料成分とバインダ樹脂とを含有する乾式トナーを保持している。現像装置23Y,23M,23C,23Kは、それぞれ、イエローの乾式トナー、マゼンタの乾式トナー、シアンの乾式トナー、ブラックの乾式トナーを保持する。イエローの乾式トナーは、イエローの染料成分を含有し、マゼンタの乾式トナーはマゼンタの染料成分を含有し、シアンの乾式トナーはシアンの染料成分を含有し、ブラックの乾式トナーはブラックの染料成分を含有する。
【0042】
クリーニング装置25Y,25M,25C,25Kは、それぞれ、感光体19Y,19M,19C,19Kの外周面をクリーニングする機能を有する。除電ローラ27Y,27M,27C,27Kは、それぞれ、感光体19Y,19M,19C,19Kの外周面を除電する機能を有する。
【0043】
中間転写ベルト13は、2つのプーリ33,35、逆バイアス転写ローラ61、及び、保持ローラ51,53,57の周りに巻かれており、クリーナー58及びガイドローラ59に接している。2つのプーリ33,35は、駆動装置によって、それぞれ矢印R33,R35で示す回転方向に回転する。これにより、中間転写ベルト13は、矢印D13で示す方向に駆動する。
【0044】
また、感光体19Y,19M,19C,19Kは、中間転写ベルト13の駆動方向に沿って中間転写ベルト13の表面とそれぞれ対向するように設けられている。また、一次転写ローラ37Y,37M,37C,37Kは、中間転写ベルト13の駆動方向に沿って中間転写ベルト13の裏面とそれぞれ対向すると共に、中間転写ベルト13を介して感光体19Y,19M,19C,19Kとそれぞれ対向するように設けられている。
【0045】
搬送ベルト15は、2つのプーリ71,73の周りに巻かれている。2つのプーリ71,73は、駆動装置によって、それぞれ矢印R71,R73で示す回転方向に回転する。これにより、搬送ベルト15は、矢印D15で示す方向に駆動する。搬送ベルト15の厚さは、例えば2mmとすることができる。
【0046】
印捺物の製造装置100は、搬送ベルト15の駆動方向に沿って設けられた洗浄部75、乾燥部77、及び、粘着剤供給部79を備える。洗浄部75は、搬送ベルト15の表面を洗浄する。乾燥部77は、搬送ベルト15の表面を乾燥させる。粘着剤供給部79は、搬送ベルト15の表面に、感圧糊等の粘着剤を供給する。
【0047】
洗浄部75によって洗浄された後、乾燥部77によって乾燥させられ、粘着剤供給部79によって粘着剤が供給された搬送ベルト15の表面に、基材17が固定される。これにより、基材17は、プーリ73からプーリ71に向かう方向、即ち、矢印D17で示す方向に搬送される。
【0048】
逆バイアス転写ローラ61の下方には、中間転写ベルト13及び搬送ベルト15を介して、二次転写ローラ63が設けられている。そのため、搬送ベルト15によって搬送される基材17は、逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63の間、即ち、中間転写ベルト13と二次転写ローラ63との間を通過する。逆バイアス転写ローラ61及び二次転写ローラ63は、転写部65の一部を構成する。逆バイアス転写ローラ61及び二次転写ローラ63は、金属等の導電性材料からなる。
【0049】
図2は、印捺物の製造装置の転写部近傍の模式図である。図2に示すように、基材17が逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63の間にある状態において、中間転写ベルト13と基材17は離間している。そして、詳細は後述するように、中間転写ベルト13には、乾式トナー粒子80が付着している。乾式トナー粒子80が中間転写ベルト13と基材17の間にある状態において、乾式トナー粒子80と基材17との間には、間隙Gが形成されている。
【0050】
この間隙Gの大きさLGは、中間転写ベルト13と搬送ベルト15との間の距離から、中間転写ベルト13と搬送ベルト15との間における基材17の厚さと乾式トナー粒子80の大きさを引いた値となる。また、基材17の表面に凹凸がある場合、基材17の搬送に伴い、基材17の表面の凹凸が間隙Gの大きさLGに影響することになる。
【0051】
また、印捺物の製造装置100は、逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63の少なくとも一方を移動させることにより、逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63との間の距離を調整する調整装置を備えていてもよい。このような調整装置により、間隙Gの大きさLGを調整することができる。
【0052】
また、乾式トナー粒子80が中間転写ベルト13と基材17の間にある状態において、乾式トナー粒子80と基材17との間に間隙Gが形成されていなくても、中間転写ベルト13が乾式トナー粒子80を基材17に対して押圧しない状態であればよい。即ち、乾式トナー粒子80が中間転写ベルト13と基材17の間にある状態において、乾式トナー粒子80と基材17とは、互いに無圧接触状態又は非接触状態にあればよい。
【0053】
逆バイアス転写ローラ61とグラウンドの間には、逆バイアス転写ローラ61に電力を供給する電源としての定電流源61Eが電気的に接続されている。定電流源61Eによって、中間転写ベルト13と基材17との間には定電流が流れる。逆バイアス転写ローラ61と定電流源61Eとで、電界印加部62となる。
【0054】
これにより、逆バイアス転写ローラ61から電界が発生する。この電界は、逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63との間の領域に印加される。そのため、逆バイアス転写ローラ61は、乾式トナー粒子80に電界を印加する。そして、この電界が乾式トナー粒子80に電気的な斥力を与えるように、定電流源61Eは逆バイアス転写ローラ61に電機的に接続されている。即ち、例えば乾式トナー粒子80がマイナスに帯電している場合、定電流源61Eによって逆バイアス転写ローラ61に正電圧が印加されるようになっている。
【0055】
また、二次転写ローラ63とグラウンドの間には、二次転写ローラ63に電力を供給する電源としての定電流源63Eが電気的に接続されている。定電流源63Eによって、中間転写ベルト13と基材17との間には定電流が流れる。二次転写ローラ63と定電流源63Eとで、電界印加部64となる。
【0056】
これにより、二次転写ローラ63から電界が発生する。この電界は、逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63との間の領域に印加される。そして、この電界が乾式トナー粒子80に電気的な引力を与えるように、定電流源63Eは二次転写ローラ63に電気的に接続されている。即ち、例えば乾式トナー粒子80がマイナスに帯電している場合、定電流源63Eによって二次転写ローラ63に正電圧が印加されるようになっている。また、本実施形態においては、電界印加部62と電界印加部64とで、転写部65となる。なお、二次転写ローラ63には、定電流源63Eのような電源が接続されていなくてもよい。
【0057】
また、図1に示すように、印捺物の製造装置100は、さらに付着装置85を備える。付着装置85は、転写部65よりも基材17の搬送ベルト15による搬送方向下流側に設けられている。付着装置85は、例えば、赤外線ヒーター(好ましくは、遠赤外線ヒーター)のような非接触加熱装置であることが好ましい。
【0058】
また、本実施形態の捺染物の製造装置110は、上述のような印捺物の製造装置100と、染色部103及びバインダ樹脂除去部105を備えている。染色部103は、付着装置85よりも基材17の搬送ベルト15による搬送方向下流側に設けられている。バインダ樹脂除去部105は、染色部103よりも基材17の搬送ベルト15による搬送方向下流側に設けられている。
【0059】
(基材)
本実施形態の基材17は、電気的絶縁性を有し、かつ染色可能な材料であって平滑な表面又は凹凸が存在する表面を有するものである。基材17としては、例えば、布帛、紙、プラスチックフィルム、プラスチックシートを挙げることができる。基材17は、表面に凹凸を有することが好ましい。基材17がプラスチックフィルムやプラスチックシートからなる場合、基材17の表面に、エンボス加工等により凹凸が形成されていてもよい。基材17の表面の凹凸の程度は特に限定されないが、最大厚みに対する最小厚みの割合が50%以下であってもよいし、例えば、メッシュ状の布帛のような当該割合が略0%のものであってもよい。
【0060】
本実施形態において基材17として使用される布帛は、天然又は人工の編物、織物、不織布等である。また、本実施形態において、基材17として使用される布帛は、上記以外に、紐や縄を含む組物、綿状ハイバルフスク、スライバー、多孔質スポンジ、フェルト等の繊維構造体と認識され得るもの一般をも包含する。
【0061】
本実施形態の基材17として使用される布帛は、例えば、綿、カボック、麻、絹、羊毛、キャメル、モヘア、カシミア、アルパカ、アンゴラのような天然繊維、例えばポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリアクリレート繊維、ポリ乳酸繊維(PLA繊維)ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン(PP)系繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ベンゾエート系繊維、ポリスチレン系繊維、ポリテトラフルオロエチレン系繊維、ポリシアン化ビニリデン系繊維、ポリエーテルエステル系繊維、プロミックス繊維などの合成繊維、例えば、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維、ニトロセルロース繊維などの半合成繊維、例えば、レーヨン、キュプラ、大豆タンパク繊維、牛乳タンパク繊維などの再生繊維、例えば、ガラス繊維、バサルトファイバー、ウォラストナイト、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタンカルシウム繊維などの無機繊維の何れか又はこれらの2種以上の組合せを含むものから製造されるものである。
【0062】
本実施形態において基材17として使用される布帛を構成する糸としては、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー(スフ)、トウ、ハイバルクスフ、ハイバルクトウ、紡績糸、混紡糸、加工糸、仮撚糸、異形断面糸、中空糸、コンジュゲート糸、POY(partially oriented yarn:部分配向糸)、DTY(draw-textured yarn:延伸加工糸)、POY−DTY、スライバー等を挙げることができる。
【0063】
なお、本実施形態において基材17として使用される布帛の厚みは、特に制限されないが、例えば、0.1mm〜2.0mmとすることができる。
【0064】
(乾式トナー)
上述のように本実施形態において現像装置23Y,23M,23C,23Kが保持する乾式トナーは、染料成分とバインダ樹脂とを含有している。
【0065】
乾式トナーに使用される染料成分としては、例えば、分散染料および油溶性染料が挙げられる。これらの分散染料のうち、市販の粉体分散染料では、染料成分の純度が当該分散染料全体の重量を基準として30重量%〜50重量%の割合で含有されているものもあり、それ以外の成分として食塩や芒硝が多量に含まれている場合もある。本実施形態において用いられる乾式トナーにおいては、当該分散染料からこのようなその他成分が取り除かれ、染料成分の純度が当該その他成分を取り除いた後の分散染料全体の重量を基準として80重量%以上の割合で含まれているように予め調製されたものを使用するか、又は染料成分単独からなる分散染料を用いることが好ましい。本実施形態において用いられる乾式トナーにおいて、上記染料成分の含有量は、当該トナーの重量を基準として当業者が任意に設定することができる。
【0066】
乾式トナーに用いられるバインダ樹脂としては、例えば、アルカリ可溶性樹脂又は水溶性樹脂として知られる樹脂成分が挙げられる。バインダ樹脂のより具体的な例としては、水溶性メラミン樹脂、水溶性ロジン変性樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、コラーゲン、ゼラチン、デンプン、キトサンなどやこれらの組合せが挙げられる。本実施形態において用いられる乾式トナーにおいて、上記バインダ樹脂の含有量は、当該乾式トナーの重量を基準として、例えば、75重量%〜90重量%である。
【0067】
上記乾式トナーは、荷電制御剤、ワックスなどのその他の成分を含有していてもよい。ワックスは上述の感光体19Y,19M,19C,19Kなどへのオフセットを防止するために使用される。荷電制御剤を配合する場合、好ましい配合量は、当該トナーの重量を基準として、例えば、0.2重量%以上、1重量%以下である。ワックスを配合する場合、好ましい配合量は、当該トナーの重量を基準として、例えば、0.1重量%以上、5重量%以下である。
【0068】
具体的には、本実施形態で用いられる乾式トナーは、例えば以下のようにして調製することができる。ここでは、シアンの乾式トナーを例として説明する。水溶性ポリエステル樹脂(87.56重量%)、ワックス(4.61重量%)、負帯電用の荷電制御剤(0.46重量%)、及び、染料成分(7.37重量%:カラーインデックスディスパースブルー60)を混合し、温度50℃で混練した。この混合物を冷却した後、最大でφ2μm程度に粗粉砕した後、更に微粉砕を行い、更に分級を行って、平均粒径5.8〜6.3μmの粒子からなる粉体を得た。この粉体100%に対して、凝集を防ぐためにシリカやチタンの微粉末を1%程度で加えて、本実施形態で用いられるシアンの乾式トナーを得た。
【0069】
次に、上述のような印捺物の製造装置及び捺染物の製造装置を用いた本実施形態に係る印捺物の製造方法、及び、捺染物の製造方法について詳細に説明する。
【0070】
図3は、本実施形態に係る印捺物の製造方法及び捺染物の製造方法のフローチャートを示す図である。
【0071】
図3に示すように、本実施形態の印捺物の製造方法においては、印捺物を製造する工程S3が行われる。印捺物を製造する工程S3は、乾式トナーを帯電体に静電的に付着させる付着工程S31と、乾式トナーを帯電体から基材に転写する転写工程S33と、乾式トナーの基材に対する付着強度を向上させる付着強度向上工程S5と、を含んでいる。
【0072】
転写工程S33は、基板搬送部の表面の除電を行う第1除電工程S331と、基板搬送部の裏面の除電を行う第2除電工程S333と、基材を基材搬送部の表面に配置する配置工程S334と、乾式トナーを帯電体から基材に向かって飛翔させる飛翔工程S335と、を含んでいる。本実施形態の印捺物の製造方法によって、染料が印捺された基材からなる印捺物が得られる。
【0073】
また、図3に示すように、本実施形態の捺染物の製造方法においては、印捺物を製造する工程S3と、染料成分によって基材を染色する染色工程S5と、バインダ樹脂を除去する除去工程S7と、が行われる。本実施形態の捺染物の製造方法によって、染料成分によって染色された基材からなる捺染物が得られる。
【0074】
以下、これらの各工程について、詳細に説明する。
【0075】
(印捺物を製造する工程S3)
上述のように、印捺物を製造する工程S3は、付着工程S31、転写工程S33、及び、付着強度向上工程S35を含んでいる。
【0076】
(付着工程S31)
本工程においては、以下のように、乾式トナー粒子80を中間転写ベルト13に静電的に付着させる。本実施形態においては、以下のように電子写真方式によって、乾式トナー粒子80を中間転写ベルト13に静電的に付着させる。
【0077】
まず、図1に示すように、感光体19Y,19M,19C,19Kを回転させながら、クリーニング装置25Y,25M,25C,25Kによる感光体19Y,19M,19C,19Kのクリーニング、及び、除電ローラ27Y,27M,27C,27Kによる感光体19Y,19M,19C,19Kの外周面の除電を行う。
【0078】
そして、帯電ローラ21Y,21M,21C,21Kによって感光体19Y,19M,19C,19Kのそれぞれの外周面を帯電させる。続いて、露光部11によって、感光体19Y,19M,19C,19Kの露光を行う。即ち、感光体19Y,19M,19C,19Kのそれぞれに静電潜像が形成されるように、露光部11によって感光体19Y,19M,19C,19Kのそれぞれの外周面の所定箇所に光を照射する。これらの静電潜像は、それぞれの色についての印捺及び捺染を行うパターンに対応している。
【0079】
次に、現像装置23Y,23M,23C,23Kによって、乾式トナー粒子を感光体19Y,19M,19C,19Kのそれぞれに付着させることによって、上記静電潜像を乾式トナーによって現像する。感光体19Yはイエローの乾式トナー粒子によって現像され、感光体19Mはマゼンタの乾式トナー粒子によって現像され、感光体19Cはシアンの乾式トナー粒子によって現像され、感光体19Kはブラックの乾式トナー粒子によって現像される。
【0080】
次に、感光体19Y,19M,19C,19Kのそれぞれに付着した乾式トナーを、駆動する中間転写ベルト13に静電的に付着させる。具体的には、クリーナー58でクリーニングを行った中間転写ベルト13は、プーリ33を経由して、イエロー作像ユニット3、マゼンタ作像ユニット5、シアン作像ユニット7、及び、ブラック作像ユニット9の直下位置に順に搬送される。
【0081】
イエロー作像ユニット3においては、感光体19Yに現像されたイエローの乾式トナー粒子は、一次転写ローラ37Yの働きによって中間転写ベルト13に静電的に付着する。同様に、マゼンタ作像ユニット5においては、感光体19Mに現像されたマゼンタの乾式トナー粒子は、一次転写ローラ37Mの働きによって中間転写ベルト13に静電的に付着し、シアン作像ユニット7においては、感光体19Cに現像されたシアンの乾式トナー粒子は、一次転写ローラ37Cの働きによって中間転写ベルト13に静電的に付着し、ブラック作像ユニット9においては、感光体19Kに現像されたブラックの乾式トナー粒子は、一次転写ローラ37Kの働きによって中間転写ベルト13に静電的に付着する。
【0082】
このようにして、中間転写ベルト13は、イエロー、マゼンタ、シアン、及び、ブラックの各色の乾式トナー粒子を静電的に保持する。保持された各乾式トナー粒子は、印捺及び捺染を行うパターンに対応したフルカラーのパターンを構成している。
【0083】
(転写工程S33)
次に、転写工程S33が行われる。上述のように、転写工程S33は、第1除電工程S331、第2除電工程S333、配置工程S334、及び、飛翔工程S335を含んでいる。
【0084】
(第1除電工程S331及び第2除電工程S333)
これらの工程においては、2つのプーリ71,73によって搬送ベルト15を駆動させながら、第1除電装置81によって搬送ベルト15の表面の除電を行い、第2除電装置83によって搬送ベルト15の裏面の除電を行う。第1除電装置81及び第2除電装置83としては、それぞれ例えば交流式除電装置を用いることができる。
【0085】
このような第1除電工程S331及び第2除電工程S333を行うことにより、搬送ベルト15が帯電していることに起因して、後の飛翔工程S335における乾式トナー粒子80の基材17への転写が不安定になることを抑制することができる。
【0086】
(配置工程S334)
そして、これらの工程の他、洗浄部75による洗浄、乾燥部77による乾燥、及び、粘着剤供給部79による粘着剤の付与を搬送ベルト15に対して行う。その後、搬送ベルト15を駆動させてプーリ73を経由させた後、表面に基材17を固定する。そして、さらに搬送ベルト15を駆動させることにより、基材17を転写部65の近傍、即ち、逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63との間まで移動させる。
【0087】
(飛翔工程S335)
本工程では、以下のように、所定の形状で中間転写ベルト13に付着した乾式トナー粒子80を、基材17に転写する。
【0088】
まず、図2に示すように、まず中間転写ベルト13を駆動させることにより、中間転写ベルト13が保持するイエロー、マゼンタ、シアン、及び、ブラックの乾式トナー粒子80を転写部65付近まで移動させる。
【0089】
上述のように、転写部65においては、乾式トナー粒子80が中間転写ベルト13と基材17の間にある状態において、乾式トナー粒子80と基材17との間には、間隙Gが形成されている。さらに、上述のように、転写部65の逆バイアス転写ローラ61は、乾式トナー粒子80に電気的な斥力を与えるように、乾式トナー粒子80に電界を印加する。
【0090】
これにより、中間転写ベルト13に付着した乾式トナー粒子80は、電気的な斥力によって中間転写ベルト13から離間し、基材17に向かって飛翔する。そのため、所定の形状で中間転写ベルト13に付着した乾式トナー粒子80が、基材17に転写される。
【0091】
さらに、上述のように、転写部65の二次転写ローラ63は、乾式トナー粒子80に電気的な引力を与えるように、乾式トナー粒子80に電界を印加する。そのため、この引力によっても乾式トナー粒子80は中間転写ベルト13から離間し、基材17に向かって飛翔するため、基材17を効率良く飛翔させることができる。ただし、上述のように、二次転写ローラ63には、定電流源63Eのような電源が接続されていなくてもよい。この場合は、逆バイアス転写ローラ61が乾式トナー粒子80に印加する電界による電気的な斥力によって、乾式トナー粒子80は中間転写ベルト13から離間し、基材17に向かって飛翔する。
【0092】
(付着強度向上工程S35)
乾式トナー粒子80が転写された基材17は、搬送ベルト15によって、付着装置85の近傍に搬送される。そして、付着装置85によって、乾式トナー粒子80の基材17に対する付着強度を向上させる処理が行われる。
【0093】
付着装置85としては、例えば、赤外線ヒーター(好ましくは、遠赤外線ヒーター)のような基材17に非接触な加熱装置を用いることができる。また、付着装置85として、ホットプレートを用いることもできる。この場合、このホットプレートを基材17の裏面に設けることができる。
【0094】
本実施形態の付着装置85の役割は、基材17上に転写された所定形状の乾式トナー粒子80が、次の染色工程S5に移行するまで乱れない程度の強さで、乾式トナー粒子80を基材17に付着させることである。そのため、乾式トナー粒子80を基材17に強固に固定する必要はない。基材17として布帛を用いた場合、捺染後の布帛の風合いを損なわないことが重要な場合が多く、その点からすれば乾式トナー粒子80に含まれるバインダ樹脂は、染色後においては邪魔な存在となる場合が多い。
【0095】
従って、染色工程S5の後、ソーピング等のバインダ除去工程で容易にバインダ樹脂を除去できることが好ましいので、付着装置85では乾式トナー粒子80を完全に溶融させて強固に基材17に固定するのではなく、適度な強度で基材17に付着させることが好ましい。従って、付着装置85として遠赤外線ヒーターのような基材17に非接触な加熱装置を用いると、乾式トナー粒子80の形状を著しく変形させず、かつ、乾式トナー粒子80が乱れない程度に基材17への付着力を向上させることが容易となる。
【0096】
また、付着強度向上工程S35では、基材17に非接触な加熱手段を用いて、乾式トナー粒子80をバインダ樹脂のガラス転移以上、融点未満の温度に加熱することによって、乾式トナー粒子80の基材17に対する付着強度を向上させることが好ましい。
【0097】
ガラス転移以上に加熱されたバインダ樹脂は、その原形を保持したままその表面が溶融し又は粘着状となり、布帛等の基材に対する付着強度が向上する。その際、バインダ樹脂を融点以上の温度には加熱していないため、乾式トナー粒子80が完全に溶融して布帛の繊維の間に入り込むことはない。そのため、乾式トナー粒子80中のバインダ樹脂が、後の工程(除去工程S7)で除去が困難になってしまう程度に基材17に強く付着することを抑制することが、容易となる。
【0098】
また、付着装置85としては、乾式トナー粒子80に含まれるバインダ樹脂に対して膨潤作用を有する溶媒を含有する溶剤を噴霧する装置であってもよい。このような溶剤噴霧により、乾式トナー粒子80は、その原形を保持したままその表面が溶解し又は膨潤して粘着状となり、布帛等の基材17に対する付着強度が向上する。このような膨潤作用のある溶媒としては、例えばエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、酢酸エチルおよびこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0099】
以上のような工程を行うことにより、印捺物を製造する工程S3が完了し、染料が印捺された基材からなる印捺物17Aが製造される。
【0100】
なお、印捺物を製造する工程S3において、付着工程S31より前に、印捺及び捺染対象となる基材の表面の凹凸を軽減又は平坦化するための前処理工程を行ってもよい。
【0101】
(染色工程S5)
付着強度向上工程S35が行われた基材17は、搬送ベルト15によって染色部103の近傍に搬送される。そして、染色部103によって、乾式トナー粒子80中の染料成分によって基材17を染色する処理が行われる。染色部103としては、例えば、過熱蒸気を基材17に与える装置を用いることができる。
【0102】
(除去工程S7)
染色処理が行われた基材17は、搬送ベルト15によってバインダ樹脂除去部105の近傍に搬送される。そして、バインダ樹脂除去部105によって、乾式トナー粒子80中のバインダ樹脂を除去する処理が行われる。バインダ樹脂除去部105としては、例えば、浴中でのアルカリ水溶液(例えば、所定濃度に調製された苛性ソーダ水溶液等)による洗浄や水による洗浄等のソーピング処理を行う装置を用いることができる。染色後にバインダ樹脂が除去されると、最終的に得られる捺染物の風合いが向上するだけでなく、摩擦堅牢度および耐洗濯特性にも優れることとなる。
【0103】
最終的な捺染物17Bにバインダ樹脂が残存していてもよい場合には、除去工程S7は省略することができる。
【0104】
以上のような工程を行うことにより、捺染物17Bが製造される。
【0105】
上述のような本実施形態に係る印捺物17Aの製造方法によれば、飛翔工程S335において、中間転写ベルト13に付着した乾式トナー粒子80は、電気的な斥力によって中間転写ベルト13から離間し、基材17に向かって飛翔する(図2参照)。
【0106】
そのため、中間転写ベルト13を基材17に押圧して転写を行う場合と比較して、基材17の表面17Sに凹凸が存在しても、この凹凸に起因して乾式トナー粒子80が基材17に転写され難くなることは抑制される。そのため、乾式トナー粒子80を基材17に転写する際の転写性が向上する。また、乾式トナー粒子80が中間転写ベルト13と基材17の間にある状態において、乾式トナー粒子80と基材17とが無圧接触状態であるときも、中間転写ベルト13を基材17に押圧して転写を行う場合と比較して、基材17の表面17Sの凹凸に起因して乾式トナー粒子80が基材17に転写され難くなることは抑制されるため、乾式トナー粒子80を基材17に転写する際の転写性が向上する。
【0107】
また、本実施形態においては、飛翔工程S335では、逆バイアス転写ローラ61に電気的に接続された定電流源61Eによって、乾式トナー粒子80に印加される電界を発生させている(図2参照)。これにより、飛翔工程において、例えば基材17の表面17Sの凹凸等に起因して、乾式トナー粒子80と基材17との間の間隙Gの大きさLGが変動しても、基材17に転写される乾式トナー粒子80の量が変動することを抑制することができる。
【0108】
また、定電流源61Eによって逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63との間に流す電流値は、20μA以上、100μA未満であることが好ましい。何故なら、この電流値が20μA以上であると、乾式トナー粒子80の転写が良好に行われるからであり、この電流値が100μA未満であると、異常放電に起因した乾式トナー粒子80の転写画像の乱れを十分に抑制することができるからである。
【0109】
また、定電流源63Eによって逆バイアス転写ローラ61と二次転写ローラ63との間に流す電流値は、30μA以上、100μA未満であることが好ましい。何故なら、この電流値が30μA以上であると、乾式トナー粒子80の転写が良好に行われるからであり、この電流値が100μA未満であると、異常放電に起因した乾式トナー粒子80の転写画像の乱れを十分に抑制することができるからである。
【0110】
また、間隙Gの大きさLGは、0.1mm以上、0.6mm以下であることが好ましい。大きさLGが0.1mm以上であれば、基材17の表面17Sの凹凸に起因して乾式トナー粒子80が基材17に転写され難くなることを十分に抑制することができる。また、大きさLGが0.6mm以下であれば、中間転写ベルト13から基材17への乾式トナー粒子80の転写率を十分に高くすることができる。
【0111】
また、本実施形態においては、飛翔工程S335では、二次転写ローラ63に電気的に接続された定電流源63Eによって、乾式トナー粒子80に印加される電界を発生させている(図2参照)。これにより、飛翔工程において、例えば基材17の表面17Sの凹凸等に起因して、乾式トナー粒子80と基材17との間の間隙Gの大きさLGが変動しても、基材17に転写される乾式トナー粒子80の量が変動することを抑制することができる。
【0112】
ただし、定電流源以外の電源、例えば、定電圧源を、逆バイアス転写ローラ61に電気的に接続してもよい。このような場合であっても、逆バイアス転写ローラ61が乾式トナー粒子80に印加する電界によって乾式トナー粒子80が電気的な斥力を受けるのであれば、本実施形態の効果を発揮する。同様に、電流源以外の電源、例えば、定電圧源を、二次転写ローラ63に電気的に接続してもよい。このような場合であっても、二次転写ローラ63が乾式トナー粒子80に印加する電界によって乾式トナー粒子80が電気的な引力を受けるようにすることが好ましい。
【0113】
また、上述のような本実施形態に係る捺染物の製造方法によれば、上述のような方法によって印捺物17Aを製造しているため、乾式トナー粒子80を基材17に転写する際の転写性が向上する。
【0114】
また、上述のような本実施形態に係る印捺物の製造装置100によれば、転写部65が有する電界印加部62によって、中間転写ベルト13に付着した乾式トナー粒子80を、電気的な斥力によって中間転写ベルト13から離間させ、基材17に向かって飛翔させることができる(図2参照)。そのため、中間転写ベルト13を基材17に押圧して転写を行う場合と比較して、基材17の表面17Sの凹凸に起因して乾式トナー粒子80が基材17に転写され難くなることは抑制される(図2参照)。そのため、乾式トナー粒子80を基材17に転写する際の転写性が向上する。
【0115】
さらに、本実施形態に係る印捺物の製造装置100は、乾式トナー粒子80の基材17に対する付着強度を向上させる付着装置85であって、転写部65よりも基材17の搬送ベルト15による搬送方向下流側に設けられた付着装置85をさらに備えている(図1参照)。これにより、転写部65によって基材17に転写された乾式トナー粒子80が、基材17から離間したり、基材17内で移動したりすることを抑制することができる。
【0116】
本実施形態に係る印捺物の製造装置100において、付着装置85は、基材17に非接触な状態で、乾式トナー粒子80をバインダ樹脂のガラス転移以上、融点未満の温度に加熱することが好ましい。
【0117】
これにより、転写部65によって基材17に転写された乾式トナー粒子80が、基材17から離間したり、基材17内で移動したりすることを抑制しつつ、乾式トナー粒子80中のバインダ樹脂が、後の工程(除去工程S7)で除去が困難になってしまう程度に基材17に強く付着することを抑制することが、容易となる。
【0118】
さらに、本実施形態に係る印捺物の製造装置100において、転写部65は、定電流源61Eを有し、この定電流源61Eによって乾式トナー粒子80に印加される電界を発生させている(図2参照)。これにより、例えば基材17の表面17Sの凹凸等に起因して、乾式トナー粒子80と基材17との間の間隙Gの大きさLGが変動しても、基材17に転写される乾式トナー粒子80の量が変動することを抑制することができる。
【0119】
さらに、本実施形態に係る印捺物の製造装置100は、基材搬送部の表面を除電するための第1除電装置と、基材搬送部の裏面を除電するための第2除電装置とをさらに備えている。これにより、基材17が帯電していることに起因して、乾式トナー粒子80の基材17への転写が不安定になることを抑制することができる。
また、上述のような本実施形態に係る捺染物の製造装置110によれば、上述のような印捺物の製造装置100を備えているため、乾式トナー粒子80を基材17に転写する際の転写性が向上する。
【符号の説明】
【0120】
13・・・中間転写ベルト(帯電体)、15・・・搬送ベルト(基板搬送部)、17・・・基材、17A・・・印捺物、17B・・・捺染物、65・・・転写部、S3・・・印捺物を製造する工程、S31・・・付着工程、S33・・・転写工程、S331・・・第1除電工程、S333・・・第2除電工程、S335・・・飛翔工程、S35・・・付着強度向上工程、S5・・・染色工程、S7・・・除去工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料が印捺された基材からなる印捺物の製造方法であって、
染料成分とバインダ樹脂とを含有する少なくとも1種の乾式トナーを帯電体に静電的に付着させる付着工程と、
前記乾式トナーを前記帯電体から前記基材に転写する転写工程と、
を備え、
前記転写工程は、
前記帯電体に付着した前記乾式トナーが電気的な斥力を受けるように当該乾式トナーに電界を印加することにより、当該乾式トナーを前記帯電体から前記基材に向かって飛翔させる飛翔工程を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記飛翔工程では、前記乾式トナーと前記基材との間に間隙が設けられた状態、又は、前記帯電体が前記乾式トナーを前記基材に対して押圧しない状態で、前記乾式トナーに前記電界を印加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記転写工程後に、前記乾式トナーの前記基材に対する付着強度を向上させる付着強度向上工程をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記付着強度向上工程では、前記基材に非接触な加熱手段を用いて、前記乾式トナーを前記バインダ樹脂のガラス転移以上、融点未満の温度に加熱することによって、前記乾式トナーの前記基材に対する付着強度を向上させることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記飛翔工程では、定電流源によって、前記乾式トナーに印加される前記電界を発生させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記転写工程は、
前記基材を基材搬送部の表面に配置する配置工程と、
前記基材搬送部の前記表面の除電を行う第1除電工程と、
前記基材搬送部の裏面の除電を行う第2除電工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって、前記印捺物を製造する工程と、
前記乾式トナー中の前記染料成分によって前記基材を染色する染色工程と、
を備えることを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項8】
染料が印捺された基材からなる印捺物の製造装置であって、
前記基材が配置される表面を有する基材搬送部と、
染料成分とバインダ樹脂とを含有する少なくとも1種の乾式トナーを静電的に保持する帯電体と、
前記乾式トナーを前記帯電体から前記基材に転写する転写部と、
を備え、
前記転写部は、電気的な斥力によって前記乾式トナーを前記帯電体から前記基材に向かって飛翔させるように、当該乾式トナーに電界を印加する電界印加部を有することを特徴とする装置。
【請求項9】
前記転写部は、前記乾式トナーと前記基材との間に間隙が設けられた状態、又は、前記帯電体が前記乾式トナーを前記基材に対して押圧しない状態で、前記乾式トナーに前記電界を印加することを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記乾式トナーの前記基材に対する付着強度を向上させる付着装置であって、前記転写部よりも前記基材搬送部による搬送方向下流側に設けられた前記付着装置をさらに備えることを特徴とする請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
前記付着装置は、前記基材に非接触な状態で、前記乾式トナーを前記バインダ樹脂のガラス転移以上、融点未満の温度に加熱することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記転写部は、定電流源を有し、当該定電流源によって前記乾式トナーに印加される前記電界を発生させることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記基材搬送部の前記表面を除電するための第1除電装置と、
前記基材搬送部の裏面を除電するための第2除電装置と、
をさらに備えることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか一項に記載の装置と、
前記乾式トナー中の前記染料成分によって前記基材を染色する染色部であって、前記付着装置よりも前記基材の前記搬送部による搬送方向下流側に設けられた前記染色部と、
を備えることを特徴とする捺染物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−1829(P2012−1829A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135124(P2010−135124)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(501072016)長瀬カラーケミカル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】