説明

双方向定圧膨張弁

【課題】従来より低コスト化が可能な双方向定圧膨張弁を提供する。
【解決手段】本発明の双方向定圧膨張弁10によれば、下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。そして、従来の双方向定圧膨張弁で感圧部材として用いられていたベローズ4に代えてダイヤフラム34を用いたので、従来より低コスト化が可能になる。また、各弁口16A,16Bの弁開度を変更するためのダイヤフラム34を各弁口16A,16B毎に別々に備えたので、室内熱交換器92A側の弁口16Bの冷媒圧力に対する弁開度の特性と、室外熱交換器91A側の弁口16Aの冷媒圧力に対する弁開度の特性とを、それぞれ別々に適した特性に設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ回路の室外熱交換器と室内熱交換器の間に接続されて冷媒が双方向に流され、下流側の冷媒圧力を一定にすることが可能な双方向定圧膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示した従来の双方向定圧膨張弁は、冷媒が流される流路1の軸方向に1対のボール弁機構2,2を有すると共に、それらボール弁機構2,2の間に可動体3を直動可能に備えている。可動体3は、その直動方向に延びたベローズ4と、そのベローズ4の挫屈を規制しかつベローズ4を伸縮可能に支持した直動支持機構5とを備えている。直動支持機構5は、ベローズ4の両端に固定された可動盤5A,5Aから支持突部5B,5Bを互いに接近するように延ばし、それら支持突部5B,5Bに支持ピン5Cを貫通させて、支持突部5B,5Bの相対的な傾きを規制しつつ支持突部5B,5B同士が相互に直動可能な構造になっている。
【0003】
可動体3の両端部からは各ボール弁機構2,2に向かって1対の押圧シャフト6,6が延びており、各押圧シャフト6,6がベローズ4の伸縮度に応じた押圧力で各ボール弁機構2,2のボール2A,2Aを押圧して、各ボール弁機構2の弁開度を調節する。即ち、冷媒が例えば図6における左から右に向かって流れると、可動体3が下流側に移動して流路1内の壁部に当接し、一方の押圧シャフト6が下流側(同図の右側)のボール弁機構2を開弁状態に保持する。この結果、ベローズ4にボール弁機構2の下流側の冷媒圧力がかかり、他方の押圧シャフト6がベローズ4の弾発力に応じた押圧力で上流側(同図の左側)のボール弁機構2のボール2Aを押圧する。これにより、上流側のボール弁機構2が下流側の冷媒圧力に応じた弁開度になり、下流側の冷媒を一定圧力にすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3418271号公報(段落[0024]〜[0028]、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の双方向定圧膨張弁では、感圧部材としてベローズ4を用いていたので高価になっていた。そこで、ベローズより安価な感圧部材であるダイヤフラムを用いた双方向定圧膨張弁の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より低コスト化が可能な双方向定圧膨張弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る双方向定圧膨張弁(10)は、ヒートポンプ回路(90)の室内熱交換器(92A)と室外熱交換器(91A)との間に接続されて冷媒が双方向に流され、下流側の冷媒圧力を一定にすることが可能な双方向定圧膨張弁(10)において、冷媒の流路(11)を内部に有したボディ(10B)と、ボディ(10B)に設けられて、流路(11)を一端側領域(R1)と中間領域(R3)と他端側領域(R2)とに区画する1対の対向壁(13)と、1対の対向壁(13)に貫通形成されて、略同軸上に配置された1対の弁口(16A,16B)と、一端側領域(R1)内及び他端側領域(R2)内にそれぞれ配置されて、各弁口(16A,16B)を開閉する1対の弁体(19)と、各弁体(19)を弁口(16A,16B)側に付勢する1対の弁体付勢ばね(17)と、中間領域(R3)に収容されて1対の対向壁(13)の対向方向に延びかつ、それら1対の対向壁(13)の間で直動可能な中間筒体(31)と、中間筒体(31)の両端を閉塞し、中間領域(R3)の内部圧力に応じて変形する1対のダイヤフラム(34)と、1対の弁口(16A,16B)にそれぞれ遊嵌されて弁体(19)とダイヤフラム(34)との間で突っ張り状態になり、ダイヤフラム(34)の変形量に応じて弁体(19)を移動して弁口(16A,16B)の弁開度を変更する1対の当接シャフト(37)とを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明に係る双方向定圧膨張弁(10)は、ヒートポンプ回路(90)の室内熱交換器(92A)と室外熱交換器(91A)との間に接続されて冷媒が双方向に流され、下流側の冷媒圧力を一定にすることが可能な双方向定圧膨張弁(10)において、冷媒の流路(11)を内部に有したボディ(10B)と、ボディ(10B)に設けられて、流路(11)を一端側領域(R1)と中間領域(R3)と他端側領域(R2)とに区画する1対の対向壁(13)と、1対の対向壁(13)に貫通形成されて、略同軸上に配置された1対の弁口(16A,16B)と、一端側領域(R1)内及び他端側領域(R2)内にそれぞれ配置されて、各弁口(16A,16B)を開閉する1対の弁体(19)と、各弁体(19)を弁口(16A,16B)側に付勢する1対の弁体付勢ばね(17)と、1対の対向壁(13)の対向方向に延びかつボディ(10B)に固定された中間筒体(31)と、中間筒体(31)の両端を閉塞し、中間領域(R3)の内部圧力に応じて変形する1対のダイヤフラム(34)と、1対の弁口(16A,16B)にそれぞれ遊嵌されて弁体(19)とダイヤフラム(34)との間で突っ張り状態になり、ダイヤフラム(34)の変形量に応じて弁体(19)を移動して弁口(16A,16B)の弁開度を変更する1対の当接シャフト(37)とを備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の双方向定圧膨張弁(10)において、1対のダイヤフラム(34)の弾性係数を異ならせたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の双方向定圧膨張弁(10)において、中間筒体(31)の内面における軸方向の中間部分に、ばね係止壁(31A)を突出形成し、ばね係止壁(31A)と両方のダイヤフラム(34)との間に1対の感圧補助ばね(32)を突っ張り状態にして設けたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の双方向定圧膨張弁(10)において、1対の感圧補助ばね(32)の弾性係数を異ならせたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の双方向定圧膨張弁(10)において、一方の弁口(16A)と当接シャフト(37)との隙間の開口面積を、他方の弁口(16B)と当接シャフト(37)との隙間の開口面積より広くしたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の双方向定圧膨張弁(10)によれば、ヒートポンプ回路(90)を冷房運転と暖房運転との何れか一方にして、冷媒が一端側領域(R1)、中間領域(R3)、他端側領域(R2)の順番に流れると、中間筒体(31)は冷媒に押されて他端側領域(R2)側に移動する。すると、一端側領域(R1)側の弁体(19)が弁口(16A)に接近する一方、他端側領域(R2)側の弁体(19)は、弁口(16B)から離され、各弁体(19)と各ダイヤフラム(34)との間で当接シャフト(37)が突っ張り状態になる。
【0013】
この状態で、中間領域(R3)内の冷媒圧力に応じてダイヤフラム(34)が変形すると、その変形に伴って各弁体(19)の弁口(16A,16B)に対する位置が変化して弁開度が所定の範囲で変わる。ここで、下流に位置した他端側領域(R2)の弁体(19)は弁口(16B)から離されて弁開度が大きくなっているので、その弁開度が所定の範囲で変化しても流量及び冷媒圧力への影響は小さい。これに対し、上流に位置した一端側領域(R1)の弁体(19)は弁口(16A)に接近して弁開度が小さくなっているので、その弁開度が所定の範囲で変化した場合の流量及び冷媒圧力への影響は大きい。そして、中間領域(R3)内の冷媒圧力が比較的大きくなると、弁体(19)が弁口(16A)に近づき、一端側領域(R1)の弁口(16A)を通過する冷媒の流量が絞られて、中間領域(R3)内の冷媒圧力が下がる。これとは逆に、中間領域(R3)内の冷媒圧力が比較的小さくなると、一端側領域(R1)側の弁口(16A)の弁開度が大きくなり、一端側領域(R1)の弁口(16A)を通過する冷媒の流量が増加して、中間領域(R3)内の冷媒圧力が上がる。これらにより、その弁口(16A)より下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。また、ヒートポンプ回路(90)を冷暖房を切り替えると、冷媒が流れる方向が逆転し、上記した場合と同様に、上流に位置した他端側領域(R2)側の弁口(16B)の弁開度が、中間領域(R3)の冷媒圧力に応じて変化し、その弁口(16B)より下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。
【0014】
また、請求項2の双方向定圧膨張弁(10)によれば、冷媒が一端側領域(R1)、中間領域(R3)、他端側領域(R2)の順番に流れると、上流側に位置した一端側領域(R1)の弁体(19)は、冷媒の流体圧力に押されて弁口(16A)に接近し、弁体(19)とダイヤフラム(34)との間で当接シャフト(37)が突っ張り状態になる。一方、下流側に位置した他端側領域(R2)の弁体(19)は、冷媒の流体圧力に押されて弁口(16B)及び当接シャフト(37)から離れ、その弁口(16B)を冷媒が比較的自由に流れる状態なる。これにより、請求項1の双方向定圧膨張弁(10)と同様にし、上流側の弁口(16A,16B)の弁開度が中間領域(R3)の冷媒圧力に応じて変化し、下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。
【0015】
このように、請求項1及び2の双方向定圧膨張弁(10)によれば、下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。そして、従来の双方向定圧膨張弁で感圧部材として用いられていたベローズ(4)に代えてダイヤフラム(34)を用いたので、従来より低コスト化が可能になる。また、請求項2の構成によれば、可動感圧体30がボディ(10B)に固定されているので性能が安定し、耐久性にも優れる。さらに、請求項1及び2の双方向定圧膨張弁(10)は、各弁口(16A,16B)の弁開度を変更するためのダイヤフラム(34)を各弁口(16A,16B)毎に別々に備えているので、室内熱交換器(92A)側の弁口(16B)の冷媒圧力に対する弁開度の特性と、室外熱交換器(91A)側の弁口(16A)の冷媒圧力に対する弁開度の特性とを、それぞれ別々に適した特性に設定することができる。
【0016】
具体的には、請求項3の双方向定圧膨張弁(10)のように、1対のダイヤフラム(34)の弾性係数を異ならせて、冷媒圧力及び冷媒流量が異なる冷房運転時と暖房運転時のそれぞれにおいて冷媒の圧力と流量を制御可能な最適な弁のリフト特性を得ることができる。
【0017】
また、請求項4の双方向定圧膨張弁(10)のように、各ダイヤフラム(34)毎に感圧補助ばね(32)を別々に設けて、ダイヤフラム(34)と感圧補助ばね(32)とを合わせた弾発力によって弁体(19)を作動させてもよい。そして、この場合、請求項5の発明のように、1対の感圧補助ばね(32)の弾性係数を異ならせることで、最適な弁のリフト特性を得ることができる。
【0018】
さらに、請求項6の双方向定圧膨張弁(10)のように、一方の弁口(16A)と当接シャフト(37)との隙間の開口面積を、他方の弁口(16B)と当接シャフト(37)との隙間の開口面積より広くしてもよい。これにより、暖房冷房の何れか一方の運転時における下流側の冷媒圧力が、他方の運転時における下流側の冷媒圧力より大きくなり、冷房運転時と暖房運転時のそれぞれで最適な温度及び圧力に制御された冷媒を室外及び室内の熱交換器(91A,92A)に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1に示された本実施形態の双方向定圧膨張弁10のボディ10Bは、パイプ部材12の内部に1対の対向壁13,13を備えてなる。パイプ部材12は、例えば、断面円形をなして真っ直ぐ延びており、両端寄り位置でテーパー状に縮径され、中間部分より両端部の径が小さくなっている。
【0020】
1対の対向壁13,13は、パイプ部材12と別部品になっている。一方の対向壁13(図1の上側の対向壁13)の外縁部からは、他方の対向壁13に向けて円筒壁13Aが突出している。そして、他方の対向壁13には、一端部を縮径して嵌合部13Bが形成され、その嵌合部13Bを円筒壁13Aの内部に嵌合して対向壁13,13同士が互いに芯だしされている。また、円筒壁13Aの先端面が他方の対向壁13の段差部分に突き当てられて、対向壁13,13同士の間隔が一定の大きさになるように位置決めされている。
【0021】
各対向壁13の外周面には係止溝13Cが全周に亘って形成されている。これに対応して、パイプ部材12の中間部分における軸方向の2箇所には、パイプ部材12の一部を周方向全体に亘って内側に屈曲させて1対の突条12T,12Tが形成され、これら突条12Tが各対向壁13の係止溝13C内に係合している。そして、対向壁13,13がパイプ部材12内に位置決め固定されると共に、対向壁13,13の外周面とパイプ部材12の内周面との隙間が塞がれている。これにより、パイプ部材12内の流路11が1対の対向壁13,13にて一端側領域R1と中間領域R3と他端側領域R2とに区画されている。
【0022】
対向壁13,13の中心部には、弁口16A,16Bが形成されている。これら弁口16A,16Bは、開口形状が共に円形になっており、互いに同軸上に配置されている。そして、これら弁口16A,16Bを通して冷媒が一端側領域R1と中間領域R3との間、中間領域R3と他端側領域R2との間を流れる。また、一方の弁口16Aにおける一端側領域R1側の開口縁及び他方の弁口16Bにおける他端側領域R2側の開口縁には、テーパー状の弁座16Zが形成されている。
【0023】
中間領域R3内には、可動感圧体30が収容されている。図2に示すように、可動感圧体30は、1対の対向壁13,13の間に延びかつ、弁口16A,16Bと同心上に配置された円筒状の中間筒体31を備えている。中間筒体31の両端開口縁からは側方にフランジ部31Fが張り出されている。中間筒体31の両端部と各対向壁13との間には、ダイヤフラム固定盤35が備えられている。ダイヤフラム固定盤35は、一端有底の扁平円筒形状をなし、扁平円筒壁部35Dの一端開口縁から側方にフランジ部35Fが張り出している。このフランジ部35Fは中間筒体31のフランジ部31Fと同形状をなし、これらフランジ部31F,35Fの間にダイヤフラム34の外縁部を挟み、両フランジ部31F,35F及びダイヤフラム34が溶接されている。
【0024】
各対向壁13,13には、可動感圧体30の両端部に対応して嵌合凹部13Dがそれぞれ陥没形成されている。また、一方の嵌合凹部13Dの奥面と他方の嵌合凹部13Dの奥面との間の距離は、可動感圧体30におけるダイヤフラム固定盤35,35の端面間の距離より大きくなっている。そして、両ダイヤフラム固定盤35,35の端部が嵌合凹部13D,13D内に嵌合した状態に保持され、可動感圧体30が対向壁13,13の間を直動する。さらに、嵌合凹部13Dの奥面には、冷媒通過溝16Cが形成されている。冷媒通過溝16Cの一端は弁口16A(16B)に連通し、冷媒通過溝16Cの他端は嵌合凹部13Dの側方を通過して中間領域R3に開放している。これにより、可動感圧体30の位置に拘わらず中間領域R3が弁口16A,16Bに常時連通している。
【0025】
ダイヤフラム固定盤35の底壁35Bにおける中心部には、シャフト挿通孔35Cが貫通形成されている。また、ダイヤフラム固定盤35の開口縁からダイヤフラム34に向けて筒状の過度変形防止部35Tが突出している。そして、過度変形防止部35Tの先端面がダイヤフラム34の中心部分に突き合わされて、ダイヤフラム34におけるダイヤフラム固定盤35側への過度の変形を防止している。
【0026】
ダイヤフラム34の外面のうち過度変形防止部35Tに囲まれた中心部からは、当接シャフト37がそれぞれ起立しており、それら当接シャフト37が過度変形防止部35T及び弁口16A,16Bに挿通して後述する球状の弁体19に突き合わされている。
【0027】
ダイヤフラム固定盤35の扁平円筒壁部35Dのうち、常に嵌合凹部13Dの外側に位置する部分には、複数の冷媒通過孔36が貫通形成されている。そして、冷媒通過孔36を通してダイヤフラム固定盤35の内外に冷媒が出入りして冷媒圧力がダイヤフラム34の外面に付与される。
【0028】
中間筒体31は、内部を真空や大気圧等の一定圧力に保つようになっている。また、中間筒体31における軸方向の中間部分には、内周面全体からばね係止壁31Aが突出形成されている。また、ダイヤフラム34の内面にはインナー支持盤33が宛がわれている。そして、中間筒体31の内部には、ばね係止壁31Aと両方のダイヤフラム34,34との間に1対の感圧補助ばね32が突っ張り状態にして備えられている。ここで、本実施形態では、両感圧補助ばね32,32の間では弾性係数が異なっている。具体的には、一端側領域R1寄りの感圧補助ばね32の弾性係数の方が、反対側の感圧補助ばね32の弾性係数より大きくなっている。
【0029】
インナー支持盤33は、中心部がダイヤフラム34に向かって突出しており、その突出部分の先端面のみがダイヤフラム34に当接している。また、インナー支持盤33の外縁部は中間筒体31の内面に形成された段差部31Dに隙間を介して対向している。そして、ダイヤフラム34が中間筒体31の奥側に所定量まで撓んだ際に、インナー支持盤33と段差部31Dとが当接して、ダイヤフラム34の過度変形を防止する。
【0030】
図1に示すように、各対向壁13,13には、中間領域R3内との反対面に端部筒壁14が突出形成されている。端部筒壁14の内面のうち先端寄り部分には、雌螺子部14Aが形成され、ここにナット15が螺合している。ナット15の中心部には貫通孔15Aが形成され、端部筒壁14の内部空間と一端側領域R1又は他端側領域R2とが連通している。
【0031】
各ナット15と各弁座16Zとの間には、ナット15側から順番に、弁体付勢ばね17、押圧部材18、球状の弁体19が収容されている。押圧部材18は、全体として円柱形状をなし、一端部を段付き状に拡径し、さらにその大径側の端面に球受凹部18Aを陥没形成した構造になっている。弁体付勢ばね17の一端部は、ナット15における貫通孔15Aの開口縁に突き当てられかつその開口縁から突出した環状突部(図示せず)によって芯だしされる一方、弁体付勢ばね17の他端部は、押圧部材18の小径部分に嵌合されている。そして、押圧部材18の球受凹部18Aにおける円錐形内面に弁体19が当接し、弁体付勢ばね17の弾発力によって弁体19を弁口16A,16B側に付勢している。
【0032】
本実施形態に係る双方向定圧膨張弁10の構成の説明は以上であり、次に、この双方向定圧膨張弁10を、図4に示したヒートポンプ回路90に組み付けた場合の動作について以下説明する。このヒートポンプ回路90は、例えば、一般家庭用のルームエアコンに備えられている。ヒートポンプ回路90には室外熱交換器91Aと室内熱交換器92Aとが備えられ、その室外熱交換器91Aは、ルームエアコンの室外機91に組み込まれる一方、室内熱交換器92Aは室内機92に組み込まれている。そして、1対の管路96A,96Bによってこれら室外熱交換器91Aと室内熱交換器92Aとの間が接続されて、室外熱交換器91A及び室内熱交換器92Aを含む冷媒循環路96が形成され、冷媒がこれら室外熱交換器91A及び室内熱交換器92Aを通過して冷媒循環路96を循環する。そして、冷媒が室外熱交換器91Aを通過する際に冷媒と外気との間で熱交換が行われ、冷媒が室内熱交換器92Aを通過する際に冷媒と室内の空気との間で熱交換が行われる。
【0033】
本実施形態の双方向定圧膨張弁10は、室外機91内に組み付けられると共に、室外熱交換器91Aと室内熱交換器92Aとの間を連絡する一方の管路96Aの途中に接続されている。そして、ボディ10Bのうち図1の上側に示した一端側領域R1が室外熱交換器91Aに常時連通する一方、図1の下側に示した他端側領域R2が室内熱交換器92Aに常時連通した状態になっている。また、室外機91側では、他方の管路96Bの途中に四方弁93を介して圧縮機94が接続されている。そして、ヒートポンプ回路90を冷房運転と暖房運転とに切り替えると、四方弁93が作動して、冷媒循環路96を流れる冷媒の向きが逆転する。
【0034】
さて、ヒートポンプ回路90の冷房運転時には、一方の管路96Aにおいては、冷媒が室内熱交換器92Aから室外熱交換器91Aに流され、このとき、双方向定圧膨張弁10においては、図2の矢印で示したように、冷媒が一端側領域R1、一方の弁口16A、中間領域R3、他方の弁口16B、他端側領域R2の順番に流れる。
【0035】
すると、中間領域R3内の可動感圧体30が冷媒に押されて他端側領域R2側(この場合は図2の下側)に移動する。すると、一端側領域R1側の弁体19が弁口16Aに接近する一方、他端側領域R2側の弁体19は、弁口16Bから離され、各弁体19と各ダイヤフラム34との間で当接シャフト37が突っ張り状態になる。この状態で、中間領域R3内の冷媒圧力に応じてダイヤフラム34が変形すると、その変形に伴って各弁体19の弁口16A,16Bに対する位置が変化して弁開度が所定の範囲で変わる。
【0036】
ここで、下流に位置した他端側領域R2の弁体19は弁口16Bから離されて弁開度が大きくなっているので、その弁開度が所定の範囲で変化しても流量及び冷媒圧力への影響は小さい。これに対し、上流に位置した一端側領域R1の弁体19は弁口16Aに接近して弁開度が小さくなっているので、その弁開度が所定の範囲で変化した場合の流量及び冷媒圧力への影響は大きい。そして、中間領域R3内の冷媒圧力が比較的大きくなると、弁体19が弁口16Aに近づき、一端側領域R1の弁口16Aを通過する冷媒の流量が絞られて、中間領域R3内の冷媒圧力が下がる。これとは逆に、中間領域R3内の冷媒圧力が比較的小さくなると、一端側領域R1側の弁口16Aの弁開度が大きくなり、一端側領域R1の弁口16Aを通過する冷媒の流量が増加して、中間領域R3内の冷媒圧力が上がる。これらにより、その弁口16Aより下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。
【0037】
また、ヒートポンプ回路90を冷暖房を切り替えると、図2から図3の変化に示すように冷媒が流れる方向が逆転し、上記した場合と同様に、上流に位置した他端側領域R2側の弁口16Bの弁開度が、中間領域R3の冷媒圧力に応じて変化し、その弁口16Bより下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。ここで、本実施形態では、冷房運転時に上流に位置する一端側領域R1寄りの感圧補助ばね32の弾性係数の方が、反対側の感圧補助ばね32の弾性係数より大きくなっているので、一端側領域R1側によって下流側の冷媒圧力が調節される冷房運転時の方が暖房運転時に比べて双方向定圧膨張弁10の下流側の冷媒圧力が高くなる。
【0038】
このように、本実施形態の双方向定圧膨張弁10によれば、下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。しかも、従来の双方向定圧膨張弁で感圧部材として用いられていたベローズに代えてダイヤフラム34を用いたので、従来より低コスト化が可能になる。また、各弁口16A,16Bの弁開度を変更するためのダイヤフラム34を各弁口16A,16B毎に別々に備えたので、室内熱交換器92A側の弁口16Bの冷媒圧力に対する弁開度の特性と、室外熱交換器91A側の弁口16Aの冷媒圧力に対する弁開度の特性とを、それぞれ別々に適した特性に設定することができる。具体的には、本実施形態では1対のダイヤフラム34の弾性係数を異ならせ、冷媒圧力及び冷媒流量が異なる冷房運転時と暖房運転時のそれぞれにおいて冷媒の圧力と流量を制御可能な最適な弁のリフト特性を得ることができる。
【0039】
[第2実施形態]
本実施形態の双方向定圧膨張弁10は、図5に示されており、可動感圧体30が両対向壁13,13の間に固定されると共に、過度変形防止部35Tに冷媒通過孔36が貫通形成されている点が異なる。
【0040】
本実施形態の双方向定圧膨張弁10によれば、冷媒が一端側領域R1、中間領域R3、他端側領域R2の順番に流れると、上流側に位置した一端側領域R1側の弁体19が弁口16Aに接近する一方、下流側に位置した他端側領域R2側の弁体19が弁口16Bから離され、各弁体19とダイヤフラム34との間で当接シャフト37が突っ張り状態になる。そして、第1実施形態の双方向定圧膨張弁10と同様に、上流側の弁口16A,16Bの弁開度が、中間領域R3の冷媒圧力に応じて変化し、その弁口16A,16Bより下流側の冷媒圧力を一定にすることができる。
【0041】
本実施形態の双方向定圧膨張弁10によっても、第1実施形態の双方向定圧膨張弁10と同様の効果を得られると共に、可動感圧体30が固定されているので性能が安定し、耐久性にも優れる。
【0042】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0043】
(1)前記第1及び第2の実施形態の双方向定圧膨張弁10に備えたボディ10Bは、パイプ部材12と対向壁13とを組み付けて構成されていたが、これら対向壁13をパイプ部材12に一体形成したものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
(2)前記第1実施形態では、1対の感圧補助ばね32,32の弾性係数を異ならせることで、暖房運転時と冷房運転時とで下流側の冷媒圧力に差異を設けていたが、1対のダイヤフラム34,34の弾性係数を異ならせてもよいし、ダイヤフラム34と感圧補助ばね32の両方を合わせた弾性係数を双方向定圧膨張弁10の一端側と他端側との間で異ならせてもよい。
【0045】
(3)また、暖房運転時に下流側に位置する一方の弁口16Aと当接シャフト37との隙間の開口面積と、他方の弁口16Bと当接シャフト37との隙間の開口面積とを異ならせて、暖房運転時と冷房運転時とで下流側の冷媒圧力に差異を設けてもよい。
【0046】
(4)さらに、上記した双方向定圧膨張弁の両端部の構成を同一にして暖房運転時と冷房運転時とで下流側の冷媒圧力を同一にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係る双方向定圧膨張弁の側断面図
【図2】その双方向定圧膨張弁の側断面図
【図3】その双方向定圧膨張弁の側断面図
【図4】ヒートポンプ回路の概念図
【図5】第2実施形態に係る双方向定圧膨張弁の側断面図
【図6】従来の双方向定圧膨張弁の側断面図
【符号の説明】
【0048】
10 双方向定圧膨張弁
10B ボディ
11 流路
12 パイプ部材
13 対向壁
16A,16B 各弁口
17 弁体付勢ばね
19 弁体
31 中間筒体
31A 係止壁
32 感圧補助ばね
34 ダイヤフラム
37 当接シャフト
90 ヒートポンプ回路
91A 室外熱交換器
92A 室内熱交換器
R1 一端側領域
R2 他端側領域
R3 中間領域



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプ回路(90)の室内熱交換器(92A)と室外熱交換器(91A)との間に接続されて冷媒が双方向に流され、下流側の冷媒圧力を一定にすることが可能な双方向定圧膨張弁(10)において、
前記冷媒の流路(11)を内部に有したボディ(10B)と、
前記ボディ(10B)に設けられて、前記流路(11)を一端側領域(R1)と中間領域(R3)と他端側領域(R2)とに区画する1対の対向壁(13)と、
前記1対の対向壁(13)に貫通形成されて、略同軸上に配置された1対の弁口(16A,16B)と、
前記一端側領域(R1)内及び前記他端側領域(R2)内にそれぞれ配置されて、前記各弁口(16A,16B)を開閉する1対の弁体(19)と、
前記各弁体(19)を前記弁口(16A,16B)側に付勢する1対の弁体付勢ばね(17)と、
前記中間領域(R3)に収容されて前記1対の対向壁(13)の対向方向に延びかつ、それら1対の対向壁(13)の間で直動可能な中間筒体(31)と、
前記中間筒体(31)の両端を閉塞し、前記中間領域(R3)の内部圧力に応じて変形する1対のダイヤフラム(34)と、
前記1対の弁口(16A,16B)にそれぞれ遊嵌されて前記弁体(19)と前記ダイヤフラム(34)との間で突っ張り状態になり、前記ダイヤフラム(34)の変形量に応じて前記弁体(19)を移動して前記弁口(16A,16B)の弁開度を変更する1対の当接シャフト(37)とを備えたことを特徴とする双方向定圧膨張弁(10)。
【請求項2】
ヒートポンプ回路(90)の室内熱交換器(92A)と室外熱交換器(91A)との間に接続されて冷媒が双方向に流され、下流側の冷媒圧力を一定にすることが可能な双方向定圧膨張弁(10)において、
前記冷媒の流路(11)を内部に有したボディ(10B)と、
前記ボディ(10B)に設けられて、前記流路(11)を一端側領域(R1)と中間領域(R3)と他端側領域(R2)とに区画する1対の対向壁(13)と、
前記1対の対向壁(13)に貫通形成されて、略同軸上に配置された1対の弁口(16A,16B)と、
前記一端側領域(R1)内及び前記他端側領域(R2)内にそれぞれ配置されて、前記各弁口(16A,16B)を開閉する1対の弁体(19)と、
前記各弁体(19)を前記弁口(16A,16B)側に付勢する1対の弁体付勢ばね(17)と、
前記1対の対向壁(13)の対向方向に延びかつボディ(10B)に固定された中間筒体(31)と、
前記中間筒体(31)の両端を閉塞し、前記中間領域(R3)の内部圧力に応じて変形する1対のダイヤフラム(34)と、
前記1対の弁口(16A,16B)にそれぞれ遊嵌されて前記弁体(19)と前記ダイヤフラム(34)との間で突っ張り状態になり、前記ダイヤフラム(34)の変形量に応じて前記弁体(19)を移動して前記弁口(16A,16B)の弁開度を変更する1対の当接シャフト(37)とを備えたことを特徴とする双方向定圧膨張弁(10)。
【請求項3】
前記1対のダイヤフラム(34)の弾性係数を異ならせたことを特徴とする請求項1又は2に記載の双方向定圧膨張弁(10)。
【請求項4】
前記中間筒体(31)の内面における軸方向の中間部分に、ばね係止壁(31A)を突出形成し、
前記ばね係止壁(31A)と両方の前記ダイヤフラム(34)との間に1対の感圧補助ばね(32)を突っ張り状態にして設けたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の双方向定圧膨張弁(10)。
【請求項5】
前記1対の感圧補助ばね(32)の弾性係数を異ならせたことを特徴とする請求項4に記載の双方向定圧膨張弁(10)。
【請求項6】
一方の前記弁口(16A)と前記当接シャフト(37)との隙間の開口面積を、他方の前記弁口(16B)と前記当接シャフト(37)との隙間の開口面積より広くしたことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の双方向定圧膨張弁(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−225208(P2007−225208A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47908(P2006−47908)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】