説明

可変ノズル付きターボチャージャ

【課題】スラスト軸受などの温度を限界温度以下に維持できる機構を持つ可変ノズル付きターボチャージャを提供する。
【解決手段】タービンインペラ2で回転駆動され、空気を圧縮するコンプレッサインペラ4と、タービンインペラ2とコンプレッサインペラ4を連結するシャフト5と、シャフト5を回転可能に支持する軸受ハウジング6と、タービンインペラ2を内部に収容するタービンハウジング7と、タービンインペラ2の半径方向外側のコンプレッサインペラ4側に設けられ、タービンインペラ2へ向かう排ガス流量を調整する可変ノズル機構12と、を備え、軸受ハウジング6は、半径方向外側に延びて、半径方向外側部分でタービンハウジング7と結合し、タービンハウジング7との間に可変ノズル機構12を収容する拡径部6aを有し、拡径部6aと可変ノズル機構12との間には、可変ノズル機構12と拡径部6a間の伝熱を防止する遮熱板21が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ノズル付きターボチャージャに関し、より詳しくは、コンプレッサ側のスラスト軸受などの温度上昇を抑制できる機構を持つ可変ノズル付きターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャは、例えば自動車用エンジンの高出力のために用いられる過給機である。ターボチャージャでは、エンジンの排気エネルギによりタービンインペラを回転し、このタービンの出力によりコンプレッサインペラを回転させることで、圧縮空気をコンプレッサからエンジンに供給する。これにより、エンジンに自然吸気以上の過給状態をもたらす。
【0003】
このターボチャージャは、エンジンの低速回転時において、低い排気流量のためにタービンがほとんど働かない。従って、高速回転域まで回るエンジンにあっては、タービンが効率的に回転するまでには時間がかかり、速やかにターボ効果を得ることができなかった。
【0004】
そのため、低回転域からでも効率的に作動する可変ノズル付きターボチャージャ(VGS(Variable Geometry System)ターボチャージャ)が開発されている。この可変ノズル付きターボチャージャは、少ない排気流量を可動翼で絞り込み、排気の速度を増し、タービンの仕事量を大きくすることで、低速回転時でも、高出力が得られるようにしたものである。このような可変ノズル付きターボチャージャは、例えば特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特公平7−13468号公報 「ターボチャージャ」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、可変ノズル付きターボチャージャでは、エンジンが停止して軸受ハウジングを冷却する圧油が止まった時に、軸受ハウジングのタービン側からコンプレッサ側への熱の伝達(ヒートソーク)により、軸受ハウジングのコンプレッサ側に設けたスラスト軸受などの温度が限界温度250℃を超え300℃程度まで上がってしまう問題があった。なお、可変ノズル付きではないターボチャージャでは特にこのような問題は指摘されていなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、可変ノズル付きターボチャージャにおいて、スラスト軸受などの温度を限界温度以下に維持できる機構を持つ可変ノズル付きターボチャージャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記目的を達成するために、排ガスにより回転駆動されるタービンインペラと、該タービンインペラで回転駆動され、空気を圧縮するコンプレッサインペラと、前記タービンインペラとコンプレッサインペラを連結するシャフトと、該シャフトを回転可能に支持する軸受ハウジングと、前記タービンインペラを内部に収容するタービンハウジングと、前記タービンインペラの半径方向外側のコンプレッサインペラ側に設けられ、タービンインペラへ向かう排ガス流量を調整する可変ノズル機構と、を備え、前記軸受ハウジングは、半径方向外側に延びて、半径方向外側部分でタービンハウジングと結合し、タービンハウジングとの間に可変ノズル機構を収容する拡径部を有し、該拡径部と可変ノズル機構との間には、可変ノズル機構と拡径部間の伝熱を防止する遮熱板が設けられていることを特徴とする可変ノズル付きターボチャージャが提供される。
【0008】
可変ノズル付きターボチャージャでは、可変ノズル機構をタービンハウジングと軸受ハウジングとの間に収容するために、軸受ハウジングは、半径方向に延びてタービンハウジングの半径方向外側部分と結合する拡径部を有する。従って、軸受ハウジングが従来よりも大型化しその熱容量もそれだけ大きくなってしまう。圧油冷却では、この軸受ハウジングの拡径部の熱を冷却しきれない。しかし、上記本発明の可変ノズル付きターボチャージャでは、半径方向外側において、可変ノズル機構と軸受ハウジングの拡径部との間に、遮熱板を設けたので、タービン側から拡径部への伝熱が防止される。つまり前記遮熱板を、可変ノズル機構と軸受ハウジングとの間に空間を設けて設置することにより、高温となるタービン側部品の輻射熱が直接軸受ハウジングを加熱しないように伝熱を遮断している。これにより、軸受ハウジングの拡径部の加熱が抑制され、結果として、エンジンが停止して軸受ハウジング冷却用の圧油が止まった時でも、スラスト軸受などの温度を限界温度以下に維持することができる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によると、前記遮熱板は、その半径方向外側端部がタービンハウジングと軸受ハウジングの間に挟持されている。
【0010】
これにより、ターボチャージャの組み立て時において、遮熱板をタービンハウジングと軸受ハウジングとの間に挟むだけで遮熱板を固定することができるので、遮熱板の固定が簡単になる。
また、遮熱板は、その半径方向外側端部がタービンハウジングと軸受ハウジングの間に挟持されているので、遮熱板の半径方向外側端部をタービンハウジングと軸受ハウジングに接触させ、遮熱板の他の部分をタービンハウジングと軸受ハウジングに接触させないように、遮熱板を取り付けることができる。
従って、タービン側から軸受ハウジングの拡径部への伝熱が、遮熱板の半径方向外側端部にある接触部分を通して起こるとしても、遮熱板の他の部分では非接触となっているので、この部分を通したタービン側から拡径部への伝熱量を最小限にすることができる。よって、タービン側から拡径部への伝熱を一層効果的に防止することができる。
【0011】
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記遮熱板は、中央に開口部を有する環状部材であり、
前記軸受ハウジングは、前記拡径部よりタービンハウジング側に突出し、前記開口部に嵌合する縮径部を有する。
【0012】
これにより、ターボチャージャの組み立て時において、遮熱板の開口部に軸受ハウジングの縮径部を嵌合させるだけで、遮熱板を軸受ハウジングに取り付けることができるので、遮熱板の取り付けが簡単である。
【発明の効果】
【0013】
可変ノズル機構と軸受ハウジングの拡径部との間に、遮熱板を設けたので、タービン側から拡径部への伝熱が防止される。これにより、軸受ハウジングの拡径部の加熱が抑制され、結果として、エンジンが停止して軸受ハウジング冷却用の圧油が止まった時でも、スラスト軸受などの温度を限界温度以下に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態を示す可変ノズル付きターボチャージャ10の軸方向の断面図である。図2は、図1のA−A線矢印図であり、エンジンからタービンへの排ガス流量を調整する可変ノズル機構12を示している。
【0016】
図1に示す可変ノズル付きターボチャージャ10は、エンジンからの排ガスにより回転駆動されるタービンインペラ2と、タービンの駆動力により回転駆動されてエンジンへ圧縮空気を供給するコンプレッサインペラ4と、タービンインペラ2とコンプレッサインペラ4を結合しているシャフト5と、シャフト5を回転可能に支持する軸受ハウジング6と、タービンインペラ2を半径方向内側に収容するタービンハウジング7と、コンプレッサインペラ4を半径方向内側に収容するコンプレッサハウジング8と、を備える。軸受ハウジング6やスラスト軸受3などを冷却するための油供給口9a、油路9b、油排出口9cが軸受ハウジング6に設けられている。
【0017】
タービンハウジング7の内部には、エンジンからの排ガスが送り込まれてくるスクロール11が形成されている。そして、可変ノズル付きターボチャージャ10は、スクロール11に送り込まれてきた排ガスをその流量を制御して半径方向内側に位置するタービンインペラ2への排ガス流量を調整する可変ノズル機構12をさらに備える。
【0018】
図1、図2に示すように、この可変ノズル機構12は、周方向に間隔をおいて配置された複数の可動翼12aと、これらの可動翼12aを軸方向に挟むようにして保持する第1のリング部材12b及び第2のリング部材12cと、複数の可動翼12aの軸部の根元に固定され半径方向外側に延びる複数の伝達部材12eと、伝達部材12eの半径方向外側の端部に係合する溝14が周方向に複数形成された第3のリング部材12dと、を有する。図1から分かるように、この可変ノズル機構12は、タービンインペラ2の半径方向外側のコンプレッサインペラ4側に設けられている。
【0019】
図示しないシリンダなどにより、第3のリング部材12dが周方向に回転することで、第3のリング部材12dの溝14も周方向に移動し、この移動により溝14にそれぞれ係合している複数の伝達部材12eが周方向に揺動し、これに伴い、可動翼12aも揺動する。これにより、可動翼12aの揺動量を制御することで、タービンインペラ2への排ガス流量を制御する。
【0020】
図3は図1の破線Bで囲まれた部分の拡大図である。図1、図3に示すように、可変ノズル機構12は、タービンインペラ2の半径方向外側に設けられており、この可変ノズル機構12を取り付けるために、軸受ハウジング6は、半径方向外側へ延びてタービンハウジング7の外側端部と軸方向に結合する拡径部6aを有する。この拡径部6aの半径方向外側端部とタービンハウジング7の半径方向外側端部は、結合板16を用いてボルト17により軸方向に結合される。そして、可変ノズル機構12は、一端部18aが第2のリング部材12cに固定されている取付部材18を有し、この取付部材18の他端部18bは、拡径部6aの半径方向外側端部とタービンハウジング7の半径方向外側端部との間に挟持される。即ち、可変ノズル機構12は、取付部材18により、タービンハウジング7と軸受ハウジング6の間に挟持される。このようにして、タービンハウジング7と軸受ハウジング6の拡径部6aとの間に可変ノズル機構12が収容される。なお、軸受ハウジング6は、タービン側端部において直径が小さい縮径部6bを有する。可変ノズル機構12の第3のリング部材12dの半径方向中央の開口部が通されて、第3のリング部材12dが縮径部6bに取り付けられる。
【0021】
上述のように、可変ノズル機構12をターボチャージャに取り付けるために、軸受ハウジング6に拡径部6aを持たせているので、軸受ハウジング6の半径方向の寸法が大きくなっている。この点に着目すると、従来において可変ノズル付きターボチャージャ10のスラスト軸受の温度が限界温度250℃を超えて300℃程度まで上昇してしまうのは、軸受ハウジング6が大型化し、その熱容量も大きくなってしまったことが原因と考えられる。即ち、従来の圧油による冷却構造では、エンジン運転中に軸受ハウジング6を冷却していたとしても、拡径部6aを十分冷却することができない。そのため、拡径部6aが他の部分(例えば、軸受ハウジング6のコンプレッサ側)と比較して高温となる。そして、エンジン停止後に圧油が止まると、この熱が軸受ハウジング6のコンプレッサ側に伝達すること(ヒートソーク)により、軸受ハウジング6のコンプレッサ側の温度が上昇し、スラスト軸受3の温度が臨界温度250℃を超えて300℃程度まで上昇してしまったものと考えられる。
【0022】
本発明では、スラスト軸受の温度上昇の原因が、軸受ハウジング6の大型化であるということに基づき、以下で説明するように、本願特有の方法により遮熱板を設けた。
【0023】
本発明の実施形態によると、軸方向と垂直な断面が環状となるように、半径方向中央に開口部を有する遮熱板21が取り付けられる。図3に示すように、遮熱板21の開口部に軸受ハウジング6の縮径部を通すことで、遮熱板21が軸受ハウジング6に取り付けられる。そして、この遮熱板21の半径方向外側端部は、図3に示すように、上述の取付部材18の他端部18bと共に、タービンハウジング7の半径方向外側端部と拡径部6aの半径方向外側端部との間に挟持される。これにより、遮熱板21をタービンハウジング7と軸受ハウジング6との間に固定することができる。
また、この固定方法により、遮熱板21の半径方向外側端部のみをタービンハウジング7と軸受ハウジング6に接触させ、遮熱板21の他の部分を、タービンハウジング7と軸受ハウジング6を含めた他の部材と接触させないようにすることができる。
【0024】
なお、図3に示すように、スクロール11と第2のリング部材12cとを連通状態にする連通孔22が設けられている。仮にこの連通孔22がなければ、第2のリング部材12cを境にして、スクロール11側と、第2のリング部材12cと第3のリング部材12dの間の空間とで、圧力差が生じてしまい、排ガスが燃料の未燃カーボンとともにスクロール側から第2のリング部材12cと第3のリング部材12dの間の空間に可動翼12aの軸の隙間を通じて、比較的長時間にわたって流れ込み、第2のリング部材12cと第3のリング部材12dの間の空間にカーボンがつまってしまう。カーボンが可変ノズル機構の摺動部に溜まると可動翼12aの摺動が渋る問題が生じる。そのため、連通孔22を設けて圧力差を無くし、スクロール側から第2のリング部材12cと第3のリング部材12dの間の空間に可動翼12aの軸の隙間を通じての流れが、比較的長時間にわたって生じ難くなり、カーボンがつまらないようにしている。さらに、連通孔22は前記圧力さを無くすとともに可変ノズル機構部の温度を比較的短時間で均一にすることによりカーボンの付着を防ぐ効果もある。このことを考慮して、本願発明の実施形態では、遮熱板21を第3のリング部材12dよりも軸受ハウジング6側へ設けている。なお、符号23は、従来から取り付けられている遮熱板を示している。
【0025】
また、遮熱板21の材料は、例えば、SUS304又はSUS310等のステンレス鋼(JIS G 4305等)であるが、遮熱の効果が得られる他の適切な材料であってもよい。なお、遮熱板21の材料は、他の部位に設けられる遮熱板23の材料と同じであってもよい。
【0026】
上述の遮熱板21により、タービン側と軸受ハウジング6の拡径部6aとの間の伝熱を防ぐことができ、大型化した軸受ハウジング6(特に、拡径部6a)の温度上昇を抑制できる。また、遮熱板21により、軸受ハウジング6からタービン側へ冷熱が伝達されることも防げるので、ノズル可変機構付近でカーボンが堆積することも従来以上に防止できる。
【0027】
さらに、遮熱板21の半径方向外側端部を、可変ノズル機構12の取付部材18と共に、タービンハウジング7と軸受ハウジング6との間に挟んで固定するので、遮熱板21を軸受ハウジング6に簡単に取り付け固定することができる。
しかも、この固定方法により、遮熱板21の半径方向外側端部をタービンハウジング7と軸受ハウジング6に接触させ、遮熱板21の他の部分をタービンハウジング7と軸受ハウジング6に接触させないようにできるので、この非接触部分を通したタービン側から拡径部への伝熱量を最小限にすることができる。よって、タービン側から拡径部6aへの伝熱を一層効果的に防止することができる。
【0028】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、ボルト17によりタービンハウジング7の半径方向外側端部と軸受ハウジング6の拡径部6aの半径方向外側端部とを結合している可変ノズル付きターボチャージャ10に遮熱板21を適用したが、半径方向外側部分の適切な箇所で、タービンハウジング7と軸受ハウジング6とを結合し、これらの間で可変ノズル機構12を収容しているターボチャージャ10にも遮熱板21を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態による可変ノズル付きターボチャージャの全体構成図である。
【図2】図1のA−A線断面図であり、可変ノズル機構を示す図である。
【図3】図1の破線Bで囲まれた部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
2 タービンインペラ、 4 コンプレッサインペラ、 5 シャフト
6 軸受ハウジング、 6a 拡径部、 6b 縮径部
7 タービンハウジング、 8 コンプレッサハウジング
10 可変ノズル付きターボチャージャ、 11 スクロール、 12 可変ノズル機構12a 可動翼、 12b 第1のリング部材、 12c 第2のリング部材
12d 第3のリング部材、12e 伝達部材、 14 溝、 16 結合板
17 ボルト、 18 取付部材、 21 遮熱板、23 遮熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスにより回転駆動されるタービンインペラと、
該タービンインペラで回転駆動され、空気を圧縮するコンプレッサインペラと、
前記タービンインペラとコンプレッサインペラを連結するシャフトと、
該シャフトを回転可能に支持する軸受ハウジングと、
前記タービンインペラを内部に収容するタービンハウジングと、
前記タービンインペラの半径方向外側のコンプレッサインペラ側に設けられ、タービンインペラへ向かう排ガス流量を調整する可変ノズル機構と、を備え、
前記軸受ハウジングは、半径方向外側に延びて、半径方向外側部分でタービンハウジングと結合し、タービンハウジングとの間に可変ノズル機構を収容する拡径部を有し、
該拡径部と可変ノズル機構との間には、可変ノズル機構と拡径部間の伝熱を防止する遮熱板が設けられていることを特徴とする可変ノズル付きターボチャージャ。
【請求項2】
前記遮熱板は、その半径方向外側端部がタービンハウジングと軸受ハウジングの間に挟持されていることを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記遮熱板は、中央に開口部を有する環状部材であり、
前記軸受ハウジングは、前記拡径部よりタービンハウジング側に突出し、前記開口部に嵌合する縮径部を有することを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231934(P2007−231934A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8976(P2007−8976)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】