説明

受信回路

【課題】 伝達特性が不明な系を介して受信した信号を適応的に波形等化する際に、受信信号から復号される理想信号の品質が悪い場合には、適応フィルタの特性が最適解に収束するのに長時間かかり、あるいは最適解でない局所解に収束する。
【解決手段】 適応型波形等化回路1の前段において、信号検査手段13によって受信信号の品質を検査し信号の減衰量を計算し、その結果に基づいてブースト設定手段12によって所定の周波数帯域とそれらの周波数帯域に対する増幅率とを求め、波形整形手段11がブースト設定手段12によって求められた結果に応じて受信信号の特定の周波数帯域を特定の増幅率で強調する。これにより、後段の適応型波形等化回路1におけるフィルタ14の収束特性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信に用いたり、光ディスクや磁気ディスクのリードチャネルに用いたりすることができる適応型波形等化回路を含んだ受信回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波形等化回路とは、通信ケーブルなどの伝送路から受信した信号や、光ディスク、磁気ディスクなどから読み出しヘッドを介して受信した信号を適切な状態に整形する回路である。例えば、通信ではケーブル長や環境の温度などの条件によって信号の伝達特性が異なる。また、光ディスクや磁気ディスクでは読み出しヘッドに対するディスクの傾きやディスクの汚れなどで信号の品質が大きく異なる。このような様々な条件で歪んだ波形を理想的な状態に整形するために波形等化回路が必要とされている。
【0003】
波形等化回路は、基本的には信号が受信されるまでに通過してきた系が持つ伝達特性の逆特性を持ったフィルタで構成される。このフィルタは通常、複数の直列接続された遅延素子と、これらの遅延素子の出力にそれぞれタップ係数を乗ずる乗算器を備えた複数のタップと、それぞれのタップの出力を加算する加算器とで構成されたトランスバーサルフィルタである。フィルタの特性はタップ係数によって決定される。
【0004】
このような波形等化回路の中には、様々な条件の変化に伴う系の伝達特性の変動に対して適応的にフィルタ特性を変化させる適応型波形等化回路がある。適応型波形等化回路はケーブル長の変化などに柔軟に適応できるため、通信機器等で広く利用されている。適応型波形等化回路では、フィルタ出力と理想信号との差分に応じてタップ係数を順次更新し、フィルタ出力が理想信号に近づくようにフィルタ特性を合わせ込んでいく。タップ係数の更新アルゴリズムとしては最小平均二乗(LMS)アルゴリズムや逐次最小二乗(RLS)アルゴリズムなどが知られている。
【0005】
ギガビットLANなどの通信機器の場合、受信ノードにとっては、送信ノードが送信するデータやノード間を結ぶケーブルの伝達特性は未知であるため、理想信号がどういう信号波形か不明である。このため、フィルタ特性の合わせ込みに必要となる理想信号を受信信号から生成する必要がある。通常、理想信号の生成は復号器が行う。復号器はフィルタの出力信号を参照し、その振幅レベルを任意の閾値と比較して復号結果を決定する。このような復号器はスライサと呼ばれ、構造が簡易で高速に動作するが、特定の閾値に基づいてのみ復号結果を決定するため、入力信号の品質によっては復号結果の信頼性が低いという問題がある。これとは別に、受信信号が既知の規則に従ってデコードされている場合には、復号器としてビタビ復号器などを用いることも可能である。
【0006】
適応型波形等化回路のフィルタ特性の合わせ込みの初期の段階では、フィルタの出力信号は送信された信号とかけ離れたものである場合が多い。また、復号器が生成する理想信号もフィルタの出力信号をもとにしているので、理想信号自体が実際に送信された信号とは全く異なってしまう場合がある。このような状況では、フィルタ特性が最適解に収束するまでに非常に長い時間がかかるうえ、最悪の場合には信頼性の低い理想信号を参照したため最適解ではなく局所解に収束してしまう。
【0007】
このような問題点に対して、想定される使用条件下においてフィルタ特性が最適になる場合のタップ係数をそれぞれ予め求めておき、それらを使用される環境に応じて選択し、タップ係数の初期値として与える方法が提案されている。具体的には、磁気テープの読み出しにおいて、異なる種類のテープのタップ係数初期値を予め保持しておき、選択信号によって適切なタップ係数初期値を選択することによって、テープの種類が変わった場合もフィルタ特性が高速かつ正確に収束する。フィルタ出力は、温度変化などによって生じた等化誤差は含んでいるものの高品質な出力信号を動作初期から出力することができ、結果的に復号器によって生成される理想信号も信頼できる品質を備えたものとなる結果、フィルタ特性の収束時間が短縮され、局所解に落ち込む可能性も低減されるのである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−40907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、適応型波形等化回路のフィルタ特性を効率的に最適値に収束させる手法の1つとして、フィルタのタップ係数の初期値として予め用意されたものを用いる手法が提案されているが、フィルタに入力される信号品質が想定以上に悪い場合にはフィルタ出力の品質低下やこれに伴う理想信号の悪化が発生し、結果的にフィルタ特性が最適解に収束しない場合がある。
【0009】
ギガビットLANを例にとると、ケーブル長は100m以下ならばどのような長さでもよくケーブルの種類も複数存在する。また、送信側の性能も一意に決まるものではない。このため、系全体の伝達特性を予想することは困難であり、タップ係数の初期値を用意しておく手法は有効とはいえない。
【0010】
本発明の目的は、適応型波形等化回路に入力される信号の品質を、過剰なノイズの増加を抑えながら向上し、以て適応型波形等化回路においてフィルタ特性の最適解への収束を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による受信回路は、適応型波形等化回路の前段において、信号検査手段によって受信信号の品質を検査し信号の減衰量を計算し、その結果に基づいてブースト設定手段によって所定の周波数帯域とそれらの周波数帯域に対する増幅率とを求め、このブースト設定手段によって求められた結果に応じて波形整形手段が受信信号の特定の周波数帯域を特定の増幅率で強調することを特徴とする。
【0012】
本発明による他の受信回路は、適応型波形等化回路の前段において、フィルタ出力を参照するゲイン調整手段によって得られた信号の減衰量を計算し、その結果に基づいてブースト設定手段によって所定の周波数帯域とそれらの周波数帯域に対する増幅率とを求め、このブースト設定手段によって求められた結果に応じて波形強調手段が受信信号の特定の周波数帯域を特定の増幅率で強調することを特徴とする。
【0013】
本発明による信号検査手段は、受信信号の振幅を観測し理想振幅レベルとの差を減衰レベル信号として出力する振幅レベル検出手段を備える。
【0014】
別の構成では、本発明による信号検査手段は、受信信号の周波数成分を測定し低周波領域のスペクトル強度と高周波領域のスペクトル強度との比を減衰レベル信号として出力する減衰量判定手段を備える。
【0015】
これらの構成においては、ブースト設定手段は減衰量に応じたn通り(nは2以上の整数)のブーストする帯域と増幅率との組み合わせを示すブースト制御信号を保持した参照メモリを備え、減衰レベル信号に応じて一意のブースト制御信号を出力する。
【0016】
更に別の構成では、本発明による信号検査手段は、理想信号の周波数スペクトルの情報を理想信号メモリに保持しており、受信信号の周波数成分を検出、正規化した結果と比較を行い両者の差を出力し、ブースト設定手段は両者の差を低減するフィルタ設定をブースト制御信号として出力する。
【0017】
本発明による波形整形手段及び波形強調手段は、ブースト制御信号に応じて特定の周波数帯域を特定の増幅率で増幅する。
【0018】
また、本発明によるブースト設定手段は、例えば、通信コネクション確立のためのトレーニング期間のうちの特定の期間だけ動作し、それ以降は動作を停止し、ブースト制御信号を固定するよう制御される。
【発明の効果】
【0019】
このような手段を講じることで、本発明による受信回路は、適応型波形等化回路に入力される信号の品質を、過剰なノイズの増加を抑えながら向上することができ、適応型波形等化回路においてフィルタ特性の最適解への収束を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、任意の長さのケーブルで接続された機器間におけるデータ通信で用いられる波形等化回路を例として説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態を示すブロック図である。図1において、11は波形整形手段、12はブースト設定手段、13は信号検査手段、14はフィルタ、15は復号手段、16は演算器、17は適応制御手段、1は適応型波形等化回路を示す。
【0022】
本実施形態では、信号検査手段13において受信信号の状態を検査し、ブースト設定手段12はその検査結果に応じて波形整形手段11の特性を決定するブースト制御信号を出力する。波形整形手段11はブースト制御信号を受信し、それに応じて受信信号の強調を行い、かつフィルタ14の出力に応じて受信信号の増幅を行う。ここでいう受信信号の強調とは、信号に含まれる特定の周波数成分を増幅することを意味する。適応型波形等化回路1は、波形整形手段11によって整形された信号を受信し、フィルタ14で波形等化した結果を復号手段15で復号し、復号手段15で復号した結果を等化出力として出力する。その際、フィルタ14の特性は復号手段15の入出力の差分を考慮しながら適応制御手段17によって更新される。このように本発明における受信回路は、適応型波形等化回路1に入力される信号をその品質に応じて整形する構成となっている。
【0023】
図2は、図1中の波形整形手段11をトランスバーサルフィルタで構成した例を示す。波形整形手段11の最も簡易な構造は、図2のようなトランスバーサルフィルタによるものである。図2において30は遅延素子、31は乗算器、32aは加算器、32bはアンプである。乗算器31は、ブースト制御信号によって波形整形手段11の特性を決定するタップを構成する。つまり、ブースト設定手段12がブースト制御信号としてトランスバーサルフィルタのタップ係数を出力することで、受信信号の任意の周波数スペクトルを強調することが可能である。一方、アンプ32bの増幅率は、フィルタ14の出力が所定の振幅になるように調整される。
【0024】
図3は、信号検査手段13が受信信号の振幅レベルに注目して信号の品質の検査を行う構成における信号検査手段13及びブースト設定手段12を示す。図3において33は振幅レベル検出手段、34はスライサ、35は参照メモリである。
【0025】
振幅レベル検出手段33は、受信信号を一定期間観測し、信号の振幅レベルを記録する。一定期間経過後、記録した振幅レベルのうち最大振幅を抽出し、理想振幅レベルと比較を行う。理想振幅レベルとは、適応型波形等化回路1が受信信号を強調せずに入力された場合でも十分正確に波形等化できるような長さのケーブルを介して通信した場合に受信信号が取り得る最大振幅レベルである。なお、受信信号の最大振幅レベルではなく平均振幅レベルを参照してもよい。その場合、理想振幅レベルも平均振幅レベルを用いる。受信信号の振幅レベルはケーブルの距離に応じて減衰するので、理想振幅レベルとの比較により現在受信している信号がどの程度の長さのケーブルを介して送られてきているか推測することができる。振幅レベル検出手段33はこの推測結果を出力する。
【0026】
参照メモリ35は、例えば、50m、100m、150m、200mのケーブルにおける増幅すべき周波数帯域と増幅率とを示す情報をそれぞれ記憶している。このような情報はケーブルの周波数応答特性の測定によって容易に得ることが可能である。
【0027】
スライサ34は、振幅レベル検出手段33が出力した推定のケーブル長を特定の閾値に応じて参照メモリ35が情報を保持しているケーブル長に合致するように離散化する。例えば、参照メモリ35が50mと100mのケーブル情報を持っているとき、振幅レベル検出手段33が60mを示す推定値を出力した場合には50mと変換し、80mを示す推定値を出力した場合には100mと変換する。参照メモリ35はスライサ34の出力に対応する情報をブースト制御信号として出力する。
【0028】
図4は、信号検査手段13が受信信号の振幅レベルに注目して信号の品質の検査を行う別の構成における信号検査手段13及びブースト設定手段12を示す。図4において41は補間手段を示す。この構成では、振幅レベル検出手段33が出力する推定結果に基づいて参照メモリ35が候補となるブースト制御信号を出力し、補間手段41が推定結果に応じてブースト制御信号を補間し出力する。例えば、参照メモリ35が100m、200m及び300mのケーブルに関するブースト制御信号を保持しており、振幅レベル検出手段33が140mを示す推定結果を出力した場合には、参照メモリ35は100mと200mのケーブルに関するブースト制御信号を候補として出力し、補間手段41が特定の演算によって140mに適切なブースト制御信号を生成し出力する。補間手段41が行う特定の演算は、線形補間が最も容易に実現できるが、ケーブル特性に応じて別の補間法でもかまわない。
【0029】
図5は、信号検査手段13が受信信号の周波数成分に注目して信号の品質の検査を行う構成における信号検査手段13及びブースト設定手段12を示す。図5において51は減衰量判定手段である。
【0030】
図6は、受信信号の周波数成分の2例、すなわち10mのケーブルの場合と、100mのケーブルの場合とを示す。横軸が周波数、縦軸が受信信号のスペクトル強度である。この図6に示すように、ケーブル長が長くなるにつれて受信信号の周波数スペクトルは特に高周波領域で小さくなるという傾向を示す。
【0031】
図5に示した減衰量判定手段51は、このようなケーブルの周波数特性に基づいて、現在の受信信号がどの程度の長さのケーブルを介して送られてきているか推測する。ケーブル長の推測は低周波領域と高周波領域のスペクトル強度との比を取り、それを理想周波数比率と比較することで行うことができる。ケーブル長によるスペクトル強度の変化が顕著なのは高周波領域であるが、低周波領域との比を取ることで信号振幅の違いを正規化でき比較が容易になる。ここで、理想周波数比率とは適応型波形等化回路1が受信信号を強調せずに入力された場合でも十分正確に波形等化できるような長さのケーブルを介して通信した場合に受信信号が取り得る周波数スペクトルの低周波成分と高周波成分の比率である。
【0032】
また、別の推測方法として、減衰量判定手段51で受信信号を理想振幅値に増幅した後に周波数特性を抽出し、高周波領域に関して理想スペクトル強度との差を推定結果とする方法を用いてもよい。ここで理想振幅値とは、理想スペクトル強度を求めた際のケーブル長で通信された際の受信信号の振幅値である。
【0033】
このような方法によって減衰量判定手段51が出力するケーブル長の推定値はスライサ34によって参照メモリ35が情報を保持している離散的なケーブル長に合致するように変換する。参照メモリ35は、スライサ34の出力に対応する情報をブースト制御信号として出力する。
【0034】
図7は、信号検査手段13が受信信号の周波数成分に注目して信号の品質の検査を行う別の構成における信号検査手段13及びブースト設定手段12を示す。この構成は、図4に示した受信信号の振幅レベルに注目して信号の品質の検査を行う構成と同様に、参照メモリ35が保持している離散的な情報に基づいて減衰量判定手段51が出力する推定結果に適したブースト制御信号を補間手段41によって生成する。補間手段41が行うブースト制御信号の生成は、図4に示す構成と同様、線形補間が最も容易に実現できるが、ケーブル特性に応じて別の補間法でもかまわない。
【0035】
図8は、信号検査手段13が受信信号の周波数成分に注目して信号の品質の検査を行う更に別の構成における信号検査手段13及びブースト設定手段12を示す。図8において73は信号特性検出手段、74は比較手段、75は理想信号メモリ、76はブースト制御信号生成手段を示す。
【0036】
信号特性検出手段73は、受信信号を一定期間受信し、その各周波数のスペクトル強度を検出する。この検出は一般的に知られているフーリエ変換を用いることで容易に実現できる。この検出結果は比較手段74によって理想信号メモリ75の内容と比較される。ここで、理想信号メモリ75は理想状態における各周波数のスペクトル強度を記憶している。理想状態とは、適応型波形等化回路1が受信信号を強調せずに入力されても十分に波形等化できるケーブル長で通信している状態を意味する。
【0037】
比較手段74における比較では、信号が持つスペクトル強度が信号の減衰率に影響を受けるため、実際の受信信号と理想状態での受信信号との振幅レベルを同等にしておかなければならない。このため、理想信号メモリ75は理想状態における信号の振幅レベルを保持しており、それを受けて、信号特性検出手段73は出力するスペクトル強度の検出結果を正規化する。この正規化は、受信信号の振幅レベルを検出しておき、理想信号メモリ75が示す理想状態での振幅レベルとの比較によって減衰率を算出し、これをもとに増幅した受信信号をフーリエ変換することで行われる。もちろん、振幅レベルを参照せずに、受信信号と理想信号メモリ75が保持する理想状態の信号との低周波領域のスペクトル強度の比率を減衰率として用い、受信信号のフーリエ変換の結果の各周波数のスペクトル強度を、得られた減衰率をもとに増幅してもよい。この場合、理想信号メモリ75は理想状態での振幅レベルを保持する必要はなく、信号特性検出手段73は受信信号の振幅レベルを検出する必要はない。
【0038】
比較手段74の出力は、理想状態に対する受信信号の各周波数成分における差分を示している。この差分に基づいてブースト制御信号生成手段76は、波形整形手段11の特性を決定する。特性の決定方法としては、各周波数成分におけるスペクトル強度の差分の大きさに基づいて、フィルタの阻止域、通過域を設定する方法があげられる。すなわち、スペクトル強度の差分がある閾値より小さい場合にはその周波数帯域を阻止域と設定し、大きい場合には通過域と設定して差分の大きさに応じて増幅率を設定する。ブースト制御信号生成手段76は、このようにして設定したフィルタ特性を実現するタップ係数をブースト制御信号として波形整形手段11に出力する。この場合、波形整形手段11は、図2に示したようなトランスバーサルフィルタの出力を受信信号に加算する構造以外に、ブースト制御信号が阻止域として設定した周波数帯域をそのまま出力し、通過域として設定した周波数帯域を同じくブースト制御信号が設定する増幅率で増幅して出力するフィルタで構成されていてもよい。
【0039】
なお、ここまで示した第1実施形態では、信号検査手段13は受信信号を入力としていたが、波形整形手段11の出力を参照するフィードバック制御を行ってもよい。
【0040】
図9は、本発明の第2実施形態を示すブロック図である。図9において、21は波形強調手段、22はブースト設定手段、23はゲイン調整手段である。ゲイン調整手段23はフィルタ14の出力信号の振幅に基づいて適応型波形等化回路1の入力信号の振幅レベルを変化させる。つまり、図9中の波形強調手段21及びゲイン調整手段23からなるブロックは、図2に示した波形整形手段11と同様の回路構成を持つ。通常、通信に用いられるケーブルが長いほど受信信号の振幅レベルは減衰しているため、フィルタ14の出力信号を理想振幅レベルにするにはゲイン調整手段23は入力信号を増幅させることになる。この増幅率は通信開始直後に求められる。ブースト設定手段22はこの増幅率を参照し、波形強調手段21の特性を制御する。
【0041】
第2実施形態のブースト設定手段22は、前述の第1実施形態のブースト設定手段12と同じ構成で同様の動作を行う。すなわち、ブースト設定手段22は、参照メモリ35が保持する情報に対応する離散化した増幅率をゲイン調整手段23が出力する場合には、図3又は図5に示す参照メモリ35を備えている。この場合、参照メモリ35はある特定の増幅率の場合のブースト制御信号を保持しており、入力された増幅率に応じて波形強調手段21に対してブースト制御信号を選択、出力する。
【0042】
また、ブースト設定手段22は、出力する増幅率の離散化をゲイン調整手段23が行わない場合には、図4又は図7に示す補間手段41と参照メモリ35とを備えた構造となっている。この場合、ブースト設定手段22は減衰率を受信し、参照メモリ35は受信した減衰率に最も適当と思われるブースト制御信号を選択、出力する。補間手段41は参照メモリ35が出力したブースト制御信号と減衰率とをもとに補間処理を行い、その結果を最終的なブースト制御信号として波形強調手段21に出力する。ここで行われる補間処理は、第1実施形態に示す構成と同様、線形補間が最も容易に実現できるが、ケーブル特性に応じて別の補間法でもかまわない。
【0043】
なお、ここまでに述べた構成においてブースト設定手段12,22は通信の特定期間のみ動作して、それ以外の期間は動作を停止し、第1実施形態においては波形整形手段11を、第2実施形態においては波形強調手段21をその期間に生成されたブースト制御信号によって規定される特性に固定してもよい。一般に適応型波形等化回路を備える受信回路はトレーニング期間と呼ばれる期間を必要とするが、この期間内のある一定期間のみブースト設定手段12,22を動作させ、それ以後は動作を停止すればよい。
【0044】
トレーニング期間は、送信側、受信側双方に既知の規則に従った信号をやり取りし、フィルタ14の特性を理想的な状態に近づけていく期間である。トレーニング期間中に受信する信号が既知の信号であるということは、振幅レベル検出手段33における理想振幅レベルや減衰量判定手段51における理想周波数比率、更には理想信号メモリ75に保持される理想スペクトルを一意に得ることができることを意味する。このため、ランダムに変化する通常通信期間の信号についてブースト設定手段12,22を動作させるよりは、より精度の高い動作が可能である。更に、ブースト設定手段12,22が停止している間、信号検査手段13やゲイン調整手段23を同時に停止することで消費電力の削減という効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかる受信回路は、受信信号の品質に応じて適応的に信号を事前に補正することで、適応型波形等化回路における波形等化の効率を向上するという特徴を有し、通信における波形等化や、光ディスク及び磁気ディスクのリードチャネルシステムにおける波形等化への適用技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による受信回路の第1の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1中の波形整形手段をトランスバーサルフィルタで構成した例を示すブロック図である。
【図3】信号の振幅レベルに注目した場合の図1中の信号検査手段及びブースト設定手段の例を示すブロック図である。
【図4】信号の振幅レベルに注目した場合の図1中の信号検査手段及びブースト設定手段の別の例を示すブロック図である。
【図5】信号の周波数成分の比率に注目した場合の図1中の信号検査手段及びブースト設定手段の例を示すブロック図である。
【図6】ケーブル長が異なる場合の受信信号の周波数特性の違いを示す図である。
【図7】信号の周波数成分の比率に注目した場合の図1中の信号検査手段及びブースト設定手段の別の例を示すブロック図である。
【図8】信号の周波数スペクトルに注目した場合の図1中の信号検査手段及びブースト設定手段の更に別の例を示すブロック図である。
【図9】本発明による受信回路の第2の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 適応型波形等化回路
11 波形整形手段
12 ブースト設定手段
13 信号検査手段
14 フィルタ
15 復号手段
16 演算器
17 適応制御手段
21 波形強調手段
22 ブースト設定手段
23 ゲイン調整手段
30 遅延素子
31 乗算器
32a 加算器
32b アンプ
33 振幅レベル検出手段
34 スライサ
35 参照メモリ
41 補間手段
51 減衰量判定手段
73 信号特性検出手段
74 比較手段
75 理想信号メモリ
76 ブースト制御信号生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の波形等化を行うフィルタと、
前記フィルタの出力信号を復号する復号手段と、
前記復号手段の入出力信号に基づいて前記フィルタの特性を適応的に調整する適応制御手段と、
受信信号の品質を検査する信号検査手段と、
前記信号検査手段の出力に応じてブーストする量とブーストする帯域とを示すブースト制御信号を出力するブースト設定手段と、
前記ブースト制御信号に応じて前記受信信号を波形整形し前記受信信号の振幅レベルを調整する波形整形手段とを備え、
前記波形整形手段の出力信号を前記フィルタに入力することを特徴とする受信回路。
【請求項2】
波形等化の結果に応じて信号の振幅レベルを調整するゲイン調整手段と、
前記ゲイン調整手段の出力信号の波形等化を行うフィルタと、
前記フィルタの出力信号を復号する復号手段と、
前記復号手段の入出力信号に基づいて前記フィルタの特性を適応的に調整する適応制御手段と、
前記ゲイン調整手段の出力に応じてブーストする量とブーストする帯域とを示すブースト制御信号を出力するブースト設定手段と、
前記ブースト制御信号に応じて前記受信信号を波形整形する波形強調手段とを備え、
前記波形強調手段の出力信号を前記ゲイン調整手段に入力することを特徴とする受信回路。
【請求項3】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、前記受信信号の振幅を観測し理想振幅レベルとの差を減衰レベル信号として出力する振幅レベル検出手段と、前記減衰レベル信号をn個(nは2以上の整数)のランクのいずれかに分類するスライサとから構成され、
前記ブースト設定手段は、ブースト量とブースト帯域とのn個の組み合わせを示すブースト制御信号を保持し前記スライサが決定するランクに対応するブースト制御信号を選択し出力する参照メモリから構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項4】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、前記受信信号の振幅を観測し理想振幅レベルとの差を減衰レベル信号として出力する振幅レベル検出手段から構成され、
前記ブースト設定手段は、ブースト量とブースト帯域とのn個(nは2以上の整数)の組み合わせを示すブースト制御信号を保持し前記減衰レベル信号に応じて保持した前記ブースト制御信号を選択し出力する参照メモリと、前記参照メモリが出力する前記ブースト制御信号を前記減衰レベル信号に基づいて所定の補正を行い出力する補間手段とから構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項5】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、前記受信信号の周波数スペクトルを観測し低周波領域のスペクトル強度と高周波領域のスペクトル強度との比を計算し理想状態での低周波領域のスペクトル強度と高周波領域のスペクトル強度との比と比較し減衰レベル信号として出力する減衰量判定手段と、前記減衰レベル信号をn個(nは2以上の整数)のランクのいずれかに分類するスライサとから構成され、
前記ブースト設定手段は、ブースト量とブースト帯域とのn個の組み合わせを示すブースト制御信号を保持し前記スライサが決定するランクに対応するブースト制御信号を選択し出力する参照メモリとから構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項6】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、前記受信信号の周波数スペクトルを観測し低周波領域のスペクトル強度と高周波領域のスペクトル強度との比を計算し理想状態での低周波領域のスペクトル強度と高周波領域のスペクトル強度との比と比較し減衰レベル信号として出力する減衰量判定手段から構成され、
前記ブースト設定手段は、ブースト量とブースト帯域とのn個(nは2以上の整数)の組み合わせを示すブースト制御信号を保持し前記減衰レベル信号に応じて保持した前記ブースト制御信号を選択し出力する参照メモリと、前記参照メモリが出力する前記ブースト制御信号を前記減衰レベル信号に基づいて所定の補正を行い出力する補間手段とから構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項7】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、前記受信信号の振幅を理想状態の振幅まで増幅し周波数スペクトルを抽出し理想状態での周波数スペクトルと比較し減衰レベル信号として出力する減衰量判定手段と、前記減衰レベル信号をn個(nは2以上の整数)のランクのいずれかに分類するスライサとから構成され、
前記ブースト設定手段は、ブースト量とブースト帯域とのn個の組み合わせを示すブースト制御信号を保持し前記スライサが決定するランクに対応するブースト制御信号を選択し出力する参照メモリから構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項8】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、前記受信信号の振幅を理想状態の振幅まで増幅し周波数スペクトルを抽出し理想状態での周波数スペクトルと比較し減衰レベル信号として出力する減衰量判定手段から構成され、
前記ブースト設定手段は、ブースト量とブースト帯域とのn個(nは2以上の整数)の組み合わせを示すブースト制御信号を保持し前記減衰レベル信号に応じて保持した前記ブースト制御信号を選択し出力する参照メモリと、前記参照メモリが出力する前記ブースト制御信号を前記減衰レベル信号に基づいて所定の補正を行い出力する補間手段とから構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項9】
請求項1記載の受信回路において、
前記信号検査手段は、トレーニング信号の理想周波数スペクトルを保持する理想信号メモリと、前記受信信号の周波数成分を観測し前記理想信号メモリの出力に応じて正規化する信号特性検出手段と、前記信号特性検出手段の出力と前記理想信号メモリの出力とを比較し周波数スペクトルの差分を出力する比較手段とから構成され、
前記ブースト設定手段は、前記周波数スペクトルの差分に基づいて前記波形整形手段の特性を制御するブースト制御信号生成手段から構成されたことを特徴とする受信回路。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の受信回路において、
前記ブースト設定手段は、前記フィルタのトレーニング期間内の特定の期間だけ動作しそれ以降は動作を停止し、前記波形整形手段又は前記波形強調手段の特性を固定することを特徴とする受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−109207(P2006−109207A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294745(P2004−294745)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】