説明

反射防止コーティングを有するグレージング

【課題】光学的性能が高くて且つ機械的及び化学的耐久性が高い新しいタイプの多層反射防止コーティングを備えたグレージングペインを提供すること。
【解決手段】少なくとも一つの外側表面に反射防止コーティングA1を含み、このコーティングが高屈折率と低屈折率を交互に有する材料層2,3の積重体からなる、グレージングペインが開示される。これらの層のうちの少なくとも一部のものは、特に最後の層は、熱分解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレージングペインに取り入れようとする透明基材であって、反射防止コーティングを備えた透明基材、より詳しく言えばガラス基材に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止コーティングは通常、干渉性の薄層の積重体、一般には誘電体を基礎材料とする高屈折率と低屈折率の層が交互になったものからなる。透明基材に付着させたときのそのようなコーティングの機能は、その基材の光の反射率を低下させて、それゆえに基材の光の透過率を増加させることである。従って、こうしてコーティングされた基材は透過光/反射光比がより大きくて、そしてこれはその背後に置かれた対象物の可視性を向上させる。最高の反射防止効果を得るためには、基材の面のそれぞれにこの種のコーティングを備えることが推奨される。
【0003】
この種の製品の最もよく知られた用途のうちの一つは、観測者の背後にある光により照明される絵画の保護である。反射防止効果を示すグレージングペインは、建物に、例えば商店のショーウィンドーとして、内側の照明が外側の照明に比べて弱い場合にショーウィンドー内に何があるかを識別するのを容易にするよう取り付けるのに、あるいはカウンターガラスとして取り付けるのに、大変有利でもある。
【0004】
この種の製品を車両のグレージングペインとして、とりわけ乗用車用に使用すること、そして最も詳しく言えば、標準規格により高レベルの光の透過が課されるフロントガラスとして使用することも有効である。
【0005】
反射防止グレージングペインを建物で使用しあるいは車両に取り付けるために使用するのを現在制限しているものは、そのような用途において必要な機械的及び化学的な耐久性のレベルである。これは、グレージングペインにおける反射防止コーティングは少なくともその面1にあり、すなわちグレージングペインの部屋又は車室の外側に向けられる面にあるからである(慣例的に、所定のグレージングペインを形成するガラス基材の面のおのおのには外側に向けられる面から始まる番号が付せられる)。ところで、グレージングペインのこの面はかなりの応力にさらされ、例えば建物においては、気候の気まぐれと、かなり研摩性の手段を使用し及び/又はかなり腐食性の化学薬品を使用する清掃とにさらされる。耐久性の問題は、車両用のグレージングペインの場合に恐らくより一層顕著であって、フロント(風防)ガラスはフロントガラスワイパーの往復動作とちり粒子あるいは砂利粒子の様々な突出部の研摩性作用にさらされ、そして車両の全ての側面窓ガラスはドアのゴムリップに接触する摩擦に繰り返しさらされる。
【0006】
もっとはっきり言えば、提案された従来最高の反射防止コーティングは真空技術、例えばスパッタリングタイプの技術を使用する薄膜の堆積(付着)により得られる。このタイプの堆積技術は、品質の良好な、とりわけ光学的品質の良好な薄層を形成することになるが、それらは上記の用途に対して要求されるのと比較してしばしば耐久性が劣る。更に、これらの技術は逐次操作でもって使用され、すなわちフロート生産ラインからやって来るガラスの帯から切断したガラスパネルについて不連続式に使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、これらの欠点を改善する一方で、光学的性能が高くて且つ更に機械的及び化学的耐久性が高い新しいタイプの多層反射防止コーティングを開発しようということである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主題は、外側の面のうちの少なくとも一つに反射防止コーティングを有するグレージングペインであり、この反射防止コーティングは以下において「A」コーティング(あるいは「A」のコーティング)の名称で記載され、そして交互に高屈折率と低屈折率を有する材料の層の積重体を含む。この積重体は、それを構成する層のうちの少なくとも一部のもの、好ましくは少なくとも最終の層が、熱分解された層であるように設計される。
【0009】
例えば、初めの方の層を熱分解し、そして最終の方の一つ又は二つ以上を真空で堆積させるようにすることが可能である。
【0010】
有利には、積重体の全部の層が熱分解された層である。
【0011】
本発明の範囲内において、「外側」の面はグレージングペインのうちの空気と接している面を意味する(積層構造を有するグレージングペインにおけるとりわけポリマー中間層と接している面であるいわゆる「内側」の面と対比される)。
【0012】
熱分解された層を使用することには、次のように三つの利点がある。
【0013】
一方では、液相においてであれ、粉体相においてであれ、あるいは気相においてであれ、熱分解(後者はしばしば、化学気相成長を表す略称のCVDと呼ばれる)を使用すれば、反射防止コーティングに取り入れるのに適した屈折率を有する、酸化物、窒化物もしくは炭化物タイプの材料、あるいはこれらのタイプの化合物のうちの少なくとも2種の混合物を幅広く選択することが可能である。
【0014】
他方では、本発明にとって特に有利なものがこれである、熱分解層は、一般に非常に高い化学的及び機械的耐久性を示す。それらが高温のガラス上での非常に高い温度における前駆物質の分解により得られるということから、それらは特に強くて、緻密で、そして基材に対して極めて付着性であり、従って磨滅/摩擦タイプの機械的な攻撃あるいは、とりわけ水、汚染ガスもしくは攻撃的な洗剤と接触することによる、化学的な攻撃に十分耐えることができる。層の積重体全体の耐久性を保証するために極めて有利なことは、最終の層がこのように熱分解されていることである。この場合一番簡単な方法は、全部の層を熱分解により堆積させることであるが、と言うのはこの種の分解はフロートラインにおいて高温のガラスの帯の上で直接、連続的に行うことができるからであり、そしてこれが熱分解の第三の利点であって、その場合の唯一の問題は所望の積重体を得るために堆積させる層と同じくたくさんの前駆物質スプレーノズルをラインに一直線に並べることである。とは言え、積重体のうちの最終層あるいは最終の「n」個の層のみを熱分解により堆積させそして最初のあるいは初めの方の層を別の堆積(付着)技術を使って堆積(付着)させることは、本発明の範囲から除外されない。この、ほかの技術は、例えば、スパッタリングタイプの真空技術又はゾル−ゲルタイプの技術でよい。積重体のうちのもう一つの層、とりわけ最初のあるいは初めの方の層を熱分解により堆積させ、そして最終層あるいは最後の方の層を別の堆積(付着)技術を使って堆積(付着)させることも除外されない。
【0015】
この別の技術は、例えばやはり真空技術でよい。
【0016】
上述のように、グレージングペイン当たりに単一の反射防止コーティングのみを使用することにより部分的な反射防止効果を得てもよい。とは言え、最高の効果は、グレージングペインに一つの反射防止コーティングを設けるのではなく二つを、すなわちその外側面のおのおのに(従って単一基材から構成されたグレージングペインである場合には面1と2とに、あるいは2枚のガラス基材を有する積層グレージングペインタイプの多重グレージングペインの場合には面1と4とに)一つを設けることにより得られることが知られている。
【0017】
従って、この最高の反射防止効果を得るために、本発明の範囲内でいくつかの選択が考えられ、すなわち、グレージングペインの他方の外側面に「A」コーティングと同様の又は全く同じ、従ってやはり少なくとも一つの熱分解層、とりわけ少なくとも最終のもの、を有する「A’」反射防止コーティングを施すことが特に可能である。例えば、グレージングペインが積層構造を持つ場合には単純に、おのおのが「A」タイプの積重体を備えた2枚の基材であって、これら二つの積重体が両方ともフロートガラスの帯の上で直接製造することができたものである基材を、ポリマーのシートを使用して一緒に接合するというのが問題となる。
【0018】
グレージングペインが一体式である場合には、第一の「A」の積重体はフロートで、そして第二のものはその後の操作で、やはり熱分解を使用するかあるいは別の技術、例えばスパッタリング又はゾル−ゲル技術の如きものを使用して(既に堆積(付着)させた反射防止コーティングをマスクすることにより)得ることができる。
【0019】
グレージングペインの他の面に、やはり交互に高屈折率と低屈折率を有する材料の層の積重体を含むけれどもこれらの材料はスパッタリングといったような真空技術を使用して堆積させられる、以下において「B」コーティングなる用語で表される反射防止コーティングを備えることも可能である。熱分解されたものでない第二の反射防止積重体を設けることは、実際のところ一定の利点を有することができて、すなわちグレージングペインが一体式と称され、単一のガラス基材のみから構成される場合には、フロートガラスの帯の上に「A」タイプの第一の反射防止コーティングを連続式に堆積させ、そして次に「B」タイプの第二の反射防止コーティングをその後の操作で基材を再加熱することなく真空成長により堆積させることが有利なことがある。この状況では「A」の反射防止積重体の優れた機械的耐久性が極めて有利であることを指摘することに価値があり、すなわち基材をコンベヤローラーで、積重体がローラーと接触しながら、基材とローラーとの避けられない摩擦にもかかわらず損傷されることなく、真空堆積ラインに沿って移動させることができる。更に、グレージングペインの二つの外側面のうちの一方のもの、一般には建物のグレージングペインの場合部屋の内側の方に、あるいは車両窓ガラスの場合には車室の内側の方に向いた面は、化学的又は機械的により少ない応力を受けることがよくあり、従って、「A」タイプの積重体よりも劣るがそれにもかかわらず十分であり得る耐久性を持つ「B」の反射防止積重体を使用するという「自由度を獲得する」ことが可能である。
【0020】
真空技術を使って堆積(付着)させることができる「B」タイプの反射防止積重体の例としては、フランス特許出願第95/02102号明細書に対応する、1996年2月22日に出願のヨーロッパ特許出願第96/400367.7 号明細書を有利に参照することができ、それには、曲げ加工/強化又は徐冷タイプのキャリヤー基材の熱処理を劣化することなく受けることができるという有益な特徴を更に有する反射防止コーティングが記載されていて、これはとりわけ、ガラスからアルカリ性成分(例えばNb2O5 、WO3 、Bi2O3 あるいはCeO2といったもの)が移動するために高温で劣化しそうな層を積重体の一部を形成する「バリヤ」層を使って、とりわけSiO2もしくはF:Al2O3 タイプ又はこれらの二つの化合物の混合物の低屈折率層、さもなければ例えばSi3N4 もしくはAlN といったような高屈折率層、さもなければ中間の屈折率を有する層、とりわけSiとSn、SiとZnもしくはSiとTiの酸化物混合物を基礎材料とするもの、あるいはSiOxNyを基礎材料としたものを使って、基材から「隔離」することを必要とする。
【0021】
真空技術により、そしてフッ化アルミニウム又は酸フッ化アルミニウムAlxOyFz(式中のy≧0)タイプの低屈折率層を使用してやはり堆積(付着)させることができる反射防止コーティングを記載している、1996年2月22日出願のフランス特許出願第96/02194号明細書をやはり有利に参照することもできる。
【0022】
一般に、通常は真空技術により堆積(付着)させられるいわゆる低屈折率層は、例えばSiO2及びMgF2から選ばれ、そしていわゆる高屈折率層は、例えばTa2O5 、TiO2、Nb2O5 、ZrO2、SnO2、ZnO 及びWO3 から選ばれる。
【0023】
好ましくは、本発明による「A」タイプの反射防止コーティング(そしてまた、随意に、それと組み合わされる「B」タイプの反射防止コーティング)は、一方では、いわゆる低屈折率層の屈折率が1.35〜1.70であり、好ましくは1.38〜1.65であるように、そして他方では、いわゆる高屈折率層の屈折率が少なくとも1.85であり、とりわけ1.90〜2.60、好ましくは2.10〜2.45であるように設計される。実際のところ、反射防止効果は、互いに接触する高屈折率層と低屈折率層との間に屈折率の有意の差がある場合にのみ十分に実現される。
【0024】
本発明の一つの特別な態様によれば、「A」の反射防止コーティングにおける(そして「B」タイプの反射防止コーティングを使用する場合に、随意にやはりそれにおける)層のうちの最初の「高屈折率層/低屈折率層」の連続したものは、単一のいわゆる「中間」屈折率層、とりわけ1.70〜1.85の屈折率を有する層、例えば高屈折率/低屈折率の連続したものと全く同様の光学的効果を有する層と交換される。そのような屈折率を示すことができる材料は、酸化スズ、酸窒化ケイ素及び/又は酸炭化ケイ素SiOxCy及び/又はSiOxNyを基にして、あるいは酸化物の混合物、例えば酸化ケイ素と酸化スズの混合物、酸化ケイ素と酸化亜鉛の混合物、又は酸化ケイ素と酸化チタンの混合物を基にして、選ぶことができ、これらの2種類の酸化物の相対的な割合が屈折率を所望の値に調節するのを可能にする。
【0025】
本発明による「A」の反射防止コーティングを製造するためには、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素及び/又は酸炭化ケイ素SiOxNy及び/又はSiOxCyを含む群から選ばれた誘電材料又は誘電材料の混合物、さもなければ均質な混合酸化物構造の形成を促進する少なくとも1種の第三元素Mをも含有している混合酸化アルミニウムケイ素、からなる低屈折率の熱分解された層を選ぶのが好ましい。この元素Mは、とりわけフッ素タイプのハロゲンであり、そしてその層は第四の元素、とりわけ炭素を含有してもよい。この混合酸化物の組成に関し更に詳しいことについては、それを得るための、一つのCVD技術である好ましい方法が記載されている、ヨーロッパ特許出願第95/402612.6 号明細書に対応するフランス特許出願公開第2727107号明細書を有利に参照することができる。この層は、極めて抵抗力のあることが判明していることから、反射防止コーティングの低屈折率の最終層を形成するのに本発明において好ましく使用される。
【0026】
高屈折率の熱分解層の選定は、TiO2、SnO2、ZnO 、ZrO2又はTa2O5 を含む群に属する誘電材料又は誘電材料の混合物を有利に頼ることができる。
【0027】
先に言及したように、本発明のグレージングペインは、その面のうちの一つの、とりわけ面1の、単一の反射防止コーティングと、反対側の面の、とりわけ面2の、同じタイプの「A’」コーティングかあるいは「B」コーティングから構成することができる。2枚のガラス基材がPVB(ポリビニルブチラール)タイプのポリマー材料のシートによって一緒に接合されている、標準的な積層グレージングペインの場合には、これは好ましくはその面のうちの一つ、とりわけ面1に「A」コーティングを有し、そして他方の外側面、とりわけ面4に同じタイプの「A’」コーティングか又は「B」タイプのコーティングを有する。
【0028】
更に、本発明による反射防止コーティングは、少なくとも1枚のガラス基材とエネルギー吸収特性を示すポリマー、例えばポリウレタンのようなもののシートを少なくとも1枚含む、いわゆる非対称積層グレージングペインに適用してもよい、ということに言及することができる。
【0029】
グレージングペインの構成要素のガラス基材の性質の選定も重要であることを証明することができ、ガラス基材に固有の光学的及び/又は熱的特性を、全体として所望の性能特性を有するグレージングペインを得るために反射防止コーティングの光学的特性と組み合わせることが可能である。
【0030】
例えば、基材は透明ガラスから、例としてサン−ゴバン・ビトラージュ社によりPlaniluxの商品名で市販されているものから、選ぶことができる。従って、反射防止コーティングのため光の透過率を増大させるという追加の効果が、極めて透明なグレージングペインを得るのを可能にする。
【0031】
とは言うものの、グレージングペインを構成する基材をエネルギー透過特性を低下させたガラスから、とりわけ全体を着色したガラスから選ぶことも可能である。光の透過率の一定の低下を犠牲として、有効な日射防護(solar protection)グレージングペインが得られ、反射防止コーティングのおかげで得られる光の透過率を増大させるという効果が透明度のこの低下を有利にやわらげるのを可能にする。殊に建物用に適した、全体を着色したグレージングペインは、例えばサン−ゴバン・ビトラージュ社により"Parsol"の名称で市販されている。エネルギー透過率を低下させたこのほかのタイプのガラスも、本発明の範囲内において有利である。
【0032】
これらはとりわけ、米国特許第4190542 号及び同第4101705 号明細書に記載されたブロンズ色のガラスであり、あるいは自動車用グレージングペインの用途の観点から組成を一層調節されたガラスである。これらには、例えば、Fe2O3 、FeO 及びCoO タイプの着色用酸化物の含有量がTL /TE 比によって定義される選択率が少なくとも1.30、あるいは1.40〜1.50にさえなり、且つ緑の色合いになるよう調節される、 TSA+ あるいは TSA++と呼ばれるガラスが含まれる。より詳細については、ヨーロッパ特許出願公開第0616883 号明細書を有利に参照することができる。この特許出願明細書の教示によるガラス組成物中の上述の着色用酸化物の含有量(重量割合)を、下記に簡単に転記する。
【0033】
第一のシリーズによれば、
Fe2O3 0.55〜0.62%
FeO 0.11〜0.16%
CoO 0 〜12ppm 、とりわけ<12ppm
であり、殊にFe2+/Fe比は約0.19〜0.25である。
【0034】
第二のシリーズによれば、
Fe2O3 0.75〜0.90%
FeO 0.15〜0.22%
CoO 0 〜17ppm 、とりわけ<10ppm
であり、殊にFe2+/Fe比は約0.20である。
【0035】
これらもやはり全体として着色されたガラスでよく、とりわけ青緑色に着色されたもの、例えばヨーロッパ特許出願公開第0644164号明細書に記載されている、その組成が以下のとおりであるものでもよい。
【0036】
SiO2 64〜75%
Al2O3 0〜 5%
B2O3 0〜 5%
CaO 2〜15%
MgO 0〜 5%
Na2O 9〜18%
K2O 0〜 5%
Fe2O3 (この形で表した全鉄分) 0.75 〜1.4 %
FeO 0.25 〜0.32%
SO3 0.10 〜0.35%
【0037】
これらはまた、フランス特許出願公開第2721599 号明細書に対応する、1995年6月22日出願の国際出願PCT/FR95/00828号明細書に記載されている、その組成が以下のとおりであるもののようなガラスでもよい。
【0038】
SiO2 69〜75%
Al2O3 0〜 3%
B2O3 0〜 5%
CaO 2〜10%
MgO 0〜 2%
Na2O 9〜17%
K2O 0〜 8%
Fe2O3 (全鉄分) 0.2〜 4%
Se, CoO, Cr2O3, NiO, CuO 0〜 0.45 %
【0039】
ここで、Fe2O3 含有量が1.5 %に等しいかそれ未満である場合、鉄以外の着色剤の含有量は少なくとも0.0002%に等しく、この組成物はまたフッ素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタン、そして4%未満の酸化バリウムを含有すべきであって、アルカリ土類金属酸化物の割合の合計は10%以下にとどまる。
【0040】
なおもこの特許文献の教示によれば、ガラス組成物に鉄以外の着色剤を単独にあるいは組み合わせて混入するのが好ましく、その重量含有量は好ましくは次に掲げる限度未満にとどまる。
Se <0.008 %
CoO <0.04%
Cr2O3 <0.1 %
NiO <0.07%
CuO <0.3 %
【0041】
それらはまた、1995年3月16日に出願されたフランス特許出願第95/03858号明細書に対応する、1996年3月14日出願の国際出願PCT/FR96/00394号明細書に記載されているようなガラスでもよく、それらのガラスは重量百分率で表し、Fe2O3 の形でもって表して0.85〜2%の全鉄分を含み、FeO の重量含有量は0.21〜0.40%である。
【0042】
この特許文献によると、それらの組成は第一のシリーズによれば次のとおりである。
【0043】
SiO2 64〜75%
Al2O3 0〜 5%
B2O3 0〜 5%
CaO 2〜15%
MgO 0〜 5%
Na2O 9〜18%
K2O 0〜 5%
Fe2O3 (この形で表した全鉄分) 0.85 〜 2%
FeO 0.21 〜0.40%
CoO, Cr2O3, Se, TiO2,
MnO, NiO, CuO 0〜 0.O4 %
SO3 0.08 〜0.35%
【0044】
また、第二のシリーズによれば次のとおりである。
【0045】
SiO2 68〜75%
Al2O3 0〜 3%
B2O3 0〜 5%
CaO 2〜10%
MgO 0〜 2%
Na2O 9〜18%
K2O 0〜 8%
Fe2O3 (この形で表した全鉄分) 0.95 〜 2%
CoO, Cr2O3, Se, TiO2,
MnO, NiO, CuO 0〜 0.O4 %
FeO 0.29 〜0.40%
SO3 0.08 〜0.35%
【0046】
従って、これらの全てのタイプの着色ガラス組成物は、グレージングペインが30〜70%、とりわけ35〜60%のエネルギー透過率の値を示し、そして50〜85%の光透過率の値を示すように有利に選択することができる。
【0047】
一つ又は複数の反射防止積重体を支持するガラス基材は、種々の熱処理、とりわけ曲げ加工、強化又は徐冷を受けることができる。二つの特別な場合があって、すなわち、処理後にコーティングを堆積(付着)させる(これは、フロートラインに層が堆積(付着)するのを防止する(そしてそれは堆積(付着)させるのにガラスを再加熱することを必要とする「A」コーティングの場合には困難である))か、あるいはコーティング、少なくとも「A」タイプのコーティングを、ラインで堆積(付着)させ、且つこれらの処理をそれらの光学的特性に不利な影響を及ぼすことなく受けることができるように設計する。「B」タイプの積重体の場合には、この種類の特性を示す構成は既に上で説明した。
【0048】
グレージングペインは、日射防護機能を有する少なくとも1種のその他のタイプの薄層又は薄層積重体を含むこともできる。これらは、十分に厚い銀を基礎材料とした層のような、反射性の層でよい。例えば、それらは誘電体/銀/誘電体タイプの積重体でもよく、あるいは誘電体/銀/誘電体/銀/誘電体タイプの積重体でもよい。これらのタイプの積重体についてもっと詳しいことについては、ヨーロッパ特許出願公開第0678484 号、同第0645352 号、及び同第0638528 号明細書を参照することができる。また、ヨーロッパ特許出願公開第0638527 号及び同第0650938 号明細書に記載されたような、窒化物の層の如き、例えば窒化チタンの層のような、反射性及び/又はフィルター性の層を含む積重体を使用してもよい。
【0049】
本発明によるグレージングペインには、警報機能を持つ少なくとも一つの電気伝導性コーティングを施すことも可能であって、それは導電層から又は導電性ワイヤの配列(アレー)からなることができ、そしてそれらは例えば、伝導性の銀ペーストを使用してスクリーン印刷され、それ用の導線により電源に接続される。グレージングペインを破壊しようとして、電流がもはや流れなくなると、可聴及び/又は可視警報を作動させることになる。
【0050】
実際問題として、選定はどちらかと言えば着色ガラスを使用するかあるいはこの種の日射防護コーティングを使用するようになされるが、両方の場合とも、相互に関連するそれらの熱的及び光学的特性を所望のグレージングペインを得るため反射防止コーティングの光学的特性と組み合わせることは価値のあることである。
【0051】
積層グレージングペインの好ましい構成は、それを構成するガラス基材の内側面のうちの少なくとも一つのもの、すなわち面2及び/又は3に、日射防護機能を有し及び/又は警報機能を有するコーティングを施すというものである。
【0052】
本発明によるグレージングペインの「A」の反射防止コーティング(及び/又は随意に、「B」の反射防止コーティング)は、光触媒特性を有し且つ汚れ防止機能を有するコーティング、とりわけ、1995年9月15日出願のフランス特許出願第95/10839号明細書に記載されたように、CVDにより得ることができる少なくとも部分的に結晶化した酸化チタンを基にしたコーティング、でそれを被覆することにより更に機能化してもよい。
【0053】
同じように、「A」タイプの反射防止積重体の最終の熱分解層の表面を、その摩擦係数を低下させるように、従ってとりわけ例えばフロントガラスの場合においてワイパーの掃きのけ作用を容易にするために、殊にしたたり(trickling)手法を使用して、シランで処理することも可能である。
【0054】
とりわけ、建物用の内装又は外装窓ガラス、商店のショーウィンドー、商店のカウンターとして、あるいはフロントガラス以外の自動車タイプの車両用の窓ガラス(側面窓ガラス、背面窓ガラス、サンルーフ)としてグレージングペインを使用することが想定される場合には、反射防止積重体を構成する層の光学的厚さは有利には、グレージングペインの光の反射率を法線入射で1.5 %未満の値まで、とりわけ1.0 %未満の値まで低下させるように選ぶことができる。これが実際のところ一般に、反射防止グレージングペインの期待される性能レベルである。
【0055】
光の反射率のそのような値を得るために、本発明による「A」の反射防止積重体は、基材に一番近い層から始めて、下記のものを含むことができる。
・光学的厚さが15〜50nm、とりわけ20〜40nmである高屈折率の第一の層と、光学的厚さが160 〜200 nm、とりわけ170 〜190 nmである低屈折率の第二の層とを含む二つの層、
・光学的厚さが100 〜140 nm、とりわけ110 〜130 nmである中間屈折率の第一の層と、光学的厚さが210 〜260 nm、とりわけ230 〜250 nmである高屈折率の第二の層と、そして最後に、光学的厚さが100 〜150 nm、とりわけ110 〜140 nmである低屈折率の第三の層を含む三つの層。
【0056】
特に、グレージングペインを自動車又は列車タイプの車両用のフロント(風防)ガラス、殊に積層されたものとして使用することが想定される場合には、反射防止積重体の層の光学的厚さの選定は、基準がいろいろであるためわずかに異なることがある。これは、現在のフロント(風防)ガラスは非常に傾斜している一方で、法線入射での測定のみを考慮した光の反射率の最適化は不十分なものになるからである。更に、フロント(風防)ガラスは二つの特性を調和させなくてはならず、すなわち安全上の問題に関連して非常に高い光の透過率(現行の標準規格は法線入射で少なくとも75%のTL の値を課している)と、そして夏期における車室の過度の加熱を避けるためできるだけ小さいエネルギー透過率とを同時に示さなくてはならず、従ってフロント(風防)ガラスの特定の用途について、実際問題として選択率TL /TE をできるだけ高い値に調節するようにすることが必要である。従って、フロント(風防)ガラスの用途について言えば、RL の値が法線入射で7%未満、そして更には6%未満、60°入射で10%未満になり、法線入射でのTL の値が少なくとも75%になり、そして選択率TL /TE が少なくとも1.65、とりわけ少なくとも1.70になるのを一緒になって可能にする層の光学的厚さが選ばれる。
【0057】
これらの全ての基準を満足するために、本発明の「A」の反射防止コーティングは、基材に一番近い層から始めて下記の層を含む三つの層を有利に含むことができる。
・光学的厚さが160 〜210 nm、とりわけ180 〜200 nmである中間屈折率の第一の層、
・光学的厚さが300 〜350 nm、とりわけ320 〜340 nmである高屈折率の第二の層、
・光学的厚さが120 〜170 nm、とりわけ145 〜165 nmである低屈折率の第三の層。
【0058】
本発明の更に別の主題事項は、上記のグレージングペインを既に説明した建物あるいは車両以外の用途向けに、とりわけ絵画タイプの対象物を保護するため、コンピュータ用の防眩保護スクリーンのため、装飾ガラスのため、ガラス調度品ため、あるいは鏡(それには例えば不透明層が加えられる)のためのグレージングペインとしての用途向けに、使用することである。
【0059】
本発明による反射防止コーティングで被覆されたグレージングペインは、火炎遮断特性を有する火災保護機能を果たすことができるように設計しそして取り付けることもでき、例えばヨーロッパ特許出願公開第0635617 号又は同第0568458 号明細書を都合よく参照することができる。それらはまた防火特性を示すこともでき、その場合には通常、所定の間隔をあけて枠に取り付けた2枚のガラス基材から構成され、それらを隔てる空間には、ヨーロッパ特許第442768号明細書又は米国特許第4983464 号明細書に記載されたように水性ゲルが詰められる。
【実施例】
【0060】
本発明の詳細と有利な特徴は、添付の図面の助けを借りて、以下に掲げる非限定の例から明らかになろう。
【0061】
非常に模式的なものである図1a〜1cは、三つの別態様による「A」の熱分解反射防止コーティングで被覆したガラス基材を断面でもって示している(反射防止コーティングを構成している種々の層の厚さと基材のそれとの割合は、それらを識別するのをより容易にするのを目的として留意されていない)。単一の積重体が示されてはいるが、図2と図3で説明されるように、熱分解されたものであれされていないものであれ第二の反射防止積重体を基材の反対側の面に付着させてもよい。
【0062】
図1aの態様によれば、高屈折率の第一の層2が低屈折率の第二の層3で覆われているものを含む二層コーティングA1を備えたガラス基材1が示されている。図1bの態様によれば、同じ基材1が、中間屈折率の第一の層4が高屈折率の第二の層5と低屈折率の第三の層6とにより覆われているものを含む三層コーティングA2を施されている。図1cの態様によれば、同じ基材1が、二つの高屈折率層7、9と二つの低屈折率層8、10の交互になったものを含む四層コーティングA3を施されている。
【0063】
下記に掲げる全ての例において、コーティングA1、A2あるいはA3の層は、液相、粉体相又は気相での熱分解技術を利用して、フロートガラスの帯上で直接得られる。
【0064】
全てというわけにはいかないが、下記に示すものは、所望の屈折率を持つ酸化物層を得るのに適した前駆物質である。
【0065】
・シリカタイプの低屈折率層は、テトラオルトシリケートTEOS又はSiH4を使用してCVDにより堆積させられる。
【0066】
・随意にフッ素化された混合酸化アルミニウムケイ素タイプの低屈折率層は、上述のフランス特許出願公開第2727107 号明細書に記載されたように、ケイ素前駆物質、例えばTEOSの如きものと、アルコキシド又は随意にフッ素化されたアセチルアセトネートもしくは2−メチル−4,6−ヘプタジオンタイプのアルコラートもしくはβ−ジケトン官能基を含有する有機金属の形態のアルミニウム前駆物質(フッ素化されたアルミニウム前駆物質は、とりわけ、六フッ素化アルミニウムアセチルアセトネート又はアルミニウムトリフルオロアセチルアセトネートから選ばれる)との混合物を使って、CVDにより堆積させられる。
【0067】
・酸炭化ケイ素SiOxCyタイプの中間屈折率の層も、ヨーロッパ特許出願公開第0518755 号明細書により、エチレンとSiH4を使用してCVDにより堆積させられる。
【0068】
・酸化スズを基礎材料とする高屈折率の層は、ジブチルスズジフルオリド(DBTF)の粉末熱分解により、あるいは四塩化スズを使用するCVDにより堆積させられる。
【0069】
・TiO2を基礎材料とする高屈折率の層は、酢酸エチルタイプの溶媒中におけるチタンアルコキシドとチタンキレート(ヨーロッパ特許第0465309 号明細書に記載された前駆物質)の混合物を使用する液体熱分解により、又はテトライソプロピルチタネートを使用するCVDにより、又はメチルエチルチタネートもしくはTi(OCH3)4 を使用する粉末熱分解により堆積させられる。これらの層のおのおのについての堆積条件の詳しいことは、それらが当業者に知られていることから示さない。真空で堆積させる反射防止コーティングについては、とりわけ上述のヨーロッパ特許出願第96/400367.7 号明細書に詳細を見いだすことができる。
【0070】
図2は、最初の例1によるグレージングペインの構成を説明するものであり、これは、面1に「A」の反射防止積重体を備えそして面2にスパッタリングにより得られた薄層からなる「B」の反射防止積重体を備えた単一のガラス基材のみからなるいわゆる一体式のグレージングペインである。基材1は平らなものとして示されているが、それは可変の曲率半径で湾曲させてもよい。面1は一般に外側に向けられ、そしてそれは、曲げ加工する場合には、凸面に対応する(面2は凹面になる)。
【0071】
(例1)
フロートラインにおいて、ソーダ−石灰−シリカガラスタイプの厚さ4mmのガラスの帯(切断されると、サン−ゴバン・ビトラージュ社によりPlaniluxの名称で市販される)の上に、
・屈折率がおよそ1.73で幾何学的厚さが71nmであるSiOxCyを基にした第一の層、
・屈折率が2.45で幾何学的厚さが99nmであるTiO2を基にした第二の層、
・屈折率が1.48で幾何学的厚さが90nmである混合酸化物SiOAlFを基にした低屈折率の第三の層、
を含む第一の熱分解積重体A2(図1b参照)を堆積させる。
【0072】
帯を切断後、他方の面上に、酸素の存在下での反応性スパッタリングにより「B」の反射防止コーティングを堆積させる。このコーティングは、
・幾何学的厚さが18nmで屈折率が1.9 であるSnO2の第一の層、
・幾何学的厚さが35nmで屈折率が1.45であるSiO2の第二の層、
・幾何学的厚さが120 nmで屈折率が2.1 のNb2O5 の第三の層、
・幾何学的厚さが85nmで屈折率が1.45のSiO2の第四の層、
を含む。
【0073】
下記の表1は、こうして被覆した基材について、そして比較のため同一の基材であるがいずれのコーティングもない基材について、D65光源下で測定した下記の分光測光値を対照して示している。
L : 法線入射での光の透過率(%)
E : 法線入射でのエネルギー透過率(%)
L : 法線入射での光の反射率(%)
* −b* : 無次元の測色系(L* ,a* ,b* )による反射の測色値
L /TE : 無次元の選択率
【0074】
【表1】

【0075】
従って、これらの結果から、TL と選択率の増大は大変著しいものであること、そしてコーティングされた基材のRL の値は1%未満であることが分かる。それゆえこの基材は、建物の用途向けに非常に適している。
【0076】
別の一連の例2〜10は、図3に示した積層の構成を有するグレージングペインに対応しており、前述の基材1をPVBの厚さ0.7mmのシート11を使って第二のガラス基材10に接合する。この第二の基材もやはり、その外側面に、熱分解された、基材1を被覆しているのと同じ反射防止積重体か、あるいは「B」タイプの真空で堆積させた反射防止積重体を備えている。
【0077】
例2〜5は、厚さ4mmの2枚のPlaniluxガラス基材1、10を使用する。
【0078】
(例2)
基材1と10の二つの反射防止積重体は同一であって、それらの全ての層は熱分解されたものである。これらは、
・幾何学的厚さが12nmであるTiO2の第一の層、
・幾何学的厚さが124 nmである、例1のものと同一の混合酸化物SiOAlFx の第二の層、
を含む二層の積重体(図1a参照)である。
【0079】
(例3)
基材1と10の二つの反射防止積重体は同一であって、それらの全ての層は熱分解されたものである。これらもやはり、
・幾何学的厚さが95nmであるSnO2の第一の層、
・幾何学的厚さが92nmである、先の例におけるのと同じSiOAlFx の第二の層、
を含む二層の積重体である。
【0080】
(例4)
基材1と10の二つの反射防止積重体は同一であって、それらの全ての層は熱分解されたものである。これらは、例1におけるものと同一の層の構造と厚さとを有する三層の積重体(図1b参照)である。
【0081】
(例5)
二つの反射防止積重体は異なるものであって、基材1のそれは例2による二層の積重体であり、基材10のそれは例1で説明したものと同じ真空で堆積させた「B」タイプの積重体である。
【0082】
下記の表2は、例2〜4の場合において既に説明した分光測光値の全部を、比較のため一緒に接合された2枚の同じガラス基材からなるけれどもコーティングのない積層体についての値と対照して示している。
【0083】
【表2】

【0084】
この表において、単純に二層の積重体を有するものでも、本発明の全ての例は、最大でも1.3 %という特に低いRL の値を得るのを可能にするということを理解することができる。
【0085】
例4と5の場合には比較例と比べて選択率がかなり上昇していること、また例4の場合において反射の残留値が特に低いことに注目することもできる。
【0086】
例6〜10は、全体として着色されていてTE が低下している4mmの基材1を除いて、例2〜5で使用したのと同一の4mmの透明基材10を使用する。
【0087】
(例6)
反射防止積重体は、例4におけるものと同一の熱分解された三層の積重体である。基材1のガラスは、前述のヨーロッパ特許出願公開第0644164 号明細書の教示による。その組成(重量百分率での)は次のとおりである。
【0088】
SiO2 70.75%
Al2O3 0.62%
CaO 9.50%
MgO 3.90%
Na2O 13.90%
K2O 0.09%
SO3 0.18%
Fe2O3 (全鉄分) 0.95%
FeO 0.285 %
FeO (全鉄分) 0.30%
【0089】
コーティングもなく、積層構造にもせずに、それだけで計って、それのTL は71%、TE は43.5%、そしてTUVは18%である。
【0090】
(比較例6)
これは例6との比較を可能にするものであり、基材は同じであるけれどもいずれのコーティングもない。
【0091】
(例7)
反射防止積重体は、例4のものと同一の熱分解された三層の積重体である。基材1のガラスは、厚さが4mmであって、前述の国際出願PCT/FR95/00828号明細書の教示によるものである。このガラスのMgO 、Fe2O3 及びFeO 含有量(重量百分率での)は次のとおりである。
【0092】
MgO 0.3 %
Fe2O3 0.20%
FeO 0.36%
【0093】
コーティングもなく、積層構造にもせずに、それだけで計って、それのTL は81%、TE は60%、そしてTUVは51%である。
【0094】
(比較例7)
これは例7との比較を可能にするものであり、基材は同じであるけれどもいずれのコーティングもない。
【0095】
下記の表3は、例6、比較例6、例7、及び比較例7に対応する全ての分光測光値を対照して示している。
【0096】
【表3】

【0097】
ここでも、本発明による例においては選択率に正味の増加がみられ、RL の値は0.5 %未満で、そして反射の残留着色が非常に弱いことが分かる。
【0098】
最後の一連の例8〜10は、より詳しく言うと自動車用の積層フロントガラスの用途を目標とするものであり、2枚の基材1、10には最初にフロートラインにおいて積重体が直接施され、次にこれらの基材は、切断後に曲げられて、基材1はその外側の面1が凸状となり、基材10はその外側の面4が凹状となる。
【0099】
基材1は厚さが2.6 mmであり、一様に着色されている。基材10は厚さが2.1 mmであり、着色されていない、Planiluxタイプのものである。PVBのシート11は、やはり厚さが0.7 mmである。
【0100】
(例8)
基材1は、ヨーロッパ特許出願公開第0644164 号明細書による組成を有し、より正確には次に掲げる組成(重量百分率でもって)を有する。
【0101】
SiO2 70.8 %
Al2O3 0.6 %
Na2O 13.8 %
K2O 0.10%
CaO 9.50%
MgO 4.10%
Fe2O3 (この形で表した全鉄分) 0.86%
TiO2 0.035 %
SO3 0.17%
FeO 0.28%
【0102】
二つの反射防止積重体は熱分解されたものであり、同一であり、そして、
・屈折率が1.83で幾何学的厚さが105 nmであるSiOxCyを基にした第一の層、
・幾何学的厚さが135 nmであるTiO2を基にした第二の層、
・屈折率が1.48で幾何学的厚さが107 nmである、先に明らかにされたSiOAlFx 製の第三の層、
を有する三層の積重体(図1b参照)の形をしている。
【0103】
(比較例8)
これは、例8と同じであるが反射防止コーティングのない基材を使用する。
【0104】
(例9)
例8との唯一の違いは、基材1が更に着色され、そしてなおヨーロッパ特許出願公開第0644164 号明細書の教示に従っていて、組成は例6の場合に示したそれと同一であることである。
【0105】
(比較例9)
これは、例9と同一の基材の同じ積層構造を使用するが、反射防止コーティングは何もない。
【0106】
下記の表4は、今回は光源Aの関数として測定した、先に説明した分光測光値を対照して示している。60°入射での、TL 、TE 、RL 、a* 及びb* の値も明記されている。
【0107】
【表4】

【0108】
この表では、積重体の層の厚さの選定を、法線入射でも60°入射でもTL の値を有意に増大させることにより、斜めの入射での反射防止効果を向上させるように前の一連のものと比べて変更したことを認めることができる。本発明にあって得られた選択率の上昇は、車室の加熱を減少させるために車両分野において最も特に有利である。表4から、本発明によって、斜め入射における選択率の場合において1.8 の障壁を超えることが可能であることが分かる。更に、本発明による積重体によって得られるTL の上昇は、積層体のTL の値を標準規格により課される75%の限界値未満に低下させるので従来は使用することができなかった低エネルギー透過率の基材を使用するのを可能とする。例9と比較例9とを参照すれば、これらはグレージングペインが法線入射でのTL の75%の限界を超えるのを可能にする反射防止積重体であることが分かる。従って、本発明は、ここでも透明性に関して過度に不利にされることなく車室の加熱を減少させるのに貢献するかなり大いに着色されたグレージングペインとしての使用を可能にする。
【0109】
最後の例10は、例8と同様である。
唯一の違いは、反射防止積重体を基材1の面1に堆積させ、この三層の積重体が屈折率が1.83で幾何学的厚さが102 nmであるSiOCの第一の層と、115 nmのTiO2の第二の層と、幾何学的厚さが80nmで屈折率が1.48であるSiOAlFx の第三の層を含み、そして更に、前述のフランス特許出願第95/10839号明細書に記載された、CVDで堆積させそして部分的に結晶化させたTiO2の10nmの最後の薄層を含み、比較的高屈折率のこの四番目の層が小さい厚さ(とりわけ最高でも20nm)に制限されるので、こうしてフロントガラスに追加の汚れ防止の機能性が、その反射防止機能に有意に不利に働くことなく付与されることにある。
【0110】
下記の表5は、そのようなグレージングペインの法線入射と60°入射での分光測光値を対照して示している。
【0111】
【表5】

【0112】
最後に、上記の全ての例の本発明による熱分解された積重体は、耐久性の点で優れた結果をもたらし、とりわけISO標準規格9227による中性のシランミスト試験に対する耐久性は少なくとも21日であり、またそれらを2000回転させるテーバー(Taber)試験と呼ばれる摩耗試験(この試験は、エラストマーに埋め込まれた研摩剤粉末を使用し、Taber Instrument Corp.社製の機械を使って行われ、この機械は"Standard Abrasion Tester"モデル174 の呼び名を持ち、研削砥石はS10Fタイプのもので500 gの荷重をかけられる)にかけたときのTL の変動は最大で3%である、ということに言及すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1a】二層の反射防止積重体を備えた基材を示す図である。
【図1b】三層の反射防止積重体を備えた基材を示す図である。
【図1c】四層の反射防止積重体を備えた基材を示す図である。
【図2】二つの反射防止積重体を備えた一体式グレージングペインを示す図である。
【図3】二つの反射防止積重体を備えた積層グレージングペインを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側の面のうちの少なくとも一方に「A」の反射防止コーティングを有し、その反射防止コーティングが交互に高屈折率と低屈折率を有する材料の層の積重体を含んでいるグレージングペインであって、当該積重体の層のうちの少なくとも一部のもの、とりわけ最終の層が、熱分解された層であることを特徴とするグレージングペイン。
【請求項2】
前記積重体のうちの最初の層が熱分解されており、そして最後の1又は2以上の層が真空で堆積させられていることを特徴とする、請求項1記載のグレージングペイン。
【請求項3】
前記積重体の全ての層がガラス基材(1、10)上で熱分解された層であることを特徴とする、請求項1記載のグレージングペイン。
【請求項4】
外側の面のうちの一方に一部のものが熱分解されている層の積重体を含む「A」の反射防止コーティングを有し、外側の面のうちの他方に同じタイプの「A’」の反射防止コーティングかあるいは、交互に高屈折率と低屈折率を有する材料の層であるがスパッタリングのような真空技術を使って堆積させた層の積重体をやはり含む「B」の反射防止コーティングを有することを特徴とする、請求項1から3までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項5】
前記反射防止の積重体における低屈折率の層(3、6、8、10)の屈折率が1.35〜1.70、好ましくは1.38〜1.65であり、前記高屈折率の層の屈折率が少なくとも1.85、とりわけ1.90〜2.60、好ましくは2.10〜2.45であることを特徴とする、請求項1から4までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項6】
前記「A」の反射防止コーティングにおいて、あるいは前記「A」、「A’」もしくは「B」の反射防止コーティングのうちの少なくとも一つにおいて、層のうちの最初の高屈折率層/低屈折率層の連続したもの(7、8)が屈折率1.70〜1.85の中間屈折率の層(4)と交換されている、とりわけ酸窒化ケイ素及び/又は酸炭化ケイ素SiOxNy及び/又はSiOxCyを基にした層、あるいは酸化スズを基にした層と交換されていることを特徴とする、請求項1から5までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項7】
前記熱分解された低屈折率の層(3、6、8、10)が、酸化ケイ素SiO2、酸窒化ケイ素及び/又は酸炭化ケイ素SiOxNy及び/又はSiOxCy、並びに随意にハロゲン化された、SiAlxOyFz タイプのケイ素とアルミニウムの混合酸化物を含む群から選ばれた1種の誘電材料又は複数種の誘電材料の混合物から作られていることを特徴とする、請求項1から6までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項8】
前記熱分解された高屈折率の層(2、5、7、9)が、TiO2、SnO2、ZnO 、ZrO2及びTa2O5 を含む群から選ばれた1種の誘電材料又は複数種の誘電材料の混合物から作られていることを特徴とする、請求項1から7までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項9】
単一のガラス基材(1)、好ましくは面1に「A」の反射防止コーティングをそして面2に同じタイプの「A’」の反射防止コーティングかあるいは真空で堆積させた「B」タイプの反射防止コーティングを備えたもの、から構成されていることを特徴とする、請求項1から8までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項10】
PVBのようなポリマー材料のシート(11)を用いて一緒に接合されていて、好ましくは面1に「A」の反射防止コーティングをそして面4に同じタイプの「A’」の反射防止コーティングかあるいは真空で堆積させた「B」タイプの反射防止コーティングを備えた、少なくとも2枚のガラス基材(1、10)を含む積層構造を有すること、又は、ガラス基材とポリウレタンのようなエネルギー吸収特性を示すポリマーの少なくとも1枚のシートとを含む非対称積層構造を有することを特徴とする、請求項1から8までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項11】
ガラス基材(1)あるいは当該グレージングペインの構成要素のガラス基材(1、10)のうちの少なくとも1枚が透明なガラス製であるか、あるいは全体に着色されたタイプの、エネルギー透過率の低下したガラス製、とりわけ光の透過率TL が50〜85%でエネルギーの透過率TE が30〜70%であるもの製であることを特徴とする、請求項1から10までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項12】
その一部分を形成するガラス基材が曲げ加工及び/又は熱処理されており、とりわけ徐冷又は強化されていて、当該反射防止コーティングがそれらの光学的特性に不利な影響を被ることなくこれらの操作を受けることができることを特徴とする、請求項1から11までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項13】
1以上の層から構成された、とりわけ誘電体/銀/誘電体タイプもしくは誘電体/銀/誘電体/銀/誘電体タイプの層から構成された、あるいはTiN のような窒化物タイプ、もしくは金属の、フィルター層を含む、日射防護機能を有するコーティングを少なくとも一つ含むことを特徴とする、請求項1から12までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項14】
警報機能を有する、とりわけ導電性層又は導電性ワイヤを配列したものの形をした、電気伝導性コーティングを少なくとも一つ含むことを特徴とする、請求項1から13までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項15】
当該グレージングペインに属するガラス基材のうちの内側面2、3の一方及び/又は他方に配置された日射防護機能を有するコーティング及び/又は警報機能を有するコーティングを備えた積層構造を有することを特徴とする、請求項13又は14記載のグレージングペイン。
【請求項16】
当該グレージングペインの「A」の反射防止コーティング、又は反射防止コーティングのうちの少なくとも一つが、光触媒特性を有し且つ汚れ防止機能を有するコーティング、とりわけ酸化チタンを基にしたコーティング、で覆われていることを特徴とする、請求項1から15までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項17】
前記「A」、「A’」、「B」の反射防止積重体の層の光学的厚さが、光の反射率RL を法線入射において1.5 %未満、とりわけ1.0 %未満、の値まで低下させるように選ばれることを特徴とする、請求項1から16までの一つに記載の一体式又は積層式グレージングペイン。
【請求項18】
前記「A」の反射防止積重体が、光学的厚さが15〜50nmである、とりわけ20〜40nmである、高屈折率の第一の層と、光学的厚さが160 〜200 nmである、とりわけ170 〜190 nmである、低屈折率の第二の層とを含む、二つの層を含んでいるか、あるいは、光学的厚さが100 〜140 nmである、とりわけ110 〜130 nmである、中間屈折率の第一の層と、光学的厚さが210 〜260 nmである、とりわけ230〜250 nmである、高屈折率の第二の層と、光学的厚さが100 〜150nmである、とりわけ110 〜140 nmである、低屈折率の第三の層とを含む、三つの層を含んでいることを特徴とする、請求項17記載のグレージングペイン。
【請求項19】
前記「A」、「A’」、「B」の反射防止積重体の層の光学的厚さと前記ガラス基材の性質が、光の反射率を法線入射では7%未満の値まで、60°入射では10%未満の値まで低下させ、法線入射での光の透過率TL を少なくとも75%の値にそして選択率TL /TE を少なくとも1.65、とりわけ少なくとも1.70の値に保つように選ばれることを特徴とする、請求項1から16までの一つに記載の一体式又は積層式グレージングペイン。
【請求項20】
前記「A」の反射防止積重体が、光学的厚さが160 〜210 nmである、とりわけ180 〜200 nmである、中間屈折率の第一の層と、光学的厚さが300 〜350 nmである、とりわけ320 〜340 nmである、高屈折率の第二の層と、光学的厚さが120 〜170 nmである、とりわけ145 〜165 nmである、低屈折率の第三の層とを含む、三つの層を含んでいることを特徴とする、請求項1から19までの一つに記載のグレージングペイン。
【請求項21】
建物のための内装又は外装グレージングペイン、商店のショーウィンドー、商店のカウンターとして、あるいは車両の窓ガラスとして、例えば側面窓ガラス、背面窓ガラス又はサンルーフとしての、請求項17又は請求項18記載のグレージングペインの使用。
【請求項22】
自動車又は列車タイプの車両のための風防ガラスとしての、とりわけ積層型のものとしての、請求項19又は20記載のグレージングペインの使用。
【請求項23】
絵画タイプの対象物を保護するためのグレージングペインとしての、コンピュータのための防眩保護スクリーンとしての、装飾ガラスとしての、ガラス調度品としての、鏡としての、あるいは火災保護、火炎遮断あるいは防火グレージングペイントしての、請求項1から20までの一つに記載のグレージングペインの使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247739(P2008−247739A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159460(P2008−159460)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【分割の表示】特願平9−540602の分割
【原出願日】平成9年5月14日(1997.5.14)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】