説明

可変容量型液圧ポンプを制御する方法および装置

可変容量型液圧ポンプ用の制御システムが開示される。制御システムは2つの流れ制御弁を利用して、液圧流体の流れを2つの制御アクチュエータに供給する。制御アクチュエータは、ポンプ斜板に作用する反対方向のモーメントを生じさせて、斜板の向きおよびポンプ押しのけ容積を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概略的には、可変容量型液圧ポンプに回動可能に取り付けられた斜板の角度を制御する方法および装置に関し、より詳細には、オーバセンタポンプの斜板を制御する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可変容量型液圧ポンプは、加圧された液圧流体を様々な用途に供給するために液圧システムで幅広く使用されている。ブルドーザ、ローダなど、多くの種類の機械は、動作を液圧システムに大きく依存し、可変容量型ポンプを利用して定容量型ポンプをより多様に制御する。
【0003】
そのような可変容量型液圧ポンプの斜板角を制御するのに様々な制御方式が利用されてきた。そのような制御方式の1つが、2001年5月16日に出願された、ホンリウ・ドゥ(Hongliu Du)による(特許文献1)に開示されている。しかし、オーバセンタ能力を有する応答制御方式を提供することは有益であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,623,247号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の態様では、軸のまわりに回転可能な斜板と、軸のまわりで斜板を第1の方向に回転させるように構成された第1の液圧アクチュエータと、軸のまわりで、斜板を第1の方向とは反対の第2の方向に回転させるように構成された第2の液圧アクチュエータと、加圧流体を第1のアクチュエータに供給するように構成された第1の流れ制御弁と、加圧流体を第2のアクチュエータに供給するように構成された第2の流れ制御弁とを有する可変容量型液圧ポンプを有する液圧システムが提供される。
【0006】
本開示の別の態様では、可変容量型液圧装置の斜板の向きを制御する方法は、加圧流体を第1の流れ制御弁を介して第1の制御アクチュエータに送って、斜板に作用する第1の方向のモーメントを発生させることで、可変容量型液圧装置をポンプとして機能するように構成する第1のステップを含む。この方法は、加圧流体を第2の流れ制御弁を介して第2の制御アクチュエータに送って、斜板に作用する第2の方向のモーメントを発生させることで、可変容量型液圧装置をモータとして機能するように構成し、第2の方向は第1の方向と反対である第2のステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】例示的な機械を概略的に示した側面図である。
【図2】例示的なトランスミッションの概略図である。
【図3】例示的なポンプおよび関連する制御用ハードウェアの概略図である。
【図4】流れ阻止位置にある例示的な弁の概略図である。
【図5】流れ通過位置にある例示的な弁の概略図である。
【図6】排出位置にある例示的な弁の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、例示的な機械10を示している。機械10は、鉱業、建設業、農業、または他の任意の産業などの産業に関連するある種の作業を行う固定または可動機械とすることができる。例えば、機械10は、ブルドーザ、ローダ、バックホー、掘削機、モータグレーダ、ダンプカー、または他の任意の土木機械などの土木機械とすることができる。機械10には、発電機設備、ポンプ、船舶、または他の任意の適切な機械も含まれ得る。図1および図2を参照すると、機械10は、フレーム12、用具14、エンジン16、ホイールまたは無限軌道などのトラクション装置18、およびエンジン16からトラクション装置18に動力を伝達するトランスミッション20を含むことができる。
【0009】
図2に示すように、トランスミッション20は、例えば、液圧式トランスミッションとすることができ、主ポンプ22、モータ24、およびバイパス逃がし弁26を含むことができる。本開示によれば、主ポンプ22は、可変容量型アキシャルピストンポンプなどの可変容量型ポンプとすることができ、モータ24は、定容量型液圧モータとすることができる。ただし、代替案として、モータ24は可変容量型モータであってもよい。トランスミッション20は、加圧流体を斜板制御用ハードウェア30に供給するチャージポンプ28をさらに含むことができ、斜板制御用ハードウェア30は、図3にさらに詳細に示されている。
【0010】
モータ24が定容量型モータである実施形態によれば、トランスミッション20の回転数およびトルク制御は、少なくとも一部には、ポンプ22の押しのけ容積を調整することで行うことができる。可変容量型アキシャルピストンポンプの場合、図3に示すように、押しのけ容積は、斜板32の傾斜角を変えることで制御される。図3は、斜板32の角度を制御できる制御用ハードウェア30をさらに示している。
【0011】
図3に示すように、斜板32は、斜板回転軸34のまわりに傾斜している。斜板32は、2つの制御弁40、42からそれぞれ加圧流体を受け入れるように構成された2つの液圧制御アクチュエータ36、38によって駆動される。図示した実施形態では、制御弁40、42は、三方流れ制御弁であり、加圧流体源と、制御アクチュエータ36、38と、タンク46などの低圧容器との間で加圧流体の流れを制御するように機能する。図示した実施形態では、加圧流体源はチャージポンプ28である。
【0012】
各制御アクチュエータ36、38は、チャンバ52に配置されたピストン50を含むことができる。ピストン50は斜板32に力を加える。2つのピストン50によって加えられた力により、斜板32に作用する反対方向のモーメントが生じ、ピストン50の移動により、斜板32の傾斜角αが変わる。斜板角αは、当技術分野で公知の斜板角センサによって観測することができる。ピストン50の移動は、それぞれのチャンバ52に出入りする加圧流体によって引き起こされる。チャンバ52に出入りする加圧流体の流れは制御弁40、42によって制御される。
【0013】
制御弁40、42は、加圧流体がチャージポンプ28とそれぞれの制御アクチュエータ36、38との間を流れるのを可能にする流れ通過位置と、それぞれの制御アクチュエータ36、38をチャージポンプ28およびタンク46の両方から実質上液圧的に孤立させる流れ阻止位置と、流体がそれぞれの制御アクチュエータ36、38からタンク46に流れるのを可能にする排出位置との間を移動可能なスプール44を有する流れ制御弁とすることができる。制御弁40、42は、流れ通過位置、流れ阻止位置、および排出位置の間の任意の数位置をとることができるように無限に可変とすることもできる。スプール44は、ソレノイド48、または当技術分野において公知の他の駆動手段によって駆動することができる。図示した実施形態では、ソレノイド48の駆動力は、スプリング54によって相殺する(opposed)ことができる。
【0014】
図4は、流れ阻止位置にある制御弁40、42を示している。図示したように、スプール44が流れ阻止位置にある場合、流体は、チャージポンプ28からそれぞれの制御アクチュエータ36、38に進むことも、それぞれの制御アクチュエータ36、38からタンク46に進むことも実質的に阻止される。図4〜6において、PTは、タンク46とつながっている導管内の液圧を表し、PSは、チャージポンプ28とつながっている導管内の液圧を表し、PCは、制御アクチュエータ36、38とつながっている導管内の液圧を表している。スプールに作用する定常状態の圧力バランスは下記の式1から計算することができる。
【0015】
【数1】

【0016】
式1で、Fsol,0はソレノイド48の力であり、ksprgはばね定数であり、δprecompはソレノイド48の力がゼロの場合のスプリングの初期圧縮量であり、x0は流れ阻止位置でのスプールの変位量である。ソレノイド48の力は、下記の式2によって概略的に表すことができる。
【0017】
【数2】

【0018】
式2で、kisは定常状態のソレノイド48の電流−力のゲインであり、ibiasはソレノイド48の電流である。したがって、式2が当てはまる場合、流れ阻止位置を維持するための定常状態のソレノイド48の電流、すなわちバイアス電流は、下記の式3によって計算することができる。
【0019】
【数3】

【0020】
図5は、流れ通過位置にある制御弁40、42を示している。この流れ通過位置におけるソレノイド48の力は、下記の式4によって示すことができる。
【0021】
【数4】

【0022】
式4で、Δxは、スプール44のその流れ阻止位置からの変位量であり、Cffは弁流れ力係数であり、Aは、スプール44の位置で決まる弁調量供給面積である。式1〜4を組み合わせると、isolは、下記の式5によって表すことができる。
【0023】
【数5】

【0024】
図6は、流体が制御アクチュエータ36、38からタンク46に流れるのを可能にする排出位置にある制御弁40、42を示している。この場合に、定常状態の流れ力は、流体通過位置の場合のようなソレノイド48ではなくて、スプリング54に作用する。したがって、下記に式(6)で表した定常状態ソレノイド電流を得ることができる。
【0025】
【数6】

【0026】
2つの制御弁40、42は、それらの流れ阻止位置の周辺で相応して制御することができる。制御弁40、42に2つの三方流れ制御弁を使用することにより、必要な流れ計測量に高い適応性で対応することが可能になる。閉ループフィードバック制御の場合、2つのソレノイド48の制御電流は、下記の式(7)、(8)によって表すことができる。
【0027】
【数7】

【0028】
上式で、f1(Δe)およびf2(Δe)は、追従誤差によって決まり得る、適用された制御則によって算出される制御活動項(control effort)である。当技術分野において公知の安定したいくつかの制御アルゴリズムを使用して、f1(Δe)およびf2(Δe)を求めることができる。
【0029】
制御アクチュエータ36、38には漏れがあることから、斜板32を安定状態位置に維持するために、流れ阻止位置を流れ通過位置の方に寄せて変更することがある。したがって、安定状態の斜板位置を維持するのに使用される、対応するソレノイド48の電流は、式3によって与えられたソレノイド48のバイアス電流から増大することがある。漏れが層流の形態であると仮定すると、定常状態のソレノイド48の電流は、制御アクチュエータ36、38内の流体の圧力に正比例し、流体粘度に逆比例することができる。制御アクチュエータ36、38内の流体の圧力を観測して、安定状態のソレノイド48の電流を求める助けとするために圧力センサを設けることができる。
【0030】
産業上の利用性
上記の制御用ハードウェア30は、例えば、用具14に動力を供給するように構成されたシステム、液圧トランスミッション20、または液圧動力を利用する複合型トランスミッションなどのいくつかの任意の液圧システムで利用することができる。図3を参照すると、ポンプ22の押しのけ容積は、斜板角αを大きくすることで拡張することができる。これは、制御弁42を流れ通過位置の方に向けて駆動し、制御弁40を排出位置の方に向けて駆動することで行うことができる。反対に、ポンプ22の押しのけ容積は、制御弁42を排出位置の方に向けて駆動し、制御弁40を流れ通過位置の方に向けて駆動することで縮小することができる。
【0031】
ポンプ22が、図3に示すようなオーバセンタポンプの場合、斜板角αは負にすることができ、その場合に、ポンプ22はモータとして機能することができる。これを行って、例えば、液圧トランスミッション20の動作を制動することができ、この場合に、ポンプで発生した動力は、例えば、ドライブトレーンに戻すか、保存するか、他の目的のために使用するか、または単に熱として放散することができる。
【0032】
ポンプ22の所望の押しのけ容積、すなわち、斜板角αが得られると、制御弁40、42は、上記のように、安定状態の斜板角αを維持するように構成することができる。
【0033】
本開示の範囲または趣旨から逸脱することなく、開示した装置および制御方法に対して様々な修正および変形を行うことができるのは、当業者には明らかであろう。
【0034】
さらに、本明細書に開示した装置および方法の仕様および実施を検討することで、開示した装置および制御方法の他の実施形態が当業者に明らかになるであろう。仕様および例は、単なる例示とみなすものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸のまわりで回転可能な斜板(32)を有する可変容量型液圧ポンプと、
軸のまわりで、斜板(32)を第1の方向に回転させるように構成された第1の液圧アクチュエータと、
軸のまわりで、斜板(32)を第1の方向とは反対の第2の方向に回転させるように構成された第2の液圧アクチュエータと、
加圧流体を第1のアクチュエータに供給するように構成された第1の流れ制御弁(40、42)と、
加圧流体を第2のアクチュエータに供給するように構成された第2の流れ制御弁(40、42)と、
を含む液圧システム。
【請求項2】
第1の流れ制御弁(40、42)は、加圧流体を第1の液圧アクチュエータに送る第1の位置と、第1の液圧アクチュエータを実質上液圧的に孤立させる第2の位置と、加圧流体を第1の液圧アクチュエータからタンク(46)に排出する第3の位置との間で移動可能である、請求項1に記載の液圧システム。
【請求項3】
第1の流れ制御弁(40、42)は、ソレノイド(48)によって選択的に駆動される、請求項2に記載の液圧システム。
【請求項4】
第2の流れ制御弁(40、42)は、加圧流体を第2の液圧アクチュエータに送る第1の位置と、第2の液圧アクチュエータを実質上液圧的に孤立させる第2の位置と、加圧流体を第2の液圧アクチュエータからタンク(46)に排出する第3の位置との間で移動可能である、請求項3に記載の液圧システム。
【請求項5】
第2の流れ制御弁(40、42)は、ソレノイド(48)によって選択的に駆動される、請求項4に記載の液圧システム。
【請求項6】
可変容量型液圧ポンプはオーバセンタポンプである、請求項1に記載の液圧システム。
【請求項7】
チャージポンプ(28)をさらに含み、チャージポンプ(28)は、加圧流体を第1の制御弁(40、42)および第2の制御弁(40、42)に供給する、請求項1に記載の液圧システム。
【請求項8】
液圧モータ(24)をさらに含み、可変容量型液圧ポンプは、加圧流体を液圧モータ(24)に供給する、請求項1に記載の液圧システム。
【請求項9】
液圧モータ(24)は、動力をトラクション装置(18)に供給する、請求項8に記載の液圧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−506796(P2013−506796A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533150(P2012−533150)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/045721
【国際公開番号】WO2011/043867
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(391020193)キャタピラー インコーポレイテッド (296)
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
【Fターム(参考)】