説明

反射防止板、及びその反射防止構造を製造する方法

【課題】反射防止板、及びその反射防止構造を製造する方法に関する。反射防止構造は、大気圧プラズマによって形成され、反射防止板の製造に必要な材料、時間及び費用を大幅に低減させる。
【解決手段】被処理物体を反応領域に提供する。次に、プラズマ源を反応領域に提供する。次いで、プラズマ源を解離して大気圧のプラズマを形成する。次に、被処理物体の表面をプラズマによって処理し、被処理物体の表面上に複数の微小突起を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年12月27日に出願された台湾出願第96150625号、及び2008年12月17日に出願された同第97149294号の利益を主張し、これらの主題は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は包括的に、反射防止板、及びその反射防止構造を製造する方法に関し、より詳細には、ナノメートルレベルの微小突起を有する反射防止構造を有する反射防止板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
反射防止技術は、広範な用途を有し、例えば、眼鏡、ディスク表面、TVのディスプレイ表面、コンピュータモニタ、デジタルカメラ、PDA、GPS、携帯電話、フロントガラス、飛行機及び車両のパネル表面、並びにショーウィンドウ及び生物医学用途が挙げられる。反射防止技術による処理後には、物体の表面が外部光源を反映して生じるグレア又はゴーストの発生が軽減され、また、さらに光エネルギーの利用率を増すためソーラーパネルの表面が使用される。したがって、画像ディスプレイの品質及び光エネルギーの利用率が顕著に改善される。
【0004】
現在の反射防止技術は、基材表面上に屈折率が異なる複数の薄膜の層を形成して反射率を低減するものである。現在の薄膜製造プロセスは、真空環境においてコーティングプロセスを行なうことが必要であるため、非常に時間と費用がかかるものとなる。さらに、多層薄膜の歩留まりは制御するのが非常に難しく、反射防止技術を使用する製品が非常に高価なものとなり、多く出回るようになるのが困難である。
【0005】
現在、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等は、上述したような反射防止板を形成する技術を開示している。しかし、時間及び費用がかかるというような問題は未だに解決されていない。その上、反射防止板の歩留まりを効率的に増加させることができていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4425022号明細書
【特許文献2】特開2004−107690号公報
【特許文献3】特開平11−61406号公報
【特許文献4】独国特許出願公開第2921178号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、反射防止板、及びその反射防止構造を製造する方法に関する。反射防止構造は、大気圧プラズマによって形成され、反射防止板の製造に必要な材料、時間及び費用を大幅に低減させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によると、反射防止構造を製造する方法が提供される。この方法は以下のステップを含む:まず、被処理物体を反応領域に提供する。次いで、プラズマ源を反応領域に提供する。次に、プラズマ源を解離して大気圧のプラズマを形成する。次いで、プラズマによって被処理物体の表面を処理し、被処理物体の表面上に複数の微小突起を形成する。
【0009】
本発明の第2の態様によると、反射防止構造を製造する方法が提供される。この方法は以下のステップを含む:まず、被処理物体を反応領域に提供する。次に、プラズマ源を反応領域に提供する。次いで、コーティングモノマーを反応領域に提供する。次に、プラズマ源を解離して大気圧のプラズマを形成し、プラズマがコーティングモノマーと反応することができるようにする。次いで、コーティングモノマーを被処理物体の表面上に堆積させて複数の微小突起を有する薄膜を形成する。
【0010】
本発明の第3の態様によると、入射面を有する反射防止板が提供される。反射防止板は、入射面に配置される複数の微小突起を含む。個々の微小突起の平均幅は10nm〜500nmの範囲内である。
【0011】
本発明は、好ましいが、限定するものではない実施形態の以下の詳細な説明から明らかとなる。以下の説明は添付の図面を参照してなされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態による、反射防止板の形成プロセスのフローチャートである。
【図2A】被処理物体及び大気圧プラズマ装置を示す図である。
【図2B】大気圧プラズマ処理後の反射防止板を示す図である。
【図2C】図2Bの反射防止板の部分拡大図である。
【図3A】プラズマ処理前後の、異なる光学波長下でのPMMA基材の透過率を比較する図である。
【図3B】プラズマ処理前後の、異なる光学波長下でのガラス基材の透過率を比較する図である。
【図3C】プラズマ処理前後の、異なる光学波長下での未研磨シリコンウェハの反射率を比較する図である。
【図3D】プラズマ処理前後の、異なる光学波長下での研磨済みシリコンウェハの反射率を比較する図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による、反射防止板の形成プロセスのフローチャートである。
【図5A】被処理物体及び大気圧プラズマ装置を示す図である。
【図5B】大気圧プラズマコーティングによって形成された反射防止板を示す図である。
【図5C】図5Bの反射防止板の部分拡大図である。
【図6】異なるコーティングモノマーによるプラズマコーティング前後の、異なる光学波長下でのガラス基材の透過率を比較する図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による、反射防止板の積層薄膜の形成プロセスのフローチャートである。
【図8】二重層の積層薄膜を有する反射防止板を示す図である。
【図9】プラズマ処理前、及び二重層の反射防止板を形成した後の、異なる光学波長下でのPC基材の反射率を比較する図である。
【図10】多層積層薄膜を有する反射防止板400aを示す図である。
【図11】プラズマ処理前、及び多層反射防止板を形成した後の、異なる光学波長下でのPC基材の反射率を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
大気圧プラズマ(Atmospheric Pressure Plasma)は、大気圧で、又は大気圧近くで生成されるプラズマである。従来の真空プラズマ技術と比較して、大気圧プラズマシステムは、高価で重い真空装置を必要としないため、費用の点で有利である。製造プロセスの点では、種々の要素は真空チャンバの制限を受けず、したがって連続的な大量生産に適用可能である。これらの技術は、製造費用を効果的に低減することができる。
【0014】
光が或る材料に投影されると、この材料が透明であるか否かを問わず、光の一部は反射する。そのような反射は、2つの透過媒質間の境界面において屈折率が急激に変化する場合に起こる。
【0015】
本発明の実施形態において開示される反射防止技術によると、生体工学的な蛾の眼構造が大気圧プラズマによって形成される。蛾の眼の角膜表面は微小突起を有しており、繰り返しパターンの寸法は光の波長よりも小さい。寸法が光学波長よりも小さい場合、光波は微小構造を認識せず、その結果、表面上で観測される屈折率は深さ方向に沿って徐々に変化する。したがって、2つの透過媒質間の境界面における屈折率の劇的な変化に起因して生じる反射が低減される。蛾の目と同様の周期的なナノメートルレベルの微小突起を形成する本発明の2つの実施形態は、物体の表面上の反射率を大きく低減することができる。本発明の反射防止構造を形成する方法は、以下の実施形態において詳述される。
【0016】
第1の実施形態
図1を参照すると、本発明の第1の実施形態による、反射防止板の形成プロセスのフローチャートが示されている。また、図2Aを参照すると、被処理物体及び大気圧プラズマ装置の図が示されている。まず、ステップ11に示すように、被処理物体100を反応領域6に提供し、ここで、表面101を露出している被処理物体100はプラットフォーム5上に、且つプラズマガン2の下に配置される。本発明の本実施形態では、被処理物体100は例えば基材である。被処理物体100の材料は、ガラス又はポリメチルメタクリレート(PMMA)を使用することができ、被処理物体100は、ディスプレイのハウジング、又はショウウィンドウとして使用することができる。或いは、被処理物体100は、ソーラーパネルを製造するためのシリコンウェハであってもよい。
【0017】
次に、ステップ12に示すように、プラズマ源を反応領域6に提供する。プラズマ源は、不活性ガス、空気、窒素、酸素、クロロフルオロカーボン(CFC)化合物ガス、及び炭化水素化合物ガスのうちの少なくとも1つである。不活性ガスの例としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトンが挙げられる。空気は例えばクリーンドライエア(CDA)である。クロロフルオロカーボン(CFC)化合物ガスは例えば四フッ化炭素(CF)である。炭化水素化合物ガスは例えばアセチレン(C)である。
【0018】
さらに、本発明の技術は上記のものに限定されない。被処理物体100の表面を処理する過程で、よりよい効果を達成するために、プラズマ源として使用されるガスは、被処理物体100に合わせて変えてもよい。例えば、被処理物体100の材料がガラス又はシリコンウェハである場合、好ましくはプラズマ源としてアルゴンが使用される。被処理物体100の材料がPMMAである場合、プラズマ源としては好ましくは窒素(N)と四フッ化炭素(CF)との混合ガスを使用する。
【0019】
次いで、ステップ13に示すように、反応領域6の圧力は、約760torrである大気圧に維持される。プラズマ源として使用されるガスを解離及び噴出させてプラズマ4を形成することができるように、プラズマガン2に電界が印加される。しかし、本発明の技術は上記に限定されない。反応領域6における圧力が100torr〜760torrに維持されるならば、やはり本発明の同じ効果を達成することができる。
【0020】
次に、工程14に示すように、被処理物体100の基材の表面がプラズマ4によって処理される。反応領域6における圧力はおよそ大気圧に維持されているため、反応領域6において発生するプラズマのイオン濃度は、低圧環境において発生するイオン濃度よりも高い。したがって、大気圧プラズマによって生成されるイオン衝撃、加熱効果、及びエッチング効果が増大し、よって、画一的な微小突起を被処理物体100の表面101上に形成することができる。
【0021】
本発明の本実施形態のステップ11〜14は、大気圧プラズマシステムにおいて行なわれるのが好ましく、これらのステップの順番は限定されない。大気圧プラズマシステムは、例えば、大気圧プラズマグロー放電、大気圧ジェットプラズマ、大気圧プラズマトーチ、大気圧表面誘電体バリア放電(surface dielectric barrier discharge)等のタイプのプラズマのうちの少なくとも1つを生成することができる。
【0022】
図2Bを参照すると、大気圧プラズマ処理後の反射防止板の図が示されている。反射防止板100aの処理後には、入射面101aが多くの周期的なナノメートルレベルの微小突起110を有する。図2Cを参照すると、図2Bの反射防止板の部分拡大図が示されている。好ましくは、微小突起110の平均幅D1は10nm〜500nmの範囲内であり、反射防止板100aの入射面101aに対する微小突起110の粗さは、100nmよりも小さい。本発明の本実施形態では、粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される。
【0023】
図3Aを参照すると、プラズマ処理前後の、異なる光学波長下でのPMMA基材の透過率を比較する図が示されている。図3Aに示すように、曲線31はプラズマ処理前のPMMA基材の透過率曲線であり、曲線32はプラズマ処理後のPMMA基材の透過率曲線である。図3Aに示すように、光学波長450nm〜750nm内でのPMMA基材の透過率は、プラズマ処理後に著しく改善される。
【0024】
図3Bを参照すると、プラズマ処理前後の、異なる光学波長下でのガラス基材の透過率を比較する図が示されている。図3Bに示すように、曲線33はプラズマ処理前のガラス基材の透過率曲線であり、曲線34及び35はそれぞれ、プラズマガンをガラス基材から7mmの距離及び5mmの距離に保った、プラズマ処理後のガラス基材の透過率曲線である。プラズマガンが基材に近づくほど、プラズマが有するエネルギーは高くなる。図3Bに示すように、ガラス基材の透過率は、プラズマ処理後に著しく改善される。
【0025】
図3C及び図3Dを参照する。図3Cは、プラズマ処理前後の、異なる光学波長下での未研磨シリコンウェハの反射率を比較する図である。図3Dは、プラズマ処理前後の、異なる光学波長下での研磨済みシリコンウェハの反射率を比較する図である。図3Cに示すように、曲線36はプラズマ処理前の未研磨単結晶シリコンウェハの反射率曲線であり、曲線37a及び37bはそれぞれ、プラズマ処理後の未研磨単結晶シリコンウェハの反射率曲線である。曲線37a及び曲線37bはそれぞれ、プラズマガンを単結晶シリコンウェハ表面から6mmの距離及び4mmの距離に保った、処理後の単結晶シリコンウェハの反射率である。図3Dに示すように、曲線38はプラズマ処理前の研磨済み単結晶シリコンウェハの反射率曲線であり、曲線39a及び39bはそれぞれ、プラズマ処理後の研磨済み単結晶シリコンウェハの反射率曲線である。曲線39a及び曲線39bはそれぞれ、プラズマガンを単結晶シリコンウェハ表面から6mmの距離及び4mmの距離に保った、単結晶シリコンウェハの反射率である。図3C及び図3Dに示すように、プラズマ処理後、シリコンウェハの反射率は大きく低減し、シリコンウェハから作製されたソーラーパネルの光利用率は大きく高まる。
【0026】
第2の実施形態
第2の実施形態の反射防止板は、大気圧プラズマコーティングによって微小突起を形成するという点において第1の実施形態の反射防止板とは異なる。図4を参照すると、本発明の第2の実施形態による反射防止板の形成プロセスのフローチャートが示されている。また、図5Aを参照すると、被処理物体及び大気圧プラズマ装置の図が示されている。
【0027】
まず、ステップ21に示すように、被コーティング物体200を反応領域6に提供し、ここで、表面201を露出している被コーティング物体200は、プラットフォーム5上に、且つプラズマガン2の下に配置される。本発明の本実施形態では、被コーティング物体200は例えば基材である。被コーティング物体200の材料は、ポリカーボネート(PC)、PMMA、シリコンウェハ又はガラスである。
【0028】
次に、ステップ22に示すように、プラズマ源を反応領域6に提供する。プラズマ源は、不活性ガス、空気、窒素、酸素、クロロフルオロカーボン(CFC)化合物ガス、及び炭化水素化合物ガスのうちの少なくとも1つである。不活性ガスの例としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトンが挙げられる。空気は例えばクリーンドライエアである。クロロフルオロカーボン(CFC)化合物ガスは例えば四フッ化炭素である。炭化水素化合物ガスは例えばアセチレンである。
【0029】
次いで、ステップ23に示すように、コーティングモノマーを反応領域6に提供する。ステップ23では、好ましくは、コーティングモノマーは、搬送ガスによって反応領域6へ搬送される。搬送ガスは、不活性ガス、空気、窒素、酸素、クロロフルオロカーボン(CFC)化合物ガス、及び炭化水素化合物ガスのうちの少なくとも1つを含む。コーティングモノマーは、酸化ケイ素、フッ化ケイ素酸化物(fluosilicate oxides)、金属酸化物、飽和炭化水素化合物、及び不飽和炭化水素化合物のうちの少なくとも1つを含む。酸化ケイ素の例としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、及びテトラエトキシシラン(TEOS)が挙げられる。フッ化ケイ素酸化物の例としては、フルオロアルキルシラン(FAS)が挙げられる。金属酸化物の例としては、チタンイソプロポキシド(TIP)及び硝酸亜鉛(Zn(NO)が挙げられる。飽和炭化水素化合物、不飽和炭化水素化合物の例としては、ヘキサフルオロベンゼン(C)、四フッ化炭素(CF)及びアセチレン(C)が挙げられる。
【0030】
次に、ステップ24に示すように、プラズマ源として使用されるガスを解離して大気圧のプラズマ4を形成し、プラズマ4がコーティングモノマーと反応することができるようにする。コーティングモノマーは、プラズマの高エネルギー電子又はイオンによってラジカル基又はより小さい構造に破壊されると、より容易に均一な薄膜を生成するように堆積する。
【0031】
次に、ステップ25に示すように、プラズマ破壊によって被コーティング物体200の基材表面201上に堆積したコーティングモノマーは、再重合されて複数の微小突起を有する薄膜を形成する。酸化ケイ素又はフッ化ケイ素酸化物がコーティングモノマーとして使用される場合に、酸化ケイ素薄膜が形成される。金属酸化物がコーティングモノマーとして使用される場合、金属酸化物薄膜が形成される。飽和炭化水素化合物又は不飽和炭化水素化合物がコーティングモノマーとして使用される場合、炭素薄膜又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜が形成される。
【0032】
図5Bを参照すると、大気圧コーティングにおいてプラズマによって形成される反射防止板の図が示されている。反射防止板200aは、コーティングによって形成される単層の反射防止薄膜210と、被コーティング物体200とを含む。反射防止薄膜210の入射面211は、多くの周期的なナノメートルレベルの微小突起215を有する。図5Cを参照すると、図5Bの反射防止板の部分拡大図が示されている。好ましくは、個々の微小突起215の平均幅D2は10nm〜500nmの範囲内であり、反射防止薄膜210の入射面211に対する微小突起215の粗さは100nmよりも小さい。本発明の本実施形態でも同様に、粗さは原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される。
【0033】
その上、上記で開示されたステップ21〜25は、好ましくは、被コーティング物体200の温度を制御することを含む。被コーティング物体200の温度は好ましくは、薄膜210がより良好な品質を有することができるように10℃〜100℃の範囲内である。
【0034】
同様に、本発明の本実施形態のステップ21〜25は、大気圧プラズマシステムにおいて行なわれるのが好ましく、これらのステップの順番は限定されない。大気圧プラズマシステムは、例えば、大気圧プラズマグロー放電、大気圧ジェットプラズマ、大気圧プラズマトーチ、大気圧表面誘電体バリア放電等のタイプのプラズマのうちの少なくとも1つを生成することができる。
【0035】
図6を参照すると、異なるコーティングモノマーによるプラズマコーティング前後の、異なる光学波長下でのガラス基材の透過率を比較する図が示されている。図6に示すように、曲線61はプラズマコーティング処理前のガラス基材の透過率曲線であり、曲線62、63及び64はそれぞれ、HMDSN、水素と窒素の混合ガス、及びアルゴンをガラス基材をコーティングするためのプラズマ源として使用したガラス基材の透過率曲線である。図6に示すように、どのガスがプラズマ源として使用されるかを問わず、ガラス基材の透過率はプラズマコーティング処理後に著しく改善される。
【0036】
図7は、本発明の第2の実施形態による、反射防止板の積層薄膜の形成プロセスのフローチャートである。図5Aに示す被コーティング物体及び大気圧プラズマ装置が、説明のためにここで用いられる。積層薄膜を形成するプロセスは、ステップ71から開始し、このステップは図4のステップ21と同様であり、ここでは繰り返さない。被コーティング物体200の材料は、PC、PMMA、シリコンウェハ又はガラスであり得る。この場合、被コーティング物体200の材料は例えばPCである。
【0037】
次に、ステップ72に示すように、第1のプラズマ源を反応領域6に提供する。このステップは図4のステップ22と同様であるためここでは繰り返さない。プラズマ源を駆動する方法によると、第1のプラズマ源は、交流(AC)プラズマ源又は高周波(RF)プラズマ源であり得る。第1のプラズマ源は例えばACプラズマ源である。
【0038】
次いで、ステップ73に示すように、第1のコーティングモノマーを反応領域6に提供する。このステップは図4のステップ23と同様であるためここでは繰り返さない。第1のコーティングモノマーは、酸化ケイ素、フッ化ケイ素酸化物、金属酸化物、飽和炭化水素化合物、及び不飽和炭化水素化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0039】
次に、ステップ74に示すように、第1のプラズマ源として使用されるガスを解離して大気圧のプラズマを形成し、プラズマが第1のコーティングモノマーと反応することができるようにする。このステップは図4のステップ24と同様であるためここでは繰り返さない。
【0040】
次いで、ステップ75に示すように、プラズマ破壊によって被コーティング物体200の基材表面201上に堆積された第1のコーティングモノマーは、再重合されて複数の第1の微小突起を有する第1の薄膜を形成する。図8を参照すると、二重層積層薄膜を有する反射防止板300aが示されている。第1のプラズマ源はACプラズマ源であるため、これによって、迅速に薄膜を形成し、第1の薄膜の構造を多孔質にすることができる。図8に示すように、第1の薄膜310は多孔質構造であり、複数の第1の微小突起315を有する。多孔質構造の反射率は、密な構造の反射率よりも小さい。
【0041】
酸化ケイ素又はフッ化ケイ素酸化物が第1のコーティングモノマーとして使用される場合、酸化ケイ素薄膜が形成される。金属酸化物が第1のコーティングモノマーとして使用される場合、金属酸化物薄膜が形成される。飽和炭化水素化合物又は不飽和炭化水素化合物が第1のコーティングモノマーとして使用される場合、炭素薄膜又はDLC薄膜が形成される。
【0042】
第2の薄膜の製造は以下のように行なわれる。ステップ76に示すように、第2のプラズマ源を反応領域6に提供する。第2のプラズマ源は、プラズマ源を駆動する方法において第1のプラズマ源とは異なり、したがって、異なる特性を有する薄膜構造を形成する。第2のプラズマ源はACプラズマ源又はRFプラズマ源であり得る。この実施形態において第1のプラズマ源はACプラズマ源であるため、第2のプラズマ源は例えばRFプラズマ源である。
【0043】
ステップ77に示すように、第2のコーティングモノマーを反応領域6に提供する。第2のコーティングモノマーの材料は、第1のコーティングモノマーの材料と同じであっても、又は異なっていてもよい。すなわち、第2のコーティングモノマーは、酸化ケイ素、フッ化ケイ素酸化物、金属酸化物、飽和炭化水素化合物、及び不飽和炭化水素化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0044】
次に、ステップ78に示すように、第2のプラズマ源として使用されるガスを解離して大気圧の別のプラズマを形成し、プラズマが第2のコーティングモノマーと反応することができるようにする。
【0045】
次いで、ステップ79及び図8に示すように、プラズマ破壊によって第1の薄膜310上に堆積された第2のコーティングモノマーは、再重合され、第1の微小突起315に対応する複数の第2の微小突起325を有する第2の薄膜320を形成する。第2のプラズマ源はRFプラズマ源であるため、薄膜を形成する速度はACプラズマ源の速度よりも遅い。したがって、第2の薄膜320の構造は、第1の薄膜310の構造より密であり且つより剛性であるため、下にある層を損傷から保護することができる。
【0046】
好ましくは、第2の薄膜(あるいは密な構造)320の厚さは5nm〜500nmの範囲内である。第1の薄膜310(あるいは多孔質構造)の厚さは5nm〜500nmの範囲内である。
【0047】
その後、ステップ80に示すように、積層薄膜の製造を終了するか否かを決定する。積層薄膜301が二重層構造として予め決められている場合、積層薄膜301の製造は終了する。そうでなければ、プロセスは、ステップ72に戻り、別の第1の薄膜310を形成する。
【0048】
図9は、プラズマ処理前、及び二重層の反射防止板300aを形成した後の、異なる光学波長下でのPC基材の反射率を比較する図である。曲線91はプラズマ処理前のPC基材の反射率曲線であり、曲線92はプラズマ処理後のPC基材の反射率曲線である。PC基材の反射率はプラズマ処理後に大きく低減されることが観察される。
【0049】
図10は、多層積層薄膜を有する反射防止板400aの図である。反射防止板400aは、3つの第1の薄膜410及び3つの第2の薄膜420を有する積層薄膜401を有するという点において反射防止板300aと異なる。第1の薄膜410及び第2の薄膜420は、物体200上に交互に積層され、この場合、第1の薄膜410はそれぞれ、RFプラズマ源によって形成される密な構造とすることができ、第2の薄膜420はそれぞれ、ACプラズマ源によって形成される多孔質構造とすることができる。
【0050】
第1の薄膜410(すなわち密な構造)及び第2の薄膜420(すなわち多孔質構造)の厚さは、同じであっても異なっていてもよい。好ましくは、各薄膜の厚さは5nm〜500nmの範囲内である。第1の薄膜410及び第2の薄膜420の配置は、最外層が、反射防止板400aを保護する密な構造すなわち剛性層である第1の薄膜410であるように、入れ替えてもよい。
【0051】
図11は、プラズマ処理前、及び多層反射防止板400aを形成した後の、異なる光学波長下でのPC基材の反射率を比較する図である。曲線111はプラズマ処理前のPC基材の反射率曲線であり、曲線112はプラズマ処理後のPC基材の反射率曲線である。この場合も、PC基材の反射率はプラズマ処理後に大きく低減されることが観察される。
【0052】
本発明の上記実施形態において開示された反射防止板及びその反射防止構造を製造する方法によると、模擬的な蛾の眼の表面構造が大気圧プラズマによって形成され、その結果、フレームを見ることを困難にするディスプレイ上の光反射の発生が低減し、入射光の割合を増加させることによって光の利用率が増加する。大気圧でのプラズマによる製造プロセスは、真空にするための時間を節減し、低費用材料を使用し、且つ汚染物質を生成しないという利点を有し、したがって製造費用を大きく低減する。表面処理方法及びコーティング方法の両方は物体の形状によって制限されず、したがって、複雑な幾何学的形状を有する基材上に反射防止構造を形成することができる。
【0053】
本発明の例として、好ましい実施形態に関して説明したが、本発明はこれらに限定されないことを理解されたい。逆に、本発明は、様々な変更形態並びに同様の構成及び手順をカバーすることが意図され、したがって添付の特許請求の範囲は、そのような変更形態並びに同様の構成及び手順を全て包含するように最も広範に解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止構造を製造する方法であって、
(a)被処理物体を反応領域に提供すること、
(b)プラズマ源を前記反応領域に提供すること、
(c)大気圧において前記プラズマ源を解離して、プラズマを形成すること、及び
(d)前記被処理物体の表面にプラズマ処理を行ない、該被処理物体の該表面上に複数の微小突起を形成すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記プラズマ源は、不活性ガス、空気、窒素、酸素、クロロフルオロカーボン(CFC)化合物ガス、及び炭化水素化合物ガスのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被処理物体はポリメチルメタクリレート(PMMA)製である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマ源はアルゴンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記被処理物体の材料はガラス又はシリコンウェハである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマ源はアルゴンと四フッ化炭素との混合ガスである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)〜(d)は大気圧プラズマシステムにおいて行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記大気圧プラズマシステムは、大気圧グロー放電、大気圧ジェットプラズマ、大気圧プラズマトーチ、及び大気圧表面誘電体バリア放電等のタイプのプラズマのうちの少なくとも1つを生成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反射防止構造を製造する方法であって、
(a)被コーティング物体を反応領域に提供すること、
(b)第1のプラズマ源を前記反応領域に提供すること、
(c)第1のコーティングモノマーを前記反応領域に提供すること、
(d)大気圧において前記第1のプラズマ源を解離し、前記第1のコーティングモノマーと反応するプラズマを形成すること、及び
(e)前記第1のコーティングモノマーを前記被コーティング物体の表面上に堆積し、複数の第1の微小突起を有する第1の薄膜を形成すること、
を含む、方法。
【請求項10】
前記被コーティング物体の温度を制御することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被コーティング物体の前記温度は、10℃〜100℃の範囲内である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記被コーティング物体の材料は、PMMA、シリコンウェハ、ポリカーボネート(PC)、及びガラスのうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のプラズマ源は、不活性ガス、空気、窒素、酸素、クロロフルオロカーボン化合物ガス、及び炭化水素化合物ガスのうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(c)において、前記第1のコーティングモノマーは搬送ガスによって前記反応領域へ搬送される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記搬送ガスは、不活性ガス、空気、窒素、酸素、クロロフルオロカーボン化合物ガス、及び炭化水素化合物ガスのうちの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のコーティングモノマーは、酸化ケイ素、フッ化ケイ素酸化物、金属酸化物、飽和炭化水素化合物、及び不飽和炭化水素化合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップ(a)〜(e)は大気圧プラズマシステムにおいて行なわれる、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記大気圧プラズマシステムは、大気圧グロー放電、大気圧ジェットプラズマ、大気圧プラズマトーチ、及び大気圧表面誘電体バリア放電等のタイプのプラズマのうちの少なくとも1つを生成する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(f)第2のプラズマ源を前記反応領域に提供すること、
(g)第2のコーティングモノマーを前記反応領域に提供すること、
(h)大気圧において前記第2のプラズマ源を解離し、前記第2のコーティングモノマーと反応する別のプラズマを形成すること、及び
(i)前記第2のコーティングモノマーを前記第1の薄膜上に堆積し、前記第1の微小突起に対応する複数の第2の微小突起を有する第2の薄膜を形成すること、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のプラズマ源を駆動する方法は、前記第2のプラズマ源を駆動する方法とは異なる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のプラズマ源は、交流プラズマ源又は高周波プラズマ源である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
入射面を有する反射防止板であって、該入射面に配置される複数の微小突起を有し、該微小突起それぞれの平均幅は10nm〜500nmの範囲内である、反射防止板。
【請求項23】
前記入射面に対する前記微小突起の粗さは、100nmよりも小さい、請求項22に記載の反射防止板。
【請求項24】
前記反射防止板の材料は、ガラス、シリコンウェハ、PC及びPMMAのうちの少なくとも1つを含む、請求項22に記載の反射防止板。
【請求項25】
基材と、
前記微小突起を有する、前記基材上に配置される単一層の薄膜と、
をさらに備える、請求項22に記載の反射防止板。
【請求項26】
基材と、
前記基材上に配置される積層薄膜であって、前記微小突起を形成する第1の薄膜及び第2の薄膜を少なくとも有し、前記第1の薄膜は前記基材及び前記第2の薄膜間に配置され、該第1の薄膜の反射率は、該第2の薄膜の反射率と同じではない、積層薄膜と、
をさらに備える、請求項22に記載の反射防止板。
【請求項27】
前記第1の薄膜の構造は、多孔質構造又は密な構造である、請求項26に記載の反射防止板。
【請求項28】
前記密な構造の厚さは、前記反射防止板が適用される光源の波長の約1/4である、請求項27に記載の反射防止板。
【請求項29】
前記多孔質構造の厚さは、5nm〜500nmの範囲内である、請求項27に記載の反射防止板。
【請求項30】
前記第1の薄膜の材料は、酸化ケイ素、フッ化ケイ素酸化物、金属酸化物、飽和炭化水素化合物、及び不飽和炭化水素化合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項26に記載の反射防止板。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−175729(P2009−175729A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−333873(P2008−333873)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(501274665)インダストリアル テクノロジー リサーチ インスティテュート (7)
【Fターム(参考)】