説明

受信感度簡易評価システム及びその方法

【課題】無線通信機の信号ラインからの輻射ノイズによる受信感度劣化を模擬的に測定して、正確且つ簡易に受信感度評価を行うことができる受信感度簡易評価システム及びその方法を提供することを目的とする。
【解決手段】受信感度簡易評価システムはGTEMセル1とテストセット2と模擬配線装置4とを備える。模擬配線装置4は、携帯電話機3内部のノイズ発生源となるケーブル状の信号ラインを模擬した装置であり、ケーブル40と、信号をケーブル40に送出する信号発生器41とを有している。所定速度の信号を信号発生器41からケーブル40に送出すると共に、所定周波数帯の信号Sをテストセット2から携帯電話機3に送信すると、ケーブル40から輻射するノイズとテストセット2からの信号Sとが携帯電話機3に受信され、その受信感度が、テストセット2によって測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯電話機などの無線通信機における電波受信感度の特性を評価するための受信感度簡易評価システム及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の受信感度評価システムとしては、例えば、特許文献1に開示の技術がある。
この技術は、図10に示すように、情報を、シグナルジェネレータ202から測定用アンテナ201を通じて携帯電話機100に送信し、携帯電話機100の受信感度を、携帯電話機100で受信された情報のビットエラーレートに基づいて評価するシステムである。具体的には、情報のビットエラーレートを算出する算出手段と、算出手段で算出されたビットエラーレートを数値から電波に変換する第1変換手段と、第1変換手段によって変換された電波を、アンテナ101を通じて、シグナルジェネレータ202側へ返信する返信手段とが、携帯電話機100に設けられている。また、返信手段によって返信された電波のレベルを読み取るスペクトラムアナライザ203と、スペクトラムアナライザ203で読み取られた電波のレベルを数値に変換するパーソナルコンピュータ204とが、シグナルジェネレータ202側に設けられている。
かかる構成により、携帯電話機100の受信状態において、どのチャンネルの受信感度が劣化するかを測定することができる。
チャンネルの受信感度を劣化させる原因は、このチャンネルが使用する周波数帯にあたるノイズである。
したがって、このノイズの発生源が携帯電話機100のケーブル状の信号ライン102である場合には、図示しないフィルタを、この信号ライン102に挿入することで、自己中毒を最小限に抑えた携帯電話機100を設計することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−188787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の受信感度評価システムでは、次のような問題がある。
通常、ノイズN1が、携帯電話機100のケーブル状の信号ライン102から輻射されると、このノイズN1が、携帯電話機100のアンテナ101に受信され、ビットエラーが信号に発生して、携帯電話機100の受信感度が劣化する。したがって、ノイズ発生源がこの信号ライン102に限られるのであれば、この信号ライン102に図示しないフィルタを挿入することで、受信感度の劣化を防止することができる。
しかしながら、近年、携帯電話機100の高機能化に伴い、携帯電話機100内部の電子部品103や信号ライン102が、基板に高密度に実装される傾向にある。このため、信号ライン102からのノイズN1だけでなく、電子部品103から輻射したノイズN2もアンテナ101で受信されることとなる。
したがって、信号ライン102にノイズ源があると想定し、フィルタを信号ライン102に実装して、ノイズ対策を施しても、アンテナ101が、信号ライン102からのノイズN1だけでなく、他の電子部品103からのノイズN2をも拾ってしてしまう。かかる状態では、他の電子部品103からのノイズN2が邪魔になり、フィルタが信号ライン102からのノイズN1に効いているのか否かを判断することができず、正確な受信感度評価を行うことができない。
【0005】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、無線通信機の信号ラインからの輻射ノイズによる受信感度劣化を模擬的に測定して、正確且つ簡易に受信感度評価を行うことができる受信感度簡易評価システム及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、被試験物である無線通信機を内部に収納したTEMセル(Transverse ElectroMagnetic cell)と、このTEMセルの同軸コネクタに同軸ケーブルを通じて接続され、無線通信機の受信感度を測定する測定装置と、無線通信機内部の所定の配線を模擬した模擬配線装置とを備える受信感度簡易評価システムであって、無線通信機は、信号を受信するための受信部と、当該受信部で受信した信号の符号誤り率を算出する符号誤り率算出部と、当該符号誤り率算出部で算出された符号誤り率を示す情報を送信する送信部とを有し、測定装置は、所定の周波数帯の信号を送信する送信部と、無線通信機からの情報を受信する受信部と、当該受信部で受信した情報が示す符号誤り率に基づいて、無線通信機の受信感度を導出する受信感度導出部とを有し、模擬配線装置は、無線通信機内のノイズ発生源となるケーブル状の信号ラインと同一構造であって一方端が整合終端されたケーブルが、無線通信機に隣接された状態で、TEMセル内に収納されると共に、信号を当該ケーブルに送出するための信号発生器が、TEMセルの外部に配された状態で、ケーブルの他方端に接続された構成をなす。
かかる構成により、無線通信機内に設けられたケーブル状の信号ラインに伝送される信号と同等の信号を、模擬配線装置の信号発生器からTEMセル内のケーブルに送出することができると共に、測定装置の送信部から、所定の周波数帯の信号をTEMセル内の無線通信機に送信することができる。
このとき、上記信号速度に対応した所定周波数のノイズが、模擬配線装置のケーブルから輻射されると、このノイズと測定装置の送信部からの所定の周波数帯の信号とが、無線通信機の受信部に受信される。そして、無線通信機の符号誤り率算出部によって、受信した信号の符号誤り率が算出され、算出された符号誤り率を示す情報が無線通信機の送信部から測定装置に送信される。
すると、無線通信機からの情報が測定装置の受信部によって受信された後、測定装置の受信感度導出部によって、この情報が示す符号誤り率に基づいて、無線通信機の受信感度が導出される。
したがって、ユーザは、測定装置が導出したこの受信感度を確認することで、無線通信機の受信感度が、模擬配線装置からのノイズによってどの程度抑圧されているかを知ることができる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の受信感度簡易評価システムにおいて、TEMセルは、GTEMセルであり、無線通信機は、GSM対応の携帯電話機である構成とした。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の受信感度簡易評価システムにおいて、模擬配線装置のケーブルは、差動伝送路であり、模擬配線装置の信号発生器は、差動信号をケーブルに送出する機器である構成とした。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の受信感度簡易評価システムを用いて、無線通信機の受信感度を評価するための受信感度簡易評価方法であって、模擬配線装置の信号発生器によって、所定速度の信号をケーブルに送出すると共に、測定装置によって、所定の周波数帯内の信号を無線通信機に送信する第1の過程と、測定装置によって、無線通信機から送信された情報を受信し、当該無線通信機の受信感度を測定させる第2の過程とを具備する構成とした。
かかる構成により、第1の過程を実行することで、模擬配線装置の信号発生器によって、所定速度の信号をケーブルに送出すると共に、測定装置によって、所定の周波数帯内の信号を無線通信機に送信することができる。
このとき、上記信号速度に対応した所定周波数のノイズが、模擬配線装置のケーブルから輻射されると、このノイズと測定装置からの信号とが、無線通信機の受信部に受信される。そして、無線通信機の符号誤り率算出部によって、受信した信号の符号誤り率が算出され、算出された符号誤り率を示す情報が無線通信機の送信部から測定装置に送信される。
これにより、第2の過程を実行することによって、無線通信機から送信された情報が測定装置に受信され、測定装置によって、当該無線通信機の受信感度が測定される。
したがって、ユーザは、測定装置が測定したこの受信感度を確認することで、無線通信機の受信感度が、模擬配線装置からのノイズによってどの程度抑圧されているかを知ることができる。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の受信感度簡易評価方法において、模擬配線装置の信号発生器からの信号によって生じるノイズを除去するためのフィルタを信号発生器とケーブルの他方端との間に介設した状態で、第1の過程を実行する構成とした。
かかる構成により、無線通信機の受信感度が、模擬配線装置からのノイズによって抑圧されていることを確認した場合には、当該第1の過程を実行し、フィルタを、模擬配線装置の信号発生器とケーブルの他方端との間に介設することにより、当該ノイズを除去することができる。これにより、ノイズによる受信感度の抑圧を低減させ、受信感度を改善することができる。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の受信感度簡易評価方法において、フィルタは、差動信号のコモンモード成分によって生じるノイズを除去するためのコモンモードチョークコイルである構成とした。
【発明の効果】
【0012】
以上詳しく説明したように、この発明によれば、模擬配線装置からのノイズのみによって無線通信機の受信感度がどの程度抑圧されているかを測定することができ、これにより、ノイズが実際の信号ラインから輻射されたなら生じたであろう受信感度の抑圧を予想することができるので、信号ラインからのノイズだけでなく、他の電子部品からのノイズをも重畳した信号の受信感度を測定してしまう従来の技術に比べて、より正確な受信感度評価を行うことができるという優れた効果がある。また、大型の電波暗室などを使用することなく、TEMセルを用いることで、より簡易に受信感度評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施例に係る受信感度簡易評価システムを示す斜視図である。
【図2】受信感度簡易評価システムの構成を示すブロック図である。
【図3】受信感度の評価方法を説明するためのブロック図である。
【図4】コモンモードチョークコイルを選択するために行う受信感度の評価方法を説明するためのブロック図である。
【図5】信号速度950MHzにおけるESGM帯の受信感度抑圧を示す線図である。
【図6】2種類のコモンモードチョークコイルのコモンモードの透過率を示す線図である。
【図7】図6のコモンモードチョークコイルを実装した場合におけるESGM帯の受信感度抑圧を示す線図である。
【図8】信号速度980MHzにおけるPCS帯の受信感度抑圧を示す線図である。
【図9】コモンモードチョークコイルを実装した場合におけるPCS帯の受信感度抑圧を示す線図である。
【図10】従来の受信感度評価システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(実施例1)
図1は、この発明の一実施例に係る受信感度簡易評価システムを示す斜視図である。なお、図1においては、理解を容易にするため、セルの内部に収納された携帯電話機や模擬配線装置を透過して示している。
図1に示すように、この実施例の受信感度簡易評価システムは、GTEMセル(Gigahertz Transverse ElectroMagnetic cell)1と、測定装置としてのテストセット2と、模擬配線装置4とを備えている。
【0016】
GTEMセル1は、電波暗箱として機能する四角錐状の箱体であり、無線通信機としての携帯電話機3や模擬配線装置4等を収納するための箱体である。GTEMセル1は、周知のTEMセルであるので、その詳細な説明は省略する。
【0017】
テストセット2は、GTEMセル1内に収納された携帯電話機3の受信感度を測定するための装置であり、同軸コネクタ10に接続された同軸ケーブル11を通じて、GTEMセル1に接続されている。
【0018】
図2は、受信感度簡易評価システムの構成を示すブロック図である。なお、図2においては、理解を容易にするため、二点鎖線で示すGTEMセル1内部に収納された携帯電話機や模擬配線装置を透過して示している。
携帯電話機3は、被試験物であり、この実施例では、GSM(Global System for Mobile communications band)対応の携帯電話機である。
携帯電話機3は、一般的機能を有する携帯電話機であり、図2に示すように、アンテナ30からの信号を受信する受信部31と、受信部31で受信した信号の符号誤り率を算出する符号誤り率算出部32と、符号誤り率算出部32で算出された符号誤り率を示す情報を送信する送信部33とを有している。
【0019】
模擬配線装置4は、携帯電話機3内部のノイズ発生源となるケーブル状の信号ラインを模擬した装置であり、ケーブル40と、信号をこのケーブル40に送出する信号発生器41とを有している。この実施例の模擬配線装置4は、ディスプレイと画像信号の送信ICとを繋ぐケーブル状の信号ライン(図10の信号ライン102に相当)の配線を模擬した。
具体的には、信号発生器41は、ケーブル40に差動信号を送出するための機器であり、GTEMセル1の外部に配されている。
この信号発生器41は、画像信号である差動信号を所定の速度でディスプレイに送る送信ICを模擬している。
ケーブル40は、信号発生器41からの差動信号を伝送するためのフレキシブルプリント基板(Flexible Printed Circuits)であり、ケーブル40の差動線路40A,40Bが、信号発生器41の出力端41A,41Bにそれぞれ接続されている。ケーブル40は、携帯電話機3の隣に近接した状態で、GTEMセル1内に配されている。
このケーブル40は、ディスプレイと画像信号を送信するICを繋ぐケーブル状の信号ライン等、ノイズ発生源となる信号ラインを模擬しており、その構造は、このような信号ラインと同一に設定されている。
ケーブル40の端部には、終端抵抗42,42が接続され、終端抵抗42,42が、ディスプレイの負荷抵抗を模擬している。
【0020】
テストセット2は、携帯電話機3の受信感度を測定するための装置である。携帯電話機3がGSM対応の機器であるため、このテストセット2も、GSMに対応しており、GSM帯の信号の送受信を携帯電話機3との間で行うことができる構造になっている。具体的には、送信部21と受信部22と受信感度導出部23とを有している。
これにより、送信部21によってGSM帯の信号を送信し、受信部22によって携帯電話機3からの情報を受信した後、受信感度導出部23により、受信部22で受信した情報が示す符号誤り率に基づいて、携帯電話機3の受信感度を導出するようになっている。このテストセット2も、周知であるので、その詳細な説明は省略する。
【0021】
次に、この実施例の受信感度簡易評価システムを用いた評価方法について説明する。
なお、この評価方法は、この発明の受信感度簡易評価方法を具体的に実現するものでもある。
図3は、受信感度の評価方法を説明するためのブロック図である。
まず、図3に示すように、携帯電話機3において、受信部31,符号誤り率算出部32,送信部33のみを動作させ、他の電子部品を非動作の状態にする。そして、携帯電話機3内の実際の信号ラインに伝送される差動信号と同等の差動信号D+,D−を、信号発生器41の出力端41A,41BからGTEMセル1内のケーブル40の差動線路40A,40Bに送出する。これと同時に、テストセット2の送信部21から、GSM帯の信号SをGTEMセル1を通じて携帯電話機3に送信する(第1の過程)。
【0022】
このとき、差動信号D+,D−にコモンモード成分が生じ、差動信号D+,D−の信号速度に対応した周波数のコモンモードノイズN1がケーブル40から輻射されると、このノイズN1とテストセット2の送信部21からの信号Sとが、携帯電話機3のアンテナ30を通じて受信部31に受信される。ノイズN1は、上記信号速度の高調波に対応する周波数を有した信号Sに重畳して、信号Sに対する符号誤り率を高める。
【0023】
信号SとノイズN1とが受信部31に受信されると、これらの信号が、符号誤り率算出部32に送られ、符号誤り率算出部32によって、信号Sの符号誤り率が算出され、算出された符号誤り率を示す情報S1が送信部33からアンテナ30を通じて送出される。
【0024】
すると、携帯電話機3からの情報S1は、GTEMセル1を通じてテストセット2の受信部22に受信される(第2の過程)。しかる後、情報S1は、受信感度導出部23に送られ、この情報S1が示す符号誤り率に基づいて、携帯電話機3の受信感度が導出される。
【0025】
したがって、ユーザは、テストセット2が導出した受信感度の数値を確認することで、GSM帯のどの信号Sが、ノイズN1によって、どの程度抑圧されたかを知ることができる。
【0026】
次に、ノイズN1を除去するためのコモンモードチョークコイルを選択するために、再度、受信感度評価を行う。
図4は、コモンモードチョークコイルを選択するために行う受信感度の評価方法を説明するためのブロック図である。
かかる評価を行う場合には、まず、携帯電話機3の受信感度を抑圧する周波数のノイズN1を除去可能なコモンモードチョークコイル5を、模擬配線装置4の信号発生器41とケーブル40との間に介設する。具体的には、図4に示すように、ケーブル40の差動線路40A,40Bと信号発生器41の出力端41A,41Bとを、基板50に接続し、コモンモードチョークコイル5をこの基板50のパターンに実装する。これにより、コモンモードチョークコイル5が信号発生器41とケーブル40との間に介在した状態になる。
【0027】
かかる状態で、上記と同様に、携帯電話機3の受信部31,符号誤り率算出部32,送信部33以外を非動作の状態して、所定速度の差動信号D+,D−を、信号発生器41からGTEMセル1内のケーブル40に送出すると共に、GSM帯の信号Sを、テストセット2の送信部21から携帯電話機3に送信する(第1の過程)。
【0028】
このとき、信号発生器41からの差動信号D+,D−に、コモンモード成分が生じても、その大部分が、コモンモードチョークコイル5によってケーブル40前段で除去されるので、ケーブル40からのノイズN1の輻射はコモンモードチョークコイル5によって抑圧される。
したがって、テストセット2からの信号Sには、抑圧された小さなノイズN1が重畳されることになる。このため、携帯電話機3で受信された信号Sに対する符号誤り率は低下する。
この結果、携帯電話機3の受信感度が改善され、この改善結果を、テストセット2で確認することができる。
【0029】
上記のような評価テストを、各種のコモンモード透過特性を有する複数のコモンモードチョークコイル5について行うことで、最適なコモンモードチョークコイル5を選択することができる。したがって、選択した最適のコモンモードチョークコイル5を、携帯電話機3の実際の信号ラインに実装することで、受信感度が良好な携帯電話機3を得ることができる。
【0030】
発明者は、上記効果を確認すべく、次のような実験を行った。
まず、図1及び図3に示す受信感度簡易評価システムにおいて、信号発生器41からの差動信号D+,D−の信号振幅レベル及び信号速度をそれぞれ0.4V及び950Mbpsに設定すると共に、終端抵抗42,42を50Ωに設定した。
そして、信号速度950Mbpsの差動信号D+,D−を、信号発生器41からケーブル40に出力した。これと同時に、50ch〜100ch(チャンネル)のEGSM帯の信号Sをテストセット2から送信して、携帯電話機3の受信感度を測定した。なお、最小受信感度は、符号誤り率が1.0%未満の最小セルパワー値として設定した。
差動信号D+,D−の信号速度が、950Mbpsであるので、950MHzのノイズN1がケーブル40から輻射され、この周波数に対応したチャンネルがノイズN1によって受信感度抑圧を受けると考えられる。
図5は、信号速度950MHzにおけるESGM(Expanded Global System for Mobile communications band)帯の受信感度抑圧を示す線図である。
テストセット2の実際の測定では、図5の受信感度曲線R0で示すように、2次高調波である950MHzの周波数を使用する75chが、約11dBmの受信感度抑圧を受けるという結果を得た(但し、−105dBmを基準値とする)。つまり、模擬配線装置4にコモンモードチョークコイル5を設けない状態では、ノイズN1の周波数950MHzに対応した75chが、ノイズN1によって受信感度抑圧を受けるということを確認した。
【0031】
図6は、2種類のコモンモードチョークコイルのコモンモードの透過率を示す線図であり、図7は、図6のコモンモードチョークコイルを実装した場合におけるESGM帯の受信感度抑圧を示す線図である。
次に、図6に示すようなコモンモード透過特性を有する2つのコモンモードチョークコイル5−1,5−2を用いて、受信感度を測定した。
具体的には、図4に示す受信感度簡易評価システムにおいて、コモンモードチョークコイル5−1を基板50に実装し、上記と同様に、950Mbpsの差動信号D+,D−を信号発生器41から出力すると共に、50ch〜100chのEGSM帯の信号Sをテストセット2から送信して、携帯電話機3の受信感度を測定した。すると、図7に示すように、四角形プロットの連続で示す受信感度曲線R1を得た。
次に、コモンモードチョークコイル5−2に変えて、同様の測定を行ったところ、図7に示すように、三角形プロットの連続で示す受信感度曲線R2を得た。
これらの受信感度曲線R1,R2と受信感度曲線R0とを比較すれば、明らかなようにコモンモードチョークコイル5−1,5−2を実装すると、実装しない場合に比べて、受信感度抑圧が約10〜11dBm程度改善していることが判る。
また、75chにおける受信感度曲線R2の感度(dBm)の方が受信感度曲線R1の感度(dBm)よりも低いので、コモンモードチョークコイル5−2の方がコモンモードチョークコイル5−1よりも受信感度改善の点で優れている。したがって、EGSM帯で使用する場合には、コモンモードチョークコイル5−2を携帯電話機3に実装することが好ましい。
【0032】
次に、図1及び図3に示す受信感度簡易評価システムにおいて、980Mbpsの差動信号D+,D−を、信号発生器41からケーブル40に出力すると共に、636ch〜686chのPCS(Personal Communications Service)帯の信号Sをテストセット2から送信して、携帯電話機3の受信感度を測定した。
図8は、信号速度980MHzにおけるPCS帯の受信感度抑圧を示す線図であり、図9は、コモンモードチョークコイルを実装した場合におけるPCS帯の受信感度抑圧を示す線図である。
測定の結果、図8の受信感度曲線R0′で示すように、980MHzの高調波の周波数1960MHzを使用する661chが、約7dBmの受信感度抑圧を受けることを確認した。
【0033】
次に、上記コモンモードチョークコイル5−1,5−2を用いて、受信感度を測定した。
すなわち、図4に示す受信感度簡易評価システムにおいて、コモンモードチョークコイル5−1,5−2を基板50に別々に実装し、980Mbpsの差動信号D+,D−を信号発生器41から出力すると共に、636ch〜686chのPCS帯の信号Sをテストセット2から送信して、携帯電話機3の受信感度を測定した。すると、図9に四角形プロット,三角形プロットの連続で示す受信感度曲線R1′,R2′を得た。
これらの受信感度曲線R1′,R2′と受信感度曲線R0′とを比較すれば明らかなように、コモンモードチョークコイル5−1,5−2を実装することで、受信感度抑圧を約5dBm程度改善させることができる。
また、661chにおける受信感度曲線R1′の感度(dBm)の方が受信感度曲線R2′の感度(dBm)よりも低いので、PCS帯で使用する場合には、コモンモードチョークコイル5−1を携帯電話機3に実装することが好ましい。
【0034】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、GSM帯の信号に対する受信感度を測定するため、GTEMセルを用いたが、低い周波数帯の信号に対する受信感度を測定する場合には、GTEMセルでなく、TEMセルを用いることができる。
また、上記実施例では、ケーブル40が、差動信号を伝送する信号ラインを模擬したため、ケーブル40に差動伝送路を用いたが、ケーブルの種類は差動伝送路に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1…GTEMセル、 2…テストセット、 3…携帯電話機、 4…模擬配線装置、 5,5−1,5−2…コモンモードチョークコイル、 10…同軸コネクタ、 11…同軸ケーブル、 21…送信部、 22…受信部、 23…受信感度導出部、 30…アンテナ、 31…受信部、 32…符号誤り率算出部、 33…送信部、 40…ケーブル、 40A,40B…差動線路、 41…信号発生器、 41A,41B…出力端、 42…終端抵抗、 50…基板、 D+,D−…差動信号、 N1,N2…ノイズ、 S…信号、 S1…情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物である無線通信機を内部に収納したTEMセルと、このTEMセルの同軸コネクタに同軸ケーブルを通じて接続され、上記無線通信機の受信感度を測定する測定装置と、無線通信機内部の所定の配線を模擬した模擬配線装置とを備える受信感度簡易評価システムであって、
上記無線通信機は、信号を受信するための受信部と、当該受信部で受信した信号の符号誤り率を算出する符号誤り率算出部と、当該符号誤り率算出部で算出された符号誤り率を示す情報を送信する送信部とを有し、
上記測定装置は、所定の周波数帯の信号を送信する送信部と、上記無線通信機からの上記情報を受信する受信部と、当該受信部で受信した情報が示す符号誤り率に基づいて、上記無線通信機の受信感度を導出する受信感度導出部とを有し、
上記模擬配線装置は、上記無線通信機内のノイズ発生源となるケーブル状の信号ラインと同一構造であって一方端が整合終端されたケーブルが、上記無線通信機に隣接された状態で、上記TEMセル内に収納されると共に、信号を当該ケーブルに送出するための信号発生器が、上記TEMセルの外部に配された状態で、上記ケーブルの他方端に接続された構成をなす、
ことを特徴とする受信感度簡易評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の受信感度簡易評価システムにおいて、
上記TEMセルは、GTEMセルであり、
上記無線通信機は、GSM対応の携帯電話機である、
ことを特徴とする受信感度簡易評価システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の受信感度簡易評価システムにおいて、
上記模擬配線装置のケーブルは、差動伝送路であり、
上記模擬配線装置の信号発生器は、差動信号を上記ケーブルに送出する機器である、
ことを特徴とする受信感度簡易評価システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の受信感度簡易評価システムを用いて、上記無線通信機の受信感度を評価するための受信感度簡易評価方法であって、
上記模擬配線装置の信号発生器によって、所定速度の信号を上記ケーブルに送出すると共に、上記測定装置によって、上記所定の周波数帯内の信号を無線通信機に送信する第1の過程と、
上記測定装置によって、上記無線通信機から送信された上記情報を受信し、当該無線通信機の受信感度を測定させる第2の過程と
を具備することを特徴とする受信感度簡易評価方法。
【請求項5】
請求項4に記載の受信感度簡易評価方法において、
上記模擬配線装置の信号発生器からの信号によって生じるノイズを除去するためのフィルタを上記信号発生器と上記ケーブルの他方端との間に介設した状態で、上記第1の過程を実行する、
ことを特徴とする受信感度簡易評価方法。
【請求項6】
請求項5に記載の受信感度簡易評価方法において、
上記フィルタは、差動信号のコモンモード成分によって生じるノイズを除去するためのコモンモードチョークコイルである、
ことを特徴とする受信感度簡易評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−134905(P2012−134905A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287099(P2010−287099)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】