説明

受動光網システム、終端装置およびそのスリープ状態解除方法

【課題】ONUのスリープ状態では、OLTとの間の通信も停止するため下りフレームを受信することが出来ない。特に電話着信などの下りフレームは予測不能なタイミングで発生するため、ONUは常にOLTとの通信を確立し下りフレームの到着に備えておく必要があった。本発明はスリープ状態においても下りフレームを受信可能なPONシステムの実現を目的とする。
【解決手段】LLIDと一対一で対応する特定の起動信号にのみ反応する起動信号監視回路を使用する。(1)データ通信と同一光波長で周波数変調された起動信号を送信し、任意のONUのスリープ状態を解除する手段。(2)データ通信と異なる光波長で周波数変調された起動信号を送信し、任意のONUのスリープ状態を解除する手段。(3)データ通信と異なる光波長でデジタル符号化された起動信号を送信し、任意のONUのスリープ状態を解除する手段。(1)〜(3)のいずれかの手段を適用し、低消費電力でスリープ状態からの復帰を指示する起動信号を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力機能を備えた受動光網システムにおいて、宅内光伝送路終端装置が省電力状態から復旧する機能を備えた受動網光システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信網の高速・広帯域化が進む中、それらに対応するために光ネットワークの導入が図られている。受動光網システム(Passive Optical Network:以下PONと称する)は1つの局側光伝送路終端装置(Optical Line Terminal:以下OLTと称する)が光ファイバ及び光ファイバを分岐する光スプリッタを介して複数の宅内光伝送路終端装置(Optical Network Unit:以下ONUと称する)とスター型のポイントツーマルチポイントのネットワークを形成するものである。PONの代表的な規格として、IEEE802.3で標準化されたEPON(Ethernet(登録商標)PON)、ITU−T G.984で標準化されたGPON(Gigabit Capable PON)がある。PONにおけるONUからOLTに向かって送信される上りフレームと、OLTからONUに向かって送信される下りフレームは波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:以下WDMと称する)によって多重される。
【0003】
下りフレームは、OLTから光ファイバで接続された全てのONUに対して同じデータを送信する。各ONUは、受信したフレームが自分宛かどうかを判断するために、LLID(Logical Link ID)と呼ばれる識別子を使用する。ONUからOLTに対して登録要求を行った際に、OLTが各ONUに重複しない値のLLIDを割り当てる。ONUは下りフレームを受信したときに、自身に割り当てられたLLIDと、下りフレームのプリアンブル部に埋め込まれたLLIDを照合することで、自分宛のフレームか否かを判断する。自分宛で無いフレームはここで破棄される。
【0004】
一方で上りフレームはONUがOLTからの送信許可に従って指定された時間にデータを出力する時分割多重(Time Division Multiple Access:以下TDMAと称する)により多重され通信を行なうものである。上りフレームのプリアンブル部にもLLIDが埋め込まれており、これによりOLTはどのONUから届いたフレームかを判断している。また、PONの通信速度は64kbit/秒のような低速信号を扱うシステムから始まり、固定長のATMセルを最大約600Mbit/で送受信するBPON(Broadband PON)あるいはEthernetの可変長パケットを最大約1Gbit/秒で送受信するEPONや、より高速な2.4Gbit/秒程度の信号を扱うGPONの導入が進められており、更に今後は10Gbit/秒から40Gbit/秒の信号を扱うことが可能な高速PONの実現が求められている。
【0005】
このようなPONの通信速度の向上に伴い伝送路上の中継装置の消費電力も増大傾向にある。ONUは加入者宅に設置されることからネットワーク上に多数設置される。一方、ONUはOLTや上位スイッチ群と比較して利用できる帯域を必要とする時間が短い。従ってONUは非通信時においても無駄な電力を使用しながら放置されていることになる。
特許文献1では、下り信号または上り信号に搬送されるデータが所定時間以上検出されないONUに対し、OLTが省電力モードへの移行を要求するPONシステムを開示している。このように、OLTからの制御によりONUの省電力(スリープ)制御を行うシステムやそのプロトコル、スリープの契機についての議論が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2010/106917
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ONUの省電力化を図るために、非通信時はONUをスリープ状態にすることが求められる。しかし、既存方式では長時間に渡り非通信状態が続く場合でも、任意のタイミングで到達する下りフレームの有無を確認するために、一定時間おきにスリープ状態が解除されていた。ユーザ宅での実使用においては、就寝時や不在時などに長時間の非通信状態が予想されるため、一定時間おきにスリープ状態を解除し、消費電力の大きなPON LSI部で下りフレームの有無を確認する事は省電力の効果を薄めている。
【0008】
そのため、スリープ状態を可能な限り継続したいが、スリープ状態中はOLTとの間の通信が停止するため、ONUは下りフレームの有無を検知できない。特に電話着信などの下りフレームは予測不能なタイミングで発生し、またそのフレームの検出後速やかに着信ベル鳴動などの処理を行う必要がある。このことから、ONUはユーザの利便性を犠牲にせず省電力を実現するために、スリープ状態に遷移させたとしても、短い間隔で間欠的にスリープ状態を解除し下りフレームの有無を確認する必要があった。OLTとの通信機能は消費電力の大きなPON LSI部や電気/光変換部が持っているため、間欠的な動作であっても消費電力を大幅に削減することは難しかった。
【0009】
本発明はスリープ状態において、消費電力の大きなPON LSI部ではなく低消費電力の起動信号監視部で常時下りフレームの有無を確認し、下りフレームが到達したタイミングでスリープ状態から復帰可能なPONシステムの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の宅内終端装置は、局側終端装置から受信した信号から、複数の宅内終端装置の少なくともいずれかをスリープ状態から起動させる起動信号を抽出する。そして宅内終端装置は、その起動信号が自装置をスリープ状態から起動するための起動信号であるか否かを判定する起動信号監視部と、起動信号監視部により、起動信号が自装置宛の信号と判定された場合に、自装置をスリープ状態から起動するための信号を自装置内に出力する起動処理部と、を有するよう構成する。
【0011】
起動信号をデータ信号とは異なるもの、例えば起動信号の周波数をデータ信号の周波数よりも低いものとするなど、起動信号監視部が受信のために大きな電力を必要としない信号を起動信号とする。
【発明の効果】
【0012】
ONUがスリープ状態でも、電力の消費を抑えつつ下りフレームの受信要求を監視可能なPONシステムを実現出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】PONを用いた光アクセス網の例を示す構成図である。
【図2】第1の手段でのOLT構成図の例である。
【図3】第1の手段で用いるOLT側共用電気/光変換部の例を示す構成図である。
【図4】第1の手段でのONU構成図の例である。
【図5】第1の手段で用いるONU側共用電気/光変換部の例を示す構成図である。
【図6】Discoveryプロセスのシーケンス図の例である。
【図7】第1の手段、第2の手段でのLLID―起動信号定義テーブルの例である。
【図8】第1の手段、第2の手段でのスリープ状態管理テーブルの例である。
【図9】第1の手段での起動信号と下りフレームの関係の例である。
【図10】起動信号の波形と通過帯域可変狭帯域フィルタの通過特性の例である。
【図11】第1の手段でのOLTの動作フロー図の例である。
【図12】第1の手段でのONUの動作フロー図の例である。
【図13】第1の手段でのOLTとONUのシーケンス図の例である。
【図14】第2の手段でのOLT構成図の例である。
【図15】第2の手段でのONU構成図の例である。
【図16】第3の手段でのOLT構成図の例である。
【図17】第3の手段でのONU構成図の例である。
【図18】第3の手段でのLLID―デジタル起動信号定義テーブルの例である。
【図19】第3の手段でのデジタル起動信号の例である。
【図20】第3の手段でのOLTの動作フロー図の例である。
【図21】第3の手段でのONUの動作フロー図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本実施の形態が適用される光アクセス網の構成の一例を示す。
アクセス網1は、例えばPON10を介して上位の通信網である公衆通信網(この例では、PSTN/インターネット20)に接続されて、データを送受信する。PON10はOLT100、光スプリッタ120、幹線光ファイバ130、支線光ファイバ140、加入者端末(電話(TEL)180、PC190等)を収容する複数のONU110を備える。幹線光ファイバ130と光スプリッタ120と複数の支線光ファイバ140を有するPON10でOLT100と各ONU110を接続して、上位の通信網であるPSTN/インターネット20と加入者端末との通信、または、加入者端末同士の通信を行う。
【0015】
OLT100には、1本の幹線光ファイバ130、光スプリッタ120および複数の支線光ファイバ140を介して、複数台のONU110が接続可能である。図1には、一例として、5台のONU110がOLT100に接続されている。OLT100から各ONU110に向かう下り光信号150は、全てのONU110に同じ信号が送信されONU110側で取捨選択される。各ONU110からOLT100に向かう上り光信号170は、OLTからの送信許可に従って指定された時間にデータを出力する時分割多重で多重され送信される160。特定のONU110のスリープ状態を解除する手段を以下、図面を用いて実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例では、データ通信と同一光波長で送信される起動信号をONUが低消費電力で監視し、該ONU宛の起動信号に反応しスリープ状態を解除する例(以下、第1の手段と称する)を説明する。
【0017】
図2にOLT100の構成の一例を示す。OLT100は、上位ネットワーク側の中継装置と電気信号により通信を行う電気側送受信部200、ONU110と光信号により通信を行う共用電気/光変換部220、ONU110の運用中にデータ通信を制御するための媒体アクセス制御部210、OLT100内にある機能ブロックを制御する制御部260、各種設定や状態を記憶する記憶部270、LLIDと起動信号の組合せを定義するLLID−起動信号定義テーブル272、特定のONU110をスリープ状態から復帰させる起動信号を生成する起動信号生成部250、起動信号を共用電気/光変換部220へ受け渡す起動信号送信部240、ONU110がスリープ状態から復帰するまで下りフレームを蓄積するバッファ部230、送信先ONU110の宛先を判定する宛先判定部261、送信先ONU110のスリープ状態を判定するスリープ状態管理部262、OLT100の配下にある全ONU110のスリープ状態を保持するスリープ状態管理テーブル271を備える。
宛先判定部261とスリープ状態管理部262は、制御部260に含まれる。スリープ状態管理テーブル271と、LLID―起動信号定義テーブル272は記憶部270に含まれる。
【0018】
本実施例における起動信号は、あらかじめLLIDと結びつけられた特定の中心周波数を持つ正弦波であり、起動信号を受信した各ONUにおいて通過帯域可変狭帯域フィルタ部(後述)を用いて取捨選択することで、任意のONUのみを起動することが可能である。
【0019】
ONU110からの上りフレームが共用電気/光変換部220で受信されると、媒体アクセス制御部210は上りフレームの送信元MACアドレスと、プリアンブル部に付与されている送信元ONU情報を経路情報として関連付けて蓄積し、上りフレームを電気側送受信部200から送信する。
下りフレームが電気側送受信部200で受信されると、媒体アクセス制御部210は該下りフレームの送信先MACアドレスを参照し、予め保持された経路情報から宛先ONU識別情報を下りフレームのプリアンブル部に付与して共用電気/光変換部220から送信する。媒体アクセス制御部210は上述のようなスイッチング機能を保持しているものとする。
【0020】
下りフレームを受信すると宛先判定部261は媒体アクセス制御部210に届いた下りフレームの宛先を判定し、スリープ状態管理部262へ渡す。スリープ状態管理部262はOLT100配下の各ONU110のスリープ状態を各ONU110に割り当てられたLLIDと各ONU110の現状態で結びつけ、スリープ状態管理テーブル271で管理している。テーブルの状態は、ONU110がスリープ状態に遷移した時点でONU110に割り当てられたLLIDの現状態が「スリープ」状態を示すように更新される。そのほか、ONU110がOLT100に登録された時点、登録解除された時点、後述の方法で該ONUへスリープ状態からの復帰を指示した時点及び、スリープ状態からの復帰が完了した時点でもテーブルの状態が更新される。
【0021】
スリープ状態管理部262は、宛先判定部261から下りフレームの宛先を渡されるとスリープ状態管理テーブル271を参照し宛先ONUのスリープ状態を判定し、「スリープ」状態の場合は起動信号生成部250で宛先ONU110のLLIDと対応する起動信号を生成する。この時、起動信号はLLID−起動信号定義テーブル272を参照し生成される。図7に例示するLLID701と起動信号702の組み合わせは出荷時点でOLTのLLID―起動信号定義テーブル272にあらかじめ書き込まれていても良い。生成された起動信号は起動信号送信部240を介して共用電気/光変換部220から送信される。
【0022】
図3にOLT100に含まれる共用電気/光変換部220の一例を示す。共用電気/光変換部220のうち、下り信号を処理するのがデジタルデータ送信部320、起動信号送信部240およびTOSA(Transmitter Optical Sub Assembly)340であり、上り信号を処理するのがデジタルデータ受信部310およびROSA(Receiver Optical Sub Assembly)330である。
【0023】
本実施例ではデータ通信と同一光波長で起動信号を送信するため、デジタルデータ送信部320と起動信号送信部240が同一のTOSA340に接続されている。デジタルデータ送信部320からの主信号と、スリープしているONU110を起こすための起動信号を出力する起動信号送信部240からの起動信号とが、ともにTOSA340に入力される。TOSA340でこれら電気信号は光信号に変換され、この光信号はWDM350で下りフレームとして多重される。
下りフレームはデジタルデータ送信部320のバイアス電流駆動部322とモジュレーション電流駆動部321がTOSA340内部にあるLD(LASER Diode)(図示せず)を駆動するほか、起動信号送信時には起動信号送信部240も同一のTOSA340内部にあるLDを駆動して光信号に変換される。
【0024】
一方ONU110からの上りフレームである光信号はWDM350で分離されてROSA330に入力し、ROSA330で電気信号に変換された後、デジタルデータ受信部310に入力される。このようにROSA330が受信する光とTOSA340が送信する光はWDM350で多重/分離される。
【0025】
図4に本実施の形態が適用されるONU110の構成の一例を示す。ONU110は、OLT100と光信号により通信を行う共用電気/光変換部400、OLT100と加入者端末の間でプロトコル変換を行うなどデータ処理部の役割を果たすPON LSI部410、ONU110の運用中にデータ通信を制御するための媒体アクセス制御部411、トラフィックデータを格納するバッファ部430、加入者の端末などと電気信号により通信を行う電気側送受信部420、ONU110にある機能ブロックを制御する制御部450、各種設定や状態を記憶する記憶部440、起動信号を監視し該ONU向けの起動信号を起動処理部452に渡す起動信号監視部460、LLIDと起動信号の組合せを定義するLLID−起動信号定義テーブル441、LLID―起動信号定義テーブル441を基に通過帯域可変狭帯域フィルタ部461(後述)のフィルタ定数を設定するフィルタ定数構成部451、該ONU110への起動信号を取捨選択する通過帯域可変狭帯域フィルタ部461、選択された起動信号を起動処理部452が扱いやすいように変換する平滑/増幅部462、起動信号を受けて該ONU110のスリープ状態を解除する起動処理部452を備える。
フィルタ定数構成部451と起動処理部452は制御部450に含まれる。通過帯域可変狭帯域フィルタ部461と平滑/増幅部462は起動信号監視部460に含まれる。LLID―起動信号定義テーブル441は、記憶部440に含まれる。媒体アクセス制御部411はPON LSI部410に含まれる。
【0026】
自LLIDと結びつけられた中心周波数を持つ起動信号だけに反応するよう、ONU110はLLIDが割り当てられた時点で通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のフィルタ定数を設定しておく。ONU110が持つLLID―起動信号定義テーブル441と、OLT100が持つLLID―起動信号定義テーブル272の値が共通のため、LLIDをキーにOLT100は送るべき起動信号の中心周波数を、ONU110は自身が受けるべき起動信号の中心周波数を、それぞれ知る事が出来る。LLID701と起動信号702の組合せは出荷時点でLLID−起動信号定義テーブルに書き込まれていても良い。
図7にLLID―起動信号定義テーブル441の一例を示す。このテーブルには各ONU110のLLID701と、それに対応する起動信号の中心周波数702が格納されている。フィルタ定数構成部451は、このLLID−起動信号定義テーブル441を参照し、通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のフィルタ定数を設定する。
【0027】
ONU110がスリープ状態に遷移した後、OLT100がONU110宛の下り信号を受信すると、OLT100はONU110のLLIDと結びつけられた中心周波数を持つ起動信号を送信する。ONU110は送信された起動信号を共用電気/光送信部400で電気信号に変換し通過帯域可変狭帯域フィルタ部461に渡す。
共用電気/光変換部400の構成例を図5に示す。通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のフィルタ定数は既に設定されているため、自LLIDと結びつけられた中心周波数を持つ起動信号のみが通過する。平滑/増幅部462は、通過帯域可変狭帯域フィルタ部461を通過した正弦波の微弱な電気信号をコンデンサなどで平滑した後増幅し、ロジック信号とし起動処理部452に入力する。起動処理部452はPON LSI部410に対し、スリープ状態の解除を指示する。起動信号監視部460はLLID割り当て時に通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のフィルタ定数を構成してしまえば、その後は主にパッシブ部品で構成されるフィルタとなり、平滑/増幅部462もkHzオーダーの低速信号を増幅出来れば良いだけのため、PON LSI部410がOLT100と通信し下りフレームの有無を監視する方式と比べ非常に少ない電力で動作することができる。一方、通常の信号を受信するPON LSI部410は、高速な信号と同期を取って信号を受信するため、起動信号監視部460に比べて多くの電力を消費するものである。
【0028】
なお、本実施の形態においてONU110のスリープ状態とは例えば、共用電気/光変換部400のうちデジタルデータ受信部560、TOSA520、デジタルデータ送信部550、およびPON LSI部410に対する電力供給もしくはクロック供給の少なくともいずれかを停止してOLT100の共用電気/光変換部220とのデータ通信を中断させ、電気側送受信部420にて受信された上りフレームをバッファ部430に蓄積する機能のみを継続させ、他の機能を停止させることをいう。
また、起動信号監視部460は、低消費電力でOLT100からの起動信号を監視し、自身のLLIDと結びつけられた起動信号を受信した場合にスリープ状態を解除する一連の動作に備えている。
本実施例ならびにその他の実施例においても、スリープ状態とは実施例で例示したものに限られず、装置内の機能部のうち、起動信号を受信処理するのに必要な機能部を除く少なくとも一部の機能部が機能を停止している状態をいう。
【0029】
図5にONU110に含まれる共用電気/光変換部400の一例を示す。共用電気/光変換部400では、まず光信号を波長に応じて合波および分波するWDM500で上り/下りに分離する。本実施例ではデータ通信と同一光波長で起動信号が送信されるため、下りの光信号をROSA510で電気信号に変換した後、GHzオーダーのデータ信号だけを通過しkHzオーダーの起動信号を減衰させるHPF540、反対にkHzオーダーの起動信号だけを通過しGHzオーダーのデータ信号を減衰させるLPF530に渡す。LPF530を通過した起動信号は、通過帯域可変狭帯域フィルタ部461に渡される。HPF540を通過したデータ信号はデジタルデータ受信部560でデジタルデータ化され、媒体アクセス制御部411に渡される。
上りフレームは媒体アクセス制御部411からデジタルデータ送信部550に渡され、デジタルデータ送信部550のバイアス電流駆動部552とモジュレーション電流駆動部551がTOSA520内部にあるLD(図示せず)を駆動し光信号としてWDM500に入力する。なお、通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のみでデータ通信用の信号強度を十分に減衰させることが出来れば、LPF530は無くても良い。
【0030】
図6にDiscoveryプロセスのシーケンス図の例を示す。このシーケンス図はOLT100の配下にONU110を登録するDiscoveryプロセス時の手続きを示すものである。
OLT100は、定期的にDiscovery_Gateフレームを送信し(600)、未登録のONU100に対し登録を要求する機会を与える。登録を希望するONU110はOLT100が設定する応答許可時間Discovery Window601に間に合うようにREGISTER_REQフレームを送信する(602)。OLT100が登録を許可した場合はONU110に対しLLIDを割り当て、ONU110へLLIDを通知する(603)。LLIDはONUに割り当てられる固有のIDのため、本実施例ではこの値を用いて起動対象を指定する。LLIDが割り当てられるとONU110はLLID―起動信号定義テーブル441を参照し、自LLID向け起動信号の中心周波数を取得する(604)。ONU110のフィルタ定数構成部451は、この中心周波数を持つ起動信号を通過するよう通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のフィルタ定数を設定する605。以降はDiscoveryのプロセスが通常通り実行される。
【0031】
図8はスリープ状態管理テーブルで、LLID801と、そのLLIDを割り当てられたONUの現状態802(後述)が格納されている。
【0032】
図9に起動信号の一例を示す。この例では1.25Gbpsで伝送される下りフレームと起動信号の関係について、LDを駆動する電気信号の強度で示した。CN比(Carrier・Noise比)が同等になるように考えると、下り信号のクロックがGHzオーダーなのに対して、起動信号の正弦波の中心周波数がkHzオーダーであり周波数が10の6乗低いため、信号強度も10の6乗小さくて良いことになる。しかし、極めて微弱な電気信号は扱いにくく不必要に技術的難易度を上げるため、この例では下りフレームの平均パワー900に対し起動信号の平均パワー901を10分の1程度の強度とした。PON区間で伝送される光データは、LDを駆動するモジュレーション電流を変調する事で送信する。LDは駆動する電流を増やしていった時、発光閾値までは微弱にしか発光せず、発光閾値を超えた時点で急激に光強度が増加する特性を持つ。そのため、モジュレーション電流の変化に対しLDをリニアに反応させるため、LDの駆動電流に発光閾値までのバイアス902をかけている。このバイアス分に重畳する形で起動信号904が送信され、また、起動信号904に重畳される形で下りフレーム903が送信される。これら起動信号904と下りフレーム903はONU110側のHPF540とLPF530で分離されるため、起動信号904は下りフレーム903の送信状態に因らず任意のタイミングで送信できる。
【0033】
図10に起動信号の波形と通過帯域可変狭帯域フィルタ部461の通過特性の一例を示す。起動信号は、図7のLLID―起動信号定義テーブル272、441で定められた中心周波数fcを持つ正弦波を用いる。通過帯域可変狭帯域フィルタ部461は、フィルタ定数を変えることにより、通過させる正弦波の中心周波数を変えることが出来る。図10では、例えばfc2の中心周波数を持つ起動信号を通過するようフィルタ定数を設定することにより、fc1、fc3、fc4、fc5およびその他の中心周波数を持つ正弦波は通過帯域可変狭帯域フィルタ部461により減衰し、fc2だけが通過する。
【0034】
図11に第1の手段でスリープ状態の特定のONUをスリープ状態から復帰させる際のOLTの動作フロー図の一例を示す。
【0035】
OLT100は定期的にDiscoveryプロセスを実行する(1101)。OLT100配下にONU110が接続されると、Discoveryプロセス中にOLT100はONU110から登録依頼を受信する(1102)。Discoveryプロセス1101の中でOLT100はONU110に対し、一意のLLIDを付与する(1103)。本実施例はOLT100配下に接続される最大128台のONUのうち任意のONU110のみのスリープ状態を解除できることを特徴とするため、起動対象を特定する目的でこのLLIDを使用すると都合良い。
【0036】
スリープ状態管理部262は、ONU110とのPON LINK確立/認証完了後(1104)、図8に示すスリープ状態管理テーブル271の当該特定のONU110のLLIDに対応する値802を「起動」状態に更新する(1105)。スリープ状態管理テーブル271はLLID801と、そのLLIDを持つONUの現状態802を示しており、スリープ状態管理部262はこのスリープ状態管理テーブル271を参照しONU110がスリープ状態か否かを判定する。
【0037】
ONU110の現状態802が「起動」状態の場合OLT100は、当該ONU110の使用状況に応じてスリープ状態への遷移を指示する(1106)。ここでONU110は、例えばONU110が送信を要求している上り信号量や、ONU110宛ての下り信号量に基づいて各ONU110の使用状況を判断し、適宜ONU110にスリープ状態への遷移を指示することができる。もしくは、ONU110からスリープ状態に移行したいという要求を受けて、当該ONU110にスリープ状態への遷移を指示しても良い。
スリープ状態管理部262は、ONU100がスリープ状態に遷移したことを確認し、スリープ状態管理テーブル271の該LLIDに対応する値802を「スリープ」状態に更新する(1107)。
【0038】
ONU110がスリープ状態に遷移した後、OLT100が該ONU宛の下りフレームを受信するとスリープ状態からの復帰処理が開始される。宛先判定部261は、OLT100が下りフレームを受信すると(1108)、どのLLID向けに送信するデータかを判定する(1109)。スリープ状態管理部262は、このLLIDをキーにスリープ状態管理テーブル271を参照し、宛先のONUの現状態を判定する(1110)。
【0039】
現状態が「起動」状態であった場合は、OLT100は通常通り下りフレームを送信する1111。現状態が「スリープ」状態であった場合は、ONU110は下りフレームを受信できる状態に無いため、OLT100はスリープ状態からの復帰が完了するまで該LLID向け下りフレームをバッファ部230へ蓄積する(1112)。次に起動信号生成部250が、LLID―起動信号定義テーブル272を参照して宛先ONUと対応づけられた起動信号の中心周波数702を取得し(1113)、該LLID向けの起動信号を生成し(1114)送信する(1115)。
【0040】
この時、スリープ状態管理部262は、スリープ状態管理テーブル271の該LLIDに対応する値802を「起動中」状態に更新する(1116)。スリープ状態管理部262は、OLT100とONU110のPON LINK確立/認証完了(1117)をもって、ONU110がスリープ状態から復帰したと判断し、スリープ状態管理テーブル271の該LLIDに対応する値802を「起動」状態に更新する(1118)。ここからONU110は下りフレームを受信する事が出来るので、OLT100はバッファ部230に蓄積された下りフレームの送信を開始する(1119)。
なお、宛先のONUの現状態を判定し(1110)、現状態が「起動中」状態であった場合は、PON LINK確立/認証完了(1117)へ進む。
【0041】
図12に第1の手段でスリープ状態から復帰するONUの動作フロー図の一例を示す。ONU110は、Discoveryプロセスを検出すると(1201)、OLT100に対し登録依頼を行う(1202)。フィルタ定数構成部451は、Discoveryプロセスの中でOLT100からLLIDを割り当てられると(1203)、LLID―起動信号定義テーブル441を参照し、自LLIDと結びつけられた起動信号の中心周波数を取得する(1204)。次にフィルタ定数構成部451は、この中心周波数を持つ起動信号のみ通過するよう通過帯域可変狭帯域フィルタ部461のフィルタ定数を設定する(1205)。その後ONU110の使用状況などを基にOLT100から出されたONU110に対するスリープ状態への遷移指示によって、ONU110はスリープ状態に遷移する(1206)。
【0042】
ONU110がスリープ状態に遷移した後、OLT100が該ONU宛の下りフレームを受信すると、OLT100はONU110に対し起動信号を送信する。OLT100から送信された起動信号をOLT100配下の全てのONU110が受信する(1207)
。各ONU110の通過帯域可変狭帯域フィルタ部461は自LLIDと結びつけられた中心周波数を持つ起動信号のみを通過するよう設定されているため、起動処理部452は自LLID宛の起動信号だけに応答する(1208)。ここで起動信号が「自LLID向け」と判定された場合は、起動処理部452がPON LSI部410に信号を送る事で、ONU110は起動を開始する(1210)。この時、LLIDが異なる他のONU110は起動信号が通過帯域可変狭帯域フィルタ部461を通過できずに破棄される(1209)。起動完了はPON LINKの確立/認証完了1211をもって確認する。ONU110は、起動が完了した時点でOLT100からの下りフレームを受信する(1212)。
【0043】
図13にOLT100とONU110間のシーケンス図の一例を示す。ONU110の使用状況などを基にOLT100から出された指示によって、ONU110はスリープ状態に移行する(1301)。OLT100は下りフレームを受信すると(1302)、宛先ONU110の現状態を判定する。現状態がスリープ状態の場合(1303)は、スリープ状態からの復帰処理が開始される。OLT100は、ONU110が下りフレームを受信できる状態になるまで、下りフレームをバッファ部230に蓄積する(1304)。それと同時にOLT100はLLID―起動信号定義テーブル272を参照し起動信号を生成する(1305)。
【0044】
そしてOLT100はONU110へ起動信号を送信する(1306)。各ONU110は応答すべき起動信号かを判定する(1307)。自LLID向けの起動信号の場合は、ONU110は起動開始する(1308)。起動開始するとOLT100と当該ONU110間で認証プロセスが実行される(1309)。起動完了はPON LINKの確立および認証完了をもって確認され(1310)、OLT100はONU110の起動完了後、バッファ部230に蓄積されている下りフレームを順次送信する(1311)。その後も各ONU110の使用状態に応じ、OLT100はスリープ状態への遷移を指示し各ONU110はスリープ状態へ遷移する(1312)。
【0045】
以上の手段を用いることにより、任意のタイミングで到達する下りフレームについてスリープ状態においても間欠的にPON LSI部410を動作させ、下りフレームの有無を確認する既存方式と比較し、本実施例は消費電力の大きなPON LSI部410を停止させ続け、消費電力の小さな起動信号監視部460で起動信号を監視することが可能となるため省電力化への貢献度が高い。また、OLT100は、ONU110の使用状況に応じてスリープ状態への遷移を指示し、ONU110のスリープ状態はOLT100が該ONU宛の下りフレームを受信するまで継続する。従って、ユーザの外出時や就寝時などは、数時間程度に及びスリープ状態を維持することが期待できる。本実施例はデータ通信と同一の光波長を用いることにより、専用の光学部品を別途必要としないため、製造時のコスト優位性が高い。
これはあくまで一実施例であって、起動信号の監視には通過帯域可変狭帯域フィルタ部以外の方法を用いて、他のONU110に対する起動信号との選別を行っても良い。
【実施例2】
【0046】
本実施例では、データ通信と別光波長でOLTから送信される起動信号をONUが低消費電力で監視し、該ONU宛の起動信号に反応しスリープ状態を解除する例(以下、第2の手段と称する)を説明する。
【0047】
図14に第2の手段を実現するOLT1400の構成の一例を示す。OLT1400はONU1500と光信号によりデータ通信を行うデータ用電気/光変換部1401と、起動信号を光に変換する起動信号用電気/光変換部1403、それらを分離/多重するWDM1402を備える。この他の構成は第1の手段の図2と同様である。
【0048】
第2の手段では、OLT1400がデータ信号と別光波長で起動信号を送信する事を特徴とする。そのため、第1の手段における共用電気/光変換部220が、データ用電気/光変換部1401と起動信号用電気/光変換部1403に分かれる。
データ用電気/光変換部1401は、図3と同様にデジタルデータ受信部310、デジタルデータ送信部320、ROSA330、TOSA340、WDM350を具備し、媒体アクセス部210との間でデータを送受信する。
起動信号用電気/光変換部1403は、データ信号と異なる光波長を扱うため、TOSA340と発光波長の異なるTOSA(図示せず)を具備している。例えばIEEE802.3avで規定されている10G−EPONでは1270nm、1577nm、1310nm、1490nmの光波長を使うため、起動信号にはこれ以外の光波長を選択する。なお、数十kmの長距離伝送を考えると、損失の少ない光波長を選択するのが望ましい。
【0049】
起動信号用電気/光変換部1403は、ONU1500に対し光信号で起動信号を送信する。データ用電気/光変換部1401で扱う光信号と起動信号用電気/光変換部1403で扱う光信号はWDM1402で分離/多重する。WDM350がデータの上り下りの光信号を分離/多重するのに対し、WDM1402はデータ信号と起動信号を分離/多重する。
【0050】
図15に第2の手段を実現するONU1500の構成の一例を示す。ONU1500はOLT1400と光信号でデータを送受信するデータ用電気/光変換部1502と、光で受信した起動信号を電気に変換する起動信号用電気/光変換部1503、データの光信号と起動信号の光信号とを分離/多重するWDM1501を備える。この他の構成は第1の手段の図4と略同様である。
【0051】
第2の手段ではデータ通信と起動信号が別光波長で送信されるため、まずWDM1501でデータ通信用と起動信号用の光波長を分離/多重する。図14のOLT1400の構成と同様に第1の手段における共用電気/光変換部400は、データ用電気/光変換部1502と起動信号用電気/光変換部1503に分かれる。
データ用電気/光変換部1502は図5と同様にWDM500、ROSA510、TOSA520、デジタルデータ受信部560、デジタルデータ送信部550を具備し、媒体アクセス部411との間でデータを送受信する。
起動信号用電気/光変換部1503は、ROSA510と受光波長の異なるROSA(図示せず)を具備し、OLT1400からの起動信号を受信する。データ通信と起動信号が別光波長であり、前段のWDM1501でデータ通信用と起動信号用の光波長を分離しているため、図5とは異なりROSA510の後段にLPF530とHPF540が不要である。
【0052】
なお、本実施の形態においてONU1500のスリープ状態とは例えば、データ用電気/光変換部1502およびPON LSI部410に対する電力供給もしくはクロック供給の少なくともいずれかを停止してOLT1400のデータ用電気/光変換部1401とのデータ通信を中断させ、電気側送受信部420にて受信された上りフレームをバッファ部430に蓄積する機能のみを継続させ、他の機能を停止させることをいう。
また、起動信号監視部460は、低消費電力でOLT1400からの起動信号を監視し、自身のLLIDと結びつけられた起動信号を受信した場合にスリープ状態を解除する一連の動作に備えている。
【0053】
OLT1400の動作フローは、実施例1の図11のステップ1115を除き図11と略同じである。図11のステップ1115において、本実施例では、起動信号送信部240が電気信号の起動信号を生成し、起動信号用電気/光変換部1403が光信号に変換してONU1500に起動信号を送信する。
【0054】
ONU1500の動作フローは、実施例1の図12のステップ1207を除き図12と略同じである。図12のステップ1207において、本実施例では、起動信号用電気/光変換部1503が光信号の起動信号を電気信号に変換し、通過帯域可変狭帯域フィルタ部461に渡す。
【0055】
起動信号にデータ通信と別光波長を用いることにより、OLT1400側ではWDM1402や起動信号用電気/光変換部1403、ONU1500側ではWDM1501や起動信号用電気/光変換部1503が必要となり装置の製造コストが増加する。しかし、データ通信と光波長が異なることから、起動信号に用いる光信号が消光比の劣化などデータ通信の誤り率に影響を与える特性に影響を及ぼさないため、データ通信の伝送品質をより良く維持できる。
【0056】
以上の手段を用いることにより、任意のタイミングで到達する下りフレームについてスリープ状態においてもPON LSI部410で監視するよりも低消費電力で監視することが可能となる。これは一実施例であって、起動信号の取捨選択には通過帯域可変狭帯域フィルタ部461以外の方法を用いても良い。
【実施例3】
【0057】
本実施例では、データ通信と別光波長で送信されるデジタルの起動信号をONUが低消費電力で監視し、該ONU宛のデジタル起動信号に反応しスリープ状態を解除する例(以下、第3の手段と称する)を説明する。
【0058】
図16に第3の手段を実現するOLT1800の構成の一例を示す。OLT1800は、LLIDと後述のビットパターンを結びつけるLLID―デジタル起動信号定義テーブル1803、LLID―デジタル起動信号定義テーブル1803を参照し得られたビットパターンからデジタル起動信号を生成し送信するデジタル起動信号生成/送信部1802、デジタル起動信号生成/送信部1802から受けた電気のデジタル起動信号を光に変換するデジタル起動信号用電気/光変換部1801、ONU1900と光信号によりデータ通信を行うデータ用電気/光変換部1401、これら2つの光信号を分離/多重するWDM1402を備える。LLID―デジタル起動信号定義テーブル1803は記憶部270に含まれる。この他の構成は第1の手段の図2と同様である。
【0059】
第3の手段でもデータ通信と別光波長でデジタル起動信号を送信する。そのため、第1の手段における共用電気/光変換部220がデータ用電気/光変換部1401とデジタル起動信号用電気/光変換部1801に分かれる。
データ用電気/光変換部1401は図3と同様にデジタルデータ受信部310、デジタルデータ送信部320、ROSA330、TOSA340、WDM350を具備し、媒体アクセス部210との間でデータを送受信する。
デジタル起動信号用電気/光変換部1801は、データ信号と異なる光波長を扱うため、TOSA340と発光波長の異なるTOSA(図示せず)を具備している。例えばIEEE802.3avで規定されている10G−EPONでは1270nm、1577nm、1310nm、1490nmの光波長を使うため、起動信号にはこれ以外の光波長を選択する。なお、数十kmの長距離伝送を考えると、損失の少ない光波長を選択するのが望ましい。
デジタル起動信号用電気/光変換部1801は、ONU1900に対し光で起動信号を送信する。
【0060】
OLT1800は下りフレームの宛先ONU1900がスリープ状態の場合は、LLID−デジタル起動信号定義テーブル1803を参照し、宛先ONU1900のLLIDと結びつけられたデジタル起動信号のビットパターンを取得する。デジタル起動信号生成/送信部1802は得られたビットパターンからデジタル起動信号を生成/送信し、デジタル起動信号用電気/光変換部1801が光に変換しWDM1402でデータ通信の光と多重され、ONU1900に送信される。
【0061】
第1の手段で示した図3と異なり、デジタルデータ送信部320とデジタル起動信号生成/送信部1802は異なるTOSAと接続され、それぞれ光波長の異なるLDを駆動する。データ用電気/光変換部1401で扱う光信号とデジタル起動信号生成/送信部1802で扱う光信号はWDM1402で分離/多重する。
【0062】
図17に第3の手段を実現するONU1900の構成の一例を示す。ONU1900はOLT1800と光信号でデータを送受信するデータ用電気/光変換部1502と、光で受信したデジタル起動信号を電気に変換するデジタル起動信号用電気/光変換部1901、データの光信号と起動信号の光信号とを分離/多重するWDM1501、LLIDとデジタル起動信号のビットパターンを結びつけるLLID−デジタル起動信号定義テーブル1921、受信したデジタル起動信号のビットパターンと、自LLIDと結びつけられたビットパターンを照合する小規模マイコン1911を備える。LLID―デジタル起動信号定義テーブル1921は記憶部1920に含まれる。小規模マイコン1911は起動信号監視部1910に含まれる。この他の構成は第1の手段の図4と同様である。
【0063】
なお、本実施の形態においてONU1900のスリープ状態とは例えば、データ用電気/光変換部1502およびPON LSI部410に対する電力供給もしくはクロック供給の少なくともいずれかを停止してOLT1800のデータ用電気/光変換部1401とのデータ通信を中断させ、電気側送受信部420にて受信された上りフレームをバッファ部430に蓄積する機能のみを継続させ、他の機能を停止させることをいう。
また、起動信号監視部1910は、低消費電力でOLT1800からの起動信号を監視し、自身のLLIDと結びつけられた起動信号を受信した場合にスリープ状態を解除する一連の動作に備えている。
【0064】
図18は記憶部1920が保持するLLID―デジタル起動信号定義テーブル1921で、LLID2201と、それに対応するデジタル起動信号のビットパターン2202が格納されている。ビットパターン2202は、各LLID2201ごとに異なる値が対応付けられている。
【0065】
図18のLLID―デジタル起動信号定義テーブル1921に示すように、LLID2201とデジタル起動信号のビットパターン2202はあらかじめ一対一で定めておく。第1の手段、第2の手段で用いた図7のLLID―起動信号定義テーブルでは、LLIDと起動信号の中心周波数の関係を定めていたのに対し、本実施例で用いるLLID―デジタル起動信号定義テーブルではLLID2201とデジタル起動信号に含まれるビットパターン2202の関係を定めている。第1の手段と同様に、LLID―デジタル起動信号定義テーブルはOLT、ONU双方で同じ値を持ち、またその値は出荷時点で書き込まれていても良い。なお、このビットパターンは例であって、これに限定されるものではない。
【0066】
第3の手段ではデータ通信とデジタル起動信号が別光波長で送信されるため、まずWDM1501でデータ通信用とデジタル起動信号用の光波長を分離/多重する。図16のOLT1800の構成と同様に、第1の手段における共用電気/光変換部400は、データ用電気/光変換部1502とデジタル起動信号用電気/光変換部1901に分かれる。
データ用電気/光変換部1502は図5と同様にWDM500、ROSA510、TOSA520、デジタルデータ受信部560、デジタルデータ送信部550を具備し、媒体アクセス部411との間でデータを送受信する。
デジタル起動信号用電気/光変換部1901は、ROSA510と受光波長の異なるROSA(図示せず)を具備し、OLT1800からの起動信号を受信する。データ通信と起動信号が別光波長であり、前段のWDM1501でデータ通信用と起動信号用の光波長を分離しているため、図5とは異なりROSA510の後段にLPF530とHPF540が不要である。
【0067】
図19にデジタル起動信号の例を示す。この例でデジタル起動信号は、スタートシンボル2301、LLIDと結びつけられたビットパターン2302、伝送中のビット誤りを検出するために反転されたビットパターン2303から成るフレームフォーマットで生成される。デジタル起動信号処理回路の消費電力を抑えるため、デジタル起動信号はデータ通信と比べて低速なkHzオーダーのクロックで伝送される。
【0068】
小規模マイコン1911はスタートシンボル2301を検出するとフレーム同期を開始し、LLIDと結びつけられたビットパターン2302及び反転されたビットパターン2303に矛盾が無い事を確認した後、あらかじめ登録されている自LLID向けビットパターンと照合する。小規模マイコン1911は、起動信号のビットパターンが自LLID向けのビットパターンと一致する場合は、それが自LLID向けのデジタル起動信号と判定し、起動処理部452に起動処理開始を指示する。起動処理部452はPON LSI部410に働きかけ、スリープ状態からの復帰を指示する。自LLID向けのビットパターンと一致しない場合は受信したデジタル起動信号を破棄する。
【0069】
図20に第3の手段でスリープ状態の特定のONUをスリープ状態から復帰させる際のOLTの動作フロー図の一例を示す。Discoveryプロセスの実行(1101)から下りフレームの蓄積の開始(1112)までは図11と同じ動きをする。
第3の手段では、起動信号をデジタルで送信するため、デジタル起動信号を生成、送信するステップが第1の手段と異なる。デジタル起動信号生成/送信部1802は、OLT1800が当該特定のONUのLLID向け下りフレームのバッファ部430への蓄積を開始した後(1112)、LLID−デジタル起動信号定義テーブル1803を参照し該LLID向けデジタル起動信号のビットパターンを取得する(2001)。デジタル起動信号生成/送信部1802は、取得したビットパターンを前述のフレームフォーマットに組み立て、デジタル起動信号を生成する(2002)。本実施例の手段でもデジタル起動信号にデータ通信と別光波長を使うため、デジタル起動信号はデジタル起動信号用電気/光変換部1801から送信される(2003)。
以降も図11のステップ1116からステップ1119と同じ動作をする。
【0070】
図21に第3の手段でスリープ状態から復帰するONUの動作フロー図の一例を示す。
Discoveryプロセスの検出(1201)からLLIDの割り当て(1203)までは図12と同じ動きをする。
小規模マイコン1911は、OLT1800から割り当てられたLLIDを基に、LLID-デジタル起動信号定義テーブル1921を参照し、自LLID向けデジタル起動信号のビットパターンを取得し(2101)、自身が応答すべきデジタル起動信号のビットパターンを設定する(2102)。そしてスリープ状態へ遷移する(1206)。
【0071】
小規模マイコン1911は、ONU1900がOLT1800からデジタル起動信号を受信すると(2103)、デジタル起動信号に含まれているビットパターンと、LLID割り当て時にあらかじめ小規模マイコン1911に設定しておいたビットパターンを照合し、自LLID向けの起動信号かを判定する(2104)。ビットパターンが異なる場合は、他LLID向けのデジタル起動信号と判定し破棄する(1209)。ビットパターンが一致する場合は、自LLID向けのデジタル起動信号と判定し、起動を開始する(1210)。
以降も図12のステップ1211からステップ1212と同じ動作をする。
【0072】
単純なモデルで考えると、デジタル回路の消費電力は動作周波数と比例する。GHzオーダーのクロックで動作するPON LSI部410とkHzオーダーのクロックで動作する小規模マイコン1911では消費電力が大きく異なる。第3の手段を用いることにより、任意のタイミングで到達する下りフレームについてスリープ状態においても、消費電力の大きなPON LSI部411で間欠的に監視するよりも、デジタル起動信号監視部1910を用いる事で下りフレームの有無を低消費電力で監視することが可能となる。
なお、実施例1や実施例2の起動信号監視部460も同様の理由から、通常のデータ信号を処理するPON・LSI部410と比べて消費電力が小さい。
【0073】
以上、実施例で説明したように、高速・高周波数の信号を処理するため消費電力の大きいPON LSI部410とは別に低消費電力で動作可能な起動信号監視部460、1910を設けることにより、ONUはスリープ状態においても下りフレームの受信要求を常時監視することが可能となる。また、OLTには最大128台のONUが接続されるが、実施例で説明した方式では任意の1台のみをスリープ状態から復帰させることも可能である。
【0074】
実施例1では、下りフレームと同一の光波長でONUへ起動信号を送信する。この手段はOLT、ONU共に現状の光部品を使えるため、低コストで実現できる。起動信号はあらかじめLLIDと結びつけられた特定の中心周波数を持つ例えば正弦波であり、該ONUの通過帯域可変狭帯域フィルタ部で取捨選択することで任意のONUのみを起動することが可能である。なお、波形は正弦波に限らず、フィルタで中心周波数を識別できるものなら他の波形でも良い。
【0075】
実施例2は、PONシステムにおいてデータの送受信等に使用されていない、未使用の光波長でONUへ起動信号を送信する。この手段は主信号の伝送品質に影響を与えないという利点がある。起動信号はあらかじめLLIDと結びつけられた特定の中心周波数を持つ例えば正弦波であり、該ONUの通過帯域可変狭帯域フィルタ部で取捨選択することで任意のONUのみを起動することが可能である。
【0076】
実施例3は、PONシステムにおいて未使用の光波長でONUへ起動信号を送信する。実施例3では起動信号がデジタル符号化されていることが特徴である。
【符号の説明】
【0077】
1 アクセス網
10 PON
20 PSTN/インターネット
100 OLT
110 ONU
120 スプリッタ
130、140 光ファイバ
150 下り信号
160、170 上り信号
180、190 端末
200 OLT側電気側送受信部
210 OLT側媒体アクセス制御部
220 OLT側共用電気/光変換部
230 OLT側バッファ部
240 起動信号送信部
250 起動信号生成部
260 OLT側制御部
261 宛先判定部
262 スリープ状態管理部
270 OLT側記憶部
271 スリープ状態管理テーブル
272 OLT側LLID―起動信号定義テーブル
310 OLT側デジタルデータ受信部
320 OLT側デジタルデータ送信部
330 OLT側ROSA
340 OLT側TOSA
350 WDM
400 ONU側共用電気/光送信部
410 ONU側PON LSI部
411 ONU側媒体アクセス制御部
420 ONU側電気側送受信部
430 ONU側バッファ部
440 ONU側記憶部
441 ONU側LLID―起動信号定義テーブル
450 ONU側制御部
451 フィルタ定数構成部
452 起動処理部
460 起動信号監視部
461 通過帯域可変狭帯域フィルタ部
462 平滑/増幅部
500 WDM
510 ONU側ROSA
520 ONU側TOSA
530 LPF
540 HPF
550 ONU側デジタルデータ送信部
560 ONU側デジタルデータ受信部
1400 OLT
1401 OLT側データ用電気/光変換部
1402 WDM
1403 OLT側起動信号用電気/光変換部
1500 ONU
1501 WDM
1502 ONU側データ用電気/光変換部
1503 ONU側起動信号用電気/光変換部
1800 OLT
1801 OLT側デジタル起動信号用電気/光変換部
1802 デジタル起動信号生成/送信部
1803 OLT側LLID―デジタル起動信号定義テーブル
1900 ONU
1901 ONU側デジタル起動信号用電気/光変換部
1910 起動信号監視部
1911 小規模マイコン
1920 ONU側記憶部
1921 ONU側LLID―デジタル起動信号定義テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側終端装置と光スプリッタを介して複数の宅内終端装置が接続される受動光網システムにおける前記宅内終端装置であって、
前記終端装置との間で送受信する光信号を波長に応じて多重および分離する波長多重分離部と、
前記終端装置から受信して前記波長多重分離部により分離された光信号を電気信号に変換する電気/光変換部と、
前記電気/光変換部からの電気信号が、自装置をスリープ状態から起動するための起動信号であるか否かを判定する起動信号監視部と、
前記起動信号監視部により、前記起動信号が自装置宛の信号と判定された場合に、スリープ状態から起動するための信号を装置内に出力する起動処理部と、を有することを特徴とする宅内終端装置。
【請求項2】
請求項1に記載の宅内終端装置であって、
前記起動信号は、前記局側終端装置と前記宅内終端装置との間で送受信されるデータ信号よりも低い周波数で送信されることを特徴とする宅内終端装置。
【請求項3】
請求項2に記載の宅内終端装置であって、
前記データ信号を受信して処理するデータ処理部を有し、
前記起動信号監視部は、前記データ処理部よりも消費電力が小さいことを特徴とする宅内終端装置。
【請求項4】
請求項2に記載の宅内終端装置であって、
前記起動信号は前記複数の宅内終端装置ごとに異なる周波数の電気信号であり、
前記起動信号監視部は、任意の周波数の電気信号を通過させるフィルタを有し、当該フィルタを通過した起動信号を自装置宛の信号と判定することを特徴とする宅内終端装置。
【請求項5】
請求項2に記載の宅内終端装置であって、
前記起動信号は前記データ信号とは異なる波長の光信号で送信され、
前記起動信号は、光信号の状態で、前記波長多重分離部により他の光信号と分離されることを特徴とする宅内終端装置。
【請求項6】
請求項5に記載の宅内終端装置であって、
前記起動信号は前記複数の宅内終端装置ごとに異なるビットパターンを有する電気信号であり、
前記起動信号監視部は、自装置に割り当てられたビットパターンと、同じビットパターンを有する起動信号を自装置宛の信号と判定することを特徴とする宅内終端装置。
【請求項7】
局側終端装置と光スプリッタを介して複数の宅内終端装置が接続される受動光網システムにおける前記局側終端装置であって、
前記複数の宅内終端装置の少なくともいずれかをスリープ状態から起動するための起動信号を電気信号で生成する起動信号生成部と、
前記起動信号生成部が生成した起動信号の電気信号を光信号に変換して出力する電気/光変換部と、
前記電気/光変換部が出力する光信号とその他の光信号とを波長に応じて多重および分離する波長多重分離部とを有し、
前記起動信号生成部は、前記局側終端装置と前記宅内終端装置との間で送受信されるデータ信号よりも低い周波数で、前記起動信号を生成することを特徴とする局側終端装置。
【請求項8】
請求項7に記載の局側終端装置であって、
前記起動信号生成部は、前記複数の宅内終端装置ごとに、異なる周波数で前記起動信号を生成することを特徴とする局側終端装置。
【請求項9】
請求項7に記載の局側終端装置であって、
前記電気/光変換部は、前記起動信号の電気信号を、前記データ信号とは異なる波長の光信号に変換することを特徴とする局側終端装置。
【請求項10】
請求項9に記載の局側終端装置であって、
前記起動信号生成部は、前記複数の宅内終端装置ごとに、異なるビットパターンを有する信号を生成することを特徴とする局側終端装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−115600(P2013−115600A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259710(P2011−259710)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】