説明

双腕作業機械

【課題】作業の安全を確保しつつ、作業フロント同士を干渉危険領域まで接近させた状態で作業を行うことを可能とする双腕作業機械を提供する。
【解決手段】干渉負荷軽減装置200Aは、電磁切換弁50とリリーフ弁52とを備える。電磁切換弁50は、スイング用油圧シリンダ91のボトム油室91aに接続され、通常、リリーフ弁52を遮断している。スイング用油圧シリンダ91により駆動される作業フロントが干渉危険領域に達すると、電磁切換弁が位置dに切り換わり、スイング用油圧シリンダ71とリリーフ弁52が連通する。リリーフ弁52は、予め設定された圧力以上となると圧油を作動油タンク32に解放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2台の作業フロントを備えた作業機械、すなわち、双腕作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
多関節構造のアーム等の作業フロントを上部旋回体の左右にそれぞれ備えた双腕型の作業機械が知られている。この双腕作業機械では、左右それぞれの作業フロントに一端が接続されたアクチュエータを駆動することで、左右の作業フロントをそれぞれ独立して駆動し、例えば、構造物や廃棄物の解体、道路工事、土木工事等を行う。
【0003】
双腕作業機械は、2台の作業フロントを備えている為、これらの作業フロントは互いの距離を接近したり離間したりして作業が行われる。したがって、作業機械を操作していると、作業フロント同士が接触し、破損等を生じる恐れがある。
この対応として、予め、2台の作業フロントが接触するような干渉危険領域を演算しておき、作業中における作業フロントの位置を監視して、干渉危険領域に達すると作業フロントの動作を強制的に停止するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−319962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された双腕型の作業機械では、相互の作業フロントの位置が干渉危険領域に達すると、作業フロントの動作が停止してしまう。このため、例えば、一方の作業フロントに取り付けられた作業具で作業対象部材を把持し、他方の作業フロントに取り付けられた作業具で作業対象部材を切断する等、互いの作業具を相当に接近させる必要がある作業などを行う場合、作業の効率が大幅に低下し、極端な場合は、作業が達成されないことが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の双腕作業機械は、第1の作業具が装着され、第1の油圧アクチュエータで駆動される第1の作業フロントと、第2の作業具が装着され、第2の油圧アクチュエータで駆動される第2の作業フロントと、第1および前記第2の油圧アクチュエータをそれぞれ操作する第1および第2の操作装置と、第1および第2の油圧アクチュエータのうち、少なくとも一方の油圧アクチュエータの駆動圧力を低減する干渉負荷軽減装置と、第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が、予め第1および第2の作業具が干渉する所定の広さの空間領域として定められた干渉危険領域内であるか否かを判定するとともに、第1および第2の作業フロントの先端が相対的に接近しているか否かを判定する判定手段と、予め干渉危険領域が設定された干渉危険設定部を有し、判定手段で第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が干渉危険領域内であると判定され、かつ、第1および第2の作業フロントの先端が相対的に接近していると判定されているときに、干渉負荷軽減装置を駆動して駆動中の油圧アクチュエータの駆動圧力を軽減する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の双腕作業機械によれば、作業具が干渉した場合に、干渉負荷軽減装置により油圧アクチュエータの圧力を低減することができるため、2台の作業具を相互に干渉する位置まで接近させた状態で動作させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の双腕作業機械の一実施形態を示す外観斜視図。
【図2】図1に図示された双腕作業機械の作業フロントに装着された作業具の一例としてのグリッパの拡大側面図。
【図3】本発明の双腕作業機械の実施形態1としての駆動回路のブロック図。
【図4】本発明の双腕作業機械におけるコントローラの処理を関連部材と共に模式的に示した図。
【図5】本発明の双腕作業機械における操作部材のレバー操作量とシリンダ速度指令の関係を示す特性図。
【図6】本発明における干渉危険領域を説明するための双腕作業機械の側面図および平面図であり、作業フロントが干渉危険領域の外側に位置している状態を示す。
【図7】本発明における干渉危険領域を説明するための双腕作業機械の平面図であり、作業フロントが干渉危険領域内に位置している状態を示す。
【図8】本発明の双腕作業機械の実施形態2を示し、コントローラの処理を関連部材と共に模式的に示した図。
【図9】本発明の双腕作業機械の実施形態2に係り、干渉危険領域および準干渉機関領域を説明するための双腕作業機械の側面図および平面図。
【図10】本発明の双腕作業機械の実施形態2に係り、フロント先端間距離とシリンダ速度指令割合との関係を示す図。
【図11】本発明の双腕作業機械の実施形態3としての駆動回路のブロック図。
【図12】本発明の双腕作業機械の実施形態4としての駆動回路のブロック図を示す。
【図13】図12におけるリリーフ弁の入力側の油路の圧力変化を示す図。
【図14】本発明の双腕作業機械の実施形態5としての駆動回路のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
---実施形態1---
<全体構成>
以下、本発明の双腕作業機械の実施形態1を図面と共に説明する。
図1は、本発明の双腕作業機械の一実施形態を示す外観斜視図である。図1に示すように、双腕作業機械100は、走行体12に旋回体11が旋回可能に取り付けられている。旋回体11の前部には運転室305が取り付けられている。旋回体11の前側には、左右で一対を構成する左作業フロント101と右作業フロント102とが、旋回体11に上下方向および水平方向(左右方向)に回動可能に取り付けられている。
【0010】
左作業フロント101は、旋回体11の前部に上下方向および水平方向に回動可能に取り付けられたブーム13と、ブーム13の先端に上下方向に回動可能に取り付けられたアーム15と、アーム15の先端に上下方向および水平方向に回動可能に取り付けられたグリッパ(作業具)110とを備えている。ブーム13は、スイング用油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)91により、旋回体11の旋回方向と同方向である水平方向に回動される。また、ブーム13は、ブーム上下用油圧シリンダ14により旋回体11に対して上下方向に回動される。アーム15は、アーム用油圧シリンダ16によりブーム13に対して上下方向に回動される。また、グリッパ110は、作業具用油圧シリンダ18によりアーム15に対して上下方向に回動される。
【0011】
右作業フロント102は、旋回体11の中心線に対して左作業フロント101と対称に取り付けられ、左作業フロント101と同様な構成を有する。すなわち、右作業フロント102は、旋回体11の前部に上下方向に回動可能に取り付けられたブーム21と、ブーム21の先端に上下方向に回動可能に取り付けられたアーム23と、アーム23の先端に上下方向に回動可能に取り付けられたグリッパ(作業具)120とを備えている。ブーム21は、図示しないがスイング用油圧シリンダ91と対称に取り付けられたスイング用油圧シリンダにより、旋回体11の旋回方向と同方向である水平方向に回動される。また、ブーム21は、ブーム上下用油圧シリンダ22により旋回体11に対して上下方向に回動される。アーム23は、アーム用油圧シリンダ24によりブーム21に対して上下方向に回動される。また、グリッパ120は、作業具用油圧シリンダ26によりアーム21に対して上下方向に回動される。
【0012】
左作業フロント101のグリッパ110と右作業フロント102のグリッパ120とは、同一の構造および機能を有する。図2に、代表して、グリッパ110の拡大側面図を示す。
グリッパ110は、アーム15の先端に固定されるピン141に回動可能に嵌合する開口部151と、アーム用油圧シリンダ18のロッド先端に固定されるピン142に回動可能に嵌合する開口部152が形成されたフレーム17を有する。フレーム17には、把持用油圧シリンダ20の一端が回動可能に取り付けられている。また、フレーム17には、一対の把持爪19がピン143により回動可能に取り付けられている。
作業具用油圧シリンダ18が伸縮すると、フレーム17はピン141を中心として上下方向に回動する。
【0013】
把持爪19は先端部で作業対象部材を把持する作業部材であり、先端部と反対側の端部には、把持用油圧シリンダ20の他端が把持爪19に回動可能に連結されている。一対の把持爪19はリンク部材153により連結されている。詳細には、リンク部材153の一端は、把持用油圧シリンダ20が連結された把持爪19の中間部に連結されている。また、リンク部材153の他端は、他方の把持爪19の先端部と反対側の端部に、回動可能に連結されている。
この構造により、把持用油圧シリンダ20が伸縮すると、一対の把持爪19は、ピン143を中心として、相互に反対方向に回動する。換言すれば、把持爪19の先端部を開く方向および閉じる方向に回動する。この把持爪19の動作により、対象物を把持し、または把持した対象物を開放する。
グリッパ120においても、グリッパ110と同様であり、その説明を省略する。
【0014】
<駆動系の構成>
図3は、本発明の双腕作業機械の実施形態1として示す駆動回路のブロック図である。
先ず、図3に図示された油圧系に関して説明する。
なお、図3においては、左作業フロント101側に関連する駆動系のみが図示され、且つ、油圧シリンダとしては、スイング用油圧シリンダ91に関連する駆動系のみが図示され、ブーム上下用油圧シリンダ14、アーム用油圧シリンダ16、作業具用油圧シリンダ18および把持用油圧シリンダ20に関連する駆動系は、図示を省略されている。
【0015】
双腕作業機械100は、旋回体11における運転室305の後方に、図示しないエンジンおよびエンジンにより駆動される主油圧ポンプ31を備えている。主油圧ポンプ31は、コントロール弁30を介してスイング用油圧シリンダ91に圧油を給、排油する。コントロール弁30が図示の位置の場合は、主油圧ポンプ31から吐出される圧油が、リリーフ弁33により規定される圧力以上となると、油圧ポンプ31により吐出された圧油はリリーフ弁33から作動油タンク32に戻る。
【0016】
後述するコントローラからの指令により、コントロール弁30が位置aに切り換わると、主油圧ポンプ31から吐出される圧油は、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91aに供給される。これにより、左作業フロント101は、旋回体11に対して、図1における時計回り方向、換言すれば、右作業フロント102に接近する方向に回動する。
また、後述するコントローラからの指令により、コントロール弁30が位置bに切り換わると、主油圧ポンプ31から吐出される圧油は、スイング用油圧シリンダ91のロッド側油室91bに供給される。これにより、左作業フロント101は、旋回体11に対して、図1における反時計回り方向、換言すれば、右作業フロント102から離間する方向に回動する。
【0017】
スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91aには、油路42を介して干渉負荷軽減装置200Aが接続されている。干渉負荷軽減装置200Aは電磁切換弁50と電磁切換弁50の下流に設けられたリリーフ弁(圧力制御弁)52を備えている。電磁切換弁50は、通常は、図3に図示された位置cとなっており、油路42とリリーフ弁52を遮断している。開指令により電磁切換弁50が位置dに切り換わると油路42とリリーフ弁52が連通される。
【0018】
リリーフ弁52は、ボトム圧のリリーフ圧力値を設定することができるものであり、油路42の圧力がリリーフ弁52の設定圧力を上回った場合、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91aから排出された圧油は作動油タンク32に解放される。
【0019】
次に、図3に図示された電気系について説明する。
コントローラ(制御手段)36は、ROM、RAMおよび演算処理部を含んで構成されており、後述する干渉危険領域が、予め記憶されている。
コントローラ36には、コントロール弁30、電磁切換弁50、ポテンショメータ(角度検出器)60およびスイング用操作レバー(操作装置)34の出力端子が接続されている。
【0020】
操作レバー34は、コントローラ36に、スイング用油圧シリンダ91の速度指令を送出する。図5は、操作レバー34のレバー操作量とシリンダ速度指令値との関係を示す特性図である。
操作レバー34は、図5に図示されたレバー操作量が0の位置である中立位置から所定の長さの不感帯、すなわち、速度0のシリンダ速度指令を送出する領域を有する。不感帯を越えた操作量領域では、レバー操作量の増加に比例して増加するシリンダ速度指令値が送出される。操作レバー34を中立位置から逆方向に向けて操作すると、逆方向のシリンダ操作指令が出力される。
【0021】
コントローラ36は、操作レバー34から送出されるレバー操作量に対応したシリンダ速度指令に基づき、コントロール弁30を切換え、スイング用油圧シリンダ91の動作速度を制御する。
ポテンショメータ60は、スイング用油圧シリンダ91、ブーム上下用油圧シリンダ、14、アーム用油圧シリンダ24の各シリンダの変位によって回動される各角度検出器に対応するものであり、コントローラ36は、これらの角度検出器の検出値に基づいて、左作業フロント101および右作業フロント102の先端の位置を演算する。
【0022】
コントローラ36は、左作業フロント101および右作業フロント102の先端の位置から両者の距離を演算し、左作業フロント101および右作業フロント102の距離が、予め設定された干危険渉領域内であるか否かを判断する。また、コントローラ36は、操作レバー36が操作されている位置の情報および左右の作業フロントの姿勢に基づいて、左作業フロント101および右作業フロント102が接近する方向に動作しているか離間する方向に動作しているかを判断する。
【0023】
図6および図7は、本発明における干渉危険領域を説明するための図であり、図6は、作業フロントが干渉危険領域の外側に位置する状態の双腕作業機械の側面図および平面図であり、図7は、作業フロントが干渉危険領域内に位置する状態の双腕作業機械の平面図である。
干渉危険領域は、左作業フロント101の先端の装着されたグリッパ110と右作業フロント102の先端に装着されたグリッパ120が干渉する危険性がある所定の広さの空間領域として定められる。具体的には、左作業フロント101の先端から半径Raの球状の領域内および右作業フロント102の先端から半径Rbの球状の領域内として設定される。半径RaおよびRbは、それぞれ、グリッパ110または120の把持シリンダ20を縮退して、グリッパ110または120を最大に開いた状態における半径に基づいて設定される。
【0024】
したがって、左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との距離(フロント先端間距離)xが
x>(Ra+Rb)
を満足する場合は、図6に図示されるように、左作業フロント101と右作業フロント102は、干渉していない。
【0025】
一方、フロント先端間距離xが
x≦(Ra+Rb)
を満足する状態では、図7に図示されるように、左作業フロント101と右作業フロント102は、干渉している。
【0026】
このように、左作業フロント101と右作業フロント102とが干渉している場合、すなわち、左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との相対的な位置が干渉危険領域内にある場合には、コントローラ36は電磁切換弁50を位置dに切換える。これにより、油路42とリリーフ弁52が連通し、アーム先端が接触して発生する圧力は、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91aからリリーフ弁52を介して圧油が作動油タンク32内に解放される。
【0027】
したがって、本発明の一実施形態の双腕作業機械によれば、左作業フロント101と右作業フロント102とが干渉した場合でも、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91a内の圧力は、リリーフ弁52に設定された圧力値以上に増大することはなく、作業フロントの干渉により発生する弊害をなくすことができる。
【0028】
<双腕作業機械の動作>
図4は、本発明の双腕作業機械におけるコントローラの処理を、関連部材と共に模式的に示した図であり、以下、同図を参照して、本発明の双腕作業機械における動作の一実施形態を説明する。
コントローラ36は、予め干渉危険領域設定値703が設定された干渉危険領域設定部(図示せず)を有する。干渉危険領域は、上述した如く、グリッパ110および120が把持爪19を最大に開いた状態に対応する半径RaおよびRbに基づいて設定される。
【0029】
図示しない操作レバーを操作して、双腕作業機械100の左作業フロント101および右作業フロント102を上下に回動する。作業フロント101および102の両方を動作させる場合もあるが、一方の作業フロントのみを動作する場合もある。
操作レバー34を操作すると、レバーの操作量がコントローラ36に送出され、コントローラ36はコントロール弁指令演算701を行う。すなわち、レバーの操作量に比例するシリンダ速度指令値が演算される。この演算結果は、コントロール弁30に速度指令として出力される。そして、左作業フロント101と右作業フロント102が、操作レバー34の操作量に対応した速度で水平方向に旋回される。
【0030】
また、左作業フロント101および右作業フロント102の上下方向の回動動作および水平方向の旋回動作に伴って、ポテンショメータ60から各角度検出器の検出値がコントローラ36に入力される。コントローラ36は、ポテンショメータ60からの検出値に基づいて左右作業フロント姿勢演算702を行う。次に、コントローラ36は、フロント先端間距離演算704を行う。この演算により、左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との距離xが算出される。
【0031】
一方、コントローラ36は、操作方向判定705を行う。つまり、操作レバー34が操作されている位置の情報および左右の作業フロントの姿勢に基づいて、左作業フロント101および右作業フロント102が相対的に接近する方向に動作しているか離間する方向に動作しているかを判断する。左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との距離xについて、今回の距離xと前回の距離xとを比較するようにしてもよい。今回の距離xが前回の距離xより大きければ相対的に離間する方向に、逆に小さければ相対的に接近する方向に動作していると判断する。
【0032】
次に、コントローラ36は、電磁弁切換判定706を行う。すなわち、フロント先端間距離演算704において、左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との距離xが
x≦(Ra+Rb)
を満足し、且つ、操作方向判定705の判定結果が作業フロント101と右作業フロント102が相対的に接近しているものであるか否かが判断される。
【0033】
そして、電磁弁切換判定706において、上記双方の条件が満足された場合、コントローラ36は、電磁切換弁50に開指令を行い、電磁切換弁50を位置dに切換える。これにより、油路42とリリーフ弁52が連通し、アーム先端が接触して発生する圧力は、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91aからリリーフ弁52を介して圧油が作動油タンク32内に解放される。
【0034】
このため、左作業フロント101と右作業フロント102とが干渉した場合でも、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91a内の圧力は、リリーフ弁52に設定された圧力値以上に増大することはなく、作業フロントの干渉により発生する弊害をなくすことができる。
このように、左作業フロント101と右作業フロント102が干渉しても、干渉による弊害が生じることがないので、グリッパ110および120を十分に接近させて作業を行うことが可能となり、作業の効率を向上することができる。
【0035】
図3には、左作業フロント101に設けられた干渉負荷軽減装置200Aについてのみ図示されているが、双腕作業機械100には、右作業用フロント102に対しても、左作業フロント101と同様な干渉負荷軽減装置が備えられている。フロント先端間距離xが、x≦(Ra+Rb)を満足し、換言すれば、フロント先端の相対的な位置が干渉危険領域内であり、且つ、作業フロントの先端が相対的に接近していると判断された場合には、右作業フロント102の干渉負荷軽減装置も、右スイング用油圧シリンダのボトム側油室(図示せず)の圧油を作動油タンクに解放するように駆動される。
【0036】
上記実施形態では、干渉負荷軽減装置200Aを、スイング用油圧シリンダのみに設けた場合で説明したが、干渉負荷軽減装置200Aをアーム用油圧シリンダ16、24に設けることもできる。
【0037】
干渉負荷軽減装置200Aのリリーフ弁52に設定する開放圧力(リリーフ圧力)の設定値は、あまり小さいと作業フロントが自重により降下または下方に旋回してしまい弊害が生じる恐れがある。逆に、あまり大きいと、干渉負荷軽減の効果が十分でないものとなってしまう。リリーフ弁52の設定値は、この両方の条件を考慮して決定すればよい。
【0038】
一般的には、リリーフ弁52の設定値は、対象となる作業フロントの自重と作業負荷成分とを加算した値に基づいて決定される。作業負荷成分は、作業機械において取扱う荷役の平均的な負荷として設定された重量である。つまり、リリーフ設定値は、フロント装置の自重と作業負荷成分とを加算した値に安全率を乗じた値とすればよい。最低でも、作業フロントが自重により降下しない圧力以上とする必要がある。すなわち、リリーフ弁52の設定値は、作業フロントが自重により降下しない圧力とリリーフ弁33の開放圧力との間の圧力に設定される。
【0039】
---実施形態2---
実施形態1においては、干渉危険領域のみが設けられたものであった。しかし、干渉危険領域に隣接する外周に準干渉危険領域を設けるようにしてもよい。
図8は、本発明の双腕作業機械の実施形態2を示し、コントローラの処理を関連部材と共に模式的に示した図である。また、図9は、干渉危険領域および準干渉危険領域を説明するための双腕作業機械の側面図および平面図である。
【0040】
図9に示されるように、左作業フロント101の準干渉危険領域は、干渉危険領域Raの外周に隣接する半径Rcの球状の領域である。また、右作業フロント102の準干渉危険領域は、干渉危険領域Rbの外周に隣接する半径Rdの球状の領域である。
【0041】
図8に図示されたコントローラ36’が図4に図示されたコントローラ36と相違する点は、コントローラ36’には予め設定された準干渉危険領域設定値707が格納されている点と、コントロール弁指令演算701’における処理が相違する点である。
この相違点に関して説明する。
【0042】
コントローラ36’には、予め設定された準干渉危険領域設定値707が格納されている。図4における場合と同様の一連の処理を行い、フロント先端間距離演算704’にて、左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との距離(フロント先端間距離)x、換言すれば、左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との相対的な位置が演算される。次に、コントローラ36’は、コントロール弁指令演算701’にて、算出されたフロント先端間距離xと準干渉危険領域設定値とを比較する。
【0043】
コントロール弁指令演算701’にて、フロント先端間距離xが、準干渉危険領域内であると判断された場合、すなわち、フロント先端間距離xが
(Ra+Rb)<x≦(Rc+Rd)
であると判断され、且つ、操作方向判定705において作業フロント101と右作業フロント102が相対的に接近していると判断された場合には、図5における操作レバー34の操作量に対応するシリンダ速度指令の値を、所定の割合で低減させた値をコントロール弁30に送出する。
【0044】
図10は、フロント先端間距離とシリンダ速度指令割合の関係を示す図である。
左作業フロント101のアーム15の先端と右作業フロント102のアーム23の先端との距離(フロント先端間距離)xが、準干渉危険領域設定値よりも大きい範囲においては、シリンダ速度指令割合は、操作レバー34の操作量に対応するシリンダ速度指令の値に対して、100%である。
フロント先端間距離xが、干渉危険領域設定値よりも小さい範囲においては、シリンダ速度指令割合は、操作レバー34の操作量に対応するシリンダ速度指令の値に対して、例えば20%である。
フロント先端間距離xが、干渉危険領域設定値と準干渉危険領域設定値との間の範囲においては、シリンダ速度指令割合は、100%から20%の値である。この場合、フロント先端間距離xが、準干渉危険領域から遠ざかる距離に比例して、シリンダ速度指令割合は増大する。
【0045】
コントローラ36’は、通常のシリンダ速度指令に図10に記載されたシリンダ速度指令割合を乗じた速度指令値をコントロール弁30に送出する。したがって、フロント先端間距離xが準干渉危険領域内においては、通常の駆動時よりもシリンダ速度が低減し、その低減の程度は、干渉危険領域に接近するほど大きくなる。
【0046】
このため、実施形態2における双腕作業機械においては、実施形態1における効果に加えて、作業フロント101、102同士の衝突による弊害、例えば、破損等の可能性を低減しあるいは解消するという効果を得ることができる。
上記相違点以外は実施形態1と同様であり、同一の構成に同一の図面参照番号を付してその説明を省略する。
【0047】
---実施形態3---
図11は、本発明の双腕作業機械の実施形態3を示し、図4とは異なる駆動回路のブロック図を示す。
図11に図示された駆動回路のブロック図が図4と異なる点は、図4におけるリリーフ弁52を比例電磁式圧力制御弁401に置き換えた点である。
比例電磁式圧力制御弁401に設定する開放圧力は、設定器410により電気的に設定することができる。設定器410または設定器410を操作する操作部材を運転室305内に配置することにより、取扱う負荷、作業機械の傾斜角度等、作業機械を取扱う条件、状況に応じて、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91a内の圧油が作動油タンク32に解放される圧力値を、運転室305内における操作により任意に変更することが可能となる。
上記相違点以外は実施形態1と同様であり、同一の構成に同一の図面参照番号を付してその説明を省略する。
【0048】
---実施形態4---
図12は、本発明の双腕作業機械の実施形態4を示し、さらに別の駆動回路のブロック図を示す。
図12に図示された駆動回路のブロック図が図4と異なる点は、干渉負荷軽減装置200A’が、電磁切換弁50とリリーフ弁52との間に介装されたアキュムレータ55を有する点である。
【0049】
図13は、油路42とリリーフ弁52が連通した状態において、リリーフ弁52の入力側における油路56の圧力変化を示す。
フロント先端間距離xが干渉危険領域内となり、電磁切換弁50が位置dに切り換わって、油路42が油路56に連通すると、油路56の圧力は、時間と共に図13に図示された実線のように変化する。
【0050】
つまり、アキュムレータ55が介装されたことにより、油路56の圧力は、スイング用油圧シリンダ91のボトム側油室91a内の作動油の圧力から徐々に増大してリリーフ弁52の設定値Pspに達する。
干渉危険領域を、作業フロント同士が実際に接触する領域より少し大きく設定しておくと、油路56の圧力増大に伴って、作業フロントの動作速度が自動的に低減する。
【0051】
このため、実施形態4における双腕作業機械においては、実施形態1における効果に加えて、作業フロント101、102同士が突然、衝突することによる弊害、例えば、破損等の可能性を低減し、あるいは解消するという効果を得ることができる。
上記相違点以外は実施形態1と同様であり、同一の構成に同一の図面参照番号を付してその説明を省略する。
【0052】
---実施形態5---
図14は、本発明の双腕作業機械の実施形態5を示し、さらに別の駆動回路のブロック図を示す。
図14に図示された駆動回路のブロック図が図11と異なる点は、干渉負荷軽減装置200B’が、電磁切換弁50とリリーフ弁52との間に介装されたアキュムレータ55を有する点である。
【0053】
アキュムレータ55は、実施形態4として示された図11の場合と同様の作用をする。
実施形態2に関して説明した如く、シリンダ速度は準干渉危険領域内において低減する。
このため、図14に図示された干渉軽減装置200B’の場合には、準干渉危険領域内におけるシリンダ速度の低減に、油路55における漸次的な圧力増大が作用するので、シリンダ速度の低減率を大きくし、且つ、確実性を向上する。このことは、準干渉危険領域の広さを小さくしても同様な効果が得られることを意味し、準干渉危険領域が小さくなることにより、さらに作業効率を向上することができる。
上記相違点以外は実施形態2と同様であり、同一の構成に同一の図面参照番号を付してその説明を省略する。
【0054】
以上説明した通り、本発明の双腕作業機械によれば、作業フロントが相互に干渉する干渉危険領域内にあるとき、作業フロントを駆動する油圧アクチュエータの圧力を低減する干渉負荷軽減装置を設け、作業フロントの干渉に伴って発生する弊害を防止するようにしたので、作業フロント同士を干渉危険領域まで接近させた状態で作業を行うことが可能となる。
【0055】
実施形態2の如く、干渉危険領域に隣接する外周に準干渉危険領域を設け、この領域内において、油圧アクチュエータの速度を低減するようにすれば、作業フロントの衝突による弊害、例えば、破損の等の可能性を低減し、あるいは解消するという効果を得ることができる。
【0056】
実施形態3の如く、干渉負荷軽減装置に設定される開放圧力を運転室内から変更可能とすることにより、取扱う負荷、作業機械の傾斜角度等、作業機械を取扱う条件、状況に応じて、適切な負荷開放圧力を設定することができ、一層、作業の効率を向上することができる。
【0057】
実施形態4の如く、干渉負荷軽減装置が油圧アクチュエータに連通された場合に、連通油路の圧力が漸次的に増大するようにすれば、作業フロントが突然、衝突することによる弊害、例えば、破損の等の可能性を低減し、あるいは解消するという効果を得ることができる。
【0058】
さらに、実施形態5の如く、干渉危険領域および準干渉危険領域を設定した上、干渉負荷軽減装置が油圧アクチュエータに連通された場合に、連通油路の圧力が漸次的に増大するようにすれば、シリンダ速度の低減率を大きくし、且つ、準干渉危険領域の広さを小さくすることが可能となるので、より一層、作業の効率を向上することができる。
【0059】
なお、上記各実施形態においては、干渉負荷軽減装置を左作業フロント101および右作業フロント102の双腕に設けた場合で説明したが、干渉負荷軽減装置200A、200A’、200B、200B’(以下、代表して“200”とする)はいずれか一方の作業フロントのみに設けるようにしてもよい。
【0060】
双腕作業機械には、作業フロントのサイズが異なり、大きいサイズの作業フロントにより対象物を保持し、小さいサイズの作業フロントにより、保持した対象物に切断・解体等の加工を行うものがある。上記のように、一方の作業フロントのみに干渉負荷軽減装置を設ける場合には、加工を行う小さいサイズの作業フロント、より詳細には、小さいサイズの作業フロントを駆動する、容積が小さい方の油圧シリンダに設けるようにすることが望ましい。
【0061】
また、図4におけるコントローラ36に関する説明からも理解されることではあるが、フロント先端間距離xが、干渉危険領域内にあるときでも、作業フロントが離間する方向に動作している場合には、干渉負荷軽減装置200による油圧シリンダの圧力の低減は行わないことが望ましい。換言すれば、油圧シリンダ91とリリーフ弁52とは遮断状態としておくことが望ましい。
【0062】
双腕作業機械において、フロント先端間距離xが、干渉危険領域内にある状態で運転を、一旦、休止し、この後、始動するときに、フロント先端間距離xが離間する方向に操作する場合、干渉負荷軽減装置200が動作することは、作業効率が低下する。また、干渉負荷軽減装置200の動作は、スイング用油圧シリンダの圧力を低減するので、不測の弊害を生じる潜在的な可能性がある。
【0063】
干渉負荷軽減装置200は、油圧シリンダのボトム側油室に接続して設けた場合で説明したが、油圧シリンダのロッド側油室に設けるようにしてもよい。油圧シリンダのボトム側油室およびロッド側油室の両側に接続して設けることもできる。
【0064】
その他、本発明の双腕作業機械は、発明の趣旨の範囲内において、種々、変形することが可能であり、要は、第1の作業具が装着され、第1の油圧アクチュエータで駆動される第1の作業フロントと、第2の作業具が装着され、第2の油圧アクチュエータで駆動される第2の作業フロントと、第1および前記第2の油圧アクチュエータをそれぞれ操作する第1および第2の操作装置と、第1および第2の油圧アクチュエータのうち、少なくとも一方の油圧アクチュエータの駆動圧力を低減する干渉負荷軽減装置と、第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が、予め第1および第2の作業具が干渉する所定の広さの空間領域として定められた干渉危険領域内であるか否かを判定するとともに、第1および第2の作業フロントの先端が相対的に接近しているか否かを判定する判定手段と、予め干渉危険領域が設定された干渉危険設定部を有し、判定手段で第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が干渉危険領域内であると判定され、かつ、第1および第2の作業フロントの先端が相対的に接近していると判定されているときに、干渉負荷軽減装置を駆動して駆動中の油圧アクチュエータの駆動圧力を軽減する制御手段とを備えるものであればよい。
【符号の説明】
【0065】
11 旋回体
12 走行体
30 コントロール弁
34 操作レバー(操作部材)
36 コントローラ(制御手段)
50 電磁切換弁
52 リリーフ弁(圧力制御弁)
55 アキュムレータ
60 ポテンショメータ(角度検出器)
91 スイング用油圧シリンダ
91a ボトム側油室
91b ロッド側油室
100 双腕作業機械
101 左作業フロント
102 右作業フロント
110 グリッパ(作業具)
200A、200A’、200B、200B’ 干渉負荷軽減装置
401 比例電磁式圧力制御弁
Ra、Rb 干渉危険領域
Rc、Rd 準干渉危険領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の作業具が装着され、第1の油圧アクチュエータで駆動される第1の作業フロントと、
第2の作業具が装着され、第2の油圧アクチュエータで駆動される第2の作業フロントと、
前記第1および前記第2の油圧アクチュエータをそれぞれ操作する第1および第2の操作装置と、
前記第1および第2の油圧アクチュエータのうち、少なくとも一方の油圧アクチュエータの駆動圧力を低減する干渉負荷軽減装置と、
前記第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が、前記第1および第2の作業具が干渉する所定の広さの空間領域として予め定められた干渉危険領域内であるか否かを判定するとともに、前記第1および第2の作業フロントの先端が相対的に接近しているか否かを判定する判定手段と、
予め前記干渉危険領域が設定された干渉危険設定部を有し、前記判定手段で前記第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が前記干渉危険領域内であると判定され、かつ、前記第1および第2の作業フロントの先端が相対的に接近していると判定されているときに、前記干渉負荷軽減装置を駆動して駆動中の油圧アクチュエータの駆動圧力を軽減する制御手段とを備えることを特徴とする双腕作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の双腕作業機械において、前記制御手段は、前記干渉危険領域の外周側に予め設定された準干渉危険領域が設定された準干渉危険領域を有し、前記判定手段は、前記第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が前記準干渉領域内であるか否かも判定し、
前記制御手段は、前記判定手段により、前記第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が前記準干渉危険領域内であると判定されたとき、判定されないときと比べて、前記操作装置による油圧アクチュエータの速度を遅くすることを特徴とする双腕作業機械。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の双腕作業機械において、前記第1および第2の油圧アクチュエータの駆動力を低減する第1および第2の干渉負荷軽減装置を備え、前記第1および第2の干渉負荷軽減装置は、それぞれ、圧力制御弁と前記圧力制御弁に接続された切換弁とを備え、前記第1の干渉負荷軽減装置は、前記第1の油圧アクチュエータと前記第1の干渉負荷軽減装置における前記圧力制御弁とを連通および遮断可能に設けられ、前記第2の干渉負荷軽減装置は、前記第2の油圧アクチュエータと前記第2の干渉負荷軽減装置における前記圧力制御弁とを連通および遮断可能に設けられていることを特徴とする双腕作業機械。
【請求項4】
請求項3に記載の双腕作業機械において、前記判定手段で前記第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が前記干渉危険領域内であると判定されていても、前記第1および第2の作業フロントの先端の相対的な位置が接近していると判定されていないときは、前記切換弁を前記第1または第2の油圧アクチュエータと前記圧力制御弁とを遮断する状態に保持することを特徴とする双腕作業機械。
【請求項5】
請求項3に記載の双腕作業機械において、前記第1および第2干渉負荷軽減装置のうち、少なくとも一方は、さらに、前記圧力制御弁と前記切換弁との間に設けられたアキュムレータを含むことを特徴とする双腕作業機械。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の双腕作業機械において、前記干渉負荷軽減装置は、前記第1および第2の油圧アクチュエータのうち前記第1の油圧アクチュエータのみに対応して設けられ、前記第2の油圧アクチュエータは、前記第1の油圧アクチュエータよりも大きい容量を有することを特徴とする双腕作業機械。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−6132(P2012−6132A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146488(P2010−146488)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】