説明

可塑性グラウト材およびその製造方法

【課題】 練り返しなど、可塑形成後にさらに攪拌を続けても可塑性を長時間保持でき、長距離の圧送やコンテナによる輸送なども可能な可塑性グラウト材を提供する。
【解決手段】 別々に調合されたA液としてのセメントミルクまたはスラグおよび消石灰を含むミルク、またはスラグおよび石膏および消石灰を含むミルク、または消石灰を含むミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合し、2液タイプの可塑性グラウト材として使用する。B液に配合したリン酸塩により、練り返しに強く、長い可塑性保持時問が確保できる可塑性グラウト材となる。可塑保持時間が長く、かつ練り返しによっても長時間可塑性が失われないことで、例えばトンネル覆工1の裏込め注入に用いる場合、未充填域Cの発生をほぼ完全に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントミルクまたは消石灰ミルクおよびこれらの混合ミルク、あるいはスラグおよび消石灰を含むミルクと、ベントナイトミルクなどのモンモリロナイト粘土鉱物のミルクを構成要素とする可塑性グラウト材およびその製造方法に関するものであり、トンネル等の裏込注入その他、地盤と構造物の境界面の空洞の充填、地盤内の空隙の充填及び構造物内部の空隙充填などに利用される。
【背景技術】
【0002】
可塑性グラウト材の一種としては、A液としてセメントミルクあるいはこれにベントナイトを加えたものなどを用い、B液として水ガラスを用い、これらを使用直前に混合してグラウト材に可塑性を与える二液性の水ガラス系グラウト材などが知られている。
【0003】
しかしながら、この種の可塑性グラウト材はゲル状態や可塑性の維持の時間が短く、練り返しにより、初期強度発現が阻害されるなどの問題があった。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1に記載されるように、軟弱地盤の大間隙や空洞等に可塑状グラウトを注入する場合において、A液として硬化発現材を主成分とする懸濁液と、B液として水ガラスをそれぞれ別々の注入管で圧送し、注入口手前で合流混合させて注入口に至るまでに可塑状ゲルを生成させて注入することとし、さらにその圧送の条件や合流の条件を厳しく管理することで、性能の保持が図られている。
【0005】
この他、特許文献2には、セメントとモンモリロナイト粘土鉱物を主成分とした流動性の粘性液をA液とし、硫酸バン土溶液をB液とし、それぞれ別々のポンプで圧送し、注入口付近でA液とB液を合流混合することにより、瞬時に水酸化アルミニウムを生成させ、非流動性の可塑状に変質させたグラウトを注入する工法が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、水ガラス系グラウト材による地下水の汚染や耐久性の問題を解決するものとして、A液としてのセメントミルクと、B液としてのベントナイトミルクとを攪拌混合して形成される空洞充填、軽量盛土及び埋立用の可塑性注入材が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2959976号公報
【特許文献2】特許第3561136号公報
【特許文献3】特許第3378501号公報
【特許文献4】特開2004−075746号公報
【特許文献5】特開2004−244483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、特許文献2に記載されている可塑性グラウト材は、性能を維持するためA液とB液を別々の注入管で圧送し、圧送や合流の条件を厳しく管理する必要があったり、さらに可塑状態が維持できる時間が30分程度と短く、早めに固化するため、トンネルの裏込めを例にとると、後述する図2に示すように既充填域と新たな充填域との間に未充填域が生じるなどの不具合がある。
【0009】
また、特許文献3のセメントミルクとベントナイトミルクを攪拌混合して得られる可塑性グラウト材の場合、A液とB液の混練時間はハンドミキサーで15秒程度以下が好適であり、それ以上の混練では材料分離を生じやすくなるので好ましくないとされており、可塑形成後にさらに攪拌を続けると可塑状態が解かれて液状化する問題がある。
【0010】
本発明は、上述のような従来技術における課題の解決を図ったものであり、練り返しなど、可塑形成後にさらに攪拌を続けても可塑性を長時間保持でき、長距離の圧送やコンテナによる輸送なども可能な可塑性グラウト材およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る可塑性グラウト材は、別々に調合されたA液としてのセメントミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合してなるものである。
【0012】
A液としてセメントミルクを用いる点、およびB液としてモンモリロナイト粘土鉱物のミルクを用いる点は、特許文献3記載の発明と同様であり、A液におけるセメントと水、および必要に応じて加えられる各種混和剤の配合、B液におけるモンモリロナイト粘土鉱物と水、および必要に応じて加えられる各種混和剤の配合の考え方も基本的には、特許文献3記載の発明と同様である。
【0013】
しかしながら、特許文献3記載の発明の場合、前述のように練り返しなどによって可塑性が失なわれてしまうため、適用条件としては練り返しが少ない場合となり、例えば大きな道路トンネルの裏込め工事はプラント車で現地に近づけるので問題はないが、そうではない鉄道トンネルとなるとそう簡単ではなく長距離圧送を行った場合など問題である。
【0014】
これに対し、本件発明者は、練り返しに強く、長い可塑性保持時問が確保できる可塑性グラウト材を求めて実験を繰り返す過程で、B液にテトラポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩を加えることで、可塑保持時間が長く、しかも練り返しても可塑状態を保持できることを見出した。
【0015】
それにより、本発明の可塑性グラウト材によれば、ホース等のパイプラインによる長距離の圧送(圧送パイプやホース内を通過する可塑性グラウト材は管内抵抗や断面変化、曲がりなどで攪拌練り返し状態となり、ここで可塑性を保持できずに液状化すると目的を果たすことができない)や、コンテナによる輸送も可能となり、狭隘な空間でのハンドリングといった面でも有利である。
【0016】
本発明の可塑性グラウト材において可塑性を保持できる時間としては、概ね4時間〜20時間程度が期待できるが、この時間は主にリン酸塩の種類によって異なる。
【0017】
リン酸塩としては、第1リン酸、第2リン酸、第3リン酸、ピロリン酸、酸性ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、および酸性ヘキサメタリン酸のナトリウム塩またはカリウム塩などを例示することができる。
【0018】
リン酸塩の種類によっては、硬化を遅らせるものばかりではないが、異なる種類のリン酸塩を数種併用すれば、可塑性保持時間の調整も可能となる。特に長時間の可塑性保持には、テトラポリリン酸塩やヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩が好適であり、適切な配合を行うことで20時間程度でも練り返しが可能である。
【0019】
請求項2は、請求項1に係る可塑性グラウト材において、前記A液に消石灰を加えてある場合を限定したものである。
【0020】
A液に消石灰を加えることで、可塑状になるまでの時間を短縮することができ、例えば液温が低い場合などに有効である。逆に、液温が16℃程度以上であったり、セメント量が1m3当たり、500kg程度以上ある場合には、消石灰の必要性は少ない。
【0021】
請求項3は、請求項2に係る可塑性グラウト材において、前記A液とB液の合計1m3当たり、セメント300〜600kg、消石灰1〜20kg、モンモリロナイト粘土鉱物としてのベントナイト75〜150kg、リン酸塩1〜9kgを配合してなる場合を限定したものである。
【0022】
セメントが300kgより少ない場合、グラウト材としての硬化時の強度が出難く、ある程度高い強度を必要とする用途には適さない。600kgより多くなるとコストが高くつく他、調合や製造の面でも困難となる。
【0023】
消石灰は1kgより少ない場合、低温時(5℃以下)に効果が出難い。20kgより多くなると、効果が変わらず不経済である。
【0024】
ベントナイトは、75kgより少ない場合、グラウト材が長時間流動し可塑が安定し難く、150kgより多くなるとミキサーでの攪拌混合が難しくなる。
【0025】
リン酸塩は1kgより少ない場合、その効果が十分でなく、9kgより多くなると効果が変わらず、むしろ可塑の安定に至るまでの時間が延びることがあり不経済である。
【0026】
請求項4に係る可塑性グラウト材は、別々に調合されたA液としてのスラグおよび消石灰を含むミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合してなるものである。
【0027】
請求項4は、セメントの代わりにスラグを用いるものであるが、スラグ単独ではなく消石灰との併用によって、練り返しなど、可塑形成後にさらに攪拌を続けても可塑性を長時間保持できるという特性が得られる。スラグとしては、高炉スラグが一般的であるが、特に限定されない。
【0028】
前述のようにセメントとリン酸塩の組み合わせとなる請求項1、2の場合において、可塑性を保持できる時間は、概ね4時間〜20時間程度であるのに対し、A液にスラグと消石灰を併用し、これとB液に用いるリン酸塩とを組み合わせた場合においては、練り返しが可能な可塑性の保持時間がさらに5時間程度延びる試験結果が得られた。
【0029】
請求項5は、請求項4に係る可塑性グラウト材において、前記A液とB液の合計1m3当たり、スラグ50〜600kg、消石灰3〜30kg、モンモリロナイト粘土鉱物としてのベントナイト75〜150kg、リン酸塩1〜9kgを配合してなる場合を限定したものである。
【0030】
他の組成物との配合割合にもよるが、スラグが300kgより少ない場合、フロー値が大きくなり、可塑性が弱くなり、強度も得にくい。600kgより多くなるとコストが高くつく他、調合や製造の面でも困難となる。
【0031】
請求項6は、請求項5に係る可塑性グラウト材において、前記スラグが、石膏を内割で1〜10重量%含有する石膏入りスラグである場合を限定したものである。
【0032】
石膏は、スラグを硬化させること、低温時でも硬化を促す効果がある。石膏が内割で1重量%より少ない場合、効果に乏しく10重量%より多くなると、スラグの硬化には不必要な量になる。
【0033】
請求項7に係る可塑性グラウト材は、別々に調合されたA液としての消石灰ミルクまたは消石灰を含む低濃度のセメントミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合してなるものである。
【0034】
この請求項7は、用途によって、請求項2等に係る可塑性グラウト材に比べ要求される硬化強度が低い場合を対象としている。A液にセメントが含まれない場合、あるいはセメント量が少ない場合でも、A液としての消石灰ミルクまたは消石灰を含む低濃度のセメントミルクと、リン酸塩を含有したB液との組み合わせにより、練り返しなど、可塑形成後にさらに攪拌を続けても可塑性を長時間保持可能な可塑性グラウト材が得られる。
【0035】
請求項8は、請求項7に係る可塑性グラウト材において、前記A液とB液の合計1m3当たり、セメント0〜300kg、消石灰1〜20kg、モンモリロナイト粘土鉱物としてのベントナイト75〜150kg、リン酸塩1〜9kgを配合してなるものである。
【0036】
セメント0kgは、A液にセメントが含まれない場合であり、セメントが300kgより多い場合は、請求項3に係る可塑性グラウト材となり、用途・要求される性能に応じて使い分けることができる。
【0037】
請求項9は、請求項1〜8に係る可塑性グラウト材において、前記リン酸塩が、第1リン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸および酸性ヘキサメタリン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上のリン酸塩である場合を限定したものである。
【0038】
これらは、後述する実験において、特に良好な結果が得られたリン酸塩である。なお、少なくとも1種以上としたのは数種併用することも可能であるためであり、併用することにより可塑性の効果を調整することができる。
【0039】
請求項10は、請求項1〜9に係る可塑性グラウト材の好ましい製造方法として、ミキサーに所定量の水を入れて撹絆しながらモンモリロナイト粘土鉱物を投入し、前記モンモリロナイト粘土鉱物を膨潤させた状態でリン酸塩を水溶液として混入させて調整したB液を、あらかじめセメントと水、またはセメントおよび消石灰と水、またはスラグおよび消石灰と水、またはスラグおよび石膏および消石灰と水、または消石灰と水を混合して調整したA液に加えて攪拌混合する手順を限定したものである。
【0040】
B液としてのリン酸塩を含有したベントナイトミルクなど、モンモリロナイト粘土鉱物のミルクの作り方としては、ミキサーに所定量の水を入れて撹絆しながらベントナイトなどのモンモリロナイト粘土鉱物を投入する。リン酸塩の混入時期はモンモリロナイト粘土鉱物の投入時やその前後となるが、好ましくはモンモリロナイト粘土鉱物の膨潤を優先させた後からリン酸塩水溶液にして混入させるのが良く、請求項10におけるB液はその場合を限定している。
【0041】
請求項11は、請求項10に係る可塑性グラウト材の製造方法において、前記リン酸塩が、第1リン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸および酸性ヘキサメタリン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上のリン酸塩である場合を限定したものである。
【0042】
請求項12は、請求項1〜10に係る可塑性グラウト材の他の製造方法として、リン酸塩を溶解させた水にモンモリロナイト粘土鉱物を投入し、ミキサーで攪拌して調整したB液を、あらかじめセメントと水、またはセメントおよび消石灰と水、またはスラグおよび消石灰と水、またはスラグおよび石膏および消石灰と水、または消石灰と水を混合して調整したA液に加えて攪拌混合する手順を限定したものである。
【0043】
モンモリロナイト粘土鉱物を多く配合する場合には、先にリン酸塩を溶解させておくことで、ミキサーによる調整が容易となる。
【0044】
請求項13は、請求項12に係る可塑性グラウト材の製造方法において、前記リン酸塩が、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、および酸性ヘキサメタリン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上のリン酸塩である場合を限定したものである。
【0045】
請求項12の製造方法においては、第1リン酸塩、ピロリン酸塩は適さない。
【発明の効果】
【0046】
本発明は、主成分としてセメントミルクやベントナイトミルク、あるいはスラグおよび消石灰を含むミルクなどを用いる二液タイプの可塑性グラウト材において、B液としてのモンモリロナイト粘土鉱物にリン酸塩を加えたものであるが、二液タイプも含め、従来の可塑性グラウト材に比べ、練り返しに強く、非常に長い可塑性保持時問が確保できる。
【0047】
本発明では、可塑化初期の段階で練り返しを繰り返しても可塑性を保持するので、従来の可塑性グラウト材では実質的に不可能であった長距離圧送ができ(可塑性保持時間が短いとパイプ内で固化する危険があり使用困難)、有効である。
【0048】
また、コンテナに入れて現地まで運搬しポンプで注入する場合なども、何度となく攪拌練り返し状態となるが、本発明の可塑性グラウト材では、そのような場合でも可塑性が保持できるため、現地が狭隘でミキシングプラントが設置できず、コンテナ輸送を行う場合などに極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明の一実施形態をトンネルの施工における裏込めに利用する場合を例に説明する。
【0050】
本発明では、従来の2液性の可塑性グラウト材の場合と同様に、A液とB液を別々に調合し、これらを混合して使用する。
【0051】
トンネルの施工における裏込めに利用する場合、例えばA液とB液をそれぞれポンプで圧送し、裏込め注入孔の手前で合流混合させたものを注入する。なお、施工条件や配合によっては、A液とB液を地上で混合してからトンネル内に送り込み、裏込め注入を行うことも可能である。
【0052】
表1は、A液にセメントミルクを用いる場合のグラウト材1000L当たりのA液とB液の配合例を示したものである。
【0053】
【表1】

【0054】
A液は、セメントミルクに所定量の消石灰を加えたものに相当し、消石灰は可塑開始時間の短縮及び発現強度の安定を図る働きをする。
【0055】
B液は、ベントナイトミルクにリン酸塩であるテトラポリリン酸塩を加えたものに相当する。
【0056】
トンネルの裏込めに利用する場合の好ましい調合方法としては、ミキサーに所定量の水を入れて撹絆しながらベントナイトを投入し、ベントナイトを膨潤させた状態でテトラポリリン酸塩の水溶液を混入させて調整する。このような手順で調整することで、製造されたグラウト材はベントナイトの膨潤特性を優先させ、より安定した可塑剤となる。
【0057】
上記配合は、A液とB液の比率を1:1としたものであり、混合も容易で作業も単純化することができる。両液が等量でない場合、比例式ポンプを使用するなど作業も煩雑になり、混合能率も良くない。
【0058】
このように、A液とB液の比率を1:1とした場合に対し、例えばA液を400L,B液を600Lにして2:3の比例注入を行うこととする場合は、両液の配含比が変わるので、これに備えて1000L当りの配合比も表示し、比例注入の場合は各々の配合を振り分けて調整すればよい。
【0059】
図1は本発明の可塑性グラウト材を使用した場合の利点を、図2の従来の可塑性グラウト材を使用した場合と比較して示したものである。
【0060】
例えば、従来の可塑性グラウト材を使用した場合、裏込め充填自体はその可塑性を生かして行うことができる。しかしながら、充填した後は、未硬化の状態で練り返しや攪拌があると液状化する恐れもあり、また早期に可塑性が失われ硬化が始まる。
【0061】
そのため、図2に示すように、例えば1つ前の充填域A(例えば、前日の充填部分)と次の充填域B(例えば、当日の充填部分)との間に未充填域Cが生じやすく、その確認も難しいという問題がある。
【0062】
これに対し、本発明による可塑性グラウト材は、可塑保持時間が長く、かつ練り返しによっても長時間可塑性が失われないため、未充填域Cを生じさせる恐れが少なく、また例えば、図1に示すように前日の充填域Aが未硬化の状態で、トンネル覆工1に設けられた同じ注入孔2から当日の充填を行うことで未充填域の発生をほぼ完全に防止するといったことも可能である。
【0063】
表2は、A液にスラグおよび消石灰を含むミルクを用いる場合のグラウト材1000L当たりのA液とB液の代表的な配合例を示したものである。
【0064】
【表2】

【0065】
また、表3は、A液に石膏入りスラグおよび消石灰を含むミルクを用いる場合のグラウト材1000L当たりのA液とB液の代表的な配合例を示したものである。
【0066】
【表3】

【0067】
これらの配合に関する詳細は、実施例において述べる。
【実施例】
【0068】
〔実験1〕
A液の配合およびB液のベントナイトと水の量を変えずに、7種類のリン酸塩を、各々6kgずつ水溶液にしてベントナイトミルクに混入させ、可塑時間・発現強度の確認を行った。配合を表4、実験結果を表5に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
セメント:普通ポルトランドセメント(株式会社トクヤマ)
消石灰:消石灰(菱光石灰工業株式会社)
ベントナイト:ベントナイト(250メッシュ)(豊洋ベントナイト鉱業株式会社)
リン酸塩A:トリポリリン酸ナトリウム(下関三井化学株式会社)
リン酸塩B:ヘキサメタリン酸ナトリウム(米山化学工業株式会社)
リン酸塩C:テトラポリリン酸ナトリウム(燐化学工業株式会社)
リン酸塩D:ピロリン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩E:ピロリン酸カリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩F:第3リン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩G:第2リン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
【0071】
【表5】

【0072】
実験1から以下のことが判った。
(1) フロー値から判断すると、比較例としてのリン酸を入れないものは、可塑性が弱く適切でない。
(2) 可塑開始・可塑安定時間からは、リン酸塩B(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を6kgは不適当である。ただし、この結果は6kgという配合量が多すぎるためであり、他の実験で配合量を抑えることで良好な結果が得られている。
(3) リン酸塩Dは水に溶解するのが困難であるという問題がある。
(4) リン酸塩F(第3リン酸ナトリウム)、リン酸塩G(第2リン酸ナトリウム)を混入するとB液のベントナイトの粘性が上がり、練り混ぜ作業に若干問題がある。
(5) リン酸塩E(ピロリン酸カリウム)はフロー値、可塑開始、可塑安定時間とも良い数値が得られた。ただし、製品コストが最も高くなる。
【0073】
〔実験2〕
実験1と同時に、リン酸塩C(テトラポリリン酸ナトリウム)を6kg配合した場合について、繰り返し練り直しの実験(練り直した後も可塑性が維持されることを確認するための実験)を行った。配合および実験結果を表6に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
実験2から以下のことが判った。
(1) リン酸塩C(テトラポリリン酸ナトリウム)を混合したものは、最初の混合より6時間経過する毎に練り返し、フロー値・強度の変化を測定してみたが練り返しをしないものと大きな違いはないことを確認した。
(2) 練り返しの作業中も最初の時の状態と同等な可塑状態を保ち変わらないことが判った。
(3) 一軸圧縮強度も1週より4週の方が、倍程度の発現があり通常の傾向と変わらない。
【0076】
〔実験3〕
実験3として、リン酸塩C(テトラポリリン酸ナトリウム)の量を変化させフロー値・強度を確認した。配合および実験結果を表7に示す。
【0077】
【表7】

【0078】
実験3から以下のことが判った。
(1) リン酸塩をm3当たり0〜1kg配合したものは可塑開始時間・可塑安定時間は早く良好であるが、フロー値が大きく可塑の立ち上がり強度が不足している。
(2) リン酸塩をm3当たり6kg配合したものは可塑開始時間・可塑安定時間とも少し長めとなりA,B両液混合後、一本のホースでの注入距離が必要なところに適している。
(3) リン酸塩をm3当たり7kg配合したものは可塑開始時間・可塑安定時間がかなり長くなっているため、A,B両液を混合した後、トンネル等の構内に持ち込み1液として注入する作業に適している。
(4) リン酸塩を3kg、4kg、5kgと順に増加した場合は、フロー値の変化はさほどないが、可塑安定時間が徐々に伸びる傾向にある。
【0079】
〔実験4〕
実験4として、高炉セメントB種を使用し、ベントナイトおよびリン酸塩C(テトラポリリン酸ナトリウム)を用いた配合で、消石灰の好ましい添加量を求めた。配合および実験結果を表8に示す。
【0080】
【表8】

【0081】
セメント:高炉セメントB種(株式会社トクヤマ)
【0082】
実験4から以下のことが判った。
(1) 液温が18〜20℃ある場合であっても、消石灰の添加がない時は、可塑安定時間が長くかかるので消石灰を加えて対応すると良い。
(2) セメントの配合を落とすと、消石灰の配合を増加させないと可塑安定時間を早めることができない。
【0083】
〔実験5〕
実験5として、A液に石膏入りスラグと消石灰のミルクを用い、これらの配合およびB液のベントナイトと水の量を変えずに、9種類のリン酸塩を、各々3kgずつ水溶液にしてベントナイトミルクに混入させ、可塑時間・発現強度の確認を行った。配合を表9、実験結果を表10に示す。
【0084】
【表9】

【0085】
スラグ:(住金鉱化株式会社)
石膏入りスラグ:(住金鉱化株式会社)
消石灰:消石灰(菱光石灰工業株式会社)
ベントナイト:ベントナイト(250メッシュ)(豊洋ベントナイト鉱業株式会社)
リン酸塩a:トリポリリン酸ナトリウム(下関三井化学株式会社)
リン酸塩b:ヘキサメタリン酸ナトリウム(米山化学工業株式会社)
リン酸塩c:テトラポリリン酸ナトリウム(燐化学工業株式会社)
リン酸塩d:ウルトラポリリン酸ナトリウム(関東化学株式会社(試薬))
リン酸塩e:ピロリン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩f:ピロリン酸カリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩g:第3リン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩h:第2リン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
リン酸塩i:第1リン酸ナトリウム(ラサ晃栄株式会社)
【0086】
【表10】

【0087】
実験5から以下のことが判った。
(1) 低温時(硬化温度9℃以下)で全てのフロー値が150mm以内に入った。
(2) 一軸圧縮強度はいずれも2.5N/mm2以上を示し、良好な結果を得た。
(3) スラグに石膏が加わった事で低温時に安定した硬化が得られた。
(4) リン酸塩eは水に溶解するのが困難であるという問題がある。
(5) リン酸塩g、hを混入するとB液のベントナイトの粘性が上がり、練り混ぜ作業に若干の問題がある。
【0088】
〔実験6〕
実験6として、A液に石膏入りスラグと消石灰を使用し、B液にベントナイトとヘキサメタリン酸塩を用いた配合で、消石灰の好ましい添加量を求めた。配合および実験結果を表11に示す。
【0089】
【表11】

【0090】
実験6から以下のことが判った。
(1) 消石灰の上限は30kgでよいことが分かった。
(2) 可塑性の保持時間は概ね15〜20時間程度である。
(3) 石膏を混入したスラグは石膏の自硬性のため、保持時間が短くなる。
【0091】
〔実験7〕
実験7として、A液に石膏入りスラグと消石灰を使用し、B液にベントナイトとヘキサメタリン酸塩を用いた配合で、石膏入りスラグの好ましい添加量を求めた。配合および実験結果を表12に示す。
【0092】
【表12】

【0093】
実験7から以下のことが判った。
(1) 石膏入りスラグの配合量が、200kg、300kgの場合、フロー値が大きく、200kgでは強度も十分ではない。これらは用途を変えて強度の小さく流動性のある材料として使用することができる。
(2) スラグの量を減らしフロー値を大きくすることで、可塑性の必要のない配合にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】トンネルの裏込め充填に本発明の可塑性グラウト材を使用した場合の利点を概念的に示した断面図である。
【図2】トンネルの裏込め充填に従来の可塑性グラウト材を使用した場合を概念的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0095】
A…1つ前の充填域、B…次の充填域、C…未充填域、
1…トンネル覆工、2…注入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
別々に調合されたA液としてのセメントミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合してなる可塑性グラウト材。
【請求項2】
前記A液に消石灰を加えてある請求項1記載の可塑性グラウト材。
【請求項3】
前記A液とB液の合計1m3当たり、セメント300〜600kg、消石灰1〜20kg、モンモリロナイト粘土鉱物としてのベントナイト75〜150kg、リン酸塩1〜9kgを配合してなる請求項2記載の可塑性グラウト材。
【請求項4】
別々に調合されたA液としてのスラグおよび消石灰を含むミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合してなる可塑性グラウト材。
【請求項5】
前記A液とB液の合計1m3当たり、スラグ50〜600kg、消石灰3〜30kg、モンモリロナイト粘土鉱物としてのベントナイト75〜150kg、リン酸塩1〜9kgを配合してなる請求項4記載の可塑性グラウト材。
【請求項6】
前記スラグが、石膏を内割で1〜10重量%含有する石膏入りスラグである請求項5記載の可塑性グラウト材。
【請求項7】
別々に調合されたA液としての消石灰ミルクまたは消石灰を含む低濃度のセメントミルクと、B液としてのリン酸塩を含有したモンモリロナイト粘土鉱物のミルクとを攪拌混合してなる可塑性グラウト材。
【請求項8】
前記A液とB液の合計1m3当たり、セメント0〜300kg、消石灰1〜20kg、モンモリロナイト粘土鉱物としてのベントナイト75〜150kg、リン酸塩1〜9kgを配合してなる請求項7記載の可塑性グラウト材。
【請求項9】
前記リン酸塩が、第1リン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、および酸性ヘキサメタリン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上のリン酸塩である請求項1〜8のいずれかに記載の可塑性グラウト材。
【請求項10】
ミキサーに所定量の水を入れて撹絆しながらモンモリロナイト粘土鉱物を投入し、前記モンモリロナイト粘土鉱物を膨潤させた状態でリン酸塩を水溶液として混入させて調整したB液を、あらかじめセメントと水、またはセメントおよび消石灰と水、またはスラグおよび消石灰と水、またはスラグおよび石膏および消石灰と水、または消石灰と水を混合して調整したA液に加えて攪拌混合する請求項1〜9のいずれかに記載の可塑性グラウト材の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸塩が、第1リン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、および酸性ヘキサメタリン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上のリン酸塩である請求項10記載の可塑性グラウト材の製造方法。
【請求項12】
リン酸塩を溶解させた水にモンモリロナイト粘土鉱物を投入し、ミキサーで攪拌して調整したB液を、あらかじめセメントと水、またはセメントおよび消石灰と水、またはスラグおよび消石灰と水、またはスラグおよび石膏および消石灰と水、または消石灰と水を混合して調整したA液に加えて攪拌混合する請求項1〜10のいずれかに記載の可塑性グラウト材の製造方法。
【請求項13】
前記リン酸塩が、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸および酸性ヘキサメタリン酸の、ナトリウム塩またはカリウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上のリン酸塩である請求項12記載の可塑性グラウト材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−24925(P2008−24925A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166358(P2007−166358)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(502171242)株式会社 地巧社 (3)
【出願人】(500374308)
【Fターム(参考)】