原子発振器
【課題】設計の自由度を向上させることにより比較的簡易な構成の原子発振器を提供すること。
【解決手段】原子発振器1は、光源10、光検出手段30、制御手段40を含む。光源10は、中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる。光検出手段30は、アルカリ金属原子を透過した第1の光及び第2の光を含む光の強度を検出する。制御手段40は、光検出手段30の検出結果に基づいて、第1の光の所定の周波数成分と第2の光の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する。第1の光の中心周波数f1と第2の光の中心周波数f2の周波数差は、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と異なる。
【解決手段】原子発振器1は、光源10、光検出手段30、制御手段40を含む。光源10は、中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる。光検出手段30は、アルカリ金属原子を透過した第1の光及び第2の光を含む光の強度を検出する。制御手段40は、光検出手段30の検出結果に基づいて、第1の光の所定の周波数成分と第2の光の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する。第1の光の中心周波数f1と第2の光の中心周波数f2の周波数差は、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と異なる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘起透過(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)方式(CPT(Coherent Population Trapping)方式と呼ばれることもある)による原子発振器は、アルカリ金属原子に波長(周波数)の異なる2つの共鳴光を同時に照射すると、2つの共鳴光の吸収が停止する現象を利用した発振器である。
【0003】
アルカリ金属原子と2つの共鳴光との相互作用機構は、図13(A)に示すように、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位1と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f1)を有する共鳴光1、あるいは基底準位2と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f2)を有する共鳴光2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、よく知られているように光吸収が起きる。ところが、図13(B)に示すように、このアルカリ金属原子に、周波数差f1−f2が基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と正確に一致する共鳴光1と共鳴光2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して共鳴光1と共鳴光2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。このEIT現象を利用し、共鳴光1と共鳴光2との周波数差f1−f2が基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出し制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0004】
図14は、従来のCPT方式による原子発振器の一般的な構成の概略図である。図14に示すように、従来のCPT方式による原子発振器は、電流駆動回路により発生した周波数f0(=v/λ0:vは光の速度、λ0はレーザー光の中心波長)の駆動電流を、基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数の1/2の変調周波数fm1で変調することにより、半導体レーザーに周波数f1=f0+fm1の共鳴光1と周波数f2=f0−fm1の共鳴光2を発生させ(図13(B))、原子セルに含まれる気体状のアルカリ金属原子にEIT現象を起こさせる。この原子発振器は、原子セルを透過した光の検出量が最大になるように電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Crystal Oscillator)の発振周波数を制御し、その発振周波数をPLL(Phase Locked Loop)により逓倍率N/R(N、Rはともに正の整数)で逓倍してΔE12に相当する周波数の1/2の変調周波数fm1の信号を生成する。このような構成によれば、電圧制御水晶発振器(VCXO)は極めて安定に発振動作を継続するので、周波数安定度が極めて高い発振信号を発生させることができる。なお、ここで言う原子セルとは、気体状のアルカリ金属原子とこれを封入する容器とから構成されたものとして、以降説明をする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6320472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の原子発振器では、ΔE12に相当する周波数(例えば、セシウム原子であれば9.19263・・・GHz)の1/2の周波数と正確に一致する変調周波数fm1を直接又は高調波によって発生させるPLL等の発振器を特別に用意しなければならないため、設計の自由度が制限される。
【0007】
また、変調周波数fm1がΔE12に相当する周波数の1/2の周波数と正確に一致した状態で安定するので、従来の原子発振器では、PLLの逓倍率N/Rの精度によっては電圧制御水晶発振器(VCXO)を正確に所望の周波数(公称周波数)で発振させることができない場合がある。そのため、例えば、電圧制御水晶発振器(VCXO)の発振周波数が9.999MHzであれば、公称周波数の10MHzを得るためだけに高精度の周波数変換回路が必要になり簡易な構成で実現できない場合もある(図14参照)。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、設計の自由度を向上させることにより比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる光源と、前記アルカリ金属原子を透過した前記第1の光及び前記第2の光を含む光の強度を検出する光検出手段と、前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記第1の光の所定の周波数成分と前記第2の光の所定の周波数成分の周波数差が前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する制御手段と、を含み、前記第1の光の中心周波数f1と前記第2の光の中心周波数f2の周波数差は、前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と異なる。
【0010】
従来のCPT方式の原子発振器では、2つの共鳴光の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御がかかるのに対して、本発明の原子発振器では、第1の光の所定の周波数成分と第2の光の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御がかかる。すなわち、第1の光の所定の周波数成分と第2の光の所定の周波数成分が2つの共鳴光になるように制御がかかる(但し、第1の光の中心周波数f1と第2の光の中心周波数f2がともに共鳴光になることはない)。
【0011】
要するに、本発明の原子発振器では、第1の光の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と第2の光の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、第1の光の中心周波数f1と第2の光の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、第1の光の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と第2の光の中心周波数f2の対のいずれかが共鳴対になるように設計すればよい。
【0012】
従って、本発明によれば、従来の原子発振器と比較して設計の自由度が向上し、そのため比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【0013】
(2)この原子発振器において、前記制御手段は、前記光検出手段の検出結果に基づいて、第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、を含み、前記光源は、前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させるようにしてもよい。
【0014】
本発明の原子発振器では、第1の光の所定の周波数成分(f1+j×Δf)と第2の光の所定の周波数成分(f2+k×Δf)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致すればよい。
【0015】
従って、本発明によれば、直接又は簡単な分周器等を用いて所望の周波数が得られるように、上記の条件を満たす第1の変調周波数fm1と第2の変調周波数fm2を選択すれば、比較的簡易な構成の原子発振器を実現することができる。
【0016】
(3)この原子発振器において、前記第2の変調周波数発生手段は、前記第1の信号を周波数変換して前記第2の信号を発生させるようにしてもよい。
【0017】
(4)この原子発振器において、前記第2の変調周波数発生手段は、前記第1の信号から独立して前記第2の変調周波数fm2で発振するようにしてもよい。
【0018】
(5)この原子発振器は、前記第1の信号を周波数変換して所定の周波数の信号を発生させる周波数変換手段を含むようにしてもよい。
【0019】
(6)この原子発振器において、前記制御手段は、前記光検出手段の検出結果に基づいて、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、前記第2の信号を周波数変換して第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、を含み、前記光源は、前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させるようにしてもよい。
【0020】
本発明の原子発振器では、第1の光の所定の周波数成分(f1+j×Δf)と第2の光の所定の周波数成分(f2+k×Δf)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致すればよい。
【0021】
従って、本発明によれば、直接又は簡単な分周器等を用いて所望の周波数が得られるように、上記の条件を満たす第1の変調周波数fm1と第2の変調周波数fm2を選択すれば、比較的簡易な構成の原子発振器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の原子発振器の機能ブロック図。
【図2】図2(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係の第1の例を示す図であり、図2(B)は照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムの第1の例を示す図。
【図3】図3(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係の第2の例を示す図であり、図3(B)は照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムの第2の例を示す図。
【図4】図4(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係の第3の例を示す図であり、図4(B)は照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムの第3の例を示す図。
【図5】第1実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図6】第1実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図。
【図7】第1実施形態の原子発振器における第2変調周波数発生回路構成例を示す図。
【図8】第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図。
【図9】第2実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図10】第2実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図。
【図11】第2実施形態の原子発振器における第1変調周波数発生回路の構成例を示す図。
【図12】第3実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図13】図13(A)はアルカリ金属原子のエネルギー準位を模式的に示す図であり、図13(B)は2つの共鳴光の周波数スペクトラムを示す図。
【図14】従来のCPT方式による原子発振器の一般的な構成の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
図1は、本実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。
【0025】
本実施形態の原子発振器1は、光源10、原子セル20、光検出手段30及び制御手段40を含んで構成されている。
【0026】
光源10は、中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる。
【0027】
原子セル20には気体状のアルカリ金属原子が含まれており、光源10により、第1の光と第2の光が照射される。以下、第1の光及び第2の光をそれぞれ「照射光1」及び「照射光2」ということにする。
【0028】
光検出手段30は、アルカリ金属原子を透過した照射光1及び照射光2を含む光の強度を検出する。
【0029】
制御手段40は、光検出手段30の検出結果に基づいて、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する。ただし、本実施形態では、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2の周波数差は、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致しない。
【0030】
すなわち、制御手段40は、照射光1の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と照射光2の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、照射光1の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と照射光2の中心周波数f2の対のいずれかを共鳴光対として、その周波数がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御する。
【0031】
このような制御手段40は、図1に示すように、第1の変調周波数発生手段42と、第2の変調周波数発生手段44と、を含んで構成することができる。
【0032】
例えば、第1の変調周波数発生手段42が、光検出手段30の検出結果に基づいて、第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させ、第2の変調周波数発生手段44が、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させるように構成してもよい。ここで、第2の変調周波数発生手段44は、第1の変調周波数発生手段42により発生する第1の信号を周波数変換して第2の信号を発生させるようにしてもよいし、第1の信号から独立して第2の変調周波数fm2で発振するように構成してもよい。後者の場合、制御手段40は、さらに、第1の信号を周波数変換して所定の周波数の信号を発生させる周波数変換手段46を含むようにしてもよい。
【0033】
また、例えば、第2の変調周波数発生手段44が、光検出手段30の検出結果に基づいて、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させ、第1の変調周波数発生手段42が、第2の変調周波数発生手段44により発生する第2の信号を周波数変換して第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させるように構成してもよい。
【0034】
そして、いずれの場合も、光源10は、第1の変調周波数発生手段42により発生する第1の信号及び第2の変調周波数発生手段44により発生する第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる照射光1及び照射光2を発生させるようにすればよい。
【0035】
図2(A)及び図2(B)、図3(A)及び図3(B)、図4(A)及び図4(B)は、本実施形態の原子発振器において発生する照射光1及び照射光2の第1、第2、第3の例についてそれぞれ説明するための図である。図2(A)、図3(A)及び図4(A)は、アルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係を示す図であり、図2(B)、図3(B)、図4(B)は、照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムを示す図である。
【0036】
図2(B)、図3(B)及び図4(B)に示すように、第1、第2、第3の例ともに、周波数f0(=v/λ0)に対して、上側サイドバンドに周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光1と、下側サイドバンドに周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光2が存在する。照射光1の中心周波数f1=f0+fm1であり、照射光2の中心周波数f2=f0−fm1である。
【0037】
図2(A)及び図2(B)に示すように、第1の例では、照射光1の周波数成分f1−fm2と照射光2の周波数成分f2+fm2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。従って、アルカリ金属原子は、照射光1の周波数成分f1−fm2と照射光2の周波数成分f2+fm2を共鳴光対としてEIT現象を起こす。
【0038】
図3(A)及び図3(B)に示すように、第2の例では、照射光1の周波数成分f1+fm2と照射光2の周波数成分f2−fm2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。従って、アルカリ金属原子は、照射光1の周波数成分f1+fm2と照射光2の周波数成分f2−fm2を共鳴光対としてEIT現象を起こす。
【0039】
図4(A)及び図4(B)に示すように、第3の例では、照射光1の中心周波数f1と照射光2の周波数成分f2+fm2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。従って、アルカリ金属原子は、照射光1の中心周波数f1と照射光2の周波数成分f2+fm2を共鳴光対としてEIT現象を起こす。
【0040】
以下、本実施形態の原子発振器のより具体的な構成について説明する。
【0041】
(1)第1実施形態
図5は、第1実施形態の原子発振器の構成を示す図である。
【0042】
図5に示すように、第1実施形態の原子発振器100Aは、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路210を含んで構成されている。
【0043】
原子セル120は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)が封入されたものである。
【0044】
この原子セル120に対して、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光対が同時に照射されると、アルカリ金属原子がEIT現象を起こす。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、D1線における基底準位1と基底準位2のエネルギー差に相当する周波数が9.19263・・・GHzなので、周波数差が9.19263・・・GHzの共鳴光対が同時に照射されるとEIT現象を起こす。
【0045】
半導体レーザー110は、原子セル120に含まれるアルカリ金属原子に照射光1と照射光2を含むレーザー光を照射する。具体的には、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、電流駆動回路160が出力する駆動電流によって中心周波数f0(中心波長λ0)が制御され、第1変調周波数発生回路200の出力信号(以下、「第1変調信号」という)及び第2変調周波数発生回路210の出力信号(以下、「第2変調信号」という)によって変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路160による駆動電流に、第1変調信号の周波数成分と第2変調信号の周波数成分を有する交流電流を重畳することにより、半導体レーザー110が出射するレーザー光に変調をかけることができる。
【0046】
なお、半導体レーザー110は、端面発光レーザー(Edge Emitting Laser)であってもよいし、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等の面発光レーザーであってもよい。
【0047】
光検出器130は、原子セル120を透過した光を検出し、検出した光の量に応じた信号強度の信号を出力する。光検出器130の出力信号は検波回路140及び検波回路170に入力される。
【0048】
検波回路140は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器150の発振信号を用いて光検出器130の出力信号を同期検波する。
【0049】
電流駆動回路160は、検波回路140の出力信号に応じた大きさの駆動電流を発生して半導体レーザー110に供給し、レーザー光の中心周波数f0(中心波長λ0)を制御する。なお、検波回路140による同期検波を可能とするために、電流駆動回路160により発生する駆動電流には低周波発振器150の発振信号(検波回路140に供給される発振信号と同じ)が重畳される。
【0050】
半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路140、電流駆動回路160を通るフィードバックループによりレーザー光の中心周波数f0(中心波長λ0)が微調整されて安定する。
【0051】
検波回路170は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器180の発振信号を用いて光検出器130の出力信号を同期検波する。
【0052】
第1変調周波数発生回路200は、検波回路170の出力信号の電圧に応じた第1変調周波数fm1を有する第1変調信号を発生させる。
【0053】
この第1変調信号は低周波発振器180の発振信号(検波回路170に供給される発振信号と同じ)で変調がかけられ、半導体レーザー110に供給される。これにより、第1変調周波数fm1をわずかにスイープさせながら検波回路170による同期検波が行われ、光検出器130の出力信号が最大になるように第1変調周波数fm1が微調整される。
【0054】
第1変調信号は第2変調周波数発生回路210にも供給され、第2変調周波数発生回路210は、第1変調信号を第2変調周波数fm2を有する第2変調信号に周波数変換する。
【0055】
そして、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、第1変調信号と第2変調信号により変調がかけられ、照射光1と照射光2を発生させる。
【0056】
なお、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、原子セル20、光検出手段30に対応する。また、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路210で構成される回路は、図1の制御手段40に対応する。また、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路210は、それぞれ図1の第1の変調周波数発生手段42、第2の変調周波数発生手段44に対応する。
【0057】
このような構成の原子発振器100Aにおいて、半導体レーザー110が出射する照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差が原子セル120に含まれるアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致しなければ、アルカリ金属原子がEIT現象を起こさないため、照射光1と照射光2の周波数に応じて光検出器130の検出量は極めて敏感に変化する。そのため、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路170及び第1変調周波数発生回路200と検波用変調回路190又は第2変調周波数発生回路210を通る2つのフィードバックループにより、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と極めて正確に一致するようにフィードバック制御がかかる。その結果、第1変調周波数と第2変調周波数は極めて安定した周波数になるので、第1変調信号や第2変調信号を原子発振器100Aの出力信号(クロック出力)とすることができる。
【0058】
図6は、第1実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図である。
【0059】
図6に示す照射光1と照射光2の関係は、図2(B)に示した照射光1と照射光2の関係と同じであるが、図3(B)や図4(B)に示した関係等、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致する(ただし、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2の周波数差はΔE12に相当する周波数と一致しない)ような関係であればよい。
【0060】
原子発振器100Aによれば、図6に示すように、レーザー光の中心周波数f0(=v/λ0)に対して、中心周波数f1=f0+fm1であり周波数がfm2ずつ異なる照射光1の全体と、中心周波数f2=f0−fm1であり周波数がfm2ずつ異なる照射光2の全体を線対称にスイープさせながら同期検波が行われ、2×(fm1−fm2)がΔE12に相当する周波数と一致する状態で安定するようになる。
【0061】
アルカリ金属原子がセシウム原子であればΔE12に相当する周波数は9.19263・・・GHzであるので、例えば、fm1=4.606315・・・GHz、fm2=10MHzで安定するように設計することができる。
【0062】
この場合、第1変調周波数発生回路200は、例えば、検波回路170の出力信号の大きさに応じてインダクタンス(L)やキャパシタンス(C)を調整することにより4.6GHz近傍で共振周波数を変更可能なLC共振器によって実現することができる。また、第2変調周波数発生回路210は、例えば、入力信号(第1変調信号)の周波数を(10MHz/4.606315・・・GHz)倍にダウンコンバートして出力するダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS:Direct Digital Synthesizer)によって実現することができる。
【0063】
図7は、原子発振器100Aにおける第2変調周波数発生回路210の構成例を示す図である。
【0064】
図7に示すように、第2変調周波数発生回路210は、周波数設定部211、アドレス演算部212、波形メモリー213、D/A変換器214、ローパスフィルター215を含むダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)として構成されている。
【0065】
周波数設定部211は、あらかじめ設定された周波数データ(周波数変換率を決定するためのデータ)に基づいて加算値データを生成する。先の例の場合、周波数変換率は(10MHz/4.606315・・・GHz)である。
【0066】
アドレス演算部212は、周波数設定部211が生成する加算値データを第1変調信号に同期して順次加算することにより位相角データを計算する。具体的には、アドレス演算部212は、前回の位相角データに加算値データを加算して今回の位相角データを計算し、位相角データに相当するアドレスを生成する。アドレス演算部212は、加算値データの加算処理を繰り返すpビットのアキュムレーターにより実現することができ、アキュムレーターの出力がアドレスになる。
【0067】
波形メモリー213には、波形パターン(例えば正弦波)の位相角と振幅値の対応関係が記憶されている。具体的には、波形メモリー213には1周期分の波形パターンを一定の時間間隔(1周期/2p)でサンプリングした2p個の点の振幅値データ(デジタルデータ)がアドレス順に記憶されており、アドレス演算部が生成するアドレスで指定される領域に記憶されている振幅値データが波形メモリー213から出力される。
【0068】
D/A変換器214は、波形メモリー213が出力する振幅値データをD/A変換する。D/A変換器214の出力信号は第1変調信号の周期毎に階段状に変化する波形であるため、ローパスフィルター215で平滑化されて第2変調信号が生成される。
【0069】
以上の構成により、第2変調周波数発生回路210(DDS)は、周波数設定部211が生成する加算値データMに対して、第1変調周波数のM/2p倍の周波数を有する第2変調信号を出力する。従って、pを十分大きくすれば、第1変調周波数をほぼ正確に(10MHz/4.606315・・・GHz)倍することができるので、極めて高い周波数精度の10MHzを有する第2変調信号を生成することができる。
【0070】
以上に説明したように、第1実施形態の原子発振器では、照射光1の所定の周波数成分(f1+j×fm2)と照射光2の所定の周波数成分(f2+k×fm2)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御がかかる。
【0071】
従って、第1実施形態によれば、第1変調周波数fm1又は第2変調周波数fm2が所望の周波数となるように、上記の条件を満たす第1変調周波数fm1と第2変調周波数fm2を選択すればよいので、従来の原子発振器と比較して設計の自由度が向上し、そのため比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【0072】
[変形例]
図8は、第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図である。図8に示すように、変形例の原子発振器100Bは、図5に示した原子発振器100Aに対して、電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)220が追加されている。
【0073】
図8に示すように、原子発振器100Bでは、半導体レーザー110は、第1変調周波数fm1を有する第1変調信号や第2変調周波数fm2を有する第2変調信号による変調がかけられず、電気光学変調器(EOM)220に対して周波数f0のレーザー光を出射する。
【0074】
そして、検波用変調回路190により変調がかけられた第1変調信号は、第2変調信号とともに電気光学変調器(EOM)220に入力される。
【0075】
電気光学変調器(EOM)220は、周波数f0のレーザー光に対して第1変調信号と第2変調信号で変調をかける。その結果、電気光学変調器(EOM)220を透過して原子セル120に照射される光には、図5に示した原子発振器100Aと同様、f0を中心とする上側サイドバンドと下側サイドバンドに、中心周波数f1=f0+fm1であり周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光1と、中心周波数f2=f0−fm1であり周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光2がそれぞれ発生する。
【0076】
図8に示す原子発振器100Bにおけるその他の構成は、図5に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0077】
なお、半導体レーザー110と電気光学変調器(EOM)220による構成が図1の光源10に対応する。その他の対応関係は、図5に示した原子発振器100Aと同じである。
【0078】
このような構成によっても、図5に示した原子発振器Aと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0079】
(2)第2実施形態
図9は、第2実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図9に示すように、第2実施形態の原子発振器100Cは、第1変調周波数発生回路300と第2変調周波数発生回路310の接続関係が、図5に示した第1実施形態の原子発振器100Aにおける第1変調周波数発生回路200と第2変調周波数発生回路210の接続関係と逆になっている。
【0080】
原子発振器100Cにおいて、第2変調周波数発生回路310は、検波回路170の出力信号の電圧に応じた第2変調周波数fm2を有する第2変調信号を発生させる。
【0081】
この第2変調信号は低周波発振器180の発振信号(検波回路170に供給される発振信号と同じ)で変調がかけられ、半導体レーザー110に供給される。これにより、第2変調周波数fm2をわずかにスイープさせながら検波回路170による同期検波が行われ、光検出器130の出力信号が最大になるように第2変調周波数fm2が微調整される。
【0082】
第2変調信号は第1変調周波数発生回路300にも供給され、第1変調周波数発生回路300は、第2変調信号を第1変調周波数fm1を有する第1変調信号に周波数変換する。
【0083】
そして、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、第1変調信号と第2変調信号により変調がかけられ、照射光1と照射光2を発生させる。
【0084】
図9に示す原子発振器100Cにおけるその他の構成は、図5に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0085】
なお、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、原子セル20、光検出手段30に対応する。また、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路300、第2変調周波数発生回路310で構成される回路は、図1の制御手段40に対応する。また、第1変調周波数発生回路300、第2変調周波数発生回路310は、それぞれ図1の第1の変調周波数発生手段42、第2の変調周波数発生手段44に対応する。
【0086】
このような構成の原子発振器100Cにおいて、半導体レーザー110が出射する照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差が原子セル120に含まれるアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致しなければ、アルカリ金属原子がEIT現象を起こさないため、照射光1と照射光2の周波数に応じて光検出器130の検出量は極めて敏感に変化する。そのため、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路170及び第2変調周波数発生回路310と検波用変調回路190又は第1変調周波数発生回路300を通る2つのフィードバックループにより、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と極めて正確に一致するようにフィードバック制御がかかる。その結果、第1変調周波数と第2変調周波数は極めて安定した周波数になるので、第1変調信号や第2変調信号を原子発振器100Cの出力信号(クロック出力)とすることができる。
【0087】
図10は、第2実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図である。
【0088】
図10に示す照射光1と照射光2の関係は、図2(B)に示した照射光1と照射光2の関係と同じであるが、図3(B)や図4(B)に示した関係等、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致する(ただし、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2の周波数差はΔE12に相当する周波数と一致しない)ような関係であればよい。
【0089】
原子発振器100Cによれば、図10に示すように、周波数がfm2ずつ異なる照射光1の各周波数成分を中心周波数f1=f0+fm1に対して線対称にスイープさせるとともに、周波数がfm2ずつ異なる照射光2の各周波数成分を中心周波数f2=f0−fm1に対して線対称にスイープさせながら同期検波が行われ、2×(fm1−fm2)がΔE12に相当する周波数と一致する状態で安定するようになる。
【0090】
アルカリ金属原子がセシウム原子であればΔE12に相当する周波数は9.19263・・・GHzであるので、例えば、fm1=4.606315・・・GHz、fm2=10MHzで安定するように設計することができる。
【0091】
この場合、第2変調周波数発生回路310は、例えば、検波回路170の出力信号の大きさに応じて水晶振動子の負荷容量を調整することにより発振周波数を変更可能な電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Crystal Oscillator)によって実現することができる。また、第1変調周波数発生回路300は、例えば、入力信号(第2変調信号)の周波数を(4.606315・・・GHz/10MHz)倍に逓倍するPLLによって実現することができる。
【0092】
図11は、原子発振器100Cにおける第1変調周波数発生回路300の構成例を示す図である。
【0093】
図11に示すように、第1変調周波数発生回路300は、分周器301、位相比較器302、ループフィルター303、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)304、分周器305を含むPLLとして構成されている。
【0094】
分周器301は、第2変調信号の周波数(第2変調周波数fm2)を1/R(Rはあらかじめ決められた整数値)にして出力する。
【0095】
位相比較器302は、分周器301の出力信号と分周器305の出力信号の位相差を電圧に変換して出力する。
【0096】
ループフィルター303は、位相比較器302の出力電圧に含まれる高周波成分を除去(正確には一定レベル以下に減衰)する。
【0097】
電圧制御発振器(VCO)304は、ループフィルター303の出力電圧に応じた周波数の信号を出力する。
【0098】
分周器305は、電圧制御発振器(VCO)304の出力周波数を1/N(Nはあらかじめ決められた整数値)にして出力する。
【0099】
そして、電圧制御発振器(VCO)304の出力信号が第1変調信号(第1変調周波数fm1を有する)になる。
【0100】
このような構成によれば、位相比較器302に入力される2つの信号の周波数が一致するように、すなわちfm2/R=fm1/Nとなるようにフィードバック制御がかかるので、fm1=(N/R)×fm2となる第1変調信号が得られる。
【0101】
図2(A)及び図2(B)に示したような照射光1と照射光2を発生させる場合は、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、例えば、fm1=4.606315・・・GHz、fm2=10MHzであればよいので、逓倍率N/Rが(4.606315・・・GHz/10MHz)になるようにN及びRを決定すればよい。
【0102】
また、図3(A)及び図3(B)に示したような照射光1と照射光2を発生させる場合は、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、例えば、fm1=4.586315・・・GHz、fm2=10MHzであればよいので、逓倍率N/Rが(4.586315・・・GHz/10MHz)になるようにN及びRを決定すればよい。
【0103】
また、図4(A)及び図4(B)に示したような照射光1と照射光2を発生させる場合は、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、例えば、fm1=4.601315・・・GHz、fm2=10MHzであればよいので、逓倍率N/Rが(4.601315・・・GHz/10MHz)になるようにN及びRを決定すればよい。
【0104】
以上に説明したように、第2実施形態の原子発振器では、第1実施形態と同様に、照射光1の所定の周波数成分(f1+j×fm2)と照射光2の所定の周波数成分(f2+k×fm2)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御がかかる。
【0105】
従って、第2実施形態によれば、第1変調周波数fm1又は第2変調周波数fm2が所望の周波数となるように、上記の条件を満たす第1変調周波数fm1と第2変調周波数fm2を選択すればよいので、従来の原子発振器と比較して設計の自由度が向上し、そのため比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【0106】
また、第2実施形態において、第2変調周波数fm2をMHz帯の周波数に決定すれば、第2変調周波数発生回路310や検波用変調回路190をMHz帯の回路によって実現することができるので、高度な設計技術を要するマイクロ波回路の設計を大幅に省略することができる。
【0107】
(3)第3実施形態
図12は、第3実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図3に示すように、第3実施形態の原子発振器100Dは、第2変調周波数発生回路410に第1変調周波数発生回路200による第1変調信号が入力されない点において図5に示した第1実施形態の原子発振器100Aと異なる。また、第3実施形態の原子発振器100Dには周波数変換回路230が追加されている。
【0108】
原子発振器100Dにおいて、第2変調周波数発生回路410は、第1変調周波数発生回路200により発生する第1変調信号から独立して第2変調周波数fm2を有する第2変調信号を発生させる。第2変調周波数発生回路410は、例えば、水晶振動子が周波数fm2で発振するように負荷容量が調整された水晶発振器(XO:Crystal Oscillator)によって実現することができる。
【0109】
そして、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、第1変調信号と第2変調信号により変調がかけられ、照射光1と照射光2を発生させる。
【0110】
周波数変換回路230は、第1変調信号を所望の周波数の信号に周波数変換する。周波数変換回路230は、例えば、ダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)によって実現することができる。
【0111】
図12に示す原子発振器100Dにおけるその他の構成は、図5に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0112】
なお、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、原子セル20、光検出手段30に対応する。また、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路410で構成される回路は、図1の制御手段40に対応する。また、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路410、周波数変換回路230は、それぞれ図1の第1の変調周波数発生手段42、第2の変調周波数発生手段44、周波数変換手段46に対応する。
【0113】
このような構成の原子発振器100Dによれば、第2変調周波数fm2が固定されているので、アルカリ金属原子がEIT現象を起こすように第1変調周波数fm1が微調整され、第1変調周波数fm1が所望の周波数に変換されて出力される。従って、第3実施形態によれば、所望の周波数を得るために、第1変調周波数fm1、第2変調周波数fm2、周波数変換回路230の周波数変換率の組み合わせをある程度自由に選択できるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0114】
また、例えば、照射光1と照射光2が図2(A)及び図2(B)に示した関係にあり、アルカリ金属原子がセシウム原子である場合、第2変調信号の周波数(第2変調周波数fm2)が10MHzに対して±1kHz(±100ppm)の範囲で変動するなら、第1変調信号の周波数(第1変調周波数fm1)は4.606315・・・GHzに対して±1kHz(±1ppm未満)で変動する。従って、周波数変換回路230の周波数変換率を(10MHz/4.606315・・・GHz)に設定すれば、10MHzに対して±1ppm未満の周波数精度の出力信号が得られる。すなわち、第2変調信号の周波数精度(±100ppm)に対して、その100倍以上の周波数精度の出力信号が得られることになる。
【0115】
このように、第3実施形態の原子発振器によれば、アルカリ金属原子のEIT現象を利用することで出力信号の周波数精度を大幅に向上させることができる。
【0116】
また、第3実施形態の原子発振器において、第2変調周波数発生回路410を、例えば電圧制御水晶発振器(VCXO)によって実現すれば、第2変調周波数が変更可能になり、周波数変換回路230の出力信号は第2変調周波数に応じた周波数になる。すなわち、出力周波数が可変な原子発振器を実現することができる。
【0117】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0118】
例えば、第1実施形態やその変形例の原子発振器では、第2変調周波数発生回路210は、ダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)によって実現しているが、PLLによって実現することもできる。
【0119】
また、例えば、第2実施形態の原子発振器では、第1変調周波数発生回路300は、PLLによって実現しているが、逓倍機能付きのダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)によって実現することもできる。
【0120】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0121】
1 原子発振器、10 光源、20 原子セル、30 光検出手段、40 制御手段、42 第1の変調周波数発生手段、44 第2の変調周波数発生手段、46 周波数変換手段、100A〜100D 原子発振器、110 半導体レーザー、120 原子セル、130 光検出器、140 検波回路、150 低周波発振器、160 電流駆動回路、170 検波回路、180 低周波発振器、190 検波用変調回路、200 第1変調周波数発生回路、210 第2変調周波数発生回路、211 周波数設定部、212 アドレス演算部、213 波形メモリー、214 D/A変換器、215 ローパスフィルター、220 電気光学変調器(EOM)、230 周波数変換回路、300 第1変調周波数発生回路、301 分周器、302 位相比較器、303 ループフィルター、304 電圧制御発振器(VCO)、305 分周器、310 第2変調周波数発生回路、410 第2変調周波数発生回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘起透過(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)方式(CPT(Coherent Population Trapping)方式と呼ばれることもある)による原子発振器は、アルカリ金属原子に波長(周波数)の異なる2つの共鳴光を同時に照射すると、2つの共鳴光の吸収が停止する現象を利用した発振器である。
【0003】
アルカリ金属原子と2つの共鳴光との相互作用機構は、図13(A)に示すように、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位1と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f1)を有する共鳴光1、あるいは基底準位2と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f2)を有する共鳴光2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、よく知られているように光吸収が起きる。ところが、図13(B)に示すように、このアルカリ金属原子に、周波数差f1−f2が基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と正確に一致する共鳴光1と共鳴光2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して共鳴光1と共鳴光2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。このEIT現象を利用し、共鳴光1と共鳴光2との周波数差f1−f2が基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出し制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0004】
図14は、従来のCPT方式による原子発振器の一般的な構成の概略図である。図14に示すように、従来のCPT方式による原子発振器は、電流駆動回路により発生した周波数f0(=v/λ0:vは光の速度、λ0はレーザー光の中心波長)の駆動電流を、基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数の1/2の変調周波数fm1で変調することにより、半導体レーザーに周波数f1=f0+fm1の共鳴光1と周波数f2=f0−fm1の共鳴光2を発生させ(図13(B))、原子セルに含まれる気体状のアルカリ金属原子にEIT現象を起こさせる。この原子発振器は、原子セルを透過した光の検出量が最大になるように電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Crystal Oscillator)の発振周波数を制御し、その発振周波数をPLL(Phase Locked Loop)により逓倍率N/R(N、Rはともに正の整数)で逓倍してΔE12に相当する周波数の1/2の変調周波数fm1の信号を生成する。このような構成によれば、電圧制御水晶発振器(VCXO)は極めて安定に発振動作を継続するので、周波数安定度が極めて高い発振信号を発生させることができる。なお、ここで言う原子セルとは、気体状のアルカリ金属原子とこれを封入する容器とから構成されたものとして、以降説明をする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6320472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の原子発振器では、ΔE12に相当する周波数(例えば、セシウム原子であれば9.19263・・・GHz)の1/2の周波数と正確に一致する変調周波数fm1を直接又は高調波によって発生させるPLL等の発振器を特別に用意しなければならないため、設計の自由度が制限される。
【0007】
また、変調周波数fm1がΔE12に相当する周波数の1/2の周波数と正確に一致した状態で安定するので、従来の原子発振器では、PLLの逓倍率N/Rの精度によっては電圧制御水晶発振器(VCXO)を正確に所望の周波数(公称周波数)で発振させることができない場合がある。そのため、例えば、電圧制御水晶発振器(VCXO)の発振周波数が9.999MHzであれば、公称周波数の10MHzを得るためだけに高精度の周波数変換回路が必要になり簡易な構成で実現できない場合もある(図14参照)。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、設計の自由度を向上させることにより比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる光源と、前記アルカリ金属原子を透過した前記第1の光及び前記第2の光を含む光の強度を検出する光検出手段と、前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記第1の光の所定の周波数成分と前記第2の光の所定の周波数成分の周波数差が前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する制御手段と、を含み、前記第1の光の中心周波数f1と前記第2の光の中心周波数f2の周波数差は、前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と異なる。
【0010】
従来のCPT方式の原子発振器では、2つの共鳴光の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御がかかるのに対して、本発明の原子発振器では、第1の光の所定の周波数成分と第2の光の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御がかかる。すなわち、第1の光の所定の周波数成分と第2の光の所定の周波数成分が2つの共鳴光になるように制御がかかる(但し、第1の光の中心周波数f1と第2の光の中心周波数f2がともに共鳴光になることはない)。
【0011】
要するに、本発明の原子発振器では、第1の光の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と第2の光の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、第1の光の中心周波数f1と第2の光の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、第1の光の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と第2の光の中心周波数f2の対のいずれかが共鳴対になるように設計すればよい。
【0012】
従って、本発明によれば、従来の原子発振器と比較して設計の自由度が向上し、そのため比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【0013】
(2)この原子発振器において、前記制御手段は、前記光検出手段の検出結果に基づいて、第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、を含み、前記光源は、前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させるようにしてもよい。
【0014】
本発明の原子発振器では、第1の光の所定の周波数成分(f1+j×Δf)と第2の光の所定の周波数成分(f2+k×Δf)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致すればよい。
【0015】
従って、本発明によれば、直接又は簡単な分周器等を用いて所望の周波数が得られるように、上記の条件を満たす第1の変調周波数fm1と第2の変調周波数fm2を選択すれば、比較的簡易な構成の原子発振器を実現することができる。
【0016】
(3)この原子発振器において、前記第2の変調周波数発生手段は、前記第1の信号を周波数変換して前記第2の信号を発生させるようにしてもよい。
【0017】
(4)この原子発振器において、前記第2の変調周波数発生手段は、前記第1の信号から独立して前記第2の変調周波数fm2で発振するようにしてもよい。
【0018】
(5)この原子発振器は、前記第1の信号を周波数変換して所定の周波数の信号を発生させる周波数変換手段を含むようにしてもよい。
【0019】
(6)この原子発振器において、前記制御手段は、前記光検出手段の検出結果に基づいて、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、前記第2の信号を周波数変換して第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、を含み、前記光源は、前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させるようにしてもよい。
【0020】
本発明の原子発振器では、第1の光の所定の周波数成分(f1+j×Δf)と第2の光の所定の周波数成分(f2+k×Δf)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致すればよい。
【0021】
従って、本発明によれば、直接又は簡単な分周器等を用いて所望の周波数が得られるように、上記の条件を満たす第1の変調周波数fm1と第2の変調周波数fm2を選択すれば、比較的簡易な構成の原子発振器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の原子発振器の機能ブロック図。
【図2】図2(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係の第1の例を示す図であり、図2(B)は照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムの第1の例を示す図。
【図3】図3(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係の第2の例を示す図であり、図3(B)は照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムの第2の例を示す図。
【図4】図4(A)はアルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係の第3の例を示す図であり、図4(B)は照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムの第3の例を示す図。
【図5】第1実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図6】第1実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図。
【図7】第1実施形態の原子発振器における第2変調周波数発生回路構成例を示す図。
【図8】第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図。
【図9】第2実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図10】第2実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図。
【図11】第2実施形態の原子発振器における第1変調周波数発生回路の構成例を示す図。
【図12】第3実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図13】図13(A)はアルカリ金属原子のエネルギー準位を模式的に示す図であり、図13(B)は2つの共鳴光の周波数スペクトラムを示す図。
【図14】従来のCPT方式による原子発振器の一般的な構成の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
図1は、本実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。
【0025】
本実施形態の原子発振器1は、光源10、原子セル20、光検出手段30及び制御手段40を含んで構成されている。
【0026】
光源10は、中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる。
【0027】
原子セル20には気体状のアルカリ金属原子が含まれており、光源10により、第1の光と第2の光が照射される。以下、第1の光及び第2の光をそれぞれ「照射光1」及び「照射光2」ということにする。
【0028】
光検出手段30は、アルカリ金属原子を透過した照射光1及び照射光2を含む光の強度を検出する。
【0029】
制御手段40は、光検出手段30の検出結果に基づいて、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する。ただし、本実施形態では、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2の周波数差は、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致しない。
【0030】
すなわち、制御手段40は、照射光1の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と照射光2の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2以外の所定の周波数成分の対、又は、照射光1の中心周波数f1以外の所定の周波数成分と照射光2の中心周波数f2の対のいずれかを共鳴光対として、その周波数がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御する。
【0031】
このような制御手段40は、図1に示すように、第1の変調周波数発生手段42と、第2の変調周波数発生手段44と、を含んで構成することができる。
【0032】
例えば、第1の変調周波数発生手段42が、光検出手段30の検出結果に基づいて、第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させ、第2の変調周波数発生手段44が、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させるように構成してもよい。ここで、第2の変調周波数発生手段44は、第1の変調周波数発生手段42により発生する第1の信号を周波数変換して第2の信号を発生させるようにしてもよいし、第1の信号から独立して第2の変調周波数fm2で発振するように構成してもよい。後者の場合、制御手段40は、さらに、第1の信号を周波数変換して所定の周波数の信号を発生させる周波数変換手段46を含むようにしてもよい。
【0033】
また、例えば、第2の変調周波数発生手段44が、光検出手段30の検出結果に基づいて、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させ、第1の変調周波数発生手段42が、第2の変調周波数発生手段44により発生する第2の信号を周波数変換して第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させるように構成してもよい。
【0034】
そして、いずれの場合も、光源10は、第1の変調周波数発生手段42により発生する第1の信号及び第2の変調周波数発生手段44により発生する第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる照射光1及び照射光2を発生させるようにすればよい。
【0035】
図2(A)及び図2(B)、図3(A)及び図3(B)、図4(A)及び図4(B)は、本実施形態の原子発振器において発生する照射光1及び照射光2の第1、第2、第3の例についてそれぞれ説明するための図である。図2(A)、図3(A)及び図4(A)は、アルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと照射光1及び照射光2の関係を示す図であり、図2(B)、図3(B)、図4(B)は、照射光1及び照射光2の周波数スペクトラムを示す図である。
【0036】
図2(B)、図3(B)及び図4(B)に示すように、第1、第2、第3の例ともに、周波数f0(=v/λ0)に対して、上側サイドバンドに周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光1と、下側サイドバンドに周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光2が存在する。照射光1の中心周波数f1=f0+fm1であり、照射光2の中心周波数f2=f0−fm1である。
【0037】
図2(A)及び図2(B)に示すように、第1の例では、照射光1の周波数成分f1−fm2と照射光2の周波数成分f2+fm2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。従って、アルカリ金属原子は、照射光1の周波数成分f1−fm2と照射光2の周波数成分f2+fm2を共鳴光対としてEIT現象を起こす。
【0038】
図3(A)及び図3(B)に示すように、第2の例では、照射光1の周波数成分f1+fm2と照射光2の周波数成分f2−fm2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。従って、アルカリ金属原子は、照射光1の周波数成分f1+fm2と照射光2の周波数成分f2−fm2を共鳴光対としてEIT現象を起こす。
【0039】
図4(A)及び図4(B)に示すように、第3の例では、照射光1の中心周波数f1と照射光2の周波数成分f2+fm2との周波数差が、アルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。従って、アルカリ金属原子は、照射光1の中心周波数f1と照射光2の周波数成分f2+fm2を共鳴光対としてEIT現象を起こす。
【0040】
以下、本実施形態の原子発振器のより具体的な構成について説明する。
【0041】
(1)第1実施形態
図5は、第1実施形態の原子発振器の構成を示す図である。
【0042】
図5に示すように、第1実施形態の原子発振器100Aは、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路210を含んで構成されている。
【0043】
原子セル120は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)が封入されたものである。
【0044】
この原子セル120に対して、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光対が同時に照射されると、アルカリ金属原子がEIT現象を起こす。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、D1線における基底準位1と基底準位2のエネルギー差に相当する周波数が9.19263・・・GHzなので、周波数差が9.19263・・・GHzの共鳴光対が同時に照射されるとEIT現象を起こす。
【0045】
半導体レーザー110は、原子セル120に含まれるアルカリ金属原子に照射光1と照射光2を含むレーザー光を照射する。具体的には、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、電流駆動回路160が出力する駆動電流によって中心周波数f0(中心波長λ0)が制御され、第1変調周波数発生回路200の出力信号(以下、「第1変調信号」という)及び第2変調周波数発生回路210の出力信号(以下、「第2変調信号」という)によって変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路160による駆動電流に、第1変調信号の周波数成分と第2変調信号の周波数成分を有する交流電流を重畳することにより、半導体レーザー110が出射するレーザー光に変調をかけることができる。
【0046】
なお、半導体レーザー110は、端面発光レーザー(Edge Emitting Laser)であってもよいし、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等の面発光レーザーであってもよい。
【0047】
光検出器130は、原子セル120を透過した光を検出し、検出した光の量に応じた信号強度の信号を出力する。光検出器130の出力信号は検波回路140及び検波回路170に入力される。
【0048】
検波回路140は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器150の発振信号を用いて光検出器130の出力信号を同期検波する。
【0049】
電流駆動回路160は、検波回路140の出力信号に応じた大きさの駆動電流を発生して半導体レーザー110に供給し、レーザー光の中心周波数f0(中心波長λ0)を制御する。なお、検波回路140による同期検波を可能とするために、電流駆動回路160により発生する駆動電流には低周波発振器150の発振信号(検波回路140に供給される発振信号と同じ)が重畳される。
【0050】
半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路140、電流駆動回路160を通るフィードバックループによりレーザー光の中心周波数f0(中心波長λ0)が微調整されて安定する。
【0051】
検波回路170は、数Hz〜数百Hz程度の低い周波数で発振する低周波発振器180の発振信号を用いて光検出器130の出力信号を同期検波する。
【0052】
第1変調周波数発生回路200は、検波回路170の出力信号の電圧に応じた第1変調周波数fm1を有する第1変調信号を発生させる。
【0053】
この第1変調信号は低周波発振器180の発振信号(検波回路170に供給される発振信号と同じ)で変調がかけられ、半導体レーザー110に供給される。これにより、第1変調周波数fm1をわずかにスイープさせながら検波回路170による同期検波が行われ、光検出器130の出力信号が最大になるように第1変調周波数fm1が微調整される。
【0054】
第1変調信号は第2変調周波数発生回路210にも供給され、第2変調周波数発生回路210は、第1変調信号を第2変調周波数fm2を有する第2変調信号に周波数変換する。
【0055】
そして、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、第1変調信号と第2変調信号により変調がかけられ、照射光1と照射光2を発生させる。
【0056】
なお、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、原子セル20、光検出手段30に対応する。また、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路210で構成される回路は、図1の制御手段40に対応する。また、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路210は、それぞれ図1の第1の変調周波数発生手段42、第2の変調周波数発生手段44に対応する。
【0057】
このような構成の原子発振器100Aにおいて、半導体レーザー110が出射する照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差が原子セル120に含まれるアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致しなければ、アルカリ金属原子がEIT現象を起こさないため、照射光1と照射光2の周波数に応じて光検出器130の検出量は極めて敏感に変化する。そのため、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路170及び第1変調周波数発生回路200と検波用変調回路190又は第2変調周波数発生回路210を通る2つのフィードバックループにより、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と極めて正確に一致するようにフィードバック制御がかかる。その結果、第1変調周波数と第2変調周波数は極めて安定した周波数になるので、第1変調信号や第2変調信号を原子発振器100Aの出力信号(クロック出力)とすることができる。
【0058】
図6は、第1実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図である。
【0059】
図6に示す照射光1と照射光2の関係は、図2(B)に示した照射光1と照射光2の関係と同じであるが、図3(B)や図4(B)に示した関係等、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致する(ただし、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2の周波数差はΔE12に相当する周波数と一致しない)ような関係であればよい。
【0060】
原子発振器100Aによれば、図6に示すように、レーザー光の中心周波数f0(=v/λ0)に対して、中心周波数f1=f0+fm1であり周波数がfm2ずつ異なる照射光1の全体と、中心周波数f2=f0−fm1であり周波数がfm2ずつ異なる照射光2の全体を線対称にスイープさせながら同期検波が行われ、2×(fm1−fm2)がΔE12に相当する周波数と一致する状態で安定するようになる。
【0061】
アルカリ金属原子がセシウム原子であればΔE12に相当する周波数は9.19263・・・GHzであるので、例えば、fm1=4.606315・・・GHz、fm2=10MHzで安定するように設計することができる。
【0062】
この場合、第1変調周波数発生回路200は、例えば、検波回路170の出力信号の大きさに応じてインダクタンス(L)やキャパシタンス(C)を調整することにより4.6GHz近傍で共振周波数を変更可能なLC共振器によって実現することができる。また、第2変調周波数発生回路210は、例えば、入力信号(第1変調信号)の周波数を(10MHz/4.606315・・・GHz)倍にダウンコンバートして出力するダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS:Direct Digital Synthesizer)によって実現することができる。
【0063】
図7は、原子発振器100Aにおける第2変調周波数発生回路210の構成例を示す図である。
【0064】
図7に示すように、第2変調周波数発生回路210は、周波数設定部211、アドレス演算部212、波形メモリー213、D/A変換器214、ローパスフィルター215を含むダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)として構成されている。
【0065】
周波数設定部211は、あらかじめ設定された周波数データ(周波数変換率を決定するためのデータ)に基づいて加算値データを生成する。先の例の場合、周波数変換率は(10MHz/4.606315・・・GHz)である。
【0066】
アドレス演算部212は、周波数設定部211が生成する加算値データを第1変調信号に同期して順次加算することにより位相角データを計算する。具体的には、アドレス演算部212は、前回の位相角データに加算値データを加算して今回の位相角データを計算し、位相角データに相当するアドレスを生成する。アドレス演算部212は、加算値データの加算処理を繰り返すpビットのアキュムレーターにより実現することができ、アキュムレーターの出力がアドレスになる。
【0067】
波形メモリー213には、波形パターン(例えば正弦波)の位相角と振幅値の対応関係が記憶されている。具体的には、波形メモリー213には1周期分の波形パターンを一定の時間間隔(1周期/2p)でサンプリングした2p個の点の振幅値データ(デジタルデータ)がアドレス順に記憶されており、アドレス演算部が生成するアドレスで指定される領域に記憶されている振幅値データが波形メモリー213から出力される。
【0068】
D/A変換器214は、波形メモリー213が出力する振幅値データをD/A変換する。D/A変換器214の出力信号は第1変調信号の周期毎に階段状に変化する波形であるため、ローパスフィルター215で平滑化されて第2変調信号が生成される。
【0069】
以上の構成により、第2変調周波数発生回路210(DDS)は、周波数設定部211が生成する加算値データMに対して、第1変調周波数のM/2p倍の周波数を有する第2変調信号を出力する。従って、pを十分大きくすれば、第1変調周波数をほぼ正確に(10MHz/4.606315・・・GHz)倍することができるので、極めて高い周波数精度の10MHzを有する第2変調信号を生成することができる。
【0070】
以上に説明したように、第1実施形態の原子発振器では、照射光1の所定の周波数成分(f1+j×fm2)と照射光2の所定の周波数成分(f2+k×fm2)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御がかかる。
【0071】
従って、第1実施形態によれば、第1変調周波数fm1又は第2変調周波数fm2が所望の周波数となるように、上記の条件を満たす第1変調周波数fm1と第2変調周波数fm2を選択すればよいので、従来の原子発振器と比較して設計の自由度が向上し、そのため比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【0072】
[変形例]
図8は、第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図である。図8に示すように、変形例の原子発振器100Bは、図5に示した原子発振器100Aに対して、電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)220が追加されている。
【0073】
図8に示すように、原子発振器100Bでは、半導体レーザー110は、第1変調周波数fm1を有する第1変調信号や第2変調周波数fm2を有する第2変調信号による変調がかけられず、電気光学変調器(EOM)220に対して周波数f0のレーザー光を出射する。
【0074】
そして、検波用変調回路190により変調がかけられた第1変調信号は、第2変調信号とともに電気光学変調器(EOM)220に入力される。
【0075】
電気光学変調器(EOM)220は、周波数f0のレーザー光に対して第1変調信号と第2変調信号で変調をかける。その結果、電気光学変調器(EOM)220を透過して原子セル120に照射される光には、図5に示した原子発振器100Aと同様、f0を中心とする上側サイドバンドと下側サイドバンドに、中心周波数f1=f0+fm1であり周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光1と、中心周波数f2=f0−fm1であり周波数がfm2ずつ異なる複数の周波数成分を有する照射光2がそれぞれ発生する。
【0076】
図8に示す原子発振器100Bにおけるその他の構成は、図5に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0077】
なお、半導体レーザー110と電気光学変調器(EOM)220による構成が図1の光源10に対応する。その他の対応関係は、図5に示した原子発振器100Aと同じである。
【0078】
このような構成によっても、図5に示した原子発振器Aと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0079】
(2)第2実施形態
図9は、第2実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図9に示すように、第2実施形態の原子発振器100Cは、第1変調周波数発生回路300と第2変調周波数発生回路310の接続関係が、図5に示した第1実施形態の原子発振器100Aにおける第1変調周波数発生回路200と第2変調周波数発生回路210の接続関係と逆になっている。
【0080】
原子発振器100Cにおいて、第2変調周波数発生回路310は、検波回路170の出力信号の電圧に応じた第2変調周波数fm2を有する第2変調信号を発生させる。
【0081】
この第2変調信号は低周波発振器180の発振信号(検波回路170に供給される発振信号と同じ)で変調がかけられ、半導体レーザー110に供給される。これにより、第2変調周波数fm2をわずかにスイープさせながら検波回路170による同期検波が行われ、光検出器130の出力信号が最大になるように第2変調周波数fm2が微調整される。
【0082】
第2変調信号は第1変調周波数発生回路300にも供給され、第1変調周波数発生回路300は、第2変調信号を第1変調周波数fm1を有する第1変調信号に周波数変換する。
【0083】
そして、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、第1変調信号と第2変調信号により変調がかけられ、照射光1と照射光2を発生させる。
【0084】
図9に示す原子発振器100Cにおけるその他の構成は、図5に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0085】
なお、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、原子セル20、光検出手段30に対応する。また、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路300、第2変調周波数発生回路310で構成される回路は、図1の制御手段40に対応する。また、第1変調周波数発生回路300、第2変調周波数発生回路310は、それぞれ図1の第1の変調周波数発生手段42、第2の変調周波数発生手段44に対応する。
【0086】
このような構成の原子発振器100Cにおいて、半導体レーザー110が出射する照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差が原子セル120に含まれるアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致しなければ、アルカリ金属原子がEIT現象を起こさないため、照射光1と照射光2の周波数に応じて光検出器130の検出量は極めて敏感に変化する。そのため、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130、検波回路170及び第2変調周波数発生回路310と検波用変調回路190又は第1変調周波数発生回路300を通る2つのフィードバックループにより、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と極めて正確に一致するようにフィードバック制御がかかる。その結果、第1変調周波数と第2変調周波数は極めて安定した周波数になるので、第1変調信号や第2変調信号を原子発振器100Cの出力信号(クロック出力)とすることができる。
【0087】
図10は、第2実施形態の原子発振器における照射光1及び照射光2の一例について説明するための図である。
【0088】
図10に示す照射光1と照射光2の関係は、図2(B)に示した照射光1と照射光2の関係と同じであるが、図3(B)や図4(B)に示した関係等、照射光1の所定の周波数成分と照射光2の所定の周波数成分の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致する(ただし、照射光1の中心周波数f1と照射光2の中心周波数f2の周波数差はΔE12に相当する周波数と一致しない)ような関係であればよい。
【0089】
原子発振器100Cによれば、図10に示すように、周波数がfm2ずつ異なる照射光1の各周波数成分を中心周波数f1=f0+fm1に対して線対称にスイープさせるとともに、周波数がfm2ずつ異なる照射光2の各周波数成分を中心周波数f2=f0−fm1に対して線対称にスイープさせながら同期検波が行われ、2×(fm1−fm2)がΔE12に相当する周波数と一致する状態で安定するようになる。
【0090】
アルカリ金属原子がセシウム原子であればΔE12に相当する周波数は9.19263・・・GHzであるので、例えば、fm1=4.606315・・・GHz、fm2=10MHzで安定するように設計することができる。
【0091】
この場合、第2変調周波数発生回路310は、例えば、検波回路170の出力信号の大きさに応じて水晶振動子の負荷容量を調整することにより発振周波数を変更可能な電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Crystal Oscillator)によって実現することができる。また、第1変調周波数発生回路300は、例えば、入力信号(第2変調信号)の周波数を(4.606315・・・GHz/10MHz)倍に逓倍するPLLによって実現することができる。
【0092】
図11は、原子発振器100Cにおける第1変調周波数発生回路300の構成例を示す図である。
【0093】
図11に示すように、第1変調周波数発生回路300は、分周器301、位相比較器302、ループフィルター303、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)304、分周器305を含むPLLとして構成されている。
【0094】
分周器301は、第2変調信号の周波数(第2変調周波数fm2)を1/R(Rはあらかじめ決められた整数値)にして出力する。
【0095】
位相比較器302は、分周器301の出力信号と分周器305の出力信号の位相差を電圧に変換して出力する。
【0096】
ループフィルター303は、位相比較器302の出力電圧に含まれる高周波成分を除去(正確には一定レベル以下に減衰)する。
【0097】
電圧制御発振器(VCO)304は、ループフィルター303の出力電圧に応じた周波数の信号を出力する。
【0098】
分周器305は、電圧制御発振器(VCO)304の出力周波数を1/N(Nはあらかじめ決められた整数値)にして出力する。
【0099】
そして、電圧制御発振器(VCO)304の出力信号が第1変調信号(第1変調周波数fm1を有する)になる。
【0100】
このような構成によれば、位相比較器302に入力される2つの信号の周波数が一致するように、すなわちfm2/R=fm1/Nとなるようにフィードバック制御がかかるので、fm1=(N/R)×fm2となる第1変調信号が得られる。
【0101】
図2(A)及び図2(B)に示したような照射光1と照射光2を発生させる場合は、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、例えば、fm1=4.606315・・・GHz、fm2=10MHzであればよいので、逓倍率N/Rが(4.606315・・・GHz/10MHz)になるようにN及びRを決定すればよい。
【0102】
また、図3(A)及び図3(B)に示したような照射光1と照射光2を発生させる場合は、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、例えば、fm1=4.586315・・・GHz、fm2=10MHzであればよいので、逓倍率N/Rが(4.586315・・・GHz/10MHz)になるようにN及びRを決定すればよい。
【0103】
また、図4(A)及び図4(B)に示したような照射光1と照射光2を発生させる場合は、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、例えば、fm1=4.601315・・・GHz、fm2=10MHzであればよいので、逓倍率N/Rが(4.601315・・・GHz/10MHz)になるようにN及びRを決定すればよい。
【0104】
以上に説明したように、第2実施形態の原子発振器では、第1実施形態と同様に、照射光1の所定の周波数成分(f1+j×fm2)と照射光2の所定の周波数成分(f2+k×fm2)の周波数差、すなわち、(2×fm1+(j−k)×fm2)(j,kは整数、かつ、j≠k)がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するように制御がかかる。
【0105】
従って、第2実施形態によれば、第1変調周波数fm1又は第2変調周波数fm2が所望の周波数となるように、上記の条件を満たす第1変調周波数fm1と第2変調周波数fm2を選択すればよいので、従来の原子発振器と比較して設計の自由度が向上し、そのため比較的簡易な構成の原子発振器を提供することができる。
【0106】
また、第2実施形態において、第2変調周波数fm2をMHz帯の周波数に決定すれば、第2変調周波数発生回路310や検波用変調回路190をMHz帯の回路によって実現することができるので、高度な設計技術を要するマイクロ波回路の設計を大幅に省略することができる。
【0107】
(3)第3実施形態
図12は、第3実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図3に示すように、第3実施形態の原子発振器100Dは、第2変調周波数発生回路410に第1変調周波数発生回路200による第1変調信号が入力されない点において図5に示した第1実施形態の原子発振器100Aと異なる。また、第3実施形態の原子発振器100Dには周波数変換回路230が追加されている。
【0108】
原子発振器100Dにおいて、第2変調周波数発生回路410は、第1変調周波数発生回路200により発生する第1変調信号から独立して第2変調周波数fm2を有する第2変調信号を発生させる。第2変調周波数発生回路410は、例えば、水晶振動子が周波数fm2で発振するように負荷容量が調整された水晶発振器(XO:Crystal Oscillator)によって実現することができる。
【0109】
そして、半導体レーザー110が出射するレーザー光は、第1変調信号と第2変調信号により変調がかけられ、照射光1と照射光2を発生させる。
【0110】
周波数変換回路230は、第1変調信号を所望の周波数の信号に周波数変換する。周波数変換回路230は、例えば、ダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)によって実現することができる。
【0111】
図12に示す原子発振器100Dにおけるその他の構成は、図5に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0112】
なお、半導体レーザー110、原子セル120、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、原子セル20、光検出手段30に対応する。また、検波回路140、低周波発振器150、電流駆動回路160、検波回路170、低周波発振器180、検波用変調回路190、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路410で構成される回路は、図1の制御手段40に対応する。また、第1変調周波数発生回路200、第2変調周波数発生回路410、周波数変換回路230は、それぞれ図1の第1の変調周波数発生手段42、第2の変調周波数発生手段44、周波数変換手段46に対応する。
【0113】
このような構成の原子発振器100Dによれば、第2変調周波数fm2が固定されているので、アルカリ金属原子がEIT現象を起こすように第1変調周波数fm1が微調整され、第1変調周波数fm1が所望の周波数に変換されて出力される。従って、第3実施形態によれば、所望の周波数を得るために、第1変調周波数fm1、第2変調周波数fm2、周波数変換回路230の周波数変換率の組み合わせをある程度自由に選択できるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0114】
また、例えば、照射光1と照射光2が図2(A)及び図2(B)に示した関係にあり、アルカリ金属原子がセシウム原子である場合、第2変調信号の周波数(第2変調周波数fm2)が10MHzに対して±1kHz(±100ppm)の範囲で変動するなら、第1変調信号の周波数(第1変調周波数fm1)は4.606315・・・GHzに対して±1kHz(±1ppm未満)で変動する。従って、周波数変換回路230の周波数変換率を(10MHz/4.606315・・・GHz)に設定すれば、10MHzに対して±1ppm未満の周波数精度の出力信号が得られる。すなわち、第2変調信号の周波数精度(±100ppm)に対して、その100倍以上の周波数精度の出力信号が得られることになる。
【0115】
このように、第3実施形態の原子発振器によれば、アルカリ金属原子のEIT現象を利用することで出力信号の周波数精度を大幅に向上させることができる。
【0116】
また、第3実施形態の原子発振器において、第2変調周波数発生回路410を、例えば電圧制御水晶発振器(VCXO)によって実現すれば、第2変調周波数が変更可能になり、周波数変換回路230の出力信号は第2変調周波数に応じた周波数になる。すなわち、出力周波数が可変な原子発振器を実現することができる。
【0117】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0118】
例えば、第1実施形態やその変形例の原子発振器では、第2変調周波数発生回路210は、ダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)によって実現しているが、PLLによって実現することもできる。
【0119】
また、例えば、第2実施形態の原子発振器では、第1変調周波数発生回路300は、PLLによって実現しているが、逓倍機能付きのダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS)によって実現することもできる。
【0120】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0121】
1 原子発振器、10 光源、20 原子セル、30 光検出手段、40 制御手段、42 第1の変調周波数発生手段、44 第2の変調周波数発生手段、46 周波数変換手段、100A〜100D 原子発振器、110 半導体レーザー、120 原子セル、130 光検出器、140 検波回路、150 低周波発振器、160 電流駆動回路、170 検波回路、180 低周波発振器、190 検波用変調回路、200 第1変調周波数発生回路、210 第2変調周波数発生回路、211 周波数設定部、212 アドレス演算部、213 波形メモリー、214 D/A変換器、215 ローパスフィルター、220 電気光学変調器(EOM)、230 周波数変換回路、300 第1変調周波数発生回路、301 分周器、302 位相比較器、303 ループフィルター、304 電圧制御発振器(VCO)、305 分周器、310 第2変調周波数発生回路、410 第2変調周波数発生回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、
中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる光源と、
前記アルカリ金属原子を透過した前記第1の光及び前記第2の光を含む光の強度を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記第1の光の所定の周波数成分と前記第2の光の所定の周波数成分の周波数差が前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する制御手段と、を含み、
前記第1の光の中心周波数f1と前記第2の光の中心周波数f2の周波数差は、前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と異なる、原子発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、
前記光検出手段の検出結果に基づいて、第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、
第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、を含み、
前記光源は、
前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させる、原子発振器。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2の変調周波数発生手段は、
前記第1の信号を周波数変換して前記第2の信号を発生させる、原子発振器。
【請求項4】
請求項2において、
前記第2の変調周波数発生手段は、
前記第1の信号から独立して前記第2の変調周波数fm2で発振する、原子発振器。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の信号を周波数変換して所定の周波数の信号を発生させる周波数変換手段を含む、原子発振器。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御手段は、
前記光検出手段の検出結果に基づいて、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、
前記第2の信号を周波数変換して第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、を含み、
前記光源は、
前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させる、原子発振器。
【請求項1】
アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、
中心周波数をf1として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第1の光と、中心周波数をf2として周波数がΔfずつ異なる複数の周波数成分を有する第2の光と、を発生させる光源と、
前記アルカリ金属原子を透過した前記第1の光及び前記第2の光を含む光の強度を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記第1の光の所定の周波数成分と前記第2の光の所定の周波数成分の周波数差が前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する制御手段と、を含み、
前記第1の光の中心周波数f1と前記第2の光の中心周波数f2の周波数差は、前記アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と異なる、原子発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、
前記光検出手段の検出結果に基づいて、第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、
第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、を含み、
前記光源は、
前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させる、原子発振器。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2の変調周波数発生手段は、
前記第1の信号を周波数変換して前記第2の信号を発生させる、原子発振器。
【請求項4】
請求項2において、
前記第2の変調周波数発生手段は、
前記第1の信号から独立して前記第2の変調周波数fm2で発振する、原子発振器。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の信号を周波数変換して所定の周波数の信号を発生させる周波数変換手段を含む、原子発振器。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御手段は、
前記光検出手段の検出結果に基づいて、第2の変調周波数fm2を有する第2の信号を発生させる第2の変調周波数発生手段と、
前記第2の信号を周波数変換して第1の変調周波数fm1を有する第1の信号を発生させる第1の変調周波数発生手段と、を含み、
前記光源は、
前記第1の信号及び前記第2の信号に基づいて所定の周波数f0の信号を変調し、f1=f0+fm1及びf2=f0−fm1、かつ、Δf=fm2となる前記第1の光及び前記第2の光を発生させる、原子発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−108678(P2011−108678A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258872(P2009−258872)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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