説明

反転オフセット印刷用除去版およびこれを用いた導電パターンの形成方法

【課題】反転オフセット印刷による導電パターン形成おいて、低解像度部と高解像度部が混在したパターンを形成することを可能にする除去版を提供する。
【解決手段】反転オフセット印刷による導電パターンの形成に用いられる除去版44において、凹部領域44aに、高さが凹部の深さ方向の距離と等しい複数の同一形状の凸部44bを規則的に配置し、凸部44bの版面での形状を円形とし、凹部領域44aの面積をS1、凸部44bの版面をなす面の面積の総和をS2とした時に、0.01≦(S2÷S1)≦0.2の関係を満足する除去版44とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反転オフセット印刷による導電パターンの形成に用いられる除去版および反転オフセット印刷による導電パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の低コスト化および微細化に対応するため、導電性パターンを印刷法により形成することが試みられている。
【0003】
微細なパターンが形成可能な印刷法として、反転オフセット印刷法が提案されている。(特許文献1参照)
【0004】
また、反転オフセット印刷法により導電性パターンを形成して電磁波シールドを作製することが提案されている。(特許文献2参照)
【0005】
反転オフセット印刷法について図2を用いて説明する。
【0006】
まず、剥離性表面を有するブランケット11aに、転写物を含むインク12を塗布乾燥してブランケット11a表面に転写物13aを形成する。(図2(b))
【0007】
次に、転写物13aを除去版14に密着させ離すことで、ブランケット11aに転写物13cを形成する。(図2(f))
【0008】
次に、転写物13cを被転写物15に密着させ離すことで、被転写物15にパターンを形成する(図2(i))印刷方法である。
【0009】
【特許文献1】特開2000−289320号公報
【特許文献2】特開2005−175061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、反転オフセット印刷法は、低解像度部と高解像度部が混在した導電性パターンを形成することは困難である。
【0011】
図3、図4を用いて説明する。
【0012】
図3は、凹部および凸部の壁面が版面にほぼ垂直に形成された除去版24と、ブランケット21bが接触している状態を説明するための断面図である。
【0013】
ブランケット21bは除去版24との接触時の圧力により変形する。
低解像度部28の凹部の開口巾に対して凹部の版深が小さい場合は、低解像度部28においては、その凹版領域の大部分にブランケット21bが接触してしまう。
これにより、ブランケット21bの除去版24凹部に接触した部分の転写物がブランケット21bから除去されてしまい、パターン内部の大部分が抜けてしまう。
【0014】
低解像度部28の凹版領域とブランケット21bの接触を避けるために除去版24の版深を深くすると、高解像度部29の凸部のアスペクト比(版深÷開口巾)が大きくなり、凸部の強度が低下するという問題が生じてしまう。
【0015】
図4は、除去版の形成方法の一例を説明するための断面図である。
【0016】
除去版となる基板36上にレジスト37が形成されており、ウェットエッチングすることにより除去版を形成する。
ウェットエッチングは等方的であり版深と同程度にサイドエッチングが生じる。
低解像度部28の版深を深くすると、高解像度部29の解像度が損なわれるという問題が生じてしまう。
【0017】
本発明の課題は、低解像度部と高解像度部が混在した導電パターンを形成することが可能な除去版、およびそれを用いた導電パターンの形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明は、反転オフセット印刷に用いられる除去版であって、該除去版の凹部領域に、高さ方向の距離が該凹部領域の深さ方向の距離以下である複数の凸部が形成されていることを特徴とする除去版である。
【0019】
請求項2に記載の発明は、前記凸部の高さ方向の距離が前記凹部領域の深さ方向の距離に等しく、前記凹部領域の面積をS1、前記凸部の版面をなす面の面積の総和をS2とした時に、0.01≦(S2÷S1)≦0.2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の除去版である。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記凸部の版面における形状が円であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の除去版である。
【0021】
請求項4に記載の発明は、前記凸部の形状が互いに同一であり、前記凸部が前記凹部に規則的に配置していることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の除去版である。
【0022】
請求項5に記載の発明は、反転オフセット印刷法によるパターン形成方法であって、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の除去版を用いてパターニングすることを特徴とするパターン形成方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1の発明は、反転オフセット印刷に用いられる除去版であって、該除去版の凹部領域に、高さ方向の距離が該凹部領域の深さ方向の距離以下である複数の凸部が形成することにより、ブランケットと除去版を接触することを防げ、低解像度部と高解像度部が混在した導電パターンを形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
まず、本発明の除去版を、図1を用いて説明する。
【0025】
凹部領域44aに、凹部領域44aの深さ方向の距離に等しい高さ方向の距離を持つ複数の凸部44bが形成されている。
【0026】
凸部44bを設けることで、反転オフセット印刷に際して、ブランケットが除去版の低解像度部に接触するのを防ぐことができる。
凸部44bはブランケットに接触するため、この部分は所望パターンから抜けてしまうが、所望パターンが導電パターンである場合は、凸部の凹部に対する面積率を小さくすればさほど問題にならない。
【0027】
凸部44bの凹部44aに対する面積率は、該凹部領域の面積をS1、該凸部の版面をなす面の面積の総和をS2とした時に、0.01≦(S2÷S1)≦0.2の関係を満たしている。
(S2÷S1)がこの範囲より小さい場合、凸部の形状や配置を最適化しても、凹部の大部分においてブランケットが接触することを避けるのは困難となる。
また、(S2÷S1)がこの範囲より大きい場合、凸部のブランケットへの接触によるパターン抜けが大きくなり、問題となる。
【0028】
凸部の形状は、異方性をできるだけ小さくするため、本例のように互いに同一、かつ、円形であることが好ましく、また、凸部は規則的に配置していることが好ましい。
規則的な配置としては、2次元格子の格子点に配置させる方法があるが、この中でも対称要素が多い六方格子が好ましい。
【0029】
凸部の大きさと数密度は、前記0.01≦(S2÷S1)≦0.2の関係を満たす範囲において、凹部の深さと開口の大きさにより適宜最適化される。
【0030】
除去版44は、材料としてガラス、ステンレス等の金属、各種レジスト材料などが用いられ、サンドブラスト、フォトリソエッチング、FIB(収束イオンビーム)などの方法で加工される。
【0031】
次に、本発明の導電パターンの形成方法を、図2を基に説明する。
【0032】
まず、剥離性表面を有するブランケット11aに、インク12を塗布乾燥してブランケット11a表面に転写物13aを形成する。(図2(b))
【0033】
ブランケット11aの材料としては、転写物13aの形成が可能で、除去版14による転写物13bの除去および被印刷物15への転写物13cの転写が可能なものが用いられる。
また、変形の少ない硬い材料が好ましいが、ある程度の柔軟性が必要である。
このような材料として、シリコーン系エラストマー、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム等を用いることができる。
また、ブランケット11a表面の濡れ性を調整するため、ブランケット11a表面に、フッ素樹脂およびシリコーンの塗工、プラズマ処理、UVオゾン洗浄処理などの表面処理を施してもよい。
【0034】
インク12の材料としては、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウムなどの金属微粒子分散液に、必要に応じ各種添加物を加えたものを用いることができる。
分散媒としては、ブランケットを膨潤変形させない水またはアルコール系が好ましい。
【0035】
導電性インク組成物のブランケット11aへの塗布法としては、バーコート、ダイコート、スピンコート法を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0036】
転写物13aの厚さは、パターン解像度にもよるが、通常10μm以下にする。
膜厚が10μmより大きいと、転写物13b除去工程や転写物13cの転写工程において、転写物の凝集破壊が生じ易くなり好ましくない。
【0037】
次に、転写物13aを除去版14に密着させ離すことで、ブランケット11aに転写物13cを形成する。(図2(f))
【0038】
転写物13aを除去版14に密着させ離す方法としては、ブランケットロールに巻き付けたブランケット11aが除去版14に接触する状態を保ちながらブランケットロールに巻き付けたブランケット11aを除去版14上で転がす方法を用いることができる。
【0039】
最後に、転写物13cを被転写物15に密着させ離して、被転写物15にパターンを形成する。(図2(i))
【0040】
転写物13cを被転写物15に密着させ離す方法としては、ブランケットロールに巻き付けブランケット11cを被転写物15に接触する状態でブランケットロールに巻き付けブランケット11cを被転写物15上で転がす方法を用いることができる。
【0041】
被転写物15の材料としては、転写物13cが転写可能で、熱処理に耐えられる物であれば良く、ソーダライムガラス、石英、シリコンウエハーや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリアリルレートなどを用いることができる。
【実施例】
【0042】
まず、基材として厚さ0.7mmのガラス板を用い、周知のウェットエッチング法で除去版を形成した。
除去版は100mm×100mmの版の中央付近に図1に示すパターンを100個×100個で配列させたものである。
図1に示すパターンの各部寸法は、領域が250μm×250μmに高解像度部ライン/スペース幅が5μm/5μm、低解像度部矩形が140μm×210μm、版深が2μmであった。
また、凸部は、版面での形状が円(半径3μm)であり、六方格子状に配列し、(S2÷S1)=0.08であった。
【0043】
次に、銀粒子水分散液(平均粒径20nm、住友電工製)にポリエチレンオキサイド(平均分子量10,000、アルドリッチ製)を、(ポリエチレンオキサイド/銀粒子/水)=(1/8/31)の重量比となるように溶解させインクを調製した。
【0044】
次に、東芝GE社製の2液型シリコーンゴムを、厚さ2mm、大きさ100mm×100mmに成形してブランケットを作製した。
【0045】
次に、ブランケットロールに巻き付けたブランケットにインクをバーコータ(#6)で塗布した後、室温で3分間乾燥させ、ブランケット上に転写物を形成した。
【0046】
次に、ブランケット上の転写物を除去版に密着させたのち剥離し、転写物のうち除去版に接触した部分をブランケットから除去し、パターン形成されたブランケットを得た。
【0047】
次に、ブランケット上の導電パターンを、厚さ0.7mm、大きさが100mm×100mmのソーダライムガラス基板上に密着させたのち剥離して、転写した。
【0048】
次に、これを200℃で30分間熱処理して導電パターンを形成した。
【0049】
得られた導電パターンを光学顕微鏡で観察したところ、低解像度部におけるパターン抜けは除去版の凸部に対応した部分のみであり、全体的なパターン抜けは生じなかった。
【0050】
<比較例>
実施例において除去版凹部に凸部を形成しないこと以外は、実施例1と同様の除去版を用いた。
また、実施例の除去版を用いないこと以外は、実施例と同様の方法で導電パターンを形成した。
【0051】
得られた導電パターンを光学顕微鏡で観察したところ、低解像度部におけるパターン抜けはパターン全域に及んでおり、導電パターンとして機能するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の反転オフセット印刷用除去版およびこれを用いた導電パターンの形成方法は、低解像度部と高解像度部が広く混在した導電パターンを形成することが可能となるので、配線基板、薄膜トランジスタ等の電子デバイスに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の除去版を説明するための図である。
【図2】反転オフセット印刷の工程を説明するための断面図である。
【図3】除去版とブランケットが接触している状態を説明するための断面図である。
【図4】ウェットエッチングによる除去版の作製方法を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0054】
11a・・・ブランケット
11b・・・転写物13aが形成された印刷用ブランケット
11c・・・転写物13cが形成された印刷用ブランケット
12・・・・(導電)インク
13a・・・(ブランケットの全面に形成された)転写物
13b・・・(除去版によりパターン除去された)転写物
13c・・・(ブランケットにパターン形成された)転写物
14・・・・除去版
15・・・・被転写物
21b・・・転写物が全面に形成されたブランケット
24・・・・凹部/凸部の壁面が版面にほぼ垂直に形成された除去版
28・・・・除去版24の低解像度部
29・・・・除去版24の高解像度部
36・・・・除去版となる基板
37・・・・レジスト
44・・・・本発明の除去版
44a・・・凹部領域
44b・・・凹部領域に形成された凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転オフセット印刷に用いられる除去版であって、該除去版の凹部領域に、高さ方向の距離が該凹部領域の深さ方向の距離以下である複数の凸部が形成されていることを特徴とする除去版。
【請求項2】
前記凸部の高さ方向の距離が前記凹部領域の深さ方向の距離に等しく、前記凹部領域の面積をS1、前記凸部の版面をなす面の面積の総和をS2とした時に、0.01≦(S2÷S1)≦0.2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の除去版。
【請求項3】
前記凸部の版面における形状が円であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の除去版。
【請求項4】
前記凸部の形状が互いに同一であり、前記凸部が前記凹部に規則的に配置していることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の除去版。
【請求項5】
反転オフセット印刷法によるパターン形成方法であって、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の除去版を用いてパターニングすることを特徴とするパターン形成方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−160769(P2007−160769A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361513(P2005−361513)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】