説明

可変バルブタイミング機構の制御装置

【課題】クランク軸が逆転した場合でも、バルブタイミングの誤制御を抑制しつつ、できるだけ目標値に近づけた位置に保持する。
【解決手段】 電動モータで駆動される可変バルブタイミング機構(電動VTC)によりバルブタイミングを制御する内燃機関において、機関停止指令の出力後に、吸気バルブのバルブタイミングを、機関が正方向に回転しているときは、センサで検出される実バルブタイミング(VTC実角度θr)を、始動時用の進角させた目標バルブタイミング(VTC目標角度θtrg)に収束させるフィードバック制御を行い、機関が逆方向に回転したときは、VTC実回転角θrを、逆転検出直前に検出されたVTC実回転角θrに保持するように電動VTCの操作量を保持操作量に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の機関バルブ(吸気バルブまたは排気バルブ)のバルブタイミングを変更する可変バルブタイミング機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置では、一般的にクランク軸に対するカム軸の回転位相を検出しつつ、可変バルブタイミング機構によって目標回転位相に近づけることにより、バルブタイミングを制御している。
【0003】
ところで、機関の運転を停止させる際など、停止直前の極低回転時にクランク軸が正回転方向とは逆方向に回転(逆転)する場合がある。特許文献1では、逆転を検出した場合にはカム軸回転位相を正しく検出することができないため、上記目標位相へのフィードバック制御を停止し、機関が停止されるまでの間に可変バルブタイミング機構によって吸気カム軸を遅角方向にストッパで突き当たる基準回転角位置(デフォルト位置)まで回転駆動させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−303865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように遅角された基準回転角位置では、吸気バルブの閉時期(IVC)が吸気下死点から遠ざかるため、有効ストロークが減少して吸入空気量が減少し、次回始動時の始動性が低下する。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、クランク軸が逆転した場合でも、機関バルブのバルブタイミングを、誤制御を抑制しつつ、できる限り目標値に近づけて、始動性等の機関運転性能を良好に維持できるようにした可変バルブタイミング機構の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明は、
クランク軸の回転角を検出するクランク角センサと、機関バルブ開閉用カム軸の回転角を検出するカムセンサと、クランク角センサ及びカムセンサからの各信号に基づいて、クランク軸に対するカム軸の回転位相を検出する回転位相検出手段と、クランク軸に対してカム軸を相対回転させて回転位相を変更可能なアクチュエータと、を含んで構成された可変バルブタイミング機構の制御装置であって、以下のように構成した。
【0008】
A.クランク軸の正方向回転と逆方向回転を判別して検出する正転/逆転検出手段
B.クランク軸の逆方向回転を検出したときは、アクチュエータの操作量を、回転位相を現状に保持するように制御する保持操作量に切り換える制御手段
【発明の効果】
【0009】
停止挙動中等にクランク軸が逆転した場合でも、該逆転を検出したときからアクチュエータの操作量が保持操作量に切り換えられて、回転位相が現状に保持されるように制御され、回転位相の遅角が抑制される。
これにより、再始動時など、再開されるバルブタイミングのフィードバック制御で、目標バルブタイミングに速やかに収束させて良好な機関運転性能を速やかに得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態における内燃機関のシステム構成図である。
【図2】実施形態における可変バルブタイミング機構を示す縦断面図である。
【図3】同上可変バルブタイミング機構における主要な構成部材の要部拡大断面図である。
【図4】図7のA−A線断面図である。
【図5】図7のB−B線断面図である。
【図6】同上可変バルブタイミング機構に供されるカバー部材と第1オイルシールとの分解斜視図である。
【図7】図7のC−C線断面図である。
【図8】実施形態におけるクランク角センサ及びカムセンサの構造を示す図である。
【図9】実施形態におけるクランク角センサ及びカムセンサの出力特性を示すタイムチャートである。
【図10】実施形態における回転信号の正転・逆転によるパルス幅・振幅の違いを示すタイムチャートである。
【図11】実施形態における逆転を検出した場合のカウンタCNTPOSの増減変化を示すタイムチャートである。
【図12】実施形態において制御されるバルブタイミングであり、(A)は始動後のミラーサイクル運転時、(B)は、始動時のバルブタイミングを示す。
【図13】同上可変バルブタイミング機構による吸気バルブのバルブタイミング制御の第1実施形態のフローチャートである。
【図14】同上可変バルブタイミング機構による吸気バルブのバルブタイミング制御の第2実施形態のフローチャートの前段を示す。
【図15】同上第2実施形態のフローチャートの後段を示す。
【図16】同上可変バルブタイミング機構による吸気バルブのバルブタイミング制御の第3実施形態のフローチャートを示す。
【図17】同上可変バルブタイミング機構による吸気バルブのバルブタイミング制御の第4実施形態のフローチャートを示す。
【図18】同上の各実施形態における機関停止挙動中での吸気バルブのバルブタイミング制御での各種状態の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本願発明に係る制御装置を適用した車両用内燃機関101の構成図である。尚、本実施形態において、内燃機関101は、直列4気筒の4サイクル機関であるが、本例に限定されない。
【0012】
図1において、内燃機関101の吸気管102には、スロットルモータ103aでスロットルバルブ103bを開閉駆動する電子制御スロットル103を介装してある。
そして、内燃機関101は、電子制御スロットル103及び吸気バルブ105を介して、各気筒の燃焼室106内に空気を吸入する。
【0013】
各気筒の吸気ポート130に、燃料噴射弁131を設けてあり、燃料噴射弁131は、制御装置としてのECU(エンジン・コントロール・ユニット)114からの噴射パルス信号によって開弁動作し、燃料を噴射する。
【0014】
燃焼室106内の燃料は、点火プラグ104による火花点火によって着火燃焼する。点火プラグ104それぞれには、点火コイル及び該点火コイルへの通電を制御するパワートランジスタを内蔵した点火モジュール112を装着してある。
【0015】
燃焼室106内の燃焼ガスは、排気バルブ107を介して排気管111に流出する。排気管111に設けたフロント触媒コンバータ108及びリア触媒コンバータ109は、排気管111を流れる排気を浄化する。
【0016】
吸気カム軸134,排気カム軸110は、一体的にカムを備え、このカムによって吸気バルブ105及び排気バルブ107を動作させる。
吸気バルブ105は、電動モータ(アクチュエータ)を用いて吸気カム軸134をクランク軸120に対して相対回転させる可変バルブタイミング機構(電動VTC)113により、バルブタイミングが可変に制御される。
【0017】
上記電動VTC113は、図2〜図7に示すように、内燃機関のクランク軸120によって回転駆動する駆動回転体であるタイミングスプロケット1と、シリンダヘッド上に軸受44を介して回転自在に支持され、前記タイミングスプロケット1から伝達された回転力によって回転する吸気カム軸134と、該タイミングスプロケット1の前方位置に配置されて、固定部であるチェーンカバー40にボルトによって取り付け固定されたカバー部材3と、前記タイミングスプロケット1と吸気カム軸134の間に配置されて、機関運転状態に応じて両者1,2の相対回転位相を変更する可変機構である位相変更機構4と、を備えて構成されている。
【0018】
タイミングスプロケット1は、全体が鉄系金属によって一体に形成され、内周面が段差径状の円環状のスプロケット本体1aと、該スプロケット本体1aの外周に一体に設けられて、巻回されたタイミングチェーン42を介してクランク軸からの回転力を受けるギア部1bと、から構成されている。また、タイミングスプロケット1は、前記スプロケット本体1aの内周側に形成された円形溝1cと前記吸気カム軸134の前端部に一体に設けられた肉厚なフランジ部2aの外周との間に介装された第3軸受である第3ボールベアリング43によって吸気カム軸134に回転自在に支持されている。
【0019】
スプロケット本体1aの前端部外周縁には、環状突起1eが一体に形成されている。このスプロケット本体1aの前端部には、前記環状突起1eの内周側に同軸に位置決めされ、内周に波形状の噛み合い部である内歯19aが形成された環状部材19と、大径円環状のプレート6がボルト7によって軸方向から共締め固定されている。また、前記スプロケット本体1aの内周面の一部には、図5に示すように、円弧状の係合部であるストッパ凸部1dが周方向に沿って所定長さ範囲まで形成されている。
【0020】
プレート6の前端側外周には、前記位相変更機構4の後述する減速機8や電動モータ12の各構成部材を覆う状態で前方に突出した円筒状のハウジング5がボルト11によって固定されている。
【0021】
ハウジング5は、鉄系金属によって一体に形成されてヨークとして機能し、前端側に円環プレート状の保持部5aを一体に有していると共に、該保持部5aを含めた外周側全体が前記カバー部材3によって所定の隙間をもって覆われた形で配置されている。
【0022】
吸気カム軸134は、外周に吸気バルブ105を開作動させる一気筒当たり2つの駆動カムを有していると共に、前端部に従動回転体である従動部材9がカムボルト10によって軸方向から結合されている。また、吸気カム軸134の前記フランジ部2aには、図5に示すように、前記スプロケット本体1aのストッパ凸部1dが係入する係止部であるストッパ凹溝2bが円周方向に沿って形成されている。このストッパ凹溝2bは、円周方向へ所定長さの円弧状に形成されて、この長さ範囲で回動したストッパ凸部1dの両端縁が周方向の対向縁2c、2dにそれぞれ当接することによって、タイミングスプロケット1に対する吸気カム軸134の最大進角側あるいは最大遅角側の相対回転位置を規制するようになっている。
【0023】
カムボルト10は、頭部10aの軸部10b側の端縁にフランジ状の座面部10c一体に形成されていると共に、軸部10bの外周に前記吸気カム軸134の端部から内部軸方向に形成された雌ねじ部に螺着する雄ねじ部が形成されている。
【0024】
従動部材9は、鉄系金属材によって一体に形成され、図3に示すように、前端側に形成された円板部9aと、後端側に一体に形成された円筒状の円筒部9bとから構成されている。
【0025】
円板部9aは、後端面の径方向ほぼ中央位置に前記吸気カム軸134のフランジ部2aとほぼ同外径の環状段差突起9cが一体に設けられ、この段差突起9cの外周面と前記フランジ部2aの外周面が前記第3ボールベアリング43の内輪43aの内周に挿通配置されている。第3ボールベアリング43の外輪43bは、スプロケット本体1aの円形溝1cの内周面に圧入固定されている。
【0026】
また、円板部9aの外周部には、図2〜図6に示すように、後述する複数のローラ34を保持する保持器41が一体に設けられている。この保持器41は、前記円板部9aの外周部から前記円筒部9bと同じ方向へ突出して形成され、円周方向へほぼ等間隔の位置に所定の隙間をもった複数の細長い突起部41aによって形成されている。
【0027】
円筒部9bは、図2に示すように、中央に前記カムボルト10の軸部10bが挿通される挿通孔9dが貫通形成されていると共に、外周側に第1軸受である後述の第1ニードルベアリング30が設けられている。
【0028】
カバー部材3は、図2及び図6に示すように、比較的に肉厚な合成樹脂材によって一体に形成され、カップ状に膨出したカバー本体3aと、該カバー本体3aの後端部外周に一体に有するブラケット3bと、から構成されている。
【0029】
カバー本体3aは、位相変更機構4の前端側を覆う、つまりハウジング5の軸方向の保持部5bから後端部側のほぼ全体を、所定隙間をもって覆うように配置されている。一方、前記ブラケット3bには、ほぼ円環状に形成されて6つのボス部にそれぞれボルト挿通孔3fが貫通形成されている。
【0030】
また、カバー部材3は、図2に示すように、ブラケット3bが前記チェーンカバー40に複数のボルト47を介して固定されていると共に、前記カバー本体3aの前端部3cの内周面に内外2重のスリップリング48a,48bが各内端面を露出した状態で埋設固定されている。さらに上端部には、内部に前記スリップリング48a、48bと導電部材を介して接続されたコネクタ端子49aが固定されたコネクタ部49が設けられている。なお、前記コネクタ端子49aには、コントロールユニット21を介して図外のバッテリー電源から通電あるいは通電が遮断されるようになっている。
【0031】
そして、カバー本体3aの後端部側の内周面と前記ハウジング5の外周面との間には、図2にも示すように、シール部材である大径な第1オイルシール50が介装されている。この第1オイルシール50は、横断面ほぼコ字形状に形成されて、合成ゴムの基材の内部に芯金が埋設されていると共に、外周側の円環状基部50aが前記カバー部材3a後端部の内周面に形成された円形溝3d内に嵌着固定されている。また、円環状基部50aの内周側には、前記ハウジング5の外周面に当接するシール面50bが一体に形成されている。
【0032】
位相変更機構4は、吸気カム軸134のほぼ同軸上前端側に配置された電動モータ12と、該電動モータ12の回転速度を減速して吸気カム軸134に伝達する前記減速機8と、から構成されている。
【0033】
電動モータ12は、図2及び図3に示すように、ブラシ付きのDCモータであって、タイミングスプロケット1と一体に回転するヨークであるハウジング5と、該ハウジング5の内部に回転自在に設けられた出力軸であるモータ軸13と、ハウジング5の内周面に固定された半円弧状の一対の永久磁石14,15と、ハウジング保持部5aの内底面側に固定された固定子16と、を備えている。
【0034】
モータ軸13は、筒状に形成されてアーマチュアとして機能し、軸方向のほぼ中央位置の外周に、複数の極を持つ鉄心ロータ17が固定されていると共に、該鉄心ロータ17の外周には電磁コイル18が巻回されている。また、モータ軸13の前端部外周には、コミュテータ20が圧入固定されており、このコミュテータ20には、前記鉄心ロータ17aの極数と同数に分割された各セグメントに前記電磁コイル18が接続されている。
【0035】
固定子16は、図7に示すように、保持部5aの内底壁に4本のビス22aによって固定された円環板状の樹脂ホルダー22と、該樹脂ホルダー22と保持部5aを軸方向に貫通配置されて、各先端面が前記一対のスリップリング48a、48bに摺接して給電される周方向内外2つの第1ブラシ23a,23bと、樹脂ホルダー22の内周側に内方へ進退自在に保持されて、円弧状の先端部が前記コミュテータ20の外周面に摺接する第2ブラシ24a、24bと、から主として構成されている。
【0036】
第1ブラシ23a、23bと第2ブラシ24a、24bは、ピッグテールハーネス25a、25bによって接続されていると共に、それぞれに弾接した捩りばね26a、27aのばね力によってスリップリング48a、48b方向やコミュテータ20方向へそれぞれ付勢されている。
【0037】
モータ軸13は、カムボルト10の頭部10a側の軸部10bの外周面に第1軸受であるニードルベアリング28と該ニードルベアリング28の軸方向の側部に配置された軸受である第4ボールベアリング35を介して回転自在に支持されている。また、前記モータ軸13の吸気カム軸134側の後端部には、減速機8の一部を構成する円筒状の偏心軸部30が一体に設けられている。
【0038】
第1ニードルベアリング28は、偏心軸部30の内周面に圧入された円筒状のリテーナ28aと、該リテーナ28aの内部に回転自在に保持された複数の転動体であるニードルローラ28bとから構成されている。このニードルローラ28bは、前記従動部材9の円筒部9bの外周面を転動している。
【0039】
第4ボールベアリング35は、内輪35aが前記従動部材9の円筒部9bの前端縁とカムボルト10の座面部10cとの間に挟持状態に固定されている一方、外輪35bがモータ軸13の内周に形成された段差部と抜け止めリングであるスナップリング36との間で軸方向の位置決め支持されている。
【0040】
また、モータ軸13(偏心軸部30)の外周面とプレート6の内周面との間には、減速機8内部から電動モータ12内への潤滑油のリークを阻止するフリクション部材である第2オイルシール32が設けられている。この第2オイルシール32は、内周部が前記モータ軸13の外周面に弾接していることによって、該モータ軸13の回転に対して摩擦抵抗を付与するようになっている。
【0041】
減速機8は、図2、図3に示すように、偏心回転運動を行う前記偏心軸部30と、該偏心軸部30の外周に設けられた第2軸受である第2ボールベアリング33と、該第2ボールベアリング33の外周に設けられた前記ローラ34と、該ローラ34を転動方向に保持しつつ径方向の移動を許容する前記保持器41と、該保持器41と一体の前記従動部材9と、から主として構成されている。
【0042】
偏心軸部30は、外周面に形成されたカム面の軸心Yがモータ軸13の軸心Xから径方向へ僅かに偏心している。なお、前記第2ボールベアリング33とローラ34などが遊星噛み合い部として構成されている。
【0043】
第2ボールベアリング33は、大径状に形成されて、第1ニードルベアリング28の径方向位置で全体がほぼオーバラップする状態に配置され、内輪33aが偏心軸部30の外周面に圧入固定されていると共に、外輪33bの外周面には前記ローラ34が常時当接している。また、外輪33bの外周側には円環状の隙間Cが形成されて、この隙間Cによって第2ボールベアリング33全体が前記偏心軸部30の偏心回転に伴って径方向へ移動可能、つまり偏心動可能になっている。
【0044】
各ローラ34は、第2ボールベアリング33の偏心動に伴って径方向へ移動しつつ前記環状部材19の内歯19aに嵌入すると共に、保持器41の突起部41aによって周方向にガイドされつつ径方向に揺動運動させるようになっている。
【0045】
減速機8の内部には、潤滑油供給手段によって潤滑油が供給されるようになっている。この潤滑油供給手段は、図2に示すように、シリンダヘッドの軸受44の内部に形成されて、図外のメインオイルギャラリーから潤滑油が供給される油供給通路47と、前記吸気カム軸134の内部軸方向に形成されて、前記油供給通路47にグルーブ溝を介して連通した油供給孔48と、従動部材9の内部軸方向に貫通形成されて、一端が該油供給孔48に開口し、他端が前記第1ニードルベアリング28と第2ボールベアリング33の付近に開口した小径なオイル供給孔45と、同じく従動部材9に貫通形成された大径な3つの図外のオイル排出孔と、から構成されている。
【0046】
以下、本電動VTC113の作動について説明すると、まず、機関のクランク軸が回転駆動するとタイミングチェーン42を介してタイミングスプロケット1が回転し、その回転力によりハウジング5と環状部材19とプレート6を介して電動モータ12が同期回転する。一方、環状部材19の回転力が、ローラ34から保持器41及び従動部材9を経由して吸気カム軸134に伝達される。これによって、吸気カム軸134のカムが吸気弁を開閉作動させる。
【0047】
そして、電動VTC113を駆動して吸気カム軸134の回転位相(吸気バルブ105のバルブタイミング)を変更するときは、コントロールユニット21からスリップリング48a、48bなどを介して電動モータ12の電磁コイル17に通電される。これによって、モータ軸13が回転駆動され、この回転力が減速機8を介して吸気カム軸134に減速された回転力が伝達される。
【0048】
すなわち、モータ軸13の回転に伴い偏心軸部30が偏心回転すると、各ローラ34がモータ軸13の1回転毎に保持器41の突起部41aに径方向へガイドされながら環状部材19の一の内歯19aを乗り越えて隣接する他の内歯19aに転動しながら移動し、これを順次繰り返しながら円周方向へ転接する。この各ローラ34の転接によって前記モータ軸13の回転が減速されつつ従動部材9に回転力が伝達される。このときの減速比は、ローラ34の個数などによって任意に設定することが可能である。
【0049】
これにより、吸気カム軸134がタイミングスプロケット1に対して正逆相対回転して相対回転位相が変換されて、吸気弁の開閉タイミングを進角側あるいは遅角側に変換制御するのである。
【0050】
そして、タイミングスプロケット1に対する吸気カム軸134の正逆相対回転の最大位置規制(角度位置規制)は、前記ストッパ凸部1dの各側面が前記ストッパ凹溝2bの各対向面2c、2dのいずれか一方に当接することによって行われる。
【0051】
すなわち、従動部材9が、偏心軸部30の偏心回動に伴ってタイミングスプロケット1の回転方向と同方向に回転することによって、ストッパ凸部1dの一側面がストッパ凹溝2bの一方側の対向面1cに当接してそれ以上の同方向の回転が規制される。これにより、吸気カム軸134は、タイミングスプロケット1に対する相対回転位相が進角側へ最大に変更される。
【0052】
一方、従動部材9が、タイミングスプロケット1の回転方向と逆方向に回転することによって、ストッパ凸部1dの他側面がストッパ凹溝2bの他方側の対向面2dに当接してそれ以上の同方向の回転が規制される。これにより、吸気カム軸134は、タイミングスプロケット1に対する相対回転位相が遅角側へ最大に変更される。
【0053】
図1に戻って、ECU114は、マイクロコンピュータを内蔵し、予めメモリに記憶したプログラムに従って演算を行い、電子制御スロットル103,燃料噴射弁131,点火モジュール112などを制御する。
【0054】
ECU114は、各種のセンサからの検出信号を入力する。各種のセンサとして、アクセルペダル116aの開度(アクセル開度)ACCを検出するアクセル開度センサ116、内燃機関101の吸入空気量Qを検出するエアフローセンサ115、内燃機関101の出力軸であるクランク軸120の回転に応じてパルス状の回転信号(単位クランク角信号)POSを出力するクランク角センサ(回転センサ)117、スロットルバルブ103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ118、内燃機関101の冷却水の温度TWを検出する水温センサ119、吸気カム軸134の回転に応じてパルス状のカム信号PHASEを出力するカムセンサ133、車両の運転者がブレーキペダル121を踏み込んだ制動状態においてオンになるブレーキスイッチ122、内燃機関101を動力源とする車両の走行速度(車速)VSPを検出する車速センサ123などを設けている。
【0055】
更に、ECU114は、内燃機関101の運転・停止のメインスイッチであるイグニションスイッチ124のオン・オフ信号や、スタータスイッチ125のオン・オフ信号を入力する。
【0056】
図8は、クランク角センサ117及びカムセンサ133の構造を示す。
クランク角センサ117は、クランク軸120に軸支され、周囲に被検出部としての突起部151を備えるシグナルプレート152と、内燃機関101側に固定され、突起部151を検出して回転信号POSを出力する回転検出装置153とで構成される。
【0057】
回転検出装置153は、波形発生回路、選択回路などを含む各種の処理回路を、突起部151を検出するピックアップと共に備えており、回転検出装置153が出力する回転信号POSは、通常ローレベルで、前記突起部151を検知したときに一定時間だけハイレベルに変化するパルス列からなるパルス信号である。
【0058】
シグナルプレート152の突起部151は、クランク角で10degのピッチで等間隔に形成してあるが、突起部151を連続して2つ欠落させてある部分を、クランク軸120の回転中心を挟んで対向する2箇所に設けてある。
尚、突起部151の欠落数は、1個であっても良いし、3つ以上連続して欠落させてもよい。
【0059】
上記構造により、クランク角センサ117(回転検出装置153)が出力する回転信号POSは、図9に示すように、クランク角で10deg(単位クランク角)毎に16回連続してハイレベルに変化した後、30deg間ローレベルを保持し、再度16回連続してハイレベルに変化する。
【0060】
従って、クランク角30degであるローレベル期間(歯抜け領域、欠落部分)後の最初の回転信号POSは、クランク角180deg間隔で出力されることになり、このクランク角180degは、本実施形態の4気筒機関101における気筒間の行程位相差、換言すれば、点火間隔に相当する。
【0061】
また、本実施形態では、クランク角センサ117が、クランク角30degであるローレベル期間後(歯抜け領域)の最初の回転信号POSを、各気筒の上死点前50deg(BTDC50deg)のピストン位置で出力するように設定してある。
【0062】
一方、カムセンサ133は、吸気カム軸134の端部に軸支され、周囲に被検出部としての突起部157を備えたシグナルプレート158と、内燃機関101側に固定され、突起部157を検出してカム信号PHASEを出力する回転検出装置159とで構成される。
【0063】
回転検出装置159は、波形整形回路などを含む各種の処理回路を、突起部157を検出するピックアップと共に備えている。
シグナルプレート158の突起部157は、カム角で90deg毎の4箇所それぞれに、1個、3個、4個、2個ずつ設けられ、突起部157を複数連続して設けた部分では、突起部157のピッチを、クランク角で30deg(カム角で15deg)に設定してある。
【0064】
そして、カムセンサ133(回転検出装置159)が出力するカム信号PHASEは、図9に示すように、通常はローレベルで、前記突起部157を検知することで一定時間だけハイレベルに変化するパルス列からなるパルス信号であり、カム角で90deg、クランク角で180deg毎に、1個単独、3個連続、4個連続、2個連続にハイレベルに変化する。
【0065】
また、1個単独のカム信号PHASE、及び、複数連続して出力されるカム信号PHASEの先頭の信号は、クランク角で180deg間隔に出力され、かつ、1個単独、3個連続、4個連続、2個連続の出力パターンが、ある気筒の上死点TDCと次の気筒の上死点TDCとの間でそれぞれ出力されるようにしてある。なお、電動VTC○によって、吸気バルブ105のバルブタイミングを変更しても、カム信号PHASEの出力位置が上死点TDCを横切って変化することがないように、バルブタイミングの変更範囲を見込んでカム信号PHASEの出力位置及び出力間隔を設定してある。
【0066】
より詳細には、第1気筒の圧縮上死点TDCと第3気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEを3個連続で出力し、第3気筒の圧縮上死点TDCと第4気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEを4個連続で出力し、第4気筒の圧縮上死点TDCと第2気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEを2個連続で出力し、第2気筒の圧縮上死点TDCと第1気筒の圧縮上死点TDCとの間では、カム信号PHASEを1個単独で出力するように設定してある。
【0067】
各上死点TDCの間で出力するカム信号PHASEの連続出力数は、次に圧縮上死点となる気筒番号を示し、例えば、今回の上死点TDCと前回の上死点TDCとの間で、カム信号PHASEを3個連続して出力した場合には、今回の上死点TDCは、第3気筒の圧縮上死点TDCであることを示す。
【0068】
本実施形態の4気筒機関101では、点火を第1気筒→第3気筒→第4気筒→第2気筒の順で行うので、上死点TDC間で出力されるカム信号PHASEの出力パターンは、図9に示すように、1個単独、3個連続、4個連続、2個連続の順に設定してある。
【0069】
ECU114は、例えば、回転信号POSの歯抜け箇所を回転信号POSの周期変化などから判断し、この歯抜け位置を基準に、回転信号POSの発生数を計数することで、上死点TDC(基準クランク角位置REF)を検出する。本実施形態では、回転信号POSの歯抜け領域後の6番目に出力される回転信号POSが各気筒の上死点TDCに相当する。
【0070】
そして、ECU114は、上死点TDC間でカム信号PHASEの出力数を計数することで、次にピストンの位置が圧縮上死点TDC(所定ピストン位置)となる気筒を判別すると共に、上死点TDCからの回転信号POSの発生数を計数し、該計数値CNTPOSに基づいてそのときのクランク角を検出する。
【0071】
圧縮上死点TDCの気筒及びクランク角を検出すると、ECU114は、燃料噴射及び点火を行わせる気筒、更に、燃料噴射タイミング及び点火タイミングを決定し、前記計数値CNTPOSに基づいて検出されるクランク軸120の角度(クランク角)に応じて噴射パルス信号や点火制御信号を出力する。
【0072】
ピストンの位置が圧縮上死点TDC(所定ピストン位置)となる気筒の判別結果は、点火順に沿って更新することになるので、上死点TDC間でカム信号PHASEの出力数を計数することで、次にピストンの位置が圧縮上死点TDC(所定ピストン位置)となる気筒を判別した後は、圧縮上死点TDCの気筒を上死点TDC毎に点火順に沿って更新することができる。
【0073】
尚、カム信号PHASEの発生数を計数する区間を、上死点TDC間に限定するものではなく、任意のクランク角(ピストン位置)を、カム信号PHASEの発生数を計数する区間の基準とすることができる。
【0074】
更に、カム信号PHASEの発生数で、所定ピストン位置の気筒を判別する代わりに、カム信号PHASEのパルス幅の違いなどに基づいて、所定ピストン位置の気筒を判別することができる。
【0075】
また、本実施形態では、回転信号POSのパルス列の一部を欠落させてあることで、欠落位置を基準にクランク軸120の角度位置(クランク角)を検出できるようにしているが、回転信号POSを10deg毎に欠落することなく出力させ、代わりに、クランク角180deg毎の基準クランク角位置で信号を発生する基準位置センサを設け、該基準位置センサの出力信号を基準に、回転信号POSを計数することで、クランク軸120の角度位置(クランク角)を検出することもできる。
【0076】
また、基準クランク角位置から1個単独のカム信号PHASE、又は、複数連続して出力されるカム信号PHASEの先頭の信号までの回転信号POSの発生数をカウントすることにより、電動VTC113によって変更されるクランク軸120に対する吸気カム軸134の回転位相(吸気バルブ105の実バルブタイミング)を検出することができ、この検出値に基づいて、バルブタイミングを目標値に近づけるようにフィードバック制御することができる。
【0077】
ところで、内燃機関101(クランク軸120)が正方向に回転(正転)している場合には、回転信号POSの発生が、クランク軸120が10degだけ正転したことを示し、基準クランク角位置からの回転信号POSの発生数が、基準クランク角位置からのクランク軸120の回転角度を示すことになる。
【0078】
しかし、内燃機関101の停止直前には、筒内の圧縮圧などによって内燃機関101(クランク軸120)が逆方向に回転(逆転)する場合があり、係る逆転時にも正転時と同様に回転信号POSの発生数を計数し続けると、クランク軸120の角度位置(クランク角)を誤検出することになってしまう。
【0079】
そこで、内燃機関101(クランク軸120)の正転・逆転を判別できるように、クランク角センサ117(回転検出装置153)が、クランク軸120の正転時と逆転時とでパルス幅の異なる回転信号POS(パルス信号)を出力するようにしてある(図10(A)参照)。
【0080】
回転軸の回転方向によってパルス幅の異なるパルス信号を発生させる手段として、例えば特開2001−165951号公報に開示される手段を用いる。具体的には、シグナルプレート152の突起部151の検出パルス信号として、相互に位相がずれた2つの信号を発生させ、これらの信号を比較することで正転・逆転を判定し、相互に異なるパルス幅WIPOSに生成される2つのパルス信号のいずれか一方を、正転・逆転の判定結果に基づいて選択して出力させるようにする。
【0081】
ECU114では、回転信号POSのパルス幅WIPOSを計測し、パルス幅の計測値WIPOSと、正転・逆転の判別閾値である閾値SLとを比較することで、正転時のパルス幅WIPOSであるか、逆転時のパルス幅WIPOSであるかを判断し、クランク軸120が正転しているか逆転しているかを判別する。
【0082】
正転・逆転の判別に用いる閾値SLは、正転時のパルス幅WIPOSと逆転時のパルス幅WIPOSとの中間値(例えば、55μs〜80μs)に設定され、正転時のパルス幅WIPOSよりも逆転時のパルス幅WIPOSが長い本実施形態では、パルス幅WIPOSが前記閾値SL以上であれば、逆転状態であると判断し、パルス幅WIPOSが前記閾値SL未満であれば、正転状態であると判断する。
【0083】
尚、本実施形態では、図10(A)に示すように、正転時のパルス幅WIPOSを45μsに設定し、逆転時のパルス幅WIPOSを90μsに設定したが、パルス幅WIPOSを上記の45μs,90μsに限定するものではない。また、正転時の方が逆転時よりもパルス幅WIPOSが大きくなるように設定してもよい。
【0084】
また、図10(A)に示した例では、回転信号POSを、通常ローレベルで既定の角度位置になったときに一定時間だけハイレベルに変化するパルス信号としたが、通常ハイレベルで既定の角度位置になったときに一定時間だけローレベルに変化するパルス信号であってもよく、この場合、ローレベル期間が回転方向で異なるように設定し、ローレベル期間の長さをパルス幅WIPOSとして計測して回転方向を判別することができる。
【0085】
また、図10(B)に示すように、回転信号POSの振幅(信号レベル)が正転・逆転で異なるようにして、振幅(信号レベル)の違いによって正転・逆転を判別することができる。
【0086】
図10(B)に示した例では、回転信号POSは、通常ローレベルで既定の角度位置になったときに一定時間だけハイレベルに変化するパルス信号であり、既定の角度位置になったときの信号レベルが、逆転時よりも正転時でより高くなるように設定してあり、具体的には、正転時には5V、逆転時には2.5Vの信号を出力するように設定してある。
【0087】
そして、図11(A)に示すように、クランク軸120の正転時であれば、回転信号POSの発生毎に計数値CNTPOSを増大させることで、クランク軸120の正転方向への回転角を検出し、クランク軸120の逆転時であれば、回転信号POSの発生に対して前記計数値CNTPOSを減少させることで、クランク軸120が逆転した分だけ正転方向への回転角が減ったものとする。
【0088】
また、逆転して上死点TDCを横切った場合には、図11に示すように、所定ピストン位置の気筒の判別結果を、点火順で1つ前の気筒に戻すことで、内燃機関101の停止時における各気筒のピストン位置を検出する。
【0089】
図11に示すパターンでは、第1気筒→第3気筒→第4気筒→第3気筒→第4気筒の順で、所定ピストン位置の気筒データを更新しているが、これは、第3気筒の上死点TDCを経過した後に内燃機関101が逆転し、再度第3気筒の上死点TDCを横切って戻り、第1気筒の上死点TDCと第3気筒の上死点との間で逆転から正転に切り換り、第3気筒の上死点TDCを横切って停止した状態を示す。
【0090】
上記のように、正転・逆転を判別してクランク角を検出すれば、内燃機関101の停止直前に逆転することがあっても、停止時のクランク角及び停止時における各気筒のピストン位置を精度良く検出できる。
【0091】
一方、本実施形態に係る内燃機関では、始動後の通常運転中に、図12(A)に示すように、吸気バルブ105の閉時期(IVC)を吸気下死点(BDC)に対し、大きく遅角(又は進角)させたバルブタイミングに設定することによってミラー(アトキンソン)サイクル運転を行い、シリンダの有効圧縮比より膨張比を大きくする。これにより、ノッキング回避性能が高められ、燃費を向上させる。
【0092】
しかし、始動時には、IVCを遅角(進角)させ過ぎると、シリンダ吸入空気量が減少して良好な始動性能を確保できない。そこで、始動時は、図12(B)に示すように、IVCの遅角量(進角量)を小さくしてBDCに近づけるバルブタイミング制御を行うことにより、シリンダ吸入空気量を増大させて始動性を確保する運転とする。ここで、本実施形態では、クランキング開始から上記始動用のバルブタイミングとするため、イグニッションスイッチをオフして機関を停止させる停止挙動中に、停止後のバルブタイミングが始動用のバルブタイミングとなるように制御する。
【0093】
このように、停止挙動中に電動VTC113によって吸気バルブ105のバルブタイミングを変更する制御中に、上述したようにクランク軸の逆転を検出できる。
一方、電動VTC113によって変更される吸気カム軸134の回転位相(吸気バルブ105のバルブタイミング)は、上述した基準クランク角位置からカム信号(複数個出力される気筒では先頭のカム信号)が出力されるまでの回転信号POSの発生数をカウントして検出する方式では、逆転を生じると、検出すべきカム信号を誤検出してしまい回転位相を正しく検出することができない。
【0094】
そこで、本実施形態では、機関の停止挙動中のバルブタイミングのフィードバック制御中に、クランク角センサ117からの回転信号POSに基づいてクランク軸120の逆転を検出したときに該逆転検出直前における回転位相を保持するように電動VTC113の電動モータ12の操作量をフィードバック制御用操作量から保持操作量に切り換える。
【0095】
以下に、吸気バルブ105のバルブタイミング制御の各実施形態について説明する。
図13は、第1実施形態のフローを示す。
ステップ1では、イグニッションスイッチのオフ操作等に基づいて、機関(エンジン)の停止指令が出力されたかを判定する。
【0096】
停止指令が出力されていないと判定されたときは、ステップ2で機関運転状態に基づいて、VTC目標角度θtrg、すなわち、電動VTC113によってクランク軸120に対して相対回転される吸気カム軸134の目標回転角(VTC目標角度θtrg)、つまり、吸気カム軸134の目標回転位相(吸気バルブ105の目標バルブタイミング)を算出する。ここで、VTC目標角度θtrgは、低・中負荷等で燃費重視のミラーサイクル運転を行う時は、図12(A)に示したミラー運転用の目標バルブタイミングに設定される。
【0097】
ステップ3では、同じく電動VTC113で回転される吸気カム軸134の実回転角(VTC実角度)θr、すなわち、吸気カム軸134の回転位相(吸気バルブ105の実バルブタイミング)を算出する。上述したように、クランク角センサ117からの信号により検出される基準クランク角位置から、気筒毎の1個単独のカム信号PHASE、又は、複数連続して出力されるカム信号PHASEの先頭の信号までの回転信号POSの発生数をカウントすることにより、VTC実角度θrを算出することができる。
ステップ4では、VTC目標角度θtrgにVTC実角度θrを収束させるフィードバック制御(PI,PID制御等)のVTC操作量を算出する。
【0098】
一方、ステップ1で、イグニッションスイッチのオフ操作等によってエンジン停止指令が出力されたと判定されたときは、ステップ5以降で、上記停止挙動中の始動時用バルブタイミングに収束させる制御を行う。
【0099】
ステップ5では、VTC目標角度θtrgを、図12(B)に示した吸気バルブ105の始動時用の進角させた目標バルブタイミングに切り換えて設定する。
ステップ6では、機関が停止したかを、所定時間内にクランク角センサ117からの回転信号POSが入力されないこと等によって判定する。
【0100】
機関がまだ停止されていないと判定されたときは、ステップ7で、機関(クランク軸120)の回転方向を、上述した判定方法を用いて判定する。
そして、機関が正転中と判定された場合は、ステップ8へ進んでVTC実角度θrを検出し、ステップ9でVTC目標角度θtrgにVTC実角度θrを収束させるフィードバック制御における電動VTC113(電動モータ12)の操作量(VTC操作量)を算出する。
【0101】
一方、ステップ7で機関が逆転中と判定された場合は、ステップ10へ進み、VTC実回転角θr(吸気バルブ105の実バルブタイミング)を、逆転検出直前に検出されたVTC実回転角θrに保持するため、VTC操作量を保持操作量に設定する。なお、機関回転時には、主にバルブスプリングによる吸気バルブ105を開閉する際のカム反力等により、吸気カム軸134をクランク軸120に対して相対回転させる力、すなわち回転位相を変化させる力が作用する。そこで、電動VTC113のモータ軸13を保持(モータ本体に対するモータ軸13の回転を停止)することにより、吸気カム軸134のクランク軸120に対する相対回転、つまり回転位相の変化を抑制して、回転位相を現状に保持することができる。したがって、保持操作量は、電動モータ12に、上記のモータ軸13を保持して回転位相を現状に保持させる保持力を付与する値に設定される。
【0102】
そして、ステップ6で、機関が停止したと判定された場合は、ステップ11で電動VTC113の駆動を停止(操作量=0)する。機関停止後は、カム反力を生じないので、電動VTC113の駆動を停止しても、減速機8の摩擦抵抗等によって吸気カム軸134の回転は阻止され、吸気バルブ105のバルブタイミングは、そのまま保持される。
【0103】
なお、機関が逆転した後、再度正転に復帰した場合は、再度ステップ8へ進んで、VTC実角度θrを検出しつつVTC目標角度θtrgへ収束させるフィードバック制御用のVTC操作量が算出され、該フィードバック制御が再開されて、VTC実角度θrがVTC目標角度θtrg(始動用の目標バルブタイミング)へ近づけられる。
【0104】
本第1実施形態によれば、機関停止挙動中にクランク軸120の逆転を生じても、機関停止後の吸気バルブ105のバルブタイミングは、逆転発生直前まで始動用のバルブタイミングを目標値とするフィードバック制御が行われるので、エンジン停止指令前のミラーサイクル用などのバルブタイミングより進角された始動用バルブタイミングに可及的に近づけられている。
【0105】
したがって、次回の機関始動時には、該停止時のバルブタイミングから始動用バルブタイミングまで、可及的速やかに収束させることができ、始動性を向上させることができる。
【0106】
図18は、第1実施形態の制御時のタイムチャートを示す。従来、一点鎖線で示すように逆転によりVTC実角度を誤検出すると、機関停止後のVTC実角度(バルブタイミング)がVTC目標角度(始動用バルブタイミング)から大きくずれて始動性が悪化する。これに対し、実線で示す本実施形態では逆転時にVTC実角度θrを誤検出することなく、機関停止後のバルブタイミングを始動用バルブタイミングに近づけた状態で保持され、この状態から始動(クランキング)を開始できることが示されている。
【0107】
図14及び図15は、吸気バルブ105のバルブタイミング制御の第2実施形態のフローを示す。
基本的な構成は、第1実施形態の図13と同様に有しているので、相違(追加)部分を主に説明する。
【0108】
図14において、ステップ7で逆転中と判定されたときは、ステップ10で電動VTC113の保持操作量を算出する前に、ステップ21で逆転直前のVTC実角度θrを記憶しておく。そして、次回の始動時に上記記憶されたVTC実角度θrを用いた、以下に示すバルブタイミング制御を行う。
【0109】
ステップ6で機関の停止が判定された後、ステップ22へ進んで機関の始動指令の有無を判定し、始動指令が無いときは、第1実施形態同様にステップ11で電動VTC113の駆動を停止する。
【0110】
ステップ22で機関の始動指令がありと判定されたときは、ステップ23へ進んで、始動(クランキング)開始後、初回のVTC実角度θrを検出した(VTC実角度θr検出用のカム信号PHASEを検出した)かを判定する。
【0111】
そして、初回のVTC実角度θr検出前と判定されたときは、ステップ24で、ステップ21で記憶したVTC実角度θrを呼び出し、ステップ25で、該呼び出したVTC実角度θrを初期検出値として始動用のVTC目標角度θtrgに収束させるVTC操作量を算出してバルブタイミングのフィードバック制御を開始する。
【0112】
このときのVTC操作量は、VTC目標角度θtrgとVTC実角度θrとの偏差(=trg−θr)が大きい(小さい)ほど大きい(小さい)値に設定して、オーバーシュートを抑制しつつ速やかに収束できるようにする。
【0113】
また、初回のVTC実角度θrが検出されるまでの間、簡易的にはVTC操作量を一定値としてよいが、VTC操作量の初期値を大きく設定し、制御周期毎にVTC操作量を漸減するような特性に設定すれば、オーバーシュート抑制機能を高め、収束性を高めることもできる。
【0114】
ステップ23でVTC実角度θrの初回検出後(VTC実角度θr検出用のカム信号PHASEが検出された)と判定されたときは、ステップ26でVTC実角度θrを検出し、ステップ27で、検出されたVTC実角度θrをVTC目標角度θtrgに収束させるフィードバック制御のVTC操作量が算出される。
【0115】
本第2実施形態によれば、始動指令出力後、初回のVTC実角度θrが検出される前から機関の逆転直前に記憶されたVTC実角度θrを用いて、フィードバック制御を開始することができる。これにより、吸気バルブ105のバルブタイミングを、より速やかに始動時用の目標バルブタイミングに収束させつつ始動性を向上させることができる。
【0116】
図16は、吸気バルブ105のバルブタイミング制御の第3実施形態のフローを示す。
本第3実施形態では、第1実施形態の図13と同様の構成において、ステップ7で機関の逆転を検出したときに、ステップ31でVTC実角度θrの演算を停止する構成とした。
【0117】
本第3実施形態によれば、VTC実角度θrを正しく算出することができないクランク軸の逆転中は、無駄な演算を停止することにより、演算負荷を軽減することができる。
図17は、吸気バルブ105のバルブタイミング制御の第4実施形態のフローを示す。
【0118】
本第3実施形態では、第1実施形態の図13と同様の構成において、ステップ7で機関の逆転を検出したときに、ステップ11で設定されるVTC操作量の保持操作量を、ステップ41にて、逆転検出直前に検出されたVTC実回転角θrに保持するための保持操作量を、潤滑油温度(油温)と機関回転速度とに基づいて可変な値として算出する。
【0119】
具体的には、油温が低く潤滑油の粘度が高いときは、減速機8等の摩擦抵抗が増大するので保持操作量を小さく補正することができ、機関回転速度が高いときは、カム反力の発生頻度が増大してカム軸134が相対回転しやすくなるため、保持操作量を大きい値に補正する。
【0120】
本第4実施形態によれば、保持操作量を必要かつ十分な値に設定して、保持力を確保しつつ消費電力を節減できる。
なお、ステップ7とステップ11との間に、上記第3実施形態のステップ31と、第4実施形態のステップ41とを同時に備えた実施形態としてもよいことは勿論である。第2実施形態において、ステップ7とステップ11との間に、ステップ31とステップ41との少なくとも一方を備えてもよいことも勿論である。
【0121】
また、以上の実施形態では、電動VTC113は、電動モータ12の本体がタイミングスプロケット1と一体に回転する構造であり、モータ軸13と吸気カム軸134との間が、減速比の大きな減速機8の介在によって大きな摩擦抵抗を有している。したがって、該摩擦抵抗だけでも大きなモータ軸13の保持力が与えられており、該摩擦抵抗による保持力で不足する分を賄うだけの保持操作量で済み、消費電力を節減できる。また、摩擦抵抗だけでカム反力によるモータ軸13の相対回転を抑制可能な保持力を確保できるような設定となっている場合には、保持操作量を0(電動VTCの駆動を停止)とすることもできる。なお、このタイプの電動VTCでは、通常運転中にバルブタイミングを変更しない間も、保持操作量とし、バルブタイミングを変更するときだけモータ軸を回転駆動すれば済む。
【0122】
これに対し、例えば、特許4123127号に開示されたように電動モータのステータをカバーに固定した電動VTCの構造の場合、電動モータの回転速度を、カム軸をスプロケットと同一速度で回転させるモータ軸回転速度(バルブタイミングを保持する回転速度)に対して、回転速度を増減調整してバルブタイミングを変更する方式であるため、常時、高速で回転駆動する必要がある。
【0123】
したがって、バルブタイミング変更時のみモータ軸を駆動する上記実施形態の構造を採用することにより、特許4123127号の構造に比較し、電動モータの消費電力を大幅に節減することができる。但し、本発明は、特許4123127号の構造の電動VTCに適用したものを含む。
【0124】
また、排気バルブのバルブタイミングを電動モータで変更する電動VTCにおいて、停止挙動時等に排気バルブを始動時に適したバルブタイミングに制御する際などにも適用でき、この場合も、逆転発生時に停止後の排気バルブのバルブタイミングを始動用のバルブタイミングに近づけた状態で保持されるので、次回始動時の始動性を向上できる。
【符号の説明】
【0125】
12…電動モータ、モータ軸…13、101…内燃機関、105…吸気バルブ、113…電動VTC、114…ECU、117…クランク角センサ、120…クランク軸、133…カムセンサ、134…吸気カム軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸の回転角を検出するクランク角センサと、
機関バルブ開閉用カム軸の回転角を検出するカムセンサと、
前記クランク角センサ及び前記カムセンサからの各信号に基づいて、前記クランク軸に対する前記カム軸の回転位相を検出する回転位相検出手段と、
前記クランク軸に対して前記カム軸を相対回転させて前記回転位相を変更可能なアクチュエータと、
を含んで構成された可変バルブタイミング機構の制御装置であって、
前記クランク軸の正方向回転と逆方向回転を判別して検出する正転/逆転検出手段と、
前記クランク軸の逆方向回転を検出したときは、前記アクチュエータの操作量を、前記回転位相を現状に保持するように制御する保持操作量に切り換える制御手段と、
を含んで構成したことを特徴とする可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、機関を停止操作してから停止するまでの停止挙動中に、前記回転位相検出手段によって検出された回転位相に基づいて、停止後の回転位相を始動時用の目標回転位相に近づけるように制御することを特徴とする請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、機関始動指令の発生時点から前記回転位相検出手段による初回の回転位相検出までの間、前記保持操作量を用いた制御によって保持されている回転位相に基づいて、前記アクチュエータを操作することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、吸気バルブ開閉用カム軸の回転位相を、機関を停止操作する前は吸気バルブの閉時期が吸気下死点より遅角側となるように制御し、停止操作後は吸気バルブの閉時期を停止操作前より進角させて吸気下死点に近づけるように制御する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項5】
前記保持操作量は、前記クランク軸の逆回転発生時の機関回転速度及び機関温度に基づいて算出されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記クランク軸の逆方向回転が検出されたとき、前記回転位相検出手段による回転位相検出の演算を停止し、再度前記クランク軸の正方向回転が検出されたとき、回転位相検出手段による回転位相検出の演算を再開することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、機関の停止後に、前記アクチュエータの駆動を停止することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項8】
前記クランク軸に連動して回転するスプロケットと前記カム軸とが同心に配設され、
前記アクチュエータは、前記スプリング及び前記カム軸とモータ軸が同心に配設されると共に、ステータを含むモータ本体が前記スプロケット一体に回転する電動モータで構成され、前記モータ軸の回転を減速機を介して前記カム軸に伝達することにより、前記カム軸を前記スプロケットに対して相対回転させて、前記回転位相を変更することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−72382(P2013−72382A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212730(P2011−212730)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】