説明

可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置

【課題】このスライド装置は,可動マグネット型リニアモータを内蔵し,テーブルの往復移動のストローク長さを長くし,テーブルの推力,高速性,高応答性を向上させ,小形でコンパクトに製作効率が良好になっている。
【解決手段】このスライド装置は,ベッド2をコイルヨークに,テーブル1をマグネットヨークに構成する。電機子組立体5は,基板11上の電機子コイル7,電源線17を電機子コイル7に結線した配線を有する。電機子組立体5は,電機子コイル7の面を表面保護シート20で覆われている。基板11には,接着剤によるモールド部9で電機子コイル7を,電源線17と配線との結線部を接着剤によるモールド部14で固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,工作機械等の各種装置に使用される可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,小形に構成され,半導体製造装置,各種組立装置,測定装置等の各種の装置に益々多用途に使用され,更に,装置そのものをコンパクトで,シンプルなシステムに構成し,高推力があり,高精度で,防塵性,耐久性,安全性を有し,使い勝手がよく,組み込まれている直動案内ユニットに対する潤滑のメンテナンスフリーを実現し,しかも装置そのものが安価であることが求められている。
【0003】
本出願人は,先に可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置を開発した。該スライド装置は,長尺な平板状のベッド,ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な平板状のテーブル,テーブルのベッドに対する対向面にテーブルの移動方向に極性を交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び界磁マグネットに対向してベッドのテーブルに対する対向面に長手方向に沿って矩形状のコアレス形状の電機子コイルを多数配設した電機子組立体を有し,ベッドはコイルヨークとして,またテーブルはマグネットヨークとして,磁気回路部分になる磁性材料から構成され,テーブルの対向面に多数のマグネットでなる界磁マグネットを位置決め可能にする凹部が形成され,該凹部は界磁マグネットの板厚の1/3以下の深さに形成されている。上記スライド装置は,ストローク長さを長くして,高速性,高応答性を発揮させ,製作効率を向上させたテーブル等の部品で構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,本出願人は,上記スライド装置において,界磁マグネット及び電機子コイルの数が少ないものを開発した。該スライド装置は,界磁マグネットのN極とされた一方の磁極の外側に磁束のパターンを矯正させて磁気検知素子でもって正確に位置検出を可能にするものであり,界磁マグネットに対向してベッドに配設された磁気検知素子によってテーブルの位置を検出し,界磁マグネットの一方の端部に配置されている一端磁極の外側には,テーブルの推力に与える影響が少ない範囲で極性が異なる補助マグネットが配設されている。補助マグネットは,配設されないときに外側に開放されてしまう一端磁極の磁極パターンを矯正し,互いに隣接する磁極の境界位置における磁束と同程度に設定し,一端磁極の端部を正確に検出することができる(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,本出願人は,スライダのベッドに対する高速作動性,応答性を更に向上させてテーブルのベッドに対する位置決めを一層高精度化することを可能にした可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置を開発した。該スライド装置は,電機子組立体への通電を3相通電方式とすることによって,駆動回路を内部から外部のドライバ側に移設し,ベッドの構造を簡単化し,高さを低くして,界磁マグネットとして希土類磁石を用いて磁束密度を高め,テーブルに高推力を確保し,また,テーブルの位置を検出するエンコーダを光学式リニアスケールを有する光学式エンコーダとすることによって,検出精度が向上され,検出用ケーブルが固定側であるので,低発塵であってクリーンな環境に適するものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,コアレスリニアモータ用電機子及びリニアモータについて,ベースと電機子巻線とをモールド樹脂によって一体的構造に構成するために,ベースの長さ方向の内側にアリ溝を形成し,モールド樹脂をアリ溝に充填することにより,モールド樹脂の抜け防止を達成したものが知られている(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−333702号公報
【特許文献2】特開2002−10617号公報
【特許文献3】特開2001−352744号公報
【特許文献4】特開2006−60969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,ストローク長さを長くして,高速性,高応答性を発挿できる構造に構成し,製作効率を向上させたテーブル等の部品で構成されていた。しかしながら,上記スライド装置については,更にコンパクトな構造でシンプルなシステムに構成され,スライダの推力をアップさせるように構成され,更なる高精度で,防塵性,耐久性,安全性が確保され,使い勝手がよく,組み込まれた直動案内ユニットに対する潤滑のメンテナンスフリーが達成され,しかも安価な製品が求められるようになっている。
【0008】
また,上記コアレスリニアモータ用電機子及びリニアモータは,アリ溝を形成したベースと共にモールドしなければならないものであり,そのため複雑な構成になっている。
【0009】
近年,可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,各種の装置に益々多用途されるようになり,テーブル等が長い距離(ストローク)を移動可能な構造のものが求められる現状に鑑みて,スライド装置を更に一段と発展させてテーブルのストローク長さを長く摺動移動できるように改良し,テーブルを可及的にシンプルで軽量に構成してテーブルの推力を向上させて高速性,高応答性等の性能を発揮させ,更に小形で,コンパクトで,製作効率が良好なスライド装置を構成するということが要望されている。
【0010】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,テーブルが長い距離,即ち,ストローク長さを長く移動でき,テーブルの推力を向上させて高速性,高応答性等の性能を満足させるため,テーブルやベッドに設けていた各種の部品を,設置型の制御装置側に移設し,特に,往復移動するテーブルそのものを軽量にシンプルに構成すると共に,小形であってコンパクトで製作効率を良好にした可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,長尺な平板状でなるベッド,前記ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な平板状のテーブル,前記テーブルの前記ベッドに対する第1対向面に前記テーブルの移動方向に極性が交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び前記界磁マグネットに対向して前記ベッドの前記テーブルに対する第2対向面に前記長手方向に沿ってコアレスの扁平の電機子コイルを多数配設した電機子組立体を有する可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置において,
前記ベッドはコイルヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成され,前記テーブルはマグネットヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成され,前記電機子組立体は前記電機子コイル,前記電機子コイルを上面に配列した基板,及び前記基板の前記上面に配置され且つ電源線が結線されて前記電機子コイルに電源をそれぞれ供給する配線を備え,前記基板に配置された前記電機子コイルはその周囲が接着剤でモールドされて前記基板に固着され,前記基板の下面は前記ベッドの前記第2対向面に直接固着されていることを特徴とする可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置に関する。
【0012】
また,前記電機子組立体は,前記電機子コイルの前記界磁マグネットに対向する面を覆って固着された表面保護シート,及び前記表面保護シートと前記基板との間に配置された前記電機子コイルを前記接着剤でモールドした第1モールド部を有する。更に,前記電機子組立体は,前記基板上で前記電源線と前記配線とが結線された結線部を前記接着剤でモールドした第2モールド部を有する。
【0013】
このスライド装置は,前記テーブルの前記ベッドからの飛び出しを防止するため,前記電機子組立体の前記基板の端面に接して前記ベッドの両端部にそれぞれ固着されたエンドプレートを備えているものである。更に,前記エンドプレートは,L字形状の板材で形成され,前記板材には前記電源線が嵌入配設される凹欠部が形成されている。
【0014】
また,このスライド装置は,前記電機子組立体における前記基板には,前記基板を前記ベッドにねじ固定するための取付け用孔が形成されている。更に,前記基板に形成した前記取付け用孔は,前記基板の両端部に2箇所ずつそれぞれ形成されている。
【0015】
また,このスライド装置では,前記ベッド及び/又は前記テーブルは,前記テーブルのスライド方向を左右に見て,左右対称の形状に形成されている。
【0016】
更に,このスライド装置では,前記テーブルに形成された取付け用ねじ孔は,別のスライド装置を直交して取り付け可能にするため,前記ベッドに形成された取付け用孔を90°回転させた前記取付け用孔の位置に対応して合致する位置に形成されている。
【0017】
前記直動案内ユニットを構成する軌道レール上を摺動するスライダは,前記テーブルに設けた1本の位置決めピンによって前記テーブルにそれぞれ位置決めされる。
【0018】
このスライド装置は,前記テーブルの前記第1対向面の側部には前記スライド方向に沿ってリニアエンコーダであるリニアスケールが固着され,前記ベッドの側面には前記リニアスケールに対向してリニアエンコーダでなるセンサが取り付けられ,前記リニアスケールには中央部に原点マークが形成されている。
【発明の効果】
【0019】
この可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,上記のように構成されているので,装置そのものが最小限の必要な部品に限定され,例えば,従来のスライド装置に設けられていたリミットセンサ等の機器を設置タイプの制御装置に設け,装置そのものをシンプルに構成して軽量化を達成し,それによって,テーブルの往復移動の推力をアップし,高速性,高応答性等の性能を有効に発揮させることができ,従来のスライド装置に比較してテーブルのストローク長さを更に長く往復移動可能に構成され,長ストロークを有するスライド装置であっても小形にコンパクトに構成することが可能になり,しかも製作効率が良好になる構成を備え,各種の装置に容易に組み込んで使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,クリーンルーム,試験実験室等のエリアで稼働される半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,工作機械等の各種の装置に組み込んで使用して好ましいものである。また,このスライド装置は,本出願人が開発した従来例,例えば,特開2005−333702号公報に開示したスライド装置に比較して,更に,界磁マグネット及び電機子コイルを大きくして推力を向上させ,例えば,リミットセンサ,原点前センサ,原点マーク等の機器を制御装置等に設けてスライド装置から排除し,装置をシンプルな構造に構成し,特に,電機子組立体の電機子コイルや配線をモールドして密封性を良好にして,左右の使い勝手の仕様変更にも電機子組立体を180°配置換えして容易に対応可能にし,ベッド,ストッパ等の部品を簡素で安価な形状に構成し,全長を短く,コンパクトに構成し,また,スライド装置そのものを種々のサイズ,例えば,大,中及び小というように要望に応じて作製することを可能にし,適用範囲を拡げることができるものである。
【0021】
以下,図面を参照して,この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置の実施例を説明する。このスライド装置50は,この実施例では,図1〜図5に示すように,界磁マグネット6の磁極が4極即ち永久磁石25を4個配列し,それに対応する電機子組立体5を6個の電機子コイル7から構成したものが示されているが,従来例のスライド装置のように,界磁マグネット6の磁極を8極配列し,12個の電機子コイル7からなる電機子組立体5で構成することができることは勿論である。スライド装置50は,従来例のものに対して,さらに,コンパクトで,システムがシンプルであり,高推力であり,高精度で,防塵性,耐久性,安全性を有し,使い勝手がよく,潤滑のメンテナンスフリーに構成され,安価なものに形成されたものになっている。
【0022】
スライド装置50は,従来例のものと同様に,小形に構成され,界磁マグネット6が装着されたテーブル1が鋼等の磁性材から成り,マグネットヨークとして磁気回路部分を構成しており,また,ベッド2が同様に磁性材から成り,各電機子コイル7に対してコイルヨークとして作用する磁気回路部分を構成している。即ち,スライド装置50では,ベッド2はコイルヨークとして,テーブル1がマグネットヨークとして磁気回路部分になる磁性材料から構成されている。テーブル1のベッド2に対する下面52(第1対向面)に,多数の永久磁石であるマグネット25でなる界磁マグネット6を位置決め可能にする凹部33が形成されている。テーブル1に形成された凹部33は,界磁マグネット6が配設される幅でテーブル1の移動方向即ちスライド方向に延びている。また,テーブル1の上面には,スライド方向に延びる逃げ凹部39が形成されている。また,スライド装置50は,電機子コイル7及び界磁マグネット6の大きさを大きくして推力を向上させたものであり,従来のメカ機能の機器(図示せず)を制御装置49(図18)側に移譲することで,構成そのものをシンプルに構成したものである。具体的には,スライド装置50は,図4に示すように構成されており,電機子組立体5は,ベッド2の上面51(第2対向面)に配設されており,従来のスライド装置に配置されていたリミットセンサ,原点前センサ等の機器が無く,機器として電機子コイル7とその配線のみが配設された構造に構成されている。また,図5に示すように,テーブル1の下面52は,従来のスライド装置に設けられていた界磁マグネットに付随して配置されていた端板,補助マグネット,及びセンサ用マグネット等の部材が設けられておらず,さらに支持具に支持された原点マークが無く,界磁マグネット6及びリニアスケール8のみが配設された構造に構成されている。テーブル1には,リニアスケール8を取り付けるための取付け面40がスライド方向に延びて設けられている。また,スライド装置50は,リニアスケール8の中央部に切欠きでなる原点マーク35が印された形状に構成されている。即ち,テーブル1の下面52の側部には,スライド方向に沿ってリニアエンコーダであるリニアスケール8が固着され,ベッド2の側面には,リニアスケール8に対向してリニアエンコーダでなるセンサ15が取り付けられている。ベッド2には,上面51のスライド方向の中央部に形成された凹部45に取付け用ねじ孔44が形成され,支持ブラケット21には取付け用孔が形成されている。センサ15は,ベッド2に固定された支持ブラケット21に固定されている。支持ブラケット21は,凹部45に配設して固定ねじ32を支持ブラケット21の取付け用孔の挿通して取付け用ねじ孔44に螺入することによって,ベッド2に固定されている。
【0023】
スライド装置50は,長尺な平板状でなるベッド2に配設した電機子コイル7を持つ電機子組立体5と,ベッド2の長手方向に直動案内ユニット10を介して往復移動自在な平板状でなるテーブル1に設けた界磁マグネット6とから成る可動マグネット型リニアモータを内蔵したものであり,界磁マグネット6は,テーブル1のベッド2に対する下面52にテーブル1の移動方向に極性が交互に異にして並設された多数の永久磁石即ちマグネット25から構成され,電機子組立体5は,界磁マグネット6に対向してベッド2のテーブル1に対する上面51に長手方向に沿ってコアレスの扁平の電機子コイル7を多数配設して構成されている。即ち,スライド装置50は,テーブル1のベッド2に対する対向面即ち下面52にテーブル1の移動方向に極性が交互に異にして並設された多数のマグネット25でなる界磁マグネット6,及び界磁マグネット6に対向してベッド2のテーブル1に対する対向面即ち上面51に長手方向に沿って矩形状のコアレスでなる電機子コイル7を多数配設した電機子組立体5を有する可動マグネット型リニアモータを内蔵したものである。特に,スライド装置50は,基板11に配設された電機子コイル7の上面を覆う状態に表面保護シート20を備えており,基板11には,従来のような電機子コイル7の固定用の孔や電機子コイル7の基板11への位置決め用孔等は形成されておらず,電機子コイル7は基板11にモールド部9によってモールドして位置決め固定が達成されている。
【0024】
スライド装置50における電機子組立体5は,特に,図1,図6,及び図7に示すように,基板11に固着された電機子コイル7,及び基板11と反対側になる電機子コイル7の対向面を表面保護シート20で被覆し,表面保護シート20と基板11との間で電機子コイル7の周囲を接着剤にてモールドしたモールド部9を形成した構造に特徴を有している。また,電機子組立体5のおける薄膜状になる表面保護シート20は,界磁マグネット6に対向して配置されるように構成されている。また,電機子組立体5の基板11の下面をベッド2の上面51に配設した構造に構成されている。また,表面保護シート20には,複数の細孔48が形成されているので,電機子コイル7の位置する領域と外部とが細孔48を通じて通気され,熱膨張差に対応できるように構成されている。表面保護シート20は,電機子コイル7に異物が浸入して傷つきや漏電事故が発生するのを防止すると共に,水滴にも強い性質を持っており,電機子コイル7を良好に保護する機能を有している。スライド装置50では,電機子組立体5には,電機子コイル7の界磁マグネット6に対向するほぼ全面を被覆する表面保護シート20が固着されており,表面保護シート20と基板11との間が接着剤で電機子コイル7をモールドしたモールド部9(第1モールド部)が形成されている。
【0025】
この発明によるスライド装置50は,上記のように構成され,特に,電機子コイル5が配設されたベッド2がコイルヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成され,マグネット25が配設されたテーブル1がマグネットヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成されており,更に,電機子組立体5が電機子コイル7,電機子コイル7を上面に配列した基板11,及び基板11の上面に配置され且つ電源線17が結線されて電機子コイル7に電源をそれぞれ供給する配線から構成され,基板11に配置された電機子コイル7がその周囲が接着剤からなるモールド部9でモールドされて基板11に固着されており,基板11の下面はベッド2の上面51に固着されていることを特徴としている。ベッド2には,取付けねじ孔43が形成され,基板11には取付け用孔37が形成されている。そこで,基板11は,固定ねじ30を取付け用孔37に嵌挿して取付けねじ孔43に螺入してベッド2に固定されている。
【0026】
また,このスライド装置は,電機子組立体5には,基板11上で電源線17と配線とが結線された結線部は,電機子コイル7のモールドと同様に,接着剤でモールドしたモールド部14(第2モールド部)が形成されている。また,電機子組立体5は,モールド部9,14が形成されていない基板11の両端の四隅に取付け用孔37が形成されている。スライド装置50は,電機子組立体5が上記の構成を有するので,電機子コイル7と界磁マグネット6とが薄膜状の表面保護シート20を介在して僅かな隙間で対峙する近接状態に構成され,界磁マグネット6が生じさせる磁束と電機子コイル7に流れる電流との電磁相互作用力が大きくなり,推力がアップすることになる。また,電機子コイル7をモールド部9でモールドしたことにより,防塵性,耐久性,安全性,使い勝手が良好なものになっており,また,基板11の四隅の取付け用孔37の構成によっても使い勝手を良くするものになっている。また,スライド装置50において,電機子組立体5における基板11には,基板11をベッド2にねじ固定するための取付け用孔37が形成されている。更に,基板11に形成した取付け用孔37は,基板11の両端部に2箇所ずつそれぞれ形成されている。
【0027】
スライド装置50は,図1,図2,図4,図12〜図13に示すように,ベッド2の両端部にテーブル1の飛び出しを防止するためエンドプレート12が配設され,エンドプレート12は,鋼板をL字形に折り曲げただけの簡単な構造に形成され,テーブル1の当接面にパッド13が配設され,ベッド2の両端にそれぞれ固定されている。また,エンドプレート12は,図1,図12〜図14に示すように,L字形状の板材の中央部に電源線17が嵌入可能な凹欠部47が形成された簡単な構造に形成されている。また,エンドプレート12は,電機子組立体5の基板11の端面に当接してベッド2に固着することによって,電機子組立体5を長手方向に保持するものにもなっている。エンドプレート12には,取付け用孔46が形成され,ベッド2には,取付け用ねじ孔42が形成されている。エンドプレート12は,固定ボルト29を取付け用孔46に挿通して取付け用ねじ孔42に螺入することによって,ベッド2に固着されている。スライド装置50は,図2に示すように,電機子コイル7に対する界磁マグネツト6の平行度,及びセンサ15に対するリニアスケール8の平行度を維持するために,直動案内ユニット10は,ベッド2に固定された一対の軌道レール3と,テーブル1の下面52の取付け面36に固定された4個のスライダ4から構成されている。ベッド2には,取付け用ねじ孔41が形成され,軌道レール3には取付け用孔が形成されている。軌道レール3は,固定ねじ31を軌道レール3の取付け用孔に挿通して取付け用ねじ孔41に螺入することによって,ベッド2に固定されている。テーブル1には位置決めピン19用の取付け孔38が形成されており,取付け孔38に位置決めピン19が装着されている。直動案内ユニット10は,1本の軌道レール2に対して一対のスライダ4が配設され,一つのスライダ4に対して1本の位置決めピン19で位置決めする簡単構造でなり,高精度に構成されている。
【0028】
また,スライド装置50は,図18に示すように,テーブル1のベッド2に対する位置制御等をする制御装置49に,電源線17の一端のコネクタ27とセンサ線18の一端にコネクタ28とを通じて結線した構成を採用したものになっており,制御装置49を含めて安価な上に,高速性,高応答性等の性能を向上させている。センサ線18は,ベッド2に形成された取付け用ねじ孔22に螺入されたねじで固定された支持バンド16でベッド2に固定されている。スライド装置50は,上記の構成より,界磁マグネット6と電機子コイル7とを配設しただけの簡単構造に形成されているので,界磁マグネット6及び電機子コイル7の数量を変更するだけで種々のスライド装置に構成できるものになっている。従って,スライド装置50は,従来例のスライド装置,例えば,テーブルのストローク長さ;120mmで,他のスライド装置のテーブルのストローク長さ;65mm,及び別のスライド装置のテーブルのストローク長さ;25mmに容易に対応できるものになっており,小形でなる多種類,例えば,3種類のスライド装置に構成することができる。この実施例は,スライド装置50は,テーブル1がストローク長さ65mmである中間サイズに対応するものを開示している。上記3種類のスライド装置は,対応する従来例に比較し,いずれも長手方向の長さが短くなり,コンパクトに形成されている。また,スライド装置50に組み込まれた直動案内ユニット10は,潤滑剤のメンテナンスフリーが可能なタイプ,例えば,本出願人が開発した特開2001−82469号公報等に開示されている直動案内ユニットを使用することができる。
【0029】
また,スライド装置50では,テーブル1及びベッド2は,図8〜図11に示すように,削り加工を削減する形状に,即ち,凹凸の無い平坦な平板状に構成されている。特に,ベッド2は,平坦な形状に構成されており,安価な構成部品で形成されている。また,電機子コイル7は,従来例と同様に,三相通電方式で各相の電流が供給される3個の電機子コイルが一組として構成されている。テーブル1には,種々の要望に応えるため,客先利用のため,種々の機器を取り付けることができる補助ねじ孔34が形成されている。また,リニアスケール8は,光スケールのもので構成されている。更に,モールドする接着剤としては,例えば,熱硬化性樹脂系のエポキシ樹脂系のものが使用され,中でも主剤と硬化剤を混合接触させ,化学反応で固化するものが好ましい。表面保護シート20は,ガラス繊維強化プラスチックのもので構成されている。
【0030】
また,スライド装置50は,図2,図4,図5,図8,及び図10に示すように,長手方向即ちスライド方向を左右に見て,左右対称性に形成されているので,図15に示すように,電源線17及びセンサ線18が左側で使用する場合でも右側で使用する場合でも簡単に仕様変更可能なものに構成されている。即ち,スライド装置50は,使い勝手がよいものになっている。また,図8及び図10に示すように,ベッド2とテーブル1とが左右対称に形成されている。即ち,スライド装置50において,ベッド2及びテーブル1は,テーブル1のスライド方向を左右に見て,左右対称の形状に構成されている。また,スライド装置50では,テーブル1には,テーブル1にワーク,他の部品等を取り付けるための取付け用ねじ孔24が形成されており,ベッド2には,ベッド2をベース等に取り付けための取付け用孔23が形成されている。
【0031】
図16及び図17に示すように,スライド装置50には,別のスライド装置50Aを直交して配設することができる。図16及び図17において,スライド装置50Aでは,スライド装置50の部品と同一部品には同一符号に添字Aを付して示し,重複する説明を省略する。この実施例では,取付け用ねじ孔24の位置(ピッチ)は,図2,図8,図10,特に,図16及び図17に示すように,別のスライド装置50Aを直交して取付け可能にするために,ベッド2に形成されたベース等へ取り付けるための取付け用孔23を90°回転させた取付け用孔24の位置に対応して合致する位置に形成されている。そのため,ベッド2に形成された取付け孔23間の距離PBは,テーブル1に形成された取付け用ねじ孔24間の距離PTと同一間隔に形成され,また,ベッド2の取付け用孔23のピッチ間の距離PSは,テーブル1の取付け用ねじ孔24間の距離PTBと同一間隔に形成されている。従って,スライド装置50は,別のスライド装置50Aを,取付け用の間座等の部材を用いることなく,スライド装置自体を互いに直交させて直接固着するだけで,例えば,一方向(X方向)及び一方向に直交する他方向(Y方向)に移動自在なXYスライド装置を簡単に構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
このスライド装置は,半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,位置決めテーブル,スライドテーブル等の各種装置に組み込んで使用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置の実施例を示す部分断面を含んだ斜視図である。
【図2】図1のスライド装置を示す平面図である。
【図3】図2のスライド装置を示す部分断面を含んだ側面図である。
【図4】図2のスライド装置からテーブルを取り外した状態を示す平面図である。
【図5】図2のスライド装置から外し且つ裏返して見たテーブルを示す下面図である。
【図6】図2のスライド装置における電機子組立体を示す平面図である。
【図7】図6の電機子組立体を示す正面図である。
【図8】図2のスライド装置におけるテーブルを示す平面図である。
【図9】図8のテーブルを示す側面図である。
【図10】図2のスライド装置におけるベッドを示す平面図である。
【図11】図10ベッドを示す正面図である。
【図12】図2のスライド装置におけるエンドプレートを示す背面図である。
【図13】図12のエンドプレートを示す側面図である。
【図14】図12のエンドプレートを示す平面図である。
【図15】図2のスライド装置について使い勝手仕様を示す平面図である。
【図16】図1のスライド装置を2組設けたものであり,互いに直交状態,例えば,スライド装置をX軸方向とそれに直交するY軸方向に結合した複合スライド装置を示す平面図である。
【図17】図16の複合スライド装置を示す正面図である。
【図18】図1のスライド装置とそれを駆動する制御装置との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1,1A テーブル
2,2A ベッド
3,3A 軌道レール
4,3A スライダ
5 電機子組立体
6 界磁マグネット
7 電機子コイル
8 リニアスケール
9 モールド部(第1モールド部)
10 直動案内ユニット
11 基板
12 エンドプレート
14 モールド部(第2モールド部)
15 センサ
17,17A 電源線
19 位置決めピン
20 表面保護シート
24 取付け用ねじ孔
25 マグネット
30 固定ねじ
35 原点マーク
43 取付けねじ孔
47 凹欠部
50,50A スライド装置
51 上面(第2対向面)
52 下面(第1対向面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な平板状でなるベッド,前記ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な平板状のテーブル,前記テーブルの前記ベッドに対する第1対向面に前記テーブルの移動方向に極性が交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び前記界磁マグネットに対向して前記ベッドの前記テーブルに対する第2対向面に前記長手方向に沿ってコアレスの扁平の電機子コイルを多数配設した電機子組立体を有する可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置において,
前記ベッドはコイルヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成され,前記テーブルはマグネットヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成され,前記電機子組立体は前記電機子コイル,前記電機子コイルを上面に配列した基板,及び前記基板の前記上面に配置され且つ電源線が結線されて前記電機子コイルに電源をそれぞれ供給する配線を備え,前記基板に配置された前記電機子コイルはその周囲が接着剤でモールドされて前記基板に固着され,前記基板の下面は前記ベッドの前記第2対向面に直接固着されていることを特徴とする可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置。
【請求項2】
前記電機子組立体は,前記電機子コイルの前記界磁マグネットに対向する面を覆って固着された表面保護シート,及び前記表面保護シートと前記基板との間に配置された前記電機子コイルを前記接着剤でモールドした第1モールド部を有することを特徴とする請求項1に記載のスライド装置。
【請求項3】
前記電機子組立体は,前記基板上で前記電源線と前記配線とが結線された結線部を前記接着剤でモールドした第2モールド部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスライド装置。
【請求項4】
前記テーブルの前記ベッドからの飛び出しを防止するため,前記電機子組立体の前記基板の端面に接して前記ベッドの両端部にそれぞれ固着されたエンドプレートを備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項5】
前記エンドプレートは,L字形状の板材で形成され,前記板材には前記電源線が嵌入配設される凹欠部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のスライド装置。
【請求項6】
前記電機子組立体における前記基板には,前記基板を前記ベッドにねじ固定するための取付け用孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項7】
前記基板に形成した前記取付け用孔は,前記基板の両端部に2箇所ずつそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項6に記載のスライド装置。
【請求項8】
前記ベッド及び/又は前記テーブルは,前記テーブルのスライド方向を左右に見て,左右対称の形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項9】
前記テーブルに形成された取付け用ねじ孔は,別のスライド装置を直交して取り付け可能にするため,前記ベッドに形成された取付け用孔を90°回転させた前記取付け用孔の位置に対応して合致する位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項10】
前記直動案内ユニットを構成する軌道レール上を摺動するスライダは,前記テーブルに設けた1本の位置決めピンによって前記テーブルにそれぞれ位置決めされることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項11】
前記テーブルの前記第1対向面の側部には前記スライド方向に沿ってリニアエンコーダであるリニアスケールが固着され,前記ベッドの側面には前記リニアスケールに対向してリニアエンコーダでなるセンサが取り付けられ,前記リニアスケールには中央部に原点マークが形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のスライド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−300759(P2007−300759A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128174(P2006−128174)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】