説明

口腔内スイッチ及びその製造方法

【課題】口腔内の所定位置に固定し易く、しかも、誤動作し難い口腔内スイッチ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】口腔内に装着されるマウスピース11と、マウスピース11に設けられ、舌で押圧可能な1又は2以上の圧電センサー12、13と、圧電センサー12、13からの出力信号を受信し、外部装置17に送信可能な制御装置19とを有する口腔内スイッチ10であって、その製造方法は、マウスピース11に圧電センサー12、13を貼り付けた後、圧電センサー12、13の上部に更に熱可塑性材料を加圧圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者、例えば、頸髄損傷、筋ジストロフィー、脳性麻痺、上肢欠損等による肢体不自由者が、口腔内に取付けて使用するスイッチ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肢体不自由者(例えば、頸髄損傷、筋ジストロフィー、脳性麻痺、上肢欠損等の患者)がパソコン等のIT機器を操作する場合、例えば、口腔内に固定するためのリングと、リングの下部層に設けられる圧力スイッチと、圧力スイッチの上部に立設される操作レバーとを備え、舌で操作レバーを押圧することによりスイッチをオン、オフする口腔用ポインティングデバイスを使用している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−290591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明では、口腔内ポインティングデバイスを口腔内の所定位置に固定することが難しいという問題があった。また、レバー部が突出しているので、不用意に舌が当たってしまい、誤動作を起こし易いという問題もあった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、口腔内の所定位置に固定し易く、しかも、誤動作し難い口腔内スイッチ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る口腔内スイッチは、口腔内に装着されるマウスピースと、前記マウスピースに設けられ、舌で押圧可能な1又は2以上の圧電センサーと、前記圧電センサーからの出力信号を受信し、外部装置に送信可能な制御装置とを有する。
ここで、圧電センサーの感圧素子(圧電体)としては、抵抗入力式や静電容量式があるが、これらは別に電源を必要とするので、押圧によって電圧が発生し、電力が不要である薄膜圧電素子を使用するのが好ましい。なお、薄膜圧電素子は、無機材によって構成する場合と、有機材によって構成する場合とがあり、いずれも適用可能である。また、制御装置からの出力信号を受信する外部装置としては、例えば、パソコン、テレビ、家庭用ゲーム機、環境制御装置(ECS)等がある。環境制御装置は、例えば、ベッドの上下動や上体を起こしたり戻したりする操作、電話の受信や送信、インターホン、玄関の電子錠の開け閉め、照明のオンオフ、テレビの音量の調整やチャンネルの変更、エアコンの調整、照明のオンオフ等を1又は少数のスイッチで行うようにする装置であり、環境制御装置に口腔内スイッチを取付けて、前記した操作を行うことができる。
【0007】
本発明に係る口腔内スイッチにおいて、前記制御装置は口腔外に配置され、前記圧電センサーとは有線で接続されているのが好ましい。
本発明に係る口腔内スイッチにおいて、前記制御装置は、前記圧電センサーからの出力信号を受信する受信部と、前記外部装置に送信可能な送信部とを有し、該受信部からの出力信号が該送信部に無線によって送信されてもよい。
ここで、無線信号は、電波による信号、超音波、光信号等がある。
【0008】
本発明に係る口腔内スイッチにおいて、前記圧電センサーは、フィルム状の基板と、該基板の少なくとも片面に形成される圧電体層と、更に外側両面に形成される電極層とを積層した薄膜圧電フィルムを有しているのが好ましい。
基板の材質としては、金属を主成分とする材料、セラミックを主成分とする材料、及び高分子化合物を主成分とする材料等が使用できる。
【0009】
ここで、金属を主成分とする材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銅、チタン、タングステン、シリコン、マグネシウム、亜鉛、スズ、モリブデン、ニオブ、ジルコニア、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、イットリウム、又はこれらの合金、ステンレス、黄銅、及び青銅等のいずれか1又は2以上を使用することができる。
また、セラミック材料を主成分とする材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、ケイ化モリブデン、ホウ化モリブデン、窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン、及びサイアロン等のいずれか1又は2以上を使用することができる。
【0010】
更に、高分子化合物を主成分とする材料(以下、単に「高分子材料」ともいう)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニルサルファイド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッカビニリデン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、及びポリエーテルエーテルケトン等のいずれか1又は2以上を使用することができる。
基材の材質としては、可撓性があり、軽量であり、取り扱い易いといった特徴を有する高分子を主成分とするフィルムが好ましく、特に、耐熱性、絶縁破壊強度、機械的強度に優れるポリイミド系であるのが好ましい。
【0011】
また、圧電体層を形成する材料としては、圧電性を有する物質であれば特に限定されるものではないが、一例としてペロブスカイト構造(ABO)の複合酸化物を主成分とする材料や、ウルツ鉱型構造の化合物を主成分とする材料が使用できる。
ペロブスカイト構造の複合酸化物としては、例えば、Pb(Zr,Ti)O、PbTiO、BaTiO、SrTiO、(Pb,La)(Zr,Ti)O、LiNbO、TaNbO等がある。また、ウルツ鉱型構造の化合物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、硫化カドミウム、硫化亜鉛、又はヨウ化銀等があり、これらの中から1種選択すれば良い。
【0012】
圧電体層の形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、レーザーアブレーション法、イオンプレーティング法、CVD法、及びMOCVD法等が知られており、その中から好ましいものを適宜選択する。圧電体層の膜厚は通常、0.1〜100μmが好ましく、更に0.5〜30μmが特に好ましい。すなわち、厚みが0.1μm未満では、十分な出力が得られ難く、逆に100μmを超えると柔軟性が乏しくなりクラックや剥離を引き起こす恐れがある。
【0013】
更に、電極層を形成する材料としては、アルミニウム、ニッケル、白金、金、銀、銅等の金属や合金の導電材料、又は金属酸化物や金属窒化物の導電材料を用いることができる。
電極層の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば塗布処理、メッキ法、スパッタリング法、又は真空蒸着法等の物理蒸着法を用いることができる。
【0014】
本発明に係る口腔内スイッチにおいて、前記マウスピースは、上歯列前方4〜10歯(上顎歯列前歯から小臼歯)までを覆い、しかも、前記圧電センサーは該マウスピースを装着した際に口腔の内側に配置されるように取付けられているのが好ましい。
本発明に係る口腔内スイッチにおいて、前記マウスピースは生体安全性が確認された熱可塑性材料で形成されているのが好ましい。
【0015】
生体安全性が確認されたとは、医科材料や歯科材料として認可されている材料であって、使用される熱可塑性材料としては、例えば、熱可塑性樹脂がある。ここで、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、エチレン塩化ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルベンテン、ポリスチレン、スチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメタクリレート、ポリビロキシエチルメタクリレート、ポリエチレンメタクリレート、エチレンメタクリル酸共重合体、ポリサルフォン、トランスポリイソプレン、ポリカプロラクトン、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、グッタペルカ、コーパル、セラック、及びクマロンインデン樹脂等のいずれか1又は2以上がある。また、使用する熱可塑性材料は、例えば、60℃以上で軟化し、50℃以下で硬化するものを使用するのが好ましい。
【0016】
前記目的に沿う本発明に係る口腔内スイッチの製造方法は、生体安全性が確認された熱可塑性樹脂で形成されたマウスピースと、該マウスピースに設けられ、舌で押圧可能な1又は2以上の圧電センサーと、該圧電センサーからの出力信号を受信し、外部装置に送信可能な制御装置とを有する口腔内スイッチの製造方法であって、
前記マウスピースに前記圧電センサーを貼り付けた後、該圧電センサーの上部に更に熱可塑性材料を加圧圧着する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜6に記載の口腔内スイッチにおいては、圧電センサーがマウスピースに設けられているので、マウスピースを口腔内の所定の位置に装着し易く、圧電センサーを所定の位置に配置することができる。なお、口腔内に装着する部分がマウスピースであるので、外れ難い。
特に、請求項2記載の口腔内スイッチにおいては、制御装置が口腔外に配置され、圧電センサーと有線で接続されているので、マウスピース及び圧電センサーの誤嚥(誤飲)を防止することができる。
【0018】
請求項3記載の口腔内スイッチにおいては、制御装置が、圧電センサーからの出力信号を受信する受信部と外部装置に送信可能な送信部とを有し、受信部からの出力信号が送信部に無線によって送信されるので、装着、操作の邪魔になるコードが必要でなくなる。また、コードの長さによる制約がなくなるので、装着者が自由に移動することもできる。
請求項4記載の口腔内スイッチにおいては、圧電センサーが、フィルム状の基板と、基板の少なくとも片面に形成される圧電体層と、更に外側両面に形成される電極層とを積層した薄膜圧電フィルムを有しているので、圧電センサーを薄く形成でき、マウスピースからの突出長さを小さくすることができる。また、薄膜圧電フィルムは、押圧によって電圧が発生するので、電力が不要であり、例えば、制御装置に電池を搭載した場合、その分だけ電池の寿命を延長することができる。更に、圧電センサーが薄いため、マウスピースからの突出部分の高さが小さくなり、舌が圧電センサーに不用意に接触することが少なく、誤動作を起こし難い。
【0019】
請求項5記載の口腔内スイッチにおいては、マウスピースが、上歯列前方4〜10歯までを覆い、しかも、圧電センサーがマウスピースを装着した際に口腔の内側に配置されるように取付けられているので、マウスピースが外れ難く、しかも、舌を動かす範囲が適度であり、装着者に負担をかけることが少ない。
請求項6記載の口腔内スイッチにおいては、マウスピースが生体安全性の確認された熱可塑性材料で形成されているので、使用時に有害物質が溶出することがなく、安心して使用することができると共に、装着者に合わせて簡単にマウスピースを作ることができる。
【0020】
請求項7に記載の口腔内スイッチの製造方法においては、生体安全性が確認された熱可塑性材料で形成されたマウスピースに、1又は2以上の圧電センサーを貼り付けた後、圧電センサーの上部に更に熱可塑性材料を加圧圧着するので、簡単にマウスピースに圧電センサーを取付けることができる。また、圧電センサーは、生体安全性が確認された熱可塑性材料で覆われるので、口腔内に挿入するマウスピースが完全に熱可塑性樹脂で覆われ、使用時の安全性が確保されると共に、口腔内の水分(例えば、唾液)等による短絡を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る口腔内スイッチの説明図、図2(A)、(B)はそれぞれ同口腔内スイッチのマウスピースの装着状態を示す側断面図、背面図、図3は同口腔内スイッチの圧電センサーの説明図、図4は同口腔内スイッチの制御装置のブロック図、図5(A)〜(F)は同口腔内スイッチの製造方法を示す説明図、図6は同口腔内スイッチの圧電センサーの出力波形を示すグラフ、図7は同口腔内スイッチの圧電センサーの信号処理方法のフローチャートである。
【0022】
図1〜図4を参照して、本発明の一実施の形態に係る口腔内スイッチ10について説明する。
図1に示すように、口腔内スイッチ10は、生体安全性が確認され、60℃以上で軟化し50℃以下で硬化する熱可塑性材料の一例である歯科用のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(熱可塑性樹脂)によって装着者(例えば、肢体不自由者)Aの歯形に合わせて形成されたマウスピース11と、マウスピース11に設けられ、装着者Aがマウスピース11を装着した際に、舌で押圧可能な位置に取付けられ、押圧による歪みによって電気(圧電気)を発生する1又は2以上、例えば2つの圧電センサー12、13と、口腔外に配置され、圧電センサー12、13からの出力信号をそれぞれシールドケーブル14、15により有線で受信する受信部16及び受信部16と無線を介して接続され、外部装置の一例であるパソコン17にUSBケーブル17aを介して出力信号を送信可能な送信部18を備えた制御装置19とを有している。以下、それぞれについて詳しく説明する。
【0023】
図2(A)、(B)に示すように、マウスピース11は、装着者Aの上歯列前方4〜10歯、例えば、8歯(すなわち、正中よりそれぞれ左右へ中切歯B、側切歯C、犬歯D、第一小臼歯E)までを覆うように形成されている。また、圧電センサー12、13は、装着者Aがマウスピース11を装着した際に口腔の内側、例えば、左右の側切歯C及び犬歯Dの裏側(舌側。以下同様)にそれぞれ跨る位置に取付けられ、装着者Aが舌Fで押圧可能になっている。
【0024】
図3に示すように、圧電センサー12(13)は、高分子材料の一例であるポリイミドで形成され、厚みが5〜100μm(本実施の形態では、12.5μm)のフィルム状の基板20と、基板20の片面に、例えば、窒化アルミニウムを蒸着して形成され、厚みが0.5〜10μm(本実施の形態では、1μm)の圧電体層21と、更に外側両面、すなわち、基板20及び圧電体層21の表面にそれぞれアルミニウムを蒸着して形成され、厚みが0.01〜0.5μm(本実施の形態では、0.1μm)の電極層22、23とを積層した薄膜圧電フィルム24を有している。
【0025】
更に、電極層22、23には、シールドケーブル14(15)を構成するリード線25、26がそれぞれ取付けられている。電極層22、23へのリード線25、26の取付けは、既知の方法、例えば、銀ペーストによる接合法、又は超音波による接合法等を使用することができる。
また、圧電センサー12、13は、薄膜圧電フィルム24の中央部を圧電体層21に設けられた電極層23を内側にして折り曲げてマウスピース11に貼り付ける。このように、薄膜圧電フィルム24を2つ折りにして重ねることにより感度が向上するが、折り曲げなくてもよいし、2回以上折り曲げて重ねてもよい。また、薄膜圧電フィルムを、基板の外側両面に圧電体層を設け、更にその両面に電極層を形成し、感度を向上させてもよい。更に、マウスピース11を形成する樹脂と同じ樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂40a)で、マウスピース11に取付けた圧電センサー12、13の表面を覆って、口腔内の水分(例えば、唾液)等による短絡を防止している。
【0026】
図4に示すように、制御装置19の受信部16は、シールドケーブル14、15を介して圧電センサー12、13にそれぞれ接続され、圧電センサー12、13からの第1の出力信号を増幅する図示しないコンデンサーを備えたチャージアンプ27、28と、チャージアンプ27、28と接続される第1のマイコン29と、マイコン29に接続され、マイコン29から出力される第2の出力信号を送信部18に送信する送信用の無線チップ30と、無線チップ30に接続されるアンテナ31と、マイコン29及び無線チップ30を駆動させる電源、例えば、電池44を有している。マイコン29は、チャージアンプ27、28及び無線チップ30と接続されるインターフェース(図示せず)、チャージアンプ27、28からの第1の出力信号を構成するアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器(図示せず)、CPU(図示せず)、ROM(図示せず)、及びRAM(図示せず)を備え、ROMには、圧電センサー12、13からの第1の出力信号を処理するプログラムが記憶されている。また、マイコン29には、図示しないしきい値設定手段が接続され、圧電センサー12、13への押圧力(すなわち、出力される電圧)、押圧時間等を予め設定することができるようになっている。
【0027】
また、制御装置19の送信部18は、受信部16からの第2の出力信号を受信するアンテナ32と、アンテナ32に接続される受信用の無線チップ33と、無線チップ33に接続される第2のマイコン34と、パソコン17のUSBポート(図示せず)に接続されたUSBケーブル17aを接続するためのインターフェース(図示せず)と接続されたUSB−シリアル変換チップ35が接続されている。また、送信部18は、マイコン34に接続され、圧電センサー12のみの押圧によって発光する発光ダイオード36、圧電センサー13のみの押圧によって発光する発光ダイオード37、及び圧電センサー12及び圧電センサー13が実質的に同時に押圧された際に発するブザー38が取付けられている。なお、マイコン34は、図示しないインターフェース、CPU、ROM、及びRAMを備え、ROMには、受信部16からの第2の出力信号を処理して、パソコン17に第3の出力信号を送信すると共に、第2の出力信号により発光ダイオード36、37、又はブザー38を作動させる処理プログラムが記憶されている。
【0028】
次に、図5(A)〜(F)を参照して、口腔内スイッチ10のマウスピース11の作製方法及びマウスピース11への圧電センサー12、13の取付け方法について説明する。
まず、例えば、厚みが5mmで、直径が10cmの円盤状の歯科用のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂40を、例えば、60〜90℃の熱湯に入れて軟化させ、予め作製された上歯用の汎用歯列模型41の上歯の左右へ中切歯Bから第一小臼歯Eまでの8歯を覆うように型取りを行い(A)、ベースマウスピース42を作製する(B)。更に、ベースマウスピース42の左右の側切歯C及び犬歯Dの裏側にそれぞれ跨る位置にそれぞれシールドケーブル14、15が接続された圧電センサー12、13を貼り付けた後(C)、更に新たに軟化させたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂40aで圧電センサー12、13の周囲表面を覆い加圧して圧着する(D)。圧電センサー12、13が取付けられたベースマウスピース42を汎用歯列模型41から取り外して形を整え、圧電センサー12、13を取付けた原マウスピース43を作製する(E)。更に、この原マウスピース43を加温して軟化させた後、装着者Aの口腔内での口唇圧、舌圧、咬合圧を加えることによって、装着者Aの歯形に合った形に整え、圧電センサー12、13が取付けられた装着者A専用のマウスピース11を作る(F)。
【0029】
このように、口腔内スイッチ10は、圧電センサー12、13がマウスピース11に取付けられているので、装着し易く、しかも、外れ難くなっている。また、口腔内にマウスピース11が固定されるので、圧電センサー12、13が所定の位置(ここでは、左右の側切歯C及び犬歯Dの裏側)に固定配置されるので、押し間違え難い。マウスピース11が熱可塑性材料で作製されているので、装着者の歯形に合わせて調整できると共に、簡単に作ることができる。また、マウスピース11には、シールドケーブル14、15が接続されるので、マウスピース11及び圧電センサー12、13の誤嚥(誤飲)を防止することができる。
【0030】
次に、図6及び図7を参照して、口腔内スイッチ10の動作について説明する。なお、圧電センサー12、13は、同様の動作をするので、圧電センサー12について詳しく説明する。
図6(A)、(B)に示すように、圧電センサー12が押圧される(すなわち、舌で押す)と、正の電流(オン信号)が発生した後、すぐに電流が基準値に戻り、更に押圧を止める(すなわち、舌を離す)と、負の電流(オフ信号)が発生し、すぐに電流が基準値に戻る。従って、オン信号とオフ信号の時間をタイマーで計測することにより、圧電センサー12が押されてから離されるまでの時間(押圧時間)を計測することができる。なお、図6に示されている電流値は、チャージアンプ27によって増幅されている。
【0031】
口腔内スイッチ10は、制御装置19の受信部16のマイコン29で、受信した圧電センサー12、13の出力信号(オン信号及びオフ信号)をマイコン29に記憶されたプログラムによって解析する。図7に示すように、圧電センサー12からのオン信号を受けた場合(a)、マイコン29に内蔵された図示しないタイマーによって圧電センサー12、13が押されてからの時間の計測が開始される。
ここで、図6(B)に示すように、圧電センサー12が所定時間(長押し判定時間ともいう。例えば、1秒間)を超えて押され続けた場合、すなわち、計測開始から1秒間以内にオフ信号を受けない場合(b)、「長押し」と判定され、出力信号1が発信される。その後、装着者Aが圧電センサー12を離し、オフ信号を受けると待機状態に戻る。
【0032】
また、図6(A)に示すように、圧電センサー12への押圧時間が1秒間以内の場合、すなわち、計測開始から1秒間以内にオフ信号を受けた場合(c)、「短押し」と判定され、出力信号2が発信される。
更に、圧電センサー12への押圧時間が1秒間以内に圧電センサー13が押された(すなわち、実質的に同時に押された)場合(d)、「同時押し」と判定され、出力信号3が発信される。その後、装着者Aが圧電センサー12及び圧電センサー13を離すと、それぞれのオフ信号が送信され待機状態に戻る。
【0033】
また、圧電センサー12からのオン信号なしに圧電センサー13のオン信号を受けた場合(e)、圧電センサー13からのオン信号の計測から1秒間経過する前に圧電センサー13からオフ信号を受ける(f)と「短押し」と判定されて出力信号5が発信され、また、1秒間経過する(g)と「長押し」と判定されて出力信号4が発信され、更に、1秒間経過する前に圧電センサー12からのオン信号を受ける(h)と「同時押し」と判定されて出力信号3が発信される。
【0034】
マイコン29からの出力信号1〜5(第2の出力信号)は、受信部16の無線チップ30及びアンテナ31、送信部18のアンテナ32及び無線チップ33を介して、マイコン34に送られる。マイコン34は、出力信号1〜5を受信すると、送信部18に接続されたパソコン17にそれぞれ出力信号A〜Eを送信すると共に、圧電センサー12が押圧されたことを示す出力信号1及び2を受信すると発光ダイオード36を点灯させ、圧電センサー13が押圧されたことを示す出力信号4及び5を受信すると発光ダイオード37を点灯させ、圧電センサー12及び圧電センサー13が同時に押圧されたことを示す出力信号3を受信するとブザー38を発声させる。
【0035】
次に、口腔内スイッチ10によるパソコン17の操作方法について説明する。
図1に示すように、制御装置19の送信部18に接続したUSBケーブル17aをパソコン17に接続すると共に、図2に示すように、装着者Aの口腔内に口腔内スイッチ10のマウスピース11を装着する。ここで、装着者Aが、舌で圧電センサー12及び圧電センサー13のいずれか一方又は双方を押圧又は離すことにより、圧電センサー12及び/又は圧電センサー13からの第1の出力信号(オン信号及びオフ信号)が発せられる。受信部16のマイコン29により、受信した第1の出力信号が解析されて出力信号1〜5として、送信部18のマイコン34に送信され、マイコン34がパソコン17、発光ダイオード36、37、及びブザー38に信号が送信される。
【0036】
口腔内スイッチ10は、例えば、少数のスイッチで作動する肢体不自由者用のアプリケーション(例えば、環境制御装置、テレビリモコン、家庭用ゲーム機等)の入力装置として使用することができ、また、健常者が使用するキーボードやマウス等の入力装置の代わりに少数のスイッチでワープロ等の文字入力を可能とする入力支援ソフトウエア(例えば、オペレートナビ、キネックス等)の入力装置としても使用することができる。
なお、それぞれのアプリケーションによる口腔内スイッチ10からの出力信号1〜5の割り付けは、口腔内スイッチ10に記憶させてもよいし、各アプリケーションで設定してもよい。例えば、口腔内スイッチ10をテレビリモコンの入力装置として使用した場合には、圧電センサー12による「短押し」をチャンネル変更とし、「長押し」を電源のオンオフとし、圧電センサー13による「短押し」をボリューム小とし、「長押し」をボリューム大とし、「同時押し」を呼出用として処理することができる。
【0037】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記した実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の口腔内スイッチ及びその製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施の形態の口腔内スイッチにおいて、マウスピースの材料として、歯科用のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂を使用したが、生体安全性が確認されている熱可塑性材料であればよい。また、マウスピースには、2つの圧電センサーを取付けたが、1つ又は3つ以上取付けてもよく、マウスピースを上歯用としたが、下歯用としてもよい。
【0038】
前記実施の形態では、頸髄損傷、筋ジストロフィー、脳性麻痺、上肢欠損等による肢体不自由者が、パソコン等の機器の操作を行うようにしているが、これに限らず、例えば、両手が塞がっている健常者が使用することもできる。また、口腔内スイッチ10を家庭用ゲーム機の入力装置や、テレビのリモコン等に使用することができ、更には、環境制御装置の操作、ベッドの操作、電動車椅子の操作、エレベータの操作等を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態に係る口腔内スイッチの説明図である。
【図2】(A)、(B)はそれぞれ同口腔内スイッチのマウスピースの装着状態を示す側断面図、背面図である。
【図3】同口腔内スイッチの圧電センサーの説明図である。
【図4】同口腔内スイッチの制御装置のブロック図である。
【図5】(A)〜(F)は同口腔内スイッチの製造方法を示す説明図である。
【図6】同口腔内スイッチの圧電センサーの出力波形を示すグラフである。
【図7】同口腔内スイッチの圧電センサーの信号処理方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
10:口腔内スイッチ、11:マウスピース、12、13:圧電センサー、14、15:シールドケーブル、16:受信部、17:パソコン、17a:USBケーブル、18:送信部、19:制御装置、20:基板、21:圧電体層、22、23:電極層、24:薄膜圧電フィルム、25、26:リード線、27、28:チャージアンプ、29:第1のマイコン、30:無線チップ、31、32:アンテナ、33:無線チップ、34:第2のマイコン、35:USB−シリアル変換チップ、36、37:発光ダイオード、38:ブザー、40、40a:エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、41:汎用歯列模型、42:ベースマウスピース、43:原マウスピース、44:電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に装着されるマウスピースと、
前記マウスピースに設けられ、舌で押圧可能な1又は2以上の圧電センサーと、
前記圧電センサーからの出力信号を受信し、外部装置に送信可能な制御装置とを有することを特徴とする口腔内スイッチ。
【請求項2】
請求項1記載の口腔内スイッチにおいて、前記制御装置は口腔外に配置され、前記圧電センサーとは有線で接続されていることを特徴とする口腔内スイッチ。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の口腔内スイッチにおいて、前記制御装置は、前記圧電センサーからの出力信号を受信する受信部と、前記外部装置に送信可能な送信部とを有し、該受信部からの出力信号が該送信部に無線によって送信されることを特徴とする口腔内スイッチ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔内スイッチにおいて、前記圧電センサーは、フィルム状の基板と、該基板の少なくとも片面に形成される圧電体層と、更に外側両面に形成される電極層とを積層した薄膜圧電フィルムを有していることを特徴とする口腔内スイッチ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の口腔内スイッチにおいて、前記マウスピースは、上歯列前方4〜10歯までを覆い、しかも、前記圧電センサーは該マウスピースを装着した際に口腔の内側に配置されるように取付けられていることを特徴とする口腔内スイッチ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の口腔内スイッチにおいて、前記マウスピースは生体安全性が確認された熱可塑性材料で形成されていることを特徴とする口腔内スイッチ。
【請求項7】
生体安全性が確認された熱可塑性材料で形成されたマウスピースと、該マウスピースに設けられ、舌で押圧可能な1又は2以上の圧電センサーと、該圧電センサーからの出力信号を受信し、外部装置に送信可能な制御装置とを有する口腔内スイッチの製造方法であって、
前記マウスピースに前記圧電センサーを貼り付けた後、該圧電センサーの上部に更に熱可塑性材料を加圧圧着することを特徴とする口腔内スイッチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−299700(P2007−299700A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128603(P2006−128603)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(503459257)有限会社しまだ福祉用具研 (2)
【出願人】(506152818)公立大学法人九州歯科大学 (1)
【出願人】(504268744)独立行政法人労働者健康福祉機構 (13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】