説明

可変インダクタおよびチューナブル高周波デバイス

【課題】インダクタンスの調整が容易でかつ性能のよい可変インダクタなどを提供すること。
【解決手段】可変インダクタ3に、一方の端部が第1の信号線路2bと接続されたコイル31と、コイル31の他方の端部および少なくとも1箇所の中間部にそれぞれ接続され、複数の信号端子2cTの近傍にそれぞれ配置された複数のコイル端子32と、信号端子2cTとコイル端子32とを1組として各組ごとに信号端子2cTおよびコイル端子32と対向するように配置された接点部材441を含む第1の可動部材44を変位させて接点部材441を信号端子2cTおよびコイル端子32と接触または離間させることにより、各組ごとに信号端子2cTとコイル端子32とを接続または非接続とするための複数のスイッチ4と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成される可変インダクタおよびチューナブル高周波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話をはじめとする移動体通信機器の市場が拡大している。そして、移動体通信機器は、ユーザへ多様なサービスを提供することが求められ、より高機能化してきている。
【0003】
それに伴って、移動体通信機器が使用する周波数は、次第にGHz以上の高い周波数にシフトし、多チャンネル化していく傾向にある。
【0004】
その場合に、移動体通信機器に搭載される周波数フィルターなどの信号処理回路を複数の周波数に対応させる必要がある。
【0005】
そのようなニーズから、例えば、小型通過帯域可変フィルターなどのMEMSデバイスが開発されている。小型通過帯域可変フィルターは、基本的にはインダクタ(コイル)とキャパシタ(コンデンサ)とを組み合わせた回路で構成されており、通過させたい周波数帯域の電磁波を共振回路によって抽出するものである。
【0006】
さて、従来の小型通過帯域可変フィルターにおける共振回路は、可変でない固定のインダクタと可変キャパシタとで構成されることが一般的であった。
【0007】
本来、キャパシタだけでなくインダクタも可変のものを用いて共振回路を構成する方が、設計自由度が高まるので好ましいが、Q値が高く性能のよい可変インダクタを製造することは容易でなく、その開発手法がいまだ十分に確立されていなかったことなどが理由である。
【0008】
そうした中で、回路に接続するコイル部分を切り替えられるようにしてインダクタンスを変えられるようにしたMEMSインダクタが提案されている(特許文献1)
その他にも、MEMSプロセスによって作製される立体コイルが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−166593
【特許文献2】特開2005−24390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さて、特許文献1に記載されているMEMSインダクタは、基板をくり抜くようにしてらせん状に巻かれたコイルの内部に信号線およびインダクタを切り替えるためのスイッチング素子が設けられている。そのため、これらとコイルとの間に生じる寄生(浮遊)容量が問題となる。また、スイッチング動作がコイルと信号線とを直接に接触させまたは離間させる、いわゆるホットスイッチによって行われるため、接触部分の耐久性も問題となる。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑み、インダクタンスの調整が容易でかつ性能のよい可変インダクタなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここで述べる可変インダクタは、基板上に形成される可変インダクタであって、第1の信号線路と、複数の信号端子を有する第2の信号線路と、一方の端部が前記第1の信号線路と接続されたコイルと、前記コイルの他方の端部および少なくとも1箇所の中間部にそれぞれ接続され、前記複数の信号端子の近傍にそれぞれ配置された複数のコイル端子と、前記信号端子と前記コイル端子とを1組として各組ごとに当該信号端子および当該コイル端子と対向するように配置された接点部材を含む第1の可動部材を変位させて当該接点部材を当該信号端子および当該コイル端子と接触または離間させることにより、各組ごとに当該信号端子と当該コイル端子とを接続または非接続とするための複数のスイッチと、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インダクタンスの調整が容易でかつ性能のよい可変インダクタなどを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一の実施形態における共振回路デバイスの構成例を示す斜視図である。
【図2】可変インダクタの一部を拡大して示す斜視図である。
【図3】可変インダクタの一部を拡大して示す平面図である。
【図4】信号端子およびコイル端子の変形例を示す平面図である。
【図5】スイッチの一部を拡大して示す図である。
【図6】可変キャパシタの一部を拡大して示す図である。
【図7】共振回路デバイスの等価回路図である。
【図8】7個のスイッチを有する可変インダクタの等価回路図である。
【図9】共振回路デバイスの作製過程の例を示す図である。
【図10】共振回路デバイスの作製過程の例を示す図である。
【図11】共振回路デバイスの作製過程の例を示す図である。
【図12】共振回路デバイスの作製過程の例を示す図である。
【図13】第二の実施形態における共振回路デバイスの構成例を示す斜視図である。
【図14】整合回路デバイスの構成例を示す斜視図である。
【図15】整合回路デバイスの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第一の実施形態〕
図1は、第一の実施形態における共振回路デバイス10の構成例を示す斜視図である。図2は可変インダクタ3の一部を拡大して示す斜視図である。図3は可変インダクタ3の一部を拡大して示す平面図である。図4は、信号端子2cTおよびコイル端子32の変形例を示す平面図である。図5(a)はスイッチ4の一部を拡大して示す斜視図、図5(b)はそのB−B断面図である。図6(a)は可変キャパシタ5の一部を拡大して示す斜視図、図6(b)はそのC−C断面図である。
【0016】
なお、各斜視図においては、可変インダクタ3などの動作をわかりやすくするために、細部を簡略化して示している箇所があり、その平面図および断面図と正確には一致しない箇所もある。
【0017】
また、「基板1の表面」と説明する場合に、基板1の表面に形成されている各部材を含めた表面を指すことがある。例えば、基板1の表面に形成されている絶縁層100を含めた表面を指すことがある。
【0018】
図1に示すように、共振回路デバイス10は、シリコン、ガラス、またはLTCCなどからなる基板1(図5および図6など参照)上に、信号線路2、スイッチ4−1〜4−3を有する可変インダクタ3、および可変キャパシタ5−1、5−2などが形成されてなる。
【0019】
信号線路2は、基板1の表面に形成されており、いわゆるマイクロストリップラインである。
【0020】
信号線路2は、高周波(RF)信号が入力される信号線路2a、高周波信号が出力される信号線路2g、およびその間の信号線路2b〜2fなどからなる。すなわち、信号線路2aにおいて、信号線路2b、2cの経路と信号線路2d、2e、2fの経路とに分岐し、信号線路2gにおいて、分岐した両経路が合流している。
【0021】
以降において、信号線路2b〜2fを「支線路2s」と呼称することがある。
【0022】
信号線路2aは信号端子2aTを有しており、信号端子2aTの両脇にはグランド端子GTa、GTbが設けられている。つまり、高周波信号の入力端は、3端子が一列に並んだ、いわゆるGSG(Ground−Signal−Ground)入力形式である。同様に、信号線路2gは信号端子2gTを有しており、信号端子2gTの両脇にはグランド端子GTc、GTdが設けられている。グランド端子GTa〜GTdは、基板1の内部などに設けられたRFグランド(高周波信号についてのグランド)に接続されている。なお、グランド端子GTa〜GTdの形状によっては、これら自体をRFグランドとすることもできる。
【0023】
なお、高周波信号の入力側および出力側を、本実施形態とは逆となるように接続してもよい。すなわち、信号線路2gを入力側とし、信号線路2aを出力側としてもよい。
【0024】
信号線路2bと信号線路2cとの間には、可変インダクタ3が挿入されている。ただし、信号線路2cは3つの信号端子2cT−1〜2cT−3を有しており、信号端子2cT−1、2cT−2、2cT−3が、それぞれ可変インダクタ3のスイッチ4−1、4−2、4−3を介して可変インダクタ3と接続されるようになっている。
【0025】
信号線路2dと信号線路2eとの間には、可変キャパシタ5−1が挿入されており、信号線路2eと信号線路2fとの間には、可変キャパシタ5−2が挿入されている。
【0026】
信号端子2cT−1〜2cT−3のいずれかがスイッチ4−1〜4−3を介して可変インダクタ3と接続されると、可変インダクタ3と可変キャパシタ5−1、5−2とが信号線路2によって接続され、並列型の共振回路が構成される。
【0027】
以降において、3つの信号端子2cT−1〜2cT−3に共通する事項を説明する際には、単に「信号端子2cT」と表記する。同様に、3つのスイッチ4−1〜4−3に共通する事項を説明する際には、単に「スイッチ4」と表記し、2つの可変キャパシタ5−1〜5−2に共通する事項を説明する際には、単に「可変キャパシタ5」と表記する。その他の要素についても同様である。
【0028】
可変インダクタ3は、コイル31、コイル端子32−1〜32−3、およびスイッチ4−1〜4−3などを備える。
【0029】
図2および図3を参照して、コイル31は、金属線材がスパイラル状に所定の回数巻かれて筒状に形成されている。コイル31の巻き軸方向は、基板1の表面に対して平行である。コイル31の一巻きは、コイル横辺31a、コイル上辺31b、コイル横辺31c、コイル下辺31dの順で方形状に巻かれており、コイル下辺31dは傾斜して次の一巻きのコイル横辺31aに接続されている。
【0030】
コイル31は、コイル下辺31dのみが基板1の表面に接した状態で形成されている。コイル横辺31a、31cおよびコイル上辺31bは、基板1に接することなく基板1の上方に形成されている。つまり、コイル31のおよそ3/4に渡る部分は空中に形成される。よって、コイル31と基板1および基板1上に形成されている各種素子との間の寄生容量を低く抑えることができる。そのため、コイル31のQ値を高くすることができる。
【0031】
さらに寄生容量を減らしたい場合には、コイル31を固定するためにコイル31の両端部のみを基板1の表面に接した状態で形成して、スパイラル状に巻かれたその他の部分を基板1に接することなく基板1の上方に形成するとよい。つまり、コイル31を基板1の表面から浮かせた状態で形成するとよい。
【0032】
図1に戻って、コイル31の一方の端部31Aは、信号線路2bと接続されている。また、コイル31の中間部31B、31C、および他方の端部31Dは、それぞれ、コイル31の外側に引き出されるように設けられているコイル端子32−1、32−2、32−3と接続されている。
【0033】
図2および図3を参照して、信号端子2cTは、その線幅方向の片側が切り欠かれた細長の直線状の先端部2cTaを有している。同様に、コイル端子32も、その線幅方向の片側が切り欠かれた細長の直線状の先端部32aを有している。本実施形態では、信号端子2cTは、図3において線幅方向の左側が切り欠かれた先端部2cTaを有しており、コイル端子32は、図3において線幅方向の右側が切り欠かれた先端部32aを有している。信号端子2cTの先端部2cTaの高さおよびコイル端子32の先端部32aの高さは互いに同程度である。
【0034】
信号端子2cT−1およびコイル端子32−1は、先端部2cTaと先端部32aとが互いに相手方の切り欠かれた部分に入り込むように配置されている。よって、先端部2cTaと先端部32aとは、その側面が所定の距離を隔てて互いに対向する。信号端子2cT−2とコイル端子32−2との配置関係、および信号端子2cT−3とコイル端子32−3との配置関係についても、信号端子2cT−1とコイル端子32−1との配置関係と同様である。
【0035】
図4(a)に示すように、信号端子2cTの先端部2cTaは、信号端子2cTの他の部分と同じ線幅であってもよい。コイル端子32の先端部32aについても同様である。また、図4(b)および図4(c)に示すように、信号端子2cTの先端部2cTaは、信号端子2cTの他の部分と同一直線上に存在しなくてもよい。コイル端子32の先端部32aについても同様である。このように、信号端子2cTおよびコイル端子32は、少なくとも両者の先端部2cTaおよび先端部32aの側面同士が所定の距離を隔てて互いに対向するように配置されていればよい。
【0036】
図2および図3を参照して、スイッチ4は、信号端子2cTの先端部2cTaとコイル端子32の先端部32aとを一組とする固定接点部TS、一対の引出電極41a、41b、一対の駆動電極42a、42b、一対のブリッジ柱部43a、43b、およびブリッジ梁部44を備えている。
【0037】
スイッチ4は、ブリッジ柱部43a、43bによって両端部を支持されたブリッジ梁部44が、固定接点部TSおよび駆動電極42a、42bの上方を跨ぐように形成されている。つまり、ブリッジ梁部44は、固定接点部TSおよび駆動電極42a、42bの上面と空隙を介して対向する。
【0038】
引出電極41a、41bは、金またはアルミニウムなどの金属材料からなり、矩形状部分と線状部分とを備えて基板1の表面に形成されている。矩形状部分は、コイル端子32が設けられている側と反対側のコイル31の外側に設けられている。線状部分は、2つのコイル下辺31dの間を通って、駆動電極42a、42bに接続されるように延びている。矩形状部分には、スイッチ4を駆動させるための駆動電圧を印加可能になっている。
【0039】
駆動電極42a、42bは、金またはアルミニウムなどの金属材料からなり、固定接点部TSの両脇に設けられ、基板1の表面に形成されている。駆動電極42a、42bには、それぞれ引出電極41a、41bを介して、スイッチ4を駆動させるための駆動電圧が供給される。
【0040】
なお、本実施形態では、引出電極41a、41bが別個に独立して設けられ、駆動電極42a、42bにそれぞれ異なる電圧を供給できるようになっている。これを、後述する可変キャパシタ5のように、駆動電極42a、42bに接続される引出電極を共通に設け、駆動電極42a、42bに互いに同じ電圧を供給するようにしてもよい。
【0041】
図5(b)を参照して、ブリッジ柱部43aは、シード層101の表面に積層して形成されている、第1柱層431a、グランド電極432a、および第2柱層433aなどからなる。また、ブリッジ柱部43bは、シード層101の表面に積層して形成されている、第1柱層431b、グランド電極432b、および第2柱層433bからなる。
【0042】
また、信号端子2cTの先端部2cTaおよびコイル端子32の先端部32aも、シード層101の表面に形成されている。
【0043】
シード層101は、製造過程により上層を形成する際に必要となる金属層であり、例えばTi/Au膜である。シード層101は、基板1の表面に形成されている絶縁層100の表面に形成されている。
【0044】
第1柱層431a、431bは、それぞれブリッジ柱部43a、43bの下部側を占めている金属層であり、例えば、Au膜をメッキ成長させることにより形成される。第1柱層431a、431bの高さは、コイル下辺31dおよび固定接点部TSの高さと同程度である。
【0045】
グランド電極432a、432bは、ブリッジ梁部44の所定の領域の電位をグランド層6aの電位とするための電極であり、例えばTi/Au膜である。グランド電極432aは、第1柱層431aと第2柱層433aとの間、第2柱層433aの内側壁、およびブリッジ梁部44の下部側にかけて形成されている。また、グランド電極432bは、第1柱層431bと第2柱層433bとの間、第2柱層433bの内側壁、およびブリッジ梁部44の下部側にかけて形成されている。
【0046】
グランド電極432aは、ビア402a、シード層101、および第1柱層431aなどを挟んで、基板1の裏面または内部などに形成されているグランド層6aと接続されている。また、グランド電極432bは、ビア402b、シード層101、および第1柱層431bなどを挟んで、グランド層6aと接続されている。グランド層6aは、RFグランドとは別個に設けられているDCグランド(駆動電圧についてのグランド)である。よって、グランド電極432a、432bは、DCグランドに接続されているが、RFグランドに接続されていない。ただし、DCグランドとRFグランドとは、同じ電位となるように直接にまたはチョークコイルなどを介して接続されることもあるし、異なる電位となるように接続されることもある。
【0047】
駆動電極42a、42bには、グランド層6aおよびグランド電極432a、432bなどに対して正または負の電圧が駆動電圧として印加される。
【0048】
第2柱層433a、433bは、それぞれブリッジ柱部43a、43bの上部側を占めている金属層であり、例えば、Au膜をメッキ成長させることにより形成される。第2柱層433a、433bの高さは、コイル横辺31a、31cの高さと同程度としてもよい。
【0049】
このように、ブリッジ柱部43a、43bは、導電性の各部材が接合されて形成されており、各部材はいずれもグランド層6aの電位となる。
【0050】
ブリッジ梁部44は、グランド電極432a、432b、可動接点層441、および絶縁層442からなる。
【0051】
可動接点層441は、固定接点部TSと接触して信号端子2cTとコイル端子32との間を導通させるための金属層であり、例えばAu膜である。可動接点層441は、固定接点部TSの上面と空隙を介して対向するように、ブリッジ梁部44の下部側の中央寄りに形成されている。
【0052】
グランド電極432aは、ブリッジ柱部43aからブリッジ梁部44の下部側に延伸して、駆動電極42aの上面と空隙を介して対向するように形成されている。また、グランド電極432bは、ブリッジ柱部43bからブリッジ梁部44の下部側に延伸して、駆動電極42bの上面と空隙を介して対向するように形成されている。
【0053】
絶縁層442は、可動接点層441とグランド電極432a、432bとを絶縁するための絶縁層または高抵抗層であり、例えばAl23膜である。絶縁層442は、ブリッジ梁部44の下部側に形成されている、可動接点層441とグランド電極432a、432bとの間を埋めるとともに、それらの上面を覆うように形成されている。絶縁層442によって、可動接点層441とグランド電極432a、432bとは、一体化され、かつ絶縁されている。
【0054】
このような構造において、駆動電極42a、42bに直流の駆動電圧が供給されると、駆動電極42aとグランド電極432aとの間、および駆動電極42bとグランド電極432bとの間に静電引力が作用する。これにより、ブリッジ梁部44が基板1の側へ引き寄せられ、可動接点層441は固定接点部TSに接触した状態となる。よって、信号端子2cTの先端部2cTaとコイル端子32の先端部32aとが可動接点層441を介して接続され、信号端子2cTとコイル端子32とが導通する。この状態で駆動電圧の供給が止められると、可動接点層441は再び固定接点部TSから離間した状態となる。つまり、スイッチ4において、可動接点層441が固定接点部TSに接触した状態がオン時の状態であり、固定接点部TSから離間した状態がオフ時の状態である。
【0055】
このように、本実施形態では、駆動電極42a、42bが基板1に固定された固定電極として機能し、グランド電極432a、432bが固定電極に対して可動する可動電極として機能する。
【0056】
なお、駆動電極42a、42bにそれぞれ供給される駆動電圧は、同じ電圧であっても異なる電圧であってもよく、ブリッジ梁部44を構成するグランド電極432a、432b、可動接点層441、および絶縁層442の材質または寸法などに応じて調整される。
【0057】
以上のように、スイッチ4は、信号端子2cTの先端部2cTaおよびコイル端子32の先端部32aを内部に取り込む構成となっている。ただし、両先端部の形状が工夫されているため、スイッチ4が占有するスペースを小さくすることが可能となっている。そのため、スイッチ4をコイル31の外側に配置することが可能となっている。スイッチ4がコイル31の外側に配置されることにより、スイッチ4とコイル31との間に生じる寄生容量が低減される。よって、可変インダクタ3は、Q値が高く性能面で優れている。
【0058】
また、スイッチ4の、駆動電極42a、42bおよびグランド電極432a、432bと、可動接点層441と、信号端子2cTの先端部2cTaおよびコイル端子32の先端部32aとは、互いに電気的に分離されている。つまり、スイッチ4の駆動系は共振回路デバイス10に共鳴(伝播)する高周波信号から電気的に分離されており、スイッチ4はいわゆるコールドスイッチとなっている。このため、高周波信号が流れている最中(ホット状態)で使用しても問題がない。よって、スイッチング動作を高周波信号の影響を受けずに行うことが可能であるため制御がしやすく、接触部分の耐久性も良好である。
【0059】
図6(a)を参照して、可変キャパシタ5は、端部電極50、引出電極51、一対の駆動電極52a、52b、一対のブリッジ柱部53a、53b、およびブリッジ梁部54を備えている。
【0060】
可変キャパシタ5は、ブリッジ柱部53a、53bによって両端部を支持されたブリッジ梁部54が、端部電極50および駆動電極52a、52bの上方を跨ぐように形成されている。つまり、ブリッジ梁部54は、端部電極50および駆動電極52a、52bの上面と空隙を介して対向する。
【0061】
端部電極50は、支線路2sの端部が電極として用いられているものであり、基板1の表面に形成されている。つまり、支線路2sの端部と一体的に形成されている。ただし、支線路2sの端部と分離して形成され、支線路2sの端部と接続されていてもよい。
【0062】
引出電極51は、金またはアルミニウムなどの金属材料からなり、矩形状部分と線状部分とを備えて基板1の表面に形成されている。線状部分は、途中から2本に分岐し、駆動電極42a、42bにそれぞれ接続されるように延びている。矩形状部分には、可変キャパシタ5を駆動させるための駆動電圧を印加可能になっている。
【0063】
駆動電極52a、52bは、金またはアルミニウムなどの金属材料からなり、端部電極50の両脇に設けられ、基板1の表面に形成されている。駆動電極52a、52bには、引出電極51を介して、可変キャパシタ5を駆動させるための駆動電圧が供給される。
【0064】
なお、本実施形態では、駆動電極52a、52bに接続される引出電極51が共通に設けられ、駆動電極52a、52bに互いに同じ電圧を供給するようになっている。これを、前述したスイッチ4のように、駆動電極52a、52bに接続される引出電極を別個に設け、駆動電極52a、52bにそれぞれ異なる電圧を供給できるようにしてもよい。
【0065】
図6(b)を参照して、ブリッジ柱部53aは、シード層101の表面に積層して形成されている、第1柱層531a、グランド電極532、および第2柱層533aなどからなる。また、ブリッジ柱部53bは、シード層101の表面に積層して形成されている、第1柱層531b、グランド電極532、および第2柱層533bからなる。
【0066】
また、端部電極50も、シード層101の表面に形成されている。
【0067】
第1柱層531a、531bは、それぞれブリッジ柱部53a、53bの下部側を占めている金属層であり、例えば、Au膜をメッキ成長させることにより形成される。第1柱層531a、531bの高さは、コイル下辺31dおよび端部電極50の高さと同程度である。
【0068】
グランド電極532は、ブリッジ梁部54の所定の領域の電位をグランド層6bの電位とするための電極であり、例えばTi/Au膜である。グランド電極532は、第1柱層531aと第2柱層533aとの間、第2柱層533aの内側壁、ブリッジ梁部54、第2柱層533bの内側壁、第1柱層531bと第2柱層533bとの間にかけて形成されている。
【0069】
グランド電極532は、ビア502a、502b、シード層101、および第1柱層531a、531bなどを挟んで、基板1の裏面または内部などに形成されているグランド層6bと接続されている。グランド層6bは、DCグランド(駆動電圧についてのグランド)である。よって、グランド電極532は、DCグランドに接続されている。ただし、DCグランドは、RFグランドと共通に設けられることがある。また、DCグランドとRFグランドとは、同じ電位となるように直接にまたはチョークコイルなどを介して接続されることもあるし、異なる電位となるように接続されることもある。
【0070】
駆動電極52a、52bには、グランド層6bおよびグランド電極532などに対して正または負の電圧が駆動電圧として印加される。
【0071】
第2柱層533a、533bは、それぞれブリッジ柱部53a、53bの上部側を占めている金属層であり、例えば、Au膜をメッキ成長させることにより形成される。第2柱層533a、533bの高さは、コイル横辺31a、31cの高さと同程度としてもよい。
【0072】
このように、ブリッジ柱部53a、53bは導電性の各部材が接合されて形成されており、各部材はいずれもグランド層6bの電位となる。各部材のうちのいずれかの部材は、ブリッジ梁部44の下方に延びて端部電極50として用いられている支線路2sの端部とは別の支線路2sの端部と接続される。よって、この別の支線路2sもまた、グランド層6bの電位となる。例えば、図1において、可変キャパシタ5−1のブリッジ柱部53bおよび可変キャパシタ5−2のブリッジ柱部53bは、信号線路2eの両端部と接続されている。よって、信号線路2eは、グランド層6bの電位となっている。
【0073】
ブリッジ梁部54は、グランド電極532からなる。
【0074】
グランド電極532は、ブリッジ柱部53a、53bから延伸して、端部電極50の上面と空隙を介して対向するように形成されている。
【0075】
このような構造において、駆動電極52a、52bに直流の駆動電圧が供給されると、駆動電極52a、52bとグランド電極532との間に静電引力が作用する。これにより、ブリッジ梁部54(グランド電極532)が基板1の側へ引き寄せられて、グランド電極532と端部電極50との間の距離が狭まる。グランド電極532と端部電極50との間の距離が狭まるほど、両者の間の静電容量は大きくなる。逆に、グランド電極532と端部電極50との間の距離が広がるほど、両者の間の静電容量は小さくなる。つまり、駆動電極52a、52bに供給される駆動電圧の値によって、静電容量が可変となる。
【0076】
このように、本実施形態では、駆動電極52a、52bおよび端部電極50が基板1に固定された固定電極として機能し、グランド電極532が固定電極に対して可動する可動電極として機能する。
【0077】
なお、グランド電極532が端部電極50に接触して、両者が短絡してしまうのを避けるため、駆動電極52a、52bに供給される駆動電圧は、所定の値を超えないように設定される。ただし、端部電極50の上面に絶縁層を形成するなどして短絡を防止するための措置を別途施しておいてもよい。
【0078】
ところで、コイル31、スイッチ4、および可変キャパシタ5は、後述するように半導体製造工程において同時進行で形成可能なように、共通する構成部分を多くしておくことが望ましい。そのため、本実施形態では、コイル下辺31dの高さ、信号端子2cTの先端部2cTaの高さ、コイル端子32の先端部32aの高さ、端部電極50の高さ、スイッチ4の第1柱層431a、431bの高さ、および可変キャパシタ5の第1柱層531a、531bの高さは、互いに同程度となっている。また、スイッチ4の第2柱層433a、433bの高さ、および可変キャパシタ5の第2柱層533a、533bの高さも、互いに同程度となっている。このような関係から、特に、スイッチ4と可変キャパシタ5とは、互いに類似した構造を有している。
【0079】
図7は、共振回路デバイス10の等価回路図である。
【0080】
図7に示すように、共振回路デバイス10は、いわゆるLCフィルタ回路であり、スイッチ4−1〜4−3のいずれかを駆動することにより、可変インダクタ3のインダクタンスを変化させられるようになっている。また、可変キャパシタ5−1、5−2のブリッジ梁部54を変位することにより、その静電容量を変化させられるようになっている。よって、共振回路デバイス10は、共振インピーダンスが調整可能なチューナブル高周波デバイスの全部または一部として適用可能である。
【0081】
図8はスイッチ4−1〜4−7を有する可変インダクタ3´の等価回路図である。
【0082】
これまでに説明した可変インダクタ3のインダクタンスは、オンにされたスイッチ4に対応するコイル端子32とコイル31の一方の端部31Aとの間に接続されているコイルの一部分が持つインダクタンスとなる。すなわち、可変インダクタ3のインダクタンスは、可変インダクタ3が有するスイッチ4−1〜4−3のうちのいずれか1つのスイッチが選択的にオンにされることにより変化する。よって、可変インダクタ3のインダクタンスは、可変インダクタ3が有するスイッチ4の個数分変化させることが可能である。
【0083】
図8(a)に示す可変インダクタ3´は、スイッチ4−1〜4−7を有している。よって、可変インダクタ3´のインダクタンスは、7つの値に変化させることが可能である。ここで、スイッチ4−1〜4−7にそれぞれ対応するコイル端子32−1〜32−7は、コイル31の2巻き分のコイル部分301〜307の間隔で設けられている。この場合、コイル31は、コイル部分301〜307が直列接続されてなる、と捉えることができる。
【0084】
図8(b)に示すように、可変インダクタ3´のスイッチ4−1を駆動してオンの状態とした場合、可変インダクタ3´のインダクタンスは、コイル部分301が持つインダクタンスとなる。
【0085】
図8(c)に示すように、可変インダクタ3´のスイッチ4−5を駆動してオンの状態とした場合、可変インダクタ3´のインダクタンスは、コイル部分301〜305が持つインダクタンスとなる。コイル部分301〜305が持つインダクタンスは、直列接続されたコイル部分301〜305の合成インダクタンスであり、コイル部分301が持つインダクタンスのおよそ5倍である。
【0086】
以上のように、共振回路デバイス10においては、可変インダクタ3によって、キャパシタンスだけでなくインダクタンスも可変になっている。しかも、可変インダクタ3に設けられるスイッチ4の個数や配置などを調整することにより、インダクタンスの可変幅を調整できるようになっている。よって、共振回路デバイス10は、高周波信号処理回路などに適用する場合に、選択周波数、選択周波数幅、およびインピーダンスマッチングなどの設計自由度が高く性能面で優れている。
【0087】
以下、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた、共振回路デバイス10の作製方法の概略を説明する。
【0088】
共振回路デバイス10における、コイル31、スイッチ4、および可変キャパシタ5は、基板1上に同時進行で作製される。
【0089】
図9ないし図12は共振回路デバイス10の作製過程の例を示す図であり、左側の列には図2のA−A断面におけるコイル31の作製過程の例が、真ん中の列には図5(a)のB−B断面におけるスイッチ4の作製過程の例が、右側の列には図6(a)のC−C断面における可変キャパシタ5の作製過程の例が、それぞれ示されている。
【0090】
図9(a)に示すように、基板1の表面に、Au膜などの金属薄膜をスパッタによって成膜し、駆動電極42a、42b、52a、52bを形成する。その他、フォトリソ技術を用いてレジストをパターニングして、電極などに接続される配線パターンをエッチングまたはイオンミリングなどによって形成する。また、基板1を貫通してグランド層6aと電気的に連結されたビア402a、402bの上面および基板1を貫通してグランド層6bと電気的に連結されたビア502a、502bの上面に、配線パターンをパターニングする。
【0091】
次に、基板1の表面に形成された金属薄膜および配線パターンなどの上面を含む基板1の表面全面に、SiO2膜などの絶縁層100をCVDなどによって成膜する。なお、ビア402a、402b、502a、502bの上面の絶縁層100は、エッチングによって除去しておく。次に、絶縁層100の表面全面に、メッキのためのシード層101となるTi/Au薄膜を成膜する。
【0092】
コイル下辺31d、第1柱層431a、431b、531a、531b、先端部32a、2cTa、および端部電極50などを形成しない部分のシード層101をレジストで保護する(凹パターンを作製する)。電気メッキを行い、レジストで保護されていない箇所について所定の高さまでAuメッキを成長させて、コイル下辺31d、第1柱層431a、431b、531a、531b、先端部32a、2cTa、および端部電極50などを形成する。以降において、ここで形成した部分を「第1回メッキ部分」と呼称することがある。
【0093】
図9(b)に移って、レジストを除去した後、第1回メッキ部分以外の表面に残っているシード層101をイオンミリングによって除去する。さらに、駆動電極42a、42b、52a、52bの上面の絶縁層100をエッチングによって除去して、駆動電極42a、42b、52a、52bを露出させる。
【0094】
図9(c)に移って、表面全面にメッキのためのシード層となるTi/Cu薄膜を成膜し、第1回メッキ部分のシード層をレジストで保護する。電気メッキを行い、レジストで保護されていない箇所について所定の高さまでCuメッキを成長させて、犠牲層102を形成する。犠牲層102の高さは、第1回メッキ部分の高さと同程度とする。レジストを除去した後、犠牲層102以外の表面に残っているシード層をイオンミリングによって除去する。
【0095】
図10(a)に移って、表面全面にメッキのためのシード層となるTi/Cu薄膜を成膜し、コイル横辺31a、31c、および第2柱層433a、433b、533a、533bなどを形成しようとする部分のシード層をレジストで保護する。電気メッキを行い、レジストで保護されていない箇所について所定の高さまでCuメッキを成長させて、犠牲層103を形成する。レジストを除去した後、犠牲層103以外の表面に残っているシード層をイオンミリングによって除去する。
【0096】
図10(b)に移って、表面全面にメッキのためのシード層104となるTi/Au薄膜を成膜し、コイル横辺31a、31c、および第2柱層433a、433b、533a、533bなどを形成しない部分のシード層104をレジストで保護する。電気メッキを行い、レジストで保護されていない箇所について所定の高さまでAuメッキを成長させて、コイル横辺31a、31c、および第2柱層433a、433b、533a、533bなどを形成する。
【0097】
図10(c)に移って、レジストを除去した後、スイッチ4の領域のシード層104については、第2柱層433a寄り、中央寄り、および第2柱層433b寄りの3つのブロックのシード層104a〜104cに切り分ける形でパターニング・エッチングして残す。シード層104a〜104cは、それぞれスイッチ4のグランド電極432a、可動接点層441、グランド電極432bとなる。可変キャパシタ5の領域のシード層104については、1つのブロックのシード層104dの形でパターニング・エッチングして残す。シード層104dは、可変キャパシタ5のグランド電極532となる。コイル31を含むその他の領域のシード層104については、イオンミリングによって除去する。
【0098】
図11(a)に移って、スイッチ4の領域の表面全面に、Al23膜などの絶縁層105、またはノンドープp−Si(ポリシリコン)膜などの高抵抗層105をCVDなどによって成膜する。ここでのパターニングは、成膜後にエッチングしてもよいし、レジストを用いたリフトオフ法を用いてもよい。絶縁層105または高抵抗層105は、スイッチ4の絶縁層442となる。
【0099】
以降に説明する工程は、主としてコイル横辺31a、31cを形成する工程、すなわち、コイル31の高さ方向を形成する工程である。
【0100】
図11(b)に示すように、既に形成されたAuを保護した上で、コイル31の領域の表面全面にメッキのためのシード層となるCu薄膜を成膜し、コイル横辺31a、31cを形成しようとする部分のシード層をレジストで保護する。なお、ここでの被成膜面はほぼ金属で覆われているため、Tiなどの密着層は必要ない。電気メッキを行い、レジストで保護されていない箇所について所定の高さまでCuメッキを成長させて、犠牲層106を形成する。その後、レジストを除去する。
【0101】
図11(c)に移って、コイル横辺31a、31cを形成しない部分、すなわち犠牲層106をレジストで保護する。なお、ここでの被メッキ面は先のシード層であるCu薄膜で覆われているため、新たなシード層は必要ない。電気メッキを行い、レジストで保護されていない箇所について所定の高さまでAuメッキを成長させて、コイル横辺31a、31cを形成する。
【0102】
図12(a)に移って、コイル31が所望の高さになるまで、犠牲層107を形成する工程(図11(b)に示す工程と同様の工程)、およびコイル横辺31a、31cを形成する工程(図11(c)に示す工程と同様の工程)を繰り返し行う。その後、不要なCuシード層をイオンミリングによって除去する。
【0103】
なお、本実施形態では、図12(a)に示すように、スイッチ4および可変キャパシタ5の上方にも、数回のCuメッキが施されて数段の犠牲層106、107が形成されているが、最低限、スイッチ4のブリッジ梁部44の上面および可変キャパシタ5のブリッジ梁部54の上面に一段分の犠牲層106があればよい。この一段分の犠牲層106は、最終工程で不要なCuシード層を除去する際に、スイッチ4のブリッジ梁部44および可変キャパシタ5のブリッジ梁部54を保護する役割を果たす。ただし、基板1上の占有面積を考慮した場合に、なるべく広範囲に渡って均一に犠牲層が形成されるほうが局所的な応力分布が平均化されるため、最終段まで犠牲層を形成するほうが無難である。
【0104】
図12(b)に移って、基板をCuエッチャントに浸し、Cu犠牲層を除去することで、コイル31、スイッチ4、および可変キャパシタ5などが最終的な形で形成されて、共振回路デバイス10は完成する。
【0105】
以上、共振回路デバイス10の作製方法の概略を説明したが、本作製方法は一実施形態であり、作製方法および用いられる材料などは他にも選択の余地がある。
〔第二の実施形態〕
図13は、第二の実施形態における共振回路デバイス11の構成例を示す斜視図である。図14は、共振回路デバイス11の変形例である整合回路デバイス12の構成例を示す斜視図である。図15は、整合回路デバイス12の等価回路図である。
【0106】
以下、共振回路デバイス11について、第一の実施形態の共振回路デバイス10と相違する点を中心に説明する。共振回路デバイス10と共通する構成要素については、先に示した図面で用いたものと同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0107】
図13に示すように、共振回路デバイス11は、図示しないシリコンなどからなる基板1上に、信号線路2、スイッチ4−1〜4−3を有する可変インダクタ7、および可変キャパシタ5−1〜5−3などが形成されてなる。
【0108】
信号線路2bと信号線路2cとの間には、可変インダクタ7が挿入されている。ただし、信号線路2cは3つの信号端子2cT−1〜2cT−3を有しており、信号端子2cT−1、2cT−2、2cT−3が、それぞれ可変インダクタ7のスイッチ4−1、4−2、4−3を介して可変インダクタ7と接続されるようになっている。
【0109】
信号線路2dと信号線路2eとの間には、可変キャパシタ5−1が挿入されており、信号線路2eと信号線路2fとの間には、可変キャパシタ5−2が挿入されており、信号線路2fと信号線路2gとの間には、可変キャパシタ5−3が挿入されている。
【0110】
信号線路2e、2gは、所望の共振回路を構成するために適宜RFグランドと接続される。例えば、信号線路2eがRFグラントと接続されている場合に、信号端子2cT−1〜2cT−3のいずれかがスイッチ4−1〜4−3を介して可変インダクタ7と接続されると、可変インダクタ7および可変キャパシタ5−1〜5−3によってπ型の共振回路が構成される。また、信号線路2gがRFグラントと接続されている場合には、可変インダクタ7および可変キャパシタ5−1〜5−3によって並列共振回路が構成される。また、信号線路2e、2gのいずれもがRFグラントと接続されていない場合にも、可変インダクタ7および可変キャパシタ5−1〜5−3によって並列共振回路が構成される。
【0111】
可変インダクタ7は、コイル71−1〜71−3、コイル端子72−1〜72−3、およびスイッチ4−1〜4−3などによって構成されている。
【0112】
コイル71−1は、第1コイル部71a−1、連結部71b−1、および第2コイル部71c−1などからなる。同様に、コイル71−2は、第1コイル部71a−2、連結部71b−2、および第2コイル部71c−2などからなる。また、コイル71−3は、第1コイル部71a−3、連結部71b−3、および第2コイル部71c−3などからなる。
【0113】
第1コイル部71aは、金属線材が所定の回数巻かれて渦巻状に形成されている。第1コイル部71aは、基板1の表面に接した状態で形成されている。
【0114】
第2コイル部71cも、金属線材が所定の回数巻かれて渦巻状に形成されている。第2コイル部71cは、基板1に接することなく基板1の上方に形成されている。
【0115】
第1コイル部71aおよび第2コイル部71cの巻き軸方向は、基板1の表面に対して垂直である。
【0116】
連結部71bは、金属線材からなり、第1コイル部71aの一方の端部と第2コイル部71cの一方の端部とを基板1に垂直な方向において連結している。よって、第1コイル部71aと第2コイル部71cとは、基板1に垂直な方向において所定の距離を隔てて互いに対向する。
【0117】
このように、コイル71のおよそ1/2に渡る部分は空中に形成される。よって、コイル71と基板1および基板1上に形成されている各種素子との間の寄生容量を低く抑えることができる。そのため、コイル71のQ値を高くすることができる。
【0118】
さらに寄生容量を減らしたい場合には、第1コイル部71aを固定するために第1コイル部71aの他方(連結部71bに連結されていない方)の端部のみを基板1の表面に接した状態で形成して、渦巻状に巻かれたその他の部分を基板1に接することなく基板1の上方に形成するとよい。つまり、第1コイル部71aを基板1の表面から浮かせた状態で形成するとよい。
【0119】
なお、本実施形態では、コイル71は、第1コイル部71aおよび第2コイル部71cの2層からなる構造であるが、より多層からなる構造にしてもよい。
【0120】
第1コイル部71a−1の他方の端部は、信号線路2bと接続されている。また、第2コイル部71c−1の他方の端部および第1コイル部71a−2の他方の端部は、コイル端子72−1と接続されている。また、第2コイル部71c−2の他方の端部および第1コイル部71a−3の他方の端部は、コイル端子72−2と接続されている。また、第2コイル部71c−3の他方の端部は、コイル端子72−3と接続されている。コイル端子72−1〜72−3は、コイル71−1〜71−3が並んだ列の外側に引き出されるように設けられている。
【0121】
コイル端子72は、共振回路デバイス10におけるコイル端子32と同様の先端部72aを有している。信号端子2cTの先端部2cTaとコイル端子72の先端部72aとの配置関係については、共振回路デバイス10における信号端子2cTの先端部2cTaとコイル端子32の先端部32aとの配置関係と同様である。
【0122】
スイッチ4は、信号端子2cTの先端部2cTaとコイル端子72の先端部72aとを一組とする固定接点部TSなどを備え、固定接点部TSなどの上方を跨ぐように形成されている。形成されているスイッチ4の個数は、可変インダクタ7に設けられるコイル71の個数と同数である。
【0123】
以上のように、スイッチ4がコイル71の外側に配置されることにより、スイッチ4とコイル71との間に生じる寄生容量が低減される。よって、可変インダクタ7は、Q値が高く性能面で優れている。
【0124】
共振回路デバイス11においても、可変インダクタ7によって、キャパシタンスだけでなくインダクタンスも可変になっている。しかも、可変インダクタ7に設けられるコイル71の層数やコイル71およびスイッチ4の個数などを調整することにより、インダクタンスの可変幅を調整できるようになっている。よって、共振回路デバイス11も、高周波信号処理回路などに適用する場合に、選択周波数、選択周波数幅、およびインピーダンスマッチングなどの設計自由度が高く性能面で優れている。
【0125】
共振回路デバイス11は、MEMS技術を用いて作製可能であり、共振回路デバイス10の作製方法と類似の方法によって作製可能である。よって、共振回路デバイス11における、コイル71、スイッチ4、および可変キャパシタ5は、基板1上に同時進行で作製される。
【0126】
上述の実施形態において、共振回路デバイス10、11の全体または一部の構造、形状、材料、および適用などは、本発明の主旨に沿って適宜変更可能である。
【0127】
例えば、共振回路デバイス11における可変インダクタ7および可変キャパシタ5などの組み合わせ方を一部変更して、図14に示すような整合回路デバイス12とすることが可能である。
【0128】
すなわち、図14において、整合回路デバイス12は、可変インダクタ7、可変キャパシタ5−1〜5−3、および可変キャパシタ5−4〜5−6などによってπ型の整合回路が構成されており、インピーダンスチューナーとして動作させることが可能である。
【0129】
図15に示すように、整合回路デバイス12は、スイッチ4−1〜4−3のいずれかを駆動することにより、可変インダクタ7のインダクタンスを変化させられるようになっている。また、可変キャパシタ5−1〜5−6のブリッジ梁部54を変位することにより、その静電容量を変化させられるようになっている。よって、整合回路デバイス12は、整合インピーダンスが調整可能なチューナブル高周波デバイスの全部または一部として適用可能である。
【0130】
また、上述の実施形態では、スイッチ4において、固定電極としての駆動電極42a、42bにDCグランドを基準とする駆動電圧が印加され、固定電極に対して可動する可動電極としてのグランド電極432a、432bがDCグランドに接続されていた。これを、可動電極にDCグランドを基準とする駆動電圧が印加され、固定電極がDCグランドに接続されるようにしてもよい。可変キャパシタ5においても、同様である。
【符号の説明】
【0131】
1 基板
2 信号線路
2aT 信号端子(入力端子)
2b 信号線路(第1の信号線路)
2c 信号線路(第2の信号線路)
2d 信号線路(第3の信号線路)
2e 信号線路(第4の信号線路)
2gT 信号端子(出力端子)
2cT 信号端子
2cTa 先端部
3 可変インダクタ
31 コイル
32 コイル端子
32a 先端部
4 スイッチ
44 ブリッジ梁部(第1の可動部材)
441 可動接点層(接点部材)
5 可変キャパシタ
50 端部電極(固定電極)
54 ブリッジ梁部(第2の可動部材)
532 グランド電極(可動電極)
7 可変インダクタ
71 コイル
72 コイル端子
72a 先端部
10 共振回路デバイス(チューナブル高周波デバイス)
11 共振回路デバイス(チューナブル高周波デバイス)
12 整合回路デバイス(チューナブル高周波デバイス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される可変インダクタであって、
第1の信号線路と、
複数の信号端子を有する第2の信号線路と、
一方の端部が前記第1の信号線路と接続されたコイルと、
前記コイルの他方の端部および少なくとも1箇所の中間部にそれぞれ接続され、前記複数の信号端子の近傍にそれぞれ配置された複数のコイル端子と、
前記信号端子と前記コイル端子とを1組として各組ごとに当該信号端子および当該コイル端子と対向するように配置された接点部材を含む第1の可動部材を変位させて当該接点部材を当該信号端子および当該コイル端子と接触または離間させることにより、各組ごとに当該信号端子と当該コイル端子とを接続または非接続とするための複数のスイッチと、
を有する可変インダクタ。
【請求項2】
前記信号端子および前記コイル端子は、それぞれ直線状の先端部を有し、当該信号端子の当該先端部と当該コイル端子の当該先端部とが所定の距離を隔てて互いに対向するように配置されており、
前記接点部材は、前記信号端子の前記先端部および前記コイル端子の前記先端部と接触するように配置されている、
請求項1記載の可変インダクタ。
【請求項3】
前記信号端子の前記先端部は、当該信号端子の幅方向の片側が切り欠かれた形状であり、
前記コイル端子の前記先端部は、当該コイル端子の幅方向の片側が切り欠かれた形状であり、
前記信号端子および前記コイル端子は、当該信号端子の前記先端部と当該コイル端子の前記先端部とが互いに入り込むように配置されている、
請求項2記載の可変インダクタ。
【請求項4】
前記コイルは、一巻きが方形状に形成され全体として筒状に巻かれており、巻き軸方向が前記基板の表面に対して平行であり、かつ当該方形状の下辺が前記基板の表面に接した状態で形成されている、
請求項1ないし3のいずれかに記載の可変インダクタ。
【請求項5】
前記コイルは、一層が渦巻状に巻かれて一層または多層に形成されており、巻き軸方向が前記基板の表面に対して垂直であり、かつ最下層が前記基板の表面に接した状態で形成されている、
請求項1ないし3のいずれかに記載の可変インダクタ。
【請求項6】
前記複数のスイッチのうちのいずれか1つのスイッチのみが選択的にオンされる、
請求項1ないし5のいずれかに記載の可変インダクタ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載の可変インダクタと、
前記基板上に形成される可変キャパシタと、を備え、
前記可変キャパシタは、
第3の信号線路と、
第4の信号線路と、
前記第3の信号線路と接続された固定電極と、
前記第4の信号線路と接続され、前記固定電極と対向するように配置された可動電極と、
前記可動電極を含む第2の可動部材を変位させて当該可動電極と前記固定電極との間の距離を変化させることにより、当該可動電極と当該固定電極との間の静電容量を可変とするための容量可変手段と、
を有する、
チューナブル高周波デバイス。
【請求項8】
さらに、信号が入力される入力端子と、
信号が出力される出力端子と、
信号のグランドとなる信号グランドと、
を備え、
前記可変インダクタは、前記第1の信号線路および前記第2の信号線路を介して、前記入力端子と前記出力端子との間に接続されており、
前記可変キャパシタの1つは、前記第3の信号線路および前記第4の信号線路を介して、前記入力端子と前記信号グランドとの間に接続されており、
前記可変キャパシタの他の1つは、前記第3の信号線路および前記第4の信号線路を介して、前記出力端子と前記信号グランドとの間に接続されている、
請求項7記載のチューナブル高周波デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−134872(P2011−134872A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292597(P2009−292597)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】