説明

口腔用組成物

【課題】低刺激で、かつ安全な口腔組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるチロソール誘導体を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【化1】


(但し、式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のチロソール誘導体を含有してなる、低刺激かつ安全性の高いう蝕予防効果を有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チロソールは糖のアルコール発酵の際、酵母の作用によりチロシンから生成する。例えば、日本酒やワインといった醸造酒に苦味成分として含まれる。また、チロソール及びチロソール誘導体は食品であるオリーブの果実にも含まれる(非特許文献1、2)。ヒドロキシチロソールはメラニン生成抑制や抗酸化剤、また、チロソールエステル類は脂質代謝系酵素阻害剤として応用技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
一方、本来、歯面には菌体表層物質と唾液中の糖タンパク質の相互作用により口腔内常在細菌が吸着している。う蝕は、この口腔内常在細菌の菌体外酵素により食物由来のショ糖が粘着性多糖類に変性され、さらに強固な歯垢となって付着した中で、口腔内常在細菌が糖類を代謝し酸を生成することにより、歯面のエナメル質が脱灰し起こる。う蝕の原因となる細菌としては種々の口腔内常在細菌が知られているが、その中心をなすものはストレプトコッカス ミュータンス(Streptcoccus mutans 以下、ミュータンス菌という)である。従って、う蝕を予防するためには、A)ショ糖を摂取しない、B)口腔内常在菌、特にミュータンス菌を殺菌する、C)ミュータンス菌の酵素活性を阻害する、D)細菌の歯面付着を阻止する等の方法があり、種々の提案がなされている(特許文献3、4参照)。また従来から、口腔内常在細菌の殺菌目的に口腔組成物中にクロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム等の殺菌剤やエタノールが配合され、優れた殺菌効果を得ているものの、一方で刺激を生じるなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平8−119825号公報
【特許文献2】特開2003−26636号公報
【特許文献3】特開平5−255098号公報
【特許文献4】特開昭59−29619号公報
【非特許文献1】グテリエッツ-ロザレス(F.Gutierrez-Rosales)ら 「J.Agric.Food Chem.」2003,51,6021-6025
【非特許文献2】セルジオ・ゴメス-アロンソ(Sergio Gomez-Alomso)ら 「J.Agric.Food Chem.」2002,50,6812-6817
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情において、低刺激で安全なう蝕予防効果のある口腔用組成物が求められていた。即ち、本発明の目的とするところは、低刺激で、かつ安全な口腔組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記事情に鑑み、鋭意研究した結果、下記一般式(1)で示されるチロソ
ール誘導体に口腔内細菌に対する殺菌力があることを見出し、且つ本成分を配合することを特徴とする口腔用組成物は口腔内細菌に対する殺菌力を保有することを見出し、本発明を完成したものである。即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されるチロソール誘導体を含有することを特徴とする口腔用組成物にある。
【0007】
本発明で用いられるチロソール誘導体は、一般式(1)で示される。
【0008】
【化1】

(但し、式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である)
【発明の効果】
【0009】
本発明のチロソール誘導体は、後記試験例1からも明らかな如く、口腔内常在菌でありう蝕原因菌であるミュータンス菌に対し優れた抗菌作用をもつ。また水への溶解が容易なことから、エタノールに殺菌成分を溶解する必要がなく、エタノール刺激が低減された口腔用組成物を提供できることは明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるチロソール誘導体の配合濃度としては、口腔用組成物全体量を基準として0.005〜5.0質量%(以下、%と略記する)、さらに好ましくは0.01〜0.5%である。本発明に係る口腔用組成物としては、練歯磨、粉歯磨、水歯磨等の歯磨類、マウスウォッシュ、口中清涼剤、トローチ等が例示される。その他チューインガム、キャンディー、グミキャンデー、アメ等を挙げることができる。
【0011】
本発明の口腔用組成物に配合できる他の配合成分としては、口腔用組成物の種類に応じて適宜選択される。例えば、練歯磨の場合は、一般に研磨剤として使用されている、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、シリカ、ゼオライト、メタリン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、ベンガラ、硫酸カルシウム、無水ケイ酸等が挙げられる。また、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸塩、カラギーナン、アラビアガム、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、酸化マグネシウム、アルミナゾル、ケイ酸カルシウム、ペクチン、グアガム、カオリン等の粘結剤、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウロイルスルホ酢酸ナトリウム、N−ラウリルスルホン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン、アルキロールアミド等の発泡剤が使用される。さらに、サッカリンナトリウム、ステビオサイト、グリチルリチン、カルコン、ジヒドロカルコン等の甘味料、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、キリシトール、ジプロピレングリコール、乳酸ナトリウム、マルチトール等の保湿剤、パラオキシ安息香酸等の防腐剤、ペパー
ミント、スペアミント精油等の香料、その他乳酸アルミニウム、エデト酸塩、色素、BHT等が使用され、必要に応じてその他の有効成分として塩化リゾチーム、デキストラーゼ、溶菌酵素、ムタナーゼ、ソルビン酸、アレキシジン、セチルピリジニウムクロライド、アルキルグリシン、塩化ナトリウム、アラントイン、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アズレン、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、グリチルリチン、グリチルリチン酸、ヒノキチオール、ビタミンE、油溶性甘草エキス等の植物由来のエキス等も使用できる。本発明の口腔用組成物は、例えば練歯磨の場合、これらの成分と水とを混合し、常法に従い製造する。また、マウスウォッシュ、トローチ、チューイングガムその他においても製品の性状に応じた成分が適宜配合される。
【実施例】
【0012】
以下、試験例・実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
・試験例1
ミュータンス菌に対するモノアセチルチロソールの抗菌力試験方法及び結果を示す。
【0013】
ミュータンス菌(Ingbritt株)をブレインハートインフュージョン液体培地で37℃、18時間培養した供試菌を0.1%ペプトン食塩液に分散させ、約10個/mLの生菌数菌液を調製した。次に、モノアセチルチロソールをジメチルスルホオキシド(以下、DMSOと記する)に溶解し、試料とした。試験菌の培養に用いた培地に試料5%と寒天1.5%を添加した平板寒天培地に、調製菌液を画線し、各菌種の至適温度にて保管後、発育阻止濃度を測定した。
【0014】
・試験結果
発育阻止濃度 0.5%
【0015】
試験例2
モノアセチルチロソールを配合した組成物のミュータンス菌に対する抗菌力試験及び結果を示す。
【0016】
ミュータンス菌(Ingbritt株)をブレインハートインフュージョン液体培地で37℃、18時間培養した供試菌を0.1%ペプトン食塩液に分散させ、約10個/mLの生菌数菌液を調製した。次に、実施例1と比較例1の練り歯磨きを滅菌した精製水に懸濁し、試料とした。試験菌の培養に用いた培地に試料5%と寒天1.5%を添加した平板寒天培地に、調製菌液を画線し、各菌種の至適温度にて保管後、発育阻止濃度を測定した。
【0017】
実施例1;練り歯磨き
モノアセチルチロソールを配合した練り歯磨きを下記の組成で製造した。
(組成)
原料成分 配合量%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
モノアセチルチロソール 5.0
グリセリン 15.0
第2リン酸カルシウム・2水塩 45.0
無水ケイ酸 10.0
酸化チタン 5.0
サッカリンナトリウム 0.1
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.5
香料 0.5
精製水 残 量
【0018】
比較例1;練り歯磨き
実施例1の組成を基本組成としモノアセチルチロソールを配合しない練り歯磨きを製造した。
【0019】
試験結果
組成物のミュータンス菌発育阻止濃度
実施例1 0.05%
比較例1 0.3%
実施例1は比較例1に比べ、ミュータンス菌に対し有意に抗菌効果が認められた。
【0020】
試験例3
モノアセチルチロソールを配合した口腔組成物の官能試験結果を示す。
【0021】
実施例2;マウスウオッシュ
モノアセチルチロソールを配合したマウスウォッシュを下記の組成で製造した。
(組成)
原料成分 配合量%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
モノアセチルチロソール 0.5
グリセリン 10.0
ソルビトール 5.0
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
サッカリンナトリウム 0.08
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3
香料 0.01
精製水 84.01
【0022】
比較例2 マウスウオッシュ
原料成分 配合量%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
エタノール 10.0
グリセリン 10.0
ソルビトール 5.0
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
サッカリンナトリウム 0.08
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3
香料 0.01
精製水 74.51
【0023】
実施例2と一般的に市販される比較例2のマウスウォッシュを用いて使用試験による官能評価を行ったところ、実施例2に示すマウスウオッシュは、比較例2と比較して、下記のとおり官能上有意に刺激を低減した。

実施例2 比較例2
刺激なし 20人 0人
やや刺激あり 0人 4人
刺激あり 0人 15人
非常に刺激あり 0人 1人
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、低刺激で安全なう蝕予防料、およびう蝕予防効果を有する口腔用組成物を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるチロソール誘導体を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【化1】

(但し、式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である)

【公開番号】特開2008−143806(P2008−143806A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330592(P2006−330592)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】