説明

原着アラミド繊維

【課題】高温耐光及び火炎や輻射熱等の高温変退色に優れた赤色系原着共重合パラ型アラミド繊維を提供すること、更にそれを用いた軽量で、高強力、高耐光性のある布帛およびそれらからなる衣服、消防服、耐熱性作業服、防護具等を提供することにある。
【解決手段】共重合パラ型アラミド繊維を原着する際に、500℃以上の耐熱性を有する酸化鉄を用いることによって赤色原着共重合パラ型アラミド繊維を得、さらにそれを用いた火炎や輻射熱等の高温変退色、高強力、耐薬品性、耐光堅牢度、洗濯堅牢度にすぐれた赤色もしくは橙色の耐熱布帛、防護衣、防護具とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色もしくは橙色原着パラ型アラミド繊維からなる布帛およびそれらからなる衣服、特に消防衣服、防護衣、防護具に関する。
【背景技術】
【0002】
共重合パラ型アラミド繊維は優れた力学特性、高強度、高弾性率、高耐熱性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維である。これらの特長から、自動車や自動二輪、および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ等の補強材料として用いられている。また、光ファイバーケーブルの補強やロープにも利用されている。さらに衣料分野において、防弾チョッキや、刃物に対してきれにくい性質を利用した作業用手袋や、作業服などの防護衣料及びスポーツ衣料、また燃え難さを利用した消防服への応用、など機能性衣料への応用が行われ、各方面に用途を展開している。
【0003】
これまでも上記用途、特に衣料分野では、着色が必要とされるが、繊維化後染料を用いて染色する後染色法と紡糸原液に顔料を添加して繊維化する原着法の2つが一般的に用いられている。
【0004】
特に共重合パラ型ポリアミド繊維については後染色法を適用しようとすると、分子鎖が剛直でありかつ高い結晶性を有し分子が動きにくいため、染料分子をポリアミド分子内に拡散させることがきわめて困難であり、後染色法では満足な発色はもちろんのこと染着させることすら困難である。その対策としてパラ系アラミド繊維の染色方法については特開2005−325471号公報に、特定の電解質化合物の存在下で染色することが提案されている。確かに染色性は向上するものの、染色したパラ型アラミド繊維は、原着のものと比較して強度低下するという点や、また特に消防服、耐火服等の高温下で多量の水にさらされるような用途では摩擦堅牢度、耐光堅牢度、洗濯堅牢度も劣るという問題点があった。
【0005】
顔料を添加して着色する原着法に関しては、特開平2−169736号公報では特定の耐候性の良好な着色剤を含有する原着ポリアミド繊維が開示されている。しかしながら消防服や耐火服のような数100℃以上の高温にさらされる用途の場合、いくら耐候性がよくても耐熱性がなければ火炎や輻射熱等の高温下で容易に変退色してしまうという問題がある。
【0006】
又特開平8−165453号公報には、ポリアミド繊維着色用顔料としては、例えばアゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系などの有機顔料、カーボンブラック、群青、ベンガラ、酸化チタンなどの無機顔料を挙げることができるとあるが、やはり消防衣服等では耐熱性の問題が有り、数100℃以上の火炎や輻射熱等の高温下での変退色については何ら対策を示唆するものではない。
【0007】
又特開平1−139814号公報には、全芳香族ポリアミド繊維に400℃、15秒暴露にたえる耐熱性のある顔料を練り込むことにより、発色性、耐熱性、高温時の形態安定性や耐光性が向上することを示しているが、消防や耐火用途では更に高温長時間にさらされるため開示している顔料では火炎や輻射熱等の高温下で変退色するという問題点があった。
【0008】
【特許文献1】特開2005−325471号公報
【特許文献2】特開平2−169736号公報
【特許文献3】特開平8−165453号公報
【特許文献4】特開平1−139814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、数100℃以上の火炎や輻射熱等の高温下での変退色に優れた赤色系原着共重合パラ型アラミド繊維を提供すること、更にそれを用いた軽量で、高強力、高耐光性のある布帛およびそれらからなる衣服、消防服、耐熱性作業服、防護具等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
共重合パラ型アラミド繊維を赤色系に原着する際に、顔料として耐熱性に優れた酸化鉄を用いることにより、目的の火炎や輻射熱等の高温変退色に優れ、高強力、耐薬品性、耐光堅牢度、洗濯堅牢度にすぐれた赤色もしくは橙色の原着アラミド繊維及びそれを含む耐熱布帛、及びそれを用いた消防服等の防護衣、防護具とする。
【発明の効果】
【0011】
赤色系顔料として、500℃以上の耐熱性に優れた酸化鉄を用いることによって、火炎や輻射熱等の高温変退色、高温耐光性にも優れ、且つ高強力、耐薬品性、耐光堅牢度、洗濯堅牢度に優れた原着共重合パラ型アラミド繊維を提供でき、それからなる赤色系布帛、衣服、耐熱性作業服、防護具とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の共重合パラ型アラミド繊維は下記式に示すコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維である。
【0013】
【化1】

【0014】
本発明に使用する赤色顔料としては500℃以上の耐熱性を持つ一次粒子径50〜500nmの酸化鉄を使用することが必要である。該顔料を上述の共重合パラ型アラミド繊維に用いる時に火炎や輻射熱等の高温変退色(後述するサーマルマネキンテスト評価法)、高温耐光堅牢度、洗濯堅牢度を満たすことが出来ることを見出し本発明を完成した。
【0015】
使用する酸化鉄の粒子径は50nm未満では表面エネルギーが高いため、凝集を起こしやすく、また、500nmを超える場合は繊維中で粗大凝集物となりやすく、欠陥異物となり単糸切れによる毛羽や断糸の原因になり好ましくない。
【0016】
顔料はコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドポリマー溶液(ドープと称す)と同一溶媒のスラリーの状態でドープに圧入添加、混練することにより繊維の機械的物性を損なうことなく原着共重合パラ系アラミド繊維を得ることができる。顔料の添加はポリマーと溶媒とで予めマスターバッチを作成し目的の色目に応じて適量添加する方法が好ましい。
【0017】
繊度としては0.5〜50dtexの範囲が好ましく0.5未満では添加粒子が糸欠陥となり製糸性が不安定となる。50を超える場合は製糸工程で比表面積が小さいので、凝固が不完全になりやすく、その結果紡糸や延伸工程で工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすいため好ましくない。
【0018】
強度は25cN/dtexが好ましく、25cN/dtex未満では高強度繊維としてのアラミド繊維の特徴が不足する。
伸度は3.5%以上が好ましく、3.5%未満では、撚糸して使用する際に撚り歪が大きくなり、強力利用率が低下する、また、紡績、布帛として使用した際に柔軟性が低下する要因となりうる。
初期20%モジュラスは450cN/dtex以上が好ましく、450cN/dtex未満では高モジュラス繊維としては好ましくない。
【0019】
また、布帛を構成する際には、本発明の共重合パラ型アラミド繊維を50%以上含む必要があり、50%未満では強度3000N/5cm以上、又火炎や輻射熱等の高温変退色や後述するフェードメーター20時間照射での耐光堅牢度3級以上は得られない。
【0020】
本発明の共重合パラ型アラミド繊維と混合する繊維は赤色に原着された、もしくは染色されたパラ型アラミド繊維、メタ型アラミド繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃レーヨン繊維、難燃ビニロン繊維、難燃ウール繊維の少なくとも1種以上であることが好ましく、火炎や輻射熱等の高温変退色、耐光堅牢度、洗濯堅牢度、耐薬品性に優れた赤色、橙色の布帛を得ることができる。
【0021】
混合する方法としては、本発明の共重合パラ型アラミド繊維を短繊維化後上記の繊維と適量混合し混紡糸とした後、織編み加工し布帛とすることが好ましい。
また該布帛の目付けは120〜300g/mの範囲にあるものを使用することが軽量で着用感の点で望ましい。該目付けが120g/m未満の場合は、十分な強度、耐熱性が得られない。また、該目付けが300g/mを超える場合には重くなり、着用感が阻害されているので好ましくない。
【0022】
布帛の強度は3000N/5cm以上が好ましく、3000N/5cm未満ではアラミド繊維を用いた防護衣料として、十分な強度でないため、好ましくない。
上述の布帛は常法により裁断、縫製し衣服とする。撥水や撥油などの防汚性を高めるために表面に皮膜を形成させたり、耐火性、熱防護性を高めるために上記布帛を用いた表地層と内層から構成して二枚嵩ね等することも好ましい。
【実施例】
【0023】
以下本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は書きの方法により測定した。
(1)繊度 強伸度 モジュラス
JIS L 1013法に準じて測定した。
(2)織物引張強力
JIS L 1096 A法に準じて測定した。
(3)洗濯堅牢度
JIS L 0217に準拠し、繊維を布帛とし洗濯を行い、堅牢度を測定した。
(4)高温耐光堅牢度
JIS L 0842法に準拠し、繊維を布帛とし63℃、20時間照射を行った。
(5)火炎及び輻射熱の高温変退色(サーマルマネキンテスト)
得られた繊維を公知の方法で製織、布帛とし、裁断、縫製した消防服をサーマルマネキンに着用させ、熱量84KW/m、8秒間火炎暴露した後の変退色を目視で下記の通り判定した。
1級 変退色激しい
2級 変退色大
3級 やや変退色見られる
4級 変退色あるが問題なし
5級 全く変退色なし
【0024】
[実施例1]
コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド樹脂(帝人テクノプロダクツ(株)製)のN−メチル−2ピロリドン(NMPと略称)溶媒の94%溶液に、酸化鉄として、100ED(戸田工業株式会社製)を顔料成分として樹脂重量に対して5重量%含有するように添加し、湿式紡糸延伸し、単糸繊度が1.67dtex、強度が24.1cN/dtex、伸度が4.49%、20%モジュラスが508cN/dtexの赤色原着短繊維を得た。次に該繊維と赤色のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製、商標名:コーネックス 以下メタ型アラミド繊維と略称)とを混合比率が60:40となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(20/2)を用いて2/1綾織に織成した織物を(目付け200g/m)を作成し、公知の方法で精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。得られた布帛の高温耐光堅牢度は3−4級、引張強力は3200N/5cm、洗濯堅牢度4級であった。特に高温耐光堅牢度が良好であった。次に得られた布帛を公知の方法により裁断、縫製し消防服を作成した。火炎及び輻射熱の高温変退色を測定したが変退色は少なくサーマルマネキンテストで4級であった。
【0025】
[比較例1]
実施例1で、パーマネントレッド2B(大日精化工業株式会社製、セイカファスト・シリーズ)を添加した以外は同様の方法で行った。有機顔料であるため、製糸段階での高温に耐えられず、赤色の発色がでない。また、得られた布帛の耐光堅牢度は2級、引張強度は3100N/5cm、洗濯堅牢度は2級であった。特に高温での耐光堅牢度が実施例と比べ低下した。次に布帛を実施例1と同様に裁断、縫製し消防服を作成した。火炎及び輻射熱の高温変退色を測定したが変色及び退色が見られサーマルマネキンテストで2級であった。
【0026】
[比較例2]
顔料を添加しないだけで実施例1と同様に繊維化した共重合パラ型アラミド繊維を特開2004−143606に示される方法で染色し、赤色メタ型アラミド繊維との混合比率が60:40となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(20/2)を用いて2/1綾織に織成した織物を(目付け200g/m)を作成し、公知の方法で精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。得られた布帛の耐光堅牢度は1−2級、引張強力は2400N/5cm、洗濯堅牢度3級となった。耐光堅牢度、洗濯堅牢度共に満足するものではなかった。又衣服とした時の火炎及び輻射熱の高温変退色は退色し不良であった。サーマルマネキンテストで1級であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
数100℃以上の火炎輻射熱等の高温下での変退色に優れる赤色系原着共重合パラ型アラミド繊維を用いることで、高強力、耐摩耗性、耐光堅牢度、洗濯堅牢度を満足するカラーバリエーションに富む耐熱布帛、それを用いた消防服、耐火服、防護衣、防護具とすることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色系顔料として、一次粒子径50〜500nmである酸化鉄を繊維全体の重量に対し0.01〜15wt%含有し、単糸繊度が0.5〜50dtex、強度が25cN/dtex以上、伸度が3.5%以上、20%モジュラスが450cN/dtex以上であり、サーマルマネキンテスト3級以上、高温耐光堅牢度3級以上、洗濯堅牢度4級以上であることを特徴とする原着共重合パラ型アラミド繊維。
【請求項2】
赤色系顔料として、一次粒子径50〜500nmである酸化鉄を繊維全体の重量に対し0.01〜15wt%含有し、単糸繊度が0.5〜50dtex、強度が25cN/dtex以上、伸度が3.5%以上、20%モジュラスが450cN/dtex以上である原着共重合パラ型アラミド繊維を、布帛全体の重量に対して50%以上含み、強度が3000N/5cm以上、サーマルマネキンテスト3級以上、高温耐光堅牢度3級以上、洗濯堅牢度4級以上であることを特徴とする布帛。
【請求項3】
赤色系顔料として、一次粒子径50〜500nmである酸化鉄を繊維全体の重量に対し0.01〜15wt%含有し、単糸繊度が0.5〜50dtex、強度が25cN/dtex以上、伸度が3.5%以上、20%モジュラスが450cN/dtex以上である原着共重合パラ型アラミド繊維を布帛全体の重量に対して50%以上含み、強度が3000N/5cm以上、サーマルマネキンテスト3級以上、高温耐光堅牢度3級以上、洗濯堅牢度4級以上である布帛を含むことを特徴とする消防服、耐熱性作業服及び防護具。

【公開番号】特開2008−280622(P2008−280622A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123309(P2007−123309)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】